●●●SEループ=on_jin_meka_ge_mezamashi_bell_r01 time=3000

和樹「うう、ううう……う」

…………。

和樹「う、ん……?」

何の……音だ? うるさい……。

…………。

●●●SE全停止

●●●SE基本=on_jin_meka_ge_mezamashi_swi_bang01

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu3_800

目覚まし時計……? 時計に起こされるなんて珍しい。

また嫌な夢を見ていたような気がする。
覚えていないけど。

色葉……まだか。ギリギリまで寝よう。

■■■暗転中 bgm=on se=on]

■■■画像/視界=似顔絵/背景=jisitu3_800

叔母「和樹さん! 朝よー!」

■■■クエイク

和樹「……!!」

叔母さんに呼ばれて、ベッドの中で飛び跳ねた。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG050a_80/立ち絵中=叔母

叔母「色葉ちゃん、学園祭のお手伝いがあるから早めに出ますって。
わざわざ言いに寄ってくれたの」

実行委員は朝も作業があるのか。

和樹「そ、そうでしたか」

■■■画像/漫符中=v

叔母「和樹をよろしくお願いしますですって!
いいお嫁さんねぇ」

和樹「…………」

叶わない期待をさせてしまって申し訳ない。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

●●●SEループ=kuro_rain

■■■画像/背景=BG40f1

色葉は来ないし、寝坊はするし。
ガツンと言ってやろうと思っていたのに、肩透かしを食らってしまった。

……しかも情けないことに少しほっとしてる。

叔母のからかいから逃げるように、いつもより早く登校した。

■■■暗転大

●●●BGM=CP01

■■■画像/背景=BG16a_80

1時限目はヒアリング。見るより聞くほうがコンプレックスは刺激されないから、得意なほうだ。

■■■画像/立ち絵中=色葉/動作中=ピョン

色葉「和樹! 今朝はお迎えに行けなくてごめんね」

好成績で小テストを終えた満足感で、つい視聴覚室に居座っていたら、色葉がとことこっと近寄ってきた。

和樹『よけいな世話を焼かないでよ!』

……いやいや。何の世話も焼かれてない時に言い出したら、ただの変な人だ。

いざとなると何から話せばいいのか……。

和樹「……何?」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「和樹は視聴覚室の妖精って知ってる?」

和樹「へ? 妖精?」

■■■画像/動作中=ピョン

色葉「そう。今和樹が座ってる席。
ちょうど妖精の席だよ」

和樹「……っ! 妖精の席?」

慌てて立ち上がる。
空気が読めなくて妖精呼ばわりされた生徒の霊でも憑いてるとか?

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「何怯えてるの? 和樹ってば。
おばけじゃないよ。妖精だよ」

色葉が声を立てて笑っている。
そう言われても、僕には違いがわからない。

和樹「色葉はファンタジーが好きだね」

おばけは苦手なのに。
僕からすると、得体の知れないものは皆同じ属性だ。

いちばん得体の知れないものは僕の視界かもしれないけど。

■■■画像/漫符中=v

色葉「うん、好き!
その席にね、面白いゲームが入ってるの。
妖精の秘密基地、っていう」

和樹「ゲーム? なんだ……この席だけ?」

■■■画像/漫符中=?

色葉「そうなの。不思議だよねぇ。
学園のPCは再起動ごとにリセットされるはずなのに」

和樹「そうだね……。
誰がそんなの入れたんだろ」

そういえば、クラスメイトがそんな噂をしているのを聞いたことがあるような気もする。

■■■画像/漫符中=+

色葉「勝手に棲みついちゃったのかも!
妖精だし」

和樹「……うーん」

そんなバカな。
とは思ったけど、色葉が楽しそうに笑ってて。
僕は曖昧に返事をした。

色葉「チッピーっていうの。
かわいい妖精だよ」

和樹「ふーん。チッピーって……鳥?」

■■■画像/漫符中=v

色葉「うん! ヒヨコなの」

和樹「ヒヨコ好きだね……」

色葉が制服のポケットにつけてるヒヨコのバッジは、僕にとっても数少ない思い出の品だ。

色葉「大好き! 凛ちゃんに教わったんだ。
すぐ終わるゲームだけど、面白かったよ」

和樹「へえ……試してみるかな」

■■■画像/漫符中=♪/動作中=ピョン

色葉「じゃあ私は教室に戻ってるね」

■■■画像/立ち絵中=clear

色葉を見送って、僕はアプリケーションを起動した。

●●●SE基本=the_ma_puu19

■■■画像/視界=見える/背景=chippi1/前景=chippi_frame

虹の背景に、落書きみたいなヒヨコが描かれたタイトル画面が立ち上がる。

チッピー『ここはチッピーの秘密基地だよ。君は誰?』

HN入力? どうでもいいのに。
カズキでいいか。

●●●SE基本=the_ma_type02

チッピー『カズキと会うのは初めてだね。
チッピーと友達になってくれる?』

ハイ、イイエの選択ボタンがある。
イイエにしてみたくなるけど、ゲームが終わると面倒だ。ハイでいいや。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『はじめまして! よろしくね。
チッピーは人間になるために、人間の気持ちを勉強してるんだ』

