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〜 Prologue  教室にて 〜

【1】


放課後。
数人の生徒が残る教室で、朝倉和美は記事の仕上げに追われていた。
外は雨。夜には台風が近くに上陸するとのことだった。
時折強い風が窓ガラスを揺らし、木々を大きくしならせる。
夏の雨独特の空気に朝倉の作業は殆ど進んでいなかった。
その隣では相坂さよが、窓の外を眺めながら時折何かを指差したり、
「止みませんねぇ」
と呟いていた。
筆を置き、その姿を眺めながら軽く一息入れる。
外を眺めたり、教室の中を見渡したり。よく飽きないなぁと思ってしまう。

そうして何度目の一息か分からなくなった頃、ふと思う。
この娘は60年間見るだけの生活を送っていて、何の会話も無くて何とも思わないんだろうか。
今はこうしてクラスの一員となってるけど、もう少ししたら離れる事になってしまうわけで。
その度にこの子は別れを経験してきたんじゃないのか。
・・・・雨のせいか考えることまでマイナス方向になっていしまう。
そんなことは今更で、私自身何が出来るわけでもない。
何考えてるんだか、と思考を切ったところでさよと目が合う。
その目は「大丈夫ですよ」と、朝倉に微笑みかけるような目だった。

「さよちゃんさ、人の心とか読めたりしないよね?」
ふと思ったことを口に出してみる。
「何のことでしょう?」
クスクスと笑うさよ。なんだかなぁと思いつつ、原稿を仕上げることにした。



【2】


・・・・終わらない。記事を終わらせるのにここまで手こずったのはいつ以来だろう。
雨脚が弱まることの無い中、教室に残っていた生徒も十数分前に下校していた。
(家で仕上げるのは気が進まないしなぁ・・・)
殆どの原稿は仕上がっている。ただ、残り数枚といったところで作業が進まなくなってしまった。
「どうしたんだろうね〜、私」
と話しかけるが、返事が無い。
隣を見ると、話しかけた相手は暗い窓の外をまるで睨むように眺めていた。
「・・・・どうしたの?」
立ち上がり、声を掛けるがさよの反応は無い。
いつもの遠慮がちな表情はなそこにあらず、ただ悲しげな表情で俯いている。
ふと、心配になりその肩に触れようとする。触れることは出来ないとわかっているのに。
「さよ・・・ちゃん?」
再々度声を掛けながら、触れる。そこには制服独特の感触が合った。
ざらざらとした生地越しに伝わる体温。
「え?あれ?」
気づいたときは遅かった、どこかに落ちていく意識。
風が一段と強くなり、窓ガラスを揺らす。台風はすぐそこまで来ていた。



〜 記憶 〜 Main Story

【1】


暗い視界の中で意識が覚める。
(ここは・・・・?
さよちゃんに触って、なぜかちゃんとした感触があって・・・その後は?)
急に周りの景色が見えてくる。

・・・・そこは薄暗い部屋だった。
白装束に身を包み、寝かされている女性。顔には白い布が掛けられている。
それを悲しい顔で見守る見たことのある少女。
見間違える筈が無い、悲しい表情の少女はさよだった。今とまったく変わらない姿をしている。
「母さん・・・私はどうしたら・・・・」
さよがポツリと呟く。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。
声を掛けようとさよに近づいたときだった、
突然崩れていく部屋。
「え・・・っちょ・・・」
さよに触れようと手を伸ばすが、空を切る。
再度訪れる暗闇。
「いったいなんなのよ」
その声も、虚空にこだまするだけだった。



【2】


「おねえちゃん」
「なーに?」
突然聞こえてきたさよと幼い少女の声。
並んで歩く二人、周りの景色はうっすらとぼやけていた。
「おかあさん、とおくにいっちゃったんだよね?」
「そうよ」
「とおいところってどこ?」
「んー、お姉ちゃんにも分からないとこかな」
「それじゃあ、もうあえないの?」
「・・・・・・」
黙ってしまうさよ。
「おねえちゃん?」
「そうね、いい子にしてたらまた会えるかも」
「ほんとに?」
「いい子にしてたら、ね」
幼い少女に向けて微笑むさよ。
しかし、その表情の中に悲しさと自責の念がこもっている事を、朝倉は見逃さなかった。
「・・・・」
何も言えず、歩いてく姉妹を見送る。
そして、ゆっくりと周囲の景色が崩れていく。
後に残ったのはどうしようもない気持ちだけだった。



