バトルROワイアル@Wiki内検索 / 「2-232」で検索した結果

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  • 2-232
    232.迷いの森 [2日目夜] 光の届かない夜の森を男は歩いていた。 手の届く距離ですら目を凝らさなければ見えないほどである。足取りは慎重だった。 つま先をゆっくりと前に伸ばし、そろりと地面につける。進めた足に体重を預けるのにじゅうぶんな感触を確認して、次の足を送る。 一歩、また一歩と繰り返し、道なき森を歩いていた。 男はこの森をできるだけ早く抜けたかった。 D-6まで移動して、自らの手で殺めてしまった♂ケミを少しでも早く弔ってやりたい。 その思いが、本来であれば動くべきではないはずの夜の森をひた歩く原動力となっていた。 他人が聞けば、自分で殺しておいて何をいまさら? と男に侮蔑の眼差しをそそいだかもしれない。 だが♂ケミを弔うという行為が、男には───♂騎士にはどうしても必要だった。 ♂ケミを埋葬することで自分が背負った友殺しという罪と真正面...
  • 2-231
    231.手負いの獣 [2日目深夜] 畜生畜生畜生畜生 殺してやる殺してやるコロシテヤル 隠れたまま息の続く限り逃げた♂ローグは姿を現すと同時にぶっ倒れた。 そのまま闇に向かって憎しみをぶちまける。 怒りは自分にも向いていた。 ルアフ、ニューマとハンマーフォール。 あり得ないほど最悪の組み合わせだった。 どうしてさっさと逃げなかったのか。 …あれだ。 初日に遭ったクソカップルだ。 退却間際に聞いた叫び。 『どうしてよ!ニューマもでないし!』 あれでニューマは使えないと思いこまされた。 だが今にして思えば実際に詠唱するトコを見たのは速度増加だけ。 あとはぎゃあぎゃあ騒いでただけだった。 策だったとは限らない。 だが少なくとも彼はあの言葉に釣られたのだ。 はらわたが煮えくり返る。 この手で泣き叫ぶツラを引き裂...
  • 2-235
    235.不運 ―――……何だ? ♂プリは躊躇っていた。 木陰を通して人影が見える。まだかなり遠いが、複数…恐らく3人だろう。 「集団でいるってことは…多分殺人者じゃないんだよな。」 呟いて確認してみる。このゲーム、最後まで残った者が勝ち…だということは。 殺人者は単独で行動したがるだろう…と、思う。多分。恐らく。 ―――ってことは味方なんだよな…? 彼等は♂騎士の行方を知っているかもしれない。殺人者でなく、知っているなら教えてくれるだろう。 だが、と彼は思う。あの集団が味方なのかを彼は判別できなかった。何故なら――― 一人妙なのだ。主に頭が。 ―――やたらデカくねぇか?あいつの頭… ミッドガルド王国ではアフロという髪型は一般的ではない。そのため、彼はそんな髪型の存在すら知らなかった。 その上、夜で遠距離であるということが、彼に正確な判断をさせなかった。 ...
  • 2-238
    238.異端の魔術 「ア・コ・ラ・イ・ト・キイィ~~~~~~~~~~ック!!」 「はぅっ!?」 儀式が今にも完遂しようとしたその瞬間。儀式の中心であった魔術師の少女の額に。 見事な飛び蹴りが決まった。 「これで動けるでしょ…っておーい!気絶しないでよ!?」 少女を拘束していた氷は砕けたが、その一撃で♀マジは昏倒したらしい。 新しく飛び込んできた少女…♀アコは♀マジを心配しつつ、♂Wizの持つナイフを弾こうと蹴りを放つ。 …仕方ないですね。 ♂Wizは一旦儀式を中断し、闖入者の攻撃をかわす。 こんなに早く戻ってくるとは…計算外でした。デビルチめ、何をしているやら… ♂Wizは冷静に状況を分析する。この場にいるのは3人。自分と、♀アコと、♀マジ。 ♀マジは先ほど昏倒した。ならば、自分と♀アコのみと考えていいだろう。 このアコライト...
  • 2-230
    230.ひとには言えない話 [2日目深夜] 暗く、見通しのきかない山中。 時として木々や斜面に月光もさえぎられ、方角を失う。 それでも♂プリはただひたすらまっすぐ歩いていた。 (ったく♂騎士の奴。どこまで行きやがった) ヒールを連発しすぎたせいで頭がくらくらする。 じっとしていればそれなりに回復したのだろうが、そこは殴りの悲しさ。 歩いていてはほとんど回復しない。 そのうち歩くことそれ自体が目的になりそうだった。 ピ……ピ……ピ……ピ……ピ やがて何か妙な音が聞こえ始める。 (疲れすぎで耳鳴りでもはじまったか?) 首輪から響く音の意味に♂プリは気付かなかった。 察しが悪いというのは酷だろう。 彼は♂騎士を追い、禁止区域のない北東へ向かっているつもりだったのだから。 ただ、暗い山中で思った方向へ進むことは想像以上に難しい。 林道...
  • 2-239
    239.なかま [3日目早朝] 彼女は長い悪夢を見ていた。 日常と言う名の悪夢。 当たり前になりすぎて悪夢だという意識もなかった。 彼女に夢はなかった。 ただその時置かれた境遇から脱し、這い上がることの繰り返し。 それは作業であって夢ではない。 上り詰めた先に何をしようと言う目的があったわけでもない。 彼女は悪夢しか知らないままに育ち、 そして今、別の悪夢の中にいる。 ♀アルケミストは目を覚ました。 う~ん、と体を伸ばそうとして手をぶつける。 そう言えば木のうろに潜り込んで寝たんだった。 (そろそろ一度きちんと身繕いしたいわね) 髪に付いた木屑を払って彼女は思った。 色気が武器の彼女としては着替えも化粧もできない今の状況はよろしくない。 あまり身だしなみが整い過ぎてても警戒されるだろうが、せめて水浴びして髪をとかすぐらいはし...
