……イヴが戦支度を整えたと言うのに、対するリオンは先刻から何一つ動こうとしない。
―――ならば先手必勝、一足飛びで彼女はブロンドの拳を振り上げて砲弾の様に跳んだ。
〝ごめん!〟
心の中で短く詫びるや、全身のバネを利かせた巨拳が突進力と重なって無防備の少年に直撃した。
そして木霊する激しく堅い激突音―――――
―――ならば先手必勝、一足飛びで彼女はブロンドの拳を振り上げて砲弾の様に跳んだ。
〝ごめん!〟
心の中で短く詫びるや、全身のバネを利かせた巨拳が突進力と重なって無防備の少年に直撃した。
そして木霊する激しく堅い激突音―――――
「――――――――…え……?」
……それは生身を殴った音ではない、感触も違う。
それもその筈、金髪の拳はリオンに届かず、その眼前に突如出現した黒いタワーシールドに阻まれていた。
「ま……こんなもんだろうな。次はオレだ、殴れ」
まるで映像が消える様に僅かなノイズを残して消失した盾の向こうから、つまらなそうに飛び出した命令口調。
それに未だ中空のイヴは気を取られた―――のが不味かった。
……それは生身を殴った音ではない、感触も違う。
それもその筈、金髪の拳はリオンに届かず、その眼前に突如出現した黒いタワーシールドに阻まれていた。
「ま……こんなもんだろうな。次はオレだ、殴れ」
まるで映像が消える様に僅かなノイズを残して消失した盾の向こうから、つまらなそうに飛び出した命令口調。
それに未だ中空のイヴは気を取られた―――のが不味かった。
一拍置いて、彼女の脇腹に巨大な衝撃が弾けた。
「ッ!?」
その威力は凄まじく、彼女は投げ捨てられた人形の様に宙を舞った……が、それでもバランスを建て直し、
一回転して辛うじて石畳への顔面着地は凌いだ。
「…ッッッ!!!」
しかしそれが精一杯だ。激痛と呼吸困難に敵の直視と姿勢維持を妨げられ、彼女は脇腹を押さえて膝を付く。
「悪いな、オレの道は一度発動すると手加減効かなくてな」
痛みに霞む視覚と聴覚に、リオンのそれなりに済まなそうな所作が届いた。その佇まいには、先刻と同様戦闘のそれは
見当たらない。だが、今彼女が享受する痛みは間違い無くリオンの手による物だ。それを頭の冷静な部分で分析するが、
どんな攻撃なのかさっぱり判らない。
「……何があったか判らないって貌だな。安心しろ、見せてやる……出て来い」
言い様手を振り上げるや、彼の背後の空間を一列横隊が席巻した。
「…………!?」
―――――現れたのは、白銀の巨躯を微動だにせず、全てが生物的で且つ堅そうなフォルムを持つ集団………
それは、奇怪でマッシヴな鎧に身を固めた騎士の一団だった。どれも同一では有るが、大きな上半身と小さな下半身のバランスの悪さ
と言い、意匠の戯画的な不気味さと言い、およそ人間が纏う物では無いのは誰の目にも判る。
そして各々が携える武器も、剣に斧、槍や鎖鉄球と様々だが、それもやはり細工が何処か戯画じみて、にも拘らず凶暴な実用性を
匂い立つ様に溢れさせる。
「これがオレの道……オレの敵を完璧に排除し、オレに絶対の忠誠を誓う最強の騎士団だ」
手を下ろすと、背景を埋め尽くした甲冑達は何事も無く消失する。
「何で見せたか判るよな? オレだって、出来ればお前を傷付けたくない。なるったけ進んでオレの同志になって欲しいんだ。
それに―――」
喋りながら、傍から見れば無警戒にイヴへと近付くが、彼は初めから筒先を向けていたも同然だ。
彼の道は命令するだけで良い。さすれば即座に甲冑が現れ命令を実行し、反撃の間も無く消え失せる。
「…判ってんだろ? 知った所で手の打ち様が無いって事が」
正に心中を見抜かれ、イヴは身を強張らせた。
その威力は凄まじく、彼女は投げ捨てられた人形の様に宙を舞った……が、それでもバランスを建て直し、
一回転して辛うじて石畳への顔面着地は凌いだ。
「…ッッッ!!!」
しかしそれが精一杯だ。激痛と呼吸困難に敵の直視と姿勢維持を妨げられ、彼女は脇腹を押さえて膝を付く。
