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———十劍舞祭 閉幕より半月———
オリヴィエ「父上、これより以降このオリヴィエ・リンドヴルムは甘んじて勘当されますので悪しからず」
『…………。その申し出は恐らくは、セシルよりされるものとばかり考えていたが』
オリヴィエ「彼には姉らしいことは何一つしてやれませんでしたが、こうお伝えください。『あなたも旅に出るならお手伝いはさせていただきますとも』と」
『死ね、オリヴィエ。リンドヴルム家には幾らか遠縁の血という予備がある。例え実子だろうが貴様のような”人でなし”や”出来損ない”
極め付けは人形風情に心血を注いだ愚者に継がせる訳にはいかん。これは親たる私なりのケジメだ
次代党首の座を脅かすお前の存在を、私は断じて認めん』
オリヴィエ「ええ、ええ……これより私はひとでなし。一度死んで生まれ直したろくでなし
あなたの娘でもないのでしょうし、お好きになさるとよろしいでしょう
私も、あなたのことは無き者のように扱いますし、別段私怨もありませんのでお伺いすることもありません。好きにやっていきますとも」
オリヴィエ「ああ、そうそう。お小遣い程度の資産でしたが私の家はそっくり其の儘権利書をあなたに返上いたしました
私が存在したという書類上の痕跡は、少なくともリンドヴルム家からは根こそぎ。お互いその方が都合がいいでしょう?」
『————最後の最後になって、お前という娘は初めて”人らしい”気回しをする……。 オリヴィエ』
オリヴィエ「なんです?」
『私も所詮人だったものの親だ。だから選別、娘へ最後ににくれてやる
—————————————お前の意思で死ね』
オリヴィエ「————地獄でお会いしましょう。娘としての遺言です」
—————貴族としてのオリヴィエ・リンドヴルムはこのようにして父へ遺言を残し、
ただのひとでなしが電話ボックスの前に佇んでいた
新たな世界を望むならば、その世界の殻を打ち破り、
大局的世界をそのままに、ただ孤独に歩むしかない
善をなさず、悪をなさず、林の中の猫のように
オリヴィエ「どうせ死んだんだし模様変えしますか」
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オリヴィエ「こんにちはー。雑誌で見たんですけどこの着付けやさんってこ町にあるって」
リズ「ああ、最高に運がいいねお客人。この店は非常勤なんだが、本日は奇しくも営業日。まぁかけたまえよ」
オリヴィエ「おお……なんだか着付けやさんって感じじゃないあれですねこれ、バーです?私未成年ですし下戸ですしおすし……」
リズ「いや完全に私の趣味。それで? うちに足を運んだってことは既製品が満足できないっていう喜ばしい拘りをお持ちの素敵な変人なんだろう?大歓迎さ、まずはここのシートに軽くデザインを書き起こしておくれ、端的で構わないよ」
オリヴィエ「えぇと……ひょっとして?」
リズ「ご明察、趣味で営業中。それはそれは気まぐれにして孤高の一品を手がける暇人な間だけファッションデザイナー。エリザベス・ヴァンシュタインだ。ちなみにお手元の雑誌は雑誌じゃない、自費出版した暇つぶしの産物だよ。拾ったのかい?」
オリヴィエ「うわぁ……お金の使い方が残念な富豪感……っ! いやあの、本当に大丈夫なんです?あとわたし絵心はからっきし……」
リズ「趣味なんだ、気に入らなくてもやり直しはしない代わりに報酬は気持ち程度でいい。第一お客人は君が初めてだしね。気に入ったらSNSでシェアしてくれれば構わないよ」
リズ「それと、絵心は不要。インスピレーションのままにペンを持て腕を動かせばいいんだ、あとはこっちで勝手に解釈して適当に形にする。気に入らなかったら丸めて投げつけておくれ」
オリヴィエ「は、はぁ…… ちなみに『魔術礼装』って書いてあるんですケド……強度とか性能面は?」
リズ「君、剣士だろう?腰のそれが飾りでなければ。それなら前にも幾つか仕上げた覚えもあるし、今私が着てるこれ、
防弾仕様ながら関節を圧迫せず体の動きを阻害しない上アンダースーツのように無駄を抑制するから効率的に立ち回れる仕様さね」
オリヴィエ「理屈わかんないんですけど動きやすいってことはなんとか。んー……まぁ報酬が気持ち程度なら……
あっ、じゃあちゃちゃっと書いて見ますね。」
オリヴエ「(とは言ってもインスピレーションってなぁ……服にそこまでこだわりがあったわけでもなし、なんでここに来たんだろうってレベル)」
オリヴィエ「——————まぁいっか、ぱっぱのほいって感じで」
リズ「—————————————————………………………………………………なにこれ?」
オリヴィエ「インスピレーションのままに」
リズ「つよそう(こなみ)だがただのそれだけだ、これ服の形してないし、何かこうあれ……線の塊だしこれ、ナニコレ」
オリヴィエ「インスピレーションのままに」
リズ「がんばります(震え声)」
リズ「えーっと………まぁ仕立てる作業は一時間程度なんだけどデザインを起こすのに時間を要するな……とりあえず一週間以内には連絡するよ」
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リズ「というわけで、一時期はどうなるかと思ったんだが、君のこうあれ……強そう(こなみ)っていうイメージと拭っても君の可憐さと拭いきれん侘び寂びを足して見た」
リズ「(正直、つよそうことしか伝わらなかったから完全に独断で書き起こした感あるが……)」
オリヴィエ「ワヨーセッチュースタイルとは以前の服から言われてましたけど……なるほど!コートとは新しい!
それでいて動きやすいし……言うことなしなんですケド……」
リズ「ケド?」
オリヴィエ「……——————————。」
( 『 D i e !! 』 )
オリヴィエ「(あーそっか、力の象徴って感じかぁ)くす……いいえ、なんでも」
リズ「?……まぁうん、その笑顔は気に入ってくれたと解釈していいのかね」
オリヴィエ「ええ、もちろん!あ、報酬は気持ちでしたよね」
リズ「もちろん。見た所旅の身だろうしもともと期待していない。ポケットティッシュでも構わないよ」
オリヴィエ「それではこちらをどうぞ」ゴトッ
リズ「おやおや、剣士と見込んだがまさかハジキが飛び出てくるとはね」
オリヴィエ「護身用にって渡されまして。使えるものはなんでも使う主義だし持ち歩いてたんですけど
『火薬なんぞ無粋の極み』って言われちゃいそうですしね」
リズ「ふーん……なんだか君の出自が妙に気になって来たんだが……まぁ、この縁は一期一会だろうさ。詮索はしないでおくよ。確かに、報酬は受け取った」
オリヴィエ「ふふっ、さてどうだか。何せ……」
オリヴィエ「人の世の根草は意外と狭いんだそうで……」
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最終更新:2024年04月11日 03:43