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26-12
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:45:42 ID:???
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和泉亜子の放課後は多忙である。
週二回は保健室に待機せねばならず、それ以外の日は男子サッカー部のマネージャーとして額に汗を
流しているのだ。当然、休みの日なんて殆ど無い。
事情を聞いたネギが心配したこともあった。けれど、そんなネギを亜子は軽く笑い飛ばしたものだ。
「あはは。大変やなんていっぺんも思うたコトないから。ウチが好きでやっとるコトやし」
そう言って亜子はただ穏やかな笑顔でネギの頭を撫でた。当人にしてみれば当たり前の事である。
和泉亜子という人は誰かの世話をするのが大好きなのだから。
こうして亜子は今日も保健室に佇んでいる。ケガ人や病人などそうそうやって来るものでもない。現に保健医は
職員室の方が居心地が良いのか、あまり顔を出さない。保健委員の当番の時は亜子がこの空間の主であった。
誰も来ない保健室。けれど、亜子が退屈と感じた事は無い。患者が来ないのはいいことだ、と亜子は思っている。
それに騒がしい麻帆良学園において、ゆったりと一人の時間を味わえるのは幸せだと考えていた。
グラウンドが見える窓際のベッド。ここが亜子のお気に入りの場所だ。晴れの日は運動部の部活風景を
のんびりと観察し、雨の日は微かな雨音に耳を傾けながら読書をする。それが亜子にとって至福のひとときであった。
当面の課題は曇りの日をどうやって楽しむか、である。今日はあいにく曇り空である。それが、少しだけ残念であった。
亜子がランニングに精を出す運動部を眺めていると、本日一人目の患者がやって来た。
「あれっ、どないしたん史伽?」
やって来たのはクラスメイトの鳴滝史伽であった。史伽は亜子の姿を確認すると、途端に情けない表情を浮かべた。
「ふええ……、お姉ちゃんのイタズラにビックリした拍子に足首をひねっちゃったんです……」
史伽はひょこひょこと左足を引きずっている。一応、一人で歩けるようなので重傷では無いだろう。
「風香のイタズラも困ったもんやなあ……」
亜子は苦笑しながら史伽の痛めた足首を診る。少し腫れているが、思った通り大した事は無さそうだ。
「軽いネンザやね。手当てするからちょっと待ってな」
「お願いしますです……」
亜子はてきぱきと救急箱を取り出し、的確に応急処置を施した。
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26-13
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:46:19 ID:???
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「はい、これでお終い」
史伽はおそるおそる立ち上がってみる。先程まであんなに痛かった足が、今はなんともない。
「うわあ、ぜんぜん痛くないですー!」
「えへへ、サッカー部で慣れとるから。打撲とネンザの手当ては得意中の得意や」
「亜子さんすごいですー!」
史伽は尊敬の眼差しで亜子を見つめる。その視線があまりに純粋だった為に、亜子はちょっと
照れくさくなってしまった。
「お、大袈裟やな史伽は……。でも二、三日は安静にしてなあかんよー。今晩、寝る前にウチの部屋おいで。
もっぺんテーピングしたるから」
「ありがとーです!」
史伽は嬉しそうに手を上げながら笑顔で答える。こういった仕草は双子の姉である風香にそっくりだな、
と亜子は思った。風香と史伽は正反対といっていいほど性格が違う。けれど、感情をストレートに
表すところは一致していた。
と、史伽は突然きょろきょろと辺りを見渡す。
「ん? どないしたん?」
「いえ、亜子さん一人で淋しくないんですか? 保健の先生も居ないみたいですし……」
「まあ、保健室ゆーのはどこも殺風景やから、フツーはそう思うやろうな。けど、ウチは好きなんよ。
ココにおるとまったり出来て落ち着くんや」
「へぇ……、そうなんですか」
史伽はしばし保健室を観察する。清潔さを第一とした、真っ白な空間。確かに人によっては居心地が
悪いのかもしれない。けれど、隅々までぴかぴかに清掃がゆき届いた部屋というのは、史伽にとって
理想的なものであった。
「あの……、しばらく私もここにいていいですか?」
「別にかまへんけど?」
亜子が笑顔のまま小首を傾げると、史伽はえへへ、と笑って答えた。
「なんとなく、です。私も今日はのんびりしたくなったんです。お姉ちゃんと一緒にいると楽しいですけど、
いつもどたばたしてますから」
「なら、こっちでおしゃべりしてよっか」
亜子はくすっ、と笑って史伽をお気に入りの場所に招く。二人並んでベッドに腰を下ろした状態で、
二人は穏やかな時間を過ごした。
結局、この日は史伽以外の患者が来る事は無かった。
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26-14
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:47:00 ID:???
