調律を為す者!秘密結社スピノザ!

@アンモライシティ バトルグランプリ会場”中断中”
トキシロウ「逃さんぞ!」
突如あわられた大会主催者を前に、参加者と観客達はあっけにとられた。
「緊急事態…!?」「秘密結社って…!?」
ざわめく会場であったが、そのつかの間、会場から人の気配が忽然と消えさった。
沈黙が会場をつつみこむ。
人々がいた場所には姿なく、その代わりに写真のようなものがいたるところに散らばっている。
人が紙片に変えられた…?
どうやらトキシロウの能力が発動したようだ。

トキシロウ「お前達スピノザはこれまでに一片の情報も残さなかった。あらゆる情報を消し去れぬよう隙を与えぬ。そう私の力で…む?」
だがそう簡単ではないようだ。
トキシロウの視線の先には、彼らが立ち残っていたのだから。

轟々と燃え上がる炎が立ち上がっている。
その炎は彼の背中から発せられているようだ。
ボルク「…おお!何があったかわからんんが俺の気合が優ったようだな」
キノ「ふぅ…ボルク、君のおかげで助かったようだ」
ボルク「キノ!お前も大会に参加していたのか!?いやー気づかなかったぜ」
キノ「そんなことより!今はあいつをなんとかしないと」
ボルク「そうだな。だけどあいつ会場の大人数を一瞬で消してしまった。なんて強力なんだ…」
そしてもう1人、彼らの隣には大剣を構えていた男が立っている。
ボルク「これは奇遇!この三人で並ぶの久々だな!」
キノ「……どう思う?」
アポロン「会場の人間が紙片化されている。まず間違いなくあいつの能力
だ」
キノ「ボルクのおかげで私たちには効果が及ばなかった。まずはあいつの動きを見て…」
ボルク「よし!俺たちであいつを倒せばいいんだな!」

ボルクは気合をためる。
次第に彼の背中から轟々と炎が立ち上がり始めた。
ボルク「炎陣全開!フルスロットル!」
その熱さで周辺の景色が揺らぐ。蜃気楼を背負いながらボルクはトキシロウめがけて駆け出した!



トキシロウ(私の能力が適用されない…まだ情報が足りなかったか…再度プロファイルをする必要があるな)

トキシロウの能力は「プロファイル」。様々な痕跡をもとに対象の素性を推定する。
この能力は鉱石学を深化させるために発現したのだが、人間に対して応用した場合、その力はさらに真価を遂げたのだ。

トキシロウ「はぁぁ!」
白衣の端からその色が漆黒へと変わっていく。
襟まで黒色となった白衣は丸で燕尾服のようにトキシロウの身体を包んでいる。

そして彼は周辺を見渡し、手を伸ばす。
すると会場中に散らばった紙片が彼の元に集まり、手に持っていた書物にファイリングされた。
ぱらぱらとページをめくりトキシロウは目当ての紙片を見つける。
その紙片には人物の写真と文字が羅列され記載されていた。

【怪盗団長 神楽羅門】
大の決闘者マニア。あらゆる決闘者の情報を趣味で集めている。
アポロンはかつての英雄の遺志を継ぐ者。
キノは水の国の唯一の生き残り。湖神の加護によりあらゆる攻撃を防ぐ。
ボルクは炎下一〇八部隊の一員で炎神の加護を受けし者。

進化したトキシロウの能力「ジャックヒルズ・クォーツナイト(冥王代の軌跡)」は、プロファイル対象者の深層情報(起源)までもプロファイルする事ができる。そうして起源が明らかとなった対象者は、繋がりを持つあらゆる他者の情報をさらけ出し、そして紙片に封印される。その紙片には様々な情報が含まれているが、正確に全て読み取ることができるのはトキシロウのみだ。

トキシロウ(この情報だけでは起源化は困難だな・・・)

人間は誰しも起源を持っている。
しかしその起源が明らかにならない者もいる。
例えば自身の起源すらも知らぬ者、もしくは自身以外の存在を起源とする者。
起源化されければ紙片のはならないのだ。

トキシロウ「ならば喰らうがいい!魔導陣!」


空中に突如光り輝く魔導陣が現れた。
その魔導陣から次々にエネルギーの塊が放たれ地面へと降り注ぐ。
ドン!ドドン!

