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「永遠の扉 第091話(7)」(2010/02/25 (木) 21:37:26) の最新版変更点
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「まだだ! まだ私は倒れていないぞディケイドオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突如響いた絶叫に慌てて振り向く。居た。鳴滝扮するテラードーパントが。
「ははは! 今の一撃はなかなかだったぞ少年! だが私の命を奪うどころかメモリブレイクさえ起こしてはいない!!」
しつこいぜ。そう呟くセコム番長に剛太は全力で頷いた。
「だが、勝てない相手でもない」
(刀は通じない。だが俺たちがセコム番長の補佐に回れば──…
銃を構えるディエンドの横で秋水は正眼に構えた。
「お?」
やる夫社長ことディケイドの手元でカードが煌いた。扇状に広げた3枚のカード。最初灰色だったそれがみる間に色づいた。
「なんだよ?」
胡乱な目つきで誰何する剛太に「あ、そうか」という声がかかった。そしてディエンドの手の中でも同じ現象が起こった。
「そのカードに……何が?」
怪訝を浮かべる秋水は確かに見た。スーツの中でいぎたない笑みを浮かべる社長と専務を。透視したというより、彼らか
ら立ち上るニオイ──剣戟の際に現れる感情の流れ──から察知したというべきか。
「なあ……やる夫よ」
「そうだお! せっかくだからコレを使うお!!」
いいながら彼らはめいめいの方向に向かって歩き始めた。攻撃に移るのかと剛太は思ったが、足取りはひどく軽やかだ。
何を目論んでいるのか。そう思っている間にまず。
ディケイドが、
剛太の背後に、
立った。
「ちょっとくすぐったいお!!!」
【FINAL FORM RIDE】
GOGOGOGOUTA!
はたかれた背筋がびらりと開いた。異様な感触に振りむいた剛太は「ひどく見なれた形状」の金属片が跳ね上がってい
るのを目撃した。それは2つのふくらはぎの外側にも生えている。「ひどく見なれた形状」の武器を3等分したような形だ。
まるで歯車を3等分したような扇型の金属──…それが剛太の体から生えている!
「え? 何だコレ! どうなってんだ俺の体!!」
「さあ行くお!!!!」
この時起こった出来事を、剛太は終世忘れるコトができなかった。まず首が亀のごとく引っ込んだ。両肘は自発の意思
と関係なく直角に曲がり、両足ときたらその付け根からくの字にひん曲った。そして合わさる扇型。背中に生えていたそれ
と両ふくらはぎのそれらは見事に合致し、ある武器を作り上げた。
「な、中村の体が”モーターギア”に変形した!!」
目を見開く秋水の遥か先で浮遊しているのはまさしくモーターギアだった。ひどく巨大な歯車だった。
「ゴーターギアって呼ぶべきかもな商品命名側的に考えて……」
秋水の背中にいやーな汗が流れた。
ディエンドが、
銃を構えて、
背後にいる。
(中村……。俺も後を追うぞ)
泣きたい気分だった。
「痛みは一瞬だ」
【FINAL FORM RIDE】
SYUSYUSYUSYUUSUI!