「悪いな、オレの道は一度発動すると手加減効かなくてな」
痛みに霞む視覚と聴覚に、リオンのそれなりに済まなそうな所作が届いた。その佇まいには、先刻と同様戦闘のそれは
見当たらない。だが、今彼女が享受する痛みは間違い無くリオンの手による物だ。それを頭の冷静な部分で分析するが、
どんな攻撃なのかさっぱり判らない。
「……何があったか判らないって貌だな。安心しろ、見せてやる……出て来い」
言い様手を振り上げるや、彼の背後の空間を一列横隊が席巻した。
「…………!?」
―――――現れたのは、白銀の巨躯を微動だにせず、全てが生物的で且つ堅そうなフォルムを持つ集団………
それは、奇怪でマッシヴな鎧に身を固めた騎士の一団だった。どれも同一では有るが、大きな上半身と小さな下半身のバランスの悪さ
と言い、意匠の戯画的な不気味さと言い、およそ人間が纏う物では無いのは誰の目にも判る。
そして各々が携える武器も、剣に斧、槍や鎖鉄球と様々だが、それもやはり細工が何処か戯画じみて、にも拘らず凶暴な実用性を
匂い立つ様に溢れさせる。
「これがオレの道……オレの敵を完璧に排除し、オレに絶対の忠誠を誓う最強の騎士団だ」
手を下ろすと、背景を埋め尽くした甲冑達は何事も無く消失する。
「何で見せたか判るよな? オレだって、出来ればお前を傷付けたくない。なるったけ進んでオレの同志になって欲しいんだ。
それに―――」
喋りながら、傍から見れば無警戒にイヴへと近付くが、彼は初めから筒先を向けていたも同然だ。
彼の道は命令するだけで良い。さすれば即座に甲冑が現れ命令を実行し、反撃の間も無く消え失せる。
「…判ってんだろ? 知った所で手の打ち様が無いって事が」
正に心中を見抜かれ、イヴは身を強張らせた。
―――エキドナの右肩辺りの空間に、何の予告も無く水面の様な波紋が咲いた。
「?」
その中心から、黒光りする槍の様な棒状の物が滑り出る。
形状は長い棒そのものだが、その先端には毒蛇の頭を思わせる角張った部品が付属され…
と其処で、突然スヴェンが思慮を捨て、手近の路地に頭から飛び込むのと――――――、
轟音、そして彼の背後に有った屋台が破壊されたのは同時だった。
「?」
その中心から、黒光りする槍の様な棒状の物が滑り出る。
形状は長い棒そのものだが、その先端には毒蛇の頭を思わせる角張った部品が付属され…
と其処で、突然スヴェンが思慮を捨て、手近の路地に頭から飛び込むのと――――――、
轟音、そして彼の背後に有った屋台が破壊されたのは同時だった。
「…………ッッッッ!!」
その残響が狭い路地で増幅され、彼の耳を強かに聾する。その中で、思考は恐るべき方向へと帰結した。
――――あの突如現れた長い棒は間違い無い。轟音と威力が完全に証明している。
あれは………対戦車ライフルの銃身だ。
「…良くかわしたねぇ、スヴェン=ボルフィード。意外と動けるじゃないか」
熱を持つ銃身が作る陽炎の向こうから、美女が殺意の薄笑いを送った。
その残響が狭い路地で増幅され、彼の耳を強かに聾する。その中で、思考は恐るべき方向へと帰結した。
――――あの突如現れた長い棒は間違い無い。轟音と威力が完全に証明している。
あれは………対戦車ライフルの銃身だ。
「…良くかわしたねぇ、スヴェン=ボルフィード。意外と動けるじゃないか」
熱を持つ銃身が作る陽炎の向こうから、美女が殺意の薄笑いを送った。
〝これが………道か……〟
およそ尋常の戦闘法が通用しない領域をスヴェンは肌で感じる。
命からがら避けた彼への呼び掛けに反動の余韻が無い事を見るに、彼女にその手の負荷が訪れないであろう事が窺える。
しかも原理は判らないが、恐らく空間にあんな自分だけのポケットを作って置けるのだろう。その中に入れてある武器を
使うと見て間違いは有るまい。
「…これが私の道さ。私の周囲にこんな収納口を開けて、そこに色んな物を入れておける。例えば、そら…」