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『カズキが悩んでいるなら、相手のことを思い浮かべて僕の質問に答えてね。
チッピーが悩みを当てるよ』

悩み事。真っ先に浮かぶのは色葉の隠し事だ。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『Q1.思い浮かべた人は同性?』

イイエ。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『Q.友達?』

ハイ。

…………。

他愛もない質問に、何種類かのボタンを押して答えていく。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『カズキの悩み事は、好きな人が隠し事をしていること?』

和樹「……!」

16問ほど答えたところで、唐突に言い当てられてギクリとした。隠し事なんてキーワードは一度も出て来なかったのに。

この流れは確か、アメリカの20の質問という物当てゲーム。
こんな抽象的な内容に対応できるなんて。

動揺しながら、僕はまたハイをクリックした。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『君の不安は、騙り・裏切り・離別』

●●●BGMオフ

和樹「……ん?」

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『チッピーは忘れない。チッピーは聞いてる。
カズキを待ってるよ!』

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/視界=似顔絵/背景=BG16a_80

アプリケーションが自動的に閉じた。
何か、引っ掛かる。

下手だけど子ども向けらしいイラスト、プレイヤーを友達と呼んで、悩み事を聞いてくれるアプリケーション。

……そぐわないことを言われたような気がする。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

●●●SE基本=the_ma_puu19

■■■画像/視界=見える/背景=chippi1/前景=chippi_frame

僕はもう一度ゲームを起動した。

●●●SE基本=the_ma_type02

今度は他にないような悩みにしてみよう。
人の顔が似顔絵に見えるという悩みなら当てられないだろう。

…………。

●●●SE基本=the_ma_puu19

チッピー『カズキは人の顔が見えないんだね。
幼稚園児が描いた下手クソな似顔絵みたいに人の顔が見えるんだね』

●●●BGM=CP10

■■■暗転小 bgm=on se=on]

和樹「…………そんな、まさか」

絶句する。
こういうアプリケーションは、統計を元に答えを決定しているはずだ。

こんなマニアックな回答、用意されているはずがない。

…………。

画面の中の妖精のイラストの視線が、現実の僕を見通しているような気がしてゾッとした。

チッピー『それは呪いだよ。カズキは呪われてる!』

和樹「え……」

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■暗転小 bgm=on se=on]

和樹「…………っ!?」

和樹「う、うあ。……はあ、はあ」

平仮名と片仮名が入り混じって読みにくかったけど、あのメモと同じ……。

気味が悪い。何だったんだろう今のは。

■■■暗転小 se=on]

■■■画像/視界=似顔絵/背景=BG16a_80/立ち絵中=晃

晃「和樹ー。どうした? 購買行くぞー」

和樹「あ……うん」

画面から顔を離してしまえば、チッピーは妖精の言葉通り、存在しない存在だ。

僕の違和感はPCの電源を落とすと同時に掻き消えていった。

■■■暗転中

●●●BGM=CP01

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵中=凛

凛「ね、見た? 昨日のテレビ。
トリプティック」

エビフライを食べ終えた黄之瀬さんが、声を弾ませて話し出した。

和樹「映画? ううん。見てないよ」

首を振ってクリームコロネをかじる。

■■■画像/立ち絵左中=凛/立ち絵中=clear/立ち絵右中=色葉

色葉「気になってたけど、見れなかったよー」

隣の色葉はタコウィンナーを突付いている。

■■■画像/立ち絵左=晃/立ち絵左中=clear/立ち絵中=凛/立ち絵右中=clear/立ち絵右=色葉

晃「おっ、凛も見たか。いいよな、あの映画」

晃がコンビニ弁当の茹で卵を割り箸で挟んで持ちあげる。

和樹「そんなに面白かったんだ?」

晃「人食い鳥のヘル! 審判の鳥が人を記憶の卵にってのが哲学的でねぇ」

言いながら弁当の上で、しっしっと犬ネコを追い払うような仕草をする。

和樹「何? 虫?」

■■■画像/漫符左=!

晃「ん? ああ嫌だねえ。もう秋だってのに」

そういえばよくやってるな、この仕草。
意外と潔癖症なのか。

■■■画像/漫符中=ι

凛「ヘル、私は怖かったな。
みにくい感情に囚われてると、化けモノみたいに生まれ変わっちゃうんだよね?」

■■■画像/動作右=ピョン

色葉「いいなー。見たかったよー」

■■■画像/漫符中=?

凛「色葉は遅くまで仮装作ってたんでしょ。
無理しちゃ駄目だよ?」

■■■画像/漫符右=ε

色葉「凛ちゃんこそ、クラス委員の仕事忙しそう。
体壊さないでねっ」

■■■画像/漫符中=♪

凛「クラス委員は平気だよ。
家に帰ったら仕事ないし」

■■■画像/漫符左=!

