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カグランジ - (2023/06/03 (土) 22:13:26) の編集履歴(バックアップ)


カグランジ / 生きてこそ~特別版~ / あさき


千変(せんぺん)万化(ばんか)し 枯れてなお
ちぎれちぎれも たかだかと
その川 (いささ)かの瑕瑾(かきん)なく
すりすり すりすりと(こす)れ合ふ
枯れてなお 枯れてなお

(さえぎ)るもの無き名月 はんなり
立派なおべべに 赤帯垂らして
恥らうことなく山から川へと
ころころ 転んで
みんみんの声 届けてくれたのさ

ぴょんぴょん跳んではそうぞうしいが
ぴんとひらめいた かしこい彼は言う

「大きな声ではいえないけれど
小さな声では聞こえませんの!」

月蝕(げっしょく)は刻々とすすんでいる
夜蝉(よぜみ)が鳴いている
死にたくはなしと鳴き叫んでいる
(しかばね)には落葉(らくよう)が積もり
川となり 海となる
すべては千変し 万化し
その輪郭をぼかしながら
天高く遠く一片の雲に過ぎず

だが生きてこそ

呪われた鬼子(おにご)と 呼ばれ
(つば)を吐かれて 泥をなげられて
それでも 諸手(もろて)かざして
蒼天(そうてん)縷々(るる)(つづ)

望まれずに生まれて
愛を知らず枯れていく
愛を 誰か彼に愛を

枯れてなお


生きてこそ / あさき

  • long ver. (アルバム「天庭」収録)

―前編―

千変(せんぺん)万化(ばんか)し 枯れてなお
ちぎれちぎれもたかだかと
その川(いささ)かの瑕瑾(かきん)なく
すりすりと()れ合ふ
すりすり すりすり
枯れてなお 枯れてなお

この川の どこへ行く
いづくより (うま)れて いづこ

ねんねこに沈み 弾け飛び ぴゅっぴゅ

ぴゅっぴゅ ぴゅっぴゅ

蝉のような鼻をしたおかあさん
「このひとでなし!」

蝉のような口をしたおじいさん
「あいや おかしな なあ」

ぷんぷん! ぷんぷん!

蝉のような耳をしたおばあさん
「わあ ちんちくりん!」

ぷんぷんぷん!

蝉のような顔をしたおとうさん(代表者でもある)
「あいや みにくいもの におう におうぞ」

(さえぎ)るもの無き名月 はんなり
立派なおべべに赤帯垂らして
恥じらうことなく山から川へと
ころころ 転んで
みんみんの声 届けてくれたのさ

ぴょんぴょん跳んではそうぞうしい(後ろ前である!)が
ぴんとひらめいた かしこい()は言う

「大きな声ではいえないけれど
小さな声では聞こえませんの!」

それを聞いていた 彼の歩幅にあわせて
ぴょんぴょんと跳びまわる かわいらしい生き物たち
「わっはっは! あっはっは!
なんとも機知に富んだ 物言いであることか!」

ここには数多(あまた)
動物のような姿をしたものたちがいるようだ

うさぎのような長い耳を持つ ひと がいる
かめのような固い甲羅を持つ ひと がいる
たぬきのような挙動を見せる
抜き差しならない ひと もいるし
きつねのような 実に妖艶(ようえん)な ひと もいる
大きな 象のような
ついぞない鼻をもった ひと までもがここにいるのだ
なんともはや! すばらしい!

皆一様に跳ねまわっている
実にほほえましい光景だ!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰(ふかん)する
蝉のような鼻をしたおかあさん
「あのひとでなし!」

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような口をしたおじいさん
「あいや 不潔な なあ」

ぷんぷん! ぷんぷん!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような耳をしたおばあさん
「うそつきぼうや!」

ぷんぷんぷん!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような顔をしたおとうさん(代表者でもあるのだ)
「あいや あな おそろしや」

こうして毎日
呼吸も忘れて身とも影ともつかずが重畳(じゅうじょう)
そこから わんさと 子を積む 山車(だし)出て
厳粛(げんしゅく)に おごそかに 真っ赤な橋脚(きょうきゃく) 垂直に

のぼる!!

