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復讐者と殺害者<一日目:夕刻前~夕刻>


 一人の男と一人の女。バードとグラリス。
 けれども、そこに在るのはロマンスではなく交わされる鋭い視線だった。
 水平に構えられた大柄のボウガンが、互いに互いの急所を狙っている。
 落日は近い。遠く血の匂いがした。死が近く感じられる。そんな状況。
 口を開いたのは、詩人だった。言いつつも片手で羽帽子を正す。

「血の匂いってのは消えないものでゲスねぇ。アンタ、一体何人殺してきた」
 グラリスは、その言葉に眉一つ動かさない。詩人は言葉を続ける。

「答えない。堪えない。けれど応えるのは、貴女が手にした連弩って訳ですかぃ、アイアン・メイデン。
 まぁ、それでもいいでしょうさ。ですが俺っちはそうムザムザと殺されはしませんぜ?
 むしろこっちから御首(みしるし)を頂戴する勢いでさ」
 それはそうだろう。とグラリスは思う。
 軽い口調。おどけた表情。けれど、死神というのは道化の面を被って描かれる事もある。
 ぎゅっ、と連弩のグリップを握り締めると彼女は口元を吊り上げた。殺気に当てられて、汗が浮かぶ。

「お喋りな男は嫌いよ」
「そりゃすみませんねぇ。ですが、いいじゃないですかぃ。
 挽歌も無い最後、ってのは流石に風情に欠ける」
 男は口笛を吹く。ひゅるるる、ひゅる、と何処か哀しげな曲が響く。
 はて。グラリスは思う。確か、この曲は聞いた事がある。
 その音階を保ったまま詩人は朗々、歌いだす。

「狂っちまったこの世界の中で、しかして捨て得ぬ力を得よう♪
 終わっちまった世界の全て。覚える人も居なければ、語る者も居ないけど。
 出合った時から別れは決まり、けれど記憶は消えなくて。
 だから僕はこの詩を続けよう。この全てが曲った戦場で♪」
「懐かしいわね。大分アレンジは入ってるけれど確か、その曲は──」
「ええ。お察しの通りで。昔ね、街に来てた流れの詩人──俺っちの心の師匠に教えてもらったんでさ」
 皮肉げに、詩人は口元をゆがめた。女は、その曲をまだ少女の頃聞いた事があった。
 勇敢な男に哀しい娘に賢い賢者に気高い騎士に豪胆な聖職者。歌うかの詩人は悲しげに。

 ──けれど、そんな綺麗に彩られた英雄なんてこの戦場には一人もいないわ。
 グラリスは思う。

 哀しげな曲調に似合わぬ虚ろな嘲笑。哀悼の歌か、それとも内の空しさを写す鏡か。
 軽薄そうに見える詩人が同じ記憶を共有している事を知って、彼女の瞳は少し揺れた。

「あの人みたいにゃ俺はなれないから。ま、ここで大人しく討たれちゃくれませんか、アイアン・メイデン?」
「お生憎。私も、まだ死ねないのよ」
「…それじゃ膠着じゃないでゲスか。それとも、本当は殺したくないんで?そいつは偽善ですぜ」
「それは貴方でしょう?それに、ここに居る人で本当に殺し合いをしたい人なんて一握りだと思うわ」
 私は、もう殺してしまったのだけれど。その言葉を彼女は飲み込んだ。
 ぴゅう、とまた詩人が口笛を吹く。見えない鎖を、死神が手繰り寄せる。
 ちゃらっ、とその鎖の音が鳴ったのが合図だった。

 ばしゅっ。とかかっかかかかっ。
 矢を放ったのはほぼ同時。バリスタの矢がグラリスの肩を掠め、ぎゃりんっと金属が擦れる音が響く。
 連弩は、一撃目の他は衝撃で照準がずれてあらぬ方向に飛んでいって木に突き立つ。
 引くか、それとも進むか。一瞬脳裏に選択肢が閃いて、グラリスは進む事を選んだ。

 バリスタの弦は、連射するには余りに硬い──!!
 顔を防ぐ様に翳した剣には茜を帯びた鈍い光。それは血を洗い落とした彼女の服にも似ていて。
 だが、それは油断。男の手前まで迫った所で、岩塊で胸を殴られた様な衝撃が彼女の脇腹を襲った。
 バリスタの二射目は着込んだメイルに半分程も突き刺さっていて。
 熱く、鈍い痛み。痛い。痛い。それは、真っ赤に焼けた火掻き棒を無理矢理突き刺したみたいだった。
 けれど──

