「やっぱり明かりがついてる。今日もまだやってるんだ・・・」
そういえば出撃前、あの人はいつも遅くまで微調整してたわね。
ちょっとだけ覗いてみようかしら。私は軽い気持ちで格納庫の扉をそっと引いてみた。
やっぱりいた。自分の機体の前で昔と同じようにモニターとにらめっこしてる。
あ、ストレッチした。もうそろそろ終わりかな。
名残惜しいけど邪魔はしたくないし。
そっと閉めたつもりだった。なのに。
ガタンと大きな音を立てて引いてしまった。覗いてたのバレない・・・わけがないか。
しょうがない、私は心を決めて格納庫の彼のところに向かった。
没頭してた彼でも気づくぐらい大きな音がしたんだろう、彼はこちらを怪訝そうに伺ってた。
「珍しいな、おまえがここに来るなんて」
「ええ、少し呑みたくなったからBARに寄ってたんです。その帰りに明かりが見えたものだから」
嘘。出撃前はずっと様子を見に来てた。あんたはちっとも気づかなかっただけよ。
「そうか。・・・その、なんだ。2人のときは昔のように接してくれないか?どうにも慣れん」
「・・・そうね。じゃあお言葉に甘えてそうするわ。」
よかった、彼は何にも変わってない。まだ彼と距離は開いてない。
「あなたのところの部隊、調子いいみたいじゃない。連勝の報告が私のところまで届いているわよ?」
「当たり前だろ、誰が指揮してると思ってる。」
「ハイハイ、そうでしたね。その自信はいったいどこから来るのかしら。」
ふと彼のモニターが目に入った。たくさんの文字と記号の羅列。
でもこれは・・・
「・・・ねぇ?どうして重火力の装備の調整なんてしてるの?確かあなたが得意なのって狙撃よね?」
「あぁ・・・狙撃は後進に譲った。今の俺は隊長だ。最前線に上がって指揮をせんとな。」
言葉が出なかった。
変わってないように振舞っていただけで、ずっとあのことを引きずってるなんて。
「あぁ、もっとも俺が狙撃に回ることもあるぞ?今回は戦場の地形から考えて前に出たほうがいいからだな」
焦って取り繕う彼。引きずってるのを隠したいのだろう。
でももう遅いよ。あんたのことは誰よりも私がわかるから。ずっとパートナーだった、私が。
ずっと私が黙ってると彼も気づいたんだろう。ポツリと呟いた。
「すまない。」
「ううん、私のほうこそ変なこと聞いてごめん。そっか、隊長なんだよね。」
なんとも気まずい。ごまかすように私はしゃべっていた。
「あーぁ、複座式のブラストがあったらな~。私もずっと一緒に戦えたのに。・・・そしたらずっと一緒だったのに。」
「なっ、お前・・・」
彼の声で私は気づいた。口を思いっきり滑らせていたことに。
でも発した言葉は取り消せない。なかったことに出来ない。でも、こんなこと言うつもりじゃなかった・・・
「すまん、今はまだおまえの願いを聞き届けてやることは出来ん」
葛藤で動けなかった私に彼はこんな言葉をかけてくれた。
思わず彼のほうを振り向いていた。彼は目を合わせてくれなかったけれど、その顔は真っ赤だった。
「俺の部隊のひよっこどもが一人前になって無事自分の道を歩めるようになるまでは俺が導いてやらないと。
危なっかしい連中ばかりなんだ。・・・後回しになってすまない。」
全部を聞くまで待ってるなんて出来なかった。思わず彼の胸に飛び込んでいた。
「ねぇ・・・ホント?嘘じゃないよね?」
「当たり前だ、俺がおまえに嘘なんてついたことないだろう?」
彼の胸はとても温かくて大きかった。そういえばあの時以来だ、こうやって抱きしめられるのは。
こうやって彼の顔に手を添えるのもあの時以来・・・
彼の唇はカサカサで少し痛かったけど、でもとても暖かかった。
どれくらい時間が経っただろう、完全消灯のサイレンの音。
名残惜しいけど、今日はこれで終わり・・・。そんなの嫌だ。まるで夢みたいに消えちゃいそう。
「ねぇ」
大きな声を出したはずなのにとても小さな声。
「明日の戦闘が終わったらお祝いしよう?あたしの部屋で。
ずっと取っておいたワインがあるの。あたしの生まれた年の。一緒に飲もう?」
「ワインは苦手なんだが、たまには悪くないな」
「やったっ・・・それじゃ明日ね。料理も作って待ってるから。」
「そうか、それは楽しみだ。必ず戻ってこないとな。」
宿舎に向かう途中ずっと繋いでいた手はやっぱりとても暖かかった。
明日は彼と私の記念日。そう思うととても今日眠れそうにない。
明日は何を作ろう。あのワインに合いそうな料理、今から探さないと。
無事に明日も帰ってきますように。私に笑いかけてくれますように・・・
2-191-192のベテランとオペ子を書きたくて暴走した
オペ子の「見ちゃダメ」ファイルの中身って実は業務資料じゃなくてこんな日記なんじゃなかろうか?
そう思うと、オペ子可愛いよオペ子
最終更新:2010年02月14日 17:32