赤色の肌をちらりとみせる 立派な(ひげ)をもつ聖人
「いいかい諸君よ わたしは高きを恐れず進み
汚いものを無くそうと思うのだが

どうか!」

小さなつぶねたち
「お――!」

自身の立派な象徴を直視しながら
蜃気楼のような背中を震わせる聖人
「う う ううーん!」

どうやら彼はもう一声ほしいようである

「ど ど どど どどど どどどど

どうか!!」

大きなつぶねたち
「おお――――――!!!」

彼らの賛同に 聖人様はひどくご満悦なようで
仰向けになりながら
お天道さまに向けて黄ばんだ液体を吐き
こう叫んでいる

「おい貴様ら!
無価値で無様で滑稽(こっけい)(せみ)どもめが!
見ているか!
やったぞやったぞうやったのだ!
とうとうは私はやったのだー!」

彼の顔面は 自身で吐いた
黄ばんだお勤めに覆われている
彼はどうやら ついにやり遂げたらしい

おめでとう!

おめでとう!
赤い肌を見せる名も無き聖人よ!
貴殿はとうとうやったのだ!

私のような下々の者には
到底理解できない類の偉業であるが
彼はおそらく何かをやりとげたのであろう

おめでとう!

玉の緒溜まり 鳴き(どよ)もす

ころり ころり ころころ ころり

どこからか
何か 鉄をこすりあわせた音のような
不愉快な音が聞こえる

前から後ろから聞こえる

天と地の和解の証なのだろう
そう思いたい

精一杯だ 皆一生懸命だ

誰が為に 誰の為に

ここは何処だ
お前は誰だ
お前はどこに立っている

(くだん)のおかあさん
「うーん」

件のおじいさん
「ううーん」

件のおばあさん
「うーんうーん」

件のおとうさん(かつて代表者であった)
「ううーん ううーん ううーん」

苦しんでいる
何故かは分からないが
(本当は知っているのだが 教えることは出来ない)
苦しんでいる

遮るもの無き少年 ころころ
立派なおべべに赤帯垂らして
恥じらうことなく (そで)から袖へと
ころころ ころころ ころころ ころころ
ころころ ころころ ころころ ころころ
ころころ ころころ ころころ ころころ

後ろ前だが かしこい聖人が言う
「大きな声ではいえないけれど
小さな声では聞こえませんな!」


「わははは! ちがいないちがいない!
君は実に(おもむ)き深いなあ!」

くらがりの中で(うごめ)くひかりをあつめて
こぼれて あつめて

子を()つる(やぶ)は在れど 身を捨つる藪は無し

―そうこうしているうちにも―

月蝕(げっしょく)は刻々とすすんでいる
夜蝉(よぜみ)が鳴いている
死にたくはなしと鳴き叫んでいる

(しかばね)には落葉(らくよう)が積もり
川となり 海となる
すべては千変し 万化し
その輪郭をぼかしながら
天高く()く一片の雲に過ぎず

嗚呼 だが生きてこそ

呪われた 鬼の子供(おにご)と呼ばれ
篝火(かがりび)の影絵となりて
(つば)を吐かれて 泥をなげられて
それでも
諸手(もろて)かざして
蒼天(そうてん)縷々(るる)(つづ)

望まれずに生まれて
愛を知らず枯れていく
ああ 愛を
誰か彼に愛を

枯れてなお

いろいろなものに接吻(せっぷん)をしながら
赤い背中をした彼は言う
「言われていたのだ! 言われていたのだ! 言われて!
彼は呪われた子であり!
全くもって■■■■■である!

実際

彼に価値はない!
彼には何の価値はない!
彼の存在を喜ぶ者もいない!
彼は圧倒的にひとりだ!
彼の周りには誰もいない!
彼にはまるで希望がない!
微塵(みじん)の可能性もない!

そうだ彼は無意味だ!

無意味で無価値で無様で滑稽だ!

絶望的だ!

本当に笑えるだろう!
おわらいぐさだ おわらいぐさ!
わらえるぞ あいつを見てみろ
みんな! 見ろ! みんな! あやつを見てみろ!
わらえるぞ わっはっは ああ わらえる
わらえるわらえるわらえてしかたがない」

誰のことを指しているのだろうか
皆 首を三百六十度 こてこてと(かたむ)けてはみるものの
ちいとも想像がつかない
とにかく騒ぎに便乗することにしたようだ

うしろまえの動物たち
「しかたないしかたない! しかたがない!」

皆嬉しそうだ

「そうだろう!」

全身が焼けただれた男
「どうだ! それが私だ!」

真実を知り ひどく驚いた役者たち
「ぎゃあ! ぎゃふん! ぴゅっぴゅ!」

皆の口からは大量の
琥珀色(こはくいろ)の火虫が吹き出している
のたうちまわっている
喉を掻きむしっている
顔の大部分は凍りつき 崩れ落ち 剥がれ落ち
背中は炎に包まれている

かなしいことだ

もう誰も救われない

おめでとう! おめでとう()のひと!
してやったり! だ!

