「だが本当に馬鹿馬鹿しいのはそこからだったよな」
「……概ねはそうだった。君の行動以外は」
枯れた声で頷くしかない美青年に剛太はつくづく同情した。
「……概ねはそうだった。君の行動以外は」
枯れた声で頷くしかない美青年に剛太はつくづく同情した。
どこかで木々のざわめく音がした。地鳴りも。ごうごう、ごうごう。灰の霧が立ち込め、ゲル状の蒼黒が地面に広っていく。
それを踏みしめ走る秋水。漆黒の海原に放り出されたような浮遊感。ごうごう。ごうごう。恐懼疑惑を掻き立てる蠢動の中、
逆胴を放つ。煌く青のアーチが灰の向こうで影を散らした。違う。避けられた。切歯する秋水の横で耳障りな哄笑が再び上
がる。脇構えで息をつく。汗がひどい。全身を鋭利に貫く冷たさの中で動悸だけが熱く波打っているようだった。敵を見る。
睨むのは簡単だった。彼の居る場所はすぐ分かる。厚ぼったく日光を遮る灰の向こうで古びた青銅がうっすら輝いているの
だから。
頭に被る装飾具を『冠』だけに限定すれば、彼はまさしく青銅の冠を戴く敵だった。
双頭の鷲を模したレリーフは古代を思わせる遺跡の紋様をしっかと刻んでいる。その下で正体不明の肉食獣の髑髏が
秋水を見返している。黒々と落ち込んだ眼窩にひどく理知的な光を湛えているのが一層不気味だった。お前が何を感じ何
を考えているかお見通しだよ──そう告げられたようで身震いする思いだった。口にくわえた金の装飾具は「人形と、その
後ろから”呑まないで。助けて”とばかり伸ばされた哀れな人々の無数の腕」に見えた。
闇の化身。
現生と、生者の与り知らぬいずことを区切る暗幕の向こうからやってきた冥界の使者。
冠から垂れるマントはそんな背景を与えていた。引き締まった上半身は艶のない黒。ひどく厚い腰巻は血でなめされたよ
うに赤黒い。そして哄笑ばかりが響き渡る。木々のざわめき。地鳴り。動悸。血潮が遡って鼓膜をなでる轟音。総てが混じり、
より強まる。ごうごう、ごうごう。圧迫的鳴動の中で光の奔流が敵に殺到した。ディエンド。すでに片膝をついている彼の放っ
た一撃を追うようにディケイドが飛び蹴りを放ってもいる。哄笑が「ふっ」と息注ぎするように途切れた。光が流れ鋭角の蹴
りが空を切る。消えた。秋水だけが見た。マントを翻し瞬間移動する敵を。そしてやや離れた場所で再び高々と笑い始める
敵を。火花が散る。苦鳴も上がる。闇中ぬかずくディケイド。滴る粘液上の闇を浴びるディエンド。彼らに一拍遅れ、秋水自身
も激しくせき込み口を押さえた。嫌な喪失感が臓腑の奥から込み上げる。手を離す。鮮血が掌中に溢れている。内臓のどこ
かがやられたらしい──…地面に広がる闇は立つ者総てを拒んでいるようだった。居るだけで生命力が削られる。ヴィクター
のエネルギードレインと同等かそれ以上。そう思いながら腕を振る。赤い雫が飛んで闇に呑まれた。そこでようやく敵は言
葉らしい言葉を発した。
「どうだディケイド! もはや貴様には成す術がないだろう!」
テラードーパント。これがあの冴えない中年男(鳴滝)だったのかと秋水は眼を見張る思いだった。そして口火を切られる
戦い。それは壮烈だった。特に「他のライダーを呼べる」ディエンドは最善手を尽くしていた。ギャレン。イクサ。キックホッパ
ーにパンチホッパー。そして……裁鬼! ガンバライドで当たったカスカードもとい名だたる強豪のカードで次から次へと召
還したのである。全員呼んだ瞬間爆散したが。
むろんディケイドというライダーにはお約束の最終形態がある。コンプリートフォーム。証明写真よろしく撮られたライダーども
のカードを胸のあたりにバーっと貼り付けただけのすこぶるダサ……先取的な格好になると同じく最終形態した先輩ライダーを
呼びだして彼らの超必殺技をぶっ放すコトができる。ただし変身に必要なケータッチは操作中にフッ飛ばされ、闇の大地に呑
まれ見えなくなった。なればとディケイド、右腰のカードホルダーからカードを1枚取り出した。
アタックライド。クロックアップ。
細かい理屈は色々あるが、要はめっちゃ素早い動きができるカード。それをベルトのバックルに通そうとしたら特撮特有
の火花が全身を駆け廻った。足元の闇にやられたらしい。カードが落ち、呑まれ、見えなくなった。
「なにやってんだてめえ!!」
「るせえ! お前こそ役立たずばっか呼んでんじゃねえお!!
