国連人権高等弁務官事務所:COVID-19ガイダンス


原文:英語(2020年4月3日掲載確認)
日本語訳:平野裕二

COVID-19ガイダンス(国連人権高等弁務官事務所)

COVID-19は社会、政府、コミュニティおよび個人にとっての試金石である。いまこそ、このウィルスに対応し、COVID-19拡散阻止のための措置が――しばしば意図しない形で――もたらす影響を緩和するための連帯と協力を進めなければならない。さまざまな領域の人権(経済的・社会的権利および市民的・政治的権利を含む)を尊重することは、公衆衛生上の対応が成功するための基本となろう。

保健ケアへのアクセス

  • 保健戦略においては、エピデミックの医療的側面だけではなく、保健対応の一環としてとられた措置がもたらす人権およびジェンダーに固有の即時的、中期的および長期的な影響も扱われるべきである。
  • 治療は、差別なくすべての人(もっとも脆弱な状況に置かれた人々および周縁化された人々を含む)に対して利用可能とされるべきである。すなわち、アクセスを妨げる既存の障壁に対応するとともに、治療費を払えないこと、年齢、障害、ジェンダーもしくは性的指向を含む差別的根拠、またはスティグマのために治療を受けられなくさせられていることを理由に時宜を得た適切な治療を拒否される人がひとりも出ないようにしなければならない。
  • 保健対応の参考とし、かつ取り残されるおそれがもっとも高い人々を特定する目的で、少なくとも性、年齢および障害によって細分化された、パンデミック関連の匿名化されたデータを収集しかつ公表する。

緊急措置

  • 政府はCOVID-19への対応に際して困難な決定を行なわなければならない。重大な脅威への対応として緊急措置をとることは国際法で認められているものの、その措置は、評価されたリスクに比例しており、必要であり、かつ差別のないやり方で適用されなければならない。すなわち、具体的な焦点および期間が定められなければならず、公衆衛生の保護のために可能なかぎり制限の度合いが低いアプローチをとらなければならないということである。
  • 緊急事態宣言が行なわれた場合、市民的及び政治的権利に関する国際規約の締約国は、国連事務総長を通じて公式な通知を行なう法律上の義務を履行するべきである。地域人権条約にも同様の義務が掲げられている。
  • COVID-19に関連して、緊急権限は正当な公衆衛生上の目標のために使用されなければならず、異論を抑え、人権擁護者またはジャーナリストの活動を封じ、その他の人権を否定し、または保健状況に対応するために厳に必要とされるもの以外の他のいずれかの措置をとる根拠として用いられてはならない。
  • 一部の権利はたとえ緊急事態であっても制限することができず(逸脱禁止)、これにはとくにノンルフールマンの原則、集団的追放の禁止、拷問および不当な取扱いの禁止、思想、良心および宗教の自由に対する権利が含まれる。
  • 政府は、影響を受ける住民に対し、緊急事態とは何を意味するのか、それがどこで適用されるのか、および、どの程度の期間の施行が予定されているのかに関する情報を提供するとともに、この情報を定期的に更新し、かつ広く利用可能とするべきである。
  • 政府にとって重要なのは、このような対応が今回の危機のさまざまな段階のニーズに適合したものでなければならないことを認識し、実現可能なかぎり早期に通常の生活への復帰を確保することであって、日常生活を無期限に規制するために緊急権限を用いないことである。

誰ひとり取り残さない

  • すべての社会に、多種多様な理由(そのなかには根深い差別、排除、不平等または政治的分断を反映したものもある)で周縁化され、公的な情報およびサービスへのアクセスに関して困難に直面している人々が存在する。COVID-19に関する広報および対応の取り組みにおいては、見落とされまたは排除されるおそれがあるかもしれない人々(国民的、民族的もしくは宗教的マイノリティ、先住民族、移住者、避難民および難民、高齢者、障害のある人、LGBTIである人々または極度の貧困の影響を受けている人々など)を特定するために特段の配慮が必要となろう。
  • 国内人権機関および市民社会は、対策をとらなければ見落とされまたは排除される可能性がある人々の特定を援助し、これらのコミュニティに情報が届くようにすることを支援するとともに、措置がコミュニティに及ぼしている影響に関するフィードバックを当局に提供することができる。

