.
――― とある廃校 ―――
氷冬「ザリ、ザリ、ザリ……(日暮れ。ほの明るい提灯が照らす石畳の道。何もない屋台が参列するその道を、どこか懐かしむように口辺を緩めながら悠然と歩き進んでいく)―――――― ザ ッ … (その先にある開けたグラウンド。中央にそびえ立つ神輿を見上げる。初めて見た時は、天を貫くほどの高さに感じたそれも…今となってはその天辺が見えるような感覚だった)フゥー……(無人の祭り、静かな空間に白くあたたかな吐息を灯す) 」
ヒュォォ……(清冽な空気の流れの中、爽やかとは言い難い、衣類や髪を薙ぐような風が吹きつける)
風が瞬時に過ぎ去ると、別の世界に繋がったかのような錯覚と共に、時空に磔にされていた男が一人、そこに在った
縊鬼「早かったね(以前、邂逅したときと変わらない声色で、彼女に呼び掛ける。光沢な輝きを保つ神輿を、地べたに座って見上げたまま、口元を綻ばせていた)約束、どうだい?しっかり一番になってくれたかな?(外の世界を知らない。だが、彼女の佇まいを見れば分かることだが、敢えて質問を投げかける) 」
氷冬「 フ ワ ァ … ――――(吹き付ける風に烏色の髪がふわりと靡く。その髪が一瞬視界を覆った直後、そこにはいなかったはずの男の姿を確かに捉えた)……ふっ…(可愛らない姿、変わらない声音、変わらない表情に思わず噴き出す。込み上げてくる懐かしさのような感情に耐えきれず表れた笑みをひとつ見せ、彼と向き合った) 」
氷冬「―――― 私が"ここ"にきた。それだけで、答えは十分。(澄み渡るほどに凛とした表情。以前魅せた時よりもその表情は強く、気高く、純粋で…まるで、どこか大人びたようだった)―――― 最後の「約束」を、果たしに来た。(話したいこと、伝えたいこと、胸の中にある感情を吐露したくなる、そんな欲望を抑え込む。なぜなら剣士たるもの、語り合うべき場は口上にあらず―――剣戟の中にあり) 」
縊鬼「……ジャリッ…(グラウンドの土を踏み、ゆっくりと全身を起こす)カチッ……(提灯のみで照らされた、薄暗い風景、静寂な空気。その中で、何かに応えるように鞘を鳴らす)共に語ろう。悠久の神輿の下で 」
氷冬「――――――(どれほど、この瞬間を待ち焦がれていただろうか。刹那のような邂逅から、永遠のような憧憬へ。自らの人生に光を刻んだ目の前の男を前に、これまでの記憶が止めどなく溢れ出した―――) チャキ…―――(親指で鍔を押し鯉口を切る態勢へ) 」
氷冬「……約束の語り合いを、今こそ ―――――「雪桜氷冬」 推して参るッ!!!!(一刀を強く振り抜き、今―――最後の宴へと身を乗り出した) 」
――――― 【LAST REBELLION】 Vs. 縊鬼 ―――――
氷冬「―――――――(足音すら残さない高速歩法で空間を突き抜け)―――― フ ォ ン ッ ! ! (刀を両手に握りしめ切っ先を突きつけたまま刺突を繰り出した) 」
縊鬼「――(抜刀音と共に、刀の衝突が轟く。利き手の右で持つ刀の腹で、彼女の刺突を受け、衝撃を後方へと流す) シ ュ ッ ! (半歩下がりながら、氷冬方面へと袈裟斬りを繰り出すことで、攻防一体の攻撃を仕掛ける) 」
氷冬「ギチッ、ギチ…ッ…(刀身に牙向く刃の切っ先から火花が飛び散っていく)はッ―――― ギャキィンッ ! ! (繰り出された袈裟斬りをしっかりと鋼刃で受け止め…) 一刀流“白夜”…いや――― “白露”!!(瞬間的に刀の持ち手を逆さに変え、突出した柄で彼の刀身を殴ってその身を吹き飛ばす) 」
縊鬼「ガッ!(刀を握る右手ごと、頭上を越えて仰け反る。そして、打ち上げられた右手の、刀を握る強さを弱める。左半身は後方へ飛ぶことはなかったが、右半身に確かな隙が生じる) 」
氷冬「 タ ン ッ ―――― ズ ォ ン ッ ! ! (一歩の踏み込みから間合いを詰め、彼の右半身に生じた隙を見据え、振りかぶった刀を振り下ろした) 」
縊鬼「ストッ(握っていた刀を、ユラリと投げ落とす。投げ落とした先は、地に足付いた左半身の、その掌) ガ イ ン! (隙を付いてきた氷冬へ、ほぼ死角に近い位置取りの、氷冬から見て右からの払うような横薙ぎ。振り下ろした刀の横から、刀をぶつけ、その体勢をまず崩す)グッ(自身の仰け反りかけた右半身を立て直し)シュッ‼(利き手に持ち替え、一歩間合いを詰めて氷冬の体の真下から刀を振り上げる) 」
氷冬「――――!!(これは―――ッ!) ザ キ ィ イ ン ッ ! ! (死角からの刃に自らの刀をいなされ、空間に轟く強い残響と共に体が僅かに飛躍される) ッ ! (すぐさま態勢を整え直した縊鬼の刀が真下から迫るのを感じ取るもその至近距離でいなすこともままならず…) ズ ァ ッ ! ! (急激に体を反って直撃を免れる。衣服は掠め、布の切れ端が宙へと舞い上がった) くっ…スタン…ッ… ! (跳躍後退で距離を保つ) 」
