アットウィキロゴ

惚れ薬騒動の影で

6-589 名前:惚れ薬騒動の影で 1[] 投稿日:2005/08/08(月) 18:09:38 ID:KPqU76+y0

「ネギく〜ん、好きやよ〜」
「先生、楽しいコトしましょうね〜」
「ふ、服を脱がさないで下さい!」

 教室の空気が一変し、ネギが生徒達のおもちゃにされ始めた時、千雨はしかめっ面で毒づいた。

「けっ、またアホどもが騒ぎ始めやがった。ガキ相手になに盛ってんだか」

 この喧騒で千雨の呟きが誰かに聞こえる事は無かったが、ネギに群がる生徒は増える一方だった。
 薬で狂った生徒達は欲望を抑えられず、ネギの体を求めようとする。
 たまらず逃げ出したネギを追いかけて、クラスメイトの大半も教室から消えた。

 またも空気が一変し、静まり返った教室で、千雨はポツンと席に座っていた。
 寂しいなどとは死んでも彼女は言わないだろうが、さっきまでの騒々しさとの反動で、何か心にくるものがある。

 そんな彼女の席に一人の生徒が近寄った。
 気配を感じた千雨は、その生徒を見上げる。

「ザジか。どうしたんだ?」

 その生徒は親友のザジだった。彼女も教室に残っていたのだ。
 手の甲に小鳥を乗せた彼女が、おもむろに口を開く。
6-590 名前:惚れ薬騒動の影で 2[] 投稿日:2005/08/08(月) 18:10:57 ID:KPqU76+y0
「今、みんなが先生を追いかけてた……」
「ああ。ここに残ったおまえは、バカじゃないみたいだから安心したよ」
「私もちうが残ってくれて嬉しい‥‥」

 ザジは恥ずかしいのか、そう言って手の小鳥をじっと見る。
 そして、続けて強烈な一撃を浴びせる。

「でも、私も時々、あんなふうにちうを追いかけたくなるよ?」
「ちょっ、ばっ…」

 それを聞いた千雨は、顔を真っ赤にして慌てふためく。
 ザジは千雨の反応が不安で、小鳥のくちばしをツンツンと突付く。
 その仕草のかわいさに、千雨の心音が跳ね上がる。

「バカじゃないなら、学校では追いかけるなよ」
「うん♪」

 言ってすぐ、千雨は猛烈な自己嫌悪に陥りそうになる。
 こんな恥ずかしいセリフを言わされれば無理もない。
 だが、喜ぶザジの姿を見れば、それもどうでもよくなってくる。
 二人の空間に、惚れ薬が付け入る隙は無いようだった。


おわり

こんな感じでコミック1巻から順にザジちうをムリヤリ書いてみようと思います。
それでは、失礼しました。

二年生最後の期末テスト

6-790 名前:二年生最後の期末テスト 1[] 投稿日:2005/08/11(木) 01:57:48 ID:icRjJrI70

 夜、千雨はテスト勉強で机に噛り付いていた。
 寝ようとしていたザジが、気になって様子を見に来た。

「テスト勉強?」
「委員長命令が出てな。今回は手が抜けないんだよ」

 勉強嫌いの千雨は、真面目に授業を受けてなかった。
 当然、いつもの彼女ならテスト勉強を頑張る訳も無く、それでザジの目に留まったのだ。
 理由を聞いたザジは何も言わずにこの場を去った。

 少しして、千雨の所へザジが戻ってきた。彼女の手には教科書やノートがある。

「一緒に勉強する」
「ムリに付き合わなくてもいいよ。ザジなら特技で進学もできるし、生きていくことだってできるだろ?」
「そうかもしれないけど……」

 千雨は悪気があって言ったのではなかったが、嫌われたと思ったザジは落ち込む。
 教科書と睨めっこをしていた千雨だが、さっきから後ろでザジが立ち止まったままな事に気付いた。