【3】


包丁でまな板を叩く音。
隣では水を張った手鍋が火に掛けられている。
そんなどこにでもあった夕食の支度の風景。
朝倉は、そんな風景の真ん中にいる割烹着姿のさよを見ていた。
勢いよく戸が開く。
「ただいまー」
無邪気な声であの幼い少女が帰ってきた。
「お帰り、今日は遅かったね」と温かい微笑で迎えるさよ。母親のような雰囲気の笑みだった。

二人きりの食卓。十分すぎるほど暖かかい絵。
今日学校であったことを話す妹。それを頷きながら聞く姉。
優しく微笑んでいるように見えるが、どこか影がかかっているように見えた。
その表情に気づいているのか、いないのか、話を続けるさよの妹。
「きょうねー、いいものもらったんだよ」
思い出したように包みを出す。
「いいもの?」
包みを開くと何かの種が中に包まれていた。
「これは何の種なの?」
「えっとねー、つわぶきっていうんだって」
「へー」
「これをねー、とけいとうのかだんいっぱいにさかせると、あいたいひとにあえるんだよ」
「え?」
「だから『おかあさんがかえってきますように』っておねがいするの!」
「そう・・・それじゃ明日、植えにいこうね」
「うん!」
元気よく頷く顔に、さよは何度目かの微笑を向ける。
そこでその場面は途切れた。



【4】


手を繋いで歩く。
向かった先は時計塔。当時は少しも痛んだところは無く、まだ動いているようだった。
そのすぐ傍に、レンガで囲んだだけの少しいびつな花壇が作られている。
花壇に駆け寄る妹を見ながら、さよは軽いため息をついた。

私自身・・・期待・・・して・・・・

何を言うわけでもなく、植えている様子を見守る。
その妹の無邪気な顔は、朝倉にとって少し辛い物だった。

わからない、けれど彼女が笑ってくれるなら・・・・

朝倉にさよの心が流れ込む。
その度に、よく分からない痛みが朝倉の体に走った。

植え終わり、落ちていた釘で何かをレンガ書き始める。
朝倉が覗き込むと、そこには昨日言っていた『おかあさんにあえますように』と、つたない文字が刻まれていた。
かき終えた妹が振り向く。さよはそれに微笑みで応える。
そんな、姉妹のやり取り。

日が傾いてくる。
「・・・帰ろうか」
妹に声を掛ける。妹は振り向くと、いつもの笑顔で笑った。

雲が赤く焼け、遠く鳥の鳴き声が響く。

緩やかな風に木々が揺れる。

そんな景色の中、二人は手を繋ぎ帰路についた。

その様子を見守る朝倉。
「私は・・・・」
呟く。その先をどう繋げていいのか、彼女には分からなかった。



【5】


「ただいま」
さよの声。
「おかえりなさーい」
それを迎える妹。
「遅くなってごめんね」
「だいじょぶだよ。ちゃんとひとりでおるすばんできてたよ」
「そう、えらいね」
「えへへ〜」

姉妹の会話。

妹の頭をなでる。うれしそうな顔でそれを受けている妹。
それを見守る朝倉。

「どうして─────」
「─────たのよ」

なぜかは分からない。
その光景は朝倉にとって、見ることしか出来ない物の筈だった。
けれど、この二人を見るだけで彼女自身安らいでいた。
朝倉は思う。

この光景が彼女にとってかけがえの無いものなら。
踏み込んではいけないのではないか。
侵してはいけない領域なのではないのだろうか。

しかし

拒否することは叶わず

その場面は訪れる







【6-A】


降り続ける雨。吹き付ける風。
器に落ちる雨漏りの音。
さよは食事の準備にかかっていた。
「おはな・・・だいじょぶかなぁ」
妹が呟く。いつも笑顔だったその顔は不安に染まっていた。
「多分、大丈夫よ」
答える。だが、それだけではその不安がぬぐいきれる筈は無かった。
窓の外を見続ける妹。いつしかさよも暇があれば外を見るようになっていた。

昼食。
食事もままなら無いといった様子で、妹は風で窓が揺れるたびに外を見ている。
「お花は大丈夫だから、早く食べちゃわないと」
「うん・・・・」
返事を返す妹。しかし、様子が変わることはなく、意識は外に向けられていた。
時間が経つほど強くなる風雨。
子供心ながらに心配なのだろう。いつもの笑顔は無く、何をするにも、手に付かない様子だった。
さよ自身、その顔を見ることが辛かったのだろう。
「雨が少し弱くなったら、見に行ってあげるから」
そう、妹に約束した。
「うん、ごめんね。おねえちゃん」
「いいのよ」
そういって、頭をなでる。
風は弱まることを知らず、いつまでも窓を揺らしていた。