  • 2-236
    236.誤解する人々 [3日目未明] 「遅いですね」 ♀商人が木立に入ってからしばらく経ち、♂セージは首を傾げた。 女性のお手洗いは長いというが、それにしてもずいぶん遅い。 彼は淫徒プリをそっと揺さぶった。 「…ん?はい?」 「すみません、♀商人が排泄に出て戻りません。何かあったらいけないので見てきます」 「はい…って、ちょっと」 頷いた淫徒プリの眠たい眼がそのまま半眼のジト眼に移行する。 「なんでしょう」 「女の子のトイレ覗く気じゃないでしょうね」 「そんな趣味はありませんし、彼女にも来るなと言われました。ですがそれだけにしては遅すぎます」 淫徒プリは首を傾げた。 「ちょと遠くまで行っただけじゃないかしら」 「声の届く範囲に居て下さいと言ったのですが」 「…じゃあなおさら遠くまで行ったかもしれませんよ」 「そういうものですか?」 わけが分からない...
  • 2-233
    233.大自然の呼び声 [3日目未明] ずびし。 ♂セージの脳天に鋭いチョップが入った。 「ついてこないで」 ♀商人は冷たく言う。 「そうは言ってもですね」 ♂セージは眠そうに目をしばたかせつつ抗弁した。 「やはり1人になるのはよくありませんよ」 「すぐに戻るってば」 彼女はいらだたしげに男を押し戻す。 ただし寝ている仲間を起こさないように小声で。 「しかし排泄中は最も無防備になる瞬間のひと・・・ぶっ」 言葉の途中で靴を投げつけられ♂セージは倒れた。 投げつけた姿勢のまま♂商人は肩を怒らせ荒い息を吐く。 「分かってるなら来るなっ!」 要するに見張り番の最中にトイレへ行きたくなったのだ。 彼女は投げつけた靴を拾って木立に入る。 「いい?絶対にこないでね」 「仕方ありませんね。声の届く範囲にいて下さい」 ♂セージ...
  • 2-234
    234.見慣れた悪夢[2日目深夜~3日目未明] ゆっくりと目を開けた。カーテンから差し込む光が、昼に近づいていることを教えてくれる。  昨日は研究に力を入れすぎて、ほぼ徹夜をしてしまった。突っ伏した机から体を起こすと、毛布がはらりと地面に落ちる。寝てしまった自分に彼女が掛けてくれたらしい。さり気無い心配りがいつも自分を癒してくれる。まぁ、彼女には決して言わないが・・・。  「おはようございます。昨日の研究は何か成果はありました?」 地下の研究室から階段を上がってくると、キッチンにいる彼女が何かを切りながら聞いてくる。眠たい頭で「少しは。」とだけ答え、昼になってしまった朝ごはんが何なのか、ぼんやりと考えた。今刻んでいるのは、レタスかな?ということはサラダがあるので、それにあわせて、肉か魚の料理があるのか?しかし、寝起きにそれらは重いな。だが、食べないと怒るし、な...
  • 2-237
    237.実験と観察 [3日目早朝] 清く正しいアコライトの朝は早い。 まだ薄暗い内に起き出すと熟睡中の相棒を揺さぶった。 「ほらほら、さっさと起きるっ」 「う~。まだ眠い~」 起こそうとする手を避けて♀マジは右に左に転がる。 ♀アコは両手を腰に当てて眉をつり上げた。 「そんなんで冒険者つとまるの?」 「ボクは学究派なの。フィールドワークは専門外~」 「はいはいわかりました。でもあと2日しかないんだよ。時間は貴重でしょ」 「あ~う~」 夜更かし朝寝坊が常なのか、♀マジは一向に起きようとしない。 やがて諦めたようなため息と共に足音が離れてゆき、♀マジは腕に顔を埋めて寝直す態勢に入った。 しかしその耳に♀アコの笑みを含んだ声が届く。 「早く起きないとごはん全部食べちゃうからねー」 「ごはんっ!?」 飛び起きる♀マジ。 「どこどこっ…って何1人で食べてんの...
  • NG2-23
    NG ダンサー、もうひとつの死に方 「どう・・・して・・・」 「あは、私でも殺せる。殺せるのよ。ほら、こうやって刺せば人は死ぬの。なんて簡単だったのかしら。      だから生き残るのは私。みんな殺して生き残るのは私なのよ」 心を繋ぐ糸が切れたのか、♀ケミは血塗れた刃を見つめながらけらけらと笑った。 そして彼女は、ダンサーの傍らでまるで自分を手にしろとばかりに緋色に輝く一本の槍を手に取る。 轟、と穂先にともる鬼火が、 今まさに地平線から顔を出そうとする太陽のように♀ケミの白い雪肌を赤く照らす。 すとん ダンサーの胸に深深と突き刺さるヘルファイア。爛々と業火に包まれるダンサーの肢体。 それを見て♀ケミは再びけらけらと笑った。 「あ、あぁ・・・」 誰かが絶望にも似た声を漏らす。体全身を使ってようやく絞りだせたのであろう、うめくような...
  • 2-223
    223.B.O.T. [2日目深夜] へし折られた刃にはいかなる殺傷力も残っていなかった。 しかし魔槍はどこまで行っても魔槍であった。 ヘルファイアはその力の残滓を文字通りの残り火と変え、 血の色を思わせるかすかな光を灯し続けた。 ほどなくして。 「ちっ。やっぱ焚き火してる馬鹿なんざ居ねえか」 赤光にひかれてやってきた♂ローグが吐き捨てた。 罠の可能性も考えわざわざトンネルドライブで近付いたのが馬鹿らしくなってくる。 彼は腹立ちまぎれに折れた槍の穂先を踏みにじった。 靴越しにじんわりと熱さを感じる。 「…いや。まだ熱いってこたあ、さっきまで誰かいたってか?」 そう言えば地面にもだいぶ踏み荒らされた跡がある。 つい最近、誰かがここで争ったに違いない。 ♂ローグは素早く地面に伏せ、顔を横にして周囲を見渡した。 自分が飛び道具で狙われるのはごめんだし、...