「っああああぁぁあーーーっ!!」
「が…ぁっ!!?」
 肺を握りつぶしたような絶叫。連弩を投げ出して、女はありったけの意思で振り上げた剣を両手で握った。
 飛び退くには遥かに時間が足らない。初めて詩人の顔から笑みが消える。
 バリスタの太い銃身に、どかっ、と薪を叩き割る様な音と共に、半ばまでバスタードソードが切り抜いてきた。
 もし、極普通のボウガンであれば、諸共真っ二つにされていたかもしれないぐらいに、その一撃は鋭い。
 バードは目を見開く。何故なら、鞄に突っ込まれたグラリスの片手が、刃を握っているような錯覚を覚えたので。

「うぉあっ!!?」
 果たして。彼のその直感は的中していた。バスタードソードから離された片方の手にはカタール。
 槍みたいに腰溜めに突き出されたそれが、寸前で翳されたバリスタに刺さった。
 バリッ、という音。盾にしていた彼の得物が、ついに衝撃に耐えられなくなって軋んだ音だ。
 執念に煌々と輝く目が、詩人を見ていた。しかし、一瞬の後にそれが痛みに揺らぎ、彼女の体がびくんと震える。

「ちっ…反則ですぜグラリスさん!!」
 なぜならば詩人は。一瞬の隙にグラリスから重心をずらしたかと思うと彼女に刺さった矢を更に深く抉りこんでいた。
 か、はっ、と短い呻きをカプラ職員は洩らす。

 飛びずさって彼は、投げ出されていた連弩に飛びつく。遅れてグラリスも地を蹴った。
 けれども、彼が再装填して矢を放つよりも。恐らくグラリスの一閃の方が遥かに早かろう、と彼は判断していた。
 何より彼女は手強い。今、ここで必要以上に消耗するのは彼にとって好ましくなかった。

「待てぇっ!!」
 女が叫ぶが、脱兎の如く駆け出した男はその言葉を聴きもしない。
 あっ、と言う間に木立の中に消え行く。だが。追う事は出来ない。
 彼女は剣を杖にしながらその場に膝を付き、腰を下ろさざるを得なかった。

 突き刺さった矢が今にも気を失ってしまいそうな痛みを彼女に与え続けていたので。


 それから少しして──夕暮れ時の風が吹き始めた頃。
 はぁ、はぁ、はぁっ。荒い女の息が草の細波の音に唱和していた。
 何故なら。グラリスは鎧を脱いで上着を脱ぐと、口に鞄の上蓋を咥え、彼女は自らカタールの切っ先を傷口に当てていたので。

 鏃、抜かないと…

 その為、であった。普通ならば無理矢理に抜いた後で、ヒールでも掛ければよいのだろうが、彼女はそうもいかない。
 実に恐ろしい事に。自らの傷口をカタールで僅かに切開した彼女は、それからゆっくりと突き立った矢を引き抜いた。
 くぐもった苦悶の声が、幽かに夕暮れ時に響く。
 それから、体の中に入っていた異物を取り除き終えて、グラリスは息を吐いた。
 水筒を開けて傷口を一旦洗うと、びっ、と前掛けを千切って傷口に巻きつけた。
 途端、じわっと赤い色が即席の包帯に広がる。引き抜いた矢には、彼女自身のものだろう肉片がくっ付いていた。
 気が狂いそうな痛みだった。涙も流れたかもしれない。だが、とりあえずは一番危険な因子は取り除いた。
 (体内に鏃を残しておけば内臓を傷つけるかもしれないし、毒が塗ってあるかもしれなかったからだ)
 薬が必用かしら。消毒薬と、縫合様の針と糸も必用ね、と彼女は思う。
 幸い──確か、この近くには家があったと思う。運が良かった──いや、あんな男に出会ったのだから不運か。

 そして、傷の痛みで霧散しかけていた思考が一点で定まる。

「油断──したわね」
 そう悔しげに呟いた。これでは今夜は動けまい。
 …Wの事が気がかりだったけれど、冷静さを取り戻した思考は、それでは無駄死にするぞ、とグラリスに告げる。
 装具を調えてから立ち上がると、彼女はのろのろとした足取りで、この近くにある筈の一軒屋に向って歩き始めた。

<グラリス 持ち物:TBiバッソ DCカタール 毒&普通矢筒 メイルオブリーディング 備考:油断は手痛い教訓で消えている>
 状態:バリスタでの矢傷により、夜の間は全力戦闘は不可。備考:F-3にある家屋のどちらかに向っている>
<バード 持ち物:連弩(装填は0) 普通の矢筒 羽帽子 状態変化無し F-3より移動中>

追記:バリスタは壊れて使い物にならない。


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