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その日の夜。こんこん、と亜子とまき絵の部屋を誰かがノックした。ぱたぱたとまき絵が玄関に向かうと、
そこには風香と史伽が待っていた。
「いらっしゃい。ほな、こっちおいで」
史伽の姿を確認すると亜子は部屋に上がるように手招きする。
「風香は付き添いなん?」
亜子が尋ねると、風香は珍しくしゅんとしている。
「だって、ボクのせいで史伽がケガしちゃったんだから……」
「へー、風香もお姉さんらしいトコあるじゃん」
「う、うるさいなあ。まき絵は関係ないだろーっ!」
よりによってまき絵に指摘されてしまった風香はムキになって突っ掛かる。亜子と史伽はくすくすと笑って
二人のやりとりを眺めていた。
「ほな、始めよっか。―――おっ、大分ようなっとるみたいやなあ。腫れも治まっとるし」
亜子は入念に患部のチェックをしながら、再びテーピングを施す。前回の処置では湿布を貼っていたが、
回復が順調なので今回はテーピングのみに留めておく。
「―――うわあ、やっぱり亜子ってスゴいねー」
横から見ていたまき絵が呟くと、風香もうんうん頷いている。
「もう、そない持ち上げてもなんも出えへんよ。それに、テーピングやったら素人でもすぐ覚えられるし」
「そうなんですか? ―――あの、私でも出来るようになれますか……?」
史伽が尋ねると、亜子は笑顔で頷く。
「史伽やったらすぐ出来るようになるんちゃう? ―――なんなら教えよっか?」
「本当ですか! ぜひ、お願いしますです!」
「ねえねえ、私もやりたーい」
「ボクもボクもーっ!」
ぱあっ、と史伽が表情を輝かせながら答えると、何故かまき絵と風香まで食いついてしまった。
亜子は苦笑しながら史伽のテーピングを終えた。
「ほな、みんなで練習しよっか。ちょい待っててな……」
亜子は自分の机の引き出しから包帯を三本取り出す。骨折した時などに使う、固定用の包帯だ。
ふと、亜子は包帯を手にしながら昔の自分を思い返していた。
(懐かしいな……。最初はウチも包帯使うて練習しとったわ……)
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26-15
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:50:19 ID:???