  • another2-23
    抗う者共 「やれやれ。貴方のお陰で今度のゲームは大波乱でしたよ。私共にとって、ですが」 白装束にピエロ帽の道化。 顔にはスペードやハートが塗られてあった。 「そりゃ良かったじゃねえか。こんな幸せゲームなんざ終わっちまうにこしたこたぁねぇ」 対する赤い髪の男は、チェイサー。 顔には目立つ傷があった。 「ですが、貴方は最早一人。他の皆さんは――おっと、私共の手駒は別ですが――他の管理者と相打ちにほぼ討ち取られてしまった。王手詰み――実に惜しかったですが、残念ながら貴方もここまでです」 瞬間、道化は短剣を投げる。 男は、それを走りながら叩き落とし、剣を振り下ろす。 だが、それは道化に止められる。 男が瞬間に繰り出したのは、足払い。 突然の足下への攻撃だが、道化はそれを後ろに飛んでかわす。 そして、着地と同時に、男を薙ぎに行く。 男は、それを受け止め、体当たりを...
  • NG2-24
    NG 定時放送2(朝8時の場合) 「さぁさ皆様、起きてくださいまし!お寝坊さんはいらっしゃらないでしょうね? 楽しい楽しいバトルロワイアル、二日目の始まりですよ! しかし良い朝ですねぇ。これはまさしく皆様の日ごろの行いが報われたということでしょうね? 何せ前回のバトルロワイアルなど、開催期間中ずーっと雨模様でございましたから。 私どもも気が滅入ったものです。やはり雨が4日も続きますと皆様……ああ失礼、脱線してしまいました。 きちんとお仕事しなくては、ですね。ではお先に死亡者を読み上げますよー。 ♀剣士さん ♀セージさん バードさん ♀クルセイダーさん ♂BSさん ダンサーさん ♂剣士さん そして我が国の工務大臣殿!不甲斐ないですねぇ、早速のリタイアですか。 というわけで朝までの間に8名が亡くなられました。残り33名です。 良いですね、なか...
  • 2-206
    206.信頼の意味  暗い森の中を息を殺して早足で歩く。  ルアフで、足元を照らしたいところだがPTを組んでいるわけではない今、それは危険だ。 「やれやれ……振り出しに戻りましたか……」  先程の喧騒の最中、淫徒プリは喧騒に乗じてあの場から離れた。  PTから離れるという目的は達せられたものの、これではゲームが始まったばかりの時と変わりようが無い。 「さて、どうしましょうか……」  地図で点滅する自分の位置を確認すると、現在地はE-6、E-7の境界付近らしい。  あの危険な毒花の♀アルケミや復讐に燃えている三人からは離れたい。  殺しと薬に手を染めることこそしなかったもの、その他の犯罪と呼ばれることは一通りしている。  それゆえ、その手のいざこざから起こる凄惨な風景は見慣れているが、あくまで自分は蚊帳の外から見るからこそ、その光景も所詮他...
  • 2-213
    213.異端 [2日目夜~深夜] 最初に起きたのは、♀マジだった。 ♀マジを背負いながら、騎士を乗せたペコペコさながらの疾走を披露した♀アコはよほど疲れたのか、いまだ轟沈していた。 ともかく先に起きた♀マジは、痛む片方の足を気にしつつ、先ほど急に直った♀アコの首輪について一考するのだった。 どうにも引っかかることがあったのである。 それは、この首輪がそう簡単に壊れるだろうか? ということ。 首輪は現在島で行われている殺し合いを殺し合いとして成立させるための、なによりの鍵だ。 壊れてしまいました、では済まない。 それに、この殺戮ゲームが過去に何回も行われているということから考えても、変だった。 管理側から渡された地図を見るに、自分たちの現在地が管理側に情報として送られていることは間違いない。 とすると、♀アコが禁止区域に入って無事だったことが伝わっていないは...
  • 2-299
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  • 2-283
    283.悪意は静かに笑う[三日目午前] 「♀商人さんなら、私達と一緒に・・・」 淫徒プリと悪ケミは同時に振り返る 「・・・見る影もないよ?」「それ、言葉の使い所間違ってる」 「うるさいわね!」 ♀マジのツッコミに、♀アコが叫ぶ 「少し早く歩きすぎたかな・・・」 「一緒に戻ろうと言いましたから、もう少ししたら戻られると思いますが・・・」 不安げに言う悪ケミと淫徒プリ 「・・・来ないね」 「うん、こない」 ♀マジと♀アコが顔を見合わせる 淫徒プリの言葉虚しく、軽く♂プリと全員の自己紹介を済ませたが一向に♀商人が戻る気配はない 「私があの時目を離さなければ・・・」 「そんな事言ったら、私だってそうだよ。今は♀商人と♀ケミを探そ?」 自分を攻める淫徒プリに、悪ケミがフォローを入れる 「そうだよ、♀ケミにも謝らないといけないしね。♀マジなんて本気で魔法撃ってたし...
  • 2-200
    200.野良犬は牙を研ぐ [2日目夜放送後~深夜] ジョーカーの声で目を覚ましたグラリスはすぐに西へ向かった。 海岸沿いの狭いルートが閉じた以上、袋小路になってしまった場所で眠るのはあまりに危険だったからだ。もし明朝の放送でF-3が禁止区域に設定されたらまず助からない。 (つくづく癪に障る男ですこと) 彼女はジョーカーが禁止区域を無作為に選んだとは信じていなかった。 なにしろダーツを使って選んだというのだ。あの男が百発百中の腕を持っていたとしても誰も驚くまい。 自分を追い立て、他の連中と戦わせようと言うのだろう。 休むな。戦え。さもないとWが…と言うわけだ。 だが今のままでは難しい。 最初に遭遇する可能性が高いのは彼女に重傷を負わせた例の五人なのだ。 おそらく戦力を減じてはいまい。 おそらく、と言うのは彼女が放送で目を覚ましたためである。 ...
