悪魔城【Noct Queen】ep3-1

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   ありがとう、”私”を見つけてくれて
    だからもう……側にあってはいけない
     私はアナタにとって、取るに足らない存在でなければならない




「殺せる、そう確信しただろう
 殺した、そう渇望しただろう
 だがお前の世界は閉ざした、
 空を仰ぎ見るがいい、
 我が業を見るがいい、
 そして希望するがいい
 悪魔はここにいるぞ」

––––––– 司祭は私にこう告げた
    アレは正真正銘、悪魔なのであると
    例えるならばそれは邪教や異教徒といった道を違えたものなどではなく外法を以てして世にこぼれ落ちた人類悪なのだと
    人類悪は化け物の力を持ってして滅ぼされなければならない。人の身でありながら外法を滅せる者がいるとすればそれもまた化け物に過ぎない
    故にお前は示さなければならない。自分が忠実な化け物であることを、憎まれる存在として神にその価値を証明しなければならないと

「お前の世界を照らしてやろう
 七色に光る翼は、十字を殺し尽くすだろう」






    ––––Before 7 year––––





「銀の十字架?」

「外道の頭目はあらぬ信仰心の象徴を胸に忍ばせていたのでな、どうにもきな臭くてね」

「それで私の元を訪ねたと言うのなら歓迎よ、チップは弾むけど」

 曇天がリズの皮膚が忌み嫌う日光を遮る湿気の多い昼下がりだった
 片田舎の麻薬組織を文字通り火葬した後、その頭目であった男の遺品、銀の十字架を拾い上げ、
直感が先の発言の通り『キナ臭い』と告げると、彼女の足は自然と旧友である『ニオ』が住まう、
元々は地球にて某探偵が住まっていたアパートに赴きソレについて問いを投げていた

「まぁサービスしとくわよ、見せてみなさい」

「悪いね、いつも」

「別に、都合のいい友人にとっては当たり前の職務をこなすというだけのことよ」

 金にがめつい情報屋を気取った風の気だるい顔を取り繕っているが、
執拗にそのブツを欲ししきり上下して手招きをするその仕草から、彼女自身知的好奇心が腹の底から歓喜の悲鳴を上げているのが伺える
 相当退屈だったのだろう。 あまりじらしても不憫なので何も言わずに銀の十字架を寄越した


「新興宗教の類ね……今更何をと言うかもしれないけど、これは特別タチが悪いやつ」


 新興宗教
 別段、裏の世界を知る人間にとっては珍しいビジネス用語などでは断じてない
 ただ、元よりタチが悪い商売に特別輪にかけてそう称するのだからこそそれは特筆すべき裏の裏が何かしら存在するということを意味しているに違いないのだ


「具体的には?」


 両手を重ねて頬杖をつき、いとおかしと言いたげに小首を傾げて問いかける
 ニオはこれを肩をすくめて返し、さぞ両のソレで見たくないような現実があることを意味するかのように片目だけを開いてこう答え問い返した


「近年外来人が増えていると聞くじゃない。とりわけ地球人とかいう奴はこの世界への適応能力が高く、いとも容易く溶け込み、果てには文化に侵食するの
 さて時にリズ、あなたは文化をなんと定義する?」


 唐突に切り出された議題の割には答えといっても雲をつかむように定義付けが曖昧になるであろうようなものだ
 しかし立場上ただの友人でもないエリザベス?はこの問いに対して時間を要さずに答えを提示しなければ面子が潰れるというもの、
これをエリザベズは軽い手振りを添えてこう返して見せた


「種の識別記号のようなものだな。人類が多様性を持つがゆえに無数の絶滅危機足り得る要因に対して対応し長い歴史を築いてこれたとするならば、
 人類の中に”大まか”な多様性を許したのは長い習慣や幾つかの偶然から生まれる”習わし”であると考えている。アマガエルの息子はアマガエルだしガマガエルの子もガマガエルであるように」

「然り、けれど彼彼女らに習慣を義務付ける物はなにかしら? 本来ただ生きていればいい筈の動物が、己の利益にも足り得ないにも関わらずそうまで駆り立てる義務感とは……」