そう言った矢先、彼女の周囲に先刻より小さな波紋が無数に沸き上がるや、彼は慌てて全身を路地へと隠す。
再度襲来したのは、銃弾の嵐だった。
「~~~~~~~ッ!!!」
極力体を丸めて破片と跳弾から身を守るが、彼と引き換えに暴威の洗礼を受ける路地の入り口が無残に破壊されていった。
銃火を咲かせる短機関銃の銃身に囲まれ、その中心で凄みの有る媚態を飾るエキドナは、さながら死の女神を思わせた。
およそ尋常の戦闘法が通用しない領域をスヴェンは肌で感じる。
命からがら避けた彼への呼び掛けに反動の余韻が無い事を見るに、彼女にその手の負荷が訪れないであろう事が窺える。
しかも原理は判らないが、恐らく空間にあんな自分だけのポケットを作って置けるのだろう。その中に入れてある武器を
使うと見て間違いは有るまい。
「…これが私の道さ。私の周囲にこんな収納口を開けて、そこに色んな物を入れておける。例えば、そら…」
そう言った矢先、彼女の周囲に先刻より小さな波紋が無数に沸き上がるや、彼は慌てて全身を路地へと隠す。
再度襲来したのは、銃弾の嵐だった。
「~~~~~~~ッ!!!」
極力体を丸めて破片と跳弾から身を守るが、彼と引き換えに暴威の洗礼を受ける路地の入り口が無残に破壊されていった。
銃火を咲かせる短機関銃の銃身に囲まれ、その中心で凄みの有る媚態を飾るエキドナは、さながら死の女神を思わせた。
…実際は一分も経っていないのだろうが、それでも長きに感じる撃たれっぱなしの時間が過ぎ去った。
彼女が眼前に差し出した手元にまた波紋が起き、其処から現れたティーカップの取っ手をそっと掴んだ。
その中からは湯気が立ち上り、程よい飲み頃だと言う事が良く判る。
「おやおや、先刻の威勢は何処に行っちまったのかねぇ」
その香りを悠々と楽しむエキドナを崩壊寸前の路地から覗き、スヴェンの胸に絶望交じりの正解が圧し掛かった。
〝ヤバいな…こりゃあ……〟
正解…と言う事は、これからどんな兵器が出て来るのか想像も付かない。まだ判断の材料は足りないが、彼女の戦法は恐らく
ファランクス――――――…圧倒的火力による徹底制圧だろう。
対してこちらは単騎にして火力にも劣る。常識的なら投げ出しても誰一人責めまいであろう難易度だ。
彼女が眼前に差し出した手元にまた波紋が起き、其処から現れたティーカップの取っ手をそっと掴んだ。
その中からは湯気が立ち上り、程よい飲み頃だと言う事が良く判る。
「おやおや、先刻の威勢は何処に行っちまったのかねぇ」
その香りを悠々と楽しむエキドナを崩壊寸前の路地から覗き、スヴェンの胸に絶望交じりの正解が圧し掛かった。
〝ヤバいな…こりゃあ……〟
正解…と言う事は、これからどんな兵器が出て来るのか想像も付かない。まだ判断の材料は足りないが、彼女の戦法は恐らく
ファランクス――――――…圧倒的火力による徹底制圧だろう。
対してこちらは単騎にして火力にも劣る。常識的なら投げ出しても誰一人責めまいであろう難易度だ。
しかしそれが何だと言うのだ。
戦闘とは強い者が勝つのでは無い、勝った者の勝ちなのだ。
相手が人間である以上完璧も完全も存在せず、必ず何処かしらに穴がある。だからこそスヴェンは、これまでその穴を
突く形で策略の糸を廻らせて来たのだ。
〝確かに凄いが……やっぱりあんたは甘いな〟
まず完勝を信じて能力を晒した時点で、場はスヴェンの優勢だ。彼女の手は疑い様も無く大きいが、最強の手ではない。
となればイカサマでも何でも伏せたエースを拾えば良いだけの話だ。
ライフルを組み立てながら、脳裏で更に緻密な戦略を組み立てて彼の唇は奸智に笑んだ。
戦闘とは強い者が勝つのでは無い、勝った者の勝ちなのだ。
相手が人間である以上完璧も完全も存在せず、必ず何処かしらに穴がある。だからこそスヴェンは、これまでその穴を
突く形で策略の糸を廻らせて来たのだ。
〝確かに凄いが……やっぱりあんたは甘いな〟
