目の前の包帯の男と、どう戦うか… そう考えた矢先、ルイスの脳裏に過ぎったのは自分に支給された品。
 大量のスペクタクルズ…その一つを素早く取り出して使用する。
「何の真似だ、小僧ッ!」
 その隙を逃すまいと、志々雄はルイス達との距離を一気に詰めて斬りかかろうと駆ける。
 ――志々雄はソーディアンの扱い方を完全に把握しているわけではない。 リオンが扱っているのを見てはいるが、如何にして晶術を放つか等まで知ったわけではないのだ。

「―! ピコハンッ!」
 ルイスの後ろに居たコレットも、ただ見ているだけではない。 戦いを止めたくとも、相手が明確に殺意を持って斬りかかって来るのなら何もしないはずがないのだ。
 しかも、コレットを守ろうとするルイスに対してだ―― 反射的に、武器がなくとも繰り出せるピコハンを志々雄に放つ。
 勿論、やや緩やかな放物線を描いて飛ぶピコハンだ。 志々雄に的中するはずもないのだが、それでも若干の間を稼ぎ、僅かな隙を埋めるには十分だった。
「シャァッ!」
「くっ!!」
 下段からの斜めの切り上げを、手にした傘で弾いて防ぐ。 …なんて重い斬撃なんだ!
 だが一撃凌いだ。直後の隙にすかさず、ルイスは反撃に移る。 身体のバネを利用した切上、そして跳び上がった勢いと、落下と共に返す刃の振り下ろし、そう――
「虎牙破斬ッ!!」
「…焔霊ァッ!!」
 対する志々雄もルイスの一撃目を寸で見切ってかわし、振り下ろしに対しては切っ先を地面に擦らせ振り上げる壱の秘剣<焔霊>を叩きつける。
 本来は愛用の『無限刃』によって発揮される志々雄の秘剣も、ソーディアン・ディムロスの発火力を以ってすれば容易い事であった。
「う、ぐっ!?」
「ルイスっ!」
 斬撃は防いだ…が、伴って巻き起こる炎がルイスの腕を軽く焦がす。 若干弾かれるように距離をとって着地し、構えなおすルイス。
 その意識の中に、スペクタクルズによってもたらされた志々雄の情報が、着々と入って来る。

 ――志々雄真実(ししおまこと)。全身火傷によって発汗機能が失われ、体温調節が出来ない。代わりにその熱量によって並の人間を上回る力を得た。
 弱肉強食を中心とした思想を持ち、極めて攻撃的な性格をしている。 戦乱の世を生き抜き、伴って戦闘能力、経験は類を見ない。
 刀剣による戦闘を得意とし、炎を纏う剣技を用いる――

 …ざっと概要だけ認識しても、ルイスが初見で感じた手強さは間違いないと判断できた。 しかも――
(攻撃力、体力、どれをとっても桁違いだ… 弱点らしい弱点も――)
 ――あるにはあった。 十五分を超える長時間の戦闘には耐えられない身体…とはあるが、こんな相手にそんなに長時間渡り合えるともルイスには思えなかった。

「…なかなかいい代物じゃねぇか、剣。 両刃の西洋剣はちいっと慣れないが、気に入った」
 一方の志々雄も、焔霊の切れを見てディムロスにそう漏らす。
『…褒め言葉と受け取らせてもらう。 少々気に入らないが、我と貴様の相性は悪い方では無いようだからな』
「後はその生意気な口をちったぁ慎め、そうしたら最高だ」

「…ルイス、大丈夫?」
 コレットがルイスの受けた傷を心配して声をかける。
「大丈夫、これぐらいは大した事無いよ」
 火傷は軽いもの、斬撃をまともに食らったわけでも無いのでダメージは大きくない。 だが――
「…けどこのままじゃ、勝てない」
 今のルイスひとりの実力では、目の前の志々雄には及ばない。 ルイスの後ろにはコレットも居るが、彼女は武器らしい武器も持っていない。
 …いや。持っていたとしても、志々雄に勝てる見込みは薄い。それだけ目の前の男は手強いのだ。
「場合によっては……コレット、君は僕を置いて逃げられる?」
 ルイスのその問いに、コレットは首を横に振る。
「おうおう。勝ち目が無いと見て、女だけでも逃がす算段か、小僧。 弱者らしい見下げた発想だぜ」
『志々雄!』
 言い放つ志々雄にクギを刺そうとするディムロスだが「喧しい」と志々雄は一蹴する。

