■■■暗転小

●●●SE基本=poket_soundlogo27

■■■画像/視界=似顔絵/背景=chapter1 sys=off

■■■画像/視界=似顔絵/背景=cg01

色葉「久しぶりに暑いね! 気持ちいい」

色葉はいつも少し先を歩く。
振り返らずに、オーバーリアクションで話しながら進んでいく。

――たぶん、僕に似顔絵を見せずに会話するために。

和樹「はぁ」

色葉「どうしたの? せっかくお天気良いのに。
おっきな溜息」

和樹「別に……暑いから。今日から冬服なのに」

色葉「秋晴れ秋日和! 爽やかでいいのにー」

ちっともよくない。そうやって愚痴にまで明るく返事してくれるから、つい『もう一回告白したらいけるんじゃ?』なんて妄想が湧くんだ。

そんな有り得ない妄想するなら『パンツが新品なんて嘘で、実は今穿いてないんじゃ?』って妄想するほうが、まだ現実味がある。

……いや、ないよ。何考えてるんだ僕。もっと凹んできた。

ほどよく突き放して冷静にならないと。
今度フラれたら友達でさえいられない。

色葉のテンションが下がりそうな話題は……。
虫かな。よし。

和樹「暑い日は危ないよ。あれとか、ぶつかってきそうだし」

色葉「危ない? 食中毒とか?
……あ! わかった。ひと夏の恋っ!」

ぐっ……。

和樹「……虫だよ。セミとか」

色葉「ひいぃ!? やーめーてー!」

■■■クエイク

和樹「ぶっ!?」

色葉「わっ! ごめんなさい!」

どうにか流れを戻したのに、今度はバッグで鼻を潰された。そこらに虫がいたら瞬殺する勢いで。これじゃ一番の危ないのは色葉だ。

色葉「暑いの、嫌い? 和樹、夏祭り好きじゃない?」

和樹「それは嫌いじゃないけど……」

色葉「金魚すくいの名人だよね。毎年いっぱい貰えるから、うちの水槽オレンジに染まってるよー」

和樹「得意ってほどじゃないよ」

色葉「出店のおじさんに顔覚えられちゃってるじゃない。薄い紙のポイしかもらえないし」

和樹「……あれはずるいね」

色葉「なのに何匹もとれちゃうからカッコいいよね!」

和樹「金魚すくいなんか、上手くいってもカッコよくないって」

色葉「そんなことないよ。私羨ましいし。
ちびっこ子達が憧れの眼差しで見てたもん」

和樹「ちびっこ……」

色葉「夏は和樹が輝く季節!」

和樹「やめてって。ちびっこの好き嫌いを誘導する親じゃないんだから……」

色葉「そんなつもりじゃないのにー。
でも私、夏生まれだし。寂しいかも。
和樹がオールシーズンハッピーだといいなっ」

和樹「僕は春生まれだけど、オールシーズン春先の患者なんて嫌だよ」

色葉「ずっと春先みたいにポカポカだったら、最高なのに」

色葉は7月12日、僕は4月27日生まれ。
学校法人雨弓――あまゆみ――学園、高等部2年生。17歳。

距離を置こうとする僕の態度なんか、へっちゃらで明るく話せる色葉を見てると、僕のほうが先に生まれたなんて信じられそうにない。

夏祭り。好き……かな。

■■■画像 time_zone=memory/背景=illust07

色葉とお祭り。憶えている限り、毎年行った。
いつも色葉から誘ってきた。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=cg01

色葉「来年の夏祭りも、また一緒に行こうね」

和樹「……まあ」

色葉「約束!」

和樹「……いいけど」

付き合って欲しいって言ったら、ごめんなさいするくせに。

わかっているのに、誘われると楽しみになってしまう自分が嫌だ。

■■■暗転大

●●●BGM=CP02

■■■画像/背景=BG29a_80/立ち絵中=晃

晃「おーっす和樹」

この似顔絵は、金田晃。かねだ・あきら。

ぼうっとしてると班決めの時に取り残されるくらい地味な僕とは真逆で、学園行事には欠かせない盛り上げ役だ。

なぜか中学生時代からの付き合いがある。
色葉曰く、中学校入学前……記憶を失うずっと前から僕と仲がいいらしい。

和樹「おはよう、晃。この恨み、忘れないよ」

■■■画像/漫符中=?

晃「おいおい、朝から物騒だな。なんの話だ?
今日は色葉ちゃん、一緒じゃないのかい?」

和樹「トイレに行ったよ。
それより、また色葉に変なこと吹き込んだだろ」

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

晃「変なこと……ははぁ? さては。
本気で土日に色っぽい下着買ってきたんだな!」

和樹「買って来た。
ほんとさ……なんでも信じるんだから、色葉を騙すのはやめてよ」

■■■画像/漫符中=Ξ

晃「今時なかなかいない素直さだよな。感心感心」

和樹「素直っていうか、鵜呑みっていうか。
心配になるレベル」

■■■画像/漫符中=♪

晃「妖精とか幽霊も信じてるんだって?
いいじゃないの。そういう身内だけに出るイタかわいさ、俺好きよ。面白くて」

和樹「相変わらず毒舌だよね。僕もよく冷たいとか言われるけどさ」

■■■画像/漫符中=+

晃「痛々しいくらい一生懸命でかわいいの略だ!
褒め言葉よ?」

毒を吐いても勢いで流せるところが羨ましい。

和樹「恩返しの童話とか、未だに好きだからね……パンツもたぶん『こびとのくつや』に出てくる妖精の真似。間違ったほうに一生懸命過ぎだよ」

■■■画像/漫符中=v

晃「くっくっく。寝てる間に女の子の下着を置いていくなんて、凄腕のブラウニーだよな」

和樹「ブラウニーを凄腕に鍛えてどうしたいのさ。
僕が朝っぱらからどんだけ悶々とさせられたか、わかってる?」

■■■画像/漫符中=#/動作中=ピョン

晃「黙れ! 俺だって、そっと枕元に下着を置いていく美人のクラスメイトが欲しいんだ!!」

和樹「ちょっ。声が大きいって。そんなの黄之瀬さんに頼めばいいのに」

■■■画像/漫符中=ι

晃「凛にンなこと頼んだら、脳天を矢でブチ抜かれるっての」

和樹「だからって色葉をからかわないでよ。
晃はロリ……黄之瀬さんみたいな小さい子のほうが好きじゃなかった?」

■■■画像/漫符中=!

