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24-676
名前:彼女たちの休日[sage] 投稿日:2006/02/07(火) 16:15:29 ID:???
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「―――あのさ、今日は楽器屋に行く予定だったよね……」
「うん……。ピックとか新調したいゆーとったんやけど……」
円と亜子は呆然と立ち竦んでいた。既に美砂と桜子の姿は見えなくなっている。
「ここのスイーツ、今すっごい人気なんだよ〜っ!」
「あっ、この服カワイイ〜」
およそ一分前に二人が言い残した台詞である。街に繰り出すなり、美砂と桜子は速攻で自分のお目当てに
駆け出してしまったのだ。
「……ったく、今日は亜子も一緒だってのに、あのバカ二人は……」
円はこめかみに指を当てたまま重々しく愚痴をこぼす。
「ごめんね亜子。あいつらときたらしょっちゅうこんなカンジで……」
「あはは……、全然気にしてへんよ。ウチらんとこかて、まき絵とゆーながよう暴走しとるし……」
その言葉通り、カリカリしている円とは違い、亜子は至って平然としている。
「ま、後で連絡すればええやん。ウチらもテキトーにぷらぷらせーへん?」
太平楽な亜子の提案に、円は思わずくすりと微笑んだ。
「……だね。じゃあ行こっか」
こうして、円と亜子は二人きりで散策することになった。
まず二人が向かったのはシルバーアクセのショップである。円がシルバーアクセを好むのは周知の事実だが、
亜子もかなりのアクセサリー好きである。自然な成り行きで、二人はショップに足を運んだ。
「なーなー、コレなんてどーやろ?」
亜子は鍵をモチーフにしたネックレスを円に見せる。
「おっ、なかなか面白いんじゃない? でも亜子も結構大胆だね〜」
「えっ? ウチは単にかわええなあ、って……」
「鍵って結構エッチじゃない? ナギさん、私の心の鍵を開・け・て、ってなカンジ?」
円がにやにやしながら解説すると、亜子の顔はみるみる真っ赤になってしまう。
「そ、そんなんとちゃうて! くぎみんのいけず〜っ!」
「あはは。くぎみんゆーなって」
亜子にぽこぽこ背中を叩かれながらも、ツッコミを忘れないのが円らしい。
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24-677
名前:彼女たちの休日[sage] 投稿日:2006/02/07(火) 16:17:10 ID:???
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「ううっ、なんや気になって買うの怖なってもーたやん……」
「ごめんごめん。でも亜子はいいよね〜。私はカワイイ系のはなかなか似合うのがなくて……」
「そうなん? ウチから見れば釘宮の方がよっぽどうらやましいんやけど。メンズもイケるくらいかっこええし、
スタイルええから大人っぽいのも似合うやん」
「あは…は……」
亜子の反論に、円は何故かあさっての方向を向きながら乾いた笑みを浮かべている。一瞬、亜子はきょとんと
したものの、すぐさまある考えが浮かんだ。
「もしかして釘宮、ホンマはかわええアクセしてみたいんとちゃう?」
「げ……!」
ぎくり、とした表情で円は硬直してしまう。
「えへへ。せやったら、こんなんがええかなー?」
亜子はいそいそとかわいらしいシルバーアクセを手に取り、早速円に付けてみた。
「…………うあ」
鏡に映った自分を見て、円は絶句してしまう。耳には星のイヤリング、首には羽をモチーフにしたネックレス、
さらにハート型のリングまで填められ、完全に女の子モードになってしまっていた。
「これでかわええワンピースとか着たらええやん。 ええカンジで似合とるよ〜」
「うんうん。円、こっち向いて〜」
不意に親友の声がして、反射的に円は振り返ってしまう。すると、
かしゃっ。
いつの間にか携帯を構えた美砂が待ち受けていたのだ。思わず円の顔から血の気が引いていく。
「貴重なお宝写真ゲット! いや〜、亜子グッジョブ!」
「わああっ!? 美砂消してっ! 今すぐ消去してぇ〜っ!」
慌てて円は美砂の携帯を没収しようとするが、美砂は素早くポケットに仕舞い込んでしまう。
「後は服装やね。なーなー柿崎、かわええ服持ってへん? ウチのやとサイズ合わへんし……」
「よーし、ここはたっぷりレース使ったフワフワ系で!」
「やーめーてー!!」
耳まで真っ赤になった、円の絶叫が木霊した……。
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24-678
名前:彼女たちの休日[sage] 投稿日:2006/02/07(火) 16:18:48 ID:???