晃「和樹は現代社会の情報戦に生き残れないな。
話題の超大作映画! 駅前のドンドンホーにもマスクがたくさん売ってるぞぉ?」

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=bgeiga

和樹「怖い映画だっけ? CMは見たけど。
ヒヨコのマスコットが出てなかった?」

凛「怖いっていうより、不思議な感じかも。
舞台に凝ってるファンタジーだよ。
その巨大ヒヨコがヘルなの」

色葉「えええっ!? あのかわいいヒヨコ。
悪役だったの!?」

和樹「へえー……意外だね」

かわいいヒヨコが人を食べるなんて。
かえって怖いかもしれない。

ヒヨコというと、チッピーを思い出してしまった。

チッピーも黒いマントを着けてたっけ。
トリプティックに出てくるヒヨコを簡単なイラストにしたら、そっくりになりそうだ。

凛「うーん。悪役とはちょっと違うかも?」

色葉「だって、人間を食べちゃうんだよね?」

凛「……ネタバレ、言っちゃっていい?」

色葉「教えて教えてっ」

和樹「僕も聞きたいな」

晃「次の放送はいつになるかわからないしな。
ここはひとつ、現代の語り部・凛でいこうぜ!」

凛「こら。話そうとしてる時にハードルあげない」

晃「いてっ」

色葉「楽しみ!」

凛「あらすじ話しちゃうけど、主人公には大好きな恋人がいるの。二人は地下鉄の事故に遭って。
気付いたら乗客全員、不思議なところにいる」

色葉「うんうん」

凛「そこにかわいいヒヨコのヘルが出てきて、人を食べちゃう。食べられた人は、ゼリーみたいなブヨブヨの卵になってヘルから生まれ直すの」

和樹「うえ……」

凛「卵は放っておくと孵化して化けモノが孵ったり、卵のまま孵らなかったりするんだ。
化けモノは人を襲ったり惨めに這い回ったりする」

色葉「ひいい……」

凛「逃げてる時に恋人と引き離されて。
探して探して、再会できたと思ったら化けモノになっちゃってて」

色葉「えええ……!」

凛「泣きながら、化けモノになっちゃった恋人を抱きしめて、泣かないで好きだよって言うんだ」

和樹「へえ……」

凛「そこに、実は無事だった恋人が現れるの」

色葉「えっ、えっ?」

凛「浮気してる暇なんてない、逃げるよって叱られて。勘違いだったこと話して笑い合って」

和樹「なあんだ……化けモノは別人だったんだね」

凛「姿が変わっても愛してるけど、卵が孵らなかったら二度と会えなくなっちゃうって話して、必死にヘルから逃げるんだ」

色葉「うんうん!」

凛「トリプティックの世界を演出する不思議な動物たちを助ける内に、ヘルとヘルの卵のことがわかってくるの」

和樹「ヘルと、ヘルの卵?」

色葉「ふむふむっ」

凛「卵は食べられた人の記憶や感情から生まれる。
孵ったら元には戻らなくて、その心と姿のまま、永遠に生き続ける」

和樹「うん……?」

色葉「あ……」

凛「最後は逃げ切れなくて。
主人公をかばって、恋人が食べられちゃう」

和樹「うわ……」

色葉「……!」

凛「死ぬ瞬間、恋人が主人公の手を握って言うの。
大丈夫! 待ってて。って」

色葉「……わかったかも!」

和樹「え? 何が?」

凛「おなかが膨れたヘルが卵を産んで立ち去って。
主人公は、手だけ残ってしまった恋人を抱きしめて泣くんだ。会いたいって」

和樹「手だけ……うえ」

色葉「うんうん!」

凛「呆然としてたら卵が孵って。
変わらない恋人が前よりきれいになってて、笑顔でただいまって言ってくれるの」

色葉「わかったよー!
恋人は主人公のことが好きって気持ちのまま、生まれ変わって永遠になったんだね!」

凛「そうそう。主人公は生まれ変わった恋人に泣き笑って、二度と離さないって腕を開くの。
背後に迫ってるヘルが映って、終わり」

和樹「へぇー……」

色葉「それならヘルはキューピッドだね!
かわいくてヘルグッズ買っちゃってたんだ。
怖いヒヨコじゃなくて良かったよー」

和樹「キューピッド……? グロいような……」

晃「地下鉄の事故で全員死んでて、死後の世界にいたってわけだ。
ヘルは地獄と天国の門番だったわけだな!」

ありがちなような、変わってるような。

凛「舞台演出がすごいの。神話みたいな雰囲気で、リアルで贅沢なCGだったよ」

和樹「ふーん」

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG26a_80/立ち絵左=晃/立ち絵中=凛/立ち絵右=色葉

晃「その、ヘルがさ。最近学園で事件を起こしてるって噂、聞いたか?」

和樹「ヘルが……学園って、この学園?
映画のキャラクターなのに、事件?」

■■■画像/漫符中=‥

凛「A組の女子が言ってたの。
体育の後ヘルマスクの生徒が教室から出てって、制服がゴミ箱に捨てられてたって」

■■■画像/漫符右=Σ

色葉「あ! その話なら私も聞いたかも。
うそ。マスクかぶってたの?」

■■■画像/漫符左=‥

晃「噂になってるのは最近だけどねぇ。
実は前々から、ちらほら起きてはいたらしいぜ」

■■■画像/漫符中=‥

凛「F組の男子が後ろから殴られて、振り返ったらヘルだったって話も聞いたよ。
転んじゃって追いかけられなかったみたい」

■■■画像/漫符左=!