離欲(りよく)深正念(しんじょうねん)浄慧(じょうえ)とをもつて梵行(ぼんぎょう)(しゅ)無上道(むじょうどう)志求(しど)して 諸天人(しょてんじん)の師とならん
たとひ身をもろもろの苦毒(くどく)のうちに()くとも
我が心行(しんぎょう)を知らしめん

(しゅう)のために法蔵(ほうぞう)を開きて 広く功徳(くどく)(ほう)()せん
つねに大衆の中にして 法を()きて獅子吼(ししく)せん
願はくは我が功慧(くえ)の力 この最勝(さいしょう)(そん)に等しからん
この(がん) もし剋果(こっか)すべくば 大千(だいせん)まさに感動すべし

的然(てきぜん)として日の下
目を開く ひと
しんがりで()る ひと
正覚(しょうがく)とすがる ひと

我執(がしつ)()われ 枯れていく 其のひと

そうだ
これこそが真実だ
そうだ まさに真理

気がつくと誰も居ない
何者もいない
あれほどの騒ぎが嘘のようだ

ただ
夜空の中心で凍りつく
透明な川の 純朴(じゅんぼく)なせせらぎだけが聞こえる

全ては夢だった
全て夢の中の出来事

ほんとうに かなしいことだ

千変し 万化し 枯れてなお
ちぎれちぎれもたかだかと
その川聊かの瑕瑾なく
すりすりと(こす)れ合ふ
すりすり すりすり
枯れてなお 枯れてなお
枯れてもなお

そこに何の意味があろうか

私にはわからない
誰にもわからない
もうここには誰もいない

                天の庭 樹のひと曰く


―後編 本編―

おぼろげに(おぼろ)の橋を渡っていると
(そら)を呼ぶ声が聞こえる

受戒(じゅかい)せんと数多の落葉たちの

「宿報である」と言う叫びだ

その声は次第に験仏(けぶつ)の代弁として
眼下 月光あまねし大河を ひた流れる現未(げんみ)と結び
灼熱の虹へと姿を変えていく

「いずくより ああ 生れて いずこ」


―天の庭へ―

(あま)つ日の不請(ふじょう)の清く
彼のひとの(あわい)をすり抜ける
あまりにも まぶしすぎて
誰も 気がつくことは無い

かなしいことだ
ほんとうに
おそろしいことだ
ほんとうに

暗澹(あんたん)たる中天を(また)ぐ灼熱の梯子(はしご)
群がる落葉たちが口々に叫んでいる

「枯れ■■■■し! 朽ち■■■■し!」
「ここは寒い ここは熱い」
(はらわた)が凍る!腸が燃える!」

呪われた鬼の子供は(よど)
日輪の大つぶに揺れながら
流れ木の(つが)りをれかへる
()きる六識(ろくしき)の縷々と綴り

今日も生きてこそ
明日も生きてこそ
枯れてなお
影の地につきささる
灼熱のたばしり朽ちてなお

「いいか 小さなものも 大きなものも
皆 必ず 救われない
絶望的だ」

あまねく 無量(むりょう)無辺光(むへんこう) 無碍(むげ)無対(むたい)光炎王(こうえんのう) 清浄(しょうじょう)歓喜(かんぎ)智慧光(ちえこう) 不断(ふだん)難思(なんじ)無称光(むしょうこう) 超日月光(ちょうにちがっこう)を放ち 塵刹(じんせつ)を照らす
一切の群生(ぐんじょう) 光照(こうしょう)(かぶ)

それでも
生きてこそ

生きてこそ
なにくそ こなくそ
生きてこそ
それでこそ

今日もまた 生きてこそ
一秒先を生きてこそ
二秒先を生きてこそ
三秒先を生きてこそ
今日も明日も明後日も来週も来月も来年も
生きてこそ

「そうだ そうだ!
俺はお前を愛してやるぞ!
俺だけはお前を愛してやるぞ!」

             天の庭にて 赤い背中の男曰く


(編者注) この色の部分は歌詞カードに記載はないが(ほぼ確定で)歌っている部分です。
(注2) この色の部分も歌詞に記載はなく聞き取りが困難であるものの、「仏説無量寿経」および「正信偈(正信念仏偈)」からの引用と推測されている部分です(指摘コメントがあった動画: https://youtu.be/KzpYPWecJHI)。
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