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「あーあ、円のイメチェンは結局おあずけかあ」
つまらなさそうに美砂は呟くが。円は無言でスルーする。
「ウチも似合てる思うんやけどなあ」
美砂に同調して亜子まで残念そうにしている。だが、こちらは上目遣いという凶悪なオプションを装備していた。
これには円も回避出来ずにいる。
「い、いや私は今のままが合ってるから。そりゃカワイイ系は嫌いじゃないけど、自分がするのはちょっと……」
「しゃあないなあ……。せやったら、今度こっそり見せてえな。ウチらの前だけで」
「そうそう。コスプレ感覚で!」
「し、仕方ないなあ……」
亜子のストレートなおねだりに円はあっけなく折れてしまった。美砂の一言が引っ掛かりはしたが。
と、その時。三人組の男が声を掛けてきた。見た感じ、いかにもガラの悪そうな連中である。
「ねえ、今からカラオケ行かない?」
「勿論、俺達のオゴリで」
いわゆるナンパである。突然のアプローチに亜子はわたわたしてしまい、円の陰に隠れてしまう。
その円は不快感を露わにし、そして美砂はというと……、
「ごめんなさい、私達みんな彼氏持ちだから」
ものの数秒で男性陣の品定めを完了し、あっさりと嘘をついた。どれも並の男、というのが結論である。
しかし、この程度で引き下がる連中では無かった。
「いいじゃん。ちょっとぐらい遊ぶだけなら……」
「じゃあメシにする? いい店知ってるよ」
そそくさと通り過ぎようとする三人に、男性陣はしつこく食い下がった。そして、一番後ろにいた亜子の肩に
手を掛けたのだ。
「きゃっ……!」
亜子が小さく悲鳴を上げたのと、円の堪忍袋が底を抜けたのは同時だった。
ごきぃ!
充分にウェイトを乗せたクギミーパンチが炸裂する。その拳には先程購入したスカルリングが誇らしげに
輝いていた。その一撃をまともに食らった憐れな男はゆっくりと崩れ落ちる。
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24-679
名前:彼女たちの休日[sage] 投稿日:2006/02/07(火) 16:20:27 ID:???
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「逃げるよ、亜子っ!」
「う、うんっ!」
すぐさま美砂は亜子の手を取って走り出す。この手の事は日常茶飯事なのか。その表情はどこか楽しそうだ。
亜子はどきどきしながら全力で走った。やや遅れて円も続く。
「もしもし桜子? ゴメン、またやっちゃったからいつものトコで!」
残りの二人が追ってくるのを見て、円は急いで桜子に連絡を取った。
「い、いつものトコって?」
「ここからだと三分くらいかな? さあ、捕まったらシャレにならない鬼ごっこだよっ!」
亜子の問いに、美砂はお気楽そうに答えた。いくら相手が男とはいえ、煙草の吸いすぎでスタミナのない
連中では運動部の足は捉えられない。それが美砂の余裕を作っていた。
程無く三人は目的地に辿り着く。そこには、桜子と黒服の男達がずらりと控えていた。
「ほう……。こいつらが姐さんのお知り合いにコナ掛けてきたガキですか」
追ってきたナンパ男二人に、黒服がゆらり、とにじり寄る。
「じゃあヨロシク〜♪」
桜子はいつもの笑顔で手を振ると、真っ先に亜子の手を取った。
「あははー、ごめんね亜子ちゃん。怖かった?」
「い、いや……。あの人達の方が怖いんやけど……」
ちらり、と亜子が振り返ると、丁度黒服達がナンパ男をどこかへ連れ去る途中だった。
「あの人ら、桜子の知り合いなん?」
「桜子はこの街の顔だからね。そこいらの雀荘で代打ちもしてるし……」
「いわゆる桜子親衛隊、ってトコね。全く、この街で私達にちょっかい掛けてくるなんてモグリもいいとこよ」
亜子の疑問に、円と美砂が答えた。深くは聞いてはいけない話だと思った亜子はあはは、と笑うしかなかった。
「―――けど、釘宮が抵抗した時はしんぞー止まるかと思うたで。あんまムチャしたらアカンよ……」
「や、だってあいつら亜子に手を出そうとしたんだよ!? だから私も頭にきちゃって……」
円の反論に亜子はくすりと笑った。
「ケンカはようないけど、さっきのはウチを助けてくれたんやもんな。えへへ、カッコ良かったで」
そう言って亜子は円の手を取り、笑顔満面で言った。
「ありがとうな、円」
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24-680
名前:彼女たちの休日[sage] 投稿日:2006/02/07(火) 16:21:58 ID:???