「まだ寝ないのか?」
「ちうは私と一緒に勉強したくない?」

 背後を見ないで尋ねる。すると、今にも泣きそうな声が返ってきた。千雨は驚いて後ろに振り向く。

「私と勉強したくないの?」
6-791 名前:二年生最後の期末テスト 2[] 投稿日:2005/08/11(木) 01:58:48 ID:icRjJrI70
 いきなり、事態は差し迫っていた。
 ノートを見ながら上の空でザジの相手をしていた千雨は、今の状況が把握できない。
 とにかく、ザジの感情が昂ぶっているのは確かだ。なので、まずは宥めにかかる。

「そんなんじゃなくて……あれだ。部活で疲れて眠いだろ? だから…」
「今はテスト期間中で早く帰れるもん」
「そ、それなら、一緒にしよっか」
「(コクリ)」

 無言で頷くザジは、いささか機嫌が悪いままのようだった。

 二人で勉強を始めて間もなく、片方からスヤスヤと寝息が聞こえてきた。

「まったく……だから、寝ろって言ったんだよ」

 そう呆れながらも、千雨の顔は笑っていた。そして、毛布を持ってきて掛けてあげた。
 それからはザジの寝顔を前に、ちっとも勉強がはかどらなかった。


おわり

二巻の図書館島編からの一コマでした。
ザジもテスト勉強をしなさそうですよね。

終了式の後で

6-903 名前:終了式の後で 1[] 投稿日:2005/08/12(金) 21:17:25 ID:wppeLx980

 千雨は教室の席で震えていた。
 理由は、今も教壇に立つ教師にあった。終了式で来年度も同じ担任になると知り、苛立ちで肩を震わせていた。
 これから丸一年、子供先生との非現実的な日常が続くと考えるだけで、無性に叫び声を上げたくなる。
 千雨は気持ちを静めるために下校した。

 ザジは震える彼女を見て、その気持ちを察した。
 あの禁断症状が出た後、彼女は必ずちうに変身する。
 ザジはちうを想像して頬を赤らめた。

「ザジちゃん、顔が赤いよ。風邪なの?」
「(ふるふる)」
「だったら、パーティーに行こーッ!」
「(!?)」

 ザジは敢え無くクラスメイトに拉致された。

6-904 名前:終了式の後で 2[] 投稿日:2005/08/12(金) 21:18:18 ID:wppeLx980


 外の芝生の丘でパーティーは開催された。
 満開の桜が見頃で、パーティーは順調に盛り上がりを見せる。
 しかし、一人だけ気乗りしない生徒が居た。

「……」

 ザジはもしやと思い、何度も周りを見回す。
 だが、目当ての彼女は見つからない。
 そんなザジの様子に気付く者は無かった。

 しばらくして、パーティーは一段と賑やかになった。
 ネギが女性を同伴して会場に現れたのだ。
 それを見たザジが目を見開く。

「(わ、私だけのちうちゃんがッ!!)」

 その女性はバニーガールに変身した千雨だった。
 まだ他のクラスメイトは、その女性が誰だか分からないようだが、ザジは知っている。
 あれは、ネットの世界での千雨の姿なのだ。
 それはザジだけが知っている千雨の秘密だったのだ。
 ザジは千雨との特別な関係が壊されたような気がして、大いにショックを受けた。
6-905 名前:終了式の後で 3[] 投稿日:2005/08/12(金) 21:19:29 ID:wppeLx980
 そして、すぐに更なるショックが襲う。

「はくしゅんっ!」

 ネギがクシャミをしたとたん、千雨の着衣が散り散りになって弾け飛ぶ。
 屋外で肌を晒した彼女に、ザジは目を奪われそうになる。
 だが、今はそれどころではない。

「(ちう最大のピーンチッ!!)」

 千雨を変態呼ばわりしている奴をぶちのめしたいところだが、助けに行くのが先決だ。
 ザジは軽い身のこなしで千雨の元にひとっ飛びすると、制服の上着を掛けてあげる。

「悪いな、ザジ…」
「(ふるふる)」

 青い顔でげんなりしている千雨と同じように、ザジにとっても災難な一日だった。


おわり

停電の夜

7-136 名前:停電の夜 1[] 投稿日:2005/08/14(日) 22:04:33 ID:lS8qSrsC0

 今夜は年に二回ある停電の日。
 千雨は灯りの点かない部屋で、ノートパソコンをバッテリー電源で広げていた。これなら停電も関係ないし、少しは部屋の灯りにもなる。
 青白いディスプレイを凝視してしていると、顔の真横にザジの首が伸びてきた。