まず完勝を信じて能力を晒した時点で、場はスヴェンの優勢だ。彼女の手は疑い様も無く大きいが、最強の手ではない。
となればイカサマでも何でも伏せたエースを拾えば良いだけの話だ。
ライフルを組み立てながら、脳裏で更に緻密な戦略を組み立てて彼の唇は奸智に笑んだ。
砲をぶら下げて待ち受ける怪物の前に現れたのは、黒服を着た老若男女混合の集団だった。しかし服装に対し、
各々が携える武器は統一性のかけらも無い。弓、槍、剣、銃、鞭、斧、鎌………と、明らかに個の能力を優先した武装になっている。
それらを一瞥する怪物の前に、部下の首が何処からとも無く投げ出される。
「……お前が、このガラクタ共の親分か?」
語調も不敵に進み出たドレッドヘアの黒人も、やはり黒服だ。察するに彼がこの一団の首魁だろう。
「まさか俺達が伏せてるとは思わなかったかい? こっちはそんなモン見越して、末端の構成員すら退避させて町中に配置してあるのさ。
だからまあ、無駄な努力ご苦労様………ってな」
「此処に居た連中は、掃除屋か」
「まあな、そこそこ戦力が無いとお前らも疑うだろ? 仕方なくさ」
勿論彼らの命に対する悔悟などひとかけらも無く、皆が失笑した。
「…お喋りはここまでだ、デカいの。これから先のお前には質問に答える権利しかない―――――…まずは問い一、
星の使徒の内情、今すぐ喋るかブチのめされてから喋るか……好きな方を選びな」
弄う様に笑いながら両手を振ると、掌中の柄から三段式のロッドが金属音を響かせて飛び出した。無論それはオリハルコン製だ。
勝勢の傲慢…と言うべきか、彼はロッドの先端を怪物に指し示した。
事実此処は三階。彼の背後は窓であり、彼らがこの部屋に入った時点で退路は絶たれている。チェスで言う所のスティールメイト
(敵方にキングしか駒の無い王手)は目前だ。
各々が携える武器は統一性のかけらも無い。弓、槍、剣、銃、鞭、斧、鎌………と、明らかに個の能力を優先した武装になっている。
それらを一瞥する怪物の前に、部下の首が何処からとも無く投げ出される。
「……お前が、このガラクタ共の親分か?」
語調も不敵に進み出たドレッドヘアの黒人も、やはり黒服だ。察するに彼がこの一団の首魁だろう。
「まさか俺達が伏せてるとは思わなかったかい? こっちはそんなモン見越して、末端の構成員すら退避させて町中に配置してあるのさ。
だからまあ、無駄な努力ご苦労様………ってな」
「此処に居た連中は、掃除屋か」
「まあな、そこそこ戦力が無いとお前らも疑うだろ? 仕方なくさ」
勿論彼らの命に対する悔悟などひとかけらも無く、皆が失笑した。
「…お喋りはここまでだ、デカいの。これから先のお前には質問に答える権利しかない―――――…まずは問い一、
星の使徒の内情、今すぐ喋るかブチのめされてから喋るか……好きな方を選びな」
弄う様に笑いながら両手を振ると、掌中の柄から三段式のロッドが金属音を響かせて飛び出した。無論それはオリハルコン製だ。
勝勢の傲慢…と言うべきか、彼はロッドの先端を怪物に指し示した。
事実此処は三階。彼の背後は窓であり、彼らがこの部屋に入った時点で退路は絶たれている。チェスで言う所のスティールメイト
(敵方にキングしか駒の無い王手)は目前だ。
―――怪物に注目した為だろうか。砲を握る手が震えているのを見咎める。
それを恐怖が故と判断した彼は、顎で手近な隊員の一人に促すと、歳若い男が追従笑いと嘲笑を半々に進み出て演説を始めた。
「……紹介が遅れましたね。
我々はナンバーズ候補生、通称〝盤外(アウトラウンド)〟」
無駄に演出過剰に、自分達を自前の武器で示す。
……今まで何度と無くやってきた事だ。何時もこれをやるだけで敵対した者共は殊更に萎縮し、状況を理解するにつれて
許しすら請おうとする。当然それを聞いているナンバーズなど、腕など組んで得意満面だ。
組織と上司の威を借りた男も、酔い痴れたまま演説の山場に入って行く。
「そしてこの方は! クロノナンバーズNo10!! その名もデイビッド=……!!!」