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「―――!!」
円の顔は瞬時にオールレッドに変わる。そして、
「―――はうっ」
そのまま倒れ込んでしまった。
「ま、円!? どないしたん!?」
慌てて亜子が駆け寄ると、円は幸福の絶頂といった表情で悶死していた。
「……えーと、これはどーゆーコトでしょうね、解説の柿崎さん」
「いやー、ただでさえ亜子の上目遣いは脅威ですからねー。加えて円、と名前で呼んだのが効いてるのでしょう。
今まで私たち以外のクラスメイトにあまり名前で呼んでもらえなかった釘宮さんですから」
「なるほど〜。つまり、円と亜子ちゃんのフラグが立った、と」
「これはなかなかのロマン溢れる展開ですね〜」
桜子と美砂の説明に、亜子はぽかーんとしている。そして、当の釘宮さんは……、
「こ、このバカ二人め……、あ、あとで覚えてなさい……」
そう言い残して気絶してしまいました―――
(おしまい)
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24-883
名前:『彼女の気持ち』[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 19:53:16 ID:???
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「ふう……」
放課後の教室。円は一人、溜息をついていた。バンドメンバーで遊びに行ったあの日から、円の脳裏にはずっと
同じ映像が繰り返されている。
『ありがとうな、円』
ちょっと頬を染めた亜子の笑顔。それは、目眩がする程の眩しい笑顔であった。
もう一度、あの笑顔が見たい。
そんな気持ちが、円の視線を亜子へと誘っていく。親友二人が指摘した通り、それは恋心なのかもしれない。
「恋、ねえ……」
わざと口に出し、自嘲する。同性に恋心を抱くなんてありえない。そう、思っていた。
和泉亜子。ちょっと気弱だけど、お世話好きでいつもひたむきな友人。
「私、ホントに亜子のことが……」
「―――ふふっ、話は聞かせてもらったわ!」
「えっ……!」
円が振り返ると、そこには美砂と桜子が不敵な表情で立っていた。
「円、そんなに一人で悩んでないで、私たちに相談してよ〜」
「そうそう。かーなーり、ウォータースメル漂ってるぞっ!」
「いや……。あんたらに相談してもややこしくなるだけだし……」
しかし、円の棘のある物言いもこの二人には通用しない。二人は嬉々とした様子で円の肩に手を置いた。
「この恋、成就させてみせましょう!」
「ぅ私たち、親友の名に掛けて!」
二人が力強く宣言すると、円は心底うんざりした表情で額に手を当てている。
「さらに今回はスペシャルゲストとして、亜子の同居人である佐々木まき絵さんをお呼びしています!」
美砂が掃除用具の入ったロッカーを開くと、そこには汗だくになったまき絵が隠れていた。
「あっつ〜い……。誰かお水ちょーだい……」
そう言い残してまき絵はばったりと倒れてしまう。
「わっ、ちょ、ちょっと大丈夫! いつから隠れてたの!」
「えっと、二時間前、かな?」
代わりに答えた桜子の手には、アル○ス伝説という漫画があった……。
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24-884
名前:『彼女の気持ち』[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 19:53:49 ID:???
