「デートをしましょう」
唐突に浅花ちゃんが告げて来た
「―――最後の、デートを」
俺は清辿蒼、こっちじゃアオって名乗ってる
いままで成り行きで世界を護ったりしてたけど、本当に護りたいのは世界だけじゃない
「アオさーん!」
今あそこで手を振ってる彼女こそ、俺が一番護りたいものなんだ…
彼女は桜風浅花、通称浅花ちゃん。俺の彼女で、背が低くてかわいい俺の大切な人、でもあぁ見えて年上だ
今日は久しぶりに、浅花ちゃんと二人きりでデートをすることになっている
話は数日前に遡る―――
*
「そうか…アオはやっぱ地球に戻んのか」
「あぁ…戻るよ、戻らないと行けないんだ」
俺はここじゃABNORMAL…普通じゃない存在だ
最近になって、
カオス界から地球へ戻る方法が分かった
俺は元々地球人であり、人間。だから地球へ還らないといけない
そんな話を、今
レインドさんと話している
レインドさんにはかなり前からお世話になっていて、何かある度に手助けをしてくれた
かけがえのない人の一人だ
「寂しくなるけど、仕方ねー…由縁だな」
柱に背を付け、レモンを弄りながらそう言う、全く持って
レインドさんらしい
「うん…ありがとう、
レインドさん。お世話になりました」
「おっと、さよならは言うなよ?それに、これからも世話するつもりだ。故郷に還るだけで絶対会えないわけじゃねー」
歯を見せてニカッと笑う、釣られて笑ってしまう笑顔だ
「それに、㊙デートもまたやりたいしな」
「あぁ、あれは俺もまたやりたいね!」
しばらく、そんな会話を続けていた
*
レインドさんとの会話を終え歩いていると、こんなまだ寒い時期にも関わらず外で華麗にバック転をする活発な女の子を見つけた
彼女は前髪に赤と黄のヘアピンをしたポニーテールの女の子で、遠くから見ただけでも誰なのかピンと来る
「およ、あ!アオーっ♡」
俺を見つけるなりくっついて来る彼女を俺は優しく受け止める
「やぁ、鳴叶ちゃん、どーしてバック転なんかしてたのさ」
「いや~、最近身体がなまってたからね!たまには動かさないと!」
つくづく元気だなぁ…と思わずにはいられない彼女の活発さに、無意識の内に表情を緩めてしまう。あと身体が柔らかい
そんな彼女は神無月鳴叶、人を創り出せる本から生まれた不思議な女の子、俺の兄…清辿朱と一緒に働いてるため俺とは同居している、寝顔がかわいい。
「アオは何してたの?」
「いや、ちょっと散歩をね…やっぱり、地球へ還る前にちょっとでもこの世界の綺麗な景色を見ておこうと思って」
「…そ。その散歩、付き合っていい?」
少しだけ寂しそうな表情をしたあと、そう尋ねて来た
「いいよ、鳴叶ちゃんと話しながらあるけば、もっと楽しいだろうしね」
しばらく、二人で歩くことにした
*
しばらく歩いて会話のネタも尽きかけた頃、鳴叶ちゃんが口を開いた
「そー言えば、さ」
「なに・・?」
「浅花ちゃん、アオのこと探してたよ」
「…そっか、分かった、浅花ちゃんのとこ行ってくるよ」
鳴叶ちゃんの意図を汲み取りそう告げる
「うん…アオ、浅花ちゃんとの時間無駄にしたら、めーっ!だからね!!」
「ははは、分かってるよ!」
そのかわいい言動と心遣いに、心から感謝すると共に、鳴叶ちゃんに対して少し罪悪感を覚えた
そして、自慢の足で賭け出す、1秒たりとも無駄にしないように。
大丈夫、浅花ちゃんの居る場所は見当が付く
*
俺が向かったのは、一本の大きな桜の木
浅花ちゃんは基本的にそこに居る、彼女のお気に入りだから。
「ゼェ…ゼェ…」
「…アオ、さん…」
ほら、やっぱり居た
彼女はいつも通り、カイ、ココと言う名前の二匹の猫と遊んでいた
いつも通りじゃないのは、その表情だけだ
「あはは…やっぱりここに居た」
「アオさん…ずっと探してました」
立ち上がり、俺の元へ歩み寄って来る
その後ろには猫二匹
そして、その小さな身体が目の前に来た時…
「デートをしましょう」
唐突に浅花ちゃんが告げて来た
「―――最後の、デートを」
最終更新:2024年04月11日 00:53