だがその得意の絶頂は、突如生じた比較的軽い音に断ち切られた。
それを恐怖が故と判断した彼は、顎で手近な隊員の一人に促すと、歳若い男が追従笑いと嘲笑を半々に進み出て演説を始めた。
「……紹介が遅れましたね。
我々はナンバーズ候補生、通称〝盤外(アウトラウンド)〟」
無駄に演出過剰に、自分達を自前の武器で示す。
……今まで何度と無くやってきた事だ。何時もこれをやるだけで敵対した者共は殊更に萎縮し、状況を理解するにつれて
許しすら請おうとする。当然それを聞いているナンバーズなど、腕など組んで得意満面だ。
組織と上司の威を借りた男も、酔い痴れたまま演説の山場に入って行く。
「そしてこの方は! クロノナンバーズNo10!! その名もデイビッド=……!!!」
だがその得意の絶頂は、突如生じた比較的軽い音に断ち切られた。
怪物が彼を―――――――、文字通り一撃で粉砕したからだ。
「………は?」
予想外の惨事に、誰もが空白になった。
怪物も、砲の衝角(ラム)を振り下ろした態勢から動かない―――――と、思いきや、その肩が今までに無く震えている。
「……貴様ら…」
驚く事に、怪物の声には確かな赫怒が満ち満ちていた。
彼は……理由こそ判らないが、恐怖どころか包み隠せなくなるほど怒っていたのだ。
「貴様らの様なクズが…………クロノスを…!!!」
某と呼ばれたナンバーズは、咄嗟に両手のロッドで十字受けの態勢をとる。続いて激しい金属音と、壁まで弾き飛ばされる彼。
怪物の拳は、それだけで充分に凶器だった。
「クロノスを………此処まで腐らせたのかァッッ!!!」
爆風紛いの圧力すら感じる怒号が、彼らの心を激しく打ち据える。
誰も理解出来なかった。何故この怪物が、星の使徒の為ではなくクロノスの為に怒るのか。
しかし仔細はどうあれ、今この場に於いて敵対関係で対峙するのは間違いない。巨大な斧槍(ハルバート)を握る隆々たる巨躯の黒服
が、蛮声を上げて怪物に突撃した。だが怪物の砲が、彼の全てを轟音と共に吹き飛ばす。
「う…うわ! うわああぁ!!!」
「引くな馬鹿! 俺達(アウトラウンド)に撤退が有ると思うな!!」
或いは恐怖に駆られ、或いは自身と周囲を鼓舞し、それでも彼らは憎悪に漲る怪物を包囲した。
「な……何だこいつは!!?」
弾き飛ばされてようやく立ち直ったナンバーズ―――デイビッド=ペッパーは、虐殺される部下を目の当たりにしながら愕然とした。
あの戦闘の機微が足らない他のサイボーグと一線を画す反応速度は、生身の人間とまるで大差無い。しかもまともな武器では、彼の纏う
コート一枚貫通させる事が出来ない。その上―――――、
予想外の惨事に、誰もが空白になった。
怪物も、砲の衝角(ラム)を振り下ろした態勢から動かない―――――と、思いきや、その肩が今までに無く震えている。
「……貴様ら…」
驚く事に、怪物の声には確かな赫怒が満ち満ちていた。
彼は……理由こそ判らないが、恐怖どころか包み隠せなくなるほど怒っていたのだ。
「貴様らの様なクズが…………クロノスを…!!!」
某と呼ばれたナンバーズは、咄嗟に両手のロッドで十字受けの態勢をとる。続いて激しい金属音と、壁まで弾き飛ばされる彼。
怪物の拳は、それだけで充分に凶器だった。
「クロノスを………此処まで腐らせたのかァッッ!!!」
爆風紛いの圧力すら感じる怒号が、彼らの心を激しく打ち据える。
誰も理解出来なかった。何故この怪物が、星の使徒の為ではなくクロノスの為に怒るのか。
しかし仔細はどうあれ、今この場に於いて敵対関係で対峙するのは間違いない。巨大な斧槍(ハルバート)を握る隆々たる巨躯の黒服
が、蛮声を上げて怪物に突撃した。だが怪物の砲が、彼の全てを轟音と共に吹き飛ばす。
「う…うわ! うわああぁ!!!」
「引くな馬鹿! 俺達(アウトラウンド)に撤退が有ると思うな!!」
或いは恐怖に駆られ、或いは自身と周囲を鼓舞し、それでも彼らは憎悪に漲る怪物を包囲した。
