あの日と今日 - 忘却のテソロ | 一次創作企画

シーぺ・シプール
「…なるほどねぇ」
"古い文献"を傍に置いて、とんと息を吐いた。
「「あの日」って…やっぱり存在するのね。」
何ということか、私は今までの記憶がまるでないのだ。
「あの日」を思い出そうとするも、やっぱり何一つ浮かばない。
なんだかうろ覚えだけど、アタマは消したいほど強いストレスの記憶を感じた時、その記憶を消すらしい。
もっとも、それが記されてあった文献自体古い物なんだけど。
「…今日はもう寝るわ…」
優れない体調を考慮して、今日の「記憶探し」は終えることにした。
今日は休もう、とひと段落し、そっと眠りにつくころ
脳裏に浮かぶあの地獄の情景

助からなかった物の呻き声、
助けたかった物の嗚咽。
そして、助かった物のどうしようもない孤独。

決して忘れてはいけない記憶。
私はそれを思い出さなければならないのだ。
「…明日こそは思い出せますように。」

ーーー悪夢ーーーー

道端をてくてくと気ままに歩いていたら、
目の前で、小さな女の子がずでっと転んでしまった。
「あら、転んだの？」
手を差し伸べた私の手。

…「なに、これ………？！！！」
助けようと差し伸べたその手が瞬く間に、化け物の奇々怪界な手となる。
焦点が定まらず、ぐにゃりと曲がった視界の中、体は変化していった。
つま先から頭から細胞にまで、怪物に移り変わっていく。
怪物になっていく私の体は滅茶苦茶で、もう自分でも何が起きているかわからなくなってしまった。
…気がつけばあたり一面火の海で、目の前で、子は散らばっていた。
足元で転がる破片を見て、私は気づいた。
赤く透き通った、チューリップの髪飾り。
そうだ
あの女の子は、
ーーー
「わたし…？」
気づけば起きていて、もう昼頃のようだ。
街には歓声がわきあがり、
公園で子供が走り回り、　はしゃぎすぎて転んだのか、喚き声。
「……思い出したわ……。」
途端に悪寒がした。隣にあった文献をめくった。
これは、当時の私の日記だったのだ。

ーー
●月×日
今日も空腹が満たされない。
お腹すいた。
ーー
△月？日（無理やり消したようで、かすれて文字が見えない。）　
寂しい。寂しい。
ーー
×月×日
また会いたい。また会いたい、
寂しい。さみし〜ー−−
（ぐちゃぐちゃな文字）
ーー
あああ日いえあ〜ー−（ぐちゃぐちゃな文字）月
ああ
ああああ
ああああ
あああ
ああああ
もういやだぁぁぁぁぃああ
ああああ
あ
（乱雑な文字、解読不明）

ーー

（空白のページ。ただ、破いた後と爪でひっかいたような跡が残っている。）

ーー

「…ぅあ…」

その日から、私にとって''あの日"は今日まで続くことになる。
あの日は心に深く深く爪を立てて、いつも夢に見るのだ。
まるで、"忘れるな"と言っているかのように。

その身が朽ち果てても、あの日はずっと続いていくことだろう。

ーーフラッシュバック
シーぺ•シプールに"あの日"の話をしたら彼女はフラッシュバックを起こしてしまい、半狂乱の状態になります。
なるべく、話さないでくださいね。
貴方の命が危ないかもしれません。
ーー✏︎