縊鬼「(氷冬の肉を裂かない。手応えの無さを感じ、振り上げた刀は、自身の等身より上には上がらず、急停止する。刀を迅速に下げ)―――――――(足音すら残さない高速歩法、立て直しの時間を与えず、氷冬が着地する寸前に、彼女の目の前へと距離を一気に詰め――) 」
縊鬼「ザンッ!(距離を詰め終えた直後、腹部へ狙いを定めた、力強い左横一閃)――(流れるように、それでいて猛然たる逆袈裟斬り、振り上げた刀に、体重を乗せた唐竹割り、怒涛の連続攻撃をしかける) 」
氷冬「――― つッ゛…!!(詰め寄られ回避も防御も間に合わない。ならばと意気込み、斬撃をその身に許し、腹部から鮮血が舞う)―― “寒凪”(かんなぎ)――(鮮血が飛び散ったその直後、斬り裂かれた部位を撫でるように手で触れるとその手中から冷気が湧きだし傷口を瞬間凍結。)グォンッ――――ギィンッ、ガァンッ、ギャギィィインッ ! ! ! (止血を瞬く間に終えると改めて態勢を立て直す。逆袈裟斬りを受け止め弾き返し、凄まじい剣圧の攻撃を水平に構えた刀で火花を散らしながら受け止めていく) 」
氷冬「 ザキィィ――――ンッ ! ! (振り払うかのように回転斬りを繰り出しながら左足を後ろへ伸ばしながら地面に軌跡を描く、その最中で、二本目の刀を振り抜いた)二刀流・飛出―――“鷹”!!(跳躍し、彼の頭上から体重を乗せ二刀による斬り降ろしを繰り出した) 」
縊鬼「(回転斬りの圧力により、僅か、後方に体を戻す)――(跳躍した彼女を見据え、首を上へ傾ける)(受け切るのは愚策であると判断する。彼女の着地時の間合いを予測し、左足が宙に浮く)ザッ!(地面スレスレに跳躍しながら、彼女の斬り下ろしを横方向に回避)ズッ!(まず左足で着地。軸をつくり、右半身に重力をかけて、着地体勢の氷冬へと、上下に分けた二段突きを仕向ける) 」
氷冬「―――!(斬り下ろす最中、緩慢なる空間の中で回避した彼を静かに流し見―――) ガ ッ ギ ィ イ イ ン ッ ! ! ! (真横からくる上下二閃を、器用な指捌きから縦真っすぐに振り直し切っ先を地面へ。その刀身に斬撃を防ぎきる)ギチィッ…チチジッ… ――――― ニ ッ (右脇から覗く縊鬼の顔を見上げ、口角を上げる) 一寸の隙もないわね。ガギッ…ギギッ… 」
縊鬼「――(表情に変わりはない。しかし、”動”の感情は、刀を通して伝わる)ギギギッ……キンッ!(剣先を離し、彼女の冷血がついた刀身を一度、振り払う)…………(やがて、穏やかな表情で「あぁ」と嬉しそうに小さく口に出す)――(それも束の間、再び刀を強く握ると、今度はこちらから先手を仕掛ける。剣先だけが掠めるような間合いでの、単純でいて正確、華麗な横斬りと、戻しの横斬り)ドッ!(半身程度、跳躍した上空からの振り下げ)ヴォンッ!(上空攻撃を意識させて、着地と同時にしゃがみ姿勢に移行し、姿勢の低い位置からの下段斬り払いを繰り出す) 」
氷冬「(―“鸚鵡”―)――― ギィン、ギィンッ ! ! (縊鬼とほぼ同じ所作で二刀を振るい斬撃を相殺、そして) ギ ィ ン ッ 、ギ ギ ィ ン ッ ! ! (交差した二刀で振り下げをいなし、そのまま両手の手首を捻ることで下段から迫る斬撃さえもなんとか防ぎきる) “鶯”ッ!!(ギャルンッ―――ザウギギギィンッ ! ! ! )(両腕とその手に握られた刀を目一杯伸ばした状態で側転の如く回転しながら突進する) 」
縊鬼「(鉄のぶつかり合う轟々しい音が鳴り響く。氷冬が一度の回転で繰り出す剣戟を、全て一刀にて応える。後方に下がりながら、自身に向かってくる無数の刃を、丁寧に斬り落としていく)――(後手後手な状況が続くも、その回転攻撃が病むその時まで、大きく隙を作らずに対抗し続ける) 」
氷冬「ギィンッ、ガァンッ、ギィン、ギンッ ―――――(やっぱり、そうだ―――今まで相対してきた剣豪たち、みなそれぞれに異なる「剣」を持っていた。そのどれもが確かな力を持っていた…まるで、その剣士(もの)の信念であるかのように)ギィンッ、ガァンッ、ギンギンギンッ――――(だけどこの男、この男の「それ」は、とてつもなく強い。雑念もない、躊躇もない。無駄がなく、完璧なほどに洗練された「剣」。世界を通じて、改めて気づいた…この男こそ――――)――― く ぅ ッ ! ! (最後の回転と共に勢いよく斬り降ろし、縊鬼を吹き飛ばす) 」
縊鬼「(最後の一撃の初動を見据える。感情の乗った、強い一撃であることが分かった。真摯に受け止めるべく、刀背に左手を添え、両手で対応する) ズ サ ァ ァ ァ ッ ッ ! (二つの軌跡が残るよう、地面は抉れ、砂煙をあげる)……チャキッ……(構えらしいものはない。だが、腰を落とし、次の剣戟を待つ、ただ刀を握った男は、真剣に笑った) 」