「それじゃ行って来るね」
出来るだけ軽い調子で妹に告げる。
傘を持ち、戸を開ける。さよは不安そうな顔にもう一度笑顔を向け、走り出した。



【6-B】


その日が始まるのは、これまでと違ってとても鮮明だった。
叩きつけるような雨や風、その一つ一つがはっきりと聞こえる。
教室にいたときの天候と似ている、朝倉は思った。
その日の姉妹はどこか沈んだ空気で、さよは妹の表情を見るたび辛そうな顔をしていた。
「さよちゃん・・・・」
その呟きは彼女に聞こえない。
朝倉は一言「大丈夫だよ」と声を掛けてあげたかった。
それが出来ないことに歯噛みする。

しばらくして、さよは決心したように花を見に行くことを妹に告げた。
心なしか風が弱まった頃だった。
たかが台風だ。雨風が強いだけで、心配することは何も無い。
誰だってそう思う。
事実、彼女自身それを信じていた。
さよが妹の頭をなで、声を掛ける。

「それじゃ、行ってくるね」

その声を聞いたときだった。
脳裏に浮かぶ何か。
嫌な寒気。

    止めなくちゃいけない

真っ先に思いつく。
「さよちゃん!」
戸を閉める後姿に叫んだ。
聞こえる筈が無いということが分かっていても。

「駄目、待って!」

追いかけた。
遠くなる後姿。
それでも全力で走った。
だが、進んで無いかのようにその距離は大きく開いていく。

いまだに脳裏に浮かぶ何かを振り払いながら追いかける。
これはさよの記憶で、変える事は出来ない。

わかってる

しかし、彼女は追いかけることを止めなかった。止めることが出来なかった。
首筋にはいずる何かを無視して、追いかける。
いつしか景色は無くなり、一筋の道だけが視界に残っていた。

それを認識したそのときだった。
脳裏に浮かんだ何かが声を上げる。


さよの


声だった




  それまで私は三人で歩いてきた。
  優しい母。それに甘える妹。
  どこにでもあるような平穏な家庭、それでも比べようの無い私の唯一の家族だった。
  いつまでもこの生活が続けばいいと思っていた。
  けれど訪れたのは・・・突然の別れ。

  一方的な死を告げられ、愕然とする。
  突きつけられる現実。伝えられない現実。
  最初は辛かった。
  母親という存在が、私にとっても、妹にとっても、とても大きかった。
  代わりにはなれない。そう、実感した。
  それでも、二人で歩いていく。
  妹はずっと笑ってくれていた。
  その屈託の無い笑顔を見るたび、その辛さは癒される。

    「守りたい」

  どうしても、その笑顔だけは。
  だから私は────



【7】


ずっと走っていた。
さよの姿を見つけたとき、私は声を掛けるのを抑えられなかった。

「さよちゃん!」

考えれば、その声が伝わらないことは理解できる。
それでも、反応の無いさよちゃんを見ると、辛くなった。
その辛さを打ち消すように何度も叫ぶ。
何度も。何度も。

けれど、彼女は振り返ってくれなかった。

(どうして・・・?)

呪う。今見ているこの現実を、何も出来ない私自身を、届かないこの声を。

その時だった。
木々を大きくしならせるほどの強風、とっさに腕で顔を覆ってしまう。
視界の隅に飛ばされた傘を見たとき、私の意識は暗転していた。



【8】


─────ん!

──らさん!

朝倉さん!!

私を呼ぶ声。覚醒しきらない意識で無理やり瞼を開ける。
「っ!」
突然の光に視界がくらむ。手で目を押さえながら現状を確認する。
「朝倉さん。起きてください」
「ん・・・」
慣れ始めた目で目の前の少女を確認する。声を出したとき、少し喉が痛んだ。
「どうしたんですか、もうこんな時間ですよ?」
「さよちゃん?」
そう、目の前にいるのは相坂さよ。
その姿を見て、今体験し見たことの重さを私は実感した。
「あの・・・朝倉さん?」
動揺した声でさよちゃんが私の名を呼ぶ。
「・・・・?」
私の頬には、涙が伝っていた。
それに気づくと同時に、溢れてくる涙。
「え、あの、いったい・・・」
おろおろしながら私の心配をしてくれる。
私は溢れてくる涙を抑えようと、腕で目を擦る。それでも涙は止まらなかった。
「どうか、したんですか?」
「・・・・うん、ごめん。大丈夫・・・だから」
柔らかく尋ねてくる声に答えると、私は表情を見せないように寮へ戻る支度をした。
「今日はもう帰るね。ホントにゴメンね」
顔を隠したまま、私は教室から逃げ出した。
今はどうしても彼女の顔を直視できなかったから。