晃「他にもいくつか聞いたねぇ。気をつけろよ?」

晃が真面目に言った。
仮装喫茶を企画した時以来の声だ。まともなタイミングに真面目な声を聴けるとは。

どうやら知らないのは僕だけだったみたいだ。
現代社会で生き残れる気がしない。

■■■画像/漫符右=‥

色葉「それって……酷い。警察は?」

■■■画像/漫符左=?

晃「犯人も雨弓の生徒なんだ。
学園が騒ぎをおさえてるのか、怪我が軽くて警察が動かないのか……まだ捜査はしてないとさ」

和樹「……嫌な感じだね」

■■■画像/漫符中=ι

凛「先生に聞いたら、よけいなこと考えてないで勉強に専念しなさいって誤魔化されちゃった」

急に色葉のことが心配になった。
心配するなと突っぱねようとした途端、逆に色葉を心配することになるなんて。妙な気分だ。

しっかりしてるけど、女の子なんだよな……。

■■■画像/漫符右=?

色葉「それって、犯人一人なのかな?」

■■■画像/漫符左=?

晃「どうだろうなぁ。被害者に共通点はなさそうだよな」

■■■画像/漫符右=?

色葉「共犯なのかな?」

■■■画像/漫符左=!

晃「共犯だったにしても、動機は何だろうな?」

■■■画像/漫符右=?

色葉「恨みっぽいけど……同じマスクをつけてる理由はわからないかも」

和樹「たまたまマスクが流行ってたから使っただけで、無関係なんじゃないかな?」

適当なことを言ってみたけど、そんなことをする人の事情なんて僕にわかるわけがなかった。

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「まあ、トリプティックは世界を席巻している。
マスクは誰でも簡単に手に入るだろうな」

■■■画像/漫符中=?

凛「このマスクをつかえばバレないって思った人が、何人もいたってこと? マスクなんて元からいくらでもあったのに、急に?」

■■■画像/漫符右=?

色葉「うーん。じゃあ、二人目が一人目の真似しちゃったとか……?」

■■■画像/漫符左=?

晃「一人目の時はまだ、噂になってなかったぞ?
なのに、何人も真似する人が出るかねぇ」

和樹「わからないけど……」

和樹「ひとつひとつは個人の恨みだけど、他に扇動してる人がいるとか」

適当なことを言ってみたけど、そんなことをする人の事情なんて僕にわかるわけがなかった。

■■■画像/漫符右=!

色葉「和樹、頭良い! それならバラバラの恨みなのに、同じマスクかぶってることに理由がつくね」

■■■画像/漫符中=?

凛「そうだけど……同じマスクをつけるように指示する理由はわからないよね」

和樹「騒ぎを起こそうとしたとか……。
いじめじゃあまり騒ぎにならないけど、マスクのお陰で噂になっているし」

■■■画像/漫符中=?

凛「うわ……誇大妄想の愉快犯? 気持ち悪いね」

和樹「うーん……特定の人だけにわかるメッセージが篭められてるとか」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「やるねぇ、和樹」

和樹「わからないけど……」

和樹「何かの利益を共有してるとか?」

適当なことを言ってみたけど、そんなことをする人の事情なんて僕にわかるわけがなかった。

■■■画像/漫符中=?

凛「利益って? こんな事件じゃ、お金は関係なさそうだけど」

■■■画像/漫符右=!

色葉「交換犯行とか?」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「だったら尚更、共通点は隠すと思うけどねぇ」

和樹「わからないけど……」

■■■画像/漫符左=!

晃「犯人が複数いるなら、孵る直前のヘルの卵!
て感じだな」

和樹「卵? ヘル自身じゃ?」

■■■画像/漫符左=?

晃「ヘルマスクをかぶった人間はさ。
ヘルの腹の中にいる人間って感じじゃないか?」

和樹「ああ……そうかも」

■■■画像/漫符中=ι

凛「不謹慎なこと言わないの」

■■■画像/漫符左=?

晃「話題にしたのは凛だろぉ?」

■■■画像/漫符中=ι

凛「映画の話と事件の話は関係ないの。
好きって気持ちのまま永遠になれるなんて、ロマンティックな話じゃない」

■■■画像/漫符右=‥

色葉「……忘れないって、怖いこと、だよね」

……色葉?

■■■画像/漫符中=?

凛「どうして?」

■■■画像/動作右=ピョン/漫符右=Σ

色葉「あ……ううん! 好きって気持ちのまま永遠になった二人は幸せだよね。
憎しみの塊になった人はかわいそうだなって」

■■■画像/漫符中=ι

凛「……自業自得じゃない?」

■■■画像/漫符左=‥

晃「キツいねぇ。まあその通りだな。
すこぉし考えを変えたら世の中楽になるのに。
酔っちゃうやつが悪ってわけだ」

少し考えを変えたら、楽になる……か。

僕の悩みもそうなのかな。
自分に酔って色葉を傷つけてて、自業自得。
……そう考えると胸が痛い。

■■■画像/漫符中=#

凛「キツくて悪かったですねーえ」

■■■画像/漫符左=+

晃「自分に厳しいってことよ」

■■■画像/漫符中=#

凛「よけいなお世話! 酔ってるわけじゃないの。
これからのことを真剣に考えてるんですうー」

黄之瀬さん……お父さんのことかな?