居住

  • 人々が自宅に留まることを求められるなか、政府として、十分な住居を持たない人々を援助するための措置を緊急にとることがきわめて重要である。自宅に留まることおよび社会的距離をとることは、過密な環境下で暮らしている人々、ホームレスの人々および水・衛生設備にアクセスできない人々にとっては著しく困難であるためである。住環境が不十分な人々およびホームレスの人々に対応する望ましい実践には、ウィルスに感染して隔離されなければならない人々を対象とするサービス付き緊急住居の提供(空き室および放棄された住戸の利用、利用可能な短期貸室を含む)が含まれる。
  • 当局は、たとえば所得を失ったために住宅ローンや家賃が払えなくて立ち退きに直面する場合など、ホームレスになる人々がさらに増えないようにするために特段の配慮を行なうべきである。立ち退きの一時的禁止、住宅ローンの支払いの繰り延べといった望ましい実践を他でも広く行なうことが求められる。
  • 封じ込め措置が実行される場合、何人も、ホームレスであることまたは住環境が不十分であることを理由に処罰されるべきではない。

障害のある人々

  • 障害のある人々はCOVID-19に関わるリスクがはるかに高い状況に置かれており、国の対応には、これらの人々に対処するための焦点化された措置が含まれなければならない。危機対応措置、保健面での介入策および社会的保護のための介入策はすべての人にとってアクセシブルなものでなければならず、障害のある人々を差別するものであってはならない。
  • 物理的距離戦略、自主隔離およびその他の緊急措置においては、生存のために必要不可欠な支援ネットワークに依存しており、かつその一部は外出禁止にともなって相当のストレスを経験している可能性がある、障害のある人々のニーズが考慮されなければならない。
  • 国は、危機の期間全体を通じて障害のある人々のための支援ネットワークの継続性を保証するための追加的措置を整備するべきである。家族支援および社会的支援のための既存のネットワークが移動制限によって阻害されるときは、他のサービスによって置き換えられるべきである。
  • 不足している資源(たとえば人工呼吸器)の配分に関する決定が、既往機能障害、支援ニーズの高さ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)評価または障害のある人々に対する医学的先入観に基づいて行なわれないことを確保する。
  • 国は、可能なときは常に障害のある人々を施設、介護施設、精神医療施設その他の施設から解放するとともに、このような施設にいる人々の保護を確保するための措置をとるべきである。
  • 障害のある人々およびその家族にとって、追加的な金銭的援助および社会的保護へのアクセスはきわめて重要である。その多くは停止されたサービスに頼っており、また基礎的ニーズをまかなうための資源を持たない可能性があるためである。

高齢者

  • 高齢者は、他のあらゆる年齢層の人々と同一の権利を有するのであり、パンデミックの間、平等に保護されるべきである。高齢者が直面する特有のリスク(物理的距離の確保から生じる孤立およびネグレクトならびに治療その他の支援へのアクセスにおける年齢差別を含む)に対し、特別な注意を払うことが求められる。
  • 医療上の決定が、年齢または障害ではなく、個別の臨床評価、医療上の必要性および利用可能な最善の科学的エビデンスに基づいて行なわれることを確保する。