「うひぃっ!」

 暗がりから急に現れたザジに驚き、千雨は素っ頓狂な声を上げる。
 そんなのはお構い無しに、ザジが千雨を見つめて囁く。

「ねえ…暗い部屋に二人きりだと、ドキドキしない?」
「確かにドキドキするな……今のは驚いたよ」
「違う〜!」

 ザジの必死の誘いも空振りに終わった。
 悔しがるザジの横で、千雨は冷や汗を拭う。かく言う千雨も、雰囲気に流されまいと必死だった。

 危機が去り、千雨がディスプレイを眺めていると、今度は背後から衣擦れの音が聞こえ始めた。気になって後ろを見てみる。
7-137 名前:停電の夜 2[] 投稿日:2005/08/14(日) 22:05:30 ID:lS8qSrsC0
「おい、何故に服を脱ぐ?」
「いいじゃない。どうせ、暗くてよく見えないんだし」

 さっきまでふて腐れていたザジが、下着まで脱ぎながら意味不明な受け答えをする。
 ザジが言うように、彼女の小麦色の肌は暗がりに溶けて、ぼんやりとしか見えない。それでも、千雨にとっては十分に刺激的だ。いや、よく見えないのが却って色っぽさを引き立てる。

「いーからッ、さっさと服を着ろ!」

 千雨はそれだけ言うと、逃げるようにディスプレイに向かった。
 それっきり、後ろを見ようとしない。

 ザジにも意地がある。彼女は裸のまま、部屋をうろついたりした。
 しかし、千雨は頑なにそれを無視する。

 先に音を上げたのはザジの方だった。

「ちうのバカァ〜ッ!!」
「あ、コラッ、裸で抱きつくなんて反則だろ!!」

 背中から不意打ちをくらい、千雨は悲鳴を上げる。
 停電から復旧する夜中の十二時まで、こんな感じで二人はバカをやっていた。


おわり

修学旅行の準備

7-355 名前:修学旅行の準備 1[] 投稿日:2005/08/16(火) 23:52:32 ID:lzO08WzN0

 旅行カバンに洗面用具や着替えが放り込まれていく。
 明日は京都と奈良への修学旅行。
 千雨とザジは旅の支度を整えている最中だった。

 しかし、手が動いているのは千雨だけで、もう片方のカバンは空っぽのままだ。見兼ねた千雨が手を休めて口を開く。

「いーかげん、割り切れよ。どーしようもないだろ?」
「ちうと同じ班じゃなきゃヤダ……」

 修学旅行では班別行動が主体になる。それは、せっかくの旅行で離れ離れになるのを意味している。
 ザジはちうと違う班になった事でいじけているのだ。

 班を分ける時、二人は例によってだんまりを決め込んでいた。人前では極端に自分を隠す二人だから仕方がない。
 しかし、それが災いしてこんな結果になってしまったのだ。

 どうしても旅行中、一緒に居たいザジは、苦し紛れの提案をする。

「あのね。二人で班を抜け出すのはどう?」
「やめとけ。新田に殺されるぞ…」
「じゃあ、二人で修学旅行を辞退して、みんなと同じスケジュールで旅行に行こうっ!」
7-356 名前:修学旅行の準備 2[] 投稿日:2005/08/16(火) 23:53:29 ID:lzO08WzN0
 自信満々に握り拳を作るザジに、千雨の冷静なツッコミが入る。

