蒼い卒業証書

(あお)卒業証書(そつぎょうしょうしょ)/blue certificate》


三月

それは出会いと別れの季節
今年もその季節が…来ようとしていた…



アオの家に張り巡らされている結界
それは別れを意味するものだった。
今この地から、一家が姿を消すという……。

彼らの元に、姿を表したのは…
背中を押されながら浅花を先頭に、彼らの支えになった人物が集まってきた。
彼女の表情に曇りは無い、ただ、そこにあるのは彼を想う気持ちと後悔の無い笑顔だった。

アオと朱は驚きと共に、喜びの表情を見せる。
そして彼らはそれぞれ別れを告げる。

奏はアオに向けて一枚の紙を授与する。
それは、卒業証書だった。

『清辿蒼様 あなたはこの世界において みんなのために がんばりぬいたことを 証します』


その感謝の紙を持って彼らは地球へと還っていった。

だが、しかし

+ ...
彼は地球では形のないものとなっていた……
ここに、一人の男の生き様が示されたのだ。

尚、アオが地球に帰らず残ったパターンが短編として描かれている


じゃあな…蒼…また会おう…無限バンダナだ…



別ルート版短編

いつまでも蒼い空の下で


「デートをしましょう」
唐突に浅花ちゃんが告げて来た

「―――最後の、デートを」


俺は清辿蒼、こっちじゃアオって名乗ってる
いままで成り行きで世界を護ったりしてたけど、本当に護りたいのは世界だけじゃない

「アオさーん!」
今あそこで手を振ってる彼女こそ、俺が一番護りたいものなんだ…

彼女は桜風浅花、通称浅花ちゃん。俺の彼女で、背が低くてかわいい俺の大切な人、でもあぁ見えて年上だ
今日は久しぶりに、浅花ちゃんと二人きりでデートをすることになっている
話は数日前に遡る―――


「そうか…アオはやっぱ地球に戻んのか」
「あぁ…戻るよ、戻らないと行けないんだ」

俺はここじゃABNORMAL…普通じゃない存在だ
最近になって、カオス界から地球へ戻る方法が分かった
俺は元々地球人であり、人間。だから地球へ還らないといけない

そんな話を、今レインドさんと話している
レインドさんにはかなり前からお世話になっていて、何かある度に手助けをしてくれた
かけがえのない人の一人だ

「寂しくなるけど、仕方ねー…由縁だな」
柱に背を付け、レモンを弄りながらそう言う、全く持ってレインドさんらしい

「うん…ありがとう、レインドさん。お世話になりました」
「おっと、さよならは言うなよ?それに、これからも世話するつもりだ。故郷に還るだけで絶対会えないわけじゃねー」
歯を見せてニカッと笑う、釣られて笑ってしまう笑顔だ

「それに、㊙デートもまたやりたいしな」
「あぁ、あれは俺もまたやりたいね!」

しばらく、そんな会話を続けていた


レインドさんとの会話を終え歩いていると、こんなまだ寒い時期にも関わらず外で華麗にバック転をする活発な女の子を見つけた
彼女は前髪に赤と黄のヘアピンをしたポニーテールの女の子で、遠くから見ただけでも誰なのかピンと来る

「およ、あ!アオーっ♡」
俺を見つけるなりくっついて来る彼女を俺は優しく受け止める
「やぁ、鳴叶ちゃん、どーしてバック転なんかしてたのさ」
「いや~、最近身体がなまってたからね!たまには動かさないと!」

つくづく元気だなぁ…と思わずにはいられない彼女の活発さに、無意識の内に表情を緩めてしまう。あと身体が柔らかい
そんな彼女は神無月鳴叶、人を創り出せる本から生まれた不思議な女の子、俺の兄…清辿朱と一緒に働いてるため俺とは同居している、寝顔がかわいい。