「朝倉・・・・さん」
ポツリと呟いた声がいつまでも耳に残ったのは、私が逃げ出したせいだろうか。





【interlude】(EVANGELINE.A.K.MCDOWELL)

「・・・・・」
「どうかしたのですか?」
従者が主人に尋ねる。主人は目に見えて不機嫌だった。
「・・・・いや」
「朝倉さん、泣いてましたよ」
「重すぎたんだろうな。・・・・やはり人間はそんなものだ」
目を伏せ、言い切る。それがただの上辺のものだと従者は気づいていた。
「何故、このようなことを?」
「あいつのあんな表情は見たくなかった。ただの私の我侭。それだけさ」
複雑な表情をしながら、自分に言い聞かせるように呟く。
「何故、御自身ではなさらないのですか?」
質問を重ねる。
「私は悪の魔法使いだからな」
「・・・・」
疑いの視線を送る従者。主人は舌打ちして、言葉を直した。
「同じ境遇といっても、私じゃ遠すぎる。これは私なんかじゃ出来ない『魔法』とでも言おうか」
「『魔法』ですか」
「何故こんなことをしたのかと聞いたが、私は少し背中押しただけだよ」
「魔法は使っていないんですか?」
不思議そうな顔をする従者。
「・・・・・私も人間に近づきすぎたな。あの頃は多分理解できない。お前みたいにな」
「私が理解できていない・・・と」
「ふふ・・・、今はそれでいいよ。茶々丸」
従者を見て、クスリと笑う。

「あとは、朝倉次第さ」
雨の中走る朝倉を一瞥すると、真祖の吸血鬼はその場を後にした。


〜 過去編 たいせつなもの 〜
               了




【interlude】(SAYO AISAKA)


  そこからは一人きりの道。
  あの笑顔を見るように、ずっと見てきた。
  今ではその「笑顔」も思い出せない。
  思い出せば辛くなる。だから思い出さないのか。
  わからない・・・・

  出会い
  別れ
  その中には悲しみがあった。寂しさがあった。楽しさもあった。
  大切だった物を忘れてしまうほど、それは途方も無く長かった。

  ・・・・・・けれど私は、それを後悔していない。



Epilogue


【E-1】


私は、朝早くから屋上にいた。
逃げ出した後、私は何をする気にもなれなかった。原稿も放り出して、一日あの記憶のことを考えていた。
さよちゃんはこんな私をどう思うんだろうか。
昨日はそのまま学校をサボった。
そして今日、学校へはきてみたものの、教室へ行く気にはなれない。
気晴らしにと屋上へ上がってみる。
一昨日の雨の水溜りが所々にある中、空はぽつぽつと雲が残り、その奥に青が広がっている。
そんな景色が広がっていた。
けれど、そんな景色を見てもどこか沈んだままだった。

「・・・・ふぅ」
何度目かのため息。(私らしくない)数え切れないくらいその言葉を、頭の中で繰り返す。
あの後、さよちゃんがどうなったか大体の想像は出来る。脳裏に浮かんだあの声。
結果が今ここにあるのだから、否定しようが無い。
けれど、それを肯定すればするほど、何かがのしかかるような気がする。
今はまだ、さよちゃんには会いたくなかった。

ふらふらとその場を歩き去る。自然とその足は時計塔へ向けられていた。


時計塔。
今はもうその針が時を告げることは無い。
そのすぐ傍には、たくさんの石蕗の花が咲き誇っていた。
(あの願いは叶ったのかな・・・)
水滴が残る花畑の中、何かを探しながら歩く。
さよちゃんの妹の願い、別れた母親との再会。さよちゃんはその願いから生まれる笑顔を願っていた。
私は、それを知ってよかったんだろうか。
あれこれ考えているうちに、それを見つけた。
それはあの記憶と変わらない場所に、磨り減った形でちゃんとそこにあった。