とうとう口論を始めたマゼンタとシアンを右顧左眄する秋水は彼らを窘めようとした。
だが。
限界はまず……彼を襲った。
ドーパントという怪人でさえ苛む闇。それに生身で挑んでいたがゆえの当然の帰結。倒れ伏し、闇の中へと沈みゆく秋水。
手を伸ばすディケイドたちもまた闇に囚われ、成す術がない。
「まずは1人! ふははは! 覚悟はいいかディケイド! ここで貴様の旅は終わる! 終わるのだ!! はははは!!!」
その時である。周囲を取り巻くオーロラの一角に亀裂が入ったのは。
鈍い音がした。サンドバックを全力で叩いているような、拳がぶつかる音。それは徐々にだが確実に戦場へ迫ってきてい
るようだった。目を剥く鳴滝。振り返るディケイドとディエンド。
鈍い音が大きく、そして近くなるたび、オーロラのひび割れが増えていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
野太い男の叫びがした。雄叫び。次いで何かが割れる音。意味不明の叫びが鳴滝から迸る。今は亡き秋水たちの脱出を
阻んでいた汚水のようなオーロラ。それが割れている。ディケイドは目撃した。砕かれた空間からニュっと突き出す、ある物を。
それを踏みしめ走る秋水。漆黒の海原に放り出されたような浮遊感。ごうごう。ごうごう。恐懼疑惑を掻き立てる蠢動の中、
逆胴を放つ。煌く青のアーチが灰の向こうで影を散らした。違う。避けられた。切歯する秋水の横で耳障りな哄笑が再び上
がる。脇構えで息をつく。汗がひどい。全身を鋭利に貫く冷たさの中で動悸だけが熱く波打っているようだった。敵を見る。
睨むのは簡単だった。彼の居る場所はすぐ分かる。厚ぼったく日光を遮る灰の向こうで古びた青銅がうっすら輝いているの
だから。
頭に被る装飾具を『冠』だけに限定すれば、彼はまさしく青銅の冠を戴く敵だった。
双頭の鷲を模したレリーフは古代を思わせる遺跡の紋様をしっかと刻んでいる。その下で正体不明の肉食獣の髑髏が
秋水を見返している。黒々と落ち込んだ眼窩にひどく理知的な光を湛えているのが一層不気味だった。お前が何を感じ何
を考えているかお見通しだよ──そう告げられたようで身震いする思いだった。口にくわえた金の装飾具は「人形と、その
後ろから”呑まないで。助けて”とばかり伸ばされた哀れな人々の無数の腕」に見えた。
闇の化身。
現生と、生者の与り知らぬいずことを区切る暗幕の向こうからやってきた冥界の使者。
冠から垂れるマントはそんな背景を与えていた。引き締まった上半身は艶のない黒。ひどく厚い腰巻は血でなめされたよ
うに赤黒い。そして哄笑ばかりが響き渡る。木々のざわめき。地鳴り。動悸。血潮が遡って鼓膜をなでる轟音。総てが混じり、
より強まる。ごうごう、ごうごう。圧迫的鳴動の中で光の奔流が敵に殺到した。ディエンド。すでに片膝をついている彼の放っ
た一撃を追うようにディケイドが飛び蹴りを放ってもいる。哄笑が「ふっ」と息注ぎするように途切れた。光が流れ鋭角の蹴
りが空を切る。消えた。秋水だけが見た。マントを翻し瞬間移動する敵を。そしてやや離れた場所で再び高々と笑い始める
敵を。火花が散る。苦鳴も上がる。闇中ぬかずくディケイド。滴る粘液上の闇を浴びるディエンド。彼らに一拍遅れ、秋水自身
も激しくせき込み口を押さえた。嫌な喪失感が臓腑の奥から込み上げる。手を離す。鮮血が掌中に溢れている。内臓のどこ
かがやられたらしい──…地面に広がる闇は立つ者総てを拒んでいるようだった。居るだけで生命力が削られる。ヴィクター
のエネルギードレインと同等かそれ以上。そう思いながら腕を振る。赤い雫が飛んで闇に呑まれた。そこでようやく敵は言
葉らしい言葉を発した。
「どうだディケイド! もはや貴様には成す術がないだろう!」
テラードーパント。これがあの冴えない中年男(鳴滝)だったのかと秋水は眼を見張る思いだった。そして口火を切られる
戦い。それは壮烈だった。特に「他のライダーを呼べる」ディエンドは最善手を尽くしていた。ギャレン。イクサ。キックホッパ
ーにパンチホッパー。そして……裁鬼! ガンバライドで当たったカスカードもとい名だたる強豪のカードで次から次へと召
還したのである。全員呼んだ瞬間爆散したが。
むろんディケイドというライダーにはお約束の最終形態がある。コンプリートフォーム。証明写真よろしく撮られたライダーども
のカードを胸のあたりにバーっと貼り付けただけのすこぶるダサ……先取的な格好になると同じく最終形態した先輩ライダーを
呼びだして彼らの超必殺技をぶっ放すコトができる。ただし変身に必要なケータッチは操作中にフッ飛ばされ、闇の大地に呑
まれ見えなくなった。なればとディケイド、右腰のカードホルダーからカードを1枚取り出した。
アタックライド。クロックアップ。
細かい理屈は色々あるが、要はめっちゃ素早い動きができるカード。それをベルトのバックルに通そうとしたら特撮特有
の火花が全身を駆け廻った。足元の闇にやられたらしい。カードが落ち、呑まれ、見えなくなった。
「なにやってんだてめえ!!」
「るせえ! お前こそ役立たずばっか呼んでんじゃねえお!!