  • 2-247
    247.Arrowhead[3日目早朝] 「――最っ低・・・!!」 目の前のアルケミストが瓶を振りかぶる。 「ちいっ」 ♂ローグは決意に満ちたその表情に脅威を感じた。 火炎瓶か、強酸か。 何にせよヤバい物なのは間違いない。 心臓を狙おうとしていたクロスボウの先をとっさに少し上へ向ける。 後ずさりしながら連射した矢の一発目が♀アルケミストの右肩を、二発目が顔面を捉えた。 ほとんど同時に投げ放たれた瓶は着弾の衝撃でわずかに狙いを外す。 瓶の直撃がないと見切った彼は突進してくる♂スパノビに狙いを変えた。 「死ねや」 二連射が巨体へ吸い込まれるように命中し、地響きを立てて倒れる。 同時に♂ローグのすぐ脇に瓶が落ちた。 バシャッ 「・・・うおっ!?」 いつもの彼なら飛び散るしぶきぐらい難なく避けただろう。 だが意識が♂スパノビへ向いていたこと、そして壊れ...
  • 2-205
    205.隠し味 [2日目深夜] トクン。 トクン。 血流にのって薬効が全身を巡る。 黄色い果実に秘められた世界樹の生命力そのものが。 傷ついた全身の細胞が癒合し再生して行く。 シュワシュワ、プチプチと音が聞こえる気がするほどの早さで。 (う…) ♂騎士はうっすらと目を開けた。 そして薄目のままゆっくりと周囲を見回す。 周囲に数人分の気配があった。 「あ、いま♂騎士さん動きませんでしたか?」 聞き覚えのない声。 とっさに目を閉じる。だが、そのことで却って動きが生まれてしまったようだ。 「♂騎士!よかった、気が付いたか!」 誰かが飛びついてくる。 反射的に振りほどこうとするが、体が思うように動かない。 力を込めると硬直していたあちこちの骨と筋がばりばりと音を立てた。 「ぐ…」 「無茶するな。まだ完治したわけじゃねえ」 また別の声がする。 少...
  • 2-250
    250.エウレカ [3日目朝] 腹が燃えていた。 じくじくと冷たい炎を上げて。 (これはダメのようですね) 多臓器不全という言葉が♀スパノビの脳裏に浮かんだ。 心臓は時々思い出したように脈打つだけ。肺は半分もふくらまない。 肋骨より下は完全に駄目だ。 絶え間ない苦痛のかたまりだけがそこにある。 四肢も動くのは左手一本だけ。 もはや数分以内に確実にやってくる死を待つだけの体だった。 とどめを刺して楽にしてもらいたいところだけど。 体の下に♀ハンターの鼓動を感じた。 彼女のためにもこのまま死ぬことはできない。 (大丈夫。♀ハンターさんはお姉ちゃんがきっと守ります) 身じろぎするごとに焼けこげた内蔵が悲鳴を上げる。 それでも左手で♀ハンターの体を探ることを諦めない。 (お姉ちゃんは妹のする事なんて全てお見通しなのです...
  • 2-203
    203.ふぁると♀スパノビだけがともだちさ [2日目夜] これは夢? それともまぼろし? ううん、そんなことない! ほかの誰にもわからなくたって、あたしにはわかる。 空をすべる大きなつばさも、するどい鉤型のくちばしも、切り裂く爪も、強靭なあしゆびも、すぐに思い描ける。 どんな闇夜だって、たとえ目が見えていなくたって、声さえ聞けば、あたしにだけはわかるの。 だからあたしは、おおきな声で大好きな彼の名を呼んだ。 「ふぁる!」 あぁ、ふぁる。やっぱり来てくれたんだ。来てくれたんだね。それもこんなところまで。 つばさや尾羽が、あんなにぼろぼろになってるのに。そうまでして、来てくれたんだね。 だったらもう、あたしもがんばるしかない。覚悟は決まったわ。 相手が鳥を嫌う羽虫の女王なら、あたしはその虫を食べて生きてきた、猛禽の娘よ! ふぁるとふたりなら、できないこ...
  • 2-277
    277. 失われた剣(三日目午前) (この通路、どこまで通じているのかしら) 慎重に奥へと進みつつ♀Wizは首をかしげる。 GMが現れたということは、やはり彼らの本拠地まで通じているのか。 確かに今朝の放送で本拠があると言っていたE-5までそれほど遠くはない。 だけど。 (そうするとこんな物があった理由がわからないんですよね) 右手の杖を一回転させる。 隠れ家の入り口に侵入者のための武器を置いておく馬鹿は居ない。 腐乱死体を放置したりもしない。 不衛生だし、誰だってそんな悪臭のする物を近くに置きたくはないだろう。 かといって参加者を近づけないための細工にしては死体が白い衣装を着ていたのがおかしい。 GMの死体と見れば調べたくなるのが当然だ。実際彼女達がそうしたように。 つまり、ここは本拠ではない。 (じゃあ、誰がなんのために?) 元の島民が残したと考える...
  • 2-290
    290.撤退戦・前 ぐぅ、と焼け付くような痛みを感じた。 ♂プリーストは一瞬混乱したが、即座に自分が腹を刺されたのだと悟った。 足元を見れば、そこにはデビルチがいた。こいつが下手人だろう。 ♂プリーストは渾身の力でデビルチを蹴りつける。 それだけで、デビルチはサッカーボールのように弾んで、近くの木にぶつかった。 さらなる伏兵がいないかと周囲を確認するが、どうやら伏兵はこのデビルチだけだったらしい。 だが、それでもパーティーは壊滅的な打撃を受けたらしい。 モンスターと共にやってきて自分達と共闘していた♀WIZは木に叩きつけられたらしく、まったく動く気配がない。 ♀マジは意識はあるものの、叫びつつ地面でもんどりうっている。おそらく彼女も奇襲を受けたのだろう。 ♂スパノビはさらに酷い。元々かなり傷ついていたが、今パピヨンに背中ごしに胸を貫かれている。 悲鳴を上げている...
