備えあれば憂いナシ

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「備えあれば憂いナシ」

01107002、この日王国の整備工場は沸きに沸いていた。
新I=Dトモエリバーの制式デザインが発表されたのだ。
パーツ単位での整備を続けていた整備たちもやっと一機作れるよー、と喜んだ。
整備工場奥にある設計図を見るためのスクリーンの前に、その場にいた全員が集まる。

どんなんかなー
パーツの骨格変わんねーよなー
いや外観がどうかだよ
武器も一緒に分かるんだろ?
そうそう、ランスが個人的に気になるんだよなー
ロケット無駄になんねーといいなー

等と話しながら、データのダウンロードを待つ。
ほらほら皆黙れー、と端末を操作する刻生が手を叩きながら言う。
ぱっとスクリーンにトモエリバーが映し出される。
ぉぉおおお!とどよめきが広がる。

黒い!黒いぞ!
そこかよ!
盾でけー!これ板金の型から作り直しじゃね?
ランスもデケーよ!あれ?なんか見たことあるような……
HMだろうがMHだろうがいいじゃんか、カッコイイし。
おめーら見るとこ違ぇーよ。
ウギャー!骨格から打ち出しなおしだよー!
関節は使えそうじゃね?
ステーションもなおさねーとなー

他にも脚部の構造面白いなーなどと流石にメカマンらしい会話が続く。
そのなか、全く違う方向であるものに注目している人間たちがいた。
携帯端末に落としたあるもののスペックを何度も見直す4人。
執政刻生とSW-M、西條、S×Hである。

「………あれ使えそうだなぁ」
「そうですね」
「冬の京も北国ですよね」
「いけるか。よし、特訓だな」

喋った順番は上の通りである。
執政である刻生がよっしゃと近くにある拡声器を手に取る。

「あー、あー、整備諸君に告ぐ。全員やることはわかってると思うが、一つ追加だ。
 パイロット兼任のものは俺たちと一緒に来い。
 それ以外は作業を続けてくれ」

何やるんだろうな、と疑問に思いながらも言われた通りに分かれる整備達。
よし、じゃあこっちだぞー、とトラックに向かって歩き出す刻生。
ぞろぞろとついていくなか、西條はヘッドセットであるところに連絡を取り出した。
トラックに乗り込みながら、一般パイロットがS×Hにどこ行くんですかと聞く。

「まぁ、いいところだ。息抜きだと思っとけ」

そう答えると前の座席に座り、首都とは別方向に車を走らせた。
動き出したトラックの中で、息抜きならいっかと納得したパイロット。
誰かが持ち込んだUNOとトランプのプレイ権について争奪戦が起きたのはすぐであった。




「やー、いい眺めだな」
「いい天気ですし、最高のコンディションですね」
「で、刻生さん、SWさん。何故に山に?」

疑問を口にしたのは試験が終わったぜひゃっほいとウキウキのたくまである。
トラックは近くのスキー場に着ており、なぜか国王を含めた代表全員が集められていた。
呼び出されて出て行ったSOU、tacty、amurの三人がいないだけだった。
トラックから降りたパイロットたちも何すんだろーと不思議顔である。
わははと刻生が笑う。

「いや、SOUさんがテストパイロットなんで羨ましいことやってるんで俺らも息抜きです」
「あ、やっぱ羨ましかったんだ」

たくまがスキー板を物色しながら言う。
ちょっと固まった後なぜか腕を組んで明後日の方を向く刻生。

「う、羨ましくなんかないんだからねっ!」
「なにツンデレってんですか」

タルクが同じくスキー板を物色しながらツッコむ。
ツッコミ早すぎるよなー、とのの字を地面に書いて落ちこむ刻生。
ハリセンをスパンとその頭に叩きつけるのがSW-M。

「女の子のセリフ言ってもキモイだけなんだから、さっさとパイロット諸兄に説明してください」
「き、キモイ?キモかったの?」
「あー、ほらほら、早くしないとみんな滑っちゃいますよ」

刻生の返しをすかしてせかす西條。
うっうっ、とSOUさんの気持ちが分かるなーと背中を押されながらパイロットの方に行く。
その背中にWyrdが声をかける。

「刻生さん!俺らはどうすれば?」
「あー、本当に息抜きしといてー。こっちはこっちでやるから」
「仕事が入ったらどうすればいいですかー!」
「下に車あるからそっち優先してねー!」

ニーズホッグの問いに遠ざかりながらも答える刻生。
置き去りにされたたくまをはじめとする5人。
まぁ、招集かかるまで遊ぶぞー!おー!とノリノリでスキーに興じるのであった。

一方、パイロット組。
スキー板を履こうとしていた連中をちょっと待ったぁ!と止めて整列させる。
刻生がコホンと白い息を吐きながら拡声器を使う。ガピーとお馴染みの音を立てる拡声器。

