@グリフ大陸『カリナン公国』
よく晴れた日の朝、心地よい風が部屋の中を通り抜ける。
早々と目を覚ました
トニーは朝食の準備にいそしんでいた。
トニー「
スライ、準備できましたよ」
再三の呼びかけに、スライはようやく寝床から起き上がり椅子に腰かけた。
トニー「気が抜けすぎてませんか?」
スライ「…(まだ寝ぼけている)」
トニー「スライ、私たちは今、長い修行の旅から国に戻ってきたんですよ。その目的は?」
スライ「…ロードの系譜…そうだ、こうしちゃいられない!」
はっと気づいたように怒涛の如く朝食をむさぼり始める。
トニーも椅子に座り食事を始めた。
スライ「食い終わったら早速手合わせから始めるからな」
トニー「望むところです!」
彼らは今、祖国カリナン公国にいる。
先代のライトロード(公国における軍部最高司令)がその身を引くこととなり、
急遽、次座を継ぐ者を決める時となったからだ。
これまでの歴史を紐解けば、”その時”はこの国の君主「大公」が崩御した際か、
あるいはライトロード自身が命を落とした時のいずれかであった。
そんなイレギュラーが生じた、いや生じてしまった理由はというと…
モアザンディーノ家から大公に宛てられた書簡にあった。
『世襲化されたロードの系譜の是正を切に願う』
かつてライトロードの継承は複数のライトリンクス(公国の軍家系の総称)から選抜されていた。
選抜は「継承戦」によって行われていたのだが、いまや形骸化し、ある家系が世襲する形となっている。
長年の安寧の世があだとなり、ライトリンクスが収束した結果、ダイヤモンド家とモアザンディーノ家の
2つだけになってしまった。
モアザンディーノ家の若者からこの現状に異議が上がり、内部的に抑え込めない勢いとなった末、
大公への書簡として姿をなし、世界を動かすきっかけになったのだ。
カリナン公国の体制を揺るがす一大事ではあるが、しかし兄弟にとってはどうでもよかった。
そんなことよりも大事な交渉が控えているからだ。
スライ「トニー、午後から大公の謁見、忘れてないよな?」
トニー「もちろんです。今日こそはデュオ=ロードを認めてもらえるよう説得しましょう!」
デュオ=ロード…それはライトロードを二人が継ぐための仕組み。
兄弟二人が研磨の末に導いた答え。
この国もまた未来に向かった動き始めたのだ。
@タウガス共和国~西の端の森深く
タウガス共和国の西の端、森茂るその奥に、その都市は控えていた。
近くまで来てみれば普通の街と変わらないが、ここまでたどり着くことは困難極まりない、はずだった。
ボルク「間違いない、城門に刻まれた紋章、魔導の民の紋章じゃん!」
ディック「やっと…やっとついたー!」
ボルク「アルバンダムから10日、いやー長旅だったぜ」
にろく「道中のトラップも手厳しいものだったけど、ディックのおかげでかなり楽に進めた。助かったよ」
ディック「いやははは!照れるなぁ!」
”果啼きの草原”のあとにも様々なトラップが仕掛けられていたのだが、ディックの『ディスコネクト』により
ある程度攻略することができた。
精神攻撃系のトラップが多かったのはなぜか、
にろくは少し気にかかっていた。
にろく「(気にしてもしょうがないか…)あとはナルを探すだけだな…」
ディック「はっはっは!俺に任せろ!」
さっと指をさす。その先には白いローブに身を包んだ男が立っていた。
ボルク「おいおい、調子のいいところ悪いけどそんな簡単に見つかるはずな…」
ディック「そうだよね、そんな都合のいいことなんて…」
ナル「あれ?にろくにディックにボルク。こんなところでどうしたの?」
にろく「…ナル!?」
@魔道都市メルディアシール~中央図書館内研究室
魔道都市の中心にそびえる城は大きな図書館だった。
一足中に踏み込んでみれば、見渡す限り、見上げる範囲すべてが書物で覆われていた。
にろくら一行は、ナルに導かれて図書館の中にある研究室に案内され、
そしてこれまでの経緯を説明した。その途端…
ナル「…なるほど理解したよ。皆、ごめん、心配かけて」
ディック「それで、なんで突然いなくなったんだよ?」
ナル「説明する前に、ちょっといいかな」
ナルは書棚からかなり古めかしい、革表紙の分厚い青表紙の書物を取り出した。
ナル「解!」
手に持った書物が青く光りだす。
ナル「至処里来(ダオジーリーライ)!」
バシューーーン!!