拘禁・施設措置の対象とされている人々

  • 刑事施設、未決拘禁、入管収容、施設、義務的な薬物リハビリテーション施設その他の拘禁場所等で自由を奪われている人々は、アウトブレイクが生じた場合、いっそうの感染リスクにさらされる。汚染のリスクは高く、社会的距離をとることは難しい。危機に関する計画および対応においては、このような人々の状況が具体的に取り上げられるべきである。
  • 国は、自由を奪われたすべての人が情報、予防ケアおよびその他の保健ケアにアクセスできるようにするための特別措置をとるべきである。
  • 国は、拘禁場所内での危害リスク緩和のため、釈放および拘禁に代わる手段の選択肢を緊急に模索するべきである。その対象とすべき者には、軽罪、微罪および非暴力的犯罪を行なった者、まもなく釈放予定日である者、入管収容下にある者および移住者としての地位を理由に収容されている者、基礎疾患を有する者ならびに未決拘禁または行政拘禁の対象とされている者が含まれる。法律上の根拠のないまま拘禁されている人々は、義務的な薬物拘禁施設または薬物治療プログラムに措置されている人々と同様に、解放されるべきである。
  • 子どもの拘禁は一時的に停止されるべきであり、国は、安全に解放することのできるすべての子どもを拘禁から解放するべきである。
  • 施設で生活している障害のある人々および高齢者の状況はとりわけ重大である。家族との接触を制限することは、緊急保健措置の一環として正当である場合もあるものの、障害のある人々および高齢者がネグレクトおよび虐待にいっそうさらされることにつながる可能性もある。コミュニティを基盤とする支援およびアクセシブルな暴力防止手段が整備されるべきである。

情報と参加

  • COVID-19パンデミックおよびCOVID-19対応に関連する情報は、例外なくすべての人々に届けられるべきである。そのためには、容易に理解できる形式および言語(先住民族言語および国民的・民族的・宗教的マイノリティの言語を含む)で情報を利用可能とすることとともに、特定のニーズ(視覚障害および聴覚障害を含む)を有する人々に合わせた情報を用意すること、および、読む能力が限られているもしくはまったくない人々またはインターネットにアクセスできない人々にも手を差し伸べることが必要となる。
  • ウィルスの影響を受けている人々に情報が届くようにするためには、インターネットへのアクセスが不可欠となる。政府は、インターネットへの接続を一時的に中止させまたは遮断するいかなる措置も取りやめ、インターネットを常時接続可能としておくべきである。国はまた、デジタル・ディバイド(ジェンダー・デジタル・ディバイドを含む)を縮小するための措置をとることにより、インターネット・サービスへのアクセスを可能なかぎり最大限確保するために活動することも求められる。
  • 人々は、自分の生活に影響を及ぼす意思決定に参加する権利を有する。開かれた透明な姿勢を保ち、かつ意思決定に当事者の関与を得ることは、自分自身の健康およびさらに幅広い住民の健康を守るための措置に人々が参加し、かつこれらの措置が人々の具体的な状況およびニーズも反映することを確保するための鍵である。
  • 医療従事者および関連の専門家(科学者を含む)は、自由に発言し、かつ正確かつ重要な情報を相互におよび公衆と共有できなければならない。ジャーナリストおよびメディアは、恐怖を覚えまたは検閲を受けることなく、今回のパンデミックについて報じること(政府の対応に批判的な報道を含む)ができるべきである。恐怖および偏見を煽る虚偽情報または誤解につながる情報に対抗するため、国際社会および国のレベルで協調のとれた努力が行なわれるべきである。
  • アウトブレイクへの備えおよび対応に女性の視点、声および知識を取りこむこと(COVID-19に関わる国際的、国際地域的および国内的場面で女性が代表され、かつリーダーシップを発揮できるようにすることを含む)は、必要不可欠である。