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ガラガラガラ……
「すみません、ちょっと具合の悪くなった子が……」
「ま、まき絵!? どないしたんやっ!」
三人がぐったりしたまき絵を保健室に運ぶと、たまたま当番であった亜子が血相を変えて駆け寄る。
「脱水症状だと思う。ったく、このバカ二人のせいでね」
円が睨み付けると、頭にたんこぶを拵えた二人はしゅんとする。
「ごめんね、まき絵……」
「ゴメン! ほんっっっとうにゴメン!」
二人が謝ると、まき絵は弱々しく手を振ってみせる。
「らいじょーぶ……。あはは……、ちょっとムチャしすぎちゃった……」
「意識はあるんやね。取り合えずお水飲んで横になってな。あとは濡れタオルで頭を冷やさんと……」
てきぱきと指示を与えると、亜子はすぐさま内線で保健医を呼んだ。幸い、まき絵の症状は軽いようで、
しばらくベッドで安静にするだけで回復するだろう、と保健医は説明し、保健室を後にした。
「―――けど、さすがは亜子だね。カンペキな処置だった、って先生も褒めてたよ」
「い、いや、そないなコトあらへんよ……」
円に褒められ、亜子はしきりに恐縮している。その仕草が可愛くて、円は少しどきりとしてしまう。
「円、ちょっと……」
美砂は桜子にアイコンタクトを送ると、急に円を連れて保健室を出た。
「な、何よ、どうかした?」
「いいからいいから。ここは絶好のチャンスよ! いい? 私たちがそれとなく亜子の気持ちを
探ってみるから、あんたはこっそりと聞いてなさい」
美砂の作戦に円は呆気にとられてしまった。この二人、本気で円と亜子をくっ付ける気でいるらしい。
「ちょっ、そんなの亜子に悪いって」
「ダメダメ。そんな甘っちょろいことじゃ恋愛なんて出来ないよ!」
美砂の言い草に円は少しムッ、としてしまう。
「ああもう! 私と亜子はそんなんじゃないってば!」
「……でもね、向こうは円のことをどう思っているのか気にならない?」
「うっ、そ、それは……」
(亜子にとって、私はどんな印象なんだろう……)
先程までの勢いはどこへやら。しきりに考え込む円に、美砂は落ちた、とばかりに小さく拳を握った。
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24-885
名前:『彼女の気持ち』[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 19:54:22 ID:???
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「ごめんごめん。円の奴、用があるからって帰っちゃった」
「あ、そうなん?」
何食わぬ顔で戻って来た美砂が告げると、亜子は少し淋しそうな表情を覗かせる。これには美砂と桜子も
にやりと笑った。
(うんうん。これは脈アリだね)
(さーて、作戦開始よ)
ひそひそと密談を交わすと、二人は尋問を開始した。
「―――ところでさあ、亜子ってまき絵たちとは仲がいいけど、誰が一番好き?」
(ぶっ!!)
あまりの豪速球に入口で聞き耳を立てていた円はずっこける。これには亜子もぽかーんとした表情で
硬直していた。
「そりゃあ私だよね〜?」
ベッドで横になっているまき絵がすかさず乗ってくる。
(そうだ、まき絵もグルなんだっけ……)
まき絵にしては気の利いたフォローに、円は胸を撫で下ろす。
「イ、イキナリな質問やな……。まあ、まき絵とは長い付き合いやけど、ウチの中ではまき絵もゆーなもアキラも
みんな一緒や。大事な親友やから……」
いかにも亜子らしい模範回答が返ってくる。しかし、それは折り込み済みだったのか、美砂はうんうんと
頷きながらすぐさま二の矢を放つ。
「でもさ、それぞれ長所があるじゃない。その辺を聞いてみたいな〜?」
今度は無難な質問である。やや回りくどい気もするが、直球よりはましだ。そして亜子は素直に語り出す。
「せやね……。ゆーなはいっつも賑やかで、ウチがヘコんでる時も元気付けてくれるし……。アキラは
しっかりしててカッコええから、ちょい憧れとるんよ。ほんでまき絵やけど……。な、なんや本人の前ではちょい
言いにくいやん」
「ええ〜っ!? 私の印象ってそんなに悪いの〜っ!」
「あ、いやちゃうねん。ウチが照れくさいだけやって!」
まき絵の反応に亜子は慌てて弁明する。ちょっとあたふたしてるのがまた可愛いな、と円はこっそり笑った。
「んー、じゃあ私たちの評価も気になるんだけど、ダメかな?」
「うんうん、すっごく気になる〜」
美砂と桜子の攻勢に、亜子は冷や汗を流しながら苦笑した。
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24-886
名前:『彼女の気持ち』[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 19:54:55 ID:???
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「ムリやって。そないなコト、よう言われへんよー」
「じゃあ円は? ちょうど本人居ないし……」
(―――き、来た!!)