メルト「…あれ。いつの間にメルディアシールについたんだ…まだ走ってる途中だったはずなのに…」
ナル「メルト!頼んだ伝言、彼らに伝えてくれなかったの?」
メルト「あの…申し訳ありません!私の導力ではあの地下空間から出れなくて…つい先日脱出できたのです」
ナル「魔導を使わずに?どうやって…」
メルト「ガオミン様…土って硬いんですね…」
ナル「なるほど手で土を掘って…って…」
メルト「…脱出後、すぐに伝言を伝えようとしたのですが、皆さんすでに出国した後で…追いかけたんですが
トラップに引っかかってしまって…」
ナル「メルト、もう一度魔導術の基礎を学んだほうがいいかもね」
メルト「…はい。不幸です」シュン
ナル「あ、みんなごめん。順に説明するね」
俺がミストラルシティに訪れた理由は、ミストラルシティの地中深くにある太古の図書館にあるとされた
”古の魔導書”を入手するためだった。
だけど、俺たちがミストラルシティに到着した数年前にはすでに”古の魔導書”はなくなっていた。
仕方なく帰ろうとした時、地下空間全体に強力なマナ(魔力)がゲージ(固着)されていることに気づいた。
マナは魔導を使用するために必要なエネルギー、それがこれだけゲージされているとすると、
周辺に大きな影響を与えてしまう。善きことにも、悪しきことにも。
そこで俺はマナを回収することにした。天然鉱石でマナを蓄えることができる「輝鉱石」を使ってね。
もともとの魔力が強かったこと、長くそこにあったことで回収にはとても長い時間がかかったよ。
マナ回収の制約は厳しくて、その間は俺自身が魔導を使うことができない。
これまでの戦いで戦力になれなかったのは申し訳なかったね。
回収が完了したのはつい先日。そして「輝鉱石」を持って俺はメルディアシールに戻ったんだ。
マナには様々な情報が内包されているからね。”古の魔導書”の情報が残っているかもしれないから、
解析して、それをもとに新しい魔導を構築し、魔導書を作り上げられたらと思ってね。
かなり急いでいて、にろくたちへは挨拶できなかったから、メルトに伝言を頼んだんだけど、
メルディアシールの外では魔導の扱いは難しくなる、それでメルトは魔導が使えずかなり苦労したみたい。
この点は俺の思慮が足りなかったよ。
ナル「と、こんなところだよ」
ディック「ぷすぷす…」
ボルク「大体わかったような…わからないような…」
にろく「ナル…俺はお前のことをまったく知らなかったようだ…」
ナル「黙っているつもりはなかったんだけどさ。それでも悪かったよ」
にろく「気にするな。俺も同じようなもんだった」
ディック「わかった!ナルは魔法使いで、ミストラルシティには重要アイテムを探しにきてたんだ!」
そしてー、と続けてディックが部屋の隅のモニターに映し出された映像を指さした。
ディック「その重要アイテムはあれだったんだー!」
ボルク「最近のディックは冴えてるからな!どれどれ…」
モニターに映し出されたのは、とある街のある富豪の姿だった。
大富豪ジャーラ「うおっほん!全世界に向けて放送してるぞい。このたび、世界最強を決めることにしたぞい」
傍らには護衛を控えさせており、見るからに金と脂肪を蓄えているようだ。
大富豪ジャーラ「詳細は後から説明するぞい。放送終了後から受付を開始するぞい!集え、強者たちよ!」
にろく「全世界バトルグランプリ」
ディック「すごい規模だ…」
ボルク「おお!俺出場するわ!」
皆モニターにくぎ付けになっていた。
説明係の男「さて、戦闘形式は1対1のロワイヤルトーナメント、ギブアップか活動停止により勝敗をつける」
白衣に身を包んだ長身の男がだるそうに詳細の説明を始めた。
ナル・メルト「え!?」
同時に気づいた二人。
にろく「どうした?」
ナルとメルトは白衣の男が持つ書物に心当たりがあったのだ。
ナル・メルト「あれは…”古の魔導書”!」
説明係の男「開催場所は…
@アンモライシティ
全世界放送終了後、彼は大富豪の命を奪っていた。
トキシロウ「これで...あとは強者を...集め...」
卓上に散らばる紙はその数を増していた。
トキシロウ「待って...いるぞ...未元の推定よ」
最終更新:2017年06月08日 00:00