ポーンエンディング1
ポーンエンディングはかなり具体的に学ぶ必要があります。というのも、わずかな変化でも大きく形勢が変化するためです。
一般的な理論に加えて、正確な読みと計算が必要とされます。
ポーンエンディングの勉強というのは単なるポジションの暗記ではなく、基本的なテクニックの習得とその背景にある考え方を知ることが重要でしょう。
重要なマス(Key Squares)
手番に関係なく、そのマスをキングによって占有することで勝てるようなマスこそが "Key Squares" つまり、重要なマスです。
例えば、次の図1。
図1
キングが存在するd5は重要なマスではありません。今回の重要なマスは赤で印をつけたc6, d6, e6の三つのマスです。
これが白の番だと白が勝つことはできません。引き分けです。
黒の番だと、白のキングが重要なマスに侵入されてしまうので黒の負けとなります。
ところが、ポーンが5段目にいると話が変わってきます。
次の図を見てください。
図2
このポジションの重要なマスはa7, b7, c7だけではありません。
a6, b6, c6も重要なマスとなっています。
仮に白番であっても白の勝ちとなります。
1. Ka6! Ka8
2. b6 Kb8
3. b7 Kc7
4. Ka7+-
一見、1. Kc6 が誤った手に見えます。
1...Ka7! 2. b6+ Ka8! によって引き分けに見えるからです。
しかし、白の 2.b6+?? が良くない手でした。
正着は 2. Kc7 です。
以下、2...Ka8 3. Kb6(もちろん、3. b6?? はステイルメイトです) 3...Kb8 4. Ka6!
で、もとに戻ります。
さて、次の図3は白先です。
勝つことはできるでしょうか?
図3 白先
このポジションにおける重要なマスはa6, b6, c6です。
敵キングより先にこのポジションを取ることができれば白が勝つことができます。
1. Kc2! Ke7 2. Kb3 Kd6 3. Ka4 (3. Kc4? Kc6=) 3...Kc6
4. Ka5(5. Ka6 とするアイデア) 4...Kb7 5. Kb5+-
このようにオポジションを取ることによって、次の手で必ず重要なマスを奪うことができます。
図4 白先
白の手番で勝つためにはどうすればいいでしょうか?
1. Kf2!
1. Kg1? だと黒のキングはポーンを守ることに成功してしまいます。
1...Kd7 2. Kh2 Ke6 3. Kg3 Kf5 4. Kh4 Kg6=
1...h4!(1...Kd7 2. Kg3 Ke6 3. Kh4+-) 2. Kg1!!
最も自然な手は 2. Kf3? ですが、2...h3!! という妙手があります。
取ってしまうと、盤面の端にポーンがいくので引き分けになってしまいます。
仮に 3. g4 としたところで、重要なマスである6段目を奪うことができません。
2...h3 3. g3!
チェックメイトの基礎6でも書いたと思いますが、キングはポーンの前に置くことが重要です。
g4までポーンを突いてしまうと、キングを前に置けなくなってしまいます。
3...Kd7 4. Kh2 Ke6 5. Kxh3 Kf5 6. Kh4 Kg6 7. Kg4
こうしてオポジションを取れば白の勝ちです。
図5
Coull - Stanciu Saloniki ol 1988
この局面、白先です。
しかし、どうがんばっても白のポーンが黒キングに取られてしまうことはお分かりでしょうか?
当然のように、白は投了してしまいました。
もちろん、答えを言う必要はないでしょう。
1. Kc4 Ke5 2. Kc3! Kxd5 3. Kd3
答えは↑
対応するマス(Corresponding Squares)
この回では、「オポジションを取る」の技術が中心となります。
基本的には、ツークツワンクに陥れる方法です。
ツークツワンクとは自分の不利になる動きを強制された局面のことで、簡単に言えば「パスできたらいいのに」と思うような局面になることです。
図6 黒先
白はオポジションを取っていますが、勝つためには十分ではありません。
1... Kc7!
1...Ka7? はミス。
2. a5! bxa5 3. Kxa5 Kb7 4. Kb5 Kc7 5. Kc5 とされ、オポジションを取られてしまいます。
2. Ka6
2. c5 とするのはポーンを取ってしまえば、白には端のポーンしかないので引き分けになります。
2...Kc6 3. Ka7 Kc7! 4. Ka8 Kc8!=
4... Kc6? であれば 5. Kb8 Kc5 6. Kb7 Kxc4 7. Kxb6+- となり、白ポーンのプロモートを防ぐことができません。
もし、仮に図6のポジションが右に一個でもずれていれば
1...Kd7 2. d5! として、白が勝つことができます。
また、白は一手の保留ができれば勝つことができるでしょう。
例えば図6の局面でaポーンががa3に存在していたとすれば、1...Kc7 2. Ka6 Kc6 3. a4! として、
以下、3...Kc7 4. Ka7 Kc6 5. Kb8! Kc5 6. Kb7+-
次の図7では白のキングは前に進むことができません。
1. Kg3? とすれば、1...Ke1! 2. Kg2 Ke2 3. Kg3 Kf1!-+
では、1. Kf1 としてオポジションを取ればどうでしょうか?