「アオは何してたの?」
「いや、ちょっと散歩をね…やっぱり、地球へ還る前にちょっとでもこの世界の綺麗な景色を見ておこうと思って」

「…そ。その散歩、付き合っていい?」
少しだけ寂しそうな表情をしたあと、そう尋ねて来た
「いいよ、鳴叶ちゃんと話しながらあるけば、もっと楽しいだろうしね」

しばらく、二人で歩くことにした


しばらく歩いて会話のネタも尽きかけた頃、鳴叶ちゃんが口を開いた

「そー言えば、さ」
「なに・・?」

「浅花ちゃん、アオのこと探してたよ」
「…そっか、分かった、浅花ちゃんのとこ行ってくるよ」
鳴叶ちゃんの意図を汲み取りそう告げる

「うん…アオ、浅花ちゃんとの時間無駄にしたら、めーっ!だからね!!」
「ははは、分かってるよ!」
そのかわいい言動と心遣いに、心から感謝すると共に、鳴叶ちゃんに対して少し罪悪感を覚えた

そして、自慢の足で賭け出す、1秒たりとも無駄にしないように。
大丈夫、浅花ちゃんの居る場所は見当が付く


俺が向かったのは、一本の大きな桜の木
浅花ちゃんは基本的にそこに居る、彼女のお気に入りだから。

「ゼェ…ゼェ…」
「…アオ、さん…」

ほら、やっぱり居た
彼女はいつも通り、カイ、ココと言う名前の二匹の猫と遊んでいた

いつも通りじゃないのは、その表情だけだ

「あはは…やっぱりここに居た」
「アオさん…ずっと探してました」

立ち上がり、俺の元へ歩み寄って来る
その後ろには猫二匹

そして、その小さな身体が目の前に来た時…


「デートをしましょう」
唐突に浅花ちゃんが告げて来た


「―――最後の、デートを」









「デートをしましょう、最後のデートを」

唐突だった、でも彼女がそう言って来るのは予想が付いた
『最後の』にちょっと反応してしまいそうになったけど、なんとか堪えた

彼女は寂しがりだから、甘える人がいない境遇だから、俺に頼るんだろう

俺の返答はもちろん
「いいよ、いつにする?」


そうして、俺と浅花ちゃんはデートをすることになった

もうすでに楽しそうに手を振っている彼女の元に行って声をかけてあげる
「やぁ、待ったかい?」
「はい、1時間くらい待ってました!」

き、気が早い…
つい苦笑をしてしまうが、浅花ちゃんらしい

「待ち時間も、楽しかったですよ。もうワクワクドキドキで…」
「本当に楽しみにしてたんだなぁ…さ、行こうか」

「はい、私達の思い出の場所に」

そう言いながら、彼女は心からの笑顔を俺に渡す


二人で思い出の場所を巡る

春に行った満開の桜が並ぶ公園
夏に行ったコバルトブルーに輝く海
秋に行った紅葉が綺麗な山
冬に行った雪の煌めく平原

どれも、俺達にとってはかけがえのない場所だった
全部の場所が同じ状態な訳じゃない、変わってしまった場所だってある

それでも、良かった
二人で、みんなで行ったって思い出だけで、十分過ぎた

「…懐かしいですね、どこも」
「そうだね…本当に懐かしいよ」

次に、二人で行ったカフェに行く、もう閉店しているようだった
その次に―――


「もう、日が暮れてきましたね」

あっと言う間だった
なぜこれほどまでに早いのか、疑問に思うくらいに

「…ここが、私達のデートの終点です」
「浅花ちゃん、ここは―――」

寄宿舎の前だった
忘れもしない、出会いの場所
そして、恋の場所

もう寄宿舎はないけど、忘れられない場所

あの大量の枕に埋もれた日、俺が浅花ちゃんの手を引っ張り上げたあの時
全てはここから始まったんだ…さすがに枕はもうないけど

あぁ、おにいさんも一緒にいたなぁ…
思い出していると、目尻が熱くなっているのが自分でも分かった

これで、終わりなのかと思うと、我慢出来そうになかった

でも―――

「終わりじゃ、ないですよ。アオさんっ」

浅花ちゃんの一言で、救われた気がした

