迫る脅威!ディックの過去と地縛民!

~喫茶店かざぐるま~
十也「久しぶりのフラペチーノは格別だな!」
今日も店内はにぎわいを見せていた。
さらに雰囲気を盛り上げているのは、ひときわ響く声の持ち主であるこの子。
ツバメ「いらっしゃいませ♪お飲み物は何にいたしますか?」
彼女は数日前からこの店でバイトを始めたばかりだが
すでにはやくも看板娘の名を手に入れるほどの実力を備えていた!

カランコローン
ツバメ「いらっしゃいませ♪こちらにどうぞ!」
スライ「あれ?店員が増えてる!」
トニー「それにすごくかわいらしい!」
ナル「気に入ってもらったようでよかったよ」

スライ「だいぶ様変わりしたな。マスターいつものよろしく」
トニー「私も同じものを。いやーなかなかハードな武術大会でしたね」
スライ「ああ、なによりも俺たちの力のなさを痛感したな」
トニー「今日からまた先生のもとで修行ですね!ディックもですよ!」

その言葉に反応するものはいない。
スライ「ん?ディックのやつどこに行ったんだ?」
ナル「実は…」
にろく「ディックは…もう…」
二人の悲壮感あふれる顔を見て、兄弟はハッとした。
スライ「…もしかしして」
トニー「ディックが死んだ!?」

ツバメ「あなたたち!それでも果倉部道場の筆頭弟子なの?」
スライ&トニー「!?」
ツバメ「ダメね。全然ダメ!」

ナル「ぷっ」
にろく「悪い悪い。お前たちがどうも疲れた顔をしてたから和ませようと思ってね」
ツバメ「はぁ…こんな大根演技も見抜けないなんて。果倉部流の真髄に到達できないのもうなずけるわ」
スライ「ちょちょ、ちょっと待てって。いろんなことを一度に話すな」
トニー「すいません順を追って説明してもらえませんか?まずこの子は誰なんですか?」

ナル「紹介が遅れたね。この子は最近こんなカフェ屋で働き始めた珍妙なバイトの…」
ツバメ「珍妙とは失礼ね。私の名前は今寄咲ツバメ。果倉部流飛鴎段位を持つ普通の女の子よ♪」


~ピエタ連邦ノワール地区~
時は少しさかのぼり...
ラウズレイ王国で武術大会が開催されていたそのころ、
にろくとナル、そしてディックはグリフ大陸にあるピエタ地方に来ていた。
不毛の大地という言葉がよく似合う荒野が一面に広がっていた。

ディック「すごいところに来ちゃったね…空港で買ったおもちゃの電池も切れちゃったよ」
にろく「ここがお前の生まれ故郷か」
彼らはディックの生まれいづる場所を目指していた。

にろく「わかっているだろうがここからは危険が伴う。気を付けてすすむんだ」
ディック「大丈夫だって。要は俺の家族に会いに行くんだよ!心配ないって!」
にろく「それが危険だっていっているんだ」
ディック「??」
ナル「気を付けるに越したことはないってことさ」
にろく「さてノワール地区に暮らす民族はこの地区から外に出ることはないが定住することもない」
ディック「どこにいるかはわからないってことか…どうしよう?にろくの端末も圏外で電気ないと使えないからなあ」
にろく「ポンコツとでも言いたげだな」ムカ
ナル「まぁまぁ。何もないように見えて、人の生活の跡は残るものさ。水、食べ物、天候などを加味すると…」
ナルが指示した方向には小高い山があった。
ディック「ほんとに~?」
にろく「ナルが言うんだから間違いない」
ナル「どうも♪」

山に向かってしばらく進んでいくと、そこには黒いローブに身を包んだ背の高い男が一人。
ヴィバルディ「きたか。待ちわびたぞ」
男の剛腕がディックめがけて降り下ろされる!
ディック「わっ」
よろめきながらもなんとか避ける!
しかし猛攻は止まらない!!
ヴィバルディ「往生際が悪いぞ。地縛民の誇りをもってその命を捧げよ!」
ディック「えっ!?どういうことだ?」
ヴィバルディ「そうか、誇りすら忘れたか。ならば!」