「宗教……だな」

「ええ、つまりそういうこと」

「外来人の持ち込んだ文化か。遺伝子が継承されるならば文化もまた然り……それはつまり、神々とて同じ事」

「向こうがどうなのかは知らないが神などというものが実在するのであれば、わざわざ己のテリトリーから離脱した者まで見守りはしないし、
 実体のないものほど形を変えやすいものはない。恐怖や希望に訴えかければ、群衆の心はコロリと神の手の形をした掌の上よ」

「さぞ儲かるだろうな」

「皮肉にも、司祭が信仰する神々は信者の懐の中にあって、偽りの神々の名を売ればそれは手に入るということ」

「なるほど、ボロイ商売だ。けれど未だに解せないな」

「神と薬はどう結びつくかって……? 人間騙されたい生き物なんだっていう基本に帰れば答えは簡単よ」

「聖水とでも言って渡しておけばドラッグ特有の症状に疑問なんて抱く余裕もないか」

「司祭は薬売り、法は領民の首輪、この世は閉ざされたアイアンメイデンとでもいったところだな
 いやまったく、人間知恵がつくと悪徳ばかりに走ってよろしくない」

「知恵が身についたから悪徳に走るのか悪徳を成すために知恵をつけるのか
 まあ、少なくとも”人でなし”の私には良くも悪くも縁のない話––––––」

 彼女は、魔女・ニオは浮世の事柄など情報が量産化されるよりも早く鮮度が高いうちに頭で食する
 今更新聞など役にも立つまいに、書斎の書物机の上にはあたかもすぐ手に取れるようにその日の朝刊が晒されており、
言葉を遮り丸くした瞳の先にはそれが存在を主張していた

「そうそう、同じ人でなし同士。俗には縁もゆかりもない脅威に近しい立ち位置にあることを再認識しないといけないわね」

「珍しいな、情報など先読みするのが君の常だろうに新分をよこすなど」

 魔女が卓上で新聞を乱暴に滑らせリズへ押しやる
 初めは訝しげに、気だるげに一瞥をやる程度の意識しか存在しなかったが、
真紅の瞳に収まった20時間分古めかしい情報ソースは警笛を鳴らし無視できない、
決して軽視できない恐怖と好奇心が鼓動を鳴らす。赤い糸という弦を弾いたかのように


「–––––––血染めのジル






––––ローマ司教に手を出したそうね。アレもこの世界に訪れて無為に時間を投げ打ったわけではないみたいね
  この世界の理を心得、この世界の武器を知り、この世界における最適解を導き出す程度にはカオス界に順応している
  【悪魔嬢】と称されるあなたは尚更背を壁につけて過ごすべきね


「っと、いうのが我が友の忠告な訳だが」

「よしわかった、俺はジャポネーゼ寄りの人でなしなので関係ない
 ていうかあの陰湿女とまだ付き合ってるのかよボス。感心しねぇぞ陰湿と自己中の女中なんざ」

「そう言ってやるなよ。あれもまた可愛らしいところがあるんだぞ
 耳のあたりとか敏感らしくてな」

「おっさんかてめぇは!ていうかそのなりでおぼこさんなのなッ!」


 風の国、ヴィンタニア。その城下町に夜が降りてくる
 街道に吊り下げられたランプが瞬き始める頃、私は桃太郎よろしく鬼をお供に引き連れ石畳の床の上を陽気に舞っていた
 鬼こと”シェン”は当時、まだ私が今よりも更に幼い上に唯一の部下であるがゆえかこのように、
キャロルの分まで自由奔放に振る舞う私の世話で手をこまねいているようだった

「ていうか普通そんな正教付きの殺人鬼が彷徨いているっていうのに出歩くかよ
 ましてや往来のど真ん中ともなりゃヒトの濁流、ドイツがそのジルとやらなのかフランスなのかわかったもんじゃねぇぞ」

