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気だるいまどろみの中、俺は夢を見ていた。
ここ数年ずっと見ている夢。繰り返し何度も見ている夢。
とても楽しい夢。とても悲しい夢。
今日もまたあの夢が始まる・・・


「よっしゃっ!今日から俺も正式なボーダーだぜっ!」
任命式を終え部隊長へ挨拶も済ませ、俺は格納庫へ軽い足取りで向かっていた。
ようやく訓練用のブラストじゃない、俺専用の相棒とご対面だ、嬉しくないわけがない。
隊長に教えられた格納庫に着くとロールアウトしたばかりの機体が2機並んでいた。
ん、2機?
「あんたねぇ、自分の機体が手に入って嬉しいのはわかるけどもう少し気を引き締めたらどう?」
「げっ、隊長の言ってたパートナーっておまえかよ・・・」
「私だってあんんたみたいな熱血バカとパートナーを組むことになるなんて最悪よ、もう」
「なんだとっ、この真面目っ子!マニュアルだけじゃすっばらしい活躍はできないんだぞっ!」
正反対な俺たちがパートナーなんて皮肉なもんだぜ。
今回の訓練生の中で主席とブービーの組み合わせかよ。もっとも俺の真価はあんな試験じゃ計れやしないがな。
「ハイハイ、分かったから試運転しましょ。自分用にカスタマイズするんでしょ?」
「あったりまえだろ!俺に最適な設定にして大活躍させるぜ、相棒っ!」
ゴゥンゴゥンという低い起動音。心が躍る。こいつで俺は英雄になるっ!
「よし、各部問題なし。順調ね。あんたはどうなのよ?」
「・・・おっかしいなぁ、右腕が全然うごかねぇ。どうなってんだこりゃ?!」

何度見てもやっぱり懐かしい。その後あいつに先導されて隊長のところに行ったけど全然取り合ってくれなくて。
しかも交換パーツも支給されなくて。困った俺に狙撃を薦めてくれたのはあいつだったっけ?隊長だったっけ?

「はぁー、狙撃かよ。細かいし待たなきゃいけないし俺には向いてないだろ、チクショー」
「ほら、文句言わない。片腕だけで動き回りながらマガジン交換とか出来ないでしょうが。」
「ちぇっ、ずっと剣構えてるからいいんだよ。俺なら剣だけで全部叩っ斬れる!」
「蜂の巣になるだけだからやめなさい。ほら、私がサポートしてあげるから。まずは左手で照準合わせる練習ね。」
「・・・おまえはそれでいいのかよ」
「よくはないわよ。でもしょうがないじゃないパートナーなんだから。
 そうね、あんたが1人で狙撃できるようになったら前線に上がらせてもらうわ。それまではつきっきりでサポートしてあげる。
 銃身の固定からマガジンの取替えまで、全部やってあげるわよ。」
冗談じゃない、こいつに借りをこんな形で作るのかよ。かっこ悪すぎる、それだけは絶対阻止だ。
対等な関係でこそパートナーってもんだろう?

あの時は必死だったなぁ。あいつは何でも出来るんだ、俺のために足踏みはさせちゃいけないって。
狙撃できるようになって2人で喜んで。撃破も取れるようになって2人で喜んで。
全部俺のことなのに、あいつはまるで自分のように喜んでくれたっけ。
その笑顔が見たくて。あ、でもテントの数が足りないからって同じテントで一夜を過ごしたときは・・・これは語らなくてもいいか。