ボルク「おいおいこれはまずいっ!」
トキシロウにたどり着けなかったボルクはいそいでキノのそばに駆け寄った。
ボルク「ふぅやべぇ…」
キノ「勢い任せに行くからだよ」
ボルク「あれって魔導…か?あいつも使えるんだ。厄介だな…」
ナル達魔導のそれに似ているが正確には異なる。
魔導陣はトキシロウがこの10年の間に編み出したスピノザを壊滅させるための術。
トキシロウだけに特化した技でありその威力は並みの魔導の比ではない。

ボルク「このなかじゃ満足に戦えないぜ」
キノ「君の炎なら大丈夫じゃないかな?」
ボルク「ちょ押さないで…ください…まじちょやめて…汗」
するとそばにいたアポロンが立ち上がり呟いた。
アポロン「よし俺が行く」
ボルク「いつになく切れてるな!行ってやれ!アポロン!」
キノ「…頼んだよ」

大剣を頭上に掲げエネルギーの雨を弾きながらトキシロウに向かって歩みを進める。
トキシロウ「アポロン…残念だが君の能力は私には効かない。私は名前を捨てた身だからな」
アポロン「そんなことはどうでもいい!お前がしたことは決して許されることじゃない!行くぞ!」
トキシロウ(起源化までは至っていないが、アポロンの情報はすでにプロファイル済みだ。お前の攻撃パターンなど容易く予測できるのだよ!)
大剣を左右に振りかざし、ある間合いに近寄った瞬間、薙ぎ払う。
と、トキシロウは行動を予測したのだが…

アポロンは大剣を振るうことなく、その切っ先をトキシロウに向かって真っ直ぐに突き放つ!

トキシロウ「!?」
予期せぬ行動に対応しきれず、トキシロウは大剣の攻撃をその身に受けた。
トキシロウ(突きによる大剣攻撃だと!?ありえん!仮に行動の揺れがあったとしても!こと命を賭す戦闘に関してその芯が揺らぐはずがない)
トキシロウは思案する。そして思いも寄らない可能性に辿りついた。
トキシロウ(こいつ…アポロンではない?)
だがこの男は大剣エクスペリエンスを持っている。向こうにいるボルクとキノから発せられる痕跡を読み取って見てしても、やはりアポロンであることは疑う余地もない。
トキシロウ(ぐ!やはりアポロン?だが……)
混乱を極める中、眼前の男は追撃を繰り出していた!
アポロン(?)「これで決める!はぁぁぁ!」
彼の体が、そして大剣が金色に輝く。
槍のごとき大剣の連撃!そうしてトキシロウに必殺の一撃を決めた。

@大会開催前〜アンモライシティ郊外
ディック「まさかお前から呼び出されるとはね」
アポロン「此度の大会ではソナタの力が必要になるからな」
ディック「え!お前がそんなことを言うなんて…まさか…ただの大会じゃあないか?」
アポロン「先の放送時に現れた男は元アンモライ軍の鉱学者であり、魔導を使う者。いわば魔導サイエンティスト」
ディック「マッドゥサイエンティストだと!?」
アポロン「奴の狙いはおそらく”ある組織”をおびき出すこと」
ディック「お前もその”その組織”を狙ってるから漁夫の利を狙ってるってことね」
アポロン「ソナタらしからぬ理解力だな。だがその通りだ」
ディック「それで俺がソイツらをずばーん!と戦って倒せばいいんだな!」
アポロン「いやそれを頼むのはソナタにではない」
ディック「ふぇ?」
遅れてやってきたのは…
十也「いやー迷った迷った。遅れてワルイな」
アポロン「役者は揃った」
ディック「それで何をどうするの?」
アポロン「十也ソナタには大剣エクスペリエンスを持って大会に出場して欲しい」
十也「ほう」
アポロン「ディック、ソナタは十也にディスコネクトを発動してくれ」
ディック「十也に?」
十也「俺は構わないぜ。たまにはブレオナク以外の武器を使って戦うのも一興だ!」
ディック「ディスコネクト!」
十也「うわ!急になんだよ!」
ディック「かまわないっていったからさ。ま、これでお前は外界から切断されて…って大剣のせいで認識が上手く消えてない!」
十也「大剣の印象が強すぎるってことか。これでいいのかアポロン?」
アポロン「問題ない。その状態で2人にはそのまま大会に参加して欲しい。すまないが今はそれしか言えない(過度な情報があると奴にばれるやもしれぬからな)が、時がきたらそれぞれ為すべき事がわかるだろう」
頼むぞと言葉を残し、アポロンはその場から去ってしまった。
ディック「俺の能力がイマイチだったからアポロンは呆れさせちゃったかな…」
十也「いやおそらくだがそれもアポロンの狙いの内じゃないかな」