晃「いいや。凛は俺には中途半端だ。俺はもっと、精神的にも肉体的にも幼い子に反応する」

■■■クエイク

和樹「お巡りさん、ここです」

■■■画像/漫符中=ι

晃「まあ真面目な話。幼馴染なんて兄弟姉妹みたいなもんで、そういう目で見れないぞ?
和樹と色葉ちゃんの関係はレアだろ」

和樹「そういうものかな。はあ。
今日一日分の体力、全部持っていかれたよ」

■■■画像/漫符中=v

晃「ウヒヒ。モテる男は辛いねぇダンナ」

和樹「……フラれてるってば。
晃が一番よく知ってるじゃないか」

■■■画像/漫符中=?

晃「っかしいよなぁ。和樹のこと以外、まるっきり眼中無しに見えるのになぁ色葉ちゃん」

和樹「その言葉を信じて告白して、玉砕したのも報告したよね」

■■■画像/漫符中=!

晃「うぜぇのは承知よ。それでも、いつもおまえらと一緒に居る俺としては、納得いかなくてねぇ」

和樹「なんだよ。背中を押してもらって逆恨みはしないけど、傷に塩を塗られたら恨むよ」

■■■画像/漫符中=?

晃「そう言うなって。色葉ちゃん、何か事情があって断ったんじゃないのか? おまえの告白」

和樹「ほっといてよ……色葉の場合、そういう考えは危険なんだ」

■■■画像/漫符中=‥

晃「寂しいねぇ。信じる心、大事よ?
和樹も前は色葉ちゃん並に素直だったのに、フラれてからすっかり俺みたいにヒネちゃって」

和樹「からかい甲斐がなくなって悪かったね。
あんなの、人間不信に拍車がかかるだけだよ」

■■■画像/漫符中=!

晃「冷静に考えてみろって。さすがに親心じゃ下着は渡せないだろ? 一回ちゃんと話し合ってみたらどうよ」

和樹「そのまさかを実践するモンスターペアレンツ心なの」

■■■画像/漫符中=?

晃「……おまえんちの事情、まだ心配されてるって?
そいつはさすがに今更だろぉ?」

和樹「…………」

晃は僕の記憶喪失については知っている。
変形視については知らない。
と、色葉に聞いた。

■■■画像/漫符中=♪

晃「まっ、仲良くやれよ! 俺、おまえが思ってるより本気で応援してるからさ」

和樹「だあから、それをやめてって」

■■■画像/立ち絵左中=晃/立ち絵中=clear/立ち絵右中=色葉

色葉「おまたせっ和樹。おはよう晃君!」

晃「おーっす色葉ちゃん」

●●●SE基本=kuro_chime_short

■■■画像/漫符左中=!/漫符右中=Σ

色葉「あ、予鈴!」

晃「おっと! 行くか」

色葉「うん。行こっ」

和樹「うん」

■■■暗転中

■■■画像/背景=BG26a_80

次の時間は特別教室。色葉は職員室に行った。

待ってようか……こういうのが良くないのかな。
一緒に行動するのが習慣になっている。

……一人で行こうかな。

■■■クエイク

●●●SE基本=pocket_boyon

???「いだっ!」

和樹「え?」

立ち上がった瞬間、後ろから悲鳴が聞こえた。
ぶつかったかと思ったけど、どこにもそんな衝撃がない。

代わりに、ふにょんとした柔らかい感触が肘の辺りに残っている……。

●●●BGM=CP06

■■■画像/立ち絵中=百花

???「~っ! いきなり立ち上がるなよ!」

振り返ると、胸の辺りを押さえて前のめりになっている女子がいた。

……まさか、今、当たったのって。

和樹「ご、ごめん! その、ぶつかった?」

■■■画像/漫符中=#

???「思いっきりな!」

似顔絵が掲げられた。
赤坂百花。あかさか・ももかさんだ。

彼女が走ると走れなくなる、と男子の間で密かな噂のクラスメイト。
理由はもちろん――。

■■■画像/背景=illust26/立ち絵中=clear strans=mosaic

■■■クエイク

●●●SE基本=pocket_boyon

ふにょん。

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵中=百花 strans=mosaic

…………。

保護されてそうなのに、痛いものなんだな……。

スタイルのいい赤坂さんには僕もつい目がいく。そのせいか、とりわけて親しいわけでもないのに似顔絵がはっきり見えている。

和樹「ほんとごめん。大丈夫?」

百花「もういい。橙ヶ崎、いないのか」

和樹「い、いないよ。職員室に行ってる」

妙なことを考えてるときに色葉の名前を聞いたら、なんとなくあわてた。

■■■画像/漫符中=?

