フウキンのお世辞録 > 第5回

いや、確かに気になるんだが

 夜の事務舎のリビングでは、ヴィルエッジが椅子に座って持参した本を読んでいる。
 しばらく経つと遠くから扉を開ける音が聞こえた。恐らく浴場からである。
 ヴィルエッジが浴場に続く廊下に目を向けるとそこにはいつもの姿に首からバスタオルを巻いたフウキンの姿があった。
 「いやはや、いい湯加減でさっぱりしましたなぁ」
 とフウキンがぼやいた。
 ヴィルエッジは一体どうやって風呂に入っているのか気になったが、やがて呆れていった。

拳のみ信じる格闘家と雷弓術士来たる
 それから次の日。
 「なぬっ!?ディルオン殿がここに来たと!?」
 「ええ、フウキンさんが第七回WBRに出場して留守の合間に。その時は私もいましたがね」
 「そうでありましたか…どうやって?」
 「自分の部屋に入ろうとしたら飛ばされた、との事ですよ」
 「いや、あの場所に飛ばされるとは私も想定外だったので…」
 「と…なるとあの二人も来そうな気が…」
 ヴィルエッジの予感は見事に的中した。ドアチャイムの音が二人のいるリビングに鳴り渡った。
 「おや、どちら様ですかな?まさかディルオン殿?」
 フウキンの問いに、ヴィルエッジは玄関に向かいながら
 「多分、私の友人だと思いますよ」
 そう答えた。

 事務舎の扉の前には、20代後半の男女二人の姿があった。
 「こんな所に家が一軒だけなんて、ディルオンが言っていた事は本当なんだな」
 男性が言う。
 「結構立派な家なのに、周りが荒れ果ててちゃ目立ちますね」
 女性が言うと、鍵が開く音がして扉が開いた。扉の中から男が顔を出す。
 「アルツ?……それにイルシア?」
 扉の中の男の声に、
 「ヴィル殿?」
 「ヴィルさん?」
 アルツと呼ばれた男性とイルシアと呼ばれた女性が同時に声を発した。

フウキンの基地へようこそ

 アルツとイルシアは事務舎の中に上がっていた。
 「ディルオンから話は聞きました。ヴィルさん達がここにいる事は」
 イルシアがここに来た経緯を簡素に教えた。
 「そうでしたか、ようこそ。我が基地へ、まぁゆっくりくつろいでくださいな」
 フウキンが言った。
 「き、基地…?」
 アルツが疑問を発した。
 「ええ、基地ですぞ。今はここしかありませんが」
 疑問にフウキンが答える。
 「すいませんねアルツ。フウキンさんは決して頭がおかしいわけではありませんので」
 「そ、それは失礼ですぞヴィルエッジ殿!」
 ヴィルエッジとフウキンの小漫才にアルツとイルシアは、
 「仲良さそうだな、あの二人」
 「ふふ、愉快な事ですね」

第二の施設

 「そういえばイルシア殿は、前にD-BR杯2連覇を達成した様ですな?」
 「ふふ、ありがとうございます」
 「実はその活躍に応えてオーナーから褒賞が届けられる事になりましたぞ!」
 「褒賞…とは?」
 アルツの質問に、
 「あぁ、我ら風騎軍の活躍に応じてオーナーから褒賞が送られ、基地を拡大していくとの事です」
 ヴィルエッジが答える。
 「今回は一つ好きなものを選んで良いとの事ですぞ」
 「何でもいいのですか?」
 ヴィルエッジが言った。
 「ええ、何でもいいですぞ。じゃあ今回は…」
 「では今回はイルシアが決めればいいんじゃないですか?」
 フウキンの発言の途中にヴィルエッジが割り込んだ。
 「えっ…」
 「まぁ、今回はイルシアが活躍した事ですし」
 「あら、いいんですか?」
 イルシアが少し喜んでいる中、フウキンは少し呆然としていた。

 イルシアが頼んだ褒賞、小規模なアーチェリー場は数日後に設置された。
 イルシアは最初は冗談で言っていたが、設置された時には喜んで弓術の練習をしていた。
 その陰でフウキンは、自分の望みが叶えられなかった愚痴をアルツにこぼしていた。

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最終更新:2010年09月08日 19:35
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