スティグマ、排外主義および人種主義

  • COVID-19パンデミックは、一部の国民的および民族的集団に対するスティグマ、差別、人種主義および排外主義の高まりを引き起こしつつある。私たちは、この疾病を(地名への言及を用いるのではなく)COVID-19と呼ぶことなどにより、この趨勢を押し戻すために協働しなければならない。
  • 政治的指導者および影響力があるその他の人々は、この危機が生み出してきたスティグマおよび人種主義への反対の声を力強くあげるべきであり、またこのような差別を煽るような言動をあらゆる手を尽くして回避しなければならない。国は、恐怖を煽る言説に対抗するために速やかに行動するとともに、COVID-19への対応によって一部の住民が暴力および差別の被害をいっそう受けやすくなることがないようにするべきである。
  • 正確かつ明確な、エビデンスに基づいた情報の普及および意識啓発キャンペーンは、誤った情報と恐怖によって支えられる差別および排外主義に対抗するもっとも効果的な手段である。差別および排外主義の事件をモニターするために追加的努力が必要であり、またいかなる事件に対する対応も迅速に行なわれ、かつ十分に周知されるべきである。
  • 差別および固定化された不平等は、一部の国民的、人種的または民族的マイノリティにとって十分な健康アウトカムが出ないことを助長している。パンデミックへの取り組みおよびCOVID-19からの復興のための努力においては、これらの問題に対応するために細分化されたデータを収集することが必要である。

移住者、避難民および難民

  • 移住者、避難民(IDPs)および難民は特有のリスクに直面している。キャンプや居留地に閉じ込められる可能性、または過密で、衛生状態も劣悪な、かつ保健サービスもぎりぎりの状態もしくはアクセス不能になっている都市部で生活している可能性があるためである。入管収容施設および移住者・難民が自由を奪われるその他の場所に収容されている者は、とりわけ危険にさらされる。
  • 移住者は保健ケアへのアクセスに関して障害に直面することが多い。言語面・文化面での障壁、費用、情報へのアクセスの欠如、差別、排外主義などである。非正規の状況にある移住者は、出入国管理上の地位の結果として収容、退去強制または処罰の対象となるのではないかという恐れまたはリスクがあるため、保健ケアにアクセスしたり自分の健康状態に関する情報を提供したりすることができず、またはそれを望まない可能性がある。
  • 国は、国家的なCOVID-19予防措置および対応に移住者、IDPsおよび難民を包摂するための具体的行動をとるべきである。これには、その地位にかかわらずすべての移住者、IDPsおよび難民を対象として情報、検査および保健ケアへの平等なアクセスを確保すること、ならびに、移住者・難民が保健サービス、食料配布その他の必須サービスにアクセスできることから出入国管理執行活動を切り離すための遮断措置を設けることが含まれるべきである。
  • 受け入れ国が――移住者、IDPsおよび難民ならびに地元住民の双方を対象とする――サービスを増強できるように援助し、かつこれに全国的なサーベイランス、予防および対応のための体制が含まれるようにするための国際的支援が緊急に必要である。そうしなければすべての者の健康が危険にさらされ、敵意とスティグマが強まるおそれもある。移住者、IDPsまたは難民に対する敵意および排外主義に対抗するための具体的措置もとられるべきである。
  • 国境管理、渡航制限または移動の自由の制限が強化される場合に、戦争または迫害から避難しようとしている可能性またはその他の理由で人権法上の保護を受ける資格を有している可能性のある人々が安全および保護にアクセスできなくなることがないようにすることも、きわめて重要である。国は、移住者、出入国管理職員および社会全体を保護するための一手段として、移住者を入管収容から放免することおよび強制送還を一時的に停止することを考慮するよう求められる。