いろいろな音声が銃声によって締めくくられた。胸の中央にチクリとした痛みが走る。それをきっかけに自分の体が剛太
よろしく変質していくのを秋水は止められなかった。背中に無骨な茎(なかご)と下緒と飾り輪が生えた。胸板がシャツごと
180度旋回し顔面を覆いつくしたのに比べたら、両腕が頭上で大きな輪をユーモラスに作ったコトなど比較にならぬ些事で
ある。剥き出しになった腹部にはXを描くモールドと、銘。
浮遊感。
秋水の体は宙をキリキリと飛び始めた。つられて舞いあがったソードサムライが内股の限りを尽くす両脛の間に挟み込ま
た。そこでようやくこの異様な変形は終わりを告げた。
「こっちはソードシュウスイXってところかな……。銃使いが持つのも変だが」
不承不承といった感じでディエンドが持つ武器はひたすらに巨大な”剣”だった。長身のディエンドの倍はあろうか。
(なんだこの状況)
流石のセコム番長もただ汗を流すばかりである。それは鳴滝も同じだった。
「フザけるなディケイド! そしてディエンド! ライダー以外を! 変形させるなアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ハッ! 知るかお!! どうせやる夫は世界の破壊者だから設定なんざとことん壊してやるお!」
「いいすぎだろそれ……」
馬鹿丸出しで小躍りするディケイドを窘めるディエンドに秋水と剛太は全力で同意した。
「おのれえええ! どうしてこうなった! どうしてこうなった!!」
怒りとともに闇が広がっていく。だがそれより早くゴーターギアに乗り込んだディケイドとディエンドは涼しい顔で突っ込んで
いく。歯車は飛んだ。降り注ぐ闇の粘液さえも複雑軌道で避け切って、ついには鳴滝の右上腕部さえ鋭く斬った。更に至近
でリターンバック。激しく揺れながら敵の体のあらゆる部位を斬り刻む。鮮やかに舞い散る火花の中で鳴滝はついに吹き飛
ばされた。呻きながらも辛うじて着地する。だが追撃は終わらない。
「今だッ!!」
飛び降りたディエンドに正中線を斬られ、たたらを踏む冥界の使者。それに迫るは裂帛の咆哮。
【FINAL ATTACK RIDE】
SYUSYUSYUSYUUSUI!
「これが俺と奴の力だあああああああああああああ!」
巨大な剣が横一文字に振りかざされ胸板を大きく斬り裂いた。逆胴に似た石火の軌跡をかいくぐり、ディケイドも飛び込む!
「トドメだお!」
繰り出されたアッパーカットは傷に呻く鳴滝を容赦なく上方へ吹き飛ばした。訪れた自由落下。叫ぶ鳴滝。唸るギア。
ディケイドの右前腕部に密着し旋回する巨大な歯車が、鳴滝の落下地点に待ち構えていた。
(馬鹿め! 私に瞬間移動能力がある事を忘れたか!!)
距離はまだある。マントを翻し消える余裕も……。ほくそ笑む鳴滝に鈍い衝撃が走ったのはこの時だ。
「また逃げようなんざスジが通らねえぜ」
振りかえるとそこには──…
「てめえが仕掛けたケンカだ。最後までやりやがれ」
拳を限界まで硬く大きく肥大させたセコム番長がいた。跳んでいた。
「ホ! いつの間に!」
「知ったことか! 打舞流叛魔(ダブルハンマー)アアアアアアアアアアアアアア!!」
「複数で私1人をボコるのはスジが通っているのかあああああああああああああああ!!!!」
殴り飛ばされ、世にも情けない声を上げながら鳴滝は。
【FINAL ATTACK RIDE】
GOGOGOGOUTA!
「これがやる夫たちの団結の力だおおおお!!」
鳴滝は巨大な歯車に巻き込まれ、破砕された。(団結と言いさえすればリンチも許されるのである!)
爆音が採石場に響いた。
緑色の炎に炙られながら、ディケイドは手を叩き呟いた。
「さっきお前はやる夫たちの旅がここまでといったようだけど」
「それはお前の方だったな。そう──…」
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/ / ./: : : : \ 絶望がお前の
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, - ' ´ / / ム. ヽ、 ヾ ヘヽ. \ , '
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r'´ / _ -‐ '´ /_{ ∧ ヽ ヘ_,\ ∨