「まあそういきり立つな。身の危険は寝ても覚めても付きまとう。そういう世界に生きているのだからな
 ––––––相手が血染めのジルならばなおさらだ。穴熊は悪手と言わざるをえまいよ」

 と、ない頭を絞ってそれなりに愉快な言い回しをする彼を推し黙らせるように指を鉾のように鼻先へ突き立て得意げに口角を吊り上げてみせる
 きょとんとして口をへの字にし、シェンは渋々街灯の支柱に背を預けこちらに促した


「哀れなスケープゴート諸君は皆”屋内”、或いは私有地内で殺害されていた
                        –––––––それも無抵抗でな」

「無抵抗で……?っていうとあれか、やっぱり即死か。何度か仕損じたならそれなりに死に際に意地はみせるだろうし……ともすると相当な使い手––––––」

「さぁてどうだが。実際検察に話を通して遺体を拝見させてもらったが別に【プロ】ではない風だったぞ、アレは」

「ああん?やっ、そらあるめーよ。気取られずに致命傷を狙い撃つなんざ達人にしたってそう易い技じゃ……」

「凶器は全て共通してコンバットナイフ。刃渡は推定7cm弱
 何れも頸動脈に一太刀と喉笛に一太刀。おそらくは喉を潰してから脈を切り血を全部晒してってところだが……
 切り口からして荒い雑な仕事だ。何よりお前の言う【一太刀】ではない」

「あり……」

「そう、ありえないんだよ。【ありえないということ】花。一度喉笛をかっ切ればまずは死ぬ、声を絶たれれば助けは呼べないしこれは確定事項だが絶命するまでにラグが存在する範囲
 故に確実に脈を断ち切り即死を狙うのだが……いやしかし待て、喉笛の時点で何かしらのアクションはあるだろう
 –––––––無抵抗とは即ちそういうことだ。暗殺による即死であれば抵抗という選択肢はそも存在しない。被害者は抵抗しなかったんだ」

 ありがちな決まり文句だが向こうもありがちな否定なので遠慮はしない
 畳み掛けるようにこちらの情報を開示してやる。向こうはお手上げと言わんばかりに眉をひそめたがそれはこちらとて同じことであった 

「あんま考えたくねーけどアレ、ハニートラップっていうのは?
 ベッドに連れ込んでその勢いで泡吹いてる間にザクッと、野郎は幸せ夢気分のままあの世行きと」

「同性愛者多すぎだろうこの街。被害者は11名男女の比率は五分五分。
 そう都合よくレズビアンばかりを狙うかね。そも婚約者も被害者の中に含まれるからな」

 無論その可能性を考えなかったわけではない
 しかしさすが帝国、子孫を残せるのは異性同士の繁殖のみともすれば生産性がない行為を良しとしない、
徹底して生産性を上げるべくなのか同性婚は法で固く禁を受けている上、そもこの国では風俗というものも横行していない
 早い話が春を売るような商売はここでは意味を成さないわけでこれもまた却下

「だよなぁ。そも素人なんだろ、雑な切り口ともなりゃそら技じゃねぇ。力任せに刃物で殴りつけたら偶然切れたっていうのと同義だ」

「んっ、だから私は一度拝んでみたいのさ。変わり者は大好きだ、何せ”世界にただ一人しか存在しない”
 できることなら説き伏せて私のものにしたい。美しいものなら尚更、花びらを一枚一枚めくるように……」

「はいはい変態変態」

「しかし私とてやるべきことは多く残っている、ここでくたばってやる程安くもない
 往来でこうしてしたくもないデートと決め込んでいるのもそのためだ」

「したくもないのはお互い様。はーぁ、いいケツの女いねーのかなぁ。この辺みんなスマートすぎていけねーよ」

「それもそうさ。ほれ、あそこの童共を見てみろ」

「ガキ……だな。いやなんていうか……」

「言わずともがな、あれは永くない」


 哀れみは彼等の尊厳を傷つける
 ただ目の前の事実を受け止めるように、あまり袖を引きずるコートを羽織った子供たちと対面した
 “4人”、それぞれがパン屋の脇、ゴミ箱の上に屯って歯も削れるほどに固くなったクロワッサンをかじっているのが精一杯だ