@時が戻り…
アポロン、改め十也「なるほど、ディスコネクトで”俺”の痕跡を消し、大剣を持つことで”アポロン”の痕跡を匂わせた。俺をアポロンと誤認させるために」
ボルク「アポロンやるな……むむ!よく見たらお前は十也じゃあないか!どうしてエクスペリエンスを持ってるのさ?」
十也「実はな…」
十也が答えようとした時、トキシロウが持っていた書物から紙片が飛び出し、それぞれが元の姿に戻っていくのであった。
その中には、にろくやナル、スライトニー、怪盗集団の面々、大会主催者の大富豪ジャーラの姿もあった。一様に何があったか記憶がなくなっているようだ。
大富豪ジャーラ「ぞい?いつの間にか大会が始まったいたのかぞい?しょくーん!何をボケーっとしているぞい!さぁ戦うのだぞい!最強の称号と賞金が待ってるぞい!」
観客「うおぉぉぉぉ!」

先の一件がまるでなかったかのように大会が再開された。
十也「お、俺も決勝トーナメントに出なきゃ。あとはお前らに頼んだぞ。あ、アポロンに エクスペリエンス返しといてくれるか?ここからはブレオナクと戦っていきたいからな」
そういうと十也もまた大会に参戦しに戻っていった。
キノ「全く。ボルク、どうしようかアポロンに返さなきゃ…あれ?」
周りにはボルクの姿は見えない。
キノ「…ボルク?」

会場は一層の歓声に包まれている。
これから決勝まで滞りなくトーナメントが行われることだろう。
トキシロウの身体はいつの間にか会場から消えていた。
だがそれに気づくものは会場内にいなかった。
会場”内”には…

@バトルグランプリ会場外〜人気のない路地裏
そこにはトキシロウを肩に担ぎ悠々と歩く後ろ姿があった。
しかしその行く道を塞ぐようにアポロンが現れる。
アポロン「…まさかソナタがスピノザの一員だったとはな…ボルク」
アポロンの問いにボルクはこたえない。アポロンはそれをイエスと受け取った。
ボルクはただ静かに呟いた。
ボルク「そこを退いてくれるかい?」
アポロン「それは出来ぬ。ソナタらスピノザの狙いはがその男を手中に収めることだったのだとしたらなおさらだ」
その問いにもボルクはこたえようとしない。
アポロン「ならば仕方ない。『神託のロールを持ってして我天命を全うす!メサイアサルバロール』!ボルクよ、その男をこちらに渡すのだ!」
ボルクは肩に担いでいたトキシロウを下ろし、アポロンに向かって歩み寄る。
受け渡しがなされると思ったところで、突如アポロンの頭の中には声が流れてきた。
〇〇○「私の同志に何をしているのですか?」
それはどこかで聞き覚えのある声だった。
声が聞こえている間、アポロンの身体はその自由を失った。
アポロン「だれかに押さえつけられている、いや、身体自体が動くことを拒んでいる!?この感覚…以前にも経験したことがある。とすると…」