  • 2-210
    210.打算と信頼と  淫徒プリは、困惑していた。  なんだ、この♂セージは……。  思わず上ずった声で声を上げてしまったが、変装を見破られていたりはしないだろうか?  考えをまとめるために呟いていた独り言も聞かれたのではないだろうか?  しかし、その一方ですぐに頭を切り替え状況を判断する。  突然隣りに現れたは、ハイディングかクローキングの効果があるカード挿しの装備のおかげだろう。  消えていたにもかかわらず、自分を襲ってこなかったので十中八九は殺人者側ではない。  だが、それがこの♂セージが絶対にマーダーではないという保障にはつながらない。  用心して、いつでも逃げられるようにしておかなくては。  そんなことを思いつつ、淫徒プリは♂セージに対峙する。 「ああ、御安心下さい。私は殺人者側ではありません。もし仮にそうであるなら、消...
  • 2-227
    227. ビーチフラッグス [2日目深夜] グラリスは血の跡をつけながら、芋虫のように地面を這いずりバスタードソードに向かう。愛するWを生かすために。左手を奪った♂クルセイダーを殺すために。 ♂クルセイダーもまたバスタードソードへと歩を進める。大木に預けていた体重を自分の足へと戻し、一歩、また一歩と、地面を這いずるグラリスとさほど変わらない早さで。 (俺は生きる!) (彼女を殺して、俺は生き残らなければならない) ♂クルセイダーは察していた。今の自分では彼女がバスタードソードを手にする前に彼女の元へたどり着けないことを。それでも、彼は思った。 (彼女がそれを手にし、構えるまでのわずかな時間に殺さなければ) 今の♂クルセイダーには、避けた後体勢を立て直す体力…、いや、避けるだけの体力も残されていないと感じていた。 (彼を殺す!) (彼を殺して、Wを...
  • 2-274
    274. ロシアンルーレット (3日目午前) 「……」 「……」 2人が去ったあと、残った淫徒プリらの間に沈黙が落ちる。 あの叫び声は一体誰のものか。 見に行った2人は大丈夫か。 思惑が交錯する。 ♀ケミは思う。悲鳴の主が♀ハンターならいい。 そのまま死んでいてくれればもっといい。 ♀マジは考える。たぶんこれで♀ケミの話の真偽がはっきりする。 悲鳴の主が生きていてくれれば。 そして♀アコは思いついたことをすぐ口に出した。 「あたし達はどーしよ?」 「どうするかって、あとは侍ってるしかないでしょ」 当然のように言って悪ケミが肩をすくめる。だが♀アコは首をかしげた。 「そうかな?絶対間に合わないって決まったわけじゃないし、2人を追っかけてもいーんじゃない?」 「あ、うーん」 「キミ、時々すごく鋭いこと言うよね」 それぞれに声を上げて淫徒プリと♀マジは考...
  • 2-242
    242.言霊[3日目早朝]  ♂騎士が現れた後。  とりあえず朝の放送を聞いてから動くともう一度決めた後、交代制で見張りに付くことにして、まだ体力が本調子ではない♀WIZのサポートに淫徒プリは付いていた。  支援とWIZの組み合わせであれば、大抵の襲撃にも耐えられるだろうからだ。 「あの……さっきの言葉……どなたが言っていた言葉ですか?」  どうにも気になって仕方がなかった淫徒プリは♀WIZに声をかけた。 「さっきの言葉? ああ、人間は一人で死んで行くんじゃないって?」 「そうです。その言葉」 「だから、大切な人ですよ。この指輪の相手……と言えば判ります?」  そう言いながら、左手の薬指にはまった銀色の指輪……結婚指輪を見せた。 「旦那さま……ですか?」  ♀WIZは微笑むことでその質問を肯定した。 「……失礼ですが、...
  • 2-275
    275.魔なるものの邂逅 (三日目午前) 「あーもーっばかばかばかばかばかうまのけつーっ!絶対絶対ぜえぇーったい許さないんだからっ!」 誰の声も届かない空の上でパピヨンは器用に地団太を踏んでいた。 圧倒的多数を相手にしてとはいえ、勝負を挑んで撃退されたことがよほど気に入らなかったらしい。 「今度会ったらぎったんぎったんのぐっちょんっぐっちょんのけちょんけちょんにして、もんのすごぉーっく恥ずかしいイタズラ書きしてやるーっ!お・ぼ・え・て・ろーっ!」 両手を突き上げ、ひとしきり吠えるだけ吠えた彼女はやがて急にがっくりうなだれた。 引き締まった腹を押さえて情けない声を出す。 「それにしても・・・おなか減ったなあ」 心なしか触角も力を失って垂れ下がっているようだった。 「どっかにご飯落ちてないかなー。今ならむさい男でも死体でも我慢するのになー。若くて元気な子の生き血がいーな...
  • 2-293
    293.死屍累々 腹を貫かれた♂プリーストは、言うまでもなく重症であった。 出血はおびただしく、何らかの応急手当をしなければ数分程度しか生きられないだろうと思われた。 その状況で、彼は、なんとキリエ・エレイソンを緊急の包帯代わりに使った。 制御装置により、ヒールで傷口を塞ぐには大量の気力を消費するし、それだけの気力は既に彼にはなかった。 一方、キリエ・エレイソンも弱体化されてはいたものの、しかし耐久力が弱まった程度であったため、傷口をカバーする用途にはうってつけだったのだ。 しかし、この方法には重大な欠陥がある。 それは、根本的な解決にはならない、ということである。 もし、パピヨンの攻撃をまともに食らってしまったら、二度と立ち上げれるかもわからない。 それ以前に、彼の気力が尽きれば、再び腹から血が流れ出し死亡するだろう。 だが、それでいい。 どちみち、助か...
  • 2-268
    268. 2つの地下で(三日目午前) その異常は即座にGM森へ報告された。 ジョーカーでも橘でもなかったのは単に当番の問題である。 「あ?誰が消えたって?」 森は監視など退屈極まりないという様子を隠しもせず、椅子にだらしなく腰掛け大あくびをしながら聞き返す。 「♀Wiz、♂シーフの両名です」 「あー。だったら死亡報告書いとけ」 つまらないことで呼ぶな。森はそう言わんばかりの口ぶりで言って目を閉じた。 そのまま寝てしまいそうな様子に兵士は急いで報告を続ける。 「いえ、死亡してはいません。首輪とのリンクは正常に機能しています」 「そのどこが消えてんだ」 「地図盤上から位置表示が失われたんです」 「なんだと?」 ようやく事態の異常さを理解したように森は椅子から身を起こした。 壁面に設置された巨大な地図へ歩み寄り、しかめ面で眺...