一見正しい手には見えますが、これはミスです。
1...Kd2 2. Kf2 Kd3 こうなればf3のマスに自分のポーンがあるので、キングがf3に進むことができません。オポジションを奪うことができなくなります。結局、3. Kf1(or Kg3)と戻るしかなく、
以下、3...Ke3! 4. Kg2 Ke2-+
正解がわかりますか?
図7 白先
実はこの局面を救う盤面唯一の好手があります。
1. Kh1!! Kd2
1...Ke1 2. Kg1= ; 1...g4 2. Kg2! Kd2 3. fxg4
2. Kh2 Kd3 3. Kh3=
一手目の 1.Kh1 の意図は、離れたマスでオポジションを取ろうということです。
間3マス開ければ、ポーンに邪魔されることなくオポジションを取ることができます。
では次に、離れているオポジションにつけこむ技術を見てみましょう。
図8 白先
黒キングの位置がよく、白の2つのポーンは必ず取られてしまう運命にあります。
さらにf7にある黒ポーンの前にキングが位置している、すなわち、鍵となるマスが黒のキングに支配されています。
しかし、白はタクティカルな手によって、ポーンとキングの位置関係を変えて新たな重要なマスを押さえることができます。
1. g6! fxg6 2. f5!
2. Kg2? Kg4 3. f5 gxf5-+ 黒はオポジションを取ることができます。
また、2. Kh2? Kg4 3. f5 Kxf5! 4. Kg3 Kg5-+
2...gxf5 3. Kg1
黒は離れたオポジションを取ることはできますが、それを(近づいた)オポジションに変換することができません。
3...Kg5 4. Kf1
次に黒が 3...Kh4(Kf4) とすれば、4. Kf2 としてオポジションを取ることができます。
図9 白先
離れたオポジションを取る 1. Ke1? はドローにしかなりません。
1...Ke8! 2. Ke2 Ke7 3. Ke3 Ke8 4. Ke4 Ke7 これ以上、白のキングは距離を詰めることができません。
もし、キングがeファイルから離れるような選択をしても 2. Kf2 Kf8! 3. Kg3 Kg7! 4. Kf3 Kf7! でドローです。
このような場面では、オポジションを取ることが命に関わる問題となってきます。敵のキングを下げ、出し抜く必要があるのです。
さて、この局面を見てみると黒のキングはe6に行くことができません。これは意外と重要な事実で、黒のキングが行く場所はfファイルにほぼ限定されるということがわかるでしょうか?
キングはワンサイドにしか行けないのです。
1. Kg2!
この局面における重要なマスはg6です。
当然、黒としてはそのマスを守ろうとするので、1...Kd7 などは論外です。
1... Kf6
気づいた人がいるかもしれませんが、fファイル上にキングをおくことはオポジションを維持するためには重要です。
ゆえに、白の次の手は
2. Kf2!
黒はもうどうしようもありません。キングを前に上げることもできません。
2... Kf5 3. Kf3 Ke5 4. Ke3 Kf5 5. Kd4 として次の 6. c5 が防げません。
左からいっても、2... Kg6 3. Ke3 Kf7 4. Kd4 Ke7 5. Kc3 Kd7 6. Kb4 Kc7 7. Ka5! Kb7 8. Kb5 Kc7 9. Ka6+- と結局オポジションを取られてしまいます。
結局、2...Ke7 とするしかありませんが、
3. Kg3! Kf7 4. Kf3! Ke7 5. Kg4 Kf8 6. Kf4! Ke7 7. Kg5! Kf7
8. Kf5 Ke7 9. Kg6 Kd8 10. Kf7 Kd7 11. Kf6 Kc8 12. Ke7 Kc7 13. Ke6
となり、白の勝ちです。
離れたオポジションの距離を詰めることに成功しました。
図10 白先
最初に考えることは、どのようにしてオポジションを取るかです。
1. Kf5! Kb6
黒キングの最初の位置が六段目ならドローにすることができました。
その場合は、1...Kb7! とすることができたからです。
以下、2. Ke6 Ka6!= ; 2. Kf6 Kb6!=
2. Kf6!
この一手の休止は離れたオポジションの距離を詰めるための基本的なテクニックです。
今回の「主要なライン」は7段目です。
2...Kb7 3. Kf7!(3. Ke5? Ka7!=) 3...Kb6(3...Kb8 4. Ke6!)
4. Ke8! Ka7 5. Ke7! Ka8 6. Kd6! Kb7 7. Kd7! Kb6 8. Kc8+-
最も簡単な勝ちは、7. Kd7! ですが、以下の方法も可能です。
7. Kxc5!? Kc7 8. Kb4 Kb6 9. c5+!(9. Kxa4? c5 10. Kb3 Ka5=)
9...Ka6 10. Kxa4
以下、8...Ka6 9. Kc7 Ka7 10. Kxc6 Kb8 11. Kxc5
最終更新:2011年07月30日 13:18