社会的・経済的影響

  • 学校閉鎖の場合にも、たとえば、かつ可能なときは、アクセシブルで適合性の図られたオンライン学習ならびにテレビおよびラジオの特別放送を通じて、教育に対する権利は保護されなければならない。女児は、その多くがすでに就学を妨げる相当の障害に直面している可能性があり、かつ現在は自宅でいっそうのケアワークを引き受けるよう期待されるようになっている可能性もあることから、不均衡な影響を受けることも考えられる。インターネットその他の遠隔学習ツールにアクセスできない者の教育機会が制限されることは、不平等および貧困の深刻化につながるおそれがある。女児・男児ともに、学校から提供されていることの多い栄養のある食事その他のサービス(精神衛生ならびにセクシュアルヘルス・リプロダクティブヘルスに関する教育など)にアクセスできなくなる可能性もある。
  • 社会的保護制度においては、身体的、知的および情緒的発達が早期の段階にあることを理由にいっそうの脆弱性に直面する子どもたちに対し、特別な注意が払われるべきである。もっとも望ましい実践には、子どもの権利の保護において効果を発揮してきた、子どもがいる家庭に向けた現金給付が含まれる。
  • 今回の危機の社会的および経済的悪影響の双方を緩和するために政府、官民両セクター、国際機関および国内組織が行なっている望ましい実践が共有されるべきである。
  • 今回の危機のさなかに働いている人々(とくに保健従事者)の労働安全衛生に関するアセスメントおよび対応を実施するべきである。何人も、仕事または収入を失うのが怖いという理由で、健康を不必要に危険にさらす条件下で働くことを強制されていると感じることがあってはならない。
  • 今回の危機に対処する能力をもっとも欠いている人々に向けた財政刺激策および社会的保護パッケージは、今回のパンデミックがもたらす甚大な影響の緩和にとって不可欠である。有給病気休暇の保障、失業手当の給付拡大、食料の配布およびすべての人を対象とするベーシック・インカムのような即時性のある経済的救済措置は、危機によってもたらされる急性影響からの防護に役立つ可能性がある。

食料

  • COVID-19危機は不安定な食料状況を悪化させつつある。移動の自由の制限および防護器具の欠乏のため、農業労働者(そのなかには何らかの形で移住者である者も多い)に影響が生じているためである。食料の生産を確保するため、農業労働者の移動および安全な労働条件を確保するための措置が緊急に整備されるべきであり、同様に小規模農業従事者(とくに女性)を対象とする焦点化されたアプローチ(金銭的支援および信用融資、市場および種などの農業投入物へのアクセスなど)がとられるべきである。
  • 最貧層およびもっとも周縁化された住民層の不安定な食料状況に対処するため、緊急の措置が必要とされる。食に関する人々のニーズを満たすための即時的支援を、食料面および栄養面の援助の提供等も通じて行なうための措置が整備されるべきである。

プライバシー

  • 保健モニタリングには、個人の行動と移動の追跡およびモニタリングを行なうさまざまな手段が含まれる。このようなサーベイランスおよびモニタリングは、公衆衛生に特化した目的にとくに関連した、かつそのような目的のために活用されるものであるべきであり、期間および範囲のいずれの面においても特定の状況において必要とされる限度を超えるべきではない。このようないかなる措置も、公衆衛生危機とは関係のない目的で秘密の個人情報を収集するために政府または企業によって濫用されないことを確保するための、しっかりした保障措置が実施されるべきである。

子ども

  • 子どもはCOVID-19による症状がより少なく、かつ死亡率もより低いように思われる一方で、感染予防およびウィルスの封じ込めのためにとられた措置の結果、子どもの保護に関わる相当のリスクが日常的に発生している。国は、パンデミック対応・復興計画の立案および実施にあたり、子どもの保護のニーズおよび子どもの権利にいっそうの注意を払うべきである。子どもの最善の利益を第一次的に考慮し、かつ対応の中心に位置づけることが求められる。
  • 188か国が全国的な休校措置を課すなか、世界中で15億人以上の子どもが教育に対する権利を阻害されている。女児はその影響をもっとも強く受ける可能性が高い。多くの場合にケアの責任と教育とのバランスをとるよう期待され、遠隔学習の機会に平等にアクセスできておらず、かつ学校を完全に離れる特別なリスクにさらされているためである。このことは、女児の教育、健康および経済的機会に特別な長期的影響を及ぼしてきた。
  • 自宅待機命令およびロックダウンも、子どもの身体的および精神的健康を損ないつつある。自宅で待機させられることにより、子どもは暴力(不適切な取扱いおよび性暴力を含む)を受けるいっそうのリスクにさらされる可能性がある。危険な状況にある子どものための支援サービスおよびシェルターは、引き続き優先的事項とされなければならない。
  • 家族構成員が病気になりまたは働けなくなるなか、数百万人の子どもが貧困に直面している。脆弱な状況に置かれた子ども(路上で生活している子ども、移住者および難民である子ども、人身取引または人を密入国させる行為の被害者である子ども、紛争地域で生活している子どもならびに障害のある子どもを含む)は、とりわけ危険な状況にある。