僕は返事が浮かばなくてすぐ黙ってしまうから、黄之瀬さんも話さないけど。晃や色葉は相談に乗ってるんだろうな。

和樹「……誰だって辛いときは、誰かを憎んだりすると思うよ」

黄之瀬さんのフォローか自分のフォローかわからないけど、ついそんな言葉が出た。

■■■画像/漫符左=?

晃「そうは言うけどなぁ。
憎いってのは人にぶつけていいもんじゃなし。
自分で止めないと、誰にも助けられないぞ?」

和樹「時間が経たったら忘れるよ。
ヘルの卵じゃないんだから」

■■■画像/漫符左=‥

晃「忘れられるかねぇ。
愛情の縺れとか金銭絡みとか、よっぽどでなけりゃ憎いなんて思わないんじゃないか?」

和樹「うーん……」

■■■画像/漫符左=‥

晃「本人が悪くないなら、色葉ちゃんが言う通り、かわいそうってことになる」

■■■画像/漫符中=#

凛「ほっといてったら。
私は別にかわいそうな人じゃないの」

■■■画像/漫符左=Ξ

晃「凛は自意識過剰よ? 一般論一般論」

■■■画像/漫符右=ε

色葉「やなことあったら、そういうのも仕方ないと思うな。元気になるまで、楽しいことで忘れちゃうのがいいと思う!」

■■■画像/漫符中=‥

凛「……うん。私は、そうしたいかな」

■■■画像/漫符中=?

凛「晃って変なところでウェットだよね。
化けモノになった人がかわいそうって思うの、嫌なんでしょ」

■■■画像/漫符左=?

晃「化けモノになったやつも、それはそれで望みが叶ってると思いたいなぁ。
でないとやってられないだろ?」

■■■画像/漫符中=Ξ

凛「ふふっ。変なの」

色葉「…………」

化けモノになってしまった人も、望みを叶えて満足してると思いたい、か……それも優しさなのかな。

■■■暗転中

●●●BGM="CP01"

■■■画像/背景=BG27b_80

もう放課後だ。結局、色葉に何も言えていない。トイレから教室へ戻る足が鈍った。

帰り、色葉に誘われたら……断って。
同情で世話を焼くのはもうやめてよ、って話そうか?

でもヘルの話が心配だ。

???「きゃあああ――!!」

悲鳴!? この声は……。

和樹「色葉!?」

●●●SE基本=kodama_door_school

■■■画像/背景=BG26b_80/立ち絵左中=色葉/立ち絵右中=大洋

色葉の後姿。奥に紺野君。

■■■画像/漫符左中=#

色葉「もうっ! 悪ふざけ!!」

●●●BGM=CP02

和樹「……色葉?」

■■■画像/漫符左中=! action_lc=ピョン

色葉「あ。和樹! 酷いんだよー!」

皆が周囲で輪になって笑っている。
拍子抜けして素っ頓狂な声が出た。

■■■画像/漫符右中=!/動作右中=ピョン

大洋「……!!」

和樹「うわっ! な、何? 紺野君」

紺野君は黙ったまま、熊のように両手を振り上げ勢い良く近付いてきた。

●●●SE基本=kodama_door_school

■■■暗転小 bgm=on se=on]

思わず飛び下がって教室の戸を閉める。
紺野君は盛大にぶつかった。

●●●SE補助=web_wave_lib_HitC11

大洋「ぶばっ!!」

色葉「あっ!」

●●●SE基本=kodama_door_school

■■■画像/背景=BG26b_80/立ち絵左中=色葉/立ち絵右中=大洋

恐る恐る戸を引く。

和樹「ご、ごめん。驚いて。大丈夫?」

何だかわからないけど。
色葉の仇は取ったらしい。

激しくざわめいていた教室が、急に静かになっていた。

■■■画像/漫符右中=ι

大洋「高西ーっ! おまえ、なんで俺だってわかったんだよ?」

足もとでノビている紺野君が恨めしそうな声を上げて立ち上がった。
その手元に見覚えのあるヒヨコの面があった。

和樹「あれ、これ……ヘル? まさか紺野君が」

一連の事件の犯人だった、なんて言う気じゃ。

■■■画像/漫符右中=Ξ

大洋「昨日ドンドンホーで買ってきたんだよ。
いいだろ! やらねーぞ!」

和樹「うん。いらないよ」

■■■画像/漫符右中=Σ/動作右中=ピョン

大洋「欲しがれよ!? 自慢させろ!」

和樹「スゴイネ。いらないけど」

■■■画像/漫符右中=Σ/動作右中=ピョン

大洋「そんなにいらねぇの!?」

■■■画像/漫符左中=ι

色葉「紺野君、不謹慎。でも和樹、なんでわかったの?」

和樹「わかったって?」

■■■画像/漫符左中=?

色葉「……うん?」

和樹「……うん?」

色葉と向き合い、二人してほうけた声を出した。

■■■画像/漫符右中=?