「な……何だこいつは!!?」
弾き飛ばされてようやく立ち直ったナンバーズ―――デイビッド=ペッパーは、虐殺される部下を目の当たりにしながら愕然とした。
あの戦闘の機微が足らない他のサイボーグと一線を画す反応速度は、生身の人間とまるで大差無い。しかもまともな武器では、彼の纏う
コート一枚貫通させる事が出来ない。その上―――――、
「おおぉッ!!」
怪物の脚が雄叫びに合わせて宙に弧を描くや、上空から槍を突き立てようとしたアウトラウンドの頭が弾け飛んだ。
怪物の脚が雄叫びに合わせて宙に弧を描くや、上空から槍を突き立てようとしたアウトラウンドの頭が弾け飛んだ。
――――その上、あの巨躯で蹴りが使えるほど体の重心を把握している。この怪物は断じてウドの大木ではない、どころか
人の機動力を持つ重戦車だ。それとの戦闘を、誰が想定するだろう。
デイビッドの脳裏に、雷光の如く打開策が閃いた………が、彼はそれを却下した。
幾らそれしか思い付かないとは言え、黒猫(ブラックキャット)に頼りたくは無い。勿論嫌っているのは彼のみではなく、
此処に居るアウトラウンド達も口に出せば猛反対するだろう。
気に入らない理由は多々有れ、最大の理由は無論彼の背負う13の番号だ。誰もが其処を目指していると言うのに、あの男は
僅か三年で異才を理由に、急遽イレギュラーナンバーとして強引にナンバーズに捻じ込まれたのだ。
自分は十年待って、しかもNo10が道士に殺されたからその穴埋めとしてと言う、実にプライドの傷付く任命だったと言うのに。
「お前ら! 此処じゃ狭過ぎる、表に出るぞ!!!」
プライドと現状の狭間で、彼はトレインに助けを呼ぶ選択を捨てた。
かくして、怪物との絶望的な撤退戦が始まった。先刻まで何と言う事も無かった廊下が、今は長く、遠い。
「クズ共が……逃げられると思うなアァッッ!!!」
生き残ったアウトラウンドを連れて走るデイビッドの遥か後方から、怪物の死刑宣告が轟いた。
何人かは雷に打たれた様に竦み上がるが、流石に止まろうと言う者は一人も居ない。
「何で…何で怒ってんですか、あいつ!!?」
今までの連中は、ナンバーズの名前を出しただけで竦み上がり、時には許しを請うた。なのにあの怪物は烈火の如く怒り、
彼らの人的優勢を物ともしない。ばかりか圧倒してさえいる。
「知るか!! 兎に角外に出ろ!!!」
まずそれをしなければ始まらない。屋内ではなく開けた場所なら、戦闘も撤退も多少なりとも自由になる。
……と、突如壁に亀裂が走り―――破砕音と共に現れた怪物の手が部下の一人を捕まえる。
「いっ………嫌アァ――――ッ!!!」
「トゥーラ!!」「構うな! もう無理だ!!」
彼女の悲鳴を置き去りに、彼らはただひたすらに走り続ける。絶叫が性別をかなぐり捨てた辺りで、恐怖が更に色濃く押し寄せた。
階段に差し掛かる。誰もが半ば飛び降りる様に下り、一階まで実に十秒かけていない。
「見えた!!」
正面に、出口が開いていた。距離は二十メートル近いが、その間に障害は何一つ無い。彼らの脚力なら二秒フラットの近さだ。
だが先頭の部下が急ぐべく一歩を踏み出した瞬間、進行を遮る形で崩落が発生した。
「!?」
そして濛濛たる瓦礫と粉塵の向こうに、死の壁さながらの仰々しさで怪物が起き上がった。
人の機動力を持つ重戦車だ。それとの戦闘を、誰が想定するだろう。
デイビッドの脳裏に、雷光の如く打開策が閃いた………が、彼はそれを却下した。
幾らそれしか思い付かないとは言え、黒猫(ブラックキャット)に頼りたくは無い。勿論嫌っているのは彼のみではなく、
此処に居るアウトラウンド達も口に出せば猛反対するだろう。
気に入らない理由は多々有れ、最大の理由は無論彼の背負う13の番号だ。誰もが其処を目指していると言うのに、あの男は
僅か三年で異才を理由に、急遽イレギュラーナンバーとして強引にナンバーズに捻じ込まれたのだ。