  • 2-226
    226.砕けたもの [2日目深夜] 鋭く一撃、二撃――手首を返してフェイント。 右手の刃に意識を引きつけて左拳が顔面へ …入らない。 「ちっ」 外見からは想像も付かない♂スパノビの身ごなしに♂ローグは舌打ちした。 一体なんだこいつは? ごっつい女を毒っといてニューマからつぶすつもりがやたら手間取る。 フェイントがまるで効かねえ。 見透かしてやがるのかと思ったがそうでもねえらしい。 何も予測してねえんだ。 攻撃がどこから行くとか全然考えねえで、当たりそうな攻撃にだけもの凄え反応しやがる。 その割に反撃は単純極まりねえ。 馬鹿正直にまっすぐ短剣を突き出すだけ。 食らう気はしねえし、カウンターを入れればさすがに当たる。 もうとっくに倒れてておかしくねえくらいあちこち切った。 なのに弱った様子も見えねえってのは一体どういうこった? 「だっ...
  • 2-219
    219.鏡合わせの騎士 [2日目深夜] ここは何処で、自分は誰と戦っているのだろうか。 それすらもわからずに、ただ自分の身を守るために、♂騎士は剣を強く握りしめた。 ひとりになりたい――それだけを考えていた。 ひとりになることの怖さも、心細さも知っていた。今まで仲間という暖かい存在に包まれていたからだ。 それでも、誰かの傍にいることは耐えられないことだった。 死にたいのか、といったらそうではないのだと思う。 目の前の男が自分に剣を振るってきた瞬間、とてつもない恐怖と憎悪がその人物に対して沸き起こってきたからだ。 ――その感情が、GMの介入によって異常に引き出されているのだということを、彼は知らないのだが。 一方で、♂クルセイダーは思う。この青年の瞳はこのような色だっただろうかと。 赤いのは以前からだったように思う。だが、このように血を思い出させ...
  • 2-278
    278.BlockBuster[3日目午前] まばゆいばかりの緑あふれる森の中、毒々しい紫色の触手がうねっていた。 空中をのたうち、あるいは地中を貫いて突き上げ。 2人の騎士を取り囲もうとする。 「マグナムブレイクっ」 ♂騎士は四方へ衝撃波を放ち、取り囲む触手の波を吹き払った。 その瞬間に生じた触手の隙間へ飛び込み、大剣を振るう。 切り飛ばせたのはわずかに2本。 傷ついた触手は断面から不気味な粘液を撒き散らしながら素早く引かれる。 だがそれ以外の触手が再び別方向から襲い掛かってきた。 きりがない。 馬防柵と弓兵・槍兵で固められた防御陣を突破しようとするのに似ている。 援護なしでの強攻は無謀と言っていい。一度引く方が賢明だ。 そんなことは分かっている。 だが飲み込まれたハンターに果たしてどれだけの余裕があるのか。 今さら下がる...
  • 2-214
    214.強攻 [2日目深夜] 『OKOK、ようするに地図を持って禁止区域に入ると首輪がどかんなわけね』 「───なるほど」 文書化された盗聴記録に目を通し終えても、GMジョーカーは微笑の表情をすこしも崩さなかった。 切れ長の目はいつも笑っているように見えて、奥にある瞳はけして笑ってなどいない。いつも通りの表情だった。 GM橘はもはや気にしなかった。 接する時間が長くなれば長くなるほど、考えていることがわからなくなる。 GMジョーカーという男は、そういったたぐいの人間である。とにかく本心を隠すことに長けているのだ。 彼の口にする言葉や態度、表情、しぐさ。そのすべてを信じてはいけない。疑ってもいけない。 なぜなら彼は仮面の下で舌なめずりをしながら、相手がどのように反応するかを覗き込んでいるからだ。 たとえるなら巣を作り、獲物がかかるのをひたすら待ちわびる...
  • 2-276
    276. 嘘 [3日目午前] ♀商人は激しくえずき、背を丸めて全身を震わせた。 「どうしたんですか!?」 「どいてっ」 驚く♀ケミを半ば突き飛ばすようにして淫徒プリが少女の傍らに膝をつき、丸まった体を無理矢理引き起こす。 「吐いて!早く!」 そう言って少女の顔をのけぞらせると有無を言わせず喉に指を突っ込んだ。 さらにみぞおちへ膝を当てて強く押す。 「ぇうっ、うぶぇえええぇぇぇっ」 少女の口から食べたものと胃液があふれ出した。 さらに彼女の口に水筒を押し付けて強引に水を流し込み、もう一度吐かせる。 毒物に対する素早い処置。 ♀ケミへの疑いを完全には捨てていなかったからこその反応だろう。 次いで自分も吐こうとする様子を一瞬見せるが途中でやめる。 食べた順序と時間経過からして、同じ毒が入っていたならとっくに効果が出ていなければおかしい。 代わりに淫徒プリは周囲...
  • 2-286
    286.命の選択を[3日目午前] 「跳べ!」 弓が引かれるのを見た瞬間、グラサンモンクは♂セージの肩を押して右へ跳んだ。 素早く反応した♂セージが左へ走り、木陰へ飛び込む。 ♀ハンター…の成れの果てと言うべきか…は、目標が分散したことで一瞬動きを止めたが、すぐにグラサンモンクを向いて矢を放つ。 ばしゅんっ 半ば朽ちたような武器や、腫れ上がってちゃんと見えているかも怪しい眼を考えれば、驚くほど正確な射撃だった。 地を蹴って全力で射線から身をはずす。 背後をかすめ過ぎる矢風。 よけた。だが息つく暇もなく頭を狙って二の矢が飛来する。 素早く上体を沈めてかわす。髪の毛を十数本まとめて持っていかれた。 さらに三の矢が足元へ。反射的に跳び上がって避け――その着地点を狙って四の矢。 空中で強引に姿勢を変える。だが脚を浅く切り裂かれ、血が数滴散った。 気にせずダ...
