■■■暗転小

●●●SEループ=kodama_heartbeat_fast

●●●SE基本=kodama_glass_crash ws=on

●●●SE補助=on_jin_sei_ge_gura_kanpai04 ws=on

●●●SE基本=web_wave_lib_GlassA11 ws=on

●●●SE基本=kuro_glass ws=on

●●●SEループ=kuro_noise

■■■画像/背景=title_start strans=wave

■■■画像/背景=black strans=wave

???「かーずきー!」

和樹「く……ちゃ……戻さなくちゃ……」

???「和樹! あーさーだーよー!」

和樹「か……お……」

???「遅刻しちゃうよー!」

●●●SEループ=kodama_heartbeat_fast

●●●SE基本=kodama_mozomozo

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu1_800 blur=on

■■■クエイク

和樹「うわぁっ!!」

…………。

え……布団?

和樹「うん……?」

……僕の部屋だ。

眠っていた? じゃあ、今のは――夢?

…………。

今のって……どんな夢だっけ。

やけに心臓が張り切ってる。霞む目を擦ると、手の甲にしずくが垂れた。

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu1_800

涙? 怖い夢かと思ったけど……悲しい夢?

…………。

●●●SE基本=kodama_knock

???「コンコン。入ってますかー?」

来てたのか……入ってますかーって、トイレじゃないんだから。起こしに来なくていいよって、何度も言ってるのに。

●●●SE基本=kodama_mozomozo

和樹「うーん……」

●●●BGM=CP01

いつもの朝だ。夢見の悪さも寝起きの悪さも、僕を起こす幼馴染の声も。

起こしかけた体が安堵で再びベッドに沈む。

???「起きて~! ドア開けちゃうよ?」

和樹「待って……着替える……」

???「着替えて顔洗ってっ。30秒だけ待ってやる」

和樹「……せめて3分にして。
部屋で顔が洗えるわけないし」

???「いーち、にーの、さーん! ごーっ!」

■■■クエイク

和樹「露骨に4をとばさないでよ」

まどろみを容赦なく吹き飛ばされて、仕方なく布団を剥いだ。

夢見の悪さに浸れる時間がないのは助かるけど……。

???「ごー、ろく……さんじゅう! 開けるよー」

■■■クエイク

和樹「開けないで。掛けないで」

ふらふらと定まらない足取りでクローゼットに行き着き、ハンガーから制服を落とす。

???「しちはちきゅうじゅうじゅういちじゅうにじゅうさん」

■■■クエイク

早い。やばい。間に合わなかったら、僕が変態みたいじゃないか。

???「にじゅしーち、にじゅはーち、にじゅきゅっ!」

転びそうにズボンを履いてシャツに袖を通す。

???「さんじゅう!」

●●●BGMオフ

●●●SE基本=maoudamashii_door04

■■■画像/立ち絵中=色葉/アップ time=10

???「おはよーっ!」

和樹「ふうっ。間に合った……」

???「お・は・よ・う! 和樹」

和樹「……おはよう。色葉」

■■■画像/立ち絵中=色葉

この似顔絵は橙ヶ崎色葉。とうがさき・いろは。

こうして毎朝、僕を起こしにくる幼馴染だ。

和樹「いつも思うけど……僕がまだ着替え終わってなかったらどうするつもり?」

■■■画像/漫符中=?

色葉「大丈夫だよ?
いつも開けたら着替え終わってるし」

和樹「終わってなかったらだって」

■■■画像/動作中=ピョン

色葉「時間ないよー! 準備準備っ」

和樹「……わかったよ」

●●●BGMオフ

■■■暗転中 bgm=on]

■■■画像/視界=見える/背景=BG090a_80

●●●SE基本=kodama_suido01

和樹「ぷあっ、ふう」

タオルで顔を拭って、鏡を見る。
毎朝必ず裏切られる期待を、少しだけ籠めて。

■■■画像/視界=見える/背景=illust12

和樹「……はぁ」

鏡の中には今日も、見飽きたいびつな似顔絵があった。

■■■暗転中 bgm=on]

●●●BGM=CP01

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu1_800/立ち絵中=色葉

色葉「おかえりー。
あ! またタイ緩めっぱなし」

和樹「緩いほうが楽なんだ」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「だーめ。直すから、じっとして」

和樹「いいって」

■■■画像/漫符中=Σ/動作中=ピョン

色葉「む。振り払わなくても! 和樹が冷たい」

和樹「そうじゃなくて」

そんな新妻みたいに振舞われても、どう接したらいいのかわからないだけだ。色葉だって、僕が喜べないのは知ってるはずなのに。

■■■画像/立ち絵中=色葉/アップ

色葉「隙あり! とりゃー」

和樹「ちょっと……」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=+

色葉「はい、できた。教科書用意してね」

■■■画像/立ち絵中=clear

和樹「……?」

色葉が机の前の椅子に座った。
いつもならベッドに座って待っているのに。

そこにいられると教科書の用意ができないんだけど……ベッド、汚したっけ? あんな夢で?

和樹「……うん?」

枕元に見覚えのないリボンがある。

何だこれ?

