–––悪魔城––– 【戦闘ログ⑦】




–––––––ありがとう、私を”人間として”認めてくれて。きっとこの先、あなた以外に許すことができない。私がヒトであることを、私をヒトとして認めてくれることを許せるのはあなたしかいない

–––––––なぜなら、あなたしか”私”を見つけてくれなかったのだから




    ー悪魔城ー
 【Crimson Overture】

     Round 6
  –– Bloody Gil ––



–––––– ガ コ ォ   ォォ ン ッ 



重厚な大門の音が暗がりを切り裂く。”彼女が”きりで包まれた廊下の先に辿り着いたのは夜光を取り入れたガラス張りのダンスホール。照明は沈黙し月明かりのみが全体を冷たく照らし出し、中央の大時計が鼓動を刻んでいる


イナ「――――――っ……… コツ…… コツ…… コツ……。(幻想的な空間にはっと息を呑んで目を見開き、その圧倒的な存在感で目を引く大時計を見ながらゆっくりと歩を進める) 」


–––– 【アントラクス城】へようこそ


ジゼル「(沈黙を破りダンスホールに木霊する耳に覚えのある女性声)––––カザマ イナ(月光を浴び陰を落とす踊り場付き両返し階段を一歩一歩、冷徹なヒールの音を響かせて降り暗がりから姿を表す。銀色の瞳にイナの姿を捉えると、満ち足る殺気とは対照的な冷笑を浮かべイナを見下ろす)あなたが最初にここへ導かれるとはね 」




イナ「 ピクッ ―――(顔を上げ、聞き覚えのある声の主を捉える)……アンタは。(冒頭に出会って戦闘した記憶が脳裏をよぎっていく)運が良いんだか、悪いんだか…どうやらそうみたいだな(ジゼルの殺気に一歩も引かず、険しい面持ちでジゼルを見やる) 」

ジゼル「 コツッ (一歩、また一歩一段一段に威圧を込めて階段を降り踊り場に降り立ち、大時計を背にイナと真っ向から向かい合う。最初に遭遇した時のような礼節の気も荒れ狂う怒りもない。ただ鞘に納めたかのような殺気を潜ませ)–––––して、御用件は。ただただ頭数を揃えて我々の居城へおいでになったなどと……奇譚な事は仰らないでしょうね 」

イナ「はっ、そんなヤンキーのお礼参りみたいなことはしねーよ。もう不良は卒業したんでな(肩を竦めながら、ポケットに手を突っ込み、)―――――オレはキャロルに渡したいものがあって、ここへ来た。(かさ、と音を鳴らして小さな紙袋を取り出す)―――代わりに渡してやるやんて野暮なことは言ってくれるなよ。オレが渡さなきゃ意味がねえ。(まさに『奇譚な事』を堂々と言ってのけ、再び紙袋をポケットへしまう) 」

ジゼル「–––––ああ、なるほど(一瞬、さも忌むべき者に対して向ける射殺すような眼光を瞬かせ、それをまぶたで覆うように目を細めて笑みを張り付かせ)そういえばおキャロル嬢様の”お友達”なんだとか。大変……大変喜ばしいことです。さぞ喜ばれることでしょうが……生憎、本日はその姉上、リズお嬢様と大事なお話で取り込んでおりますのでお会いできません(【お友達】という単語を特別劣情が見え隠れするイントネーションで発し、心の底から残念そうに目を伏せるが)けれどご安心を。要は”手”渡せば良いのでしょう? であれば––––––– 」

ジゼル「(微笑みで閉ざしていた瞳が薄く見開く、まぶたの陰からが【歯車】を埋め込まれた紅い水晶玉のような瞳が閃光を放ち)–––––– 首 は い ら な い <不要> で し ょ う 。 (その刹那に至るまで丸腰だったにも関わらず、扇状に連なるナイフを両手に携え、一切の笑みをも葬り去り、地を蹴って月光を背に中空へ舞った) 」




イナ「っっ――――――――(ジゼルが吐き捨てたあまりに残酷な言葉に、まるで我を忘れたように魔素の奔流がイナを覆う)――――お前はぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!! ガ ァ ア ン ッ !!!(純白の大盾を床に突き立て、空へ舞ったジゼルを睨みつける) 」

