鉄筋コンクリートビルの死体が空を狭める。
この東京は文字通り死都、すでに街としての機能が死んだ街なのだ。
ここに残されたものはかつての虚しい栄華だけだ。
長身痩躯の身体に法衣を思わせる青い衣をまとわせ、女性と見間違えるほどの美貌、眼帯を身につけた隻眼すら幻想的な姿を演出していた。
そんな美青年、揚羽は前人類の滅びを眺めていた。
「さて、殺し合いと来たものか」
この大地を今は失われた圧倒的な科学によって支配した名残だ。
大いなる禍が起こり、大地と文明は白紙に戻された。
それでも人類は死滅せず、再び文明の炎を灯している。
さながら、死してしまった歴史をなぞるようにして。
「意味なく人を斬る気にはなれんが……」
揚羽は誇り高き砂漠の青い貴族。
『生命を賭けられるほどの女』と目している女性のために殺し合いに乗ってもいい。
運命の恋人かもしれない女――更紗のためならば、自らの身体を穢しても良い。
しかし、それはあくまで自らの人生を捧げても良いと思える相手が居てこその話だ。
更紗の所在が定かではないのならば、『一も二もなく殺し合いに乗る』という選択肢を取ろうとは思わなかった。
『殺し合いをしろ』という命令口調もまた揚羽の反感を買っていた。
「タイムリミットまでは丸三日以上残っている……なに、焦る必要はないか」
揚羽の手元には一本の直刀が握られている。
七星剣と呼ばれるその剣は北斗七星が意匠され、破邪や鎮護の力が宿るとされた神剣である。
使い慣れた刃物ではないが、徒手空拳よりは幾分もマシと揚羽は判断した。
とにかく動きまわり、乗るか反るかは後ほどに判断すれば良い。
「……ふぅ」
死を間近に感じつつ、考えることは一人の少女のこと。
運命の子の幻想を抱いて走り続けるしかない、哀れな少女。
その前を向いて走り続ける姿に、揚羽は儚い美しさを感じた。
同時に、その瞳に惹かれた。
『運命の恋人』かもしれないと、本気で思った。
「……命をかけるのならば、お前に捧げたいものだな」
揚羽はそう言葉を漏らす。
ただ、生きるのでは。
ただ、愛されるだけでは。
己がなければ、生きるのは哀しい。
「フフフ……」
そんな瞬間、笑い声が遠方から響いた。
揚羽は笑い声の方角へと注意を向ける。
そこには一人の男が居た。
服越しにもわかる隆々とした肉体。
男には似つかわしくない長髪。
刃のように鋭い視線。
「力こそが正義……良い時代になったものだ。
弱ければ奪われるしかない……生命すらもな!」
その男は、南斗孤鷲拳の伝承者。
殉星のシン。
「南斗六聖拳が一、このシンの拳を喰らうが良い!」
人智を超えたスピードで揚羽へと迫り来るシン。
しかし、揚羽は動揺を一切示さずに手に持った七星剣を真一文字に振るう。
揚羽は積極的に殺し合いに乗るつもりはない。
だが、襲い来る相手に容赦をするつもりもないのだ。
「ハッ!」
「南斗獄屠拳!」
両者は裂帛の気合とともに必殺の一撃が繰り出した。
揚羽の一刀と、シンの南斗孤鷲拳が交錯する。
シンのすれ違いざまに繰り出される目にも留まらぬ斬撃拳。
「ッ……!」
シンの放った南斗獄屠拳によって、揚羽はその痩躯には少々大きな衣が切り裂かれる。
揚羽の細いうなじが、白い脇腹が、なめらかな太腿がわずかに露出される。
そして、彩るように深紅の血がその肉体を滑るように動いていた。
「……ほう」
しかし、シンもまた自身の肩にかけた毛皮の装飾が施されたマントを切り落とされていた。
シンの南斗獄屠拳は揚羽の身体に幾つもの切り傷を与えたように、
迎撃の回避を念頭に置いた様子見の一撃ではあったが、必殺の意思は込められていた。
「このサザンクロスのKINGに一撃を入れるとはな」
シンは自身の一撃を避けたばかりか、シンへと反撃を行なってきた揚羽に称賛の意を込めて言葉を発した。
もっとも、その称賛は大人が子供を褒めるかのような傲慢な言葉であったが。
「南十字星の王様とは大層な名前だな……生き残った先に、お前はなにをするつもりだ?」
七星剣を構えながらも、揚羽はシンへと問いかける。
会話を行ううちに作戦を練る魂胆だった。
なにせ、剣と拳という差がありながらも、腕前はシンが上。
一騎当千の言葉にふさわしいシンと戦うのならば知恵が必要だった。
「……力を高めるのみ。北斗の星に負けぬほど、強くな」
「自分のことばかりだな、虚しい奴め。お前とは気が合わんだろうな」
「他者は俺の糧となるべきだ……俺は、戦うのみ!