百花「おまえらって、いつもそんなにお互いのスケジュール把握してるのか?」

和樹「え? まあ……僕はいい加減だけど。
色葉は、どこか行く時はだいたい言ってから行くかも」

■■■画像/漫符中=ι

百花「まめなやつだな。そういうところが、あたしとは違うんだろうな……」

和樹「え?」

■■■画像/漫符中=#

百花「なんでもねぇよ。これ。橙ヶ崎に渡せ」

和樹「うん? これ……携帯ストラップ?」

赤坂さんはウサギをつまんでいた。
フェルト……だっけ。柔らかい生地で、緻密なつくりの携帯ストラップだ。

■■■画像/動作中=ピョン

百花「いいから渡せよ」

■■■画像/立ち絵中=clear

つっけんどんに言い渡された。
赤坂さんはそのまま、質問をさえぎるように立ち去ってしまった。

和樹「あ……」

…………。

■■■画像/背景=illust26 time_zone=memory strans=mosaic

■■■クエイク

●●●SE基本=pocket_boyon

ふにょん。

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵中=百花 strans=mosaic

■■■クエイク

大きかっ……うわ。まだ居た。

百花「おい紺野。この前の金、早く返せ」

■■■画像/立ち絵左中=百花/立ち絵中=clear/立ち絵右中=大洋/動作右中=ピョン

大洋「げっ!」

教室の隅でクラスの男子と不穏な話をしている。

紺野君……紺野大洋。こんの・たいよう。
あまり縁のないサッカー部の男子だ。声が大きくて目立つからか、似顔絵は見えている。

■■■画像/漫符左中=#

百花「待って欲しいなら誠意を見せろよ。
手ぇついて頼みやがれ」

■■■画像/動作右中=ピョン/漫符右中=ι

大洋「わかったよ。お願いします待ってください」

■■■画像/漫符左中=#

百花「壁に片手をつくな! ふてぶてしいわ。
床だ! ドヤ顔もすんなうぜぇ」

■■■画像/立ち絵右中=clear

大洋「しょうがねえなあ。お願いします待ってください」

■■■画像/漫符左中=ι

百花「腕立てすんな! うっとうしい!」

●●●SE基本=kodama_tsukkomi_bishi

■■■クエイク

大洋「ふごっ!?」

■■■画像/立ち絵右中=大洋/動作右中=ピョン/漫符右中=#

大洋「じゃあどうしろって言うんだよ!!」

■■■画像 action_lc=イドウ右

百花「おちょくってんのか? てめぇ、いい度胸だ」

■■■画像/動作右中=ピョン/漫符右中=Σ

大洋「うわあおまわりさーん! 闇金に殺される!!」

■■■画像/立ち絵右中=clear

百花「こら、逃げんな! 誰が闇金だ!」

●●●BGMオフ

■■■画像/立ち絵左中=clear

何のお金だろう?

…………。

■■■画像/背景=illust26 time_zone=memory strans=mosaic

■■■クエイク

●●●SE基本=pocket_boyon

ふにょん。

■■■画像/背景=BG26a_80 strans=mosaic

もういいって。何回思い出してるんだよ。

■■■暗転中 bgm=on]

●●●BGM=CP04

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵中=色葉

色葉「おかえりなさい!」

和樹「……は?」

■■■画像/漫符中=ε/動作中=ユラユラ

色葉「和樹……和樹ってば。おかえりって言ったら、ただいまって言って欲しいな?」

和樹「いや、ちょっと。人聞きの悪い言いかたしないでよ」

■■■画像/漫符中=ε/動作中=ピョン

色葉「だって。返事してくれないし」

■■■クエイク

和樹「素で誰に言ったかわからなかったんだよ。
僕は自分の席から一歩も動いてないってば」

●●●BGMオフ

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=!

色葉「二人は遂に、教室で再会したのだ!」

和樹「へっ?」

●●●BGM=CP11

■■■画像/立ち絵中=色葉

???『瞳を交わした刹那、回り灯籠のように駆け巡る思い出。彼女は思い知らされた。知らぬ間に、砂のように渇き果てていた心を』

???『懐かしい幼馴染の姿は、湧きあがる泉だった。貪欲に染みられる。オアシスを探す長い旅の果て、彼女は遂に気付くことができたのだ』

???『それは彼女が振り返ることを恐れていた背後で、たゆまず湧き続けていたことに――』

和樹「…………」

???『彼女の唇は、考える前に開いていた』

■■■画像/漫符中=ω

色葉「おかえりなさい」

???『彼もまた同じ感動を共有していた。無意識に滑り出る挨拶』

和樹「…………」

???『おかえり。ただいま。そんなありきたりの挨拶が、分かたれていた時間さえ二人の絆へと昇華させていくのであった――』

●●●BGMオフ

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉「台詞遅いよっ。先にナレーション読んじゃった」

●●●BGM=CP04

和樹「……うん。ただいま。じゃ、挨拶も済んだし、教室移動しようか」

■■■画像/立ち絵中=色葉/漫符中=|

色葉「流した……! むー。和樹が遊んでくれない」

和樹「急に冷たくなった人みたいに言うのやめてって。それよりこれ。さっき赤坂さんが色葉にって」

■■■画像/漫符中=v

色葉「わ。すごーい、かわいいウサギ!
これって? もしかして……」

和樹「渡してって言われただけだから、どういう意味かは知らないけど」

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉「ラインストーンの並びかた、赤坂さんのネコとお揃い! 作ってくれたのかな?」

和樹「え? 手作り?」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「うん。きっとそう!」

和樹「へえ……器用だね」

■■■画像/漫符中=?

色葉「すごいよね。びっくりした。
なんで作ってくれたんだろ?」

和樹「約束してたんじゃ?」

■■■画像/漫符中=?

