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六人砦




人の手を取ることは、それだけで難しい。

自らの手を取らせることもまた、難しい。

その難事を神は求める。

伽藍堂の瞳で、愚者は従い続ける。


   ◆   ◆   ◆


東京拘置所。
葛飾区は荒川のほとりに隣接する罪人を封じ込める施設。
上空から眺めると『*』の記号を思わせる形状をした拘置所へと向かい、筋骨隆々の男が悠然と歩み寄っていた。
飄々とした様子で、口笛を吹きながら拘置所の入り口へと歩み寄る。
その男を待ち受けるようにして一人の少年が立ち塞がっていた。

「初めまして、ロウヒーローです」

雪原を切り取ったような白い布地に蒼い装飾を施した法衣を纏った少年はロウヒーローと名乗った。
その白い布地と同じように空虚な瞳を向けながら、ロウヒーローは言葉を続ける。

「元は人としての名前もありましたが……今はロウヒーローと、そういう存在になりました。
 そういう存在でありたいと思っていますので、貴方もそう呼んでください。
 今の私は神の下僕、神に選ばれた使徒なのですから」

ロウヒーローはゆっくりと手を差し出した。
そこに敵意はない。
中肉中背、どちらかと言えば痩せ型であるその体と柔らかな物腰は暴力の匂いとはかけ離れていた。
にこやかに話しかけるロウヒーロー。

「そして、それは私だけでなく神の子である人間にも当てはまります。
 だからこそ、ルイ・サイファーなる悪魔に惑わされてはいけません。
 我々は行えばいいだけです、正しき道を……輝かしき道を……神の教えの道を」

神の罰によって崩壊したソドムとゴモラの街を思わせる破壊の街の中でロウヒーローは薄っぺらな言葉を口にする。
だが、この言葉は単なる薄っぺらな言葉ではない。
本気で神の御言を信じている薄っぺらな言葉なのだ。

「貴方の名前を、お教えください」

神に従うだけの法の英雄を前にして、その男は自らの名を名乗った。
隠す必要もない、ただ愛する女のためだけに捧げたその名を。

「アインだ」

そして、己を通すために振るってきた自慢の拳を掲げ、小指を立てる。

「こいつのためにも早く帰りたいんでね。襲って来るも協力するもいいが、とにかくよろしく頼むぜ」


   ◆   ◆   ◆


その名はアイン。

固めた拳は彼の我を押し通す。

荒野をひょうひょうと渡る風の様に、アインは生き続ける。

全ては愛する女のために。


   ◆   ◆   ◆


アインは口笛を吹きながら荒廃した東京を歩いていた。
飄々とした性格がその立ち振舞からも想像できる。
星条旗を思わせるデザインの服で包んだ、筋骨隆々と呼ぶにふさわしい肉体。
そして、セットした髪やにこやかにしながらもどこかキツメの目つき。
以上のことから、アインがならず者であることは察せられた。

「さぁて」

アインはポキポキと指の関節を鳴らしながら小さくつぶやく。
満天の星空の下、この殺し合いに連れて来られた割りには比較的動揺が少ないように見える。
しかし、アインはその実焦っていた。
自らを拉致したということは、つまり元の場所に自分が居ないということ。
自分が居ないということは、愛する女は一人だけだということ。


アインが何者をも優先する女、自らの娘、アスカはただ一人になっているということ。


「ひとまずは人と会わないとな」

殺し合いに乗るにしても、人と会わなければ殺せない
殺し合いに反るにしても、人と会わなければ脱出方法が思いつかない。
何をするにしても一人ではお話にならない。

現時点でアインはという明確な目的はあったが、方法については考えていなかった。
ただ、最初に目の前へと現れた人間の反応で決めてもいいと思っていた。
ほとんどコインを弾いて占うように、そう考えていた。
そして、辿り着いた場所が東京拘置所。
賞金稼ぎを生業としていたアインには多少なりとも縁のある場所だった。