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「いや、だからこの世界侵食すんなって」
「そうだな」
変身を解いた彼らの横で尻もちをつきながら、剛太と秋水は激しく息をついた。
心から思う。もう嫌だ。ネコがうろつているような気もしたがきっと幻覚だ。
「つぅかあのオッサン爆発したけどいいのかよ! いろんな意味で!」
「あー大丈夫だお。炎が緑色だお? じゃあありゃワームだお」
「ワーム?」
「要するに人間に擬態する怪物だ。だからアレは偽物の鳴滝だな」
「怪物なら仕方ねえ! とっとと店に戻って報酬のプリンを喰うぜ!」
「なーお」
そして一同は店に戻ってきた。
「剛太クン! 良かった……無事だったのね」
彼を一番困らせたのは、店に戻るなり両手を掴んで帰還を喜ぶ桜花だった。(とっくにスペアのメイド服に着替えていた)
よく見るとまなじりにはうっすら涙が浮かんでいる。6月の雨よりしっとりとした声音かつ縷縷綿綿な言葉を要約すると、
「秋水クンを助けにいってくれたのは嬉しいけど無茶(※ 別世界じみた変な場所へ行くこと)しないで」
で、何だか無茶な理屈がたぶんに入り混じっている。
(いやお前、助けにいかなかったらいかなかったで責めるだろうが。だいたい、弟消えた時に『気丈ぶってるけど実は心配
でたまりません』って表情(カオ)してたの誰だよ)
「アナタのコトも随分心配してたわよ」
「うんうん」
ヴィクトリアと沙織の様子からすると演技ではなく本当に心配していたらしい。
「あーもう。分かったから離せって。人が見てるだろうが」
「そ、そうね。ごめんなさい……。ウワサになって津村さんの耳に入ったら迷惑だものね」
いやにしおらしい様子で手を放した桜花はなんだかションボリしてもいるようだった。
どうしろと。無性に腹を立てる剛太をしばし眺めた秋水は生真面目な様子で手を打った。
「もしかすると君はいま、自己嫌悪に陥っているのか?」
──「俺は! 女泣かすような奴は大っ嫌いだ!!」
ある人はいった。「時に正論は暴論よりも人を怒らせる」。
一見マジメに紡がれただけの言葉は、悪い意味で琴線に触れてしまったらしい。
「てめェ! からかってんのか!」
「いや。先ほどの君の言葉からそうではないかと思っただけだ。他意はない」
秋水は秋水で涼しい顔だ。マジメなようだが実は案外ちょっとからかっているのかもしれない。
いまにも胸倉を掴まれそうになりながらも、怒り狂う剛太を涼やかな目で見ている。
「え? え? 何の話してるの?」
桜花だけはおろおろと男2人を見比べた。先ほどの剛太の啖呵などまったく知らないのだろう。
秋水はチラリと剛太を見ると、正に破顔一笑。「馬鹿! 言うな!」という言葉も物ともせず、爽やかに相好を崩した。
「なんでもない。こっちの話だよ。姉さん」
ややあって。
気だるく腰掛けた剛太はまるで試合直前のように粛然と座る美剣士に言葉を投げた。
「……なあ」
「なんだ」
「どうしてさっき俺の言葉チクらなかったんだ?」
「姉さんに伝えない方が君のためだと思ったからだ」
つってもなあと剛太は頭に手を当てた。
「でもお前、武藤の妹のあだ名の件で俺にハメられたじゃねーか。仕返ししたくなるだろ? 普通はそうだろ。な?」
少し考え込んだ秋水はややはにかんだ微笑を浮かべた。なにこいつこんな顔できるのと垂れ目が軽く見開かれた。
「実の所、わずかだが仕返しも考えた」
「オイ」
「だがあれは俺の過失だ。君を恨む筋合いはない。第一、君の戦い方には学べる部分が多い。……それに」
「それに?」
「君は姉さんの戦友になれるかも知れない。だからあの言葉は伏せるべきだ。少なくてもそうする事が敬意だと俺は思っている」
「あっそ」
唇を尖らせながら剛太はメニュー表を取り、やや熱心な様子で眺め始めた。
またも訪れる沈黙。もっとも秋水はもう剛太との間に生じる会話の空白に慣れているらしい。そういう石像のように背筋良く
座りながら粛然と店内の様子を見ている。
やがて料理名と価格とアレルギー表示とカロリー値の羅列が垂れ目の歓心を買わなくなったようだ。プラスチックか何か
で硬くコーティングされたメニュー表がテーブルの上に放り落された。
そして頬杖をついた剛太は、少し所在投げに呟いた