楽しいときは夢でも早い。あっという間だ。できればここで終わってほしい。
でも始まる。悲しい思い出。
それはいつも集中治療室へ走るところから。

「ちくしょう、俺が油断なんてしたから・・・!」
あいつが目を覚ましたと連絡を受けてここまで5分。また意識を失ってないだろうか?
やっと着いた。クソッ、宿舎より遠い格納庫なんかにいたから余計にかかっちまった。
コンコン
ノックはマナー、いつも怒りながら言ってたな。でも俺はあいつの顔をまともに見れるんだろうか。
あいつは俺を許してくれるんだろうか。
「どうぞ」
重い扉を開けるとそこには何本もの管を体にさして横たわるあいつがいた。
「えへへ、失敗しちゃった・・・」
「ばかやろうっ、それは俺のセリフだっ・・・!わりぃ!」
「大丈夫だよ・・・また2人で一から頑張っていこ?」
「あぁ!あぁ!!今度はちゃんと2人で最初から頑張ろうな!だから必ず戻ってこいよ!」
結局その後一緒に出撃することはなかった。
あいつはコクピットに乗れなくなってた。PTSDってヤツらしい。

「私ね、オペレーターになろうと思うんだ。」
突然聞かされた。どうしていいか分からない。PTSDがなんだ、一緒に乗り越えればいいじゃないか。
「あ、でもあんたの敵に回りたくないから中央の人事部のほうに入れてもらえることになったの。
 隊長凄いんだよ!上層部の人に無理やり了承させちゃった!これで私もまだまだサポートできるね。」
なんでそんなに明るい声出せるんだよ、どうしてそんな風に笑ってられるんだよっ!
俺にはできねぇよ、考えられねぇよ!おまえがいない日々なんて!!
何も言葉に出来ない。押し黙るしか出来ない。
「泣いてんじゃないわよ・・・あんたが泣いてると笑ってお別れできないじゃん・・・」
頬に添えられた手はとても冷たくて、まるで涙に濡れたようだった。

ふぅ、やっぱり何回見てもキツい。
うちの隊の連中にはこんな想いは絶対にさせちゃいけないな・・・
もうそろそろ終わるだろう、そして寝汗びっしょりで起き上がるんだ。
普段ならそうなのに、今日はちょっと違う。
泣きながら笑ってるあいつが何か言おうとしてる。なんだろう。
「じゃあ約束する。また会うことがあったらそのときは絶対一緒にいるね。忘れないでよ?」


急速に明るくなる視界。目を覚ますと見慣れない天井。
「んっ、ねぇ、どうしたの?」
すぐ横には見慣れた顔。そうか、ここはあいつの部屋か。そういえば昨日は泊まったんだっけな。
「なんでもねぇよ、真面目っ子」
「あら、また懐かしい呼び方ね。この熱血バカ。」
「・・・昔の夢を見ていた。」
「えへへ、あたしも。」
そういうと眠たげに顔を摺り寄せてくる。
「ようやく思い出したよ。待たせて悪かったな。」
そっと抱き寄せる。ずっと探してたこの温もり。
「遅いぞ、このバカ・・・でも思い出したなら許すっ・・・」
「ねぇねぇ、今日の予定ってどう?」
「あぁ、戦闘記録の提出は昨日済ませたからオフだな。ブラストの修理は整備班に任せればいいさ。」
「じゃあちょっとだけ待っててくれる?人事会議があって新任の振り分けがあるの。
 それが終わったらすぐに戻ってくるから。ね?」
「新任か。活きがいいやつがいるといいな。」
「あ、ダメよ?あんたのところには1人も回さないんだからっ。私の順番がまた遅くなっちゃうもんっ」
「そういえば、そうなるな。じゃあ遠慮するか。」
そっと口づけを交わす。思えば俺はずっとこいつのことを想ってたんだな。
やっぱり言葉にしてやらないと。俺も男だ。
「愛してる。」
泣き出しそうなこの笑顔を俺はもう2度と離さない。今度こそ。



とあるオペ子の業務日誌の〆としてここまで一気に書かせていただきました。
個人的にはパートナーを失ってやさぐれたときに出会ったナルシーとの日々、とか
いろいろ書きたいナーと思わないでもないですが、これはこれでおしまいでもいいかもしれませんね。
後日談もいいかも。

死亡フラグなんて安易なオチは使いたくないっ、基本はやっぱりハッピーエンドっ!



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最終更新:2010年01月13日 13:26
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