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覇道の果てに



 土くれを孕んで濁った風が、グレーの町並みに吹き抜ける。
 朽ち果てたコンクリートに砂を振りかけ、灰色と土色をかき混ぜていく。
 色褪せた廃墟の片隅に、うず高く積まれた瓦礫の上で、一枚の襤褸切れがたなびいていた。
 色みのないくすんだ街の中、ともすれば見落としてしまいそうな、黒く薄汚れた布だった。
「………」
 否、それはただの襤褸ではない。
 闇に溶け込む布地の奥から、人間の手や足のようなものが、ちらちら覗いているように見える。
 月の光を受けながら、微かに金属の光沢を放ち。
 それでもその肌の大部分を、浮き上がる錆に染められながら。
 大きく肥大した四肢の様は、まるで機械の人形のようだ。
「うぬはそこで何をしている」
 太く、重い声が響いた。
 重厚な足音を鳴らしながら、瓦礫の下に現れる者がいた。
 筋骨隆々とした巨体を、豪奢なマントに包んだ大男だ。
 牡牛のような黄金の角が、左右にせり出した兜の下では、厳つい双眸が襤褸を睨んでいる。
 その名は世紀末覇者、ラオウ。
 核の炎に焼き払われた、戦国乱世の世紀末に、武の下に覇を敷かんとする拳の王。
 悠々泰然としながらも、一部の隙も見せぬ鋼の巨躯は、文字通り王者の風格を漂わせていた。
「ほぅ。随分と優しいじゃねえか」
 老人のような声だった。
 しゃがれてくたびれたようでいながら、しかしどこかに覇気を宿した、不思議な響きが問いに応えた。
 漆黒の襤褸の奥底から、人形は瞳を覗かせる。
 闇の淵より浮かぶ目は、赤い。
 地獄の底の血だまりのような、赤い光を湛えた視線が、おくびも怯まずラオウを見据える。
「俺が気付いていねぇうちに、さっさと殺しちまえばよかったのによ」
「この拳王、不意打ちなどという手を使う気は、毛頭持ち合わせておらぬのでな」
「殊勝なこった。くそったれたこの世界で……クク、王の称号を名乗るとは」
 黒を揺らすのは風ではない。
 くつくつと笑う人形の震えが、纏った襤褸を揺らしているのだ。
「この俺を侮辱するか」
 プライドを傷つけられたラオウは、眉根を顰めて人形に問う。
「なら、拳王よ。おめェは王になって、権力を掴んで……その果てに一体何を望む?」
「知れたこと。この地獄の乱世を平定し、恐怖により争いを抑圧する。力による平和こそが拳王の望みよ」
「若ェな。やはり人間は人間か」
 かか、と人形は笑い飛ばした。
 されどその静かな笑みには、どこか遠くに向けた陰りが見えた。
 元より心の機微には疎かったラオウだが、それでも、彼の不穏な気配だけは、不思議と感じ取ることができた。
 他人事には思えなかったのだ。何故か寂しげな気配を孕んだ、襤褸の男の笑い声が。
「それで? おめェはこれからどうする。奴の言う通り殺し合いに乗って、平和な世界を作ってもらうのか?」
「見くびるでないわ。このラオウが乞食のように、下郎の助けを乞うと思うたか」
「ほぉ」
 初めて、襤褸の人形の声音が変わった。
 賢者のように振る舞う人形も、その答えは予期していなかったようだ。
 素直に感心したように、ラオウの答えに声を上げた。
「世界はこの俺自身の手で掴む。そのためにはこの東京の地から、元の場所へと戻らねばならぬ。
 神を気取った愚者ではなく、我が軍勢の待つ荒野こそが、真にこのラオウを呼んでおるのだ」
 拳を強く握って、言った。
 拳王――すなわち拳の王とは、絶対の力の象徴だ。
 それは同時に、乱世に平穏をもたらしうる、唯一の希望の名でもある。
 誰にも依らず、媚びることなく、己の北斗神拳によって、世界の無法を一掃する。
 それこそが世紀末覇者の願いであり、同時に誇りでもあった。