 風の国ヴィンタニアは古い歴史を誇る帝国国家
 開拓移民が作り上げたこの国家にはある譽れが存在する、
【我々が築き上げた一大帝国】という確かな譽れが

 そも、建国より10倍以上の面積にまで国土を拡大させるまでに至らしめるほどの執拗なまでの野心、
これを正当化、助長化するのは生まれ持っての国民性、【民族至上主義】である

 元々ヴィンタニア民族は風の民、季節風に乗って各地を放浪する風神信仰民族であるのが風の民とされる由来なのだが、
彼等は世界を渡り歩くうちに多くの教養、多くの知恵、多くの地理的知識というインターネットがない時代においては有力な武器を得ていた
 それこそ【万能感】が理性を蝕んだことだろう。旅団としても長い歴史を誇った彼等の一部は富める者となるための手段を持て余し、これを際限なく行使した

 結果、帝都に住まう純潔たるヴィンタニア民族と、彼等に支配された領民によってこの大国は形成され、
元々【泉の国】であったこの領地の住民、ひいてはその中でも最弱者である【子供】の半数以上はこうなる



「ふと考えるんだ–––––」


 子供達というのはいつだって被害者だ
 しかしそれは子供だからではない、子供という存在が必然的に自己を守る術を持たず、
絶えず溢れる悪意の中で生きているからに過ぎない


「もし、本当にただの素人なら何故、微塵の躊躇もなくこうして殺し続けることができるのか
 どうして、奪い続けることができるのか……富めるものであれば自らの手を血で汚すことはあるまい
 であれば、あそれは明らかに搾取される側であればこその行いなはずなのだ」


 隣に立つ鬼への問いかけでもない
 世の理不尽に対する嘆きでもない
 届いているだろうか、この問いかけは
 血染めのジル、私はアナタに会いたい––––––







「で、なんで来て早々託児所になってるのよ」

「外来者故に我関せずを貫く権利はあっても義務ではない
 故に自由<スキ>にさせてもらった。そうだろう?シェン」

「んんわけねーだろうが。スキでやってるのはお前はねーし俺は嫌いだけどやらされてんの」

 後になって完全に日が没した頃、ようやく資料をまとめて合流したニオの攻め立てるようなジト目の問いかけ、
それを私は腕を組み華麗にキラーパス、しかしこれはあえなくブロックされ撃沈した
 事実、目の前でお案をかじっていた子供たちに焚き火で炙った魚料理を振舞っているのはシェンだ
 レストランに入っておごってやろうという流れになったのだが、そもこの国家は階級制度に厳しいことを忘れていた
 子供達の身なりでは門前払いをくらうのが関の山だった

「………。」

「………。」

「………。」

 3人の子供達は目を輝かせ喜びの悲鳴をあげる暇もなく一心不乱にカレイのムニエルに食らいつき顔じゅうを食べカスで見るも無残にさせていた
 しかし不思議と、見ていて不快には感じない。なんというか心底安心したというのが正直な感想だ


「お前達、名前はあるのかい」


 ふとした興味だ
 この時間に頭髪の色も顔つきも似通らない3人組が外を出歩いたまま帰る気配もない
 そも帰る場所がないのだろう、親もいないのだろう……ではせめて、この子達に時期別記号はあるのだろうか、個体としての証明はあるのだろうか


「私はフレデリカ? モグ このちっこいのがノーラ このなんか根暗そうなのがアンジェル?