大洋「そいや。名前、呼ばれたっけか」

■■■画像/立ち絵右中=clear

紺野君が首を捻り、皆のいるほうへ歩いていく。

大洋「おい! 高西はそっち向いてろよ」

和樹「へ?」

大洋「橙ヶ崎! そいつの目を隠せ!」

色葉「え? うん」

■■■暗転小 bgm=on se=on]

和樹「わっ」

色葉の手が目の前に迫ってきて、顔を温かい感触で包まれた。

大洋「なぁ、ちょっといいか?
……で……かも……から……な?」

ヒソヒソと話し合っている声がする。

大洋「よし。橙ヶ崎、もういいぞ!」

■■■画像/背景=BG26b_80/立ち絵左=色葉/立ち絵中=凛/立ち絵右=大洋

和樹「どうしたの?」

■■■画像/漫符右=?

大洋「高西。こいつが誰かわかるか?」

和樹「誰って……黄之瀬さんがどうかしたの?」

■■■画像/漫符左=!/漫符中=!/漫符右=!

●●●SE基本=komori_gayagaya_gym

静かだった教室に急にざわめきが戻る。
さっきの歓声とはまた違う感じだ。

■■■画像/漫符中=?

凛「和樹君、どうして?」

和樹「どうしてって……」

黄之瀬さんは両手を振りかぶり、首の辺りで何かごそごそしていたかと思うと、帽子を取るような仕草をした。

その手にヘルマスクがある。

●●●BGMオフ

和樹「え――?」

すうっと指先が冷たくなるのがわかった。

■■■画像/漫符中=?

凛「どうしてわかったの? 和樹君」

■■■画像/漫符左=Σ

色葉「あーっ!! あああーっ!!」

色葉が叫んだ。
僕は跳ね上がったけれど、それは他の皆も同じだった。

■■■画像/漫符右=?

大洋「な、何だよ?」

■■■画像/漫符左=!

色葉「今日チャランポンの発売日だよ!
急がなくちゃ! 和樹、帰ろ!」

チャランポン。人気の週刊漫画雑誌だ。
緊張していた空気が緩む。

僕は色葉に腕を引っ張られて廊下に出た。

●●●SE基本=kodama_door_school

■■■暗転中 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG27b_80/立ち絵中=色葉

…………。

見えなかった。
正確には、いつも通り似顔絵が見えていた。

ヘルのマスクをかぶっていたのか。
紺野君も。黄之瀬さんも。

こんなところで自分の症状を再認識させられるとは思っていなかった。

■■■画像/漫符中=?

色葉「……なんでわかったんだろ?」

和樹「…………」

顔が見えていないから、仮面で見え方が変わらない。当然かもしれない。

■■■画像/漫符中=♪

色葉「帰ろ!」

和樹「……うん」

色葉が明るい声で言う。
きっちり僕のバッグを持っていた。
なんだかんだでまた頼ってる。

色葉の似顔絵を見ていられなくて、顔を逸らして廊下を歩いた。

■■■暗転中 bgm=on]

■■■画像/背景=BG02b_80

校舎から外に出ると、白いものが地面をウロウロしていた。

■■■画像/立ち絵中=色葉

色葉「あ。ウサギ」

■■■画像/立ち絵中=clear

色葉がそっと近寄って行って、ウサギを抱き上げた。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=cg02

フクフクした白い毛を大事にそうに撫でて、鼻歌混じりだ。

和樹「飼育委員が放してるのかな?」

色葉「野良ネコ、いないー?」

和樹「いないけど」

色葉「危ないかな?
戻って来るの待ってよっと」

僕も壁にもたれて、色葉と一緒に飼育委員を待つことにした。

●●●BGM=CP11

色葉「…………。
ウサちゃん、小学校にもいたんだよ」

少し躊躇ってから、それでも懐かしさを隠せないように柔らかい声で、色葉が言う。

和樹「へえ……」

色葉「飼育係、水城さんだったの。
頼んで、よく触らせてもらってたな」

和樹「水城さん? そうなんだ」

そういえば、昨日ウサギに餌をやってたっけ。
……思い出したくない言葉も聞いたけど。

色葉「私がウサギに触ってるとね。
和樹がいつも待っててくれたんだ」

和樹「…………」

そんなに昔から、僕は色葉にべったりだったのか。

小学生の頃のことは憶えていない……。

本当なら、どんな思い出があったんだろう。

手を繋いで登下校したり、一緒に部屋でゲームしたり、自転車に乗ってあちこち遊びに行ったり。していたのかな……。

■■■画像/背景=cg02_1 time=10

■■■暗転小 bgm=on se=on time=10]

■■■画像/背景=cg02 time=10

ん?

…………。

今、何か……え?

●●●SE基本=kuro_flashback

■■■画像/背景=cg02_1 time=800

■■■ちらつき開始

■■■暗転小 bgm=on se=on time=800]

■■■ちらつき停止

何だ? 今ウサギの顔の辺りが真っ赤に……潰れているみたいで。

色葉の前に、土を掘り返した跡があって……安っぽい色の細い木……割り箸?