「うぬはどうする。うぬとて願いの1つも持ってはいよう」
 なればこそ、拳王は襤褸切れの男に問う。
 お前にも何に代えても成し遂げたい、大願があるのではないのかと。
「俺の願いか。そんなもん、望んだって得られるものかよ」
 されど、返ってきたのは否定。
 首を横に振りながら、男はラオウの問いに応える。
 そんなものは持っていないと。ルイ・サイファーに望むものなど、元より持ち合わせてはいないのだと。
「拳王よ。おめェが誰より強くなって、世界を手中に納めたとして……なくした過去は、取り戻せるか?」
 襤褸の人形は拳王に問う。
 世紀末覇者の剛腕は、時間の流れを超えるのかと。
 現在の全てを手に入れる力は、過去に喪ったものさえも、取り返すことはできるのかと。
「……できぬだろうな」
 一瞬、ラオウは考えた。
 そして刹那の瞬きの後には、それが無意味であると悟った。
 どれほど強くなったとしても、時間の流れには逆らえない。
 地を裂いて、海を枯らせた核戦争を、なかったことになど出来はしない。
「何よりも、取り戻そうなどとは思わぬ。拳王の目は過去ではなく、ただ未来だけを見据えておる」
 そしてなかったことにすることに、ラオウは意味を見出さない。
 過去を悔む暇などない。現在の悲嘆に立ち止まるよりも、未来へ進むことこそが拳王の流儀。
 たとえどれほどの屍が築かれようと、どれほどの血に汚れようと、その先に望む結果があればそれでいい。
 求めるべき未来を目の前にして、戦わず過去に囚われるのは罪悪だ。
 過去の誘惑を振り切ってでも、未来への戦いの道を進み、その手を伸ばすことこそが、拳王ラオウのあるべき姿だ。
 過去を振り返る必要などない――それが世紀末覇者の答えだった。
「そうかよ」
 人形は、短くそれだけを答えた。
 そしてしばしの間、沈黙した。
 静寂は時間に数えれば、ものの数秒でしかなかっただろう。
 されど、荒涼とした夜風のみを数える時は、数時間数日間と感じられるほどに、重苦しい沈黙としてのしかかる。
「……それで、拳王。おめェはどうする。この殺し合いには乗らねぇつもりか?」
 沈黙の後、人形は尋ねた。
 そういうからには、拳王ラオウは、ルイ・サイファーに歯向かうつもりかと。
 殺し合いに乗ることなく、他の脱出手段を求めて、抗い続けるつもりなのかと。
「否、敢えてこの戦いに乗る。立ちはだかる敵をなぎ倒し、奴の懐へ辿り着き、その脳髄を砕いてくれるわ」
「そうか」
 答えるラオウに対して、男は、短くそれだけを口にした。
 そして襤褸に包まれた身体を、のっそりとした動作で立ち上がらせると、ラオウの目の前へと飛び降りた。
「だったらラオウ、俺を殺せ」
 その瞬間、ラオウは初めて、襤褸切れの男の顔を見た。
 月に照らされた男の顔は、髑髏のように不気味だった。
 目元には螺子が並んでいる。黄ばんだ肌は月光を受け、金属の光を放っている。
 異様な髑髏の右半分は、崩れた痕を隠すように、真っ黒な鋼鉄に覆われている。
「おめェが覇道を望むのなら、この俺の屍を踏み越えてみせな」
 鋼で出来た、機械の身体だ。
 生命体ならぬ鉄人形が、人のように言葉を話し、不敵な笑みを見せていたのだ。
 一瞬、ラオウとて面食らった。
 さしもの世紀末覇者といえど、まるきり未知の存在に、一瞬その目を見開いた。
「言われずとも、元よりそのつもりよ……!」
 さりとてそこは拳王だ。
 戸惑いは一瞬にして雲散霧消し、その顔つきには殺意が宿る。
 丸太のような剛腕を構え、目の前に立つ機械の巨人を、双眸で油断なく睨み据える。
 体格はこちらとほぼ互角。その上鋼の身体となれば、手心を加えて砕けるものではあるまい。
 無抵抗の相手に放つのには、いささか不本意ではあるが、北斗神拳の奥義をもって、後腐れなく一撃で潰す。
「我が覇道の礎となれィ! 北斗剛掌波ッ!!」
 突き出される渾身の掌打が、空を切り裂いたその瞬間。
 湧き上がる拳王の力が、闘気となって具現化し、轟音を伴って炸裂した。