色葉「してないよー。赤坂さんがバッグにつけてたネコかわいくて、どこで売ってるのか聞いて。
自作って言うから、すごーいって話したけど」

和樹「仲良かったんだね。
教室で話してるの、見たことなかったよ」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「赤坂さん手芸部なんだ。
覗いたとき、お裁縫教わってるの」

和樹「ああ、そっちで話してたんだ……。
部活の掛け持ちなんてよくやるよ」

■■■画像/漫符中=?

色葉「掛け持ちはしてないよー。弓道部だけ。
手芸部は頼んで混ぜてもらってるんだ。
団体競技じゃないから気楽だし」

和樹「どっちも疲れそうだけど」

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「楽しいよ! 気分転換になるの」

和樹「ふーん……赤坂さんが手芸部って、なんか意外だね」

指に刺さった針に向かって『てめぇ、いい度胸だ』とか言ってる姿が浮かぶ。

■■■画像/漫符中=?

色葉「意外じゃないよ? いつも皆に教えてくれて、家庭的なの。すっごく優しいんだよ」

和樹「そうなんだ」

■■■画像/漫符中=v

色葉「上手だねって言ったら、昔からやってるから慣れてるだけって照れちゃうんだけど」

和樹「照れたりするんだね……」

■■■画像/漫符中=ε

色葉「さっき和樹、仲良かったんだねって言ってたけど……小学生の頃、和樹とも同じクラスだったんだよ。赤坂さん」

和樹「へえ……そうだったんだ」

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「うん。中学生のときはクラスが違ったけど。
学校は一緒だったし」

和樹「そうだっけ……?」

■■■画像/漫符中=‥

色葉「この学園、家から近いから……。
小学や中学で同じクラスだった人、多いんだ」

和樹「晃しかわからないや」

■■■画像/動作中=ピョン/漫符中=Ξ

色葉「うんうん。晃君もだし。凛ちゃんは違うけど、弓道の習い事ある日は晃君を迎えに来てて。
水城さんに、紺野君もかな」

和樹「多いなぁ……」

●●●BGMオフ

■■■画像/漫符中=!/動作中=ピョン

色葉「和樹! そうだよ。いくら近所の学園でも、多過ぎる。これっておかしいよ!」

■■■クエイク

和樹「なっ。何がおかしいの?」

●●●BGM=CP16

色葉「きっと誰かの陰謀なんだよ!
私から唯一の属性『幼馴染』を奪おうと、次から次へと差し向けられる刺客……!」

●●●BGMオフ

和樹「……その属性、僕と今言った人達にしか適用されないよね」

●●●BGM=CP04

■■■画像/漫符中=?

色葉「近所のお姉さん属性とか、妹属性のほうが好き?」

和樹「もしかして、電波属性を増やそうと狙ってる?」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「ふはははー。よくぞ我が野望を見破った!」

和樹「それはないほうがいい属性だと思うよ……」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「電波かわいいのに。発信~みゅんみゅん。
受信~みょんみょん」

和樹「うちの校歌、それじゃない」

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「交信みゃんみゃんもしようよ!」

和樹「そんな古いネタ、僕知らないって」

■■■画像/漫符中=|

色葉「嘘つきー」

色葉は小学6年生の始めに、今住んでる一軒家に引っ越して、ギリギリ学区が変わって転校したらしい。中学でまた一緒になった。

一年間の空白は子どもにとっては大きかったんだろうけど……僕の記憶は中学校入学直前からだ。

一緒だった時間も、離れていた時間も、僕がどんな心境だったかは思い出せない。

中学生の頃か……言われてみれば、赤坂さんの似顔絵に見覚えがあるような。
だから似顔絵が見えていたのかな?

■■■画像/漫符中=v

色葉「うんうん。へへ……ストラップ嬉しいなー」

色葉はウサギをそっと握ったり掲げたりしている。

●●●BGMオフ

和樹「……ん?」

色葉の向こうから、似顔絵をじっとこちらに向けている女子がいる。

●●●BGM=CP05

■■■画像/立ち絵中=葵

あれは……水城葵。みずき・あおいさん。
こっちを見てるのかな?

クラスでは静かでいつも一人でいる、小さくて目立たない子だ。クラス替えしたばかりの時は、かわいいって噂を聞いたかもしれない。

僕にはもちろん、目立つどころじゃない。
あの似顔絵。
異様としか形容できない色彩。

なんだってあんな色なんだろう?
あまり話したことがない人の似顔絵がはっきり見えるのも珍しいし。

最初は気になって仕方なかった。
でも、自分から女子に声をかけるのは苦手だ。

水城さんが消しゴムを落とした時、勇気を出して一度だけ話しかけてみたんだけど……無視されちゃったんだよな。

僕が嫌われてるというよりは皆にそういう感じらしいから、まあ仕方ないか。

■■■画像/漫符中=‥

葵「…………」

水城さんは相変わらずこっちを見たままで小さく首を傾げている。
名前を呼ばれて反応したのかな?

■■■画像/立ち絵左中=葵/立ち絵中=clear/立ち絵右中=色葉

色葉「水城さん。ストラップ、見る?」

僕が水城さんを見ていると、色葉も振り返った。

■■■画像/漫符左中=v

葵「……うん」

頷いた。ストラップが見たかったのか。
よく気付けるなぁ、色葉……視線かな?
無口な人は苦手だ。表情が見えないし。

それにしても、水城さんでも返事してくれることなんてあるんだな……僕が話しかけても、一言も口をきいてくれないのに。

……あれ。僕、やっぱり嫌われてる?
色葉が好かれてるだけ?

