「宮崎、TVに出るってマジ……ってこわっ! 何イライラしてんだよ?」 
 珍しく考え事をしていたミヤミヤは、馴れ馴れしく話しかけてくる男子生徒をギロっとにらんだ。
「なんだ、矢野かよ。……同じクラスなんだからタマちゃんに聞けば?」
 つっけんどんに答えかえすと、何故か矢野は恥ずかしそうにボソボソと喋った。
「いや、だってタマちゃんは……その……」
「ああ、あんた。例の一件以来ベタボレだったっけ。アタシはどうでもいいけど」
「そ、そんなあ。頼むよ、宮崎。協力してくれよ! この通り!」
「悪いけどさ」
 ミヤミヤはため息をつき、「あたし、それどころじゃないんだよね」
 そういって、彼女は教室をあとにした。
 
「あら? そんな顔してちゃ綺麗な顔が台無しだよ」
 お食事処・やませの女主人、山瀬 百合子はミヤミヤの顔を覗き込みながら彼女をからかう。
 姉が出張で料理を作る必要がない、そんなときは決まって必ずこの定食屋にミヤミヤは顔を出す。
室江高校の近くにあるこの定食屋は、うまい料理を安値で提供するという学生の味方だ。
「ちょっと、ウチの剣道部のモヤモヤしてる恋愛関係にムカムカしちゃって」
 やませの定食を食べながら、ミヤミヤは思っていたことをはっきりと口に出した。
「あらー、青春だねえ」
「もう、あたしとダン君みたいにはっきりくっついちゃえばいいのに!」
「まあ、人は人だよ」
 具体的なことは言わないが、ミヤミヤはこうして時々彼女に愚痴をこぼす。
そのとき、定食屋に「すいませーん」と間抜けな声がひびき、
ミヤミヤのよく知る人物がやってきた。
「お、スペシャル定食残ってそうだな」
「いらっしゃい! あら、コジロー先生じゃないですか」
 その顔を見た途端、ミヤミヤはおもむろに席からたちあがった。
そして、すごい剣幕でコジローをにらみつける。
「ミ、ミヤミヤか。いったい、どうしたんだよ。そんなにらんで」
「先生」
「はい?」
「先生は、ここじゃなくてそうざい屋ちばでコロッケでも買ってくるべきです」
「な、何言ってるんだ?」
「いいからとっとと惣菜屋に行く!」
「は、はい!」
 勢いに押されて何がなんだかわからないといった顔のまま、コジローは定食屋から追い出されてしまった。
「ああー、あれがイライラの元なのね」
「ええ……まあ」
 ミヤミヤが落ち着いて席に座りなおすと、再び扉が開いて今度はキリノが姿を見せた。
「すいませーん。スペシャル定……ひいっ!」
 猛禽類のような眼光で、ミヤミヤはキリノをにらみつける。
「先輩。コジロー先生が今日はそうざい屋で買い物するって言ってました」
「そ、そうなの。ミヤミヤ? あ、じゃあアタシ早く、か、帰るね~」
 キリノは、ビクビクしながら定食屋から出て行った。
「あのー、営業妨害なんだけど……。でも、なんかイライラの原因がわかったかな?」 
「人の恋路なんですけどね。もう、鈍くて鈍くてイライラするんです。あのバカップルは……」

 くしゅん!と同時に2人の男女がどこかでくしゃみをした。

「すいませーん。スペシャル定食を」
 ユージが定食屋の扉を開けた途端、ミヤミヤが目の前に立ちはだかった。
「あれ? ミヤミ」
「お前は川添道場にでもいけぇー!」

 その後「もうヤダ、小学生の初恋かよウチの部は」と独り言をいいながら、
ミヤミヤはダンの家に向かいましたとさ。
最終更新:2008年09月22日 21:09