 機械の身体を持つ男は、名を、ブライキング・ボスといった。
 男はロボット達の自由のため、先頭に立って反乱軍を組織し、人間に反旗を翻した。

 やがて鋼鉄の人形達が、人間に取って代わった時、ブライキング・ボスは考えた。
 人間から生まれたロボットは、どうすれば人間を超えられるのかと。
 人間との因縁を断ち切るには、どのようなロボットが必要なのかと。
 彼は科学者達に命じ、3体のロボットを創造させた。
 人のみが持つ絶対の力――子を宿し産み出す力こそが、最後のピースだと考えたのだ。
 それでも、結果は失敗だった。
 生まれたのは限りなく人間に近く、されどただ優秀な性能を持つだけの、ただのロボットでしかなかった。
 ブライキング・ボスは失望し、生まれた3体のロボットを鍛え上げ、自らの尖兵として育てた。
 持てあました性能の行き着く先など、仇名す敵を排除するための、破壊兵器でしかなかったのだ。

 ある時、ブライキング・ボスは噂を聞いた。
 人とロボットを平等に癒し、双方から崇拝されているという、ルナという存在の名を聞いた。
 恐怖の支配する時代において、それは不要な救済だ。
 抑圧された人の心を、優しく解放するルナの存在は、自らの立場を揺るがしかねない。
 彼は3体のロボットを呼び出し、ルナの殺害命令を下した。
 ロボット達はその居城へ乗り込み、白い身体のキャシャーンが、ルナを殺すことに成功した。

 そしてその瞬間から、全ての破綻は始まった。
 ルナの死が取り返しのつかない破滅を招き、全ては錆と土くれに消えた。
 殺したのはキャシャーンだ。されど、生み出したのはブライキング・ボスだ。
 命を弄んだ代償に、殺そうとした者も、守ろうとした者も、彼は全て喪ったのだ。
 驕り高ぶったブリキの王者は、自ら犯した失敗のために、全てを滅ぼしてしまったのだ――


 バラバラになった鉄屑を見下ろし、世紀末覇者は静かに想う。
(あれは俺だ)
 不気味に笑う髑髏の魔人は、覇道に挑んだ末に敗れた、哀れな失敗者の姿だった。
 己と同じ道に臨み、されど志半ばで失敗を犯した、未来のラオウだったのだ。
 それを知っていたからこそ、鉄の男は身を差し出した。
 同じ末路を辿らぬようにと、敢えて自らの存在をもって、ラオウに示してみせたのだ。
(同じ轍は踏まぬ)
 固く誓う。
 微かな腹立たしさと共に、錆びた螺子を踏み潰す。
 あの男のような失敗は、決して繰り返すつもりはない。
 何も願わず、戦おうともせず、惨めにも死を望んだあの男のように、落ちぶれるつもりなど毛頭ない。
 土の混ざった乾いた風に、漆黒のマントを翻し。
 世紀末覇者・拳王は、自らの覇道を行くために、屍を踏み越えて荒野を進む。
 過ちも後悔も何もかも、決して振り返ることなく。
 ラオウの歩む背後には、ただ髑髏の道だけが築かれる。



【ブライキング・ボス@キャシャーンSins 死亡】

【足立区/一日目・深夜】
【ラオウ@北斗の拳】
[状態]:健康
[装備]:拳
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:自らの覇道成就のために動く
1:とりあえずゲームに乗る。手っ取り早く殺し合いを終わらせ、元いた場所へと帰還する
2:ルイ・サイファーには、拳王を愚弄した報いを与える

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ゲームスタート ブライキング・ボス GAME OVER
ラオウ [[]]
最終更新:2013年06月05日 01:28