●●●SE基本=on_jin_hito_ge_ugoki07

引っ張ってみると、枕の下から黒いレースがついてきた。

和樹「……え……」

●●●BGMオフ

――パンツ。ショーツ。女性用下着。
黒いレース。布面積の少ない衣類。

…………。

……ここ、僕の部屋だよな?

■■■画像/立ち絵中=色葉/制服ポーズ差分/動作中=ピョン

色葉「あっ!」

●●●SE基本=web_wave_lib_HitC11

■■■クエイク

和樹「うわっ!」

壁にぶつかるまで後退りする。
枕元の物体に度肝を抜かれて、色葉の存在を忘れていた。

■■■画像/漫符中=ω/動作中=ピョン

色葉「やだ、和樹ってば……」

和樹「ち、違う!」

僕はやってない。盗んでない脱がしてない。

●●●SE基本=kuro_paper

下着が手から滑り落ちて、オレンジ色のメモ用紙がベッドの上に舞った。

ん? メモ用紙?

『使ったら畳んで置いておいてください。
 新品だから安心してね♪ いろは』

和樹「…………」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「…………」

和樹「は?」

■■■画像/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「やだ……和樹ってば」

和樹「……色葉。これ、何?」

■■■画像/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「やめてよ……恥ずかしいよ」

■■■クエイク

●●●BGM=CP02

和樹「こっちが恥ずかしいよ!」

ベッドマットに勢い良く手を着く。
パンツがひらりと舞った。

和樹「なんでちょっと僕が悪いみたいな言いかたになってるんだよ」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「だって、こっそり置いたのに。
そんな見せつけなくたって」

和樹「見せつけたのはどっちだよ。
置かなくていいって。いらないから」

■■■画像/立ち絵中=色葉/制服ポーズ差分/漫符中=|

色葉「やっぱり私のって思っちゃうと駄目だよね」

和樹「そういう問題じゃないって」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=+/動作中=ピョン

色葉「でも安心して。きっとそうだと思って、書いてある通り。ちゃんと新品のにしたから!」

和樹「…………。なんでこんなことしたのさ?」

■■■画像/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「それは、晃君が一昨日、教えてくれて。
和樹も男の子だし、言えないだけで本当はそういうの欲しい年頃だよって」

晃め……色葉はなんでも本気にするから洒落にならないのはやめて、っていつも言ってるのに。

僕をからかうのにかこつけて色葉にセクハラ?
あいつのやりそうなことだ。

和樹「何回騙されたら気が済むんだよ……晃の冗談なんか真に受けないでったら」

■■■画像/漫符中=?

色葉「晃君、冗談だったの? すごく真剣だったよ?」

和樹「そうだよ。真剣に騙そうとしてたんだ。
……お願いだから、年頃の息子がいる母親みたいな悩み抱えないで」

■■■画像/漫符中=ε/動作中=ユラユラ

色葉「でもほら、そういうことってその。叔母さんには甘えにくいんじゃ……って思ったり」

和樹「甘えにくいんじゃなくて、そんなことで甘えたくないよ。自分でどうとでもできるって」

■■■画像/漫符中=Σ

色葉「じ、自分で買うの!?」

和樹「女の子用のパンツは買わない!」

■■■画像/立ち絵中=色葉/制服ポーズ差分/漫符中=ε

色葉「う、うん。良かった。
和樹が自分で買ったりしたら、店員さんに誤解されて襲われちゃうかも」

どういう意味だよ。
嫌な予感がするから聞かないけど。

和樹「とにかく……そんなことのためにわざわざ。
身の丈に合わない下着を買ったり、こっそり枕元に置いてったり。変な苦労しないでよ」

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉「わかった! ごめんね。私、間違ってた」

和樹「わかってくれたならもういいけど……」

■■■画像/立ち絵中=色葉/制服ポーズ差分/漫符中=Ξ

色葉「和樹はおねーさん系が好きだと思ってたの!
私くらいの身の丈でいいなら、今度は白のレースにするね」

和樹「どうしっ……そうじゃなくて!」

どうして僕が隠してる本の傾向まで知ってるんだよ。怖いよ。

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉「まさか……もっと?
プリントものとか、くしゅくしゅの?
さすがに買うの恥ずかしいかも……」

