BiS 新生アイドル研究会 wiki

ヒラノ ノゾミ

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
のんちゃんのんちゃんのんちゃんのんちゃんのんちゃんのんちゃん!

110410_193045.jpg

 「一昨日」と平野さんが言った。

 なんで僕らは音楽サイトの話をしているのに、急に一昨日の話になるんだ?と不思議に思っていると、「OTOTOY」という紛らわしい名前のサイトがあるらしい。「私、明日そこで見つけたオーディション受けるから東京へ行くんだ。」ふーん。僕は平静を装うのに必死だった。え、オーディション? え、東京? 内心でひどく動揺していた。普段の平野さんはせいぜい遊びに行くといっても仙台だから。

 平野さんは僕と同じ高校へ通っていたんだけれど、今は休学している。女優になりたいんだ、と休学してから彼女から聞いたときには、まぁ人それぞれいろいろ事情があるよね、と僕は大人ぶった返答をした。休学するなよ、とうまく説得できるほど僕は大人じゃない。そのときひどく自分に苛立った。

 「なんか……受かっちゃった」。え? え? 数週間後、平野さんはオーディションに受かったらしい。東京へ行くという。でも女優じゃなくてアイドルになるらしい。もうわけがわからない。「私もよくわからないんだ……。」平野さんがいつものようにえへへ、って感じで柔らかく上品に笑うのが電話越しに聞こえた。僕もえへへ、と笑った。それしかできないし。

 僕らが高校3年生の秋、平野さんは秋田から上京して行った。僕は相変わらずチャリをこいで高校へ行っていた。ふと横を見ると、いつものように秋田駒ケ岳が見える。平野さん、AKB48みたいになるのかな?

 一昨日もといOTOTOYに平野さんの記事がすぐに掲載され始めた。グループを作った女の子が「オーディションですごく帰りたそうだったから」と平野さんを選んだ理由を話していて、だったら帰してやれよと思ったし、っていうか帰してくれよ。平野さんもインタビューされていた。高校の休学のことまで話していた。やっぱり不思議だ。平野さんどうなっちゃうんだろ?

 平野さんがアメブロを始めた。読者登録しておいた。平野さんがTwitterを始めた。フォローするのは気恥ずかしくて、非公開のリストに入れた。その中には平野さんしかいないんだけど。平野さんがファンと会話をしている。平野さんが、家族でも友達でもない人たちから熱心に話しかけられてる。なんだか混乱してきた、なんなんだこの人たち?

 秋田の日常なんてたいしたことは起きない。そう考えていたから、平野さんの上京にはわりと驚いたし(でもなんとなく高校の友達には話さないでいた)、そう思っていたら震災が起きてそれどころじゃない毎日になった。そのまま秋田で進学した僕の大学の入学式は5月にずれ込んだ。

 わりとこの世の中には思いがけないことが起きるらしい。日常がやっと落ち着いた頃には、もう平野さんのグループのCDが出ていた。BiS。読み方がわからない。でも、何が起きるかわかんないから、平野さんが売れてもいいんじゃないかなと思う。だけど、平野さんが秋田でライヴしたら、僕はどんな顔して見ればいいんだろ?

 平野さんが秋田にいたのが一昨日の出来事のように感じるよ。

(『一昨日の出来事』第一話)