「…全く、今度会ったら連中一人ずつ吹っ飛ばしてやらないと…… 気が済まないわ」
結局ゼロスには謀られ、小説家に良いようにペースを握られっぱなしだった。 イライラが溜まっていく。
だがまだリシェルは冷静だ。 独り言とはいえ"一人ずつ"吹っ飛ばすということは、複数人数を同時に相手にしてはリスクが大きすぎる、と判断できている証拠…
言葉とは裏腹に、リシェルは町から離れるように歩を進める。
手元の手榴弾はまだたっぷりあるが、無限じゃない。 『手榴弾100個入りお得パック』なんて説明が付いていたが、正直助かっている。
彼女はオリジナルの炎の魔法を行使する事が出来るが、それだって有限なのだ。 加えて彼女はどちらかと言うとトリガーハッピー…ならぬ、マジックハッピーとでも言おうか。
魔法をバンバン放つと気分が高揚して、押さえが利きにくくなってさらに乱発したくなる性格だ。 自分でも自覚はしているが、何とも抑えがたい。
手榴弾以外は… エメラルドをあしらった指輪が入っていた。 なんでも説明書によれば、魔力の消耗を抑える事の出来る指輪…らしい。
一応既に指にはめてはいるのだが、まだ試しては居ない。 消耗が抑えられるとしても、無駄撃ちは避けたいからだ。
湖がリシェルの視界に入る。 座標的にはG3から西南西へと結構歩いていたはずだから、そろそろF4かE4に差し掛かっているだろうか…
森の方から火の手が上がっているのが視界に入ったが、それ以上に湖のほとり…誰かが居る。
見た感じ男一人、女一人… 距離が開いているので細かい確認は出来ないが、少女の方は巫女装束風の衣服に大きなリボン…男の方はおよそ人間には程遠い肌色に見える。
名簿に乗っている誰なのかは確認できそうに無い。 もっとも、知らない名前ばかりなので戦力の予測も何も出来ないのだが…
「…向こうも流石に気が付いているでしょうし。 一応ファイアボールの攻撃範囲だけど… 命中率は当てにならないし、向こうの出方も予測できないわね」
だとしたら…相手は二人、どうするか。歩みは止めず、リシェルは彼らに近付きながら思考を巡らせる。
相手の攻撃射程は不明。 もし敵意を持っていて、積極的に仕掛けてくるならいつ来てもおかしくない… 相手がこちらの姿を確認して、もう警戒態勢に入っているのはここからでも見て取れた。
向こうもこちらの出方を覗っているのだ。 だとして動きを見せないのは何故だろうか?
一つは、まだ攻撃射程外だという可能性。 接近戦しか出来ない相手なら、こちらが近付くまで攻撃は出来ない… その場合は動かないと言う事はよほど実力的に自信があるのか。だが接近戦しか出来なくとも、積極的にこちらに向かってくる場合も考えられる。
ならばもう一つ、攻撃の意思が無い可能性。 …このばあい、こちらが攻撃の意思を見せないなら味方だと判断する可能性が高い。
勿論、こちらを謀ろうとしている可能性も考えられる… が、相手は二人連れだ。 もしそうなら余程気の合う同士か、互い腹を探りっぱなしの狸同士か…
前者の可能性は低い。後者だとしたら、やはりいきなり自分が狙われる可能性は低い。 こちらが探りを入れる余裕はあるはずだ。
…勿論、全てリシェルの推測に過ぎない。 だが少なくとも、もう相手の顔がにわかに確認できる距離まで近付いたにもかかわらず、リシェルには何の攻撃も仕掛けてこない。
行ける。 リシェルはそう踏んだ。
「…はぁい、こんにちは。 攻撃してこなかったって事は、さっきの奴らみたいに殺し合いに乗ってるわけじゃないみたいね」
思わせぶりな付け足しをしつつ、攻撃の意思が無い事を手振りと友好的な挨拶でアピールする。
「さっきの奴ら?」
巫女服の少女が反応する。 ビンゴ…食いついた、とリシェルは心の中で呟く。