「おまえ、かなり頭がヤバイことになってるぞ。それだと辞退できねーだろ」
「あうっ!!」

 苦悶の表情で頭を抱えるザジ。
 千雨が呆れて息を吐きながら、代わりの案を出してあげる。

「そんなに私と旅行がしたいなら、別の機会に京都でもどこでも一緒に行ってやるよ」
「ホント!?」

 さっきまでの苦悩はどこへやら。それを聞いたザジは、物凄いスピードで千雨に顔を近づけた。
 千雨はその変わり身の早さに少し引きながらも答える。

「あ、ああ」
「約束だよ? 絶対だよ?」
「ああ」

 しつこい念押しが子供みたいで、千雨は思わず口元を綻ばせる。
 その後、ザジのカバンはみるみる物で詰まっていった。


おわり

修学旅行編はネタが豊富でいいね〜。少し長くなるかも

修学旅行 行きの新幹線にて

7-529 名前: 修学旅行 行きの新幹線にて 1[] 投稿日:2005/08/19(金) 00:58:52 ID:tz7m2XsM0

「いいんちょさんは、ザジさんをお願いできますか?」
「構いませんわ」

 そのやり取りを聞いて、ザジは我が耳を疑った。
 あやかは三班の班長。三班には千雨が居る。
 全てを理解した時、ザジはこの新幹線内で踊りたい気分になった。

 夢うつつで指定された座席に向かったザジは、もう一つの幸運に出くわした。

「(前の席はちうだ!)」

 ザジの座席は千雨の真後ろだったのだ。しかも、景色が見える窓際。
 班が離れていたので隣は諦めていたのだが、これも思ってもない幸運だった。

 席に座ったザジは落ち着かなかった。今のこの喜びを前に座る人に伝えたくて、うずうずしていた。
 そして、その欲求は我慢できなかった。

「あら珍しい。この小鳥さん、ザジさんのでしょう?」

 隣に座るあやかが、千雨に声を掛ける。その千雨の頭に、小鳥がちょこんと止まっていた。この小鳥が飼い主以外に懐いている場面は珍しかった。

「この鳥とも同じ部屋で住んでますので……」
「そう言えば、そうでしたわね」
「(ザジの奴、嬉しいのは分かったから、あまりはしゃぐなよ)」

 クラスでのイメージを壊されたくない千雨は、表面上は平静を装いながらも、内心では顔が引き攣りそうだった。小鳥と友達の千雨なんて、今までの彼女のイメージとはかけ離れている。
 そんな彼女の思いも知らず、小鳥は両肩と頭を行ったり来たりと何度も往復する。
7-530 名前: 修学旅行 行きの新幹線にて 2[] 投稿日:2005/08/19(金) 00:59:52 ID:tz7m2XsM0

「おっ、いい絵だね〜」
「(撮るな! このパパラッチ野郎!)」

 一つ離れた隣の朝倉がデジカメを向け、千雨の神経を逆撫でする。
 イライラが最高潮に達しようとした時、追い討ちのようにアクシデントが起こる。

「げえっ、次はカエルかよっ!!」

 膝の上にカエルが落ちてきた千雨は、今度こそ大声で叫んだ。すぐに立ち上がり、後ろの席を勢いよく見据える。

「ザジ!! おまえ――」
「(ふるふる)」
「――って、なんじゃこりゃああ!!」

 ザジの悪さだと思った千雨は叱り付けようとしたが、様子が違った。首を振って真っ先に否定するザジの後ろには、カエル地獄が広がっていたのだ。

「お、おまえの仕業じゃないのか?」
「(コクコクコクコク)」

 車両内が大混乱の中、千雨も混乱しながらザジを問い質す。ザジは分かってもらおうと頷き続ける。
 まもなくカエルは全て捕獲され、事無きを得たが、修学旅行は出発から波乱含みだった。

7-531 名前: 修学旅行 行きの新幹線にて 3[] 投稿日:2005/08/19(金) 01:00:44 ID:tz7m2XsM0


 新幹線を降りた千雨はザジを疑った事に後悔していた。ザジが嘘を吐く所なんて見た事もないし、彼女が大勢の人に迷惑を掛けるなんて、もっとありえない。
 千雨は駅内の自販機に立ち寄り、缶ジュースを一本買った。
 人ごみの中でザジを見つけて近づき、無愛想を装ってジュースを差し出す。

