双剣剣士来たる
晴れた日の事務舎には、いつもとは違うように
ヴィルエッジの姿があった。
事務舎にただ一人、椅子にすわりながら自ら持参したミネラルウォーターを口にしながら窓から映し出される風景を見上げていた。
フウキンは
第七回WBRの決勝の為に基地から離れている。
臨時休暇の時には既に決勝が始まっており、スタートダッシュに乗り遅れてしまったフウキンは日付が変わると直ちに基地を離れて戦いの地へと去っていった。
ヴィルエッジも近々出番が来ることはわかっているが、何の成り行きかはわからないのに偶々この基地に足を運んでいた。
いつもはフウキンと共にこの基地にいる事が多いが、今は第七回WBRの風騎軍代表に選ばれているフウキンがいないため、珍しい光景でもあった。
そういえばこの基地は私とフウキンさんとオーナーしか存在を知らない…とヴィルエッジは思った。
だが、しばらくしてこの基地に新たな訪問者が訪れた。
突如扉の方からノックの音が流れた。ヴィルエッジは扉に視線を向けながら椅子から立ち上がって扉へと向かった。
先の通り、この基地を知っているのはヴィルエッジとフウキンとオーナーのみ。まさか決勝中にフウキンが戻ってくるのはありえないし、オーナーは滅多に顔を出さないらしいのでこれもありえない。
ヴィルエッジが扉の前に立つ。少し間をおくと再度のノック音の後に、
「……誰もいないのか?」
と扉の向こうで誰かが言った。しかし、ヴィルエッジには聞いた事のある声だった。
その後、ヴィルエッジは何のためらいも無く、鍵を開けて扉を開けた。
そこには両腰に剣を一本ずつ差したヴィルエッジより背が低い、10代後半の青年がいた。
「……
ディルオン?」
ヴィルエッジが言うと、
「……ヴィル?」
ディルオンと呼ばれた青年が言い返した。
フウキンの野望
その後、事務舎にはヴィルエッジとディルオンが互いに向かい合って椅子に座っている。
「いや、まさかディルオンがここに来るとは私も想像していませんでしたよ」
「じゃあ何でこんな何もない所にそびえ立っている小屋にヴィルがいるんだよ!」
ディルオンが少し怒りながら言い返す。確かにディルオンにとってわからない事だらけなのは確実だった。
「…そうですね、真相を教えましょうか」
ヴィルエッジは何故ディルオンがここに来た理由を問おうと思ったがあえて問わずにディルオンにこの基地の経歴を答えた。
ヴィルエッジが言うには、フウキンがある日唐突に自分の基地を作りたいと言った。オーナーには既に承認を取っておりこの事務舎を与えてくれたこと。
そしてフウキンは何かと独りでやっていくのは寂しいという理由で風騎軍のリーダー格であるヴィルエッジを誘ったということ。
ヴィルエッジは最初は嫌味を指していたが、フウキンの説得によって渋々引き受けたという事である。
「で、今はフウキンって人の代わりに留守番をしているのか」
「いえ…たまたま此処にいたくなりましてね…此処は平和ですよ」
「いや平和というか……この小屋だけしか建ってないなんて基地と呼べるわけないだろ!」
ディルオンが猛った様な声で言った。ヴィルエッジにとっては普段はクールだが、こんなに感情をむき出しにしたディルオンを見るのは珍しい事である。
「まぁ、現状ではそうですが……バトロイで成績を収める事によって褒賞をくれるようですよ」
「そうか…俺はこんな殺風景な場所が嫌いなんだが…」
「そうですね…長くいると退屈ですし帰りましょうか」
ヴィルエッジが椅子から立つとディルオンも続けて椅子から立ち上がった。
ヴィルエッジとディルオンが事務舎から出るとヴィルエッジは事務舎に鍵をかけた。
「ちなみにディルオンはどうやってここに来たのです?」
ヴィルエッジが質問をした。
「それが…自分の部屋に入ろうとしたらここに飛ばされて…」
機嫌を悪くしながらディルオンが返答をする。
ヴィルエッジは少し俯いて右手人差し指で眼鏡のブリッジを押してため息をついた後、
「またあの人の仕業か……やれやれ」
最終更新:2010年08月29日 18:39