![]() |
全長 | 120cm |
重量 | 4.0kg |
地域 | 古代ローマ |
年代 | 1~2世紀 |
ファルクスとは、古代ローマではよくあった「S」字型の金属製刀剣の一つである。
ラテン語で「鎌」を意味する言葉を語源としており、「ファルシオン」の語源になっているという説もある。
「ロムパイア」と似たような性質があり、鎌のような刀身で内側に刃がある両手剣で、登場した時期も近いこともあり、よく一緒に説明されていることが多い。
一応片手剣のものもあったという説や、ロムパイアのような柄を持ったポールアームであったと言う説もあるが、一番有力説な両手剣としてのファルクスを説明しようと思う。
ファルクスは一般的には一体成型の「S」字型金属刀剣である…と、一般的な文献には書かれている。
「一体成型」とは「二次接着や機械的接合を用いないで、部材の接合と同時に製品を一体で成形すること」=刃も柄も全部一つのパーツと言うことになるのだが…
ファルクスと思われる武器の「現在に残る実物」を見ると、実はそうではなかった可能性がある。
![]() |
このCGは、海外のwikipediaの「Falx」の項目の写真で見つけた、「実物」と思われるものを、筆者が文献を元に復元してみたものである。
もし「一体成型」であれば、柄の部分も残っている必要があるのだが、これを見る限りでは通常の刀剣と同様、刀身と柄は別であったと考えるのが正しいと思われる。
恐らくは柄の部分も刀身と同様の金属を用いたため、一体成型の武器と思えたのかと予想できる。
![]() |
1 | 剣身:ブレイド(Blade) |
2 | 切先:ポイント(Point) |
3 | 柄:ヒルト(Hilt) |
4 | 鍔:ガード(Guard) |
5 | 握り:グリップ(Grip) |
6 | 柄頭:ポメル(Pommel) |
ロムパイアが使われていた頃、ドナウ川近隣の部族であるダキア人が使用していたと言われている。
ローマはこのファルクスを使うダキア人を非常に恐れており、交易は古くから行われていたものの、再三にわたって侵攻作戦を行っている。
二度は失敗しているが、当時のローマのトップであるトラヤヌス帝が、ファルクスをはじめとしたダキア人の武器を徹底的に研究し、結果ダキアを制することに成功している。
この時最も警戒し、研究した武器がこのファルクスであり、ファルクス対策が三度目の遠征の明暗を分けたと言ってもいいだろう。
ちなみにこの対策とは、手足を切りつけることに優れたファルクスに対して、肘と膝にも防御強化のためにプロテクターを着けて、防御面を上げることであった。
持ち前の切れ味を減少させられたファルクスは、両手を使うことで生じる防御力の弱さを突かれ易くなり、ローマに敗退したと思われる。
なお、時の遺跡の石碑には、ファルクスが使われた確かな証拠と言える描写がいくつも見られる。
![]() |
両手でしっかり持って、打ち切ることと、振り回すことで大きな威力を発揮する。
先端で引っ掛けて、相手の動きと反動を利用して斬る、といった用法も可能である。(少々難しいが)
しかしこの引っ掛けて斬る攻撃は、当時のシールドすら両断するほどの凄まじい威力であった。
その反面、両手用であるファルクスは当然シールドを持って戦うことが出来ないため、ファルクスを使う=防御を犠牲にして攻撃をアップさせることを前提に運用していたようである。
この威力を可能にした鎌のような刃は、当時では切れ味がトップクラスであり、相手の手足を切りつけて戦闘力を減少、もしくは戦闘続行不能に陥らせる程であった。
実は当時のローマ兵は、兜や鎧、盾で防御を高めていたものの、手足を保護する防具と言うのが存在しておらず、ほぼ生身の状態であった。
そんな無防備なところに、ファルクスの刃を下ろされれば、そりゃもう手足が使い物にならないぐらいにはされるであろう。
前述にも書いたとおり、ローマ兵の弱点であり、ファルクスが最も多く攻撃した手足の防御を高めたことにより、ファルクスで武装したダキア人はローマに敗北することとなるのである。
語源は「鎌」なのだが、ファルクスは1~2世紀に使われた武器で、農具であり生活用具である鎌は12~13世紀ごろに誕生したものである。
ひょっとしたら鎌の語源がファルクスと言う可能性もあるし、片手用のファルクスが今で言う鎌のような用途で使われて、鎌の原型になったのでは?
…と、いろんなことが想像できる。
海外のwikipediaでも、このあたりの考察ははっきり断定できないとしており、まだまだ歴史的資料の発掘を待つ必要がある、謎の多い武器であるといえるだろう。
2008年 10月4日更新
新紀元社 | 武器事典 | 市川定春 著 | ||
新紀元社 | 武器と防具 西洋編 | 市川定春 著 | ||
ダイヤグラム・グループ | 武器―歴史、形、用法、威力 | 田島優 北村孝一 著 |