  • 2-289
    289.信頼対決 情勢は、圧倒的にパピヨンが不利だった。 敵には魔法職が二人。聖職者が二人。さらに、蛮勇とも呼べるほど強固な意思で攻撃を続けるアタッカーが一人。 対して、味方には自分と、『トモダチ』が一匹。 『トモダチ』は狂戦士のごとく攻撃を続ける♂スパノビに粘着されおり、今すぐにでも助けたい。 しかし、かといって安易に近づけば♀WIZのクァグマイアにより動きを鈍くされた後、魔法で蜂の巣にされるのが目に見えている。 パピヨンは、この状況を転換させうる何かを心から渇望していた。 そして。 今、それは存在したのだった。 パピヨンが自分たちの背後に回ったのを見て、♀WIZはほくそ笑んだ。 おそらく、寄生虫とパピヨンで挟み撃ちにする気だと考えたからだ。 しかし、逆に言えば、それは味方の分断である。 これで、パピヨンは寄生虫を攻撃している♂スパノビを攻撃することが...
  • 2-208
    208.重なる友の記憶 [2日目深夜] 急激にその場に満ちる混乱の気配に、眠っていた♀商人も目を覚ます。 視界に♂騎士と、彼の剣に胸を貫かれた♂アルケミストを認めると、彼女はどうして、と喉の奥で声を漏らした。 ♂アルケミストと♂騎士の信頼関係からして、一番ありえないことのように思えたからだ。 しかし、異なるGMの異なる思惑が絡み合った罠は、♂騎士がそれまで築いてきたもの全てを打ち砕いてしまった。 (……え?) ずるり、と胸に刺さったツルギが引き抜かれるまで、♂アルケミストは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。 目の前には、今まさに彼の胸を貫いた♂騎士の顔がある。 (ああ、怖いんだな――) その表情を見て、彼は思う。 ♀クルセイダーが死んだときの自分も、このような顔をしていたのだろうと。 (俺があんな演技をしたから、誤解したんだろうか) それだけ...
  • 2-251
    251.異端ゆえに 広大な草原に一人の男が佇んでいる。薄汚れたローブを纏い、顔色は死人のように青白い。 黒髪の男は、とんがり帽子と片目眼鏡はしてはいないものの、♂WIZである。 「さて・・・、そろそろ時間切れになるのですがね・・・。」 と、一人つぶやく。彼はここがどこかも、自分がどういう存在かも理解している。だから、時間になるまで、ただ待ち続けているのだが、折角だからとここの主に会うことにしていた。彼がここに来てから随分経つが、その主は一向に姿を現さない。だがそれは、彼がここに来る原因を考えれば致し方ないことだ。 「まあ、慣れない事はするな、ということですかね・・・。」 ♂WIZは何をするでもなく、ただただ待ち続けていた。 「ここは・・・。どこだろう・・・・。」 少女は気が付けば、広大な草原に立っていた。ひざの高さまである草が風に...
  • 2-228
    228.残酷な神さま [2日目深夜] 夢を見た。 とびきりのごちそうを目の前にしてうかれはしゃぐビニット。 そんなビニットを、行儀が悪いとたしなめるデフォルテー。 にぎやかな晩餐だった。 早くも葡萄酒を飲みはじめているソリンがいれば、鼻歌を歌いながら楽しそうに料理を運ぶテーリングがいる。 そして私のとなりには、まだ髪を伸ばしはじめたばかりの幼いWが座っていた。 彼女は瞳をきらきらと輝かせながら、テーブルの上に置かれた箱から赤色の包装紙をはがしとっている。 その箱は、私たちがついさっきWに贈ったものだ。 よほど中身が気になるのか、彼女は夢中になって紙をはがしていた。 ようやく開けた箱の中から出てきたものを見て、彼女は歓喜の声をあげた。 小さな手で大事そうに取り出したそれは、レースのついた白いリボンだった。 彼女はリボン...
  • 2-259
    259.定時放送④[3日目朝] 孤島に静寂の時が流れる。 青く冴え渡る空に響くのは小鳥のさえずりのみ。 放送の声は一呼吸置かれていたが、警告が効いたのか大声を上げる者は誰も居ない。 「はい皆さん私のお願いをよくご理解いただけたようで大変結構。では改めて定時連絡を続けましょう。 まさかまだ寝てる方なんて居ないと思いますけれど、そんな方が近くにいましたら可哀想ですからそのまま永眠させて差し上げて下さいね」 悪意に満ちたジョーク。 のどを震わせる笑い声が続いたが、本当に面白がっているのか、それとも参加者の神経を逆なでするためにわざとやっているのか判然としない。 「まずは夜間に亡くなった方のお名前を読み上げます。 何だか皆さん急にやる気を出していただいたようで、なんと12人!いやいやいい調子ですねえ。今日中に決着がついちゃうかも知れません」 読み...
  • 2-285
    285.受け継がれしカリスマ 「・・・・・・ファイヤーウォール!」  ごう、と紅蓮の炎が草原に立ち昇り、びくりとパピヨンが硬直する。  炎と氷、ふたつの壁に攻撃を悉く阻まれ、デビルチとパピヨンは折角見つけた獲物を前に悪戦苦闘していた。 「ちょっと何ーこいつー」 「こノ・・・・・・ユピテル・・・・・・」 「ユピテルサンダー!!」  己が詠唱よりも速く、♀Wizが放った雷撃球がデビルチを直撃し、盛大に吹っ飛ばされる。悪魔の纏う『闇』の属性を持つデビルチゆえ何とか耐えることは可能だが、こんなものを何発も喰らっては身が持たない。 「ク・・・・・・コンな、・・・・・・!!」 「ヤバくない? あれ、あたしはパスでいいよー。美味しくもなさそうだしー」  よろよろと起き上がるデビルチと眼前の♀Wizを交互に見ながら、パピヨンは既に戦意を喪失していた。  パピヨンとデビルチの二匹...