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それは、まだ亜子が小学生だった頃。麻帆良に来る前の話。
亜子が最初にテーピングを施した相手は、実の兄であった。亜子の兄は小学生の頃からサッカーをやっていて、
試合があると亜子もよく応援に駆けつけたものだ。
地元での公式戦。そこで事件は起きた。
一点ビハインドで後半残り十分。相手のDFと交錯した兄は足を痛めてしまったのだ。
交代を告げるコーチに、兄は必死に食い下がった。兄の剣幕に根負けしたコーチは、兄の痛めた膝にテーピングを
施した。すると、あんなに痛そうに足を引きずっていた兄が何事も無かったかのようにプレーに参加している
ではないか。
この時の亜子の驚きは、史伽以上のものであった。結局、試合はロスタイムに兄が一点を返し、引き分けに
持ち込むことが出来た。試合後、亜子はコーチに尋ねた。
「あの……! ウチにテーピングのやり方を教えて下さいっ!」
コーチは一瞬、面食らった様子だったが、すぐに破顔して亜子の頭を撫でながら、了承した。
兄のケガは軽いものではなく、しばらくは安静にする必要があった。次の日から亜子は兄に習いたての
テーピングをしてあげた。最初は上手く固定出来なかったものの、兄の痛みを除いてあげたい一心で、
亜子はみるみる上達していった。
兄のケガが完治しても、亜子は練習を止めなかった。保健の先生に何度もお願いして、様々な箇所のケガに
対応出来るようになった。
そして、練習の成果を試す機会が訪れた。
クラスの遠足の時。はしゃぎ回っていた一人の男子が、足首をひねったのだ。その子はとても気が強く、
友達や先生が心配そうに気遣っても、何ともないと言って強がっていた。けれど、時折表情を歪めながら
足を引きずっているのを亜子は見逃さなかった。
その子は亜子にとって、ちょっとおっかない子であった。当然、あまり話したこともない。けれど、怪我人を
見過ごす事は出来ない。亜子は少しだけ勇気を出して、その子に話しかけた。
「あ、あの……。ウチがおーきゅーてあてしてあげようか……?」
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26-16
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:51:02 ID:???
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「ええって! これくらいなんともあらへん!」
その子はいつものようにまくしたてた。気の弱い亜子はそれだけでビクビクしてしまう。
けれど、この時の亜子は必死で食い下がった。
「アカンて! 放っといたらひどうなるだけやん!」
普段は見せない亜子の勢いにその子はびっくりしてしまう。そして、しぶしぶと腰を下ろし痛めた足を投げ出した。
「靴脱いで。……靴下も」
亜子は自分のリュックからテーピングを取り出し、すっかり腫れあがっていた足首を丁寧に固定した。
「どうやろ……。立てる?」
亜子に言われてその子は立ち上がった。すると、それまで頑なだったその子の表情がみるみるうちに綻んでいく。
「うそやろ……。痛うない、もう痛うないでっ!」
そして、その子は亜子に眩しいばかりの笑顔を見せたのだ。
「和泉ってすごいやんか! まるでまほーつかいや! ありがとーな、和泉!」
「えへへ、よかったなあ……」
亜子は照れくさそうに答えた。ちゃんと出来た安堵感と、その子に褒められた嬉しさで一杯だった。
その時の感動は、今も心に残っている。
ずっと忘れられない、大切な思い出―――
「亜子〜、早くやろうよ〜」
まき絵の呼び掛けに、亜子は現実に引き戻される。
「あっ、と……。ごめん、ほけ〜っとしとったわ」
思い出を胸に仕舞い、亜子は三人に包帯を手渡す。
「ほな、史伽はウチの足首を固定してな。まき絵も風香もよう見とき」
亜子はパジャマの裾をたくし上げ、史伽の前に差し出す。
「い、いきますです……!」
史伽は緊張しながら作業を開始した。亜子がしてくれたようにやや固く巻き付け、丁寧に処置を施していく。
「ど、どうでしょうか……?」
亜子はくいくい、とテーピングされた方の爪先を動かしてみる。まだまだ余裕があるのか、足首はスムーズに
可動している。
「もうちょいキツめでもええかな? 巻き方はええよ」
「はいですっ!」
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26-17
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/04(土) 23:52:07 ID:???
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史伽は急いでテーピングを解き、再び挑戦する。あまりに熱心な史伽の様子に、亜子の表情から自然と
笑みがこぼれる。
「うん、これならバッチリや!」
「ホントですかっ!」
今度は上手くいったようだ。亜子に褒められた史伽は途端に表情を崩す。
「ほな、まき絵と風香もやってみて。史伽はもっぺん練習な」
「よーし、史伽よりカンペキにやってやるぞー」
「お―っ!」
まき絵も風香も気合い充分である。だが、この二人の集中力が長続きする訳がなかった―――
「いたたっ! ふ、ふーかぁ、ちょっとキツ過ぎだって!」
「まき絵だってやりすぎじゃん! こんなに固く結んじゃったらほどけないだろっ!」
「いたいいたい、止めて〜っ!」
「きしし、な〜んか面白くなってきたぞ〜」
風香が全力で縛るものだから、まき絵の足首はうっ血している。
「くっ……、こうなったらお返しだよっ!」
ひゅるるる……
「ぐえっ!」
まき絵の放ったリボンが、鮮やかに風香の首を捕えた。
「もう、まき絵さんもお姉ちゃんも真剣にやって下さいっ!」
「どーせこないなコトになる思うとったわ・・…」
憤慨する史伽を尻目に、亜子は呆れ返っていた―――
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26-74
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 05:51:51 ID:???