「……おぉい! 誰か居るかぁ!」

アインは声を荒げる。
その体躯にふさわしい野太い声だった。
そして、一人の男が応じた。
全身を、顔色すらも白く染めた法の英雄。
純然たる神の僕と、アインは対峙した。

そのアインから離れてたっぷり数百メートル。

「……不味いな」

アインの姿を見て、刑務所内の敷島は思わず言葉を漏らした。



   ◆   ◆   ◆


守らなくてはならない。

この東京を。

破壊の後から築いたのは、再び破壊させるためではない。


   ◆   ◆   ◆


巨人によってなぎ倒されたかのように背を低くした無数のビル。
そのために、ネオ東京では見えなかった星々を眺めることが出来た。
人間の愚かさを具現化したかのような。
人間が神に見放された存在であることを証明しているかのような。

あまりにもネガティブな感情を湧き起こす、そんな廃都の中で敷島は夜空を眺めていた。
星空へと視点を移し替えて、まず情報を整理する。

一つ目、これは【殺し合い】である。
ルイ・サイファーは人を殺すことに躊躇いがない。
それは『人犬』と呼んだ無残な姿の少年を簡単に殺したことからはっきりとわかる。

二つ目、ルイ・サイファーは【超能力】を扱うことが出来る。
それは人犬の少年への殺害方法を見ても明らかであり、さらにテレポート
テレポートとサイコキネシスを併合することから考えて、かなりの強力な超能力者である。

三つ目、ルイ・サイファー風に言うのならば、この【荒廃した東京】があからさまに不自然であるということだ。
まず第一に人の気配が一切しない。
アキラによって破壊されたネオ東京は、それでも人で溢れかえっていた。
その人の気配が一切しないのだ、作り物のような都市であった。

そして、この情報から察せられる推測が幾つかある。
ルイ・サイファーのバックには国家規模の巨大な組織が居る可能性が非常に高いこと。
これだけの強力な超能力者が単独で行動しているとも思えない。
そして、この【荒廃した東京】は実際のところネオ東京でないということ。
それこそ日本以外の別の国で作ったばかりの『ロケ現場』、『実験室』である可能性がある。

「難しいな……」

敷島はかつての軍<アーミー>の高官、実質的な指導者のレベルまで地位を握っていた。
しかし、それもかつての話。
今ではたたの一般人だ、拉致を行うのは難しくない。

「悪趣味な催しだ、まったく。
 しかし、そこに意味があるのだとすれば、それは恐ろしいことに……」

大事なことはそこだった。
敷島の予想が正しければ、これは世界を揺るがすかもしれない。
組織の投資した元手が大きければ大きいほど、生み出される結果も大きくなる。
そう言った意味ではこの『人の居ない都市』などはどれだけの資源と時間を使ったのか、想像も出来ない。
同時に、それだけの物を使って何を生み出そうとしているのかもまた。

「……」

まだ、ここに集まった少年少女には超能力について何も話していない。
下手な事を言って刺激を与えることはリスキーだからだ。
ひょっとすると、超能力について関わっていたらさらに問題となる。
超能力者を目覚めさせるという目的があるのかもしれない。
誰もが超能力に目覚めかけないのだ。

「敷島さん! 敷島さん、大変なんですよ!」

例えば扉を勢い良く開いて現れた少女、深作葵が超能力に目覚めるようなことに。


   ◆   ◆   ◆


私は人形。

人間を助けるための人形。

私は役立たず。

人間を助けられない役立たず。

私には何が出来るの?


   ◆   ◆   ◆


深作葵は拘置所の一室で丸くなっていた。
眠いわけでも怠惰なわけでもない、ただ怯えていたのだ。
彼女は『コッペリオン』と呼ばれる放射能に体性を持った人造人間である。
東京お台場に設置された原子力発電所が大地震によって原発事故を起こし、関東以北が放射能で汚染された世界。
その世界に取り残された人々を救うための人造人間なのだ。

「葵にさぁ……殺しあいとか……そんなの無理だよぉ……」

しかし、彼女の言葉からこぼれたのは、そんな救出の使命を持ったものとは思えない泣き言だった。
目にも僅かに潤んでおり、心底から殺し合いに怯えていることがわかる。
実際のところ葵は、分類するならば劣等生にあたる存在であった。
あからさまに教育に失敗したとしか思えない身体能力と精神性。