■■■画像/漫符右中=♪

色葉「はい! すっごいかわいいよね。
興奮しちゃった」

■■■画像/漫符左中=‥

水城さんはストラップを大事そうに両手で受け取って、動きを止めている。見入っているんだろうか。

葵「……ウサギ。好き」

●●●BGMオフ

●●●SE基本=kuro_chime_short

■■■クエイク

和樹「って、次特別授業じゃないか」

■■■画像/動作右中=ピョン

色葉「きゃっ! そうだった。行こっ!」

■■■暗転中 bgm=on]

●●●BGM=CP02

■■■画像/背景=BG26a_80

購買から教室に戻ってくると、僕らが昼食をとるための席が整えられていた。

■■■画像/立ち絵中=色葉

色葉「凛ちゃーん、机並べたよ!
一人でみんなの机まで、泣きながら並べたよ!」

■■■画像/立ち絵左中=色葉/立ち絵中=clear/立ち絵右中=凛

???「うわぁ……何そのいたたまれないお出迎え。
ごめんったら。トイレ行ってたの」

ハンカチで手を拭きながら戻ってきた似顔絵は、黄之瀬凛。きのせ・りんさん。
勉強家で育ちのいい女子クラス委員長だ。

■■■画像/漫符左中=♪

色葉「ささ。私の労働を踏み台に、優雅な食事をたのしんで」

■■■画像/漫符右中=|

凛「あのね、これからお弁当だから。
胃がきゅっとくるのヤメテ」

■■■画像/漫符左中=?/動作中=ピョン

色葉「きゅんってきちゃう? 女王様とか憧れちゃう?」

■■■画像/漫符右中=#

凛「今すぐ色葉を鞭でしばき倒せるなら、女王様も悪くないかな」

■■■画像/漫符左中=v

色葉「ひぃん! しばかれちゃう」

■■■画像/漫符右中=ι/動作右中=イドウ左

凛「嬉しそうな悲鳴あげないの」

●●●SE基本=kuro_tsukkomi_shoes

■■■画像/漫符左中=Σ action_lc=ピョン

色葉「ひゃん。凛ちゃんデコピン痛い!
もっと優しく……ときには激しく!」

■■■画像/漫符右中=ι

凛「何なの? これ」

●●●SE基本=kuro_tsukkomi_shoes

■■■画像/漫符左中=ε action_lc=ピョン

色葉「いだ! もういいよ! 満足したよー!」

■■■画像/漫符右中=v

凛「ウフフ……まだまだこれからでしょう?」

■■■画像/背景=illust27/立ち絵左中=clear/立ち絵右中=clear

●●●SE補助=kuro_tsukkomi_shoes

●●●SE基本=amitaro_oh

色葉「いだい! だんだんよくなってきたあん!」

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵左中=色葉/立ち絵右中=凛

■■■画像/漫符右中=ι/動作右中=モドル

凛「ひぃ! あざとい!」

■■■画像/立ち絵左中=色葉/立ち絵右中=凛

女子二人の会話に混じっていくのは気後れする。……会話の内容のせいも多分にあるけど。なんだろうあのノリ。

一人で購買から帰ってきた僕は、少し離れたところに立って二人を眺めた。

黄之瀬さんは弓道部員で、色葉の親友だ。

クラスが違った1年生の頃から色葉と仲が良くて、今ではいつも一緒にいる。
二人ともお嬢様風で、似たもの親友だ。

和樹「……ふぅ」

今日は脳内人物説明が多い。疲れた。

でも、似顔絵の確認は習慣にしておかないとな……。

他人や疎遠な人、しばらく会ってなかった中学のクラスメイトは、顔に黒い霧がかかって見えることがある。

たぶん、似顔絵を忘れたせいだと思う。
今の友達がそんなことになったら……考えるだけでゾッとする。ちゃんと憶えておかないと。

色葉「和樹と晃君は……あ、和樹! おかえり」

和樹「はい、烏龍茶」

お茶が温くなる前に気付いてもらえてよかった。

もう半年くらいこの面子で昼食をとっているのに、声をかけてもらわないと混じりにくいのが情けない。いつもは晃がいるから楽なのに。

■■■画像/漫符左中=♪

色葉「ありがとっ! これお金」

■■■画像/漫符右中=?

凛「おかえり、和樹君。晃は?」

和樹「まだ買い物するから先に戻れって。
はい、レモンティー。お金は受け取ってるから」

■■■画像/漫符右中=♪

凛「ありがとう。ごめんね、晃に頼んだ分まで」

和樹「いいよ。このくらい」

僕が座るといつも通り、隣に色葉が座った。
僕の向かいが晃、色葉の向かいが黄之瀬さんだ。

■■■画像/漫符左中=?

色葉「ねね。こないだ凛ちゃんちで出してもらったお茶のカップ。ピーターラビットの。
あれってどこの? 探したら売ってなくて」

■■■画像/漫符右中=?

凛「気に入った? 駅前に新しくできた雑貨店だけど、ちょっとわかりにくい場所にあるの。
色葉も買うなら、一緒に行こうか?」

■■■画像/漫符左中=v

色葉「いいの? やった!」

■■■画像/漫符右中=!

凛「あ。でも今週は無理かも。
学園祭の準備でクラス委員の雑用、多いみたい」

■■■画像/漫符左中=?

色葉「そうなんだー。今週って弓道部もないよね」

■■■画像/漫符右中=‥

凛「だね。学園祭くらいで休みなんて、たるんでるって部長が荒れてたよ」

■■■画像/漫符左中=?

