あるところに、貴族のコジローという男がいました。両親が結婚を促すので候補を三人ほどあげました。
一人はあどけなさが残る、コジローと同じ貴族の娘でした。
一人はなんだか豪快な、とんでもない大富豪の令嬢でした。
もう一人は普段コジローの身のお世話をしている娘でした。
この三人は皆、コジローのことを好いていました。
コジローは問います。
「三人とも俺のこと好きって言ってくれてるけど、どれくらい好きなんだ?」

貴族の娘は答えました。
「…私の家にある物、ぜんぶ合わせても、とどきません。」
コジローは嬉しくなりました。
大富豪の娘も言いました。
「なんの、あたしんちのお金ぜーんぶで買えるもの合わせてもとどかないくらいですよ。」
コジローはまたまた嬉しくなりました。
すこし遅れて、お手伝いの娘も言いました。
「…えと、お肉に振る、塩つぶくらい大切な存在っすかね…」
コジローは前二人と比べ、目で見ても分かるくらい拍子抜けしてガッカリしてしまいました。

その日の夕食の時間です。コジローがこのお手伝いさんを嫁の候補にいれたのは、彼がなによりもこだわりを見せている「食」について、完璧な存在だったからです。
その日はステーキでした。
「召し上がれ~っ」
一口食べた瞬間、変な感じがしました。噛めば噛むほどその違和感は強まり、ついには食べれないと判断してしまいました。
「な、なんだこの肉…腐ってやがんのか…?いつものと味が全然違うぞ…」
娘はゆっくりと答えました。
「…実は今日のお肉、塩を振らなかったの。」

コジローは肉にとっての塩がどれだけ大切な存在で、同時にこの娘が自分をどれだけ大切に思ってくれていたのかがわかり感動し、この娘を嫁に迎えることに決めました。


…よく寝た…。変な夢だった…。しかし嫁候補三人ともどこかで見たことある顔してたんだが…。
……ちくしょー、思いだせんっ。

自宅を出発し、朝練のために道場に着くと自分より先に到着している少女がいた。
コジローはあいさつとともに、何気なく聞いてみた。
「おまえにとって俺ってどれくらいの存在だ?」
少女が少し考えてゆっくりと答えた。
「えと、練習してかいた汗が乾いて胴着に付く塩つぶくらい大切っすかね。」

…こいつにとってはそんなもんが大切なのか??
そうは思ったものの、同時になぜか夢で見たお手伝いの娘がどんな顔だったか、思い返していた。
最終更新:2008年07月14日 12:00