ジゼル「(––––––当然、そうくるでしょう)  フ ォ ン  ッ   (イナの咆哮に対し顔色秘湯変えずナイフを拡散させるようにして投擲する。彼女ののスローイングは正確に回転させず投げられるようになったという程度で正確な狙いには程遠く)ガガッガガッギィンッズガガガ(その殆どがイナの周囲の床に突き立てられるか盾に衝突し刃を拉て落下するかだったが–––––) ヴ ォ ン ッ (イナの目に、赤と緑が螺旋状に絡まるような光が刹那的に垣間見えたかと思えば、ジゼルの姿は中空から消失し) 」

ジゼル「ヒ ュ  オ ッ (イナより50cm前方に、背を見せるようにして状態を捻りながら滑空し、イナより頭一つ分上から細身のサーベルを振りかぶるジゼルの姿があった)–––––【あなたの未来は私のもの。何を”選択”しようがここで死ぬ、それだけを理解すればいい】 」

イナ「カキャンカキンッ―――(大した事ない、このままイージスで押し込んで―――)――っ!?どこへいったッ!?(ナイフを弾き落とし、行動を開始しようとした刹那。2色が絡み合う光に目を細め、その先にいたはずのジゼルが消失していたことに驚き、ふと自分の体へ落ちる"影"に気がつく)―――――― 」

イナ「―――――(世界は速度を失いはじめ、サーベルを振り被ったジゼルに戦慄する。本能的な死の直感に冷汗が噴き出し、瞳が縮小していき――――)――――ガシャッ ヒ ュ ッ !!(大盾を手放し、後方へ下がりながらサーベルが振るわれる通過点を予測し、身を守ろうと抜刀ざまに防御の構えを取る) 」

ジゼル「ギィィィンッッ!!(イナが予測した通りの位置に袈裟斬りが半月状の軌跡を描いて通過し、鞘から露になった刃と衝突し火花が時の流れが遅くなった空間の中で舞う。イナが梓の修行や復讐の中で装具した敵よりも太刀筋は甘く跳ね返る衝撃で蹌踉き足が浮き瞳が縮小していく)(こいつまさか……”見えているのか”)……っ!ッガァンッ!(時の流れが再び元に戻ると同時に歯を食いしばって倒れまいと保ちこたえ手放された蹴りを入れ間合いからの離脱を図ろうとする) 」

イナ「 ガキッ 逃がすかよ!!(次いでジゼルの蹴りを刀の柄で受け、間合いに入った利を手放すまいと離脱しようとするジゼルへ踏み込みながらの突きを繰り出す) 」

ジゼル「ッッツ!!(やはり剣においては上手か––––!!) ブ ォ ン ッ (イナの放った刺突が鳩尾に確かに入る。手応えも存在した、だがそれよりも以前に前回より”鮮明に見える”閃光が赤と緑の螺旋を描き、そしてフラッシュバッグ的にイナの眼”だけ”に”間合いを取らず右へ上体を捻ったジゼル”の像がフラッシュバッグし) ザ グ ッ( (鳩尾中央に直撃した手応えがあるにもかかわらず筈にも関わらず、”刺突がかすめた脇腹”から微量な鮮血を吹き出し、イナの左手側に移動しており) 」

ジゼル「ヒュオッ…… パァンッ!! ギュルッッ –––––––ふッ!!(蹴りを防御する際に使用した鞘を持つ方の手へ向かって武装解除を狙った1回転からの遠心力を乗せた回し蹴り→そのまま勢いを殺さず半回転からの裏拳感覚の小ぶりな凪を放つ) 」

イナ「(獲った―――――)ーー―!!? ……な、んッ……!?(目の前に展開されるいくつもの違和感に眉間にシワを寄せ、明らかな動揺を見せる) ちィッ!!(側方へ移動していたジゼルに対応しようとするが既に遅く、)ドガッ!! カランカランッ(ジゼルの回し蹴りはイナの左手に打ち込まれ、衝撃にたまらず顔をしかめ鞘を手放す) ゴ ン ッ !!(ジゼルのコンビネーションはその意図通りに決まる。裏拳を横っ面に食らって口内が切れた事による血液が散り、視界がブレる)(こいつ―――)―――ん、ッ!!(数瞬の間に持ち直し、足元を狙ったローキックを繰り出す) 」