「どれでも今の所持金で買えるけどさ、お前、好きな物はなんだよ?」
「?」
「…………おごってやるよ。礼と詫びな。でもコレで貸し借りなしだぞ」
端正な瞳をいやにあどけなく見開いた秋水の口元に嬉しそうな笑みが広がった。
「渋茶」
「じゃあそれな」
そしてそれを飲み干し、現在に至る。
「にしても一体なんだったんだあの戦いは」
「夢という事にする他ない」
卵焼きをぱくつきながら2人は何度目かの溜息を漏らした。
やる夫社長たちはというと相変わらず店内をうろついている。
「くそ! やっぱテラーのガイアメモリ見つからないお!」
「倒したはいいがメモリがないって危なすぎるだろ! 回収するかメモリブレイクしないと!」
「だからといってこの僕まで呼ばないで下さいよ! 僕は忙しいんです!」
「うっさいできる夫! てめえクウガだからってサボりすぎだお!」
「でもテラー倒したんでしょ? じゃあ大丈夫ですよ。アレ以上のガイアメモリなんてそうある訳」
「るせえ! そういってこう、アレを強化した白面とか大魔王バーンのガイアメモリとか出てきたらどうすんだお!」
「それを抜きにしてもシニガミハカセとかあったしなあ。他の世界の強豪の記憶が来たらどうする?」
「はは。まさか。ありえませんよそんなの」
例の採石場の世界とメイドカフェはまだ繋がっているらしく、彼らは行った来たりしながら何か探しているようだった。
「あのー。秋水先輩」
おずおずとした声に秋水が振り返った。つられて振り返った剛太は卵焼きを吹いた。
「この学生服なんだけど、やっぱり洗って返した方がいいよね」
だぼだぼとした学生服から白い太ももを半ばまで露出したまひろが困ったように眉を潜めている。
先ほどの戦闘の際、「服だけを溶かす都合のいい粘液」を浴びて全裸になった彼女はその時借りた服をずっと着ている
らしかった。
(いや、まず適当な服に着替えろよ。なんでずっと学生服なんだよ)
天然の恐ろしさをむざむざと見せつけられる思いだった。実際彼女は学生服の上着一枚という姿が相当恥ずかしいらし
く、先ほどから必死に胸元を抑え、裾をなるべく下の方に下の方にと小さな拳で懸命に引っ張っているようだった。洗う云々
よりまず生地が延びる心配をしろ。剛太はそう叫びたかった。
「そ、そうだな。洗って貰った方が、いい」
(面喰らってる面喰らってる)
笑いをこらえるのも大変だった。
ぎこちない口調の秋水は傍目でも分かるほど、目のやりどころに困っている。
それが面白くて仕方ないので、剛太はまひろに着替えるよう促さない。
「そ、そうだよね」
「だだだが、汚いとかそういう意味ではなく、君の心証を考えた場合そうすべきだと思っただけであって」
「う、うん。分かってるよ! 変なネバネバがついちゃってるし秋水先輩の服が溶けちゃったら悪いから。ね。ね」
また今日も卵焼きの吹きカスを拾い集める作業が始まるお……ディケイドの口真似をしながら剛太は赤絨毯の上を這い
ずりまわった。何かもう頭上の会話はどうでも良かった。簡単にいうと、同じ場所にいるのはいたたまれない。剛太は本当、
身を以て知っている。ストロベリートーク中の男女という奴がいかに周りを見ていないかを。例えばすぐ傍にいる後輩を無
視して「キミが死ぬ時が私の死ぬ時だ!」みたいな文言吐く先輩だっている。
胸が痛い。滝のような涙がばーっと溢れた。それでも居ながらにして忘れ去られるよりはまだ良かった。赤絨毯の上で
卵焼きのカスを拾い集めている方が楽だった。惨めだが度合いはまだ少ない。
斗貴子との共同任務を粉砕され変な世界で闇に潜って変形させられた今日という日は本当、サイアクだった。
「ネバネバが心配なら入浴した方がいい。ちょうどあの銭湯も近い」
「銭湯……?」
頭上でアニメアニメした声が息を呑んだ。しばらくの沈黙は「んぬぬぬぬ」みたいなじれったい声の地響きによって打破さ
れた。
「いやあーっ! 一緒に銭湯とか! 秋水先輩のエロスー!!」
遠ざかる足音。待ってくれという気配。どうやらまひろは勝手な勘違いで去っていったらしい。
(はいはいバカップルバカップル)
「なーお」
目の前をブルーの毛(実際には灰色に近い)をしたネコが行き過ぎた。「卵焼き喰うか」と差し出しかけた剛太は目を点に
した。ネコはすでに口に何かをくわえている。手を伸ばす。不機嫌な鳴き声とともにネコは走り出した。片付けに追われるメ