■■■画像/背景=cg02 strans=open time=800

和樹「…………」

……ない。

色葉「嬉しかった、いつも。待っててもらえて」

…………。

……気のせい? ……だよな。

夕焼けのせいで、変な色に見えたのかな?

黄昏時は錯視しやすいって聞いたことがある。
昨日、ネコの虐待を見たのも、今頃だっけ……。

変な幻覚だったな……あてにならないな、特に僕の目なんか。気味が悪い。

色葉「……でもね……そのウサギ」

●●●SE基本=kuro_!

色葉「殺されちゃった、って聞いた」

色葉がしんみりした声になって、撫でる動きを止める。

和樹「殺された!?」

殺された、という単語だけが浮いて聞こえてゾッとした。妙な幻覚のせいで、話の前後がわからなくなっている。

小学校で飼われていたウサギの話だっけ?

…………。

割り箸の十字架、掘り返された土。

――墓?

まさか、さっきの幻覚は、僕の記憶――?

色葉「うん……私、今の家に引っ越したばかりで」

和樹「ああ……そう、なんだ」

色葉はその時、いなかったのか。
なら、やっぱり幻覚だ。

色葉「友達から電話で聞いて、よく知らないけど……ネコに噛まれちゃったって。びっくりして。悲しくて。助けられなくて、悔しかったな……」

和樹「…………」

■■■クエイク

色葉「きゃっ!」

■■■暗転小

■■■画像/背景=BG02b_80/立ち絵中=色葉

急にウサギが大きく暴れて、色葉の手から飛び出していってしまった。

色葉「いけない、離しちゃった!」

和樹「捕まえよう!」

■■■暗転小 bgm=on se=on]

●●●SE基本=kodama_run_outdoor

■■■画像/背景=BG02b_80

すばしっこく飛び跳ねていくウサギを二人で追いかけていく。

色葉「あ! 駄目! そんなところ入っちゃっ」

和樹「あれ? いない」

確かにこっちに来たのに。消えた?

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG02b_80/立ち絵中=色葉

色葉「んぐぐぐーっ」

和樹「色葉? 何やってるの?」

■■■画像/漫符中=ε

色葉「も~っ。と、届かない~っ」

和樹「うん?」

色葉が体育用具室と校舎の隙間に腕を突っ込んでいる。

後ろから覗き込むと、壁と壁の合間の狭いスペースにウサギが座り込んでいた。

……胸が当たって届かないのか。

和樹「僕がやってみるよ」

■■■画像/漫符中=ι

色葉「和樹なら細いから届くかな?」

和樹「その言われ方はちょっと……」

肯定したら叩かれそうだ。
場所を交代して腕を伸ばす。
色葉は壁の間へ心配そうに似顔絵を向けている。

和樹「もう……ちょっと。
いたた……と、届いた!」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「良かったぁ~っ!」

なんとかウサギを摘んで壁の合間から引っ張り出す。

和樹「はい」

■■■画像/漫符中=v

色葉「ありがとう!」

ウサギを渡す。色葉はウサギをしっかり抱いて似顔絵を擦り寄せた。

と、色葉の後ろの用具室の角を、女子生徒が通るのが視界に入った。

■■■画像/立ち絵中=葵

水城さんだ。
何か探すように似顔絵を揺り動かしている。

■■■画像/漫符中=!

思った瞬間、似顔絵がこちらを向いて、すごい勢いで近寄ってきた。

●●●BGMオフ

●●●SE基本=kodama_hit_the_people

■■■クエイク

■■■フラッシュ

■■■画像/漫符中=#

葵「……っ! 離して……!」

■■■画像/立ち絵中=clear

●●●SE基本=web_wave_lib_HitC11

色葉「あっ!」

止める間もなく、水城さんが色葉を突き飛ばした。

●●●BGM=CP13

半端な姿勢だった色葉が、土の上に転ぶ。

和樹「色葉!」

草の上じゃなく土の上だ。なんてことするんだ。

思わず水城さんを睨んだ。
色葉の腕の中にいたウサギが水城さんの腕の中にいる。

■■■画像/立ち絵中=葵

葵「……ユキちゃん。どうするつもり」

水城さんはネコのように身構えている。
ユキちゃんって……ウサギ? ぽつぽつした喋り方で発せられる声は低く、怒りを感じさせる。

和樹「どうするつもりって……」

何か言ってやろうとした僕の腕をつかんで、色葉が立ち上がった。

■■■画像/立ち絵左中=葵/立ち絵中=clear/立ち絵右中=色葉

お尻の土埃を払って、僕の前に出る。

■■■画像/漫符右中=ε

色葉「水城さん。ごめんね。
ユキちゃんには何もしてないよ」

■■■画像/漫符左中=#

葵「……信用……できない。
何も、してないなら。こっちに、いるわけない」

昨日の帰りに見かけた時も感じが悪いと思ったけど、今日はますます酷い。
悪者と決めてかかられている気がする。

和樹「それは……ウサギが走って行ったから」

葵「追いかけた。
……勝手に連れて行った」

和樹「だから、それもウサギが走って行ったから……」

葵「ユキちゃん、何かしたら……許さない」

微妙に合ってるところもあるけど、こっちだって悪意があってしたことじゃない。
何をそんなに怒ってるんだろう?