ジゼル「貰っ–––––(裏拳が入ったという手応えに大きな隙を確信し右手のサーベルで大振りの薙を横一文字に繰り出そうとするが)!?(立て直しが早い…ッ!)ガッッ!(足元を狙ったローキックがジゼルのアキレス腱を捉え足元から床に倒れこむ)ちィッ!(しかし転んでもただでは起き上がらず倒れこんだ際に手をつけそれを軸に両足を広げ逆立ちしながらの回転蹴りで牽制しつつ交代し仕切り直しを図る) 」

イナ「!! ヒュバッ(ジゼルの回転蹴りをバク転で避け、互いに距離を取って仕切り直しに)……ったく、器用な真似しやがる(口端に垂れている血を手の甲で乱暴に拭い、床に突き立てたままのイージスを再び手にする) 」

ジゼル「クルンッ タ ン ッ (そのまま腕をバネにし跳ねあがらせ空中で縦に1回転し階段の上に着地)……ペッ(脇腹を抉った傷が響いているのか口橋から紅が溢れ落ち、それを腕で軽く拭い)–––––器用……ええ、そうね。それが私にできる唯一”人間らしい”コトだから(斜めにサーベルを一振りし、姿なき主へ忠誠を誓うかのように垂直に刃を立てて構え直し)けれどそれは、あの方のために磨いた技術。私は–––––– 」

ジゼル「私はあなたを、その他一切の人間を圧倒する”化け物“であり続けなければならない。(殺気とも)リズお嬢様が、キャロルお嬢様が”ヒト”であり続けるためにも……!!(左目が再び赤く染まり歯車の模様が浮かび上がる。眼光には魔力のみならず彼女の執念が宿り)カザマ イナ。救えはしまい、キャロルお嬢様も……この先抱えるであろう多くも!ただの人間であり続ける限り、善なる人間である限り何も救えはしまい! 」

イナ「(ジゼルの直向きすぎる覚悟を真正面から突きつけられ、伏し目がちに視線を下げる)……『いい加減に目を覚ませ、現実を見ろ』つって、鼻っ柱ぶん殴られた気分だよ。(どこか空虚さを感じさせる力ない声色で切り出す)オレは何度も何度も間違えるんだろう、救えないんだろう、失うんだろう。(盾を置き、向かいにある大時計へと手を伸ばす)夢も希望も親愛も思い描いた理想の世界も―――みんな手に届きそうになった瞬間、パッと消えちまう。(伸ばした手を握り、胸の前へ)……そうだな。お前の言う通り、いい加減に目を覚まさなきゃな―――― 」




イナ「――――手に入らなくたっていいよ。遠くからでも、せめて"それ"を守ることができるなら(刀をゆらりと構え、ジゼルと視線が交錯する)人間なんて捨ててやる、今日がその一歩だ。(どろりと、濃く深い闇が瞳の中で揺らぐ) 」

ジゼル「––––––(瞳の向こう、こちらの覚悟すらも飲み込みかねない漆黒に目を見開き、今日初めて心の底から愉快そうに本人も気づかず笑みをこぼし)–––––できるか(その口元に手を添え、目の前に立つ存在を戦力を持ってして立ち向かうべき”敵 “と見定め、指を鳴らす) パ チ ィン ッ  (三々び、赤と緑の光が螺旋を描き、今度はジゼルと思わしき残影が彼女の周囲に複数イナの眼には視認できる。四方八方、あらゆる角度からイナめがけナイフを投げかける映像が3秒の間に消えては現れ) ズ ラ ァ ァッ (投擲したナイフのみが実体化し、ジゼルの上空で今にも襲い掛からんと牙を剥く) 」