「フレデリカだって身長同じぐらいじゃん」

「久々の栄養源だ、口数も減るよなていうかお前も減ってたよな」

「やかましいリーダーに口答えするな」

「「えっ」」

「えっ?」

 安心した。栄養さえ与えれば即興コントをやらかすぐらいの若さは残っているらしい
 ほっっと一息つき胸をなでおろす
 と、目を離しているのも束の間。金切声の合戦がステレオ音声で鼓膜をつん裂いてくる

「「「ガバディ!ガバディガバディガバディガバディガバディガバディ」」」

 覇権争いが勃発していた。それもガバディゲームで……だ
 3名によるこの見苦しい権力闘争は3人寄らば問答の元を体現したかのようで頭が痛い

 目も当てられんとばかりに踵を返すと10m程離れた先で既にニオが避難していた
 普段屋外で魔本をひけらかすという事は滅多にないが、この時ばかりは予期せぬ事態、
それも取るに足らない元凶による騒音が彼女のストレスを加速させているせいもあって、
魔本という趣味の世界に没頭し逃避するに至っているようで、閉店した仕立て屋前のベンチに腰を下ろしたままじっと誌面に視線を落とし沈黙を守っている

 それに追随するように彼女の分までムニエルをしっかり作ってあったシェンが湯気を放つ葉皿を片手に歩を進めていく
 そして、その間では”四人目”の子供がゆらゆらと上体を左右に揺らしつつ歩み寄っていた
 よほど寒さに弱いのか、すっぽりとフードで頭部を覆い、全身を包むローブを木枯らしになびかせて


「お姉さん」


 糸のようにか細い声がニオの耳を揺さぶる
 ニオはしばらく無視を決め込む腹立ったが、いつまでもその子供がそばから離れないので諦めがついたのか横目をやる

「それ魔本?」

「……ええ。 そうよ、よくわかるわね」




––––––––!?





 なんだ、それは
 あの子供が組んだ後手に持っているそれは



『哀れなスケープゴート諸君は皆”屋内”、或いは私有地内で殺害されていた
                        –––––––それも無抵抗でな』

『凶器は全て共通してコンバットナイフ。刃渡は推定7cm弱』


––––––なぜ歳馬もいかない少女がそんなものを携えている


『遺体を拝見させてもらったが別に【プロ】ではない風だったぞ、アレは』

『ああん?やっ、そらあるめーよ。気取られずに致命傷を狙い撃つなんざ達人にしたってそう易い技じゃ……』


––––––なぜ……




『ふと考えるんだ–––––』

『もし、本当にただの素人なら何故、微塵の躊躇もなくこうして殺し続けることができるのか
 どうして、奪い続けることができるのか……富めるものであれば自らの手を血で汚すことはあるまい
 であれば、あそれは明らかに搾取される側であればこその行いなはずなのだ』



「 ふ ー ん そ っ か 
     お 姉 さ ん 魔 女 な ん だ 」


–––––––盲点だった、私は己の愚図を呪う…呪うぞ!
     そうさいたとも。警戒もされずむしろこうしていつくしまれ、温かく迎えられ、
      自らを格好の”的”に貶める、ただ”そうあるだけ”でそれを強制させる被害者が!

                 幼い子供だ–––––––––––––ッ!!!!


「……少女、キミ何者––––––」

「ニオッ!!!!!!」

「野郎……ッ!!」


––––––大丈夫だ、間に合う
    私の声がトリガーとなって危機を察したシェンが人並みを超えた脚力で少女の方へ放たれた矢が如く駆ける
    そも彼女に心を許していなかったニオが防御結界を張るのにラグはない。少女はすでにコンバットナイフの間合いに入っているが、
    あの二人がそれに遅れをとることは………





                    ┣¨       ッ





「……えっ」



 言葉を失うとはこのことだ
 正確には奪われたのだ

 二の句を言う暇もない
 10m先で起こった現象はただそれだけのことと捨て置くことはできなかった

 ニオの防御結界は間に合った。正面から対峙していた彼女は少女の振るってきたナイフの軌道を目視出来たし当然の結果、
チェック柄の半透明の壁が、刃先を粉にして削る
 しかししてそれにも関わらず赤が夜景に舞っていた

 後方から少女を止めようと奔走していたシェンの眉間には、
   ––––––––なんの手品なのか、一振りしか手に持っていなかったナイフと同型のそれが、二本目が過程を無視して突き立てられていた–––––––








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最終更新:2025年01月21日 03:17