事実、葵はこの殺し合いに連れて来られた直後はただ座り込んでべそをかいていた。

『茨先輩……助けてくださいよぉ……うぇーん!』

頼れる上級生の成瀬茨の名前を漏らし、ついに泣き出したその瞬間だった。

『大丈夫ですか?』

影のように、あるいは光のように突然一人の少年が現れた。
年の頃は葵よりもいくらか上だったが、それでも成人ではないだろう。
白い法衣を身にまとい、憂いを帯びた瞳で葵を射抜く。
どこか虚ろな雰囲気を漂わせながら、葵へと手を差し出してくる。
それが葵とロウヒーローの出会いだった。
不思議な少年との邂逅であった。

「……なんか、不思議な感じだったなぁ」

少し動揺が薄くなっていた。
本質的に『弱者』である葵はロウヒーローに、『神に縋りつく』には十分な素養の持ち主だった。
さながら、メシア教徒のように。

「おい、深作! 居るか、深作!」

そんな現在の葵の元に現れたのがボロボロの学生服と学帽を身にまとった少年、網走菊之助だった。
どこか粗野な印象を与える少年は大きな言葉で葵へと殴りつけるように語りかけた。

「小泉から連絡があった、人が来たらしい!」

心臓の鼓動が早まる。
菊之助の声量もそうだが、その内容だ。
人が来る、それはつまり人殺しが来るかもしれないということだ。
葵の心境を知ってか知らずか、菊之助は言葉を続けた。

「俺はロウヒーローに伝えるから、アンタは敷島に頼む!」



   ◆   ◆   ◆


背中に負った罰の名前。

己の罪ではないが、しかし己に背負わされた罰の名前。

その名は網走極悪人。


   ◆   ◆   ◆



「……どうしたものかな」

小さな肩を落としながら網走菊之助が呟く。

学帽を外し、額の汗を学生服の袖で拭う。
煤と泥で汚れた、しかし少女のように整った顔立ちが覗かれる。
実際のところ、網走菊之助は嘘に塗れている。

大きなところでは、男物の学生服を身にまとっているが菊之助は女性だ。
胸の膨らみも同年代の少女と比べれば幾らか大きいし、体つきもその実丸みを帯びている。
少々大きめの学生服に纏っているのはその身体的な性別の差異を誤魔化すためだ。

小さな所では名前。
彼女は『網走菊之助』という名前ではなく、『菊野雪』という名前なのだ。
男装している以上、『菊野雪』では少々奇妙なため、『網走菊之助』を名乗っているのだ。

とは言え、嘘にも理由がある。
まず男装はこの世の地獄となった関東で生き抜くためのもの。
女はことあるごとに襲われる、女自体が商品となるからだ。
また、男ならば襲いかかって来られる可能性が低い。
女性であるよりも男性であるほうがメリットが大きいのだ。

名前にはちゃんと由来がある。
名字の『網走』は極道であった父が死んだ場所。
菊之助は自身の名字である『菊野』のもじり。
気づくものなら、菊之助の兄弟ならばピンと来る名前だ。

そう、菊之助は生き別れとなってしまった兄弟を探しているのだ。
関東地獄地震で散り散りとなってしまった、生きてるかどうかもわからない兄弟を。

「生きてる……きっと、あの人達は」

自らを勇気づけるように小さくつぶやく。
天涯孤独だと、この世界に自分は独りぼっちだと思っているところに現れた家族。

「探さなきゃいけないんだ、かけがえの無い人だから」

もはや、それだけのために生きているといっても過言ではない。
人は一人で生きていけないことを、菊之助は知っているから。

「ねえ」

そんな中で、背後から声をかけられる。
背後に居たのは片手にショットガン、片手に双眼鏡を持った少女だった。
少女の名前は小泉太湖。
自身の支給品であるショットガンと双眼鏡の所有権を主張し、見張りを買って出た少女だ。