自分は十年待って、しかもNo10が道士に殺されたからその穴埋めとしてと言う、実にプライドの傷付く任命だったと言うのに。
「お前ら! 此処じゃ狭過ぎる、表に出るぞ!!!」
プライドと現状の狭間で、彼はトレインに助けを呼ぶ選択を捨てた。
かくして、怪物との絶望的な撤退戦が始まった。先刻まで何と言う事も無かった廊下が、今は長く、遠い。
「クズ共が……逃げられると思うなアァッッ!!!」
生き残ったアウトラウンドを連れて走るデイビッドの遥か後方から、怪物の死刑宣告が轟いた。
何人かは雷に打たれた様に竦み上がるが、流石に止まろうと言う者は一人も居ない。
「何で…何で怒ってんですか、あいつ!!?」
今までの連中は、ナンバーズの名前を出しただけで竦み上がり、時には許しを請うた。なのにあの怪物は烈火の如く怒り、
彼らの人的優勢を物ともしない。ばかりか圧倒してさえいる。
「知るか!! 兎に角外に出ろ!!!」
まずそれをしなければ始まらない。屋内ではなく開けた場所なら、戦闘も撤退も多少なりとも自由になる。
……と、突如壁に亀裂が走り―――破砕音と共に現れた怪物の手が部下の一人を捕まえる。
「いっ………嫌アァ――――ッ!!!」
「トゥーラ!!」「構うな! もう無理だ!!」
彼女の悲鳴を置き去りに、彼らはただひたすらに走り続ける。絶叫が性別をかなぐり捨てた辺りで、恐怖が更に色濃く押し寄せた。
階段に差し掛かる。誰もが半ば飛び降りる様に下り、一階まで実に十秒かけていない。
「見えた!!」
正面に、出口が開いていた。距離は二十メートル近いが、その間に障害は何一つ無い。彼らの脚力なら二秒フラットの近さだ。
だが先頭の部下が急ぐべく一歩を踏み出した瞬間、進行を遮る形で崩落が発生した。
「!?」
そして濛濛たる瓦礫と粉塵の向こうに、死の壁さながらの仰々しさで怪物が起き上がった。
蒼褪めてもこれ以外の退路は無い、かといって背を向けて階段を上る訳にも行かない。となると、
「………おい、飛び道具持ってる奴は何人だ?」
「三……いえ、四人です」
歯噛みするデイビッドの小声に、訊かれた部下も小声で返す。
「それ以外は?」
「五人…ですね」
正直両方ゼロがもう一つ欲しい所だが、無い物ねだりをしても仕方ない。怪物の前髪の奥から迫る憎悪を受けながら、いよいよ腹を据える。
「時間が無え、良く聞け。
まず撃てる奴は、合図と同時にあるだけ撃ちまくれ。少しでもひるんだら、後は全員であいつを叩く。いいな?」
然るに彼らも覚悟を決める……と言うより、この状況で彼らの思い付く策の限界だった。
「……ッてぇ―――ッッ!!」
隊長の指示に違わず、矢が、銃弾が、怪物の全身を火花と金属音で飾る。しかし怪物は、別に仔細無く空いた腕で頭部のみを守り、
そして砲も、何事も無いかの如くゆるゆると彼らを無情に見据えた。
「デ……デイビッドさん! 駄目です、全然効きま………!!!」
半分泣きそうな声でデイビッドに目をやった彼が見た物は―――、大急ぎで一人階段を駆け上がる彼だった。
……彼の策はもう少し先を行っていた。つまり、『部下を足止めに逃げ切る』が彼の狙いだったのだ。
「そ………そんなぁ! デイビッドさん!!!」
後に続こうとしたがもう遅い。当然今撃っている連中も、突っ掛けようとした者も、すでに一手誤った。
――――――それでなくとも、彼らはその砲が連射出来る事さえ知らない。
「………おい、飛び道具持ってる奴は何人だ?」
「三……いえ、四人です」
歯噛みするデイビッドの小声に、訊かれた部下も小声で返す。
「それ以外は?」
「五人…ですね」
正直両方ゼロがもう一つ欲しい所だが、無い物ねだりをしても仕方ない。怪物の前髪の奥から迫る憎悪を受けながら、いよいよ腹を据える。
「時間が無え、良く聞け。
まず撃てる奴は、合図と同時にあるだけ撃ちまくれ。少しでもひるんだら、後は全員であいつを叩く。いいな?」
然るに彼らも覚悟を決める……と言うより、この状況で彼らの思い付く策の限界だった。