ジゼル「–––––アナタにその一線を越える覚悟があるものかッ!カザマイナ!! 」

イナ「(また"光"だ―――)(赤と緑の光の残滓が瞳に映り目を細め、ジゼルの叫びが戦闘再開の合図となる―――)――― ゴ ガ ァ ア ン ッ ! ! ! (側に置いてあった大楯イージスをジゼルへ向けて蹴り飛ばす。ドライブによってイナ本人には軽々と扱える代物だが、他人にとっては想像を超える重量を持つ大楯が、無軌道な回転をしながらジゼルへと突っ込んでいく)タンッ!(同時にその盾の背後へついて走り、ジゼルの視界から姿が隠れる) 」

ジゼル「(投擲具……いやそんな質量じゃない筈だ。 –––––確かめるか) フ ォ ッ ……(蹴り飛ばされた大盾イージスが顔面に迫るまで接近を許し、時の流れを緩やかに錯覚する0.5秒が3秒に感ぜられる刹那、再び螺旋状の光が閃き、水中で動いているかのようにゆっくりと腕を前へ突き出し、その盾に触れた直後)––––––––ゴガァァァァァンッ!!!!(『大館を手に取るという洗濯をした彼女が』上体を捻って大盾を回避した彼女からさながら質量の残像のように剥がれ、大質量に巻き込まれるようにしてイージスもろとも背面の大時計に叩きつけられ土煙に巻き込まれ消え入り) 」

ジゼル「––––なるほどな、お前にのみ扱える護るチカラというわけか(『回避』した方の彼女がイナの前に立ちふさがり、向かってくる彼女を落ち着き払ってナイフを右手に『出現』させ見据える) 」

イナ「(吹き飛んだ!このまま追撃を―――)―――ッ!?(平然とジゼルが前方へ現れ驚愕する)チッ…!テメーこそ意味わかんねぇチカラ使いやがって!だが―――(ジゼルへ肉薄し、刀を振り被る。その時、) パキャアンッ! (ジゼルの"左右と後方"に薄い障壁を展開し、退路を塞ぐ) これなら―――避けられねーだろッ!!(振り被った刀をジゼルへ振り下ろす) 」

ジゼル「–––––!!(左右に存在する障壁を目視で認識し、後方にも障壁が存在するであろうことを察し歯噛みする)(やってくれたな……!)ハッ!そのセリフ、そのまま返すぞ!!(再びの螺旋状に捻れた閃光、その直後真っ向からナイフで袈裟切りを繰り出すジゼルの斬撃の他に”逆袈裟””横薙ぎ”という三方向から迫る斬撃がイナの瞼の奥で”フラッシュバックし”–––––)ズ ァ オ ッ !!(直後、その未来視名た直感が実現したかのように三方向から三つの斬撃が同時にイナを迎え撃とうと牙を剥く) 」

イナ「!!(何度も目にした捻れた閃光を目の当たりにし、これから目の前で起こるであろう像がフラッシュバックする。その”直感”にハッとし――)―――フッ ガギィ イィ ィ ン ッ … … ! ! (直感を頼りに、ほぼ同時に行われた斬撃全てを凌ぎ切る)……ぁ…っ…!?(その事実に、誰より自分自身が驚愕の表情を浮かべた) 」

ジゼル「ッパァァァァン……(三重に骨の髄まで腕を揺さぶる攻撃が弾かれる衝撃、ナイフが輪を描いて吹き飛び天井に突き刺さる虚無感、何より––––)–––––(なに……なにが起こったの?時流水鏡が……何が……–––––)––––– (何より、”可能性の一つ”にすら入れていなかった能力の攻略が精神的打撃となって胸に去来し)ッッッ!!! タンッ タンッ ……ストッ(反射的に、思考が復活するよりも先に体が動き、自分を囲んでいた障壁を蹴って三角飛びし、それを乗り越えてきりもみ回転しつつ着地し障壁越しにイナと距離を置き、片膝をついたまま硬直する) 」

ジゼル「(見えている……!! いや、馬鹿な。そんな理不尽があっていいはずがない!お嬢様だけ、あのお方だけ!シェンにも、ニオにも……誰にも"我々が"ヒトであるという証明を砕くことなど……–––––) 」