【おかあさんにあえますように】

あの時刻まれた文字。
そして、あの後に刻まれたであろう

【と おねえちゃん】

と言う文字が目に入った。
(さよちゃんはこれを見て・・・・・)
初めて出会ったあの時、彼女は泣いていた。
スクープを追いかけていた筈の私は、それをカメラに収められなかった。
収めなくて良かった。今でもそう思っている。絶対にそれは間違っていることだから。
そして、今はそのときのさよちゃんの気持ちが、痛いくらいに分かってしまっていた。
(これも、間違ってるよね・・・)
涙が溢れてくる。そんな自分が情けなかった。



【E-2】


どのくらいそこにいただろうか。濡れていない場所に腰を下ろし、ずっと石蕗の花を見ていた。
「こんなところにいたのか」
突然声を掛けられる。
「エヴァ・・・・ちゃん」
予想しなかった訪問者。
「ふん、相変わらず情けない顔だな」」
「知ってるの?」
「何をだ?」
「一昨日のこと」
「あぁ、今と変わらない情け無い顔で走っていたな」
「・・・・そうじゃなくて。・・・・その、さよちゃんの・・・・」
口ごもる。他人には言いにくかった。
「さぁ、どうだかね」
「・・・・答えて」
「関係ないだろう?」
「あれを見たせいで私は・・・」
「ふん、見たことのせいにするのか」
「エヴァちゃんは何も知らないかr」
「私の気持ちなんて分からない。とでも言うのか?」
言おうとした言葉を言われて、言葉を切ってしまう。

「確かに私は、お前があの日何を見たのか知っている。まぁ詳細は分からないがね。

そして、お前はそれを知って後悔している。
さよの過去なんて知りたくなかった。
知ってしまった以上どんな顔をして会えばいいのかわからない。
いっそのこと逃げ出してしまいたい。

違うか?」
「・・・」
全て、当たっていた。
「所詮友情など、そんな物だな。上辺だけのものさ。
逃げたければ逃げればいい。いっそのこと記憶を消してやろうか?」
「・・・・・・」
言い返せない。
自分の考えていたことを言葉にされ、どうしようも出来なくなってしまった。
「・・・・お前は彼女の何なんだ?」
あきれたような声。私はその顔を見ることが出来なくなっていた。
「私は・・・さよちゃんの」
親友だと、そう続けたかった。
けれど今の自分を省みると、そういい切れない。
「・・・・・」
エヴァちゃんは私の言葉の続きを待っている。

続く沈黙。
「・・・・親友・・・・・だと思いたい。でも・・・・」
その沈黙に耐えかねて、私は自分の心を吐露してしまう。
「・・・私は、知らなかった・・・・。知らなさ過ぎた。
あったときこそ・・・・泣いてたけど、話せるようになって・・・・・いつも・・・明るかったし・・・・
60年って言っても・・・・やっぱり想像できなくて
何も・・・・出来ないって事が、あんなに辛いなんて・・・・・おも・・・わなかった・・・・・から
それ・・・に、あれは、私が・・・・見ちゃ・・・いけないもの・・・・だったし
もう、どうしたらいいか・・・わかんなくて」
エヴァちゃんはそんな私を、何も言わず見ているだけだった。
私は吐き出した自分の心を再度認識して、泣いていた。
「・・・・泣いて少しは落ち着いたか?」
「・・・・わかんない」
「まずは、お前がどうしたいか決めることだ」
ため息をつくようにそう言う。

私が、したいこと────

「わからなければ、それまでだ。所詮そんな物だという照明だな」
言い捨てると、エヴァちゃんはその場を去っていった。



【interlude】(EVANGELINE.A.K.MCDOWELL)


「マスターはお優しいですね」
時計塔から去るエヴァに従者が話しかける。
「・・・・いつから見てたんだ?」
「最初カラダナ」
その頭には主人の人形ものっかっていた。
「っ・・・」
顔を紅く染める主人を見て従者が微笑む。
「私はただ自分の我侭を通して、自分の思い通り動かしたいだけさ」
そっぽを向きながら主人は歩いていこうとする。それに続く従者。
「御主人モダイブ人間ラシクナッタナ」
「昨日ご自身で仰ってましたよ」
「う、うるさいっ」
はや歩きになる主人に平然とついていく従者。
「朝倉さん決められるといいですね」
「ケケケ、背中ヲ押シタダケッテ言ッテモ、関ワリスギダナ」
「お前ら・・・」
それでも私の下僕かと言いたかったが、止めておいた。
なんだかとてもおかしくなったから。
「ハハハ、まぁいいさ」
こんな風に笑えるようになったのは、いつからだっただろうか。