両の手で印を結び、男は一呼吸のあと、ディックの胸元を指さし
ヴィバルディ「縛砕(バクサイ)!」
ナル「やばい!よけろ!」
ドガゴン!!
危機一髪!にろくがディックを抱ええてその場から飛び去ったその場所には
小型爆弾により砕けたような跡が!
ディック「避けなかったら…俺の心臓が爆発していた…」

にろく「おい、あんた。あんまりふざけたマネするなよ」
ヴィバルディ「一族にあらざるものが我らに介入するな」
今度はにろくに向かって剛腕が振るわれるも、たやすくその攻撃はかわされた。
ヴィバルディ「こざかしい。縛砕!縛砕!縛砕!」
にろく「そんな大技食らうかよ…!?」
突如にろくの動作がとまる。まるで蜘蛛の糸に囚われた蝶のように!
ヴィバルディ「愚かだな。我が能力縛裁(バクサイ)は指定した地点にピンを打ち、ピンとピンの間を不可視の糸でつなぐのだ」
ナル「あの爆発はピン打ちの副作用だったってことか」
ディック「冷静に分析している場合じゃないよ!にろくが手も足も出ないなんて…」

ヴィバルディ「さあ次はディックお前だ。おとなしく命を捧げれば二人は見逃してやろう」
ディック「…俺の命で済むんなら安いもんだ。さぁ好きにしろ!」

にろく「おいおい。そう簡単に差し出せるほど、お前の命は安くないぜ」
ディック「でもにろくは端末使えなくて捕まっちゃうし打つ手がないよ…」
ナル「あきらめるのは僕たちらしくないのさ」
そういうとナルは、地面のある地点を指さした。
ナル「にろく、お待たせ。見えたよ」

ナルの能力マスタープルーフにより、あらゆる情報を分析・高速処理し、その未来を確定させる!
リンゴが木から落ちれば地面に落ちることは当然といえば当然のことだが
知らなければどうなるかを予測することはできない!
マスタープルーフは、あらゆる可能性の中から必然を選び取る能力なのだ!

ナル「にろく,君の右手の丁度真下!地層の奥底にあれがある!」
ヴィバルディ「がははは!秘策かなにか知らぬが我が縛裁によって縛られたお前に為すすべはない!」
にろく「いーや」
不敵に笑うにろく。
にろく「手のひらくらいならまだうごくぜ!プラグオン!!」
わずかに動く右手を地面にかざすとそこにプラグが現れた。
ディック「でも!電気もないここでプラグを出しても使えない。それににろくは満足に動けない!」

ナル「大丈夫。もう見えてるからね。ディック、空港で買ったあれ、使ってごらんよ!」
ディック「あれって,これ!?まじかよ!」
ディックがリュックから取り出したのは…怪獣ククルカンの動く人形!
この地方の伝説に登場する翼を備えた大蛇!

ディック「使うって言っても電源がないと…あ!」
ディックの眼前にはにろくが出現させたプラグがある!
ディック「うおおおおおおおおお」

かちっ!

ククルカンのしっぽの先から延びるケーブルがプラグとつながる!
するとどうだろう!電気が存在しないはずの地面から、電気が供給されはじめククルカンが雄たけびを上げたのだ!

ククルカン「ぐあああああ」

ヴィバルディ「何かと思ったら民芸品の玩具かそれがどうしたのだ!」
彼の剛腕がククルカンめがけて振り下ろされる!が!しかし!そのこぶしは燃え滾る炎の中に消え失せた!

ヴィバルディ「なにが・・・何が起きているというのだ!」
その炎はククルカンの口から放出されている。
そばにある土や岩も溶け始めるほどの超高温の炎、それはまるで…
ディック「マグマだ…ククルカンがマグマを吐き出している!」

ヴィバルディの身体は次第にマグマの中に消えていった。

ディック「やった!…でもククルカンの咆哮がとまらない~」

すぽっ
おとなしくなるククルカン。
ナル「プラグから抜けば電力供給はとまるのさ」
ディック「でもさ、またマグマ吐かれたらたまったもんじゃないよ?」
にろく「それはない」
糸の縛りからとかれたにろくが能力の説明を始めた。

電気製品から電力や情報を吸い出すのはプラグオンの能力の一部に過ぎない!
プラグを出現した場所に保有されているエネルギーを電気エネルギーに変換し、もともとの性質を継承する!
先刻は大地の奥に埋もれたマグマの熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、その熱を帯びた性質をククルカンに与えたのだ!
さらに、その場所に記録されている記憶を吸い出すこともできるのである!