若者

  • COVID-19のアウトブレイク以前、世界の若者の5人に1人は就労、教育または職業訓練のいずれにも従事しておらず、また若者の失業率は労働人口における他の年齢層よりも3倍高かった。2007年の世界金融危機は、インフォーマル経済で就労している可能性がより高く、低賃金の、より不安定で保護されていない職に就いていることの多い若者(とくに若い女性)に不均衡な影響を及ぼした。国は、今回のパンデミックの影響を緩和しかつこれに対処するための努力に、若者の固有の状況を敏感に考慮し、かつ人間にふさわしい職および社会的保護等を通じて若者の権利を擁護する対応が含まれることを確保するべきである。

ジェンダー

  • COVID-19への効果的対応においては、女性、女児およびLGBTIである人々の固有の状況、視点およびニーズが全面的に考慮されかつ対処されなければならず、またいかなる措置をとる場合にもジェンダーに基づく直接的または間接的差別が行なわれないことが確保されなければならない。
  • 女性・女児は家庭でいっそうのケアを担う役割に直面する可能性が高く、さらなるストレスのもとに置かれるとともに、感染のリスクが高まる可能性もある。女性は世界全体で保健従事者(助産師、看護師、薬剤師および最前線のコミュニティ・ヘルスワーカーを含む)の70%を占めており、曝露および感染のリスクが高まっている。今回の危機が女性・女児に及ぼす不均衡な影響に対処するための、焦点を明確にした措置が必要である。
  • 多くの国で、女性は職業面でも不均衡なリスクに直面する可能性がある。多くの女性はインフォーマル部門(たとえば家事労働、他人の子どもの世話、農業または家業の手伝い)で働いており、真っ先に職を失い、または社会保障、健康保険または有給休暇がないために危機の影響に苦しむ可能性がある。保育にアクセスできることおよび無理のない費用で保育を利用できることに依存している女性も多く、現在ではそれが減少していることから、働いて収入を得る女性の能力がさらに制約されることにつながる。
  • 高齢女性は貧困下で、または低年金もしくは無年金の状態で生活している可能性がより高く、そのためウィルスの影響をより強く受け、かつ物資、食料、水、情報および保健サービスへのアクセスを制限されるおそれがある。
  • 隔離を含む制限的な公衆衛生措置により、ジェンダーに基づく暴力、とくに親密なパートナー間の暴力およびドメスティック・バイオレンスにいっそうさらされる状況が生じている。ジェンダーに基づく暴力の被害者を対象とする支援サービスおよび避難施設は、効果的な付託も含む形で、かつ被害者の安全のための手段の利用可能性およびアクセス可能性を確保しながら、優先的に運用され続けなければならない。COVID-19関連のメッセージには、ホットラインおよびオンライン・サービスに関する情報が含まれるべきである。
  • セクシュアル・ヘルスおよびリプロダクティブ・ヘルスに関するサービスは、救命のための優先事項であって対応に不可欠なものととらえられるべきである。これには、避妊・妊産婦ケア・新生児ケアへのアクセス、STI〔性感染症〕の治療、安全な中絶ケアおよび効果的な付託経路が含まれる。セクシュアル・ヘルスおよびリプロダクティブ・ヘルスに関する必須サービスから他のサービスに資源を転用することは、とくに女性・女児の権利および健康に影響を及ぼすことになり、行なわれるべきではない。
  • LGBTIである人々が直面するリスクもこのパンデミックに際して高まるのであり、これらの影響に対処するための対応計画に具体的措置が盛り込まれるべきである。利用可能なデータが示唆するところによれば、LGBTIである人々はインフォーマル部門で働いている可能性がより高く、かつその失業率および貧困率もより高い。LGBTIである人々にとくに関連する保健サービス(HIVの治療および検査を含む)は、この危機の最中にも継続されるべきである。
  • 政治的指導者および影響力があるその他の人々は、今回のパンデミックを背景としてLGBTIである人々に対して向けられるスティグマおよび差別に反対する声をあげるべきである。
  • 自宅待機制限により、LGBTIである若者のなかには、支援的ではない家族構成員または同居者とともに敵対的な環境に閉じ込められて、暴力にいっそうさらされ、かつ不安および抑うつを高めている者がいる。国は、この期間中、これらの者が支援サービスおよびシェルターを利用し続けられることを確保するべきである。