これは本編とはあまり関係ない1コマ。
それでも一つのしあわせのかたちである



【E-3】


放課後。授業は全て終わり、さよは一人、昨日今日と休んだ朝倉を心配していた。
「一昨日様子おかしかったなぁ・・・」
朝倉が流した涙の意味が分からず、おろおろするしか無い自分に嫌気がさしていた。
そんな時、
「さよちゃん!」
そんな声と共に、教室の扉が開いた。
「あ、朝倉さん!?」
突然の訪問者にやはり困惑するさよ。そんな姿を見ながら、息を整える朝倉。
「・・・・あの、この間は・・・ゴメンね」
「あ、いいですよ。何をしたわけでもされたわけでも無いんですし」
「違うの」
「え?」
消え入りそうな声の否定。さよはそれが何を意味するのか分からなかった。
「少し、別の場所で話そうか」
「あ、はい」
無理やり明るく繕った顔で提案する朝倉。さよは言われるがまま朝倉の後ろについていった。


屋上。今朝、授業を受ける気になれなかった朝倉が過ごしていた場所。
「・・・・・」
話を切り出せ無い朝倉。
「・・・・・」
そんないつもと違う朝倉に戸惑うさよ。
しばらく重い空気の中、沈黙が続いた。
小さく息を吸う音。
「さよちゃん・・・・あのね・・・・」
朝倉は話した。

過去の記憶のこと
それに対する気持ち

「・・・正直私は、見ないほうがよかったと思ってる。
あの記憶はさよちゃん自身の問題だし、・・・・他人である以上私は踏み込んじゃいけない。
このことは、さよちゃんから話して貰った方が、私は良かった」

さよは黙って朝倉の言葉をきいていた。
言葉を続ける朝倉。

「それでも私は・・・・その、さよちゃんと友達でいたい・・・よ」

言葉を切り、屋上の手すりに体重を預けながら朝倉はうつむいた。

「私はあの日、といっても一昨日ですね。
朝倉さんが見た、生きていた頃の私を思い出していました。
朝倉さんが話しかけてくれてたときは、そんなことなかったんですけど、
静かになっちゃって、ずっと外を見てたら、なんだか変な気分になっちゃって。
いつの間にか、昔のことを思い出してたんです。

・・・・・思い出したくない、わけではないんですけど、
なんだか今更って感じがして。あ、でも、やっぱり昔は大切な物・・・なんですけど。
話したほうがいいかな、なんて思ったんですけど。なんだか伝えられなくて。
そのことで朝倉さんが傷ついたのは悲しいですけど、えっと・・・その。
話してくれて嬉しいって気持ちが大きくて・・・・。
それにですね・・・・私は、過去より今のほうがいいかな・・・なんて」
朝倉の隣に立つ。あの時とは違う優しい風が、頬をなでた。
「うん。そう・・・、だね」
「あの・・・・朝倉さん?」
朝倉の顔を覗き込む。
「ありがとね、さよちゃん」
顔を上げ、ありがとうというその顔は、繕った笑顔ではなかった。

      タンジュンカモシレナイ

「・・・・・はい」
微笑むさよ。

      ソレデモ

「そだ、原稿・・・忘れてた」
アハハと苦笑する。

      イマダケハ

「私も手伝いますよ」
「いや、いいって」
濡れていた瞼を擦る。

      シアワセノ

「今日は一日さよちゃんと話したいしね」
「ふふ、そうですね。私も朝倉さんとお話ししたいです」
「そうだ、もうチョットこっちによって」
「はい?」

「いいから、

はい チーズ」


      キオクヲ・・・・・・


Epilogue 〜しあわせのきおく〜
                  了




後書きみたいなもの

はい、こんな長々しい駄文をかいて申し訳ありませんorz
さよの過去話を自分なりに脚色(?)して物語風にしたものなんですが、
キャラとキャラの会話に違和感がちらほらあるかもしれませんね。
アニメからの設定、それにきっかけのためのエヴァを持ってきています。
これが魔法かどうかは皆さんの判断に任せるとしまして、
こう、さよ×朝のはずが、さよと妹だったり、エヴァ一家になったり。
それはそれでいいのかもしれませんが、さよとの絡みが殆どない・・・・orz
さよと朝倉が独立してしまってますね。
学園長も出したかったんですが、そこまで風呂敷を広げてしまうと
収拾付かなくなってしまいそうなんで止めにしました。
いやー難しい。力不足で本当に申し訳ない。
色々と他にも反省点がありますが、後書きまで長くなってしまうのもあれなので、この辺で。
ここまで読んでくださった方に感謝の意を。ありがとうございました。

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最終更新:2007年11月09日 14:04