いよいよ美砂の尋問が本題に入る。円はどきどきしながら息を潜めた。
「くぎみん? まあ、ええけど……」
(やっぱりくぎみんかあ〜っ!!)
亜子の一言に円はがっくりと肩を落とす。この前は円、と名前で呼んでくれたのだが、やはり本人不在では
くぎみんで固定らしい。円はちょっと泣きたくなってきた。そんな円の心境を知ってか知らずか、桜子がさらに
追い討ちを掛けてくる。
「ねーねー亜子ちゃんはくぎみー派? それともくぎみん派?」
(さ、桜子あとで殺す!!)
円はぷるぷると青筋を立てる。しかし、この話題には亜子も食いついてしまった。
「むー、難しいトコやねえ……。どっちもかわええやん?」
「私はくぎみーかなあ?」
まき絵までもが参戦してくる。なんかもう、本当に泣きたくなった。
「まあ、本人はイヤがってるけどね」
(おおっ、でかした美砂!)
珍しく、美砂が軌道修正してくれる。と、亜子は不思議そうな表情を浮かべた。
「それやねん。ウチ、前から気になっとったんやけど、なんでくぎみーはアダ名で呼ばれるのがイヤなんやろ?」
「うっ……」
この質問に美砂も桜子も、そして円も硬直してしまう。
「あ、それ私も思ってた。なんでなの?」
まき絵と亜子の視線が二人に注がれる。これには美砂と桜子もどうしたものか、と頭を抱えた。
(ど、どーしよー?)
(そんなの赤松に聞かないと分かんないわよ! ええい、テキトーにごまかすしかないわね……!)
ひそひそと相談した後、美砂はこほん、と咳払いし、ゆっくりと語り出した。
「―――それは遠い昔。円がまだ小学生だった頃のお話です」
ずるっ。
これには円も盛大に突っ伏した。
(勝手に人の過去を捏造するなあっ!!)
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24-887
名前:『彼女の気持ち』[sage] 投稿日:2006/02/12(日) 19:56:02 ID:???
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円が目眩と戦っている間に、美砂の物語はどんどん過激になっていく。初めはアダ名でいじめられた、という
流れだったのに、いつの間にかそれが原因でフラれただの、ねぎだくギョクの頼みすぎで本名では牛丼屋にマーク
されてるだの、過去に原宿であった抗争を拳一つで収めた円の名は禁忌として扱われているだのetcetc……。
もう滅茶苦茶である。この辺が潮時、と判断した円は重い重い溜息をついて保健室に入った。
「―――はい、そこまで。まき絵、もう具合は良くなった?」
こつん、と美砂の頭を小突くと、円は真っ先にまき絵の様子を伺う。
「うん。もう全然へーき」
「そっか。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
円がそう言うと、亜子は突然円の手を取った。見れば、亜子ははらはらと涙している。
「ううっ、くぎみんにそないな過去が……」
「信じるなああああっっっ!!!」
円の絶叫が保健室に響き渡った―――
自室に戻った後、亜子はぽつりと呟いた。
「そーいやさっきの話やけど、まき絵にはこっそり教えたるわ」
「さっきの、って……、くぎみーの話?」
亜子はこくりと頷くと、しみじみと語り始めた。
「ウチな、円だけはちょい特別なんよ。なんやろ、ウチにとって円はお姉さんみたいな人なんや。ま、実際は
ウチの方が年上になるんやけどな」
「おねーさん?」
「せや……。ウチは円と一緒におると落ち着くんよ。なんや甘えたくなるんや……」
亜子はちょっぴり恥ずかしそうに呟く。
「何となく分かる、かな? くぎみーは面倒見がいいからね〜」
「うん……。ウチの兄貴と雰囲気が似とるんかな……。実際に姉がおったら円みたいな人やろうな、って」
「―――ねえ亜子」
まき絵の問いに、亜子は笑顔のまま小首を傾げる。
「あのさ、それ本人に言ってあげなよ。きっと喜ぶからさ」
「ええっ!? そ、それは恥ずいって! それに円かてそないな風に思われとるやなんて、メーワクちゃう?」
「大丈夫だって! 私が保証するよっ!」
動揺する亜子に構わず、まき絵は円宛てのメールを打ち込み始めた――― (おしまい)
最終更新:2007年07月29日 02:34