「息抜きとは言ったが、スキーではない」

いっせいに上がるえー?!という声。
まぁ待て、と手でそれを制して刻生が続ける。

「使うのがスキーではないというだけだ。これを使ってもらう」

これと指差したのはどこにでもあるようなソリ。
しっかり人数分ある。
またえー、と言いそうな雰囲気を感じて刻生が先手を打つ

「おっと待てよ。不満を言う前に説明を聞け。
 座って乗るのではそりゃかっこ悪いし楽しくないわな。
 そこでだ、SWさん!」
「はいよー」

出てきたSW-Mはそりの上に『立って』いた。
なぜか手にはスキー一組を持っている。
パイロットたちに広がる???の空気。

「実際に見てもらうのが一番いいな。じゃ、お願いします」
「ほいほい、皆ちゃんと見とけよー」

行ってきまーす、と言うや否や上級者コースに向けて片足で助走をつけて落ちていく。
おお?!とスタートの近くまでいくパイロット達。
SW-Mは立ったまま、スノーボードのように斜面を滑っていく。
紐も持たず、片手でスキー板を持ったまま、バランスをとって右へ左へと動く。
岩か何かで盛り上がっている部分に突っ込んで行ったかと思えば、それを利用してバレルロール。
膝を上手く使って着地して、一気に直滑降していく。
麓について、手に持ったスキーを振るのを見たパイロット達がうぉぉぉぉ!と歓声を上げた。
おー、さすがだなぁとS×Hと西條も拍手をする。
やべー俺できるかなと思いながら、刻生が咳払いを一つする。

「えー、皆見たな。ああいうことをやってもらう。
 どうだ、いい息抜きになるだろう」

ニヤリと笑う刻生に、楽勝っすよー!うわー、整備専門じゃなくて良かったとパイロット達。
ソリを嬉々として持ってぞろぞろと滑り始める。
そしてしばらくしてきこえてきたのは、悲鳴。

ぎゃー!
え?う、おおお!ひ、ひもがぁぁ!
す、スキーが重いぃぃぐべっ!
あべしー!

「あー、やっぱりこうなりましたねー」

上から死屍累々を眺めつつ、西條が言う。
おー、面白いと写真をばしばし撮るS×H。

「まー、舐めてかかったからだろうね。俺は気をつけよう」
「俺も俺も」

軽いスキーないかなと探しながら刻生が続く。
写真を撮るのを止めたS×Hも同じことをする。
その二人の頭をスパンスパンとハリセンが叩く。
素晴らしいテンポだと西條が拍手。

「なーに手ぇ抜こうとしてるんですか」
「え、SWさん、お早いお帰りで」
「さっさと行って救済してやらないといかんと思いましてね」

おー、やっぱ死んでばかりじゃのうとハリセンをしまいながらSW-M。
渋々通常サイズを選んだ刻生がその隣に立つ。

「まー、これが役に立つと決まったわけでもないから、仕方は無いけどな」
「でも、冬の京に遠征するなら、役に立つはずですよ」
「そうだなー、雪上での高速機動に早く慣れないと。RBとはまた違うみたいだしな」

つまりはこうである。
雪上戦闘ということは足場が凄い悪い。
I=Dは重いから動きが散漫になるだろう。
ジャンプロケットでも着地はきつい。
そこで、盾に目をつけたのだ。
どうせ捨てる盾なら、ソリにして足場を確保した方がいい。
出来るかどうかはともかく、『そうした方がいい場合』への備えとして、今特訓する。
それが、致死率を下げてやろうという『ビギナーズの意地』というものだ。


「それじゃあ、俺たちも行きますか」
「刻生さん、死ぬときは一緒ですよ」
「S×Hさん、悪いが俺は男とは死ねん。あの子ともう一度会うまでは……!」
「愛、ですね……」
「ああ、愛だ」

「SWさん、何か向こう遠くを見て何かいってるんですけど」
「ほっとこ西條さん」

軽いハードボイルドを演出している男二人を背に、女二人がスタート位置につく。
SWーMはヘルプをするためにスキーは置いてある。

「いい?コツは後ろに行き過ぎないことだよ。勢いが凄いついてる前提なんだから、恐くても前に」
「はい。倒れたら助けてくださいね?」
「はは、間に合えばねー。んじゃいこうか」

二人で助走をつけ滑り出す。
取り残されたことに気付いた男二人が待ってー、と急いで滑り出す。


結局特訓は夕方まで続き、パイロットは雪にまみれて工場に帰って行った。
それを見て誤解した整備担当と大論争になるのはまた後のお話。

たくまが黒服軍団に勉強部屋に放り込まれるのもまた後の話である。

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