和樹「ちょっと……言い過ぎじゃない?
言っていいことと悪いことがあるよ」

一歩前に踏み出す。水城さんが引きつった声を上げて一歩退く。

■■■画像/漫符左中=Σ

葵「ひっ!」

■■■画像/漫符右中=ε

色葉「和樹……」

和樹「いきなり突き飛ばすなんて酷いよ」

■■■画像/漫符左中=‥

葵「…………」

■■■画像/漫符右中=ι

色葉「和樹……やめて。
私はいいから」

和樹「よくないよ」

■■■画像/漫符左中=‥

葵「…………」

肝心の水城さんは、黙り込んでしまって、聞いてくれている感じがしない。

■■■画像/漫符右中=ε

色葉「ごめんね。水城さん」

和樹「色葉……なんで謝るんだよ」

■■■画像/漫符右中=ι

色葉「水城さん、ウサギのこと心配してるんだよ。
心配かけちゃったんだし、謝らなくちゃ」

和樹「それは……そうかもしれないけど。
突き飛ばさなくたって」

■■■画像/漫符右中=!

色葉「和樹も……一緒に謝って?」

和樹「…………」

本人がそう言うんじゃ仕方ない。

和樹「わかったよ。ごめん、水城さん」

●●●BGMオフ

■■■画像/漫符左中=?

葵「ユキちゃんに……。
何、するつもり。だったの」

和樹「ウサギが放されてるのを見つけて。
色葉が心配したんだ。
ネコに襲われたりしないかって」

■■■画像/漫符左中=‥

葵「……野良ネコ、いない。確認、した」

■■■画像/漫符右中=ε

色葉「うん。水城さんが飼育委員なら、心配いらなかったね。捜させちゃってごめんね」

和樹「僕も酷いことはしてないよ。誓って」

■■■画像/漫符左中=‥

葵「…………」

■■■画像/漫符右中=ε

色葉「抱っこしたら逃げちゃって、ここの隙間に入っちゃったの。
和樹が助け出してくれたんだよ」

懐疑的な雰囲気は消えていないけれど、ウサギに怪我がないことを知ると、どうにか落ち着いてくれたようだ。

葵「……もういい」

和樹「…………」

色葉「じゃあ……帰るから。またね」

葵「……本当なら。突き飛ばすこと、なかった。
ごめんなさい」

■■■画像/立ち絵左中=clear

去り際、水城さんはぽつりと謝ってくれた。

■■■暗転中 bgm=on]

■■■画像/背景=bg1080_a/立ち絵中=色葉

色葉「叱られちゃったねー」

和樹「うん……大丈夫?」

●●●BGM=CP11

■■■画像/漫符中=♪

色葉「平気! 水城さんのこと、怒らないでね」

和樹「突き飛ばされたのに。
人が好過ぎじゃない?」

■■■画像/漫符中=ι

色葉「仕方ないの。さっき話した小学生の時のウサギ、水城さんが飼育してたんだ」

和樹「え……」

■■■画像/漫符中=|

色葉「今みたいに、ちょっと目を離してた隙に、殺されちゃったみたいで……」

そんなことがあったなら、過敏になるのも仕方ないのかな。

和樹「けど……色葉はそれを心配して抱いてたのに」

■■■画像/漫符中=ε

色葉「私、手を離しちゃったし。
ユキちゃん、壁の隙間に入っちゃった」

和樹「それこそ仕方ないよ。動物の気まぐれだし」

■■■画像/漫符中=‥

色葉「……和樹が教えてくれたの」

和樹「僕が? 何を?」

■■■画像/漫符中=♪

色葉「誤解されちゃったときは、怒っちゃうとうまくいかないよって。仲直りが先だよって」

和樹「僕が……そんなこと? 言ったっけ?」

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「……すごく、ちっちゃい頃。和樹から教わったの」

和樹「…………」

憶えていない。今よりずっと小さかった頃の僕がそんな大人びた考え方をしてたなんて、変な感じだ。

■■■画像/漫符中=v

色葉「本当にそうだったの。和樹のおかげで、全部うまくいったの。護ってもらったんだよ」

和樹「…………」

よくわからない……そんな風にすぐ、切り替えられるものなんだろうか。嫌な気持ちだったと思うのに。

■■■画像/漫符中=♪

色葉「水城さん、優しくて。小学生の時、頼んだらよく触らせてくれてたんだよ」

和樹「……そうなんだ」

■■■画像/漫符中=?

色葉「今度は頼んで触らせてもらお?」

和樹「そうだね」

■■■画像/漫符中=Ξ

色葉「ウサギやっぱりかわいいなぁ。
でもかわいいだけじゃ飼えないしなー」

和樹「……色葉なら最後までかわいがれると思うよ」

■■■画像/漫符中=v

色葉「へへ……ありがと。
でもママが動物アレルギーだしね」

照れた笑い声。僕はまた、似顔絵を見ていられなくなった。

■■■暗転小 bgm=on se=on]

■■■画像/背景=BG14b_80

結局、僕の決意は話しそびれたまま。
とりとめのない会話を交わして家路についた。

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最終更新:2013年01月19日 22:45