氷冬「スゥ…フゥ……――――― ふふっ…(攻撃を終え、深呼吸を一つ。僅かな砂塵が舞う中、互いに笑い合う。その笑みの真意を悟ったのか)ススス…スチャン… ! (二刀を納刀、そして…)―――― ジ ャ キ ィ ン ッ ! ! ! ! (ついに四刀を振り抜き、腰を据えるように深く構えた) 」
縊鬼「――『幻想尺陣派梟玥剣』――(一刀、振り払う。氷冬の抜刀に対し、自身の流派を零す)行こうか――(口上は短く、再び想いを刀に乗せ、距離の空いた氷冬へと、切先を向けながら駆け出す) 」
氷冬「(過去に二度、刃を交えた剣豪。しかしその刃に纏う剣圧がこれまでとは異を成していることを、空気を介して肌身に伝わり、理解する) 四刀流―――――― ダ ッ ! ! (今まで見せた剣技は通用しない。ならばと身を乗り出し、縊鬼と同じタイミングで駆けだした) 」
縊鬼「ザザァッ!(距離を詰めると、両足を地につけ、重石のような圧力で全身を固める。姿勢の低い位置から、居合のような構えから繰り出される前方への横斬り。初撃を終えると、四刀の反撃を受けぬように、再度攻撃へと転じる)ズォッ!(全身の力を抜き、次は品やかな中段右回転斬り)ブオンッ!(勢いを乗せたままもう一回転、跳躍しながらの斬り上げ)ギャインッ!!(滞空状態から、縦に回転した力強い振り下げ)シュッシュッ!(着地の隙を誤魔化す、前方への十字斬り) 」
氷冬「つッ―――― ガ ギ ャ ァ ン ッ ! ! ! (前方から迫る横切りを片手の二刀で受け流し――)うッ――― ギ ギ ィ ン ッ ! ! (続く二撃目をもう片方の二刀で弾き返す)クルンッ――― ギ ィ イ゛ ン゛ ッ゛ ! ! ! (片手、二刀を握る指の動きを緩めながら手中で二本の刀の向きを変え、まるで薙刀のように持ち替えて回転斬りを弾いた後――) ギィンッ、ガァンッ――――(…動きが、しなやかすぎる…!!)(もはや重力さえも無視した異例の剣術に圧倒されていく)なん、のぉッ…!!“滅終”ッ!!(十字の斬撃に、×字の斬撃を繰り出して相殺) 」
氷冬「―――― ズザザザァー…ッ… ! ! (斬撃の衝突による衝撃で舞い上がる硝煙を振り払いながら身を翻し、再び縊鬼と相対するように構え直す) 」
縊鬼「――(全て受け切り、再び向かい合う氷冬を、暗闇が立ち込めてきた空間で、しっかりと見据える)――(氷冬を視界に収めながら、自身の刃先を中指の背で沿う)――――「そうかい」……(何処となく、嬉し気な声をあげる。自身の『剛』の立ち回りの一部を、彼女は『柔』で流し切った。これは、以前の邂逅では逆の立場であったことから来る感動だった) 」
氷冬「……はぁ……はぁ…っ…(呼吸を整える。一歩踏み外せば、首を落とされるかもしれない緊迫した空気。だが、それであればこそ、本気の語り合い。今更ではない。誰を相手にしてもそうだったように…はじめから、少女は「語り合い」に全力だった)はぁ……はぁ………――――(口元の端を歪めて薄い笑みをつくる)――― “錐・卍・射・路”ッ!!(全身を最大に捻り、四刀を力強く振るうことで放たれる、鋭く研ぎ澄まされた衝撃斬が台風の如く徐々に勢いを増しながら縊鬼へと襲い掛かる) 」
縊鬼「ガッ(氷冬の回転の初動で、自身の足元の地面に、刀を傾斜に突き刺す)ド ッ ゴ ォ ! (地面を大きく抉る。人ひとり隠すには十分すぎる、岩のような地盤を掘り出し、衝撃斬への防壁を作り上げる)ドッ!(その防壁を前方へと斬り飛ばし、衝撃斬へと衝突させ、勢いを殺す)――ッ!(衝撃斬へのとどめに、自ら剣を大きく振り下ろし、それを相殺する) 」
氷冬「―――!?(刀によって隆起した地面に衝撃斬を遮られ驚愕の目を露わにする)……っ…(最大限の衝撃斬を完封され絶句。そして高鳴る鼓動、武者震い―――)なら――― 阿武神武…(前傾から回転で虚空を薙ぎ払いながら、その刀身に凍てつく波動を纏い―――)――――“解凍乱舞”(かいとうらんま)ッ!!(舞うような回転斬りと共に繰り出されたのは、凍てつく斬撃の礫。四方八方へとそれらをまき散らしながら、本体である自分はそのまま突撃へと乗り出した) 」
縊鬼「カチッ(即座に納刀)ギャリギャリギャリギャリ!!!(虚空に居合斬りを繰り出す。刃先を鞘に高速で擦り、摩擦による耳を攻撃する抜刀音と共に、刀身には、瞬時に燃え盛る炎が宿る)ツツーッ(炎を纏った刀を、僅か指先の間だけを空けて、密閉させないように納刀する)┣” ヴ 了 ン ッ ! !!(再び居合にて抜刀すると、次は耳を聾する炸裂音がなる。圧縮した空気と、剣先の炎が反応し、瞬間的に氷を解かす爆発で周囲の零世界を平温に戻す)ガインッ!!(炎を纏ったままの刀で、氷冬の突撃を受け切るが、引火の動作で後れをとり、彼女の突刺を往なしきれず、左肩を抉る) 」