「これ、やるよ」
「?」

 人前で千雨の方からザジに接触するなんて稀だ。驚いて呆けているザジに、恥ずかしいから言わせるな、といった感じで理由を教える。

「さっき、ザジを疑ったお詫びだ」
「アリガト!」

 ジュースを貰ったザジは嬉しさのあまり、ついいつものように笑顔で抱きついた。

「――あ、バカ! 離れろッ!」

 公衆の面前で抱きつかれ、千雨は思いっきり焦る。急いで引き剥がし、周囲を見る。幸い、クラスメイトには目撃されなかったようだ。

「ザジ、気をつけろよ」
「(コクリ)」

 頷く彼女は、普段の無表情に戻っていた。


おわり

修学旅行 京都寺社巡り

7-668 名前: 修学旅行 京都寺社巡り 1[] 投稿日:2005/08/21(日) 02:10:45 ID:7fNFCAYd0

 3−Aは清水寺の舞台で記念撮影を終わらせていた。

「恋占いの神社があるんだって」
「行くっきゃないっしょ」

 この年頃の関心事は、受験と恋愛の二つと相場が決まっている。3−Aが集まっていれば、黙っていてもそっちの情報が耳に入る。
 女子中学生らしい会話が飛び交う中、千雨の所にザジが寄って来た。目が合っただけで、千雨はなんとなく言いたい事を理解した。

「ザジも行きたいのか?」
「(コクコク)」

 短い会話の後、二人は一緒に歩き始める。誰かがこの様子を見ていれば、二人が親しい仲だと一目で分かっただろう。
 移動中、千雨はザジが手に持っている物に気付く。

「まだ飲んでなかったのか。もうぬるいだろ、それ」

 それは千雨が駅で買ってあげた缶ジュースだった。買ったのはオレンジジュースなので間違いない。しかも、まだ未開封だ。

「いらなかったら捨ててもいいよ」
「(ふるふる)」

 そう言われたザジは、缶を大事そうに抱えて首を大きく振る。旅先で買って貰えたのがよほど嬉しかったのか、ずっと飲まずに持ち歩いていた。
 たかが缶ジュースを宝物のように扱われ、千雨は嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。

7-669 名前: 修学旅行 京都寺社巡り 2[] 投稿日:2005/08/21(日) 02:11:50 ID:7fNFCAYd0


 鳥居をくぐって境内に足を踏み入れた千雨は、騒ぎを見て閉口した。

「(こいつら、何やらかしたんだ!?)」

 騒ぎの中心には、何故か大きな穴が掘られている。その周りに3−Aの生徒が集まっていては、こう思われても仕方ない。
 千雨が唖然としている横で、ザジは看板の説明を読み終え、恋占いの石に歩み出る。

「お、おい、危ないからやめておけって」

 心配して千雨が引き止める。大穴の反対側の石まで目を閉じて辿り着こうなんて、馬鹿げている。
 しかし、ザジは制止を聞かず、小鳥を千雨の頭に預ける。
 ザジはゴールの位置を確かめた後、ゆっくりと瞼を下ろし、両腕を翼のように広げる。
 そして、音も無く飛び立った彼女は前に宙返りをし、短いようで長い滞空の末、見事にゴールの石の上に着地した。
 その美しさに見惚れていた千雨だが、瞼を上げたザジがこちらを見た事で正気に戻る。

「そういや、おまえも普通じゃなかったな……。何メートル跳んでんだよ。それに、祀ってある石を足蹴にして、バチが当たっても知らねーぞ」

 曲芸部で鍛えているザジにとっては、こんな事は朝飯前だった。彼女の運動能力と距離感覚は常人を超えている。
 華麗な跳躍に拍手喝采が沸き起こる中、千雨は一人、照れ隠しにブツクサと呟いていた。

 この後、二人は音羽の滝で水を飲もうとしたのだが、その前に飲んでいたクラスメイトに何故か酔い潰れる者が続出し、3−Aは先に旅館入りする事となった。


おわり

修学旅行 一日目の夜

7-865 名前: 修学旅行 一日目の夜 1[] 投稿日:2005/08/23(火) 00:19:13 ID:1oozCR4W0

 浴衣姿のザジは旅館の部屋で外を眺めていた。窓際に用意された椅子に座り、夜の景色をぼんやりと見ていた。
 泥酔したあやかが布団に寝かされているので、部屋の電灯は消してある。窓から入る月明かりが、彼女のシルエットを形作る。