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それからというもの。史伽はちょくちょく保健室に顔を出すようになった。
怪我人が運ばれると亜子の処置を食い入るように観察し、空いた時間には応急処置の練習に励んでいた。
そんな史伽に、亜子はずっと付き合ってあげた。かつての自分を見ているようで、亜子は史伽の成長ぶりを
微笑ましく見守っていた。
その日は朝から雨が降っていた。
「―――と、コレなんかええんちゃう?」
昼休み。亜子は図書館を物色していた。
「はい。入門書としてはいいと思います」
隣で紙パックのジュースを口にしながら夕映も同意する。ちなみに、今日の夕映のジュースは
『マロン&オレンジ・ラテ』である。
「ありがとうな、夕映ちゃん。やっぱ図書館のコトやと頼りになるなあ〜」
「いえ。そういう事情てしたら私も喜んで協力するです」
と、夕映はいつもの無愛想な表情で答える。
「ほな、ウチ行くわ。ありがとうな!」
「和泉さんも頑張って下さいです……」
夕映は亜子が見えなくなってから、ぽつりと呟いた。
「こんにちはー、ですー」
ガラガラと保健室のドアが開き、今日も史伽がやって来た。
「あら史伽さん。今日もお勉強しにきたの?」
デスクで事務仕事を行っていた保険医が笑顔で振り返る。その隣では、亜子が嬉しそうに手招きしていた。
「今日はな、簡単な診断も出来るように、って本借りてきてん。こっちおいで〜」
「はいです〜」
いつものように、亜子と史伽はベッドに並んで座る。今日も保健室は平和なようで、患者の姿は無かった。
しとしとと雨音が微かに響く中、亜子と史伽の勉強会が始まった。亜子は簡単な症例を例えに挙げ、
入門書を片手に史伽が答える。元々、史伽はクラスでも頭は良い方である。亜子が目を丸くするような早さで、
史伽は知識を吸収していった。
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26-75
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 05:52:50 ID:???
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「ふふっ。熱心なのはいいけど、そろそろ休憩にしなさい」
仕事が上がったのか、保険医は大きくのびをすると二人に声を掛けた。そして、三人分の紙コップを取り出し、
インスタントコーヒーを作る。
「はい。頑張ってる二人におすそ分けよ」
「えへへ。ありがとうございます」
「あ、ありがとうございますです……」
それぞれコーヒーを受け取ると、保険医はくすりと笑った。
「優秀な助手が増えて嬉しいわ。史伽さんも良かったら保健委員に入らない?」
「ふえっ? い、いや私は……」
「センセ、ラクしたいだけなんちゃうん?」
保険医の唐突な一言に史伽がたじろいでいると、亜子の鋭いツッコミが入った。
「あっははは。やっぱ分かるー? ま、史伽さんは美化委員の仕事もあるから掛け持ちはムリか」
保険医はからからと笑った。この女医はこうやって生徒をからかうのが趣味らしく、その気さくな人柄が
生徒には評判が良い。
「ま、病気や怪我の対処法を知っておくのはいい事よ。でもね、あくまで保健室の仕事は応急処置だから。
深刻な状況ならすぐさま病院に連絡する事を忘れないでね」
最後に保険医らしい忠告を言い残して、彼女は保健室を後にした。
時刻は午後五時を過ぎている。この時間になれば、保健室のお世話になる患者は滅多に現れない。
「なあなあ、史伽はなんでそないに熱心なん?」
何気なく、亜子は質問した。
「ええと、最初は憧れだったんです。私も亜子さんみたいになりたいなあ、って」
史伽は無邪気に答える。
「でもでも、お勉強していくうちに思ったんです。こうやって人のお世話をするのって素敵だなあ、って。
だから、私も早く亜子さんみたいに応急手当出来るようになりたいです!」
史伽らしいまっすぐな考えに、亜子は穏やかな笑顔で頷いた。
「史伽はもう充分出来とるよ。後は実践あるのみや」
そう言って亜子は優しく史伽の頭を撫でた。
「実践、ですか……」
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26-76
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 05:53:35 ID:???
