つい昨日まで、緑色に囲まれた俺の故郷は
灰を入り交えた紅蓮に染め上げられていた
「母さん!!父さん!!!」
『魔法使い』の手によって
親を喪い
—SMDD—
「であるからして、害悪魔術は広まり孰れは世俗級から大犯罪級、乃至は世界規模での洗脳的要素ーー」
「古代ローマでは害悪魔術は犯罪として処罰の対象。我々もそれに乗っ取った異端審問を行う」
「異端審問官として魔法使い共には刑を執行。慈悲はない、人ならざる者に対して情は不要だ」
「狩猟、それも近接術がこうも役に立つなんて思わなかったね兄さん」
「立派な狩人の息子なんだ。これぐらい出来て当然だろ
ウィル」
SMDDは対魔力組織として設立した非公式の機関。
俺達の故郷が魔法使いにより消された後、生き残った住民が必死こいて築き上げた再故郷。
立派な建物ではないが、数百人程度の人間が寝られる程には屋根もある。寝所もちゃんとある。
「ウィラーム、ウィル。君達はまだ戦場に駆り出せないが、その準備はしっかりしておけ」
「はい、ライアー先生!」
「魔法使いはお前達の仇で、絶対に生かしちゃいけない存在だ。しっかり心に刻んでおくんだぞ」
「……」
「ウィラーム。いいか、君の持つその『雷神剣』は力を誇示出来る素晴らしい武器だ。魔法使いを殺す武器だ
君の腕力でこそ扱える強靭な武器を、仇の為に振るってくれ。それは先生、いや、人類の為でもあるんだ」
「……はい……」
「兄さん、ついに初陣だね」
「あぁ……」
「雷神剣は魔法使いを殺す剣、そう教えられてきた。魔法使いは父さん達の仇だ。兄さん!頑張って!」
「違う、俺達は……」
「……兄さん?」
「随分と『討伐』したようだなウィラーム。遠くから雷撃音は響き渡ったぞ!どれ、首を飾り立てよう。見せてくれ」
「いえ、魔法使いは『倒しました』が、首までは持って来ていません……全員——灰にしました……」
「そうか、親の仇故、怒りで気も狂うだろう。暫くはソレでいけ」
「はい」
いつの間にか弟は大きくなり、『戦士』として、心身を築け上げ
俺もSMDDの異端審問官として『活躍』していた
「”先陣”に任命された俺は立派に魔女達を殺し続けているぜ兄貴!」
「そうじゃねェウィル。そうじゃねェんだ。俺達がすべきは命のやり取りじゃねェ。俺達は——」
「兄貴は親父達の仇を討ちたくないのか?親の仇の為に俺は死ぬつもりだぜ」
「その兄貴にお前の仇を討たせるんじゃねェ」
「魔女を殺さないから寝てるハメになんだよ兄貴、寝てる間に俺がなんとかしてやるさ」
「……」
「暫く兄貴の剣借りるよ」
「……」
「魔女狩りとして戦場で死ぬ日が来ちまったんだ。すげェだろ、俺!」
「……」
「ありがとな、兄貴」
弟を喪い
「ウィルは魔女共に『魔女狩りウィル』として名を広めたそうだ。それも最後に貴様の雷神剣で」
「兄であるウィラームを追い抜かしたな」
「素晴らしい物だな。兄が弟の埋葬をするとは」
「普通は弟が兄の埋葬をすんだよ。弔う事に美しさなんざ感じちゃいねェ」
「で、仇は勿論討つだろう?ウィラーム」
「——」
「聞けばウィラーム。貴様は魔女狩りに於いて審問を施さず
ただ無力化して放置ときいた。それもSMDD行動範囲外の未開拓区域で」
「相当昔にアンタに答えたが、俺は全員灰にしている」
「そうか。そうかそうか」
1人の少女と出会い
「捕虜だ。殺せウィラーム」
「……俺に魔法使いを……それも、ただの少女を殺せっていうのか?この公然で」
「仇だ、お前が殺すべきだ」
「ふざけるな!!雷神剣は命を護る剣だ、人を殺す道具でもなけりゃあ、魔法使いを殺す道具でもねェ!