ディック「つまり、どこでもバッテリーってことか」
にろく「おまえ、一度ククルカンのマグマに飲まれて来い」
ディック「いや、一度でも触れたらどろどろに溶けるから!」
ナル「そうだな。にろく、ここにプラグを出してくれないか」
ディック「ナルまで!そんなに俺に溶けてほしいってこと~ひどいよ!」
ナル「そうじゃない。さっきの男が言っていたディックの失われた記憶だよ。誰かに聞くよりココに聞いた方がはやいだろ」
指さした先は真下の地面。そう,この土地に記録されている記憶!

にろく「プラグオン!」

出現したプラグに小型端末をつなぎ、再生してみるとそこには…


~数百年前・ピエタ帝国~
塔の天辺にある部屋の奥,彼女は玉座に深く腰をおろしていた。
シャカイナ「しばらくはここで待つとしましょう」
そうつぶやくと,彼女は目を閉じ,息すらも止めて,静かにその時が来るのを待つことにした。

それから幾ばくの時が過ぎ去った。そしてその時は,思いがけず突然訪れた。

ドガァァァン!!
部屋の扉が勢いよく開かれ,強い風と共に一人の男が部屋の中に入ってきた。
シャカイナ「よくここが分かりましたね。崇高なる目的を果たさんとする私になんのようですか?」
男は静かに携えた錫杖をシャカイナに向ける。
メサイア「貴様の目的など知らん。この地球に寄ってきた虫を追い払いにきたまでだ」
男の目は熱く燃えていた。
不気味とも言える男のオーラを察知し,シャカイナの意識が変わる。
シャカイナ「…私の力を受けながら,なおその力を我がものと立ち向かうとは!これが器たるものの覚醒。この星はなんとすばらしいことか!」
恍惚とする表情からは漠然とした気味悪さが漂っていた。
メサイア「やはり貴様は純然たる悪意をもつ存在か。ただの外敵ならまだしも,ただですますわけにいかない!」
錫杖をシャカイナに向け,先端に付いた金輪を鳴らすと,次第に光を帯び始める。
メサイア「神託のロールを持ってして、我天命を全うす!天地開闢の幕開けを紡ぎ出さん!」

シャカイナ「ほう。それがお前の能力か。どのような力かは知らないが,私には効きませんよ」
メサイア「馬鹿な!」

メサイアの能力は対象者に役割(ロール)を与える。ロールを受けたものは,全力でその役割を全うしなければならない…はずだった。

シャカイナ「この星に力の発現を与えたのは,何を隠そう私です。すべての能力の根源ともいえる私に対して,いかなる能力による攻撃をすることはできないのですよ!私の能力『業戒-ゴウカイ』によって!!」
突拍子もないような話であるが,事実である。
もとより地球には特別な能力は存在していなかった。
だがシャカイナの能力『業戒』によって,数百年前,この星に新たなルールが書き加えられたのだ。
シャカイナ「私が求めるものを得るために地球に住まうあなた達に能力を与えましたが,あくまでそれは目的のために手段なのです。それ以上は求めていませんのでね」

カーカッカッカッカ!!

高らかな笑い声が塔にこだまする。
シャカイナの声…ではない!その声の主は…
メサイア「カッカッカ!おっと失敬。だが,たやすい,たやすすぎるぞ!」
シャカイナは虚を突かれた。この状況で笑っていられるはずはない!
しかし異変は起きない。そう,あらゆる能力は彼女を攻撃できないのだから。

シャカイナ「気でも狂ったか,立ち向かうものよ!」

と,次の瞬間,彼女は玉座から崩れ落ちた!
視界が霞み,息がつまり,手足の自由が奪われる!