ただ、南斗の空に輝く宿星のために!」
その言葉で揚羽は確信した。
シンは更紗の敵となる。
己のことしか考えないシンは、穏やかな国を作らんとする運命の子の障害となる。
ならば、揚羽のするべき事は、成したいと感じたことはなんだ?
当然、シンの排除である。
「フンッ!」
揚羽は剣撃の間合いを維持しながら攻めこんでいく。
揚羽がシンに対して確実に優っている部分はリーチだ。
剣と拳の間合いの差を活かすことが勝利への鍵となる。
「太刀筋は見事だが……甘いわ!」
しかし、シンは空を飛ぶ鳥を思わせる素早い動きで揚羽の斬撃を躱す。
一流の太刀筋を放った揚羽の攻撃を見切っていた。
「南斗獄殺拳!」
そして、躱し際に一撃。
シンの高く蹴りあげた脚が、眼帯の施されたために死角となった揚羽の左顔面を襲う。
「ッ……!」
揚羽は僅かにスウェーを行い、直撃を免れる。
つまり、必殺の一撃を放たれたというピンチが必殺の一撃を放てるというチャンスへと変わった。
攻撃の直後には当然隙が生まれるからだ。
「ヌゥ!」
揚羽の刃がシンの太腿を貫く。
シンは呻き声を上げて後ろへと飛び退った。
そのまま揚羽は前方へと素早く駆け出し追撃を行う。
一瞬の隙を生み、シンに傷をつけた。
ならば、ここは畳み掛ける場面なのだ。
「ハァッ!」
揚羽の必殺の袈裟斬り。
シンの肩口から脇腹へと向かって切り捨てる必殺の一刀だ。
これが直撃すればシンの命は刈り取られる。
「なんの!」
その必殺の一撃に対してシンが取った行動は前進。
グサリと肩の肉に刃が食い込む。
しかし、致命的な一撃ではない。
シンの瞬発力による間合いの詰めが、揚羽の必殺の一撃を狂わせたのだ。
「獄葬十字拳!」
そして、距離を詰めたシンが揚羽へと闘気を纏った貫手を放つ。
至近距離で放たれる連続突きはリーチのメリットをそっくりそのまま逆転させる。
将門の刀も普遍的な太刀だ、この間合では満足な効果を発揮しない。
「カッ……!?」
揚羽の肉体に南斗孤鷲拳の貫手が突き刺さる。
南斗聖拳一○八派はそれぞれが特徴を持っているが、共通点が一つ存在する。
それはすなわち、四肢を刃へと変える拳法だということ。
普通の拳法家の貫手ならば肉に食い込むだけの攻撃。
だが、南斗聖拳の使い手の貫手となれば内臓器を破壊する必殺の一撃となる。
「クッ……」
獄葬十字拳が揚羽の心臓と二つの肺を貫いた。
ひび割れのコンクリート地面へと、揚羽は膝をつく。
揚羽の生命が尽きる瞬間だった。
「……チッ」
揚羽は舌打ちを漏らしながら大地を抱擁する。
身体を動かす気力が湧いてこない。
ただ、その隻眼でシンの瞳を見つめる。
「……なんて目をしてやがる」
力こそが正義、そう言い放ったシン。
だが、その瞳は哀しみに染まっていた。
まるで、鏡写しのように。
なくなった左目がそこにあるように、悲哀と愛憎が写っていた。
◆ ◆ ◆
―――自分のことばかりだな、虚しい奴め。
「富も名誉も……虚しいだけだった」
葬った男の言葉がシンの胸を抉る。
虚しい、何もかもが虚しかった。
ユリアが自分のすべてを否定したその瞬間から、シンにはなにも失くなったのだ。
「俺が欲しいものは富でも権力でもない……」
世紀末の世界に築いた自らの王国、サザンクロスに築いた全ては空虚なものだった。
シンにはサザンクロスは単なる虚飾の都市に過ぎない。
「ユリアだ!」
シンにはもはや、ユリアの生命と南斗孤鷲拳しか残っていない。
ユリアの生命を守るために、南斗孤鷲拳を磨き続けるしかないのだ。
「例えユリアが俺を愛さずとも……北斗の暴凶星に殺されてしまうというのならば!」
鉄を切り裂くその拳で七星剣を破壊する。
通常の人間の域を超えた拳。
しかし、それでもシンの拳は弱い。
「力が欲しい、北斗の覇王すらも超える力が……ユリアの命を守る力が!」
どれだけ磨いても世紀末覇王に劣る、自身の拳。
それでもその拳を磨き続けるしかない。
破損した七星剣のように、北斗を屠るその時まで。
【揚羽@BASARA 死亡】
【豊島区/一日目・深夜】
【シン@北斗の拳】
[状態]:右肩に裂傷、太腿に刺傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、シンの不明支給品1~3、揚羽の不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る。
1:力が欲しい。
時系列順で読む
投下順で読む
| ゲームスタート |
揚羽 |
GAME OVER |
| シン |
[[]] |
最終更新:2013年06月06日 23:55