水および衛生

  • 石鹸と清潔な水で手を洗うことはCOVID-19から身を守るための第一歩だが、安全な給水サービスにアクセスできない人は22億人にのぼる。脆弱な状況に置かれた住民(水へのアクセスが不十分な人々を含む)のニーズに対応することは、COVID-19との世界的闘いの成功を確保するうえで必要不可欠である。
  • 役に立ちうる即時的措置には、水道料金を払えない人々に対する給水停止を禁止することや、貧困下にある人々および来たるべき経済的困窮の影響を受ける人々に対し、危機が続いている間、水、石鹸および消毒剤を(十分な衛生設備にアクセスできないコミュニティに移動ディスペンサーを設置する等の手段を通じて)無償で提供することなどが含まれる。

先住民族

  • 国は、健康に関する先住民族の特有の概念(先住民族の伝統医療を含む)を考慮に入れるとともに、COVID-19に関する予防措置の策定に関して先住民族と協議し、かつ十分な同意に基づく先住民族の自由な事前同意を検討するべきである。
  • 国は、先住民族の領域への立ち入りの規制に関する措置を、とくに当該先住民族を代表する機関を通じた当該先住民族と協議および協力に基づき、整備するべきである。
  • 自らの意思による隔離または初期接触の状況下で暮らしている先住民族について、国その他の当事者は、これらの先住民族をとくに脆弱な状況に置かれた集団と考えるべきである。いかなる接触も回避するため、これらの民族の領域への部外者の立ち入りを防止する交通遮断措置が厳格に実施されるべきである。

マイノリティ

  • 国は、マイノリティが、遠隔地または遠隔地域において、しばしば基礎的物資およびサービスへのアクセスが限られた状況下で暮らしているためにこうむる可能性のある、COVID-19による健康危機の不均衡な影響に対処するための追加的措置を整備するべきである。マイノリティは過密な居住条件下で生活していることが多く、その場合には物理的距離の確保および自主隔離に関していっそうの課題に直面する。デジタル・アクセスおよび親による教育が限られていることも、家庭学習をより困難にする可能性がある。
  • マイノリティに属している人は、資源もしくは公的身分証明書を持たないために、またはスティグマもしくは差別のために、保健ケアから排除される可能性がより高い。国は、健康保険または身分証明書類がない人々を含め、マイノリティのために保健ケアへのアクセスを確保するべきである。

ビジネスと人権

  • すべての企業は、たとえ経済的苦難と公衆衛生上の危機の時代にあっても、また政府が自らの義務を果たしているか否かおよびどのように果たしているかにかかわらず、ビジネスと人権に関する国連指導原則に掲げられているように、人権を尊重する独立の責任を有する。
  • 経済的援助、景気刺激策または企業を対象とするその他の対象化された支援介入の形で行なわれる、COVID-19の経済的影響を緩和するための国の介入策においては、受益者である企業はビジネスと人権に関する国連原則にしたがうべきであることが明記されるべきである。危機に際して企業を支援するための国の措置の中核に、労働者、とくにもっとも不安定な状況にある労働者の保護を位置づけることが求められる。