とうとう口論を始めたマゼンタとシアンを右顧左眄する秋水は彼らを窘めようとした。
だが。
限界はまず……彼を襲った。
ドーパントという怪人でさえ苛む闇。それに生身で挑んでいたがゆえの当然の帰結。倒れ伏し、闇の中へと沈みゆく秋水。
手を伸ばすディケイドたちもまた闇に囚われ、成す術がない。
「まずは1人! ふははは! 覚悟はいいかディケイド! ここで貴様の旅は終わる! 終わるのだ!! はははは!!!」
その時である。周囲を取り巻くオーロラの一角に亀裂が入ったのは。
鈍い音がした。サンドバックを全力で叩いているような、拳がぶつかる音。それは徐々にだが確実に戦場へ迫ってきてい
るようだった。目を剥く鳴滝。振り返るディケイドとディエンド。
鈍い音が大きく、そして近くなるたび、オーロラのひび割れが増えていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
野太い男の叫びがした。雄叫び。次いで何かが割れる音。意味不明の叫びが鳴滝から迸る。今は亡き秋水たちの脱出を
阻んでいた汚水のようなオーロラ。それが割れている。ディケイドは目撃した。砕かれた空間からニュっと突き出す、ある物を。
拳。
節くれ立ち、ひたすらに巨大な拳。頑健に握りしめられたそれは、その主の性質を何よりも雄弁に物語っていた。ディエン
ドは息を呑んだ。拳は肌以外の何物も纏っていない。秋水のソードサムライXさえ通らぬオーロラを破砕したというのに、ラ
イダースーツはおろかメリケンサックの一つさえ付けていない。かといって怪物のそれかといえばそうでもない。逞しい肌色
をしたそれは──…まぎれもない人間の拳だった。
そしてさらに侵入する黒い腕。
衝撃が辺りを揺るがした。破損したといってもまだ腕一本がようやく覗く程度だったオーロラはその衝撃によっていよいよ
本格的に蹂躙され始めた。腕がもう一本、オーロラを貫通し、そしてスルスルと引っ込んだ。
引き下がるのか? ディエンドは一瞬思ったが、次に起こった出来事は彼が信奉せし「常識」など軽々と飛び越えていた。
ヒビまみれのオーロラに「向こう側」があるというなら、逞しい腕はその向こう側とこちら側の境目を掴んだようだった。空間
へぽっかり空いた穴を支点として、掴んだようだった。
──預言者を自称し、武装錬金の世界の知識も仕入れていた鳴滝さえ事態を正確に把握していたかどうかは怪しい。
ドは息を呑んだ。拳は肌以外の何物も纏っていない。秋水のソードサムライXさえ通らぬオーロラを破砕したというのに、ラ
イダースーツはおろかメリケンサックの一つさえ付けていない。かといって怪物のそれかといえばそうでもない。逞しい肌色
をしたそれは──…まぎれもない人間の拳だった。
そしてさらに侵入する黒い腕。
衝撃が辺りを揺るがした。破損したといってもまだ腕一本がようやく覗く程度だったオーロラはその衝撃によっていよいよ
本格的に蹂躙され始めた。腕がもう一本、オーロラを貫通し、そしてスルスルと引っ込んだ。
引き下がるのか? ディエンドは一瞬思ったが、次に起こった出来事は彼が信奉せし「常識」など軽々と飛び越えていた。
ヒビまみれのオーロラに「向こう側」があるというなら、逞しい腕はその向こう側とこちら側の境目を掴んだようだった。空間
へぽっかり空いた穴を支点として、掴んだようだった。
──預言者を自称し、武装錬金の世界の知識も仕入れていた鳴滝さえ事態を正確に把握していたかどうかは怪しい。
彼はただ唖然と見つめていた。
オーロラが、もぎ取られるのを。
それはドアを蝶番ごとひっこ抜く侵入行為に似ていた。空間を……いや、世界さえ隔絶していたオーロラは、メリメリと凄ま
じい音を立てて除外された。縦3メートル横1メートルほどある大穴が空間に開いた。ドアの例えをやめるとすれば、住居の
壁が外から縦3メートル横1メートルほどひっぺがされたというべきか。──とはいえ普通の家屋でも素手でそういう暴挙は
