「自らの居場所を知らせるなど、馬鹿な奴だ」
「……ほう、余裕だな。クソガキ」

不適な笑みを浮かべたリオンは、ディムロスを鞘から抜いた。
シャルティエとは違い、大きな刀身。使い慣れるのには時間がかかるだろう。

「僕1人で十分だ。貴様はそこで待っていろ、シシオ」
「屍は拾わんぞ」
「フン、余計なお世話だ」

リオンはディムロスを持ったまま、銃声の聞こえた方向へ走り出した。
コアクリスタルが光る。声は勿論、届かない。


   *   *   *


「やはり追いかけてきたか……」

しかしスティンガの想像に反して、追いかけてきたのは大きな剣を持った少年だけだった。
ミイラ男の方はといえば、その場から動かず少年に視線を向け、かと思えば興味なさそうに他の方向を向いた。
スティンガはサブマシンガンを構えた。離れすぎていると当たらないが、だからといって近すぎると不利だ。
何時でも引き金を引けるように、準備だけは――
しかし、途中で少年はピタリと止まった。

「……何?」

諦めて戻るのかと思ったが、少年はその場に突っ立ったまま動かない。
こちらの武器が銃だと分かっていながら、立ち止まったのか。あれではまるで「撃ってください」と言わんばかりだ。

(――どうする?)

何かを考えているのかもしれないし、何も考えていないのかもしれない。
スティンガは引き金を引こうと――

「…………」

して、手が止まった。少年が口を動かしているのが見えた。何かをこちらに伝えようとしているのだろうか。
しかしそれならば、もっと近づいて聞こえやすい声で言えばいい。けれど少年は離れた場所で、聞こえづらい声で、何かを喋っている。
――伝えようとしているのではない。じゃあ、何を――
少年の口の端が吊りあがったことに、スティンガは気づけなかった。

「――ファイアボール」

3つの火球が、飛んだ。

「何っ……!?」

火。
それはスティンガ・アルスが最も苦手とするものである。その火で出来た球が、スティンガに向かって飛ぶ。
慌てて避けようとするが、全てを避けきるのは難しい。
――結果、火球のうち1つがスティンガの右手に当たった。じゅうっと肉が焼ける音。

「ぐああああああっ!!」

スティンガは右手を押さえて悲鳴を上げる。
痛みは我慢できる程度なのだが、自身の右手に火が当たって焼けたというショックが、自身の右手の醜い火傷が、スティンガを混乱させた。
がちゃん、と音を立ててサブマシンガンが地面に落ちた。


   *   *   *


ファイアボールを唱え終わった瞬間、リオンは再び走っていた。
火球が命中して、銃器が地面に落ちるのが見えた。――計画通り。
火傷に悶える男には目もくれず、リオンは地面に落ちた銃器を思い切り蹴飛ばした。煩い音を立てて、銃器は茂みに消えた。
ゼェゼェと苦しそうに肩を上下させる男に、ディムロスを突きつける。

「――さて、質問に答えてもらおうか」
「…………」
「一つ目。お前に仲間はいるのか?」

男は答えない。息を整えるのに精一杯なのか、火傷のショックが抜けないのか、――リオンの質問に答える気がないのか。
リオンは不機嫌そうな表情になった。――イライラする。
リオンはディムロスを振り上げると、男の無傷の左手首に向かって振り下ろした。

「ああああああっ!?」

左手と手首が切断され、男はまた悲鳴を上げた。リオンはそれを冷たい目で見ている。

『リオン……貴様ぁっ!!』
「質問に答えろ。これは命令だ。……それから、僕はこいつの扱いに慣れていなくてな。手が滑って貴様を殺してしまうかもしれない」

しかし男はそれどころではないようで、手の無くなった手首を見て震えていた。
左手が無い。血が止まらない。このままでは――
リオンはそれを見て舌打ちした。この男から情報を搾り取るのは無理だと、判断した。
リオンは再度ディムロスを振り上げた。コアクリスタルがチカチカと光る。必死な声が聞こえる――ああ、聞こえない。
「――――え?」

ブオンッ
風を切る音。
ぐしゃ
“何か”が潰れる音。

真っ赤な液体が飛んで、リオンの青い軍服に少しだけ付着した。


   *   *   *


「どうだった? ――いや、聞くまでもないか」
「当然だ」

誰の物とも分からぬデイパックを持って、リオンは戻ってきた。ディムロスの剣先に血が付着している。
そして少々分かり辛かったが、リオンの服にも少しだけ染みがついていた。これで志々雄は、全てを理解した。
この目の前の華奢な少年は、人を殺して戻ってきたのだ。
それでも尚、リオンの表情は全く変わっていなかった。

「これで分かっただろう、シシオ」
「ああ。お前を敵に回したら厄介だってことはようく分かった」
「フン、分かりやすい嘘を」

2人の“鬼”が、哂った。


――E5の草原。
左手が無くなり、右手には無残な火傷。そして頭部がぐちゃぐちゃになった遺体がそこにあった。
彼が死ぬ間際に何を思ったのか、何を見ていたのか。
そんなこと――分かる筈が無い。その遺体から表情を読み取ることなんて出来ないのだから。

死体は、なんにも喋らない。


 【スティンガ・アルス@蜜甘横町 ~そして今日も朝が来る~ 死亡】


【F5 街の前・朝~昼前】

【名前・出展者】リオン・マグナス@テイルズオブデスティニー
【状態】少しの疲労(戦闘には特に支障なし)、TP消費小
【装備】ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー
【所持品】支給品一式、不明支給品、スティンガのデイパック
【思考】
基本:シシオ以外の参加者を殺害。終わったらシシオを殺す
1:そういえばあの男の名前を聞き忘れたな
2:街で行動方針を決めたい
3:マリアン……

【名前・出展者】志々雄 真実@るろうに剣心
【状態】健康
【装備】フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア
【所持品】支給品一式、不明支給品
【思考】
基本:リオン以外の参加者殺害。終わったらリオンを殺す
1:やるじゃねえか、クソガキ
2:強い奴と戦いたい
3:弱い奴を殺す

※スティンガの死体はE5の草原に放置してあります
※E5の森のどこかにリオンが蹴っ飛ばしたサブマシンガンが落ちてます


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最終更新:2008年11月19日 18:18