色葉「部長、最近何か機嫌が悪くない?」

■■■画像/漫符右中=ι

凛「それねー。山本先輩に告白してフラれたって噂」

■■■画像/漫符左中=Σ

色葉「えーっ。そうだったんだ!」

どうにか混じったけど、話題がわからなくて入りにくい。
晃、早く戻って来ないかな……。

■■■画像/立ち絵左=晃/立ち絵左中=clear/立ち絵中=色葉/立ち絵右中=clear/立ち絵右=凛

晃「凛と色葉ちゃんにデザート買ってきたぞぉ。
購買のプチっとゼリー!」

来た。競争の激しいデザートを狙ってたのか。

■■■画像/漫符中=!

色葉「わあ、いいの? お金は?」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「いいってことよ!」

■■■画像/漫符右=?

凛「怪しい。また何か企んでるでしょ」

■■■画像/漫符左=+

晃「へっへっへ。話が早くて助かるねぇ。
単刀直入に言おう。女子票が欲しい!」

■■■画像 /漫符中=?

色葉「票って?」

■■■画像/漫符左=♪

晃「明日のホームルームでちょいっと俺に賛同してくれるだけよ」

和樹「明日って……学園祭の出し物決め?」

雨弓学園の学園祭は、雨弓祭――あまゆみさい、と呼ばれている。小等部・中等部・高等部が揃って行い、一般の参加もあって盛大だ。

僕らのいるA組は、1年生のとき演劇をやった。
人気投票の結果は惜しくも2位だった。

■■■画像/漫符左=!

晃「おうとも。去年の出し物は演劇だったのに、俺はなぜか一人で金属加工にハマってた。今は反省している。今年はグランプリを狙うぜ!」

和樹「なんでもやるなぁ……」

先月は料理、先々月はサッカー、その前の月はプログラミングにハマってるって言ってたっけ。
趣味に統一感が全くない。

色葉もピアノ・バレエ・裁縫・料理・弓道と異様に多才だけど、高校で始めた部活の弓道以外は昔からやってるから、まだ納得がいく。

晃の場合は飽き性で続かないのに、何をやってもそれなりの成果を出すから恐ろしい。

■■■画像/漫符中=♪

色葉「体育祭で晃君がやった、実況放送。
面白かったよね!」

■■■画像/漫符右=♪

凛「だねー。今度は何する予定?」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「そいつは明日のお楽しみ。
協力してくれよな。雨弓祭の人気投票でグランプリが取れたら、内申点もプラスって噂だぞ?」

■■■画像/漫符中=!

色葉「そうなの!? 凛ちゃん、頑張ろうよ。
推薦取れたら、パパおすすめの大学に行かなくて良くなるかも!」

黄之瀬さんのお父さんは過保護なワンマンというか、習い事・大学・誰と結婚するかに至るまで勝手に決めてしまうような人らしい。

■■■画像/漫符右=ω

凛「えー……内申のために頑張るのって動機が不純じゃない?」

そう言いながらも、黄野瀬さんの声には嬉しそうな響きがにじんでいた。
親がいるからする苦労もあるんだな……。

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「かたいことは言いっこなしよ。任しとけって!
ばっちり盛り上げてやるからよ。
和樹も協力しろよ?」

和樹「出し物に賛同するだけでいいの?」

■■■画像/漫符左=‥

晃「おう! ひとまず、な」

■■■画像 /漫符右=ι

凛「あんまり変なイベントにしないでよ。
1年生のときやった演劇みたいに、因幡の白バニーガールとか。もう嫌だからね?」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「任しとけって。
今回は女子だけにはさせないからな」

■■■画像/漫符中=Σ

色葉「ちょ、ちょっ。えっ? 和樹のバニーボーイ?」

和樹「やめて。気持ち悪いもの想像しないで」

■■■画像/漫符右=ι

凛「また変なかっこするの?
晃! 賄賂の分しか騙されないからねっ」

■■■画像/漫符左=♪

晃「だぁーいじょうぶ、だいじょうぶ!
今回はいくらでも何とでもなるって」

和樹「何とでもなるって……やっぱり何かあるの?」

■■■画像/漫符左=?

晃「和樹、楽しみにしてろよ。
ちゃあーんと、おまえも楽しめる出し物を考えてるからな?」

和樹「な、何?」

含みのある言いかただ。
演劇のバニーガールは確かに僕も楽しめたけど、女子だけじゃないとなると不安だ。

■■■画像/漫符右=♪

凛「プチっとゼリーって美味しいよね。
プルプル感3割増しなのに、ジューシーで」

■■■画像/漫符中=v

色葉「プチっとしてお皿に移さないで食べちゃうと、ちょっと罪悪感だよね」

■■■画像/漫符右=?

凛「プチっとって?」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「この裏の突起をプチッと折ると、空気が入って綺麗に皿に落ちるんだよ」

■■■画像/漫符右=Σ

凛「そうなの? 知らなかった。
今度家で試してみよっと」

和樹「……晃。僕には?」

■■■画像/漫符左=+

晃「おいおい、なんで和樹に賄賂がいるんだ。
おまえのためにあるような企画だぞ?」

和樹「そうなの?」

僕のためにあるような企画って、何だろう。

■■■暗転中 bgm=on]

●●●BGMオフ

■■■画像/背景=BG15b_80

陽が傾くと、秋らしい涼しさになった。

今日は病院に寄って帰りたいから一人だ。
症状は落ち着いているから、たまに薬をもらいに行く程度に通っている。

予約時間待ちの間、色葉が雑談に付き合ってくれた。そろそろ行くと伝えたら、色葉は手芸部にいそいそと遊びに行った。

ウサギのストラップをもらったことで、赤坂さんにお礼を言いたいらしい。

昇降口は静まり返っている。
学園に残った生徒のほとんどは、部活の最中だ。

下駄箱に手をかけようとして、蓋がちゃんと閉まっていないことに気が付いた。

またか……よく、色葉に叱られるんだよな。
蛇口をぎゅっと絞らないとか。

そう僕を叱る色葉にも、ドアを閉めきらない癖があるのに。

●●●SE基本=kuro_getabako_open

和樹「……うん?」

下駄箱の番号を確認する。間違いなく僕のだ。
ローファーの上に、紙切れが乗っている。

近くの文具店で売っているルーズリーフだ。
僕も使っている。

まさかこんな紙で、それも今時。
ラブレターとか、果たし状なんてことはないと思うけど。

改めて周囲を見渡す。
何度確認しても誰もいない。

●●●SE基本=web_wave_lib_KamiA22

とりあえず読んでみるか……。

■■■暗転小 se=on]