できないのだが──剥がされたオーロラは乱雑に叩きつけられた。闇に浮かぶ欠片は海面に不法投棄されたガラスオブ
ジェのよう……ライダースーツの中で役立たずな連想を浮かべたやらない夫専務は自分の顎が下に向かって果てしなく垂
れさがっているのに気付いた。愕然としている。理知的な自分でさえ口をあんぐり開けるしかないのだから、相棒と呼ぶそ
そっかしい社長はもはやスーツの中で失禁しているのではないかとさえ思った。
「まったく何やってんだよ! 余計な世話焼かせやがって!!」
割れたオーロラから耳慣れた声が響く。剛太。「やりたくないけど仕方ねェ」、そんな顔つきで飛び込んできた彼は長い手
足をめいっぱい振った。
「くそ! やっぱこの闇みてぇなの痛ぇし!! 畜生、一気に突っ切るしかねえ! うおおおおおおおおおおおお!!!」
目を三角にして遮二無二に突っ走る。闇に波紋を点々と広げせ目指すのは──…秋水が沈んだ場所! はっと気付い
たディエンドの視線の先で幾度となく苦悶に顔を歪める剛太は、それを振り払うような絶叫を迸らせ前方めがけ大きく跳躍
した。彼が走った距離はおよそ50メートルだろうか。塩酸の海に匹敵するこの空間をそれだけ走れば危殆に瀕する事は
まず免れないが、ディケイドたちはそれ以上の危険に「あっ」と息を呑んだ。むべなるかな。空中の剛太はそのまま闇と化
した地面めがけ頭から飛び込んだ……。闇がザプリと音を立て、剛太の姿はそこに没した。
(オーロラ越しに状況見えてたのかお。つか……アレ破ったのコイツかお? いや、でも腕の太さが違うし)
ディケイドは首を横に振った。あの逞しい腕はひょろ長い剛太のそれとはまったく違う。
(やったのはこいつだろ常識的に考えて)
ディエンドはただ、破られた空間──剛太がやってきた方──を茫然と眺めていた。
ただ一人嘲笑を張り上げたのはいうまでもなく鳴滝である。
「馬鹿め! 自らテラードーパントの闇に飛び込むとは! 仲間を助けるつもりだったのだろうが無駄だよ! 生身で呑まれ
て生きていられる筈がない! はははは! はーっはっはっは!」
「言いたいことはそれだけか」
黒い皮靴がゆっくりと踏み出された。
洞穴のような黒い空間から歩み出て来たのは、男だった。剛太の消えた地点を眺め、笑ってもいるようだった。
いでたちは至って単純。白いカッターシャツに黒い学生服。
ただしそれらは野太い骨と隆々たる筋肉によって今にもはち切れんばかりに膨らんでいた。背丈はメイドカフェのオーナ
ー(念仏)よりはやや小さい。だが、でかい。身長ではなく漂う雰囲気が。粗雑な威圧感を超えた純然たる人間としての大き
さがそのまま彼を大きく見せている……と生暖かく湿る股間さすりつつディケイドは思った。バイクメーカー社長として多 く
の人間を見てきたからこそ分かる。
じい音を立てて除外された。縦3メートル横1メートルほどある大穴が空間に開いた。ドアの例えをやめるとすれば、住居の
壁が外から縦3メートル横1メートルほどひっぺがされたというべきか。──とはいえ普通の家屋でも素手でそういう暴挙は
できないのだが──剥がされたオーロラは乱雑に叩きつけられた。闇に浮かぶ欠片は海面に不法投棄されたガラスオブ
ジェのよう……ライダースーツの中で役立たずな連想を浮かべたやらない夫専務は自分の顎が下に向かって果てしなく垂
れさがっているのに気付いた。愕然としている。理知的な自分でさえ口をあんぐり開けるしかないのだから、相棒と呼ぶそ
そっかしい社長はもはやスーツの中で失禁しているのではないかとさえ思った。
「まったく何やってんだよ! 余計な世話焼かせやがって!!」
割れたオーロラから耳慣れた声が響く。剛太。「やりたくないけど仕方ねェ」、そんな顔つきで飛び込んできた彼は長い手
足をめいっぱい振った。
「くそ! やっぱこの闇みてぇなの痛ぇし!! 畜生、一気に突っ切るしかねえ! うおおおおおおおおおおおお!!!」