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と、その時。保健室のドアが開いた。
「亜子〜、部活で足ひねっちゃったよ〜」
情けない声を上げたのは裕奈だった。後輩のバスケ部員に支えられた状態で、裕奈は左足を痛そうに
引きずっていた。
「ゆ、ゆーなさん?」
「どないしたんや、ゆーな! しっかりしい、すぐ手当てしたるから!」
すぐさま亜子は椅子を用意し、裕奈を座らせる。
「さんきゅ。もう大丈夫だから、練習戻っていいよ」
裕奈は付き添ってくれた後輩に礼を言うと、後輩はぺこりと頭を下げて退室する。
「ちょっとひどいなあ……」
亜子は慎重に裕奈のバッシュと靴下を脱がせると、冷静に患部を診察する。史伽もサポート役に回り、
手際良く救急箱を用意すると冷却スプレーを取り出した。
「いきますです……!」
史伽はカシュカシュ、と冷却スプレーを軽く振った後、アイシングを始めた。その間に亜子は湿布を
手頃なサイズに切り分けている。
「うう〜、ひんやりして気持ちいい〜……」
「どうやろ、ちょっとは痛み治まったやろか?」
患部に湿布を貼り付け、亜子は状態を伺う。すると裕奈は普段通りの明るい笑顔を浮かべた。
「うん。少しは良くなった、かな? ところでさあ、なんで史伽がお手伝いしてるのかにゃー?」
「え、えっと、私も亜子さんみたいに手当て出来るようになりたくて……」
「ほんで、時々こーやってウチのお手伝いしながら、一生懸命お勉強しとるんよ」
やや赤面しながら史伽が答えると、亜子は妹を見守る姉のような表情で付け加えた。
「へぇ、随分頑張ってるみたいだね〜。アイシングしてくれてありがとっ!」
「い、いえ、このくらい……」
裕奈に礼を言われた史伽はますます顔を赤くする。
「史伽は頑張っとるよ〜。―――せや、なんならテーピングは史伽がやってみる?」
「ええっ! わ、私がですか……?」
亜子に指名された史伽は驚きの色を隠せない。
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26-77
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 05:57:28 ID:???
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「えっと、大丈夫なの?」
「うん。ウチのお墨付きやっ!」
さすがに裕奈もやや不安げに尋ねる。だが、亜子は自信たっぷりに答えた。あの亜子がここまで言い切るのだから、
と裕奈もあっさりと納得してしまう。
「―――だってさ。じゃあ史伽、よろしく〜」
「わ、分かりましたです……!」
史伽は意を決してテーピングを手にする。
(待ってて下さい、ゆーなさん。すぐ楽にしてあげます……!)