「人が一人、来た。私は見張りを続けるから、他の人に伝えてきて」


   ◆   ◆   ◆


広がる関東大砂漠。

あらゆる生命を跳ね除ける非情の大地。

そこでは一匹の妖怪が居る。

それは妖怪、砂ぼうず。


   ◆   ◆   ◆


砂の飛び交う黄色の世界。
関東大砂漠と呼ばれる、自然そのものが敵となる人を排する世界。
生きることそのものが試練である世界。
それが小砂の、小泉太湖の生きてきた西暦3000年から数百年が経過したかつての文明が崩壊した世界だった。

(ここはオアシスかなにかなのかな……?)

大砂漠の中にある『オアシス』と呼ばれる未知の世界がある。
そこには選ばれたものしか入ることが出来ず、砂漠の世界から隔離された世界だ。
旧文明の遺産に溢れた楽園のような世界だと太湖は聞いている。
聞いている、というのははっきりとその眼で内部を見た経験はないからだ。

『荒廃した東京』とルイ・サイファーは称したが、太湖にとってここは天国のようなものだった。
人を焼く熱砂の昼も、人の身体を凍らせる夜もない。
夜中だというのに暖かい。
たったそれだけでこの大地が人間を受け入れていることを感じた。

(それでも、私たちは殺し合いをしなきゃいけない)

太湖は乾いた脳みそでそう考えながら、支給された水を口に含み、双眼鏡を覗きこむ。
手に持った双眼鏡越しに映る世界は灰色の世界だった。
全てが廃れた灰色の世界、これがやがて砂にまみれた黄色の世界へと変わるのだろうか。

「……」

集中力に関してずば抜けたものを持っていた太湖は玩具めいた双眼鏡を用いて周囲を探り続ける。
人の影も見ることが出来ない、迷路のように入り組んだ荒廃した東京で物陰が多すぎる。
太湖は小さく息をこぼし、銃を強く握り締める。
太湖の持つショットガンの名はウィンチェスターM1897、師の愛銃だ。

「……」

やはり言葉をこぼさずに太湖は双眼鏡を覗き続ける。
師匠には、砂ぼうずには、水野灌太には複雑な想いを抱いている。
尊敬か、恐怖か、軽蔑か。
あるいはその全てが相混ぜになったものか。
一言では現すことが出来ない。

「……」

ただ、それでも銃の引き金に指をかける覚悟は出来ている。
敵対したというのにそこを躊躇えば殺される、師である砂ぼうずはそういう男だ。

なんにせよ、今はまだ様子見の段階。
立て篭もりによって命を守る、それが現在の目的だ。

「……?」

双眼鏡越しに一人の男を見つけた。
反射的に銃の引き金に指をかけ、すぐに銃を下ろした。
まずは報告を行う。
ロウヒーローと名乗った少年か、敷島なる隆盛な肉体を持った男か。
最悪、自分だけが生き延びることが出来ればいい。
太湖はそう考えて、拘置所内をかけ出した。


    ◆    ◆    ◆


ここは葛飾区にある東京拘置所。

そこには六人の人間が集まっていた。



【葛飾区/東京拘置所/一日目・深夜】
【ロウヒーロー@真・女神転生】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:神の名のもとに殺し合いを打破する。

【アイン@北斗の拳】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰る

【深作葵@コッペリオン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:この場(東京拘置所)に居る。

【敷島@AKIRA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを打破する

【網走菊之助@バイオレンスジャック】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。

【小砂(小泉太湖)@砂ぼうず】
[状態]:健康
[装備]:ウィンチェスターM1897@砂ぼうず
[道具]:基本支給品、双眼鏡、予備の銃弾、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:ひとまずは様子見を行う。


【ウィンチェスターM1897@砂ぼうず】
砂ぼうず・水野灌太の愛銃、ポンプアクション式のショットガン。

【双眼鏡@現実】
双眼鏡。

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網走菊之助 [[]]
小泉太湖 [[]]
敷島 [[]]
深作葵 [[]]
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最終更新:2013年06月10日 00:42