目を三角にして遮二無二に突っ走る。闇に波紋を点々と広げせ目指すのは──…秋水が沈んだ場所! はっと気付い
たディエンドの視線の先で幾度となく苦悶に顔を歪める剛太は、それを振り払うような絶叫を迸らせ前方めがけ大きく跳躍
した。彼が走った距離はおよそ50メートルだろうか。塩酸の海に匹敵するこの空間をそれだけ走れば危殆に瀕する事は
まず免れないが、ディケイドたちはそれ以上の危険に「あっ」と息を呑んだ。むべなるかな。空中の剛太はそのまま闇と化
した地面めがけ頭から飛び込んだ……。闇がザプリと音を立て、剛太の姿はそこに没した。
(オーロラ越しに状況見えてたのかお。つか……アレ破ったのコイツかお? いや、でも腕の太さが違うし)
ディケイドは首を横に振った。あの逞しい腕はひょろ長い剛太のそれとはまったく違う。
(やったのはこいつだろ常識的に考えて)
ディエンドはただ、破られた空間──剛太がやってきた方──を茫然と眺めていた。
ただ一人嘲笑を張り上げたのはいうまでもなく鳴滝である。
「馬鹿め! 自らテラードーパントの闇に飛び込むとは! 仲間を助けるつもりだったのだろうが無駄だよ! 生身で呑まれ
て生きていられる筈がない! はははは! はーっはっはっは!」
「言いたいことはそれだけか」
黒い皮靴がゆっくりと踏み出された。
洞穴のような黒い空間から歩み出て来たのは、男だった。剛太の消えた地点を眺め、笑ってもいるようだった。
いでたちは至って単純。白いカッターシャツに黒い学生服。
ただしそれらは野太い骨と隆々たる筋肉によって今にもはち切れんばかりに膨らんでいた。背丈はメイドカフェのオーナ
ー(念仏)よりはやや小さい。だが、でかい。身長ではなく漂う雰囲気が。粗雑な威圧感を超えた純然たる人間としての大き
さがそのまま彼を大きく見せている……と生暖かく湿る股間さすりつつディケイドは思った。バイクメーカー社長として多 く
の人間を見てきたからこそ分かる。
本物、だと。
天を衝かんばかりの偉丈夫。ズボンを粗雑なベルトでとりあえず固定し、詰襟を顔面の中ほどまで競り立たせるその姿は
ただ1つの単語でしか表わせそうになかった。
ただ1つの単語でしか表わせそうになかった。
『番長』
後ろに向かって伸びる3本角の髪型がいやでも耳目を引く男──否。”漢”だった。
彼は緩やかに足を踏み出した。タブードーパントの作り出した闇の広がる世界に向かって。
だが、何もない。起こらない。オーロラを踏んだ足裏が闇のぬかるみに取られているというのに。
彼は路上を進むのと変わりなく、平然と進んでいく。
猪よりも太い首を左右に曲げてゴキゴキと鳴らしながら、拳を整え。
進んでいく。
鳴滝めがけゆっくりと。
「ば!! 馬鹿な! タブードーパントだぞ! いくら私が正規の使用者でないとはいえ、威力はそれなりの筈!」
「……」
平行四辺形の目は明らかに怒気を孕んでいた。それで一層狼狽したのだろう。鳴滝は絶対的優勢を説いた。その理由を
論(あげつら)いだした。
「錬金の戦士たちは飲み干した! ディケイドもディエンドも成す術がない! なのに!! どうして!!! 何故だッ!!!?
この闇を生身の人間が喰らって無事でいられる筈が──…」
彼は緩やかに足を踏み出した。タブードーパントの作り出した闇の広がる世界に向かって。
だが、何もない。起こらない。オーロラを踏んだ足裏が闇のぬかるみに取られているというのに。
彼は路上を進むのと変わりなく、平然と進んでいく。
猪よりも太い首を左右に曲げてゴキゴキと鳴らしながら、拳を整え。
進んでいく。
鳴滝めがけゆっくりと。
「ば!! 馬鹿な! タブードーパントだぞ! いくら私が正規の使用者でないとはいえ、威力はそれなりの筈!」
「……」
平行四辺形の目は明らかに怒気を孕んでいた。それで一層狼狽したのだろう。鳴滝は絶対的優勢を説いた。その理由を
論(あげつら)いだした。
「錬金の戦士たちは飲み干した! ディケイドもディエンドも成す術がない! なのに!! どうして!!! 何故だッ!!!?