●●●BGM=CP13

■■■ちらつき開始

■■■画像/背景=illust13

和樹「……は?」

ルーズリーフの中途半端な位置に、ぽつりと印刷された文字。

和樹「おまえの罪を……思い出せ?」

唐突な届き方。唐突な文面。
差出人名も宛名もない。

思い出せって、そりゃ昔のことは憶えてないけど。言われて思い出せるものなら、僕だって思い出したい。

罪って何だ?

和樹「…………」

■■■ちらつき停止

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG15b_80

……馬鹿馬鹿しいか。

つい真面目に考えてしまった。
深い意味があるなら、こんな方法で手紙を送ったりしないはずだ。

悪戯だ。下駄箱を間違えたのかもしれない。

こういう悪戯……前にもあったっけ。
前は教科書にいつの間にかメモが挟まっていて……文面も同じだった気がする。

教科書に直接書かれたわけでもないし、悪意があるんだかないんだかよくわからなかったから、すぐ忘れて……。

犯人を突き止めようと聞いて回ったけど、みんな知らないって言ってたな。

二回も届くなんて、やっぱり誰かに恨まれてるんだろうか?

色葉は男子に人気があるらしいから、実情を知らない人にやっかまれたのかもしれない。

ルーズリーフを丸めようとして、手を止めた。

和樹「……一応、取っておくか」

●●●SE基本=web_wave_lib_KamiA22

なんとなく、何か引っ掛かる。
畳んでポケットにしまった。

どこか落ち着かない気分で、僕は学園を出た。

■■■暗転大

●●●BGM=CP01

■■■画像/背景=BG060c_80/立ち絵中=叔母

叔母「和樹さん、おかわりは?」

茶碗が空になったのと同時に手を差し出されて、なんとなく慌てて首を振る。

和樹「いえ、もうおなかいっぱいです」

高西藤枝。たかにし・ふじえ。
この似顔絵には頭が上がらない。

叔母であり養母であり、記憶喪失になってた僕を引き取って根気強く社会生活に馴染ませてくれた大恩人だ。

■■■画像/漫符中=?

叔母「遠慮しちゃ駄目よ?」

和樹「え? いえ……」

そう言う叔母さんこそ、献立を考えるのに苦労してるのに、味見や食べ物の匂いで胸がいっぱいになるのか、あまり食べない。

見ているとなんとなく僕も控えめになるけど。
これって遠慮……なのかな。

■■■画像/立ち絵中=叔父

叔父「たくさん食べて背が伸びたら、女の子にモテるぞ?」

高西青磁。たかにし・せいじ。
この似顔絵にも頭が上がらない。

叔父であり養父であり、血縁さえない僕の養育費を自分の働きから捻出してくれている人だ。

和樹「は、はぁ……」

■■■画像/立ち絵左中=叔母/立ち絵中=clear/立ち絵右中=叔父

叔母「あなたったら。
和樹さんは今のままでもモテモテよ?」

和樹「お、叔母さん! そんなことないです」

■■■画像/漫符左中=Ξ

叔母「いいじゃない。
色葉ちゃんみたいな可愛い幼馴染が、毎朝起こしに来てくれるんだもの」

■■■画像/漫符右中=Ξ

叔父「はっはっは。それもそうだな。
バレンタインのチョコレートも、僕よりたくさんもらっていたな」

■■■画像/漫符左中=‥

叔母「あら。あなたがもらったのは義理チョコだけよ?」

■■■クエイク

■■■画像/漫符右中=Σ/動作右中=ピョン

叔父「藤枝!? 君もくれたじゃないか!?」

■■■画像/漫符左中=Ξ

叔母「うふふ。夫婦ですもの。当たり前でしょう?」

■■■クエイク

■■■画像/漫符右中=Σ/動作右中=ピョン

叔父「このタイミングで!? 夫婦間のチョコは義理が当たり前だったのか!?」

和樹「……ご、ご馳走様です!」

■■■クエイク

■■■画像/漫符右中=‥

叔父「和樹君まで……このタイミングでご馳走様!?
僕らは今イチャイチャしていたのか!?」

和樹「い、いえ、普通に食べ終わったので」

■■■暗転中 bgm=on]