 静かな足音とともに新たな影が現れ、向かいの席に腰を下ろす。

「何か見えるのか?」
「ただ見てるだけだよ」

 千雨の問いにザジは言葉で返事をする。この部屋には、酔って寝ているあやかを除けば、今は二人だけしかいない。他のみんなは遊びに出かけていた。

 千雨が持っていた水筒を机に置き、コップに中身を注ぎ始める。

「音羽の滝の水をもらってきたんだ。飲みたかったんだろ?」

 それを聞いたザジが目を輝かせる。訳の分からない騒動のおかげで、縁結びの水を飲めなかったのだ。すぐさま、ザジはコップに手を伸ばし、水筒が上から退くのを待つ。

「慌てるなよ。誰も飲んだりしないからさ」

 千雨が苦笑しながら水筒を下げたとたん、コップに口を付ける。一息に飲み干したザジは、ダンと音を立ててコップを机に置いた。

「うふふ、おいしい‥‥」
「ザ…ザジ、どうしたんだ?」
7-866 名前: 修学旅行 一日目の夜 2[] 投稿日:2005/08/23(火) 00:20:26 ID:1oozCR4W0
 ザジの様子がおかしい。目が妖しく光っていて、変な笑い方をしている。そして、千雨は同じ部屋で寝ているあやかを思い出した。

「(酔っぱらったのかあっ!?)」

 嫌な予感がした千雨は席を立とうとしたが、手遅れだった。ザジは机に膝を置いて身を乗り出し、千雨のすぐ前に迫っていた。

「ちう〜、これで二人は結ばれたんだよ〜」
「その発言はヤバイって!」

 危険を察知した千雨は、椅子の背もたれに体を預けて逃げようとする。だが当然、ザジは逃がさない。千雨の肩を手で押さえ、太ももの間に膝を割り込ませる。
 そして、千雨が何かを言おうとした瞬間、その口は塞がれた。

「――んうッ!?」

 一つの椅子の上で、二つの影が重なり合う。千雨は頭が真っ白になり、全身から力が抜けるのを感じた。
 この沈黙は、もうしばらく続いた。
7-867 名前: 修学旅行 一日目の夜 3[] 投稿日:2005/08/23(火) 00:21:13 ID:1oozCR4W0
 どれだけ経ったのか、キスで脱力した千雨は、今も寄りかかるザジを呆然と受け止めていた。だが、椅子の上の影は少しも動かない。
 少しして、千雨の意識がキスの余韻から戻ってきた。

「……ザジ、そろそろ離れてよ」

 返事も無ければ、動く気配も無い。仕方なく、もう少し強めに言う。

「おいってば。見られたらどーすんだ」

 それでも反応は無い。おかしいと思い、ザジの様子を見てみる。

「スースー」
「寝てんのか……」

 ザジは酔ってそのまま眠っていた。規則正しい寝息が千雨の耳元で繰り返される。呆れた千雨は文句を言いながら立ち上がり、ザジを抱きかかえる。

「何やってんだ、ホント。よいしょっと……軽いな」

 布団は全員分が敷いてある。ザジを寝かせ、首まで布団を掛けてやる。
 その無防備な寝顔を見ていると、さっきのお返しがしたくなってきた。そっと顔を近づけ、触れる程度に唇を合わせる。

「これで、おあいこだ」

 そう囁いてすぐ、千雨は顔を真っ赤にした。

7-868 名前: 修学旅行 一日目の夜 4[] 投稿日:2005/08/23(火) 00:22:04 ID:1oozCR4W0


 気になった千雨は水筒を取り、中身をコップに注いだ。そして、それを飲んだ時、気付かなくてもよかった事に気付く。

「コレっ、ただの水じゃねーか!!」
「あれ、ばれちゃった?」

 千雨の叫びに、寝ていたはずのザジが即答する。水筒の中身は酒でも何でもなかったのだ。ザジの声を聞いた千雨は、驚いてそちらを見る。

「起きてたのかよッ!?」
「うん。だって、ただの水だもん」
「うがあっ!?」

 最初からザジは狸寝入りをしていたのだ。千雨は自分がやってしまった痴態を思い出し、恥ずかしさに身悶える。
 修学旅行の夜は、まだ始まったばかりだ。


おわり

前回のに絵が付いててビックリですよ。
お酒イベントは必須だろうと言う事で、ザジに酔ってもらいました。(酔ってませんけど)
先が読めそうな話ばかりですみませんorz

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年07月29日 02:31