一呼吸置いて、史伽はテーピングを施した。
「おおっ、上手上手。あんま痛くないよ!」
「きっちり固定されとるし、その調子や!」
二人の声援を受けて、史伽は一心不乱にテーピングを巻き続ける。そして、処置は終わった。
「ど、どうですか……?」
史伽に促され、裕奈はそうっと足を床につける。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「―――おお〜っ、これなら歩けるよ!」
裕奈の表情が驚きから笑顔に変わっていく。すとん、と裕奈は再び腰を下ろすと、史伽の腕を引っ張った。
「きゃっ! ゆ、ゆーなさん?」
「あははっ! でかした史伽! バッチリ出来てるじゃん。ありがとうね!」
足に負担を掛けないように注意しながら、裕奈は史伽を抱きしめた。そして、これでもかというくらいに
史伽の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「あぶぶぶぶっ! ゆ、ゆーなさん落ち着いて〜っ!」
「あはは。過激な愛情表現やな……」
微笑ましい光景を前に、亜子はくすくす笑っていた。
「ちゃんと出来とったで。良かったなあ、史伽」
「うんうん。ホントにありがとうね、史伽!」
「―――はいっ!」
二人に評価してもらえたのか余程嬉しかったのか、史伽は溢れんばかりの笑顔で答えた―――
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26-78
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 06:10:56 ID:???
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帰り道。亜子は裕奈の足に負担を掛けないように肩を貸し、その隣で史伽は裕奈の荷物を持って歩いていた。
「嬉しいけど、ここまでしなくても……」
二人に迷惑掛けっぱなしの裕奈はやや居心地が悪いみたいだ。
「いいえっ! ゆーなさんはケガ人なんですからっ!」
「せやせや、ケガ人は大人しゅうゆーコト聞かな」
史伽が生真面目に反論すると、亜子もくすくす笑いながら同調する。ちぇー、と裕奈は苦笑した。
「じゃあ今度さ、二人にパフェでもオゴっちゃうね!」
「わ。ホントですかー」
途端に史伽の表情が輝く。これには亜子も裕奈も笑いを堪え切れずにいた。
「―――なーんかさあ、亜子と史伽って姉妹みたいだね」
唐突に裕奈はそんな事を切り出す。
「もう、何ゆーとるん。史伽には風香がおるやん」
やや呆れた表情で亜子はツッコミを入れるが、史伽のほうはまんざらでもない様子である。
「え、えっと、私はその……、お姉ちゃんとは双子なんで一般的なお姉さん、とはちょっと違うような……。
亜子さんはかえで姉みたいに頼りになる素敵な方だと思いますです……」
「ええっ! ウ、ウチそんな長瀬さんみたいにおっきないよ?」
亜子が狼狽すると、ここぞとばかりに裕奈が悪ノリする。
「……胸が?」
「ちゃうわ! 身長とか包容力やっ! ……た、確かにソッチも相手にならんけど」
「あはは。でも亜子と史伽だったらちょうどいい身長差じゃん? 包容力だったら負けてないし。
―――史伽だってさ、長瀬さんに亜子、ってなカンジでいっぱいお姉さんいる方がいいよね〜?」
「はいです〜」
「もう……。あんま恥ずいコト言わんといて〜」
亜子がわたわたする程、裕奈はエスカレートしていく。
「え〜? 史伽が妹じゃ不満なの〜?」
「や、そないなコトあらへんけど……。史伽かわええし……」
亜子は自分が史伽の姉、という状況を想像してみた。
(ア、アカンわ。こないかわええ妹がおったら、ウチはシスコンになってまうやん……!)
亜子は真っ赤になりながら顔を伏せる。その状況を裕奈が見逃す筈はなかった。
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26-79
名前:『姉妹のように?』[sage] 投稿日:2006/03/05(日) 06:11:54 ID:???
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ちらり、と裕奈は史伽に目線を送った。
「史伽史伽、『亜子お姉ちゃん』って言ってみてよ」
史伽は素直に、あっさりと、ごく自然に答えた。
「亜子お姉ちゃん!」
ぼんっ!
次の瞬間、亜子は瞬間湯沸し器のように赤面した。
「うふふ、亜子ってば照れてる〜」
「かわいいです〜」
と、二人がからかったのもここまでだった。オーバーヒートしてしまったのか、亜子はそのままふらふら〜、
と気を失ってしまったのだ。
「わ〜っ! ご、ごめん亜子〜っ!」
「あわわ、亜子さん大丈夫ですか〜っ!」
……やはり、生来の妹属性の持ち主である亜子に、姉というのは無理があったようである―――
(おしまい)
最終更新:2007年07月29日 02:32