いつもそうだ、浅花ちゃんは、いつも俺の気持ちを察してくれる
戦いで辛かった日々も、浅花ちゃんがいたから今がある

あれもこれも浅花ちゃんのおかげなんだ

「確かに離れることにはなりますけど…別れる訳じゃありません。だから…っ…」

彼女の瞳に水滴が溜まっているのが分かった
やっぱり、いつまでも泣き虫な女の子なんだ

そんな彼女を、そっと抱き寄せる
「うん…分かってる、泣かないよ。だから浅花ちゃんも泣いちゃだめだ。…笑い合おう」

浅花ちゃんの一言で吹っ切れた俺は、もう悲しくない。距離があるだけで存在が消える訳じゃないんだから
「…はい」

ぱっと彼女の顔も明るくなる
やっぱり、笑顔が可愛かった

笑顔の浅花ちゃんを見つめてると、彼女はポッと頬を染めて俯いてしまった
その仕草がたまらなく可愛くて―――



―――やっぱり、離れたくないと思った


思い出の場所を巡り終わって、いつもの桜の木の下に戻ってきた
とてもあっけないと思う、早すぎると思う、時間がもっとあったらいいのにとも思う

あれから浅花ちゃんは、終始照れたままだった
実を言うと、俺も照れている、まるで付き合い始めた時のように

ふと彼女の表情を見ると、やっぱりどこか寂しそうだ
その寂しさを少しでも和らげてあげたくて―――

「浅花ちゃん」
「…? なんですk――― ~っ…!」

彼女がこっちを向いた時に、そっと唇を重ねた

一瞬驚いたようだけど、すぐに目を閉じて受け入れてくれた

少し長めに重ねてから離したが、まだ物足りなさそうだった
「…もう1回です」

彼女の要望に答えて、もう一度重ねる
今度はいきなりじゃない

「ん…♡」

ついばむようなキス
それが本当に心地よくて、その後も何度も彼女の唇を奪ってしまった

その感覚が、さらに離れたくないと言う感情を加速させた

そしてそのまま、俺達は一緒に残りの時間を過ごしたんだ
その時間を過ごす間に、本当に気持ちが変わって来てしまって―――


あのデートの日から数日後

もう俺の中で答えは決まっている

酷く迷ったけど

本当に悩んで悩んで考え切った末の答えが今自分の中にある




俺はこの世界に残ることにした




それがどんなに許されないことだろうと

どんなに罪深いことだろうと

誰かを傷つけようと、憎まれようと

この世界なら受け入れてくれると思った
受け入れてくれなくても、浅花ちゃんが傍に居てくれる確信があった

それだけで、十分だったんだ

やっぱり、俺は桜風浅花と言う、たった一人の、かけがえのない存在を手放すことなんて出来なかった
つくづく浅はかだなぁと思う、自分で還らなきゃいけないなんて言っておきながら。

つい苦笑してしまう

兄さんも許してくれた、約束は、兄さんも一緒に残ることと―――

「あっ、アオさーんっ♡」

愛し彼女を、護り抜くことだ

「やぁ、浅花ちゃん」
「デート、最後になりませんでしたね」

二人で笑い合う

彼女の笑顔を見ていると、還らなかった後悔なんて微塵もなくなってしまう
それだけ、大切な人になっていた

それに…

「よっ、アオ。お前なら残ると思ってたぜ…全く世話の焼ける奴だ。…由縁だな」
「アーオーッ♡ 残ったんだねー!やったー!良かったぁー♡」

「レインドさん!鳴叶ちゃん!」

浅花ちゃんだけじゃなくて、みんなも居る
そんなこの世界が大好きで、ずっとずっとこの世界に、みんなと居たいとも思った

いつまでも蒼い、この空の下で…願わくば、ずっと、永遠に。



「さ、行きましょうアオさん…もう一度デートに!!」



浅花ちゃんが俺の手を引いてくれる



駆けて行く



自分達の未来(あした)に―――

~Fin~


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最終更新:2019年11月11日 21:37