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「大変です! ヴァンプ様!」
「もー、いったい朝から何の騒ぎ?」
 戦闘員2号の叫び声を聞き、ヴァンプは鍋の火を止めてから玄関へと向かった。
「まったく……あ、大変! 女の子が倒れてるじゃないの」
 ヴァンプが道路を見ると、高校生の女の子が道に倒れていた。
「はい、今、自動車が女の子の自転車にぶつかって逃げていきました」
「当て逃げ? 本当に近頃どうなってるんだか……ちょっと、大丈夫ですか?」
 ヴァンプは女の子を助け起こす。気を失っているだけで外傷はないようだ。
「とりあえず、救急車か本部の医療班を呼ぼうか?」
「わかりましたヴァンプ様。あ、気がつきましたよ」
「う、ううん……あれ? ここは」
「気がついた? あなた、自動車にはねられて倒れてたの。
女の子だから、顔とかに傷がなくてよかったけど、脳とかに損傷があるといけないから
あとで病院にいったほうがいいよ」
「え、はい。ありがとうございます。あの、お名前を」
「あ、わたしはヴァンプ。悪の組織をやってます」
「悪の組織ですか?」
 タマちゃんが聞いたら喜びそうだな、と女の子は思った。
「私はキリノ、千葉キリノです」
「そう、キリノちゃん。おうちは近くなの?ゲイラスくんで送ろうか?」
「(ゲイラスくん……?)いえ、家はちょっと遠いので大丈夫です。
今日は川崎のスーパーにチョコの材料を買いに来ただけで……」
 キリノがふと、横を見ると車にひかれてスーパーの袋がぐしゃぐしゃになっていた。
中には、川崎のデパートで買った高級チョコが入っていたが、それもボロボロだ。
「ひどい、チョコがボロボロだ……」
 キリノがため息を吐く。
「あら。ヴァレンタイン用のチョコ?そっか、キリノちゃん好きな男の子がいるのね」
「え、いえ?うーん、男の人だけど男の子って年じゃないかな~あ、いや、その」
 ヴァンプの何気ない一言にひどく動揺するキリノ。
「でも、これじゃ渡せないです」
「う~ん、そうだ! だったら、手作りにしたら?ウチにちょうどチョコがあるから」
「え、いいんですか?そこまでお世話には……」
「いいの、いいの。女の子にとっての一大イベントだものね~。
そうだ、どうせなら女性がいたほうがいいし、かよ子さんも呼ぼうか。1号くん、かよ子さんに電話してくれる」
「あ、はい。わかりました」
 親切な人たちだなあ、と思いながらキリノは悪の総本山へと足を踏み入れるのであった。



「へえ、キリノちゃんは先生にチョコあげるんだ」
「あ、はい。いつもお世話になってるから。あ、義理チョコっすよ。義理」
 台所では、ニコニコと笑いながらキリノとかよ子がチョコ作りを続けていた。
「その人、かっこいい?」
「はい。毎日すごく頑張ってかっこいい先生なんです」
「うーん、毎日頑張ってるなんてうちの人と大違いね~」
「かよ子さんって、結婚してるんですか?」
「ううん、同棲してるだけよ」
 かよ子が笑いながら否定する。
「まあ、あの人はどう思ってるんだかね」
「レッドさんは、かよ子さんが大切だから一歩踏み出せないんですよ、きっと」
 ヴァンプがチョコを冷蔵庫に入れながら、話題に口を挟んだ。
「そうかしらねえ。まったく、少しはヴァンプさんを見習って欲しいわ」
 かよ子が呆れたように頬を押さえる。人には色々あるんだな、とキリノは思った。
「ヴァンプ様、ヴァンプ様! 僕たちもチョコレート食べたい!」
 そんなとき、可愛い声を響かせて、ウサギの形をした怪人が台所に飛び込んできた。
頭にはリボンをつけている。まるで、ぬいぐるみのようだ。
「うわあ、可愛いウサちゃん。タマちゃんが言ってたウサ太郎みたい」
「タマちゃん……? お姉ちゃん、タマちゃんのお友だち?」
 ウサギの怪人が、キリノに駆け寄ってくる。
「うん、あれ? ウサギさん、タマちゃん知ってるの?」
「え! あ、えーと。なんでもないよ!」
 タマちゃんのことを聞き返すと、なぜかウサギはあわてふためいて台所から出て行った。
「なんだったんだろう」
「最近、変なんだよねウサコッツ。あ、あの子ウサコッツっていうんだけど。
今まで、可愛いって言われると怒ってたのに、ほら、ああいうリボンつけてるでしょ?
成長期なのかなあ。子供の成長って早いよねえ」
 ヴァンプが感慨深げにつぶやいた。
「さて、チョコがかたまるまでお茶にしません?」
「いいわね。ヴァンプさん、どうせならみなさんも一緒で」
「うん、じゃあ今支部にいる子全員に声かけるね」
 こうして、キリノは悪の組織の歓談に加わるのであった!



