キルライフ前日譚

予兆


+ ...
「なんだって…!?」


木製の机の表面に罅が入ると同時に、ドスの利いた声がこじんまりした部屋中に響き渡る
赤いバンダナを頭に巻いている彼の口元からは歯石が粉状になって散らばっている



「俺も最初は貴様と同じ反応をしたよ。グヮン…」
「だけど……信じられないよ。カイル様が死んだなんて」



色が濃くなった小椅子に腰をかけた青年、スィルが重苦しそうに口を開き、ロバートを怪しむ様に見つめる



「例のあの戦争……この国は一度滅んだ。王諸ともな……」
「……」



ロバートは吐息混じりに咳き込み、腰を矯正する



「我々の慕うカイルは消えた……さて、俺が言いたい事はわかるか?」
「…何がいいてえんだ…」



ロバートの口元がゆっくりとつり上がっていき、目の下に隈ができる程目を細める



「カイルの子を……試してみようじゃないか……」

予感


+ ...
~マイテイ国 城内~

中世時代を思わせる窓ガラスから差し込まれる午前6時を思わせるような青白い光が点々と舞う埃を照らし、影が赤絨毯の一部を等間隔の線上に隔てる。
不自然にも王座には誰も座っておらず、手入れがしてあるのか明るい色に包まれている。
小さな足音が所々、多々鳴り響き職場の雰囲気を奮い立たせるような空気がびっしりしており、一人の青年が持っていた床モップの柄に顎を押し付けた。


「カイル様とシリーラ様がお亡くなりになり、この国には活気がなくなりましたね……ミリアさん」
「使用人として、ましてや宮殿内でそんな事言うなんて、とんだ非常識ね」


ミリアと呼ばれた女性が青年の方にゆっくりと体を向け、腕を組み落ち着いた表情と口調で彼の耳に静かな怒濤をかます。


「誰も聞いちゃいませんよ。まぁミリアさんは聞いてますよね、怒りました?」
「貴方が聞かせたんでしょう? それに、怒ってなんかいないわ、マイン……」


徐々に彼女の声は消えていき、マインの名前を口に出した時には周りの足音によって掻き消されていた。
マインの眉が軽く動き、モップから顎を上げて短髪を掻きあげる。


「ミリアさん、自身の親御さんが死んだってことは認めていかないと駄目ですよ」
「……」


巧みにモップを蹴り、担ぎ上げ周囲にバケツで漱いだ水をまき散らし、近くに居た使用人の顔面に水滴とは言えないばかるに水が掛かった。


「あっ! すいません!」


使用人の前髪が濡れ、垂れている所を見てマインは含み笑いを咳き込んで誤摩化しながらモップを下げる。


「クスッ……本当、認めたくないけど……貴方達がいるし大丈夫よ。別に寂しい訳でもないんだからさ」
「お…ミリアさん、今日素直じゃないですか?」
「うるさいわよ」


ミリアの表情が緩み、その場にいた彼の表情にも先ほどとは違った朗らかさが表れた。


「父さん達が残した物は大きいわ。それに、兄様がいるもの……ラクト兄さんなら父さんと同じように皆を——」


彼女の声を叩き潰すように宮殿の巨大な扉が勢い良く開き、金属がぶつかり合う生々しい音が小さくたつ。


「革命の銃声を今此処に」

デストロイ


+ ...
マイテイ城 城門内


広い庭園に必ず視界に入る草木が大地を覆う
城へと続く道が出来ており、馬車が三代通れる程の広さに道が作られている。
その道と城門が繋がっているその場所で、一人の門番は突撃銃を両手で抱え座り込み壁に寄りかかって眠っていた。
呆れる程大きく口を開け、目を閉じ、さぞ気持ち良さそうにしている中、彼の額に金属で出来た丸い穴を持つ物体があたる。