縊鬼「ドッ!(肉薄した彼女の視線を見据え、前蹴りを繰り出し彼女を遠ざける) 」
氷冬「 ッ゛ ―――!!?(炎を纏う斬撃。それは、氷冬自身が最も苦手としていた剣術。運良くも、今の今までその剣技を得手とする剣豪とは刃を交えたことはなかった。しかし、今まさに乗り超えんとする相手こそが、"宿敵"であると同時に"天敵"であったことに酷く仰天する)きゃふん…ッ……!!(燃え滾る焔の剣に自らの得意剣技を容易く粉砕され、大きな隙が生じる。蹴りがめり込んだ腹部に痛みを感じた頃には既に宙を舞い、残火が残る大地の上へと転がり倒れる) 」
氷冬「…っ……はぁ…はぁ……はぁ…ッ……!(残火に囲まれゆっくりと立ち上がる。荒い喘鳴と共に流れる汗。空間を熱する火炎によって、人一倍熱を感じやすい氷冬から尋常ではない汗が滝のように滴り落ちていく)…ガク……ガクガク……ッ…(刀を握る手汗の量も同様。どんなに意識を込めようとしても、僅かな衝撃でその刀すら弾き飛ばされそうなほど、握力さえも無力に等しくなっていく。そんな、最悪の状況下であるにもかかわらず…)……はぁ…はぁ……は、ははは…っ……(今も尚、笑っている。熱や痛みによって体力がそぎ落とされようと、その表情だけは依然崩れることを知らない…) 」
縊鬼「――(小さく呼吸を整える。自身の傷口がどれ程のものか、指で確かめる)――(燃え盛る炎を剣を一振り、そして奥まで納刀する)チンッ……(ゆっくりと、刀を鳴らし、状態を確認しながら抜刀する。刀に纏っていた炎は、鞘の中で鎮火させ、熱を帯びた刀へ戻った)……(そして、目の前で喜ぶ氷冬へと再び対峙する。視線を合わせ、その気力で立つ彼女の隙を探す目をしている)――氷冬――(不必要に言葉を発さなかったこの戦いで、彼は彼女を呼称する) 」
氷冬「…はぁ……はぁ………―――――― ? (その呼びかけに、少女は傾げる) 」
縊鬼「外の世界(十刀剣武祭)は、楽しかったかい? 」
縊鬼「君の物語(閃劇のリベリオン)は、良いものだったかい? 」
縊鬼「君の口から、僕に聞かせてほしい。刀だけではなく、言葉で「語」を(呼吸を整え終える。そして、剣戟の最中で語る言葉とは裏腹に、その目には変わらず、刀を持つ男の剣技に生き続けてきた目を宿したままである) 」
氷冬「 ! ! ! ! (縊鬼から放たれた言葉。傍から見れば、なんてことのない言葉かもしれない。だが…)…… ツ ゥ ……―――――― ポ タ …… (その言葉に、淡く透明な感情が、溢れ出してくる――――) 」
氷冬「……縊鬼……わた、し…ね……ポタ……ほんとは、ずっと………――――― "寒かったんだ"…っ……ポタ… 」
氷冬「…ポタ、ポタ……生まれた時、何も見えないくらい、すごい吹雪が吹き荒れる氷山の中で……ずっと、ひとりぼっちだった……山を下るのも怖くて…登る勇気さえなくて…ずっと、吹雪の中を…彷徨って、彷徨って、彷徨い続けた…… 」
遠い記憶―――― 白銀と呼べば美しい響きに聞こえるであろう。だが、止めどなく吹き付ける吹雪の嵐は、勢いを増して黒く、黒く渦巻いていた。
氷冬「名前も顔も知らない両親を…呼び続けた……返ってくるのは、ただ、吹雪の音……ポタ… 」
分厚い白絨毯に小さな足跡を残しながら、光の差さない暴風雪の中を歩き続ける少女。声は吹雪に無慈悲にもかき消され、彼女の声は空にすら響かない。
氷冬「つめたくて……さむくて……こごえて……ポタ、ポタ…ポタ……ここで、誰にも気づかれず…いなくなるのかなって…… 」
視界が朦朧となっていく少女。その瞳が完全に閉ざされる直前、ふと、誰かの声が聞こえた気がした…
氷冬「…でも…どんなにつらくても、ひとつだけ…たったひとつだけ……願っていたものがあったの… 」
暗がりの闇を照らす小さな灯火。あまりにも小さいが、初めて少女が目にしたその火は、凍てついたその心を溶かすほどに、とてもあたたかなものだった…
氷冬「…ポタ………"あたたかくなりたかった"…っ……ぅ……ッ…… 」
小さな頭に乗せられた大きな掌。初めて感じた人肌の温もり。
氷冬「…その望みを抱き続けていたら…あたたかい光が、ようやく差し込んできた…グス……それから、いろいろあってね…ポタ、ポタ……強くなるために剣士になった…そして、いろんな人と出会い――――― 」
強さを知った――――(ルドゥラの像が)
弱さを知った――――(雛菊の像が)
快さを知った――――(ASの像が)
痛さを知った――――(クロリアーの像が)