国際的および一方的制裁

  • 国際社会は、COVID-19パンデミックと効果的に闘う能力を妨げ、かつ生死に関わる医療を必要としている者からそれを奪うことにつながるすべての制裁の解除(または少なくとも一時停止)を唱道するべきである。
  • 制裁を適用している国の政府は、COVID-19パンデミックに対応する各国の努力を阻害する可能性がある措置を直ちに再検討しかつ撤回するよう促される。このような措置には、医薬品、医療器具その他の必須物品の購入もしくは輸送を妨げるもの、医薬品、医療器具その他の必須物品の購入のための資金拠出を阻害するものまたは人道援助の提供を妨害するものが含まれる。

人身取引

  • 国際労働機関の推定によれば、パンデミックに関連して職を失う労働者は約12億5千万人にのぼる。これは世界の労働力人口の38%に相当し、何百万人もの人々が危険なまたは搾取的な就労の被害をいっそう受けやすくなることにつながる。同時に、シェルターおよび支援サービスが縮小に直面することおよび取り締まりの努力がパンデミックの影響を受ける可能性があることから、人身取引への対応が阻害されかねない。
  • 国は、人身取引被害者に保護および援助を提供する国内機構を引き続き支援するべきである。

国際的な協力および連帯

  • COVID-19は、国内および国家間に存在する不平等を白日のもとにさらし、かつ悪化させている。グローバルな連帯および責任共有の精神に立ち、諸国およびすべての主体による多国間主義および国際協力を強化することが緊急に必要である。
  • 困窮している国およびコミュニティへの金銭的・技術的支援は、生命および生計維持手段を救うことにつながりうる。国際社会による短期・長期の集団的対応においては、発展の権利を含むすべての人権が指針とされなければならない。国際的な連帯および協力によって裏づけられた発展の権利は、貿易、投資および金融に関する国内・国際政策ならびに持続可能な開発を可能にする環境を通じて、よりよい状態への復興の一助となるであろう。

  • 更新履歴:ページ作成(2020年4月6日)。/~/原文の修正を反映させる形で、子どもの項を新たに追加し、障害のある人々の項を大幅に修正。ジェンダーの項でも原文の修正(1番目のガイダンスの下線部の追加など)を反映させたほか、参考資料を2点追加。参考資料(全般)にヒューライツ大阪・新型コロナウイルスと人権へのリンクを追加。その他、詳しくはこちらを参照(4月20日)。/ガイダンス本文日本語訳のPDFと国連・社会権規約委員会の声明日本語訳を追加(4月21日)。/障害ジェンダーの項などに参考資料を追加(4月22日)。/参考資料(全般)に国連事務総長の声明を追加したほか、参考資料を追加(4月23日。/子どもの項などに参考資料を追加(4月24日)。参考資料を別のページに移動。/緊急措置の項にOHCHRのガイダンスを追加したほか、一部ガイダンスの日弁連仮訳へのリンクを追加(4月27日)。/新規項目として若者ビジネスと人権人身取引国際的な協力および連帯を追加。その他の修正箇所は後送(4月29日)。/障害のある人々の項にOHCHRのガイダンスを追加し、その他の修正箇所を反映。主な修正箇所は日本語訳PDFを参照(4月30日)。/ガイダンス原文の修正箇所を反映。主な修正箇所は日本語訳PDFを参照(5月16日)。/マイノリティの項にOHCHRのガイダンスを追加(6月4日)。/スティグマ、排外主義および人種主義の項にOHCHRのガイダンスを追加(6月22日)。/先住民族の項にOHCHRのガイダンスを追加(6月30日)。
最終更新:2020年06月30日 03:36