「”平和”だな、実に」


大きく天が落ちてくるような轟音と共に門番の額から後頭部に駆けて穴が開き、血潮が後ろの城外壁に飛び散る。


「殺す事はなかったんじゃねーのか、ロバートさんよぉ、それに俺達が殺ったって、バレるだろ」
「いいのだよグヮン…これは革命だ。我々、数人のな」


死体を蹴り、横にするロバートを見ていたのはグヮンとスィル。そしてその横にいる金髪の肌黒少年。


「父様……」
「分かっているさ、アルヴァ。今回の革命はお前も中心に入っているのだから」


城へと続く道を歩み始める彼等、何処からか収納していたのかジャケットの裏やポケットから重火器を取り出す。

ミニガン、火炎放射器、ランチャー、軽機関銃……


彼等の背中はこれから戦争に行くと言う事を物語っていた。


「さて、武器の確認は出来たか」



「弾倉は用意済みか」



「自らの怒りを放つ覚悟は出来ているか」



「哀しき人材に奏でる鎮魂歌は作詞済みか」



「悲鳴(コーラス)をあげる標的は決まっているか」



「同胞を殺す快感を押さえ込めるか」



「逆に喜びを表せるか」



「諸君、私は今、凄く清々しい」



ギィィィ——


ロバートの手元には”14mmの弾を放つ”ハンドガンが二丁、宮殿内の人物に向けられた



「革命の銃声は今此処に」


デスチャレンジ


+ ...
響き渡る銃声、その都度紅い飛沫が飛び交い、悲鳴(コーラス)が奏でられる
使用人達はパニックを起こし、中にはその場で踞る者も居た


「どうした?どうした!どうした同胞達よ!逆らえ、反逆しろ!」


口を動かしながらもロバートは鋭い轟音を鳴らす拳銃を連続で発砲し続ける
後ろでグヮン達はニヤけながらも機関銃を撃ち続け、余興を入れてグレネードやランチャーを投下する


「戦闘種族ならば急な襲撃にも耐えられるであろう!落ちぶれたか、俺の知っているマイテイ人はそんなんではないぞ!」


既に中に居た使用人の過半数が倒れ、部屋から出ようとするものは優先的に召されていった。
そんな中、中央に居たミリアはただロバートの顔を見て絶望に染まる表情で硬直していた。


「み、ミリアさん!止めないと!……ミリアさん聞いてるんですか!ミリアさん!……ミリアさん?」


ミリアを揺さぶるが全く反応しないことに疑問と焦りを感じ、マインはロバートの方に顔を向ける


「な、なんで……アイツが……味方殺しが…ココに…」


涙ぐんだ掠れた声がミリアの喉からそっと出される。彼女の白い頬には周囲の人間の血がつき、目に光が入らなくなってきた


「ミリアさんしっかりしてください!今はすぐにでも使用人達を安全な所に——」
「安全な所はもうないのだよ……」


マインの後頭部にロバートの拳銃が突き刺さる様に当てられる。彼の表情は一気に恐怖へと変わり、目を見開いた。


「Good night……マイン」


彼の銃口から放たれた螺旋状に回転する一発の革命がマインの額を貫き、血飛沫をあげる。マインは何の抵抗もなく重い身体が前のめりに倒れ、血の水たまりに顔を埋めた。


「マ、マイン………マイン!?」


ミリアの表情は先ほどの絶望よりも更に深みを増し、倒れたマインの傍で膝をついて屈む」


「ねぇ、マイン!お願い!アタシをコイツ等から一人にしないで!お願いマイン!ねぇ!」
「フフフフ…滑稽だな……親という柱と親友という柱が崩れれば……この有様だ。だが他の部屋にも柱がいるだろう……」


ロバートは高らかに指を鳴らすと、グヮン達はそれぞれ別方向の扉を開け、銃を構え歩いていった。


「お、お願い…これ以上アタシの仲間を殺さないで!」
「お断りしようMs,ミリア……彼らは殺す事に快感を覚えてくれたのでね……過去の俺のように」


突発的に他の部屋から銃声と悲鳴があがり、城中にコーラスは響き渡っている。


「味方殺しの……ロバート……」
「そう、その称号は久しぶりに言われた……君のお父さんからも、兄貴からも……」


彼はミリアの肩を掴み、無理矢理立たせ彼女の顔を強引に自身の顔と合わせる


「やはり美しいな、カイルの娘というだけはある……殺すのは惜しい」
「い、いや……誰が…貴方なんかに…」
「勘違いするな……貴様を殺す事には何の躊躇もない」


牙のように鋭い八重歯を見せつけ、不気味な笑みを浮かべミリアを凝視する彼に対して、彼女の表情は怒りや絶望、表しきれない表情が全て募っている。


「イグニスへの恋心も全て消え去るさ……」
「……ッ!」


彼女はロバートの手を振り払い、マインの死体から腰に差されていたレイピアを抜剣しロバートに構える。



「そうだ、マイテイ人はそうでなくてはならない……」



不気味さや恐怖を味わわせるようなその笑みに対して、ミリアはなんの躊躇もなく、剣の構えを解く。
それを疑問に思うかのような顔つきでロバートは彼女を見続けた。



「……ごめんなさい……皆……」



消えそうな声だが、最後に微笑みながら彼女は自身ののど元をレイピアで斬り、紅い液体を流しながらゆっくりと倒れた。



「結局死ぬなら自ら死ぬか………」
「ロバートさん、こっち全員片付けましたよ」


グヮン達が足取りを揃え、ロバートの後ろで銃を担ぎながら戻ってくる



「あぁ……革命は成った。後は……待つのみだな」


足下にある死体を蹴りながら、ロバートは王座へと進んでいく



キルライフへ戻る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年02月01日 22:02