そして…温かさを知った――――(フーナとスカーフィという二人の親友、銀閣という初めて刃を交わした男、そして…オリヴィエ、ユキ、シグマ、白鷲などをはじめとした…刀剣武祭を通じて出会ってきたすべての者たちの像が、次々と、浮かび上がってくる)
氷冬「…生まれて孤独(ひとり)だった私に、剣を通じて…みんなからたくさんのものを貰った…っ……!…どれもこれもが、私にはとても大切な…"ぬくもり"だった…楽しかったよ…っ…嬉しかったよ…ほんとうに、よかったよ……(ぼろぼろと零れる雪結晶のような雫が、乾いた大地を潤し、凍てつかせていく) 」
氷冬「(そして、潤んだ瞳に縊鬼を映し…)―――――― あなたに会えたことも…(雪女と称された彼女のその瞳は、あたたかさを帯びていたようだった) 」
縊鬼「……(そのあたたかさに、刀人は”やられた”)……(一寸も、油断も、隙も晒さなかった男が、普段の笑みではなく、親が子を見守るような、優しい笑みで彼女の軌跡を感じ取る)……ありがとう。君と『語』らい、これから「生きる夢」を見いだせた。君の『語』りで、「生きてきた思い出」を感じ取れた……刀も、言葉も、あらゆる面での感情を、分け与えてくれた(「ザッ」と足を鳴らす。それは、まだ終わっていないことを示唆した開幕の合図)でも、結局僕が出来ることは、「これ」だけさ。だから、君の「生きる夢」に、一つ、僕から贈るよ―― 」
縊鬼「カチッ(刀を鳴らし、氷冬を見据える) 」
氷冬「……! グシグシ…(ふとした時、今はまだ戦いの真っ最中だと気づく。ぐちゃぐちゃに歪んだ視界を腕でごしごしと拭い去る)………(その凛とした瞳に、一切の躊躇いや弱さはもう、ない――――)… ス ゥ ゥ ゥ ……―――――――(深く、深く、もっと深く、息を吸い続ける) 」
氷冬「…一因、二言、三革、四虚、五罪、六禁、七癖、八災……天下の万象混す危懼浄めし剣舞、四荒八極を渉り皎皎軌跡を刻む ―――― 」
ピキンッ…パキャンッ……パキパキィィ…ッ……パキャァアァ…ッ…… ! ! ! ! (グランドが、廃校が、祭壇が、すべてが白く凍てつき始めてゆく――――)
氷冬「――――――――― 《 八 舞 》…いや… ―――――――――(その爪先が、髪先が、肌身が、白く染まる様に凍り付いていく――――) 」
―――――――― ≪ 四 至 八 舞 ≫ ――――――――
―――― パ キ ィ ィ ィ ン ッ ! ! ! ! ――――
熱を帯びた空間が白く染まる。空が、風が、空気が、すべてのものが凍り付く絶対零度の世界―――――
氷冬(四至八舞)「 シ ュ ゥ ゥ ゥ ゥ … ッ … ! ! ! ! (完成された刀剣覚醒…今、その姿が完全なものとして露わとなる。 白く染まりゆく眼…否、それだけではない。肌も、爪も、唇も、そして、麗しい烏髪さえも、真っ白に染まる。その秀麗皎潔たる相貌、まさしく―――― 「 雪女 」 ) 」
氷冬(四至八舞)「…「八舞」を越えた悟りの境地…それが…―――― 《 四 至 八 舞 》(しにいたるやまい)。 この名前の通り…一度でも使えば、きっと私は「死」に至るかもしれない。けれど…たとえ、それでも…―――――――― 私は死ぬ気であなたとッ、最後まで本気で"語り合い"たいから…ッ……!!!!(怯えもしない、迷いもない。すべてが純白に透き通った心眼に、大いなる決意を抱く) 」
シ ュ ル リ …―――――― (命、刀…それらと同じくらい大切にしていた氷冬のマフラーが、空へと舞い上がる。紺碧の布地から彼女の真っ白な首が露わとなった―――)
縊鬼「(氷の世界に、形を残す神輿の下、口を開く)我は『幻想尺陣派梟玥剣』免許皆伝、流浪の武士。万象の頂を、あらゆる壱(いち)を斬らんとする名の無い無法者なり。さぁ、いざやいざ。刀に生き、死に臨んだ刃の一撃を、お見せしよう(決意を前に、生前から口にしたことのない、一世一代の名乗りをあげる)チャキッ……(絶対零度の固有世界。身体を蝕む感触は、最早感じることはなかった。腰を落とし、彼が出来うる限りの、最大限攻撃に転じた構えに移行する)いざッ!(足元では氷を蹴散らす音を、手元で鉄の塊を揺らす音を、冷たくも、生が燃える世界で、奏でて走る) 」
氷冬(四至八舞)「――――――(強かな"生"の気が迸る、世界最強の剣豪を前に、少女はかつてない高揚感の"火"をその胸に灯す) ス ゥ … ―――― "四刀流"の『 雪桜氷冬 』。 参るッ!!(春夏秋冬を司る四本の刀を振るう剣士―――"雪中四友"の氷冬。己が"刃"で、最後の閃劇にその軌跡を刻まんと駆け抜けた) 」
――――――― ギ ャ ギ ィ ィ ィ ィ イ イ イ イ イ イ ン ッ ! ! ! ! ―――――――(氷冬と縊鬼―――互いの意思を乗せた"刃"が、激しくぶつかり合う。結晶と火花が飛び交い、衝撃が空間を貫き、真っ白な硝煙が空へと舞う)