シャカイナ(ば…ばかな!!いかなる能力も私には…)
メサイア「さて,すでに挽回は不可能であろう。過ぎ行くソナタに種明かしを贈ろう」

遠のく意識の中,シャカイナの目に映ったのは,この地球に住まうものの一つ。
文字通り「種」であった。

塔に入った時点で,メサイアはすでに攻撃を終えていた。
彼はその能力をシャカイナではなく,この地域に群生する植物に対して発動していたのだ!
「植物たちにロールを与えん!地球に住まうものだけがその生存をゆるされる大気を生成せよ!」

シャカイナが目をさまし,呼吸を始めたその時から,彼女だけは毒を吸い続けていたのである。
シャカイナ(こ…こんなはずでは…)
消えゆく存在の片隅でシャカイナは自らの中から”それ”が抜け出すのを感じた。
シャカイナ(これもまた新たな萌し…)
”それ”はしばらく空中を漂った後、メサイアの身体に吸い込まれていった。

塵となり消えていくシャカイナを見送りながら、メサイアは遠い未来に思いをはせる。
メサイア「そなたの魂は円環の理を抜け,はるか遠くへ誘われるのです」
緑が広がる大地。植物たちはそのあとも,与えられた役割を全うし続けるのであった。
メサイア「すべては神の御心のままに。私のロールがもたらすままに、永遠にその役割を全うしてみせる!」


~ピエタ連邦ノワール地区ヴァイシュ山~
ナル「ここの記憶もそうだ。かつてこの地方は緑溢れる豊かさを誇る国だったみたいだね」
ディック「いまじゃあその面影もないけどね」
にろく「それも気になるが…ノワール地方でみたあの記憶。特にあのメサイアという男」
ディック「どう考えても俺を襲ってきたあいつだよ!」
ナル「でもね,あの記憶は数百年前のもののはずだよ。同一人物ではないよ」
にろく「不老不死でもなければ,な」
ディック「ごくり。あーのど乾いた。ねぇにろく,なにか冷たいものだしてよ」
にろく「…それは氷漬けを望んでいると解釈してよろしいか?」
ディック「…すいません」

ナル「見えた!」
ディック「俺の氷漬けの未来が?」
ナル「それもだけど,この大地から緑が消えた理由がわかったんだよ」
ディック「なになに!…っておれやっぱり氷漬けになるの!?」ソンナノヤダー

ナル「植物が消えた理由…それは,地球に住まうもの以外も生存できるようにすることだ」
にろく「なるほど。そしてそれを為したのは,外敵を崇めたてまつり降臨を待つものたち」
ナル「つまり,ディック,君の一族だよ」

地縛民,それが君たち一族の名前だ。
彼らは,かつて世界の根底を書き換えた地球外からの飛来者を神と崇めていた。
しかしその神はメサイアとの攻防により,彼方へと消えてしまったのである。
地縛民は,神を縛る草木を滅し,それでもなお待ち続ける。神の降臨をこの地にて。

ディック「それが俺の一族の歴史。それで,俺はどうしてこの地を離れ,一人で生きていたんだい?」
ナル「そこまではわからない。材料が少なすぎるよ」
にろく「だが気落ちすることはない。この地にいれば必然としてわかるだろうからな」
ナル「あとは任せたよ!ディック!
ディック「おう!って,任せたよってどういう意味?」
にろく「俺たちはかざぐるまの仕事があるから,そろそろ帰るんだよ」
ナル「二泊三日の旅,楽しかったよ!ミストラルシティで待ってるね!」

ディック「え!え!まじ!ちょっとまってよ!ひとりじゃ俺死んじゃうって」ジタバタ
にろく「プラグオン!氷柱!」
ディック「」ピキーーン

ナル「予想的中の氷漬け♪そうだディック,実はもう一つ見えたものがあるんだ」
ディック「」
ナル「君の能力!どんな能力かというと…」


その後ディックはこの地にしばし身を置き,自身の生い立ちと向き合った。
そして一皮むけた彼は,ミストラルシティに帰ってきたのであった!

~ミストラルシティ・喫茶店かざぐるま~
ディック「みんなただいま!パワーアップした俺が帰ってきたよ!」
ツバメ「いらっしゃいませ♪こちらへどうぞ!」
ディック「あれ…きみだれ?」
ナル「やぁおかえり,と言いたいところだけど,ツバメちゃんがいるからさ,ね」
ディック「…えーと」
にろく「欠勤が過ぎたな。ディック,お前は首だ」
ディック「そ…そんな~」
カモメ「とりあえずしばらくは道場に住みなさいな♪」
ディック「たすかった~」
カモメ「掃除洗濯料理に修行,やることはいくらでもあるからね♪」
ディック「そ…そんな~」

世界の理の片鱗を垣間見た彼らは,これから起こる現実にも立ち向かうことができるだろう。
そしてディックもまた,その戦いに身を投じることになる…はずだ。

to be continued

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最終更新:2016年10月09日 04:40