この闇を生身の人間が喰らって無事でいられる筈が──…」
「知ったことか─────────っ!!!」
巨大な拳が鳴滝を吹き飛ばした! 彼は飛ぶ。頬に走る灼熱の痛みに瞳の理知を忘我して。そして皮肉にも自らが作り
出したオーロラにしこたま背中をぶつけ「ぐぎぇ」と情けない声を上げた。
「てめえが襲った場所は女たちが真心込めて客をもてなす場所だ! そこを荒らした挙句こんな場所に逃げるなんざ──…」
振り抜いた腕もそのままにその男は鋭く叫んだ。
「スジが通らねえぜ!!」
殴られ、制御を欠いたせいか。周囲に立ち込めていた闇が緩やかに引いて行く。
「な……に……」
「分かったらとっとと店に戻って片付けを手伝いやがれ! いいな!」
それだけ言って翻り、入口へと戻り始める漢。そんな彼をディケイドとディエンドはただただ彼を眺める他なかった。
「なんだ?」
訝しげな視線に彼らは「ひっ!」と情けない声を上げた。無理もないだろ苦戦してた敵を一蹴した奴なんだから……などと
自己弁護するディエンドをよそにディケイドはおそるおそる手を上げ、質問した。
「お、お前、何者だお?」
「セコムだ!!! 金糸雀に呼ばれた!」
「はい?」
「今の俺はセコム……いや! セコム番長だ!」
男の声はひどく明朗で大きいが、文言はどうも噛みあわない。
「いやあの? やる夫たちでさえ突破できないあのオーロラを素手で壊せるとか人間業じゃねーお」
「時給は20プリンだぜ」
「いや聞いてねーからそういう情報」
パタパタと手を振るディケイドの横でうーむと考え込む仕草をしたのはディエンドである。
「まさか俺たちと同じく色んな世界を渡り歩けるとか」
「何いってるかワケわからねぇ!」
猛禽類が羽ばたいているような眉毛をいっそういからせ、セコム番長は答えた。
「俺はただお前たちの消えた辺りを探っていただけだ! そしたら音が聞こえた! 叩いたら割れた! それだけだぜ!」
「無茶苦茶すぎるお。チートだおこいつ」
「だな」
「ぷアッ! ……ったく! 本っっ当、剣の通じない奴には弱いのなお前! あと初見殺しにも!」
点々と広がる水たまり程度にまで縮小した闇の一つがさざめいた。振り向いたディケイドたち一行の視線の先ではちょうど
剛太が闇の中から這い出てくるところだった。
「すまない」
見事な黒髪を粘液状の闇でずっくりと湿らせ謝っているのは誰あろう早坂秋水である。
「すまないじゃねーっての。カッコつけといて情けなく沈んでんじゃねーよ。俺がマリンダイバーモードで助けなかったら死ん
でたぞ! 分かってんのか! 何で連れさらてんだよ! 馬鹿かお前は!」
「すまない」
「だあああああもうッ!!!!!!!」
豊かな髪を掻き毟る剛太はつくづくやり場のない怒りを抱えているようだった。
「つーかあの闇っぽいやつ目に入ったけど大丈夫なのかよ! 失明したら斗貴子先輩のメイド姿見れなくなるだろ!!」
剛太がディケイドたちと合流したのは、秋水の三度目の謝罪を怒鳴り散らした後である。
出したオーロラにしこたま背中をぶつけ「ぐぎぇ」と情けない声を上げた。
「てめえが襲った場所は女たちが真心込めて客をもてなす場所だ! そこを荒らした挙句こんな場所に逃げるなんざ──…」
振り抜いた腕もそのままにその男は鋭く叫んだ。
「スジが通らねえぜ!!」
殴られ、制御を欠いたせいか。周囲に立ち込めていた闇が緩やかに引いて行く。
「な……に……」
「分かったらとっとと店に戻って片付けを手伝いやがれ! いいな!」
それだけ言って翻り、入口へと戻り始める漢。そんな彼をディケイドとディエンドはただただ彼を眺める他なかった。
「なんだ?」
訝しげな視線に彼らは「ひっ!」と情けない声を上げた。無理もないだろ苦戦してた敵を一蹴した奴なんだから……などと
自己弁護するディエンドをよそにディケイドはおそるおそる手を上げ、質問した。
「お、お前、何者だお?」
「セコムだ!!! 金糸雀に呼ばれた!」
「はい?」
「今の俺はセコム……いや! セコム番長だ!」
男の声はひどく明朗で大きいが、文言はどうも噛みあわない。
「いやあの? やる夫たちでさえ突破できないあのオーロラを素手で壊せるとか人間業じゃねーお」
「時給は20プリンだぜ」
「いや聞いてねーからそういう情報」
パタパタと手を振るディケイドの横でうーむと考え込む仕草をしたのはディエンドである。
「まさか俺たちと同じく色んな世界を渡り歩けるとか」
「何いってるかワケわからねぇ!」
猛禽類が羽ばたいているような眉毛をいっそういからせ、セコム番長は答えた。
「俺はただお前たちの消えた辺りを探っていただけだ! そしたら音が聞こえた! 叩いたら割れた! それだけだぜ!」
「無茶苦茶すぎるお。チートだおこいつ」
「だな」
「ぷアッ! ……ったく! 本っっ当、剣の通じない奴には弱いのなお前! あと初見殺しにも!」
点々と広がる水たまり程度にまで縮小した闇の一つがさざめいた。振り向いたディケイドたち一行の視線の先ではちょうど
剛太が闇の中から這い出てくるところだった。
「すまない」