氷冬(四至八舞)「 ギギッ…ガギギィンッ…… ! ! ! ガ ッ ―――― ギ ャ ン ッ ! ! (拮抗する鍔迫り合いの中、愚直にも真っすぐに眼前の男の瞳を見据える。刀を振るって弾き返し、瞬間的にその姿を消したと思えば)――――― ブ ワ ア ァ ッ ! ! ! (瞬く間に白い空へと飛び上がり、緩慢化された時空の中、宙で彼を待ち構えていた) 」
縊鬼「タンッ!(経験のない戦。されど、そこに飛び込む恐怖はなかった。身体を宙に任せ、飛び上がり)ギャインッッ!(接近と同時に繰り出す剣戟、滞空した状態での鍔迫り合いに、幾度となく交わる乱撃)キンッ!(空中で数度、刀を交え、宙返りで距離を取る。地に足はついていないが、体はその重心や軸を、この環境ですら制御させており、地上と変わらぬ構えを見せた) 」
氷冬(四至八舞)「でぅッ!!! ギュルルルルッ ! ! ギャギャギャキィーーンッ ! ! ! ! (激しく全身を捻り、空中へと乗り出した縊鬼を迎え討たんと激しく振るい拮抗する) ド ゥ ッ ―――― ド ゥ ッ ―― ド ゥ ッ ――――!(虚空を蹴り上げ、滑るように駆け抜けていく中で、凍てつく風に吹かれ滑らかな白銀色の光沢を放つ髪が美しく靡く) 二ノ段――“ 遊 味 ”(あそみ)ッ!! ズ ッ ッ ッ オ ン ッ ! ! ! (目にも留まらぬ神速な剣裁きから繰り出される無数の斬撃。複雑起動を描きながら斬撃はあたかも閃光の如く飛び交い、縊鬼の一点を目掛け集中突撃する) 」
縊鬼「キンッキンッ!!(視界に収まる剣戟は、全て斬り落とす。しかし、致命傷に至らない攻撃は、全て受け切るしかなかった。攻守共に、隙の無い流派を会得している彼が、斬られる妥協をするほどまでに、氷冬の語りは強かった)ザッ!(攻勢を取り戻すべく、こちらも前のめりに前進し)一刀流『天神』(隙間のような時間、帯刀する。繰り出した居合は、氷冬へと襲い掛かり空間を裂くような轟音と共に見えない横一閃の剣戟を繰り出す) 」
氷冬(四至八舞)「――――――ッ゛!(かつて己が彼に繰り出した剣技。しかし、自分が行うものとは比較できないほどの凄まじい剣圧に耐えきれず、その一閃に華奢な体が抉られるように切り裂かれる)パキパキパキィ…ッ……(斬られた部位が瞬間的に凍結していく。血に滲む赤さえも白く染まる彼女の冷気は、今もなお更に異常な氷点下を刻んでいった) 」
氷冬(四至八舞)「六ノ段―――“ 愛 深 ”(おみ)ッ!! ガ ッ ―――― ギ ャ ア ァ ン ッ ! ! ! ! (四刀の頭(かしら)(※持ち手の先端)を合わせ、四本で一つの十字の形を成す) フ ァ ル ル ル ル ル ッ ―――― ド ギ ュ ア ア ァ ァ ア ア ア ッ ! ! ! ! (合わさった四刀を風車の様に豪快に振り回すと、大地さえも穿つほどの超強力な剣圧の突風を解き放つ。それはまるで神の槍であるかの如く、勢いを増して飛んでゆくが――――)――――ッ!?(足をしっかり地面につけていないこともあってか、その強大な力の反動によって狙いがズレてしまい、縊鬼へと放ったそれはそのまま彼に直撃せず、大地へと炸裂した」
ズ ッ ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ン ッ ! ! ! ! ! (空中より放たれ落ちた神槍の剣圧が、轟音と共に大地に大穴を開けた)
縊鬼「――(涼しい、とまではいかないが、下で起きた惨劇を、表情を変えずに認識する)シュッ!(外したものを気にする必要はない。氷冬へと距離を縮め、再度得意な間合いで剣を振り合いを起こす)ザンッ!(そして狙うは、彼女の被斬撃部位、より深い傷に抉ろうと、執拗に傷を狙った剣戟を見せる) 」
氷冬(四至八舞)「 ッ……!(『八舞』を越えた境地…―――― ここから先は私もどうなるかわからない…でも…今は、今だけは…――――ッ!!)―――― ただこの"瞬間"を楽しみたいッ!!(再び剣戟に躍り出る) 」
氷冬(四至八舞)「…五ノ段―――― “ 満 視 ”(みちのし)――――(その直後、縊鬼の斬撃に次々と体を刻まれ、更なる深い傷を負う――――「未来」を見た) フォンッ、フォンッ… ! ! ギッ、ガギィィインッ ! ! ギャンッ、ギィンッ ! ! ! (彼女の透明に透き通った瞳は本当に未来さえも透かすのだろうか。あり得ない反射神経で縊鬼の斬撃を、その軌道を看破し、身を反って避けたり四刀で受け流し、弾き返していく) 」
ピキキンッ…パキ…ッ……パキャ…ッ……(氷冬の白い肌身から凍える冷気が零れていく)