BGM M22


イナ「イィィィ――……―…ン――――――(甲高い金属音。その耳鳴りのような音が空間を包む―――長い息をはき、その全てでは無いにしろ彼女の能力を理解する)……まだやるのか。(前方の障壁が溶けるように消える。”解ってしまった”ことで恐怖や激情は消え失せ、素の顔を浮かべて一歩一歩と緩慢な動きでジゼルへと歩いて行く) 」

ジゼル「(障壁の消失、緩慢な動き、何より”異能を”見るようなそれではなくなった眼が迫り、それこそれこそ心の芯に亀裂が走り始めた”ただの少女”のように不安定で弱々しく、凶暴に猛る眼を向ける)……(なんだその目は……)––––無論(ふざけるなよ。)私は”怪物だ”。名もなき怪物だった、血染めのジルと恐れられた怪物だった……!!その在り方は今も変わらない。お前如きに!!私の世界を壊せるものか!私を”ヒト”へ下せるものかッ!!!!(折れかかった心を奮い立たせるように激昂し立ち上がって見せる) 」

.  パ リ   ィ  ン ッ  (ガラスが悲鳴をあげたような何かが砕ける音。螺旋状の閃きは渦を巻いてイナの方げまっすぐに向かい) ヴォンッッ  (接近からの刺突・左右それぞれからの”銃撃”・腕への掴みかかり身動きを封じる。バックステップを踏みつつナイフを投擲する。あらゆる可能性が螺旋状に連なった映像のフラッシュバッグが去来する) 」

イナ「(彼女の姿に、かつての自分を見ているような錯覚を覚え、目を細める)……馬鹿みたいだよ。お前は怪物じゃない。怪物であろうとしているだけだろ。嘘で塗り固めた怪物の皮を被っただけの”ヒト”なんだ。(螺旋状の閃きが視界に入り―――)  フ  ォ  ン  ッ  (―――顔色一つ変えずに刀を一振りし、その”光を斬り伏せる”)……お前は何のために怪物になってる? オレは……大切な人を守るためだったよ。……お前は、何が怖いんだ?(だらりと腕を下げ、なお歩を止めずに近づいていく) 」

ジゼル「……!?な …え……ぁ…っ……!(現象そのものが発動しない。詰め将棋のように確実な手順で抑えられたはずなのにかすり傷一つ負わせられないという目の前の事実に二の句も出ず、一歩、後ずさってしまう) 」



–––––––ありがとう、私をヒトとして認めてくれて。けれど、私はこの世界では怪物だから、あなたのそばにあってはいけないの

–––––––些細な問題だ。最初にな乗り合わせたであろう。『ハジメマシテ、ちっぽけな人間。私こそが悪魔だ』と……



ジゼル「(見開かれた幼い眼の中でガラス玉のような瞳が泳ぎもがく。その水面が決壊したかのように涙が滲み)私がただの……"ヒト"? –––––––違う……違う違う違う!私は怪物だ、私は恐れられるものだ。そうでないと……そうでなければ––––– 」



–––––––些細な問題だ。最初にな乗り合わせたであろう。『ハジメマシテ、ちっぽけな人間。私こそが悪魔だ』と……



ジゼル「 “あの人”は……”あの子”は……–––––



–––––––お姉ちゃんも異常で私も異常。だから私たちの間だけでは”普通でいられるんだよ!”



ジゼル「”特別な存在”ですらなくなる!!私が、私が!私がッ!!私が守る、守らないといけないのに!”私が異常でなければいけない”のに!!(何度も、何度も何度もあらゆる『殺害』の可能性を発言させようと一度弾かれたにもかかわらずに捻れた螺旋を飛ばす)カザマイナ、カザイマイナ!お前が邪魔だ、お前たちが邪魔だ!!悪魔と罵られるなら、悪魔と恐れられるなら!!我々にはそれに相応しい力があったはずだ!!凡俗などものともしない力が我々にはあるはずだ!そうでなければ嘘だ!!なのに何故、何故お前を殺せない!!お前は何者なんだッ!!!! 」