食器を持ってキッチンに逃げ込む。

●●●SE基本=kodama_suido02

■■■画像/背景=BG070c_80

バレンタインチョコがたくさんもらえたのは、晃が女子に声をかけてバレンタイン義理チョコ募金をしたからだ。

もちろんホワイトデー義理クッキー募金をしっかりとられたっけ。
説明するのも恥ずかしい。

色葉にももらったけど……。

■■■画像 time_zone=memory/背景=BG26a_80/立ち絵中=色葉

色葉『私からも義理チョコ、受け取ってね。和樹』

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG070c_80

……凝った手作りのチョコレートケーキ。
持ち帰って叔父さん叔母さんと分けないと、食べきれないくらいの。

誤解を与えないために添えられた『義理』って言葉さえなかったら、手放しで喜んだんだけどな。

リビングに聞こえないように食器を洗う音で誤魔化して、小さく溜息を吐いた。

色葉にはとっくに告白して、フラれたんだ。
……なんて、もっと言えない。

色葉に彼氏ができるまでからかわれるのかな。

……うえ。嫌な想像をしてしまった。

■■■暗転中

■■■画像/背景=jisitu7_800

放課後は病院に寄って薬をもらってきた。
買い置きが増えると少し安心する。

色葉の態度にエネルギーを吸い取られるのはいつものことだけど、下駄箱に入っていたメモのせいで更に気分が優れない。

すぐ寝る気にもなれないし、ゲームでもやろう。

和樹「モノノケスレイヤーⅣが中ボスの手前だっけ」

起動して、画面をパソコンに大きく映す。

■■■画像/立ち絵中=mononoke_mori

モノノケスレイヤーⅣ。小型ゲーム機に移植されたレトロゲー。

僕にも見える単純な顔のキャラクターが生き生きと活躍する世界を見ると、自分の症状なんて大した事じゃないって気がして和む。

●●●SE基本=maoudamashii_retro13

●●●BGM=CP23

■■■画像/立ち絵中=mononoke_mori_sentou

和樹「お……? いける?」

まだ勝てないと思っていたのに、戦ってみると案外いける。手応えは充分、けれど進める。ゲームのバランス調整に感心した。

●●●SE基本=maoudamashii_retro14

和樹「やばい……!」

前のボスの体力を考えると、あと少し削れば勝てるくらいまで追い詰めたのに。

火事場の馬鹿力攻撃で全体にダメージを食らって、全滅しそうになっている。
回復魔法を使えるキャラはもうやられてしまった。

和樹「失敗した……こんなにいけると思わなかったな」

試すだけのつもりだったから、適当な買い物しかしていない。
あと少しで勝てそうだったのに。

何かないかと悔し紛れにアイテム欄を開く。

和樹「え? ある? 買ったっけ?」

買った記憶のない回復アイテムだ。
しかも一番効率のいいやつを持ってる。

とうとう短期記憶まで消失する症状に?

和樹「……まあいいか、ゲームのアイテムくらいなら。忘れてても」

●●●SE基本=maoudamashii_retro08

使って回復する。

和樹「よし……総攻撃!」

●●●BGMオフ

●●●SE基本=maoudamashii_battle02

思った通り、次のターンで中ボスが沈んだ。

和樹「やった! ……ふう」

小さな達成感で、ベッドにどさりと倒れる。
目を閉じると、寝てるのに体が揺れている気がして車酔いのような気持ち悪さがあった。

和樹「…………」

……やっぱり疲れてる。

■■■画像/立ち絵中=mononoke_yadoya

重い体を起こして宿屋に移動し、セーブした。

■■■画像/背景=jisitu6_800/立ち絵中=clear

●●●SE基本=komori_switch1

電源を切る。部屋の電気も消してまた横たわる。
泥に沈んだみたいに体が重くなって、すぐに深い眠りに落ちていった。

■■■暗転大

――高西和樹が就寝した頃――。

■■■暗転小

■■■画像/背景=bg1011_n strans=open

●●●BGM=CP26

旧校舎の教室。

雨弓学園2年B組の生徒が一人、佇んでいた。

建て増しが繰り返された旧校舎の外観を窓から眺めている。

???「あと1年と少し……」

埃の溜まる床に残った自身の足あとに視線を落とし、呟く。

高等学校2年生。生徒は子どもと呼ばれるほど幼くはなく、大人と呼ばれるほど責任や権利を持たない、境界にいる。

それでもどうにか社会や法によって子どもと認められている内に、やり遂げなければならないと思うことが、その生徒にはあった。

大人であればどんなやりかたをしても一人の責任として完結する。
それは生徒にとって、望ましいことだった。

しかしその終わらせかたは、その行動を必要としているモノ本人が許さないと確信していた。

生徒が生きてきた期間の内11年は、思い出の積み重ねでも成長の証でもない。執行猶予だ。

時が経てば事態が好転すると思っていた。
期待に反して、全ては風化していく一方だった。

悪夢のような現実が続いている。
慣れは麻酔となり、どれほどグロテスクな景色を見ても吐き気が安堵を上回ることはもうない。

ただ、生きることそのものに――あるいは、独りだけ時間に取り残されていることに。

産まれたときに与えられた生命力が底をついたように、疲弊し摩耗している。

反面、目標に対して動き出そうと考えるだけで、気力が湧いてくる。

生徒は慣れた気配を背後に感じた。
いつものように、現実を悪夢へと変えた元凶が迫っている。

???「今年中に、高西和樹を殺す」

おぞましく急かされる前に、生徒は背後のモノに断言した。

全てを思い出させてから――約束を果たして――それまで待って欲しい。

生徒は思った。背後のモノに霊が見えるなら、自分の背中には、揃って顔を潰された大小の亡霊達が認識できるだろう。

今日そこに、新しい動物の霊も加わったはずだ。
亡霊達は、自分が背後のモノの執念を忘れていない証。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG00c2_80

はがゆく待ちかねていた終わり。
いつまでも先延ばしにしたかった終わり。
どちらかを選ぶことはできない。

そのどちらかしか望みのない自分が、最終的に選べる道はひとつしかない。と。

●●●SEループ=kuro_footstep_kazuki

生徒は足元にあった袋を拾い、旧校舎の中を歩き始めた。

静まり返った旧校舎の廊下に、足音と、喉を引き攣らせて笑う声が響く。

袋の中にあるものは、顔を潰されたネコの死骸だった。

■■■暗転小 time=1000]

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最終更新:2013年01月19日 22:42