和樹「持って来ないでって言ってるんだ……」

だんだん疲れてきた。
何やらせるんだよ晃……。

■■■画像/立ち絵中=色葉/制服ポーズ差分/漫符中=Σ

色葉「えっ? い、いらないの?」

和樹「えっ? はこっちの台詞だよ。
教室で教科書出そうとして、こんなの出てきたら自殺ものだと思わない?」

■■■画像/漫符中=ε/動作中=ピョン

色葉「自殺は駄目! 早まらないで!」

和樹「なら持って帰ってよ」

持って帰ってっていうか、これから学園に持って行くことになるのか。

■■■画像/漫符中=ι

色葉「うう……ごめんなさい。持って帰る」

和樹「先に一階に降りて待ってて」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=|

色葉「はーい……」

■■■画像/立ち絵中=clear

色葉はパンツを拾って、とぼとぼと部屋から出て行った。

和樹「…………」

ああまで必要以上の世話を焼かれたら……好かれてるんじゃ? って僕が勘違いしても、自意識過剰と一概に言い切れない気がする。

●●●BGMオフ

カレンダーが視界に入った。
10月1日……あれから、早くも一年半。

和樹「やっぱり、距離を置いてもらうべきだったかなぁ……」

●●●BGM=CP11

■■■画像 time_zone=memory/背景=BG14a_80/立ち絵中=色葉

色葉『嬉しい! 和樹と一緒の高校に合格できたし。
家も近くで、クラスも一緒だね』

和樹『……うん』

■■■画像/漫符中=v

色葉『和樹、ブレザーすっごく似合ってる。
急に大人っぽくなったみたい。いいなー』

和樹『話があるんだけど……今、いい?』

■■■画像/漫符中=?/動作中=ピョン

色葉『うん? 大丈夫だよー。なあに?』

和樹『……合格できたら言おうと思ってて。
色葉が勉強を教えてくれたから受かったんだ。
だから、その。ありがとう』

■■■画像/漫符中=ω/動作中=ユラユラ

色葉『改まってお礼なんて言われたら照れちゃう。
頑張ってたのは和樹だし。私もつられて、一緒に頑張ってただけ!』

和樹『……色葉と、同じ学園に来たくて。
志望校、合わせたんだ』

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉『……!』

和樹『それで、だから……気持ち悪いこと言ってたら、ごめん。迷惑じゃなかったら、でいいんだけど』

■■■画像/漫符中=ε/動作中=ユラユラ

色葉『迷惑なんて、そんなことないよ。
嬉しいに決まってるのに』

和樹『そうじゃなくて……何度か言おうとしてたんだ。
いつも、タイミング逃してて』

■■■画像/漫符中=‥

色葉『う……』

和樹『その……すっ。好きで。付き合って、欲しい』

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉『……!!』

和樹『…………』

■■■画像/漫符中=‥

色葉『…………』

和樹『……えっと……』

■■■画像/漫符中=‥

色葉『…………』

和樹『返事は、急がなくていいから……』

●●●BGMオフ

■■■画像/立ち絵中=色葉

色葉『……ごめ、んなさい』

似顔絵をそむけて、言葉少なに。
声が酷く震えていた。

まだ新しい校舎。おろしたての制服。桜並木。
鮮やかだった全てが、一瞬で色あせた。

和樹『…………』

■■■画像/漫符中=‥

色葉『…………』

和樹『あっ……謝られるようなことじゃ、ないよ』

■■■画像/漫符中=ε

色葉『私……』

和樹『……気、遣わないで。
今まで通りで……友達でいて』

■■■白転

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu1_800

…………。

あの時は他に言葉が見当たらなかったから、後悔しても仕方ない。

けど、今となっては。もらえないってわかってる餌を、お預けされた犬みたいな気分だ。

好きでもない僕のことを、こんなにかまってくれるのは……哀れんでいるから?

和樹「……はあ」

●●●SE基本=on_jin_sei_ge_katen_op05

カーテンを開く。眩しい陽射しが目にささった。
今日も嫌になるほど晴れている。

夢見の悪い朝。歪な似顔絵。
面倒見のいい幼馴染。後ろ向きな心。

●●●BGMオフ

――これが、僕の日常。

●●●BGM=CP13

■■■画像/背景=illust10

顔があるべき場所に『幼稚園児がクレヨンで描いたような、いびつな似顔絵』が貼り付いて見える――。

病院の先生曰く、僕は『相貌変形視』という症状の一種らしい。

■■■画像/背景=illust02

TV・写真・鏡・絵画・人形・仮面。
よほど簡略化されていない限り、人の顔らしいものはなんでも似顔絵だ。

あまりよく知らない似顔絵は曖昧で、黒いもやがかかって見えたりもする。不気味で、長くは見ていられない。

■■■画像/背景=illust24

ややこしいけどもう一つ。
僕は『解離性全生活史健忘』らしい。
俗にいう記憶喪失だ。

お箸の持ち方や自転車の乗り方は覚えているのに、名前・年齢・家族・友達……自分に関することが思い出せない症状。

思い出せるのは、中学校入学前くらいまで。
小学生時代・幼稚園時代の記憶がない。

養父の叔父は、両方とも僕の親が事故で亡くなった時になったと言っていた。

『相貌変形視』と『解離性全生活史健忘』
この二つが重なって起きた僕には、正しい顔の記憶がない。

おかげで、視界が狂っている実感は薄く、症状を気にすることなく暮らせている。

■■■画像/背景=illust23

……それなら僕は、自分を普通だと思って生きていたい。

顔が見えなくて不便なのは我慢できる。
記憶も。ないものはない。仕方ない。
そう、症状は割り切れる。

いつまでも割り切れないのは……。
周りのひとの心配と、優しさのほうだった。

■■■暗転大

●●●BGMオフ

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最終更新:2013年01月19日 22:40