イナ「(無駄だと証明しなお、悲しいまでに捻れた螺旋を飛来させてくるジゼルの『願い』のことごとくを切り伏せて進んでいく)(ジゼル……お前も、なんだな―――)(一瞬、同情するような瞳を向け)――――――オレは、 」

イナ「オレ、は………(ついに終点へ辿り着き、足を止める) 」


―――― 人間なんて捨ててやる、今日がその一歩だ。 ―――― 」


イナ「…… …… …… ……わたしは、ただの”ヒト”でいたかった怪物だよ。 (ピト、と刀の峰をジゼルの肩に当てる。その表情は喜怒哀楽のどれとも取れぬものだった) 」

ジゼル「(冷たい感触が肩に触れ、彼女自身も既に終点に辿り着いた事を悟り)っつ……く…ぁ……ァァ……ッ––––––(止めどなく、目からは雨がこぼれ落ちて止まない)何故……–何故だカザマ。そうならざるをえないなら、何故そんな望みを持った。ヒトであった筈だ、あなたをそうさせたのはヒトの悪性なのに––––(力なく頭を垂れ、腕をダラリと下ろし重力に従って戦意が潰えていく。答えは漠然と理解している。自分もかつてそう願ったのだから) 」

イナ「――――――復讐……(ポツリとその答えを呟く)……そうしなきゃ、意味が無いんだよ。復讐に生きると決めた、復讐だけがオレをオレたらしめる存在意義になった。今更それを忘れようなんて――――…残酷すぎるだろう。(伏し目がちになりながら) 」

ジゼル「–––––––(ああ、そうか)……(”私はそうできなかった”。そうする勇気もなかったし、その相手もまた、お嬢様に消してもらった、私には、何かに舵を委ねるだけの私には、そんな清々しい生き方は、できないはずだ……)–––––私に、"成し遂げる"意思などない カ ラ ァ ン……コツ コツ コツ(虚しく静まり返ったダンスホールにナイフの骸が転がる音が木霊した。イナの肩を透して歩を進め背を合わせ、天井を仰ぎ見る)私の世界が、壊れる……––––– 」


   パ  リ ィ ン ッ ……(大時計のガラスに亀裂が走り、秒針が床に吸い込まれるようにして突き刺さった。彼女の世界に終りを告げるように) 」


ジゼル「–––––リズお嬢様は屋上よ。”最愛の妹”の居場所は、我々ですら知らされていない。あのお方に直接お伺いするより他に方法はないわ」 」

イナ「(彼女の世界の終わりを見届け、背中合わせのままでしばらく立ち尽くす)……分かった。一発、ぶん殴ってくる―――――ああ、そうだ。(歩き出そうとし、目元が見えない角度で顔だけ肩越しに振り返る) 」

ジゼル「––––––(『何』と言いたげに首を捻り髪を揺らす。今にも倒れそうな砂上の木のようにおぼつかない足取りで進め始めた足を止めて) 」

イナ「怪物とか、ヒトとかはひとまず置いといてさ。普通と違ったって良いんだと思うぜ、オレは。(盲目――集団の中ではある意味”普通のヒトとは違う怪物であった弟”を思い出しながら、かつて誰かに言った言葉をジゼルへと向ける)――――(それ以上は何も言わず、振り返りもせずにダンスホールを後にする) 」

ジゼル「………(ダンスホールの中央にただ一人残され灯の消えたシャンデリアを仰ぎ見る)––––––(頭蓋の中で一つの歯車が外れ、すべての歯車が噛み合う音が……今まで止まっていた時が動きだす音が響くような気がして)…………––––––。(荒波のように去来する感情の圧が思いの外、呼吸も忘れるほどに苦痛で、それを思い出せたことが幸福で、訳も分からず打ちひしがれ、口元に笑みをこぼしていた) 」


––––––あの夜のような笑みを、お嬢様は見せなくなった。いつだって導いてくれたあの人が、さもすがりつくように


––––––––今なら、また微笑んでくれるだろうか。彼女が伝えたかったことを理解できた今なら、自分を始めて愛せるかもしれないという一つの"選択"が見えた今なら、きっと………・・・
















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最終更新:2020年09月27日 22:54