「確かに、勝ち目は無い… けど、僕だってヘタレニートなのに達人の師匠に剣を教わった。ただ"弱者"っていうのは違うよ」
「ほう…」
 ルイスの物言いに、興味深げに志々雄が口許をつり上げてニヤリと哂う。
 そうして何を考えたか、仕舞っていたフランヴェルジュをルイスの足元に放り投げて寄越した。 カラン――と音を立てて転がったそれを、ルイスは拾い上げる。
『志々雄、何を…』
「剣だと言ったな、小僧? ならそんな傘より、そっちの方が良いだろうが」
「…つまり、僕の事をただの弱者じゃないと判断してくれたわけだ」
 ルイスは傘をデイパックにしまうと、あらためて手にしたフランヴェルジュを握って構える。 確かに、こちらの方が手に馴染んだ。
 ――弱者には容赦が無いが、強者にはそれなりの敬意を払う―― なるほど、確かに志々雄はそういう性格をしているようだ。
「勘違いするな、小僧。 テメェはまだ『見込みがある』だけだ、自惚れるんじゃねぇ」
 志々雄も再びディムロスを構える。



 と、その時コレットが、唐突に『翼』を発現させる。
『なっ!? 天使…!?』
「…こいつは驚きだな。地獄みてぇなこの戦場に『天女様』ってか、小娘?」
 驚きの様子をみせるディムロス、そして志々雄。 そんな二人をよそに、コレットはルイスの腕を掴むと――
「え、コレッ―― うわああぁぁっ!!?」
 ルイスを掴んだまま、コレットは一気に急上昇する。 …志々雄の剣が届かないほどに。
「チッ…  おい、剣! リオンってクソガキが使ってた火の玉はどうやって出す?」
 高度を十分にとった後、コレットはルイスを抱えたままその場を一気に飛んで離脱し始める。
 志々雄はそれを晶術ファイアーボールで撃ち落そうと思ったらしいが…
『戦意も無く逃げる相手を追い撃つのは、我の趣味ではない。 貴様には教えん』
「…テメェをこの場で叩き折ってもかまわねぇんだぞ?」
『出来るものなら試してみるがいい。 ――仮に出来たとして、貴様は戦場で丸腰になるだけだ』
 そんなやり取りをしている間に、飛んで行った二人は建物に遮られて見えなくなっていた。

「…まあいい。 どれ、さっきのあの野郎でも探しに行くか」
 気を取り直し、志々雄はさっきの男――黒影を捜索して、叩き切る事にした。


【F5 町の燃える酒場前・昼過ぎ】

【名前・出展者】志々雄 真実@るろうに剣心
【状態】火傷(無いも同然)
【装備】ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー
【所持品】支給品一式、予備のマガジン、不明支給品
【思考】基本:所詮この世は弱肉強食… ゲームなんて関係ないが、強い奴が生き残るべき
1:さっきのあの男は酒場の表の方か…?
2:この剣はなかなか喧しいが、使えるな
3:あの小僧(ルイス)、生き残ってもう一度刃を交えて見たいもんだ


【ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー】
【思考】
1:マスターとして志々雄は相性がいいのだが…
2:リオンを死なせてしまったのは我にも責任がある…


 *   *   *

 一方コレットとルイスは、上空を飛行中。
「自分から死ぬ気で掛かるなんて、駄目だよ!」
「他に何も思いつかなかったんだって! っていうか、コレットこそこんな風に飛んで逃げられるなら最初からやってよ!」
 ……飛びながら喧嘩中だった。
「だってあの包帯の人も止めたかったんだもん!」
「それは無謀をこえてある意味尊敬……ってコレット、なんだかフラフラしてない…!?」
 少しずつフラフラと、コレットの高度が下がり始めていた。

【?? 上空・昼過ぎ】


【名前・出展者】ルイス・キャパシティニ@テイルズオブコンチェルト
【状態】腕に軽度の火傷
【装備】フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア
【所持品】支給品一式、スペクタクルズ(×97)@テイルズオブシリーズ フレイアの傘@テイルズオブコンチェルト
【思考】基本:殺し合いには乗らないが、殺しを完全に否定はしない
1:コレット、まさかこのまま墜落するんじゃ…!?
2:フレイアとディーが気になる
3:あの志々雄って人… もう一度戦いたくは無いなぁ


【名前・出展者】コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア
【状態】健康、所々に擦り傷
【装備】無し
【所持品】支給品一式、不明支給品
【思考】基本:殺し合いには乗らない。乗っている参加者がいれば説得する
1:飛びつかれたよ~…
2:参加者のゼロスを探したい

※二人がどこにいて、どの辺に落ちるかは次の人にお任せします

 *   *   *
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最終更新:2008年12月16日 16:31