「じゃあ、その先生。結果を出さないとクビになっちゃうの」
「はい、そうなんです」
 お茶を啜りながら、ヴァンプがぷんぷんと怒る。
「ひどい話だねえ、キリノちゃん。何かあったら力になるからいつでも言ってね」
「ヴァンプ様、そのババア呪い殺しましょうよ!」
 ミイラのような怪人が、キリノの話を聞いて叫んだ。
「みなさん、ありがとうございます。でも大丈夫です。あたしたちは、絶対結果を残しますから」
 キリノが勢いよく答える。
「ふふふ、若いっていいねえ。あ、ゲイラスくんチョコ固まったか見てきてくれる?」
「あ、さっき見たら固まってました」
「そう? ありがとう。じゃあ、キリノちゃん包もうか」
「あ、はい」

「すっかりお世話になっちゃって、本当にありがとうございました」
「いいの、いいの。困ったときは助け合わないとね。あ、ちゃんと病院もいかなきゃダメだよ」
「はい、チョコを家に置いたら行くつもりです」
「自転車はウチで直しておくから。あとでとりにくればいいからね」
「何から何まですみません」
 チョコを作り終えたキリノは、玄関でヴァンプたちと談笑していた。
「それじゃ、私が駅まで送っていきますね」
「ごめんね、かよ子さん。このあと、私たちレッドさんと対決があるからって
キリノちゃんのことお願いしちゃって」
「いえ、とんでもない。じゃあ、ご馳走様でした」
「またきてね、キリノちゃん」
 ヴァンプたちが手を振ってキリノを見送る。最初は怪人がいて少し驚いたけど
とてもいい人たちばかりだった、とキリノは彼らの姿を振り返ってから思った。
 
きっとあの人たちは正義の味方なんだろうな。

「先生、今日は何の日かわかりますか?」
 翌日。職員室にやってきたキリノは、コジローにそっと耳打ちした。
「ん、どうしたキリノ?」
 期末テストの作成に追われていたコジローは、キリノの言葉に気がつかなかったらしい。
「今日、なんかあったか」
 周りで教員たちのため息が聞こえる。
「はい、これっス」
 キリノはそっとチョコを差し出す。チョコはかわいらしい包み紙に包まれていて、
そこには「コジローせんせいへ」と書かれたメッセージカードが挟まれていた。
「ああ、ヴァレンタインだったか。ありがとなキリノ。義理でもうれしいぜ」
 周りの教員たちは、その言葉を聞いてさらに深いため息を吐いた。
その様子を職員室の外からのぞいていたキリノの親友たちもため息を吐いた。
「え、あははは。そうっス、義理っすよー」
「開けてみていいか? お、なんか手作り風だな」
「え、まだってもう開けてるし。手作り風じゃなくて手作りっす」
「そうなのか? 義理なのに悪いな」
 キリノの友人は、殴りかかりたい衝動をこらえていた。
「ところでキリノ。お前、昨日当て逃げされたらしいが大丈夫か?」
「え! どこで聞いたんですか」
「ん、ああ。なんか変なイカが飛んできて教えてくれたんだ」
「イカですか」
「ああ。とにかくどこも異常はないみたいでよかったよ。しかし、あのイカなんだったんだろうな……」
「きっと正義のイカなんじゃないっすかな?」
「正義のイカ? まあ、そうかもしれないな」
 こうして、2人の男女が悪の組織に洗脳された。
がんばれサンレッド。敵は着実に市民を洗脳している。戦え、サンレッド!
川崎と室江高校の平和は、君の手にたくされた!




おわり