俺とコイツを利用して自分たちの過ちを正統化するお前達から、命を守る剣だ」
「いいから殺せウィラーム!!それが人類にとって最大で重要な任務なんだぞ!」
「同じ事を、それも無意味な復讐で命を散らす事を誇らしげに語るんじゃねェ!」
「今までの虚言を見逃してやる、出なければ貴様を降し武器を奪取せねばなるまい!その魔法使いは最早死を渇望している。救う価値などもとより皆無だ」
「……」
「たった一言でいい、生きたいと、そう言ってくれ。俺の魂をお前に授けたい」
「……………………
助けて
……………」
「今現在、SMDD異端審問管ウィラーム・V・ハントは辞職を決意表明致す!
異端審問による魔法使いへの被虐、拷問等を自ら禁ず!!」
境越えた街にSMDDの追っ手から逃れ
「俺の部屋は小綺麗だろ、親にそう教育されてきた。使ってくれ」
「名前は?」
「フェルン…………フェルン・ガードナー」
「……魔女達の処に帰りたいかもしれないが我慢してくれ。今孤立したら間違いなく機関に殺られる」
「……」
「今日は休もう」
「欲しいものないか?一緒に買いに行こうか!」
「うん」
「なんて呼んだらいいですか……」
「——ウィルって呼んでくれ、フェル」
共に過ごし
「身長随分と伸びたな」
「もう少しでウィルの事抜かせるかな?」
「まだまだ足らねーよ!」
「キレイになったな、フェル」
「ウィルのお陰でそんなアタシがいるんだよ」
「よく言うぜ」
「フェルの歌声は綺麗だな」
「くすくす、ウィルと出逢う前からだよ」
「ウィル、一つね、魔法をあげるよ。クリアっていう魔法」
「これで晴れて魔法使いの仲間入りか?あの世にいったら親兄弟に怒られそうだ」
「何か欲しいものあったら言ってくれ。習い事でもいいんだぞ」
「私はウィルにお願い事するのは死ぬ前って決めたから。それだけはちゃんと約束守ってね!」
「先生が凄く優しくてね、凄くカッコいいんだ」
「そいつは何よりだ」
「ウィル、私好きな人が出来たの!」
「——そうか!!」
「ウィルの故郷はね、魔(マナ)が凄く濃い地域だったんだって
魔女はそこをよく通るから、紛争が勃発したのかもね」
「…………そうか」
「魔女の残党はこの住処か」「火炙りだ」
「いやッ!離して!助けてウィル!」「ウィラームは不在、作戦に移るぞ」
「フェルを離せライアー先生」
「剣を捨てて降伏しろウィラーム。君も嘗ての故郷の地で死にたくはないだろ」
「頼む、先生……」
「魔女に惚れたなど一族の面汚しだ」
「人間として欠如している」
「死刑だ」
「死刑だ」
「死刑だ」
死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!
死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!
死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!
「ウィルが死ぬくらいなら、私は——」
「なんだこの魔力増加は!!殺せ、魔女を殺せェェェ!!」
「暴走しているぞ!!滅ぶべきだ!魔女は皆滅ぶべきだ!!」
「もう、フェルの歌声は聞けないのか……もう、聞かせてくれないのか」
「ア ァ ァ」
「頼む、フェル。俺に、仇を討たせないでくれ」
「ア ァ ァァ」
「……ゥ、ゥィル……」
「フェル……聞こえるかフェル!」
「凄いよ、ウィル……貴方の故郷のマナ、強すぎてこんなんなっちゃった……」
「お願いウィル……私を殺して……」
「お願い……」
「——」
「お願いよ、ウィル……」
「雷神剣」
「——」
「強力な魔を感じてみればこれか」
「生き残りはあの雷神剣を担ぐ魔女狩りウィルだけだ」
「戦争はまだ終わっていない」
魔女狩りウィルは引き継がれ
「ウィルは死んだ。もうアンタら魔法使いを脅かす存在はいねェ」
「なら貴様は何者だ」
魔女狩りウィルは死ぬ
最終更新:2022年03月04日 08:53