ボルク「メサイアサルバロール、相変わらず厄介な能力だな。だけどあの人の前ではお前もただの駒にしかすぎない」
ボルクは再びトキシロウを担ぎ上げる。
ボルク「そろそろ俺は行くが、アポロンお前は何か勘違いしているぞ。スピノザは世界の調律者、平和をもたらすために存在しているんだ。この男は反律者、いわばテロリストだろう?そいつを保護するのは俺たちの役目ってこと。正常に機能していないEGOには任せられないんだよ」
ボルク「スピノザは全てを見通す。だからなアポロン、近く起こるだろう厄災はお前たちの力を試す場になるそうだ。その結果次第では…さらなる調律が必要になる」
彼の目が赤く揺らいだ。その目からは熱い闘志と、強い意志が感じられた。
ボルク「あ、もちろん俺も加勢するぜ。その時がきたらよろしくな」
そしてボルクは腕輪の輝鉱石(アーティファクト)に手を触れる。その輝鉱石はトキシロウが生成した人工のそれではない。自然生成された輝鉱石中ではかなり大きいサイズだ。
ボルク「それじゃあアポロン、またな!それじゃあお願いします!」
ボルクがトキシロウを担いだままその場から忽然と消え去った。

アポロン「先ほどの感覚、やはりミストラルシティで経験したものだ。ソナタが首謀者だったとは…果倉部かもめ!」
脳内に届く声に対してアポロンは呼びかける。
かもめ「神託者アポロン、あなたならわかるでしょう。試練は乗り越えられるものにしか与えられない。私も同じことをあなたにしたのよ♪」
アポロン「試練だと?アンモライ王国を唆し水の国を滅ぼしたりと、世界に混乱をもたらしておいて何が調理者だいうのか!ましてメサイアとの因縁を忘れたわけではあるまいな。ソナタもかつての意志を継いでいるはずだろうに」
かもめ「んーあなたとは違って私は何かを継いだ覚えはないわ」
アポロン「忘れたと申すか!」
かもめ「いえ、継ぐまでもないのよ。直接私が経験したことですから」
アポロン「!?何をいっている…数百年以上前の話…だろう?」
かもめがにこりと笑った、イメージがアポロンの脳内に現れる。そしてその声は消えていった

アポロン「っか!はぁはぁ…」
身体の拘束が解けたが体力が大きく削られている感覚がある。さらに能力を発動できないようだ。周辺の未元エネルギーが無くなっている…のだろうか?
アポロン「得体の知れない能力だ…しかしボルクがスピノザの一員だったとは…」
キノ「え!?それって本当?」
大剣エクスペリエンスを持ってアポロンを探していたキノがそこにいた。
キノ「僕の国を…家族を殺したスピノザの一人が、ボルクって本当?」
アポロン「……」
キノ「一緒に戦ったこともあるのに…そんなことが…」
かつての仲間が、復讐相手であったことを知ってしまったキノを前に
アポロンはどんな言葉をかければ良いか即座に答えを出すことができなかった。


@秘密結社スピノザ本拠地
ボルク「かもめさん、助けてもらってありがとうございました。いやーアポロンはやっぱり強者だな!」
かもめ「そうはいってもあなたも調律者の一人がなんですから。修行を怠ってはいけませんよ」
ボルク「もちろんです。それじゃぁ早速ですが俺は炎神の整備に国に戻りますね」
どたどたとボルクはその場をあとにした。
かもめ「忙しない子ね。さて、そっちはどうでした?」
天井裏から黒づくめの忍者が降り立った。
クロオ「バトルグランプリを見届けて参った。結果は…」
かもめ「…そう、輝鉱石(アーティファクト)を持つ子達が力を伸ばしているわね。調律者として迎える日も近いわ。あ、そうそうあの子は来ていたかしら?」
クロオ「引金の少女でござるか?いえ、大会には参加していなかったでござる」
かもめ「あら残念。なかなか会えていないから寂しいわね」
クロオ「してその男はいかようになさるので?」
かもめ「この子は生まれ変わるのよ。私の持ち駒になったのだから♪」

秘密結社スピノザ…これまで暗躍を繰り返したの組織の首謀者がまさかあの果倉部かもめだったとは…しばらく動かないとはいえ、トキシロウをその手中に置いたのは次なる動きへの布石か…
さらにボルクがスピノザの一員だった…いつ、なぜそうなったのか…
その事実を知ってしまったアポロンとキノはどう行動するのか…

表向きなバトルグランプリは無事に決着したようだ
しかしその裏で起きた秘密結社の張った糸は回収されることなくそこに残ったままである。
その糸は世界の均衡を保つものなのか、それとも世界を縛り上げるものなのか。
繰り返される歴史のなかで明らかになっていくのだろう。

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最終更新:2017年06月15日 01:08