縊鬼「――(異常の一言に尽きる程、通らなくなった自身の剣戟、加速する彼女の舞。より、版画じみた冬景色となる世界)カンッ!!(通らぬ攻撃ならば、押し通す。その防御壁を貫くべく、叩きつける一閃を、両の手で繰り出す) 」
氷冬(四至八舞)「 ヅ ッ゛ ッ゛ ! ! ! ( ガ ッ ――――― ギ ィ ン ッ ! ! ! )(叩きつけるような渾身の一閃が目前より迫り、咄嗟的に振り抜いた四刀でしっかり受け止めていくが…)ギギギギッ…――― かはッ…!! ズザザザザァー…ッ… ! ! ! (その技量に圧倒されて吹き飛び、ついに地へと降り立った) 」
縊鬼「スタッ!(自身も、鏡一面の白い景色に降り立ち、刀に凍りついた露を払い落とす)――(払い落とす、その動作の際、自身の腕の痺れを感じる。この雪景色のせいではなく、立ち会った彼女の剣技に、腕の神経が逝かれつつあった) 」
氷冬(四至八舞)「スゥ…はぁぁぁ……―――― ピキッ…パキパキィ…ッ……( 「強い」――― 相対する剣豪に、ただその一言に尽きる。深く、より深く呼吸を行う度に髪の毛の一本一本さえも凝固されるかのように凍結して始めていく) 受け止めて、私の剣を… 包み込んで、裸の私を… 紡いで、私たちの軌跡を……ッ…!!(四刀を納刀し、居合抜きの態勢へ入る。それは、彼女が繰り出す"最後"の剣技――――) 」
縊鬼…あなたに出会えて、本当に良かった。……あなたが"最後"で…良かった…――――
氷冬(四至八舞)「 ガ ッ ! ! ! ! (指先に、瞳に、心臓に、全神経を集中させ、縊鬼と最後の対峙へ――――) 」
縊鬼「(己に感じる力を、握りしめている刀に注ぐ。相対する、命の凍える少女へ、賛美を贈るために)『万死一生』(彼の有する、最も”強い”剣技を、披露する) 」
氷冬(四至八舞)「―――― 死(う)せて又生くと思ひぬ夢なりき静闇の祭壇。此身(このみ)を磔(き)に架け廻(めぐ)り、蝋の火を點(とも)して念ず。待たるるは穢れなき聲の耀き、欲するは純血焦がす劔の閃き。 」
氷冬(四至八舞)「煌々日輪に縊(くび)れた鬼の肉(ししむら)と魂魄、暁(あけ)の星に叫(たけ)ぶ…ッ……!!(時間に、空間に、磔にされた男に架せられた運命から、今―――― 解き放つため、この身を捧げるかのように飛び出した) 」
氷冬(四至八舞)「八 色 之 姓 最 終 奥 義 ・ 八 ノ 段 ――――― ッ ! ! ! !(物語に、決着に……そして、人生に"終わり"を告げる―――――) 」
――――――――― “ 縊 凪 ” ――――――――――
閃劇の舞台に一筋の光が強く、大きく瞬く。光はみるみると空間を、時間を、万象を包み込み、そして―――――
ザ キ ィ ―――――――――― 永久の時空が斬り裂かれ、失われた時間が、再び呼び覚まされる ――――――――― ン … ッ … ! ! ! !
真白に染まる祭壇は、やがて元の鮮やかさを取り戻すかのように色づいていく。相も変わらず人の気配はない、とても閑散とした雰囲気だったが…その空間はどこか、息を吹き返したようなあたたかさに満ちていた。
氷冬「―――――――――……………(空へと届いた残響がついに消えた時、凪いだ風が再び吹き付けるように彼女の横紙を優しく撫でるように揺らした)…………(刀を振り抜いたまま微動だにせず、背後の男の息の根にただ、耳を傾けるかのように瞳を閉ざしている) 」
縊鬼「――(景色の色どりと共に、男の体には、紅い鮮血が動き始め、温暖を取り戻し始める)……(握り終えた刀を、納刀せず、溶け切っていない地面に突き刺す)……聞こえるかい(鼓動は鳴りやまなかった。暖の感じる風に、生死の境目となった鉄の匂い。それらが、男を生かしている音だった) 」
氷冬「…………ええ。(彼女もまた、自らの四本の刀を地面に突き刺し、振り返ることなく強かに答える)……キィ……ピキ……ッ…… 」
縊鬼「そうかい。それなら、よかったよ(声色は、剣戟最中から戻らず、依然として凛としている)……君は、また凍えてしまうのかい?(振り返り、固定されている彼女の髪先から、その後ろ姿を、目で捉える) 」
氷冬「……ねぇ、縊鬼…?(彼のその問いを無理やり押し退けるように、半ば強引に、今度は自ら問いかける)……私ね…本当に、嬉しかったわ……パ…キ……ッ…あなたに出会えて…「世界」を知って…ピ、キ……ッ……たくさんの出会いができ、て…… 」
氷冬「…こんなに……こんなにも、「世界」が温かかったなんて……ピキッ……ッッ……知らなかった………パキン…パキ…ッ… 」
氷冬「………キキッ……ン………ああ、もう……ピキ…パキ……しあわせだ…よ……パキパキィ…ッ………ピキパキィ…ッ…… ! ! 」
氷冬「――――――――― "あり…がと……" ――――――――― 」