見事な黒髪を粘液状の闇でずっくりと湿らせ謝っているのは誰あろう早坂秋水である。
「すまないじゃねーっての。カッコつけといて情けなく沈んでんじゃねーよ。俺がマリンダイバーモードで助けなかったら死ん
でたぞ! 分かってんのか! 何で連れさらてんだよ! 馬鹿かお前は!」
「すまない」
「だあああああもうッ!!!!!!!」
豊かな髪を掻き毟る剛太はつくづくやり場のない怒りを抱えているようだった。
「つーかあの闇っぽいやつ目に入ったけど大丈夫なのかよ! 失明したら斗貴子先輩のメイド姿見れなくなるだろ!!」
剛太がディケイドたちと合流したのは、秋水の三度目の謝罪を怒鳴り散らした後である。
「ああもう腹立つ!! なんで元・信奉者助けるためにこんなズタボロになんなきゃならねーんだ!!」
「まあ、それ位で済んで良かっただろ設定的に考えて……」
あちこち破れたアロハシャツから血を滲ませている剛太を見ながらディエンドは呻いた。
「お前が潜ったすぐ後に、この……セコム番長? セコム番長とかいう奴が鳴滝殴っただろ。あれで闇が引いて」
「お。威力がだいぶ弱まったって訳かお。それにアイツもいってたけど本来の使用者じゃないから、元々の威力自体、本家
本元にゃ及ばないってところかお」
(だから俺も生きている……というコトか)
「つーかお前!」
秋水の思考を無遠慮に散らしたディケイドは、ひどく気さくな様子で剛太の肩を押した。
「そんなにコイツ嫌いだったらわざわざ来なくても良かったんじゃねーかお?」
「だな。言っちゃ悪いがセコム番長1人でカタついただろ戦力的に考えて……」
ぐっと呻いたきり剛太は黙った。そして垂れ目を更に垂らしてまだ闇の残る採石場の地面を所在なげに眺めまわした後
横髪をそよがせるように一撫でして、それからようやくブスリと呟いた。
「……くだろ」
「ハイ?」
消え入りそうな声を聞き返すディケイドに、剛太の何事かはついに決壊したようだった。
「だから! この元・信奉者がくたばったらこいつの姉貴とか激甘アタマの妹とか泣くだろ!!!」
「はァ」
なに1人で勝手に逆上してんだ? ディエンドの視線はみるみると冷めていく。
「なのに通りすがりの連中に丸投げしてハイ大丈夫とかアイツらに言えるかってんだ! 俺は、俺は!!!」
「まあ、それ位で済んで良かっただろ設定的に考えて……」
あちこち破れたアロハシャツから血を滲ませている剛太を見ながらディエンドは呻いた。
「お前が潜ったすぐ後に、この……セコム番長? セコム番長とかいう奴が鳴滝殴っただろ。あれで闇が引いて」
「お。威力がだいぶ弱まったって訳かお。それにアイツもいってたけど本来の使用者じゃないから、元々の威力自体、本家
本元にゃ及ばないってところかお」
(だから俺も生きている……というコトか)
「つーかお前!」
秋水の思考を無遠慮に散らしたディケイドは、ひどく気さくな様子で剛太の肩を押した。
「そんなにコイツ嫌いだったらわざわざ来なくても良かったんじゃねーかお?」
「だな。言っちゃ悪いがセコム番長1人でカタついただろ戦力的に考えて……」
ぐっと呻いたきり剛太は黙った。そして垂れ目を更に垂らしてまだ闇の残る採石場の地面を所在なげに眺めまわした後
横髪をそよがせるように一撫でして、それからようやくブスリと呟いた。
「……くだろ」
「ハイ?」
消え入りそうな声を聞き返すディケイドに、剛太の何事かはついに決壊したようだった。
「だから! この元・信奉者がくたばったらこいつの姉貴とか激甘アタマの妹とか泣くだろ!!!」
「はァ」
なに1人で勝手に逆上してんだ? ディエンドの視線はみるみると冷めていく。
「なのに通りすがりの連中に丸投げしてハイ大丈夫とかアイツらに言えるかってんだ! 俺は、俺は!!!」
──満月に照らされる巨人の腕の上で。
「カズキ……」
「カズキ……」
「カズキ……」
その女性(ひと)はすすり泣いていた。
気丈さも凛然さも何もかもかなぐり捨て、ただひたすら……想い人の名を、呼んでいた。
気丈さも凛然さも何もかもかなぐり捨て、ただひたすら……想い人の名を、呼んでいた。
『許さねぇぞ武藤ォ!』
『よくも先輩を泣かせやがって……!!』
「俺は! 女泣かすような奴は大っ嫌いだ!!」
ほとばしる絶叫に一同はみな呆気に取られたらしかった。秋水さえ眼を丸くし、ディケイドとディエンドは目の部分の柱を
ぽーんと飛び出させ、セコム番長も仏頂面を驚愕に歪めた。
「だから放っておけるかっての! こいつも大概嫌いだけど見殺しにしたら俺はあのバカと同じになるから助けにきた!
それだけ! 悪いか!! あァ!!」
身振り手振りを交えながらもはや怪鳥のごとく声を振り絞る剛太に対して訪れた反応は──…
ほとばしる絶叫に一同はみな呆気に取られたらしかった。秋水さえ眼を丸くし、ディケイドとディエンドは目の部分の柱を
ぽーんと飛び出させ、セコム番長も仏頂面を驚愕に歪めた。
「だから放っておけるかっての! こいつも大概嫌いだけど見殺しにしたら俺はあのバカと同じになるから助けにきた!