「……ッてぇ―――ッッ!!」
隊長の指示に違わず、矢が、銃弾が、怪物の全身を火花と金属音で飾る。しかし怪物は、別に仔細無く空いた腕で頭部のみを守り、
そして砲も、何事も無いかの如くゆるゆると彼らを無情に見据えた。
「デ……デイビッドさん! 駄目です、全然効きま………!!!」
半分泣きそうな声でデイビッドに目をやった彼が見た物は―――、大急ぎで一人階段を駆け上がる彼だった。
……彼の策はもう少し先を行っていた。つまり、『部下を足止めに逃げ切る』が彼の狙いだったのだ。
「そ………そんなぁ! デイビッドさん!!!」
後に続こうとしたがもう遅い。当然今撃っている連中も、突っ掛けようとした者も、すでに一手誤った。
――――――それでなくとも、彼らはその砲が連射出来る事さえ知らない。
砲声と絶叫の混声合唱を聞きながら、部下を捨てた気まずさと命を拾った安堵を胸にデイビッドは階段を駆け上がる。
良く考えれば、二階から飛び降りても良かった。落ちる衝撃もパラシュート以下なのだから、よもや転落死をするほど不器用は居まい。
しかしその判断を誤って候補生を死なせたのだから、間違い無く処罰は免れない。
〝違う……俺の所為じゃ無い。仕方なかったんだ〟
〝俺はそもそも、ナンバーズとしては新米だってのに…〟
〝いきなりこんなヤバい仕事任されたから……そうだ! 俺は悪くない!!!〟
無理に自分を弁護しながら走る足を納得させ、体は廊下の突き当たりにある窓に向かっていた。
わざわざ空ける暇も惜しい、なので両手のロッドを振り上げながら一直線に走り出す。
「うおおおおぉぉお!!!」
〝それ〟が先刻の怪物への行動ならまだ評価出来たのだが、生憎それは単なる窓ガラスに過ぎない。
甲高い破砕音と共に、流星雨の如きガラス片。それに続いて黒服の男が窓の外へと飛び出した。
―――――やった。
怪物は、馬鹿正直に階段を駆け上がり追い駆けて来ている筈だ。事実中空から見て何処にも見えない。
確かに懲罰と査問は免れないだろうが、それでも命を拾っただけ良しとせねばならない。
良く考えれば、二階から飛び降りても良かった。落ちる衝撃もパラシュート以下なのだから、よもや転落死をするほど不器用は居まい。
しかしその判断を誤って候補生を死なせたのだから、間違い無く処罰は免れない。
〝違う……俺の所為じゃ無い。仕方なかったんだ〟
〝俺はそもそも、ナンバーズとしては新米だってのに…〟
〝いきなりこんなヤバい仕事任されたから……そうだ! 俺は悪くない!!!〟
無理に自分を弁護しながら走る足を納得させ、体は廊下の突き当たりにある窓に向かっていた。
わざわざ空ける暇も惜しい、なので両手のロッドを振り上げながら一直線に走り出す。
「うおおおおぉぉお!!!」
〝それ〟が先刻の怪物への行動ならまだ評価出来たのだが、生憎それは単なる窓ガラスに過ぎない。
甲高い破砕音と共に、流星雨の如きガラス片。それに続いて黒服の男が窓の外へと飛び出した。
―――――やった。
怪物は、馬鹿正直に階段を駆け上がり追い駆けて来ている筈だ。事実中空から見て何処にも見えない。
確かに懲罰と査問は免れないだろうが、それでも命を拾っただけ良しとせねばならない。
……しかし彼は、今し方生け贄にしたアウトラウンドの面々の様に知らない。
虐殺を終えて一歩も動かない怪物の砲口と各種センサーが、全遮蔽物越しにずっと追尾している事など。
そして、随分前から完全にロックオンされていた事など。
尤も、気付いた所で空中の彼には手遅れだが。
虐殺を終えて一歩も動かない怪物の砲口と各種センサーが、全遮蔽物越しにずっと追尾している事など。
そして、随分前から完全にロックオンされていた事など。
尤も、気付いた所で空中の彼には手遅れだが。
……そんな彼の愚考は、どれ一つ気付く事無く途切れた。
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