氷冬 → 氷像「―――――――――― パ キ ャ ア ァ ン ッ ! ! ! ! ――――――――――(命の灯が潰え、彼女の肉体は瞬く間に「氷像」となる―――) 」
冰姿雪魄の雪女はもう動かない。氷漬けとなった彼女は自らが放つ冷気が限度を超え、ついに己さえも完全に凍結してしまったのだ。
体の芯から心臓の奥深くまで、あるいはこれまでの記憶さえも。永遠に、溶けることのない極寒の狭間へと眠る―――――
フ ワ ァ … ――――― パ サ … (空の果てから、紺碧色のマフラーがひらひらと木の葉のように、縊鬼のもとへと落ちてくる―――)
縊鬼「………………… 」
縊鬼「…………………… 」
縊鬼「…………(慣れない手つきで、その”あたたかな”マフラーを、右掌に乗せる)…………(そのマフラーから、その嘗ての所有者たちの、思いを感じ取った)……氷冬……君の事をたくさん、知ることが出来たよ。幸せそうな君、楽しそうな君、恥ずかし気な君……どれも、僕の止まった時を動かす時計だった―― 」
縊鬼「そこには嘘偽りはない。正直な気持ちで、僕と語ったね。生きてきたんだね…… 」
縊鬼「君の『裸』を、見せてくれたんだね…… 」
縊鬼「でもね、氷冬。僕は思うんだ。こうして『世界』を知れて、最「後」まで満足のいく語り合いが出来たんだ。その後があったって、いいんじゃないか 」
縊鬼「約束を守り切って、それでお終いなんて、勿体無い。夢を叶えてお終いも、勿体無い。『「忘れていたキミ」を思い出せた』その先を…… 」
縊鬼「『俺』と一緒に追いかけたって、いいんじゃないか……(ぎこちない微笑みを、凍り付いた彼女の正面で見せる)凍っていたら、それが出来ないだろ?君は、”あたたかさ”を、知ったんだろう(マフラーから感じ取った思いを、彼は口にする。そして、そのマフラーを、崩れてしまいそうな氷像の首元に、不器用に、優しく巻いていく)だから氷冬、これから先も―― 」
縊鬼「君の『裸』を見せてくれないか(凍り付いた彼女の頬を、左手で撫で、幸せそうに凍えた彼女の口に、自らの唇を重ね、そっと抱きしめた) 」
彼が氷像に口付けを交わしてから、時間はゆるやかに流れていく。
カチ…コチ…カチ…コチ……――――(廃校の一室。ずっと止まったままだった時計の針が動き出していく)
決して溶ける気配を見せなかった氷像から、じわり、じわりと…水滴が滴り落ちていく。その真っ白な表面がやがて色づき、赤みを帯びて肌色を成していく。
あたたかな愛が、今度は彼女の止まった時間を取り戻していく――――
氷像 → 氷冬「―――――――――――…………い…づ………き……?(ぴくりと小刻みに動き出した少女の瞳が一度だけ、ゆっくりと瞬いた) 」
縊鬼「――ありがとう(マフラーから伝わった、伝道者へ、小さく呟く)――あたたかいね、君(安堵を込めた、優しい声色。鼓動を感じる。その嬉しさに、彼女を抱きしめる力を、僅かに強めた)……僕が何を言っていたのか、聞こえていたかい? 」
氷冬「……(随分使い古さるされたボロボロのマフラーを片手でぎゅうと強く握りしめる)……ちょっ…いづ…っ……!? ////(親友から抱きしめられることは多々あったが、異性にそうされるのは未経験故か、彼女の色白い肌がほんのりと赤く染まってゆく) 」
氷冬「……ふふっ…… …さぁ~…ねっ? に っ (その耳元に悪戯っぽい声音で応える。抱きしめている彼には当然見えるよしもなかったが…それは、彼女が、彼女自身の人生で初めて見せた…「女性」としての眩しい笑顔だった――――) 」
――――― 刀剣(けん)とは何か、剣士とは何か、力とは何か、強さとは何か ――――
――――― 明確な答など、駆け出したばかりの今じゃまだまだ分からない ―――――
――――― けれど、いつかは分かり「きれる」時が必ず来ると信じている ―――――
――――― はじめからそうだった、斬れないものなんて何もない ―――――
――――― 悲哀も、躊躇も、憤怒も、恐怖も、後悔も、大きな罪でさえも… ―――――
――――― はじめから、すべてを払い斬れる"刃"を私たちは持っていたのだから ―――――
――――― 決して折れることのない、確かにそこにある、強かな"刃"《 信念 》を ―――――
時間を取り戻した廃校のグラウンドに、陽光が差し込む。光は大地に突き刺さった刀に反射し、眩い輝きを放っていく。
閃劇の幕が下り、そして…ここから新たな嬉劇の幕が上がる――――
――――― 忘れることのないように、その想いを胸に深く刻み込んで ―――――
―――――― 斬り進め、己が"刃"と共に ――――――
―――― 閃 劇 の リ ベ リ オ ン ――――
――――― f i n . ―――――
最終更新:2021年08月04日 15:24