「ええ… 生きた心地がしなかったわ。私の姿を見つけて、いきなり呪文を撃って来て…。やっとの思いで逃げはしたけれど…… あなた達は?」
嘘は言っていない。 効率のいい騙し方は、限りなく真実を述べる事…なのだとリシェルは認識している。
「呪文?」
男の方が今度は反応した。 …まるで岩のような質感の肌の男だ。 人間だろうか、それとも別の何かだろうか? 軽く解剖したり実験したりしてみたいが、それは残念ながらまた今度だ。
リシェルは小説家から襲撃された際の状況を、上手い具合に取捨選択しながら伝える。
自分からアレンらに仕掛けた事は伝えず、ゼロスが裏切った事実だけを伝えるように…都合のいい部分だけを抜き出して真実のごとく語った。
「…何者かはわからないが、その呪文は知っている。 …アイツに通じている可能性もある、か」
「なんならオバさんも私に協力して、こんな人殺しゲームを終わらせない? 仲間は一人でも多い方が心強いわ」
上手い具合に乗せる事が出来た、とリシェルは心の中でほくそ笑む。 それに、ゲームを終わらせるのは悪くない…そう思った。
殺し合いと言う希少な観測結果は確かに興味深いが、自分が参加させられて常に危険にさらされるのは、少々割に合わないのも事実だ。
最悪、この連中は自分の安全を確保できる駒であればいい。 もしゲームから離脱できるならそれで良し、出来なくとも味方であるうちは戦力に違いないのだから。
きわめて友好的に、リシェルは返事を返す。
「…よろしくお願いするわ。 それから"オバさん"は止めてくれないかしら… リシェルよ。
リシェル・メルゲンハイム」
「ゼルガディス=グレイワーズだ」
どこかホッとしたような雰囲気の表情でゼルガディス。 やっとマトモそうな奴が…と思っていたかどうかは本人にしかわからない。
「私は博麗 霊夢よ、オバさん」
名乗ったにもかかわらず、霊夢は霊夢で相変わらずリシェルをオバさん呼ばわりのようだ。
それ以上言いはしなかったが、リシェルは内心「次にオバさん呼ばわりしたら容赦無く焼き払おうかしら」などと…かなり気にしていたのだった。
【E4 湖のほとり 昼前】
【名前・出展者】リシェル・メルゲンハイム@PQR
【状態】逃走と移動でのちょっとの疲労
【装備】手榴弾×75個ぐらい エメラルドリング@テイルズオブシリーズ
【所持品】基本支給品一式
【思考】基本:ゲームに乗って生き残る
1:霊夢とゼルガディスを利用して生き残る
2:主催者を倒すのも選択肢の一つかしら
※:コトナに遭遇して攻撃を仕掛けた事は伝えていません
【エメラルドリング@テイルズオブシリーズ】
マナの消耗を三分の二に抑えるエメラルドの指輪。
【名前・出展者】博麗 霊夢@東方Project
【状態】健康
【装備】鉈@ひぐらしのなくころに
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者打倒の為の仲間を探す
1:コトナを探す
2:ゲームに乗っている奴はぶっ飛ばす
※:リシェルがゲームに乗っている事には気付いていません
【名前・出展者】ゼルガディス=グレイワーズ@スレイヤーズ
【状態】やや疲労、右足に火傷(ある程度治療済み)
【装備】万能包丁@テイルズオブデスティニー2
【所持品】支給品一式、お料理セット@テイルズオブデスティニー2、ロリポップ@テイルズオブジアビス
マジカルポット@テイルズオブデスティニー2、ルルさんセット@スレイヤーズ
【思考】基本:不明(少なくともマーダーではない)
1:コトナに会って謝りたい
2:あの子供(フレイア)の使っていた魔術が気になる
※リシェルがコトナと会っていて、攻撃を仕掛けた事は知りません
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最終更新:2008年11月23日 11:53