それだけ! 悪いか!! あァ!!」
身振り手振りを交えながらもはや怪鳥のごとく声を振り絞る剛太に対して訪れた反応は──…
ク ク || プ //
ス ク ス | | │ //
/ ス | | ッ // ク ク ||. プ //
/ // ス ク ス _ | | │ //
/ ̄ ̄\ / ス ─ | | ッ //
/ _ノ .\ / //
| ( >)(<) ____
. | ⌒(__人__) ./ ⌒ ⌒\ こいつハーフボイルドだおwwww
| ` Y⌒l / (>) (<)\
. | . 人__ ヽ / ::::::⌒(__人__)⌒ \
ヽ }| | | ` Y⌒ l__ |
ヽ ノ、| | \ 人_ ヽ /
. /^l / / ,─l ヽ \
ス ク ス | | │ //
/ ス | | ッ // ク ク ||. プ //
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/ _ノ .\ / //
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. | ⌒(__人__) ./ ⌒ ⌒\ こいつハーフボイルドだおwwww
| ` Y⌒l / (>) (<)\
. | . 人__ ヽ / ::::::⌒(__人__)⌒ \
ヽ }| | | ` Y⌒ l__ |
ヽ ノ、| | \ 人_ ヽ /
. /^l / / ,─l ヽ \
ハーフボイルドだなwwwwwwwwwww
笑い、だった。
「うるせえ! つーか侵食すんな!! それになんで変身前の顔なんだよ!」
顔も真赤に牙剥く剛太がたじろいだのは、秋水が深々と辞儀をしたからである。
「なんだよ!」
「感謝する。君は姉さんの事を気遣ってくれたんだな」
剛太はまだ黙った。静かな沈黙というよりは怒りの言葉を吐き散らかすための予備動作という様子で、紅潮する顔面は
しばらくブルブルと震えた。そして叫ぶ。
「なんでそうなんだよ! 俺は──…」
「だが君は、姉さんを泣かせたくないと思ったのだろう。だったらそれだけで十分だ。感謝する」
「ぐっ……」
言葉に詰まった剛太へ外野陣の笑いがますます強まった。うるせえ笑うな。怒鳴り散らした剛太に「ヒイ」とわざとらしく
怯えて逃げるディケイドたち。なーおなーおと鳴いてうろつきまわるネコ。
そんな中、秋水はふと考え込むような顔をした。
「もっとも、俺の事で武藤の妹が泣くかは分からないが──…」
「泣くさ」
不思議そうな様子の秋水に「やっぱそっけねぇ」と剛太は軽く毒づいた。
「うるせえ! つーか侵食すんな!! それになんで変身前の顔なんだよ!」
顔も真赤に牙剥く剛太がたじろいだのは、秋水が深々と辞儀をしたからである。
「なんだよ!」
「感謝する。君は姉さんの事を気遣ってくれたんだな」
剛太はまだ黙った。静かな沈黙というよりは怒りの言葉を吐き散らかすための予備動作という様子で、紅潮する顔面は
しばらくブルブルと震えた。そして叫ぶ。
「なんでそうなんだよ! 俺は──…」
「だが君は、姉さんを泣かせたくないと思ったのだろう。だったらそれだけで十分だ。感謝する」
「ぐっ……」
言葉に詰まった剛太へ外野陣の笑いがますます強まった。うるせえ笑うな。怒鳴り散らした剛太に「ヒイ」とわざとらしく
怯えて逃げるディケイドたち。なーおなーおと鳴いてうろつきまわるネコ。
そんな中、秋水はふと考え込むような顔をした。
「もっとも、俺の事で武藤の妹が泣くかは分からないが──…」
「泣くさ」
不思議そうな様子の秋水に「やっぱそっけねぇ」と剛太は軽く毒づいた。
──「コレ、初めて着たんだけど……似合うかな?」
── 秋水の反応を期待しているらしい。上目遣い気味のまひろの頬はやや赤い。
── 秋水の反応を期待しているらしい。上目遣い気味のまひろの頬はやや赤い。
「理由は自分で考えな。……っと。?」
肩に大きな掌が乗った。振りむくとそこには巨大な漢が居た。
「あーと。セコム番長だっけ? 何か用?」
「スジを通したな」
ニヤリと笑ってそのまま踵を返す偉丈夫にしばし剛太は首を傾げたが──…
肩に大きな掌が乗った。振りむくとそこには巨大な漢が居た。
「あーと。セコム番長だっけ? 何か用?」
「スジを通したな」
ニヤリと笑ってそのまま踵を返す偉丈夫にしばし剛太は首を傾げたが──…
まあいいや。冷めた目線で一同にこう囁いた。
「帰るか。俺たちの世界へ」