イドたちの間を抜けて修理中で開きっぱなしの自動ドアをくぐり、街の雑踏に消えていった。
「待ってくれ! 一緒にとは言っていない! ただ薦めただけで──!!」
秋水も立ち上がってまひろを追いかけていった。もちろん、彼は釈明に必死で「学生服1枚の女子を追いかける」挙措の
異常さに気付いていない。そのまま間違って女子更衣室に飛び込んで、着替え中の女子たちに悲鳴を上げられ、後々まで
ヴィクトリアにねちっこく小馬鹿にされるが──…
それはまた、別のお話。
「すまないねミック。私の落し物を探させてしまって」
「なーお」
「しかし屋台に忘れてしまうとは……実は若菜も落としていたのだがね。これでは叱れないよ」
「なーお」
雑踏の中で飼い主にあやされながら、ミックと呼ばれたブルーのネコは満足そうな鳴き声を上げた。
「やっぱりプリンは最高だぜ」
隣の席で”らしからぬ”デザートを舌鼓を打つセコム番長にお冷を継ぐと、桜花は剛太の前にふわりと着座した。
「カッコ良かったわよ。あの人についてった剛太クン」
「うるせェよ」
「秋水クン助けてくれてありがとう。でも無茶しちゃダメよ」
ふふと笑いながら桜花は滑らかにケーキを切り分けた。ひどく丸くてクリームの上にキウイやオレンジやイチゴが鮮やかに
乗っている高そうなケーキである。渋茶購入によって実はすっかり寂しい財布を思い剛太は汗を流した。
「注文したかそれ? してないよな。いっとくけど勝手に買わせておいて代金払えとかナシだぞ」
「サービスよ。だって剛太クンカッコ良かったから。それとも甘いお菓子は嫌い?」
「別にどうでも」
「じゃあどうぞ」
扇型のケーキが小皿に乗ってしなやかな手つきで配膳された。
その形に先ほどの馬鹿馬鹿しい変形を思い出し、剛太は一瞬顔をしかめたが──…
(まあ、いっか)
斗貴子との共同任務がフイにされ色々散々な思いをした一日だったが、矜持らしきものはそれなりに貫けたとは思う。
ちなみに斗貴子の方は任務を終え、小一時間もすれば寄宿舎に戻るらしい。数分前に見たメールを反芻しながら、剛太
はひどく高そうなケーキにフォークを伸ばした。
少しだけ、元・信奉者の双子の姉妹への感情が和らいでいる。
そんな気がした。
♪ジャージャージャー ジャージャ-ジャー (イントロっぽい何か) >
____
/ \
/ ⌒ ⌒\
/ ( ⌒) ( ⌒)ヽ 剛太。ここからがお前の本当の旅だお。
l ⌒(__人__)⌒ |
\ |r┬‐| /
/ ` ⌒´ ヽ
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/ ヽ、_ \
(●)(● ) |
お前には俺らがついてるだろ常考。 (__人__) |
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⊂ ヽ∩ く
| '、_ \ / )
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ヽ、 __\_/
_.. ‐'''''''''''' ‐ 、
,r' \
/ ⌒ ヽ, もう呼ばないで下さいよ。僕は蝶・忙しいんです。
( ●) `― ..i
i. ( ●) |
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\`ー'´ __/
よこいちれーつのちぇいす……>
「だから侵食すんじゃねええええええええええええええええええええええ!!」
オーロラをくぐり別の世界へ旅立つ3人については怒鳴り声で見送った。
「次の世界はなんでしょうね」
「さあな」
「どんな敵でも世界でも構わないお! どうせ鳴滝が相手だし、楽勝だお!!」
「だな!」
明るく笑いながら彼らはまた一歩踏み出した。旅はまだ……続く。
「私の影武者はやられたか。だが! 次のイデオンの世界こそ貴様の墓場だディケイド!」
黒い、黒い空間で。
「テラーは負けたがこれならば確実に貴様を葬れる! 楽しみだぞディケイド!」
鳴滝は化石状のUSBメモリを押した。そして響くその名前。
「ゲッターエンペラー」
今、史上最大の戦いが幕を開けようとしていた……!!
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