  • 2-248
    248.混迷の戦場[3日目朝] 一瞬の自失から立ち直り、♂ハンターは目前の少女へ一歩踏み出した。 ♀アーチャーを取り返さなければいけない。 どうすればそれが可能かは分からない。 だけど今の自分には手伝ってくれると言った仲間達が居る。 一方♀スパノビと♀ハンターは武器を構える。 「ふぁる!」 ピーイ ♀ハンターの掛け声と共にファルコンが飛び立ち頭上で旋回を始めた。 さらに弓へ矢をつがえてミストレスへ向ける。 だが紫髪の少女は彼女達にあっさり背を向けた。 そして♂ハンターへ語りかける。 「のう王子様。我の夫となる覚悟はできたかえ?」 その表情には昨夜♀スパノビ達に見せた凶悪さのかけらもない。 少女のあまりに無防備な姿に、狙いを付ける♀ハンターの内に迷いが生じた。 武器を持つ腕を下ろしそうになる彼女を♀スパノビが叱咤する。 「撃ってください...
  • 2-254
    254.それぞれの魂[3日目朝] 「んなことできるかっ!」 逃げろと言った♂ハンターに♂プリは怒鳴り返した。 だが♂ハンターは譲らない。 「そっちの倒れてる子達はどうするんだ。あんたしか連れてけないだろ」 「そりゃそうだが…うおっと」 キャタピラーの振り回す触角から跳び下がって♂プリは苦々しげな表情になった。 確かに気絶した♀ハンターを連れて逃げられるのは彼と♂騎士だけだ。 彼はちらりと♂騎士の顔を窺った。 「俺じゃ駄目だ。連れて行っても傷を治せない」 雰囲気を悟ったのか♂騎士が先手を打つ。 それに一度別れたらまた♂プリ達も見分けられなくなるだろう。そんな彼が連れて逃げても別の危険に巻き込む恐れが高い。 「だからしんがりを受け持つ。♂プリが連れて行ってくれ」 ♂騎士は背中で♂プリを押しのけてキャタピラーと対峙した。...
  • 2-245
    245.真面目である不幸[3日目早朝] トン・トン・トトント・トントントン 不規則なステップを踏む音が朝方の冷たい空気に響く。 そしてそれに合わせる鼻歌も。 show you show me san-dan-syo♪ 醤油 de ご賞味 ren-da-syo♪ リズミカルでありながら不規則な節。 韻を踏んだ…と言うよりはむしろ駄洒落じみた歌詞。 同時に繰り出される鋭い拳の連撃とはイメージにいささかギャップがあった。 「むー」 近くで丸まって寝ていた女性が身じろぎした。 途端にステップを踏む男――♂モンクの動きがぴたりと止まる。 彼は足音を忍ばせて戻り、まじめな顔で彼女に語りかけた。 「…お休み・ゆっくり・羊を・カウント・one・two・three and half」 「ハーフって何だよ」 後ろからツッコミが入る。 習...
  • 2-280
    280. 迷走 [3日目午前] 「ふはは、俺様復・活!」 眼を覚ました♂プリはとりあえず大見得を切りながら登場してみた。 自他共に認める悪人顔の彼を治療してくれたのだ。そこで戦ってるのはきっと知り合いに違いない。 仲間の危機に颯爽と登場。俺様かっちょいー。 などと妄想していたのだが。 そこにいたのは♀マジに♀アコ、♂スパノビと逃げてゆく♀アルケミ。 全部知らない顔だった。 「・・・えーと。お前ら、誰?」 さすがにちょっと恥ずかしくなって頬をかきながらたずねたりしてみる。 もっとも答えが返ってくるとはあんまり期待してなかった。 「それどころじゃないっ!手伝えーっ!」 「むぐ~~~~~~っ!!」 ♀アルケミを諦めた♀アコが♂スパノビの腕を引っぱりながら怒鳴り、顔を上げられない♀マジは地面をバンバン叩いて抗議する。 「ま、そうだよな」 なんとなく納得しながら彼...
  • 2-209
    209.営巣 [2日目夜] さく、  さく、 少女は柔らかい腐葉土を踏みしめて進む。 夜闇を見据える赤い瞳には力がみなぎり、口元には満足げな笑みを浮かべ。 「ふふ」 その足取りが止まり、下腹を優しくなでた。 「よい魔力じゃ。これならば夜明けには産めよう」 彼女は女王蜂。 その本質は人の王のように「他者を支配する」ことではなく、 「子を産み、その子らを統べる」ところにある。 眷属たる巨大昆虫がおらずとも、 魔力によって召喚することを封じられようとも、 男の精と命を取り込むことで子をなすことはできるのだ。 召喚に比べれば手間と生み出せる数において大幅に劣るが、質において劣るものではない。 そして生物としての本質である以上、魔力を封じたぐらいで奪える物でもない。 朝方に卵を産めば、昼前には孵化するだろう。 彼女にの...
  • 2-204
    204.ひとりだけの世界 [深夜] ――いつから、こうなった? 暗い夜道を、取り憑かれたように♀BSはただ歩く。♂スパノビはおろおろとしたままそれに付き従う。 方向などわからない。消えた仲間がどうなったかなどということも、最早どうでもよかった。 いや、はじめから仲間などではなかったのだろう、と♀BSはぼうっとした頭のまま思う。 ♀アルケミストも、淫徒プリも、加わったばかりの♂アコライトと♀ノービスも――ただ自分の望みを叶えることだけを考えていた。 その望みが、みんなで生き残るなどという甘いものではなかったことははっきりとわかる。 ♀BSはあまり思慮深いほうではなかったが、それだけは本能で感じ取っていた。 「お前はどうして何も言わずに、あたいについてくるんだい?」 やや後方を歩く♂スパノビに問いかける。まともな答えを期待してはいなかったのだが。 「よ、よくわ...
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