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21-799
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:22:15 ID:???
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手の記憶1/10
エヴァ「帰るぞ茶々丸」
茶々丸「あ、マスター、私、ハカセに整備のために大学に来いと言われています」
エヴァ「ん? そうか、わかった」
そういって、さっき茶々丸と別れて家に帰る途中だったんだが…
何だこのガキは?! 4〜5歳くらいの女のガキがいきなり私のスカートの裾をつかんで離さん。
「おい、私は帰るんだ。 その手を離せ」
ちょっと強く言ってみると、みるみるうちにガキの顔が歪んでゆく。
チッ、これだからガキは… 茶々丸がいればうまく相手をしてくれるんだろうが、今はいない。
ええい、仕方あるまい。
「どうしたのかなお嬢ちゃん?」
まず目線の高さをあわせて優しく話し掛ける。 これが基本だったよな…?
「……フルフル」
グッ、いやいや、我慢我慢… オリジナル笑顔で対応だ。
「迷子かな?」
「……ヒックヒック」
おい、ちょっとまて! 私は何もしていないだろうが!!
「え、えーと… ど、どこか痛いのかなぁ」
「うわあ〜〜〜ん!!!」
理不尽だ!!! これはあまりにも理不尽だろう!!!
この真祖たる私がクラスの連中はおろか、ぼーやにさえ見せたことのないような笑顔と優しさで接したのだぞ!
にもかかわらずにだ! 何故泣く! ああ、道を行く人間達が生暖かい目でこちらを見ている。
まるで微笑ましいものを見るかのように… ハッ、まさかこの私とこのガキが姉妹だとでも思っているのか!?
あ り え な い
クソッ、こうなったらもうさっさとこのガキを無視して帰ろう。 そうだそれがいい。
ああ、まだしっかりとスカートをつかんでいる。 合気使って外すか、さすがにスカートを脱いで帰るわけにもいかんしな、
… 今通りかかったお前! 笑ったな!? 覚えておけよ、魔力が戻ったら一番に貴様の血を吸い尽くしてやるからな!!
「あらあら、こんな所にいたのね」
うん? 聞き覚えのある声が… おぉ! ガキがぴたりと泣きやんだ。 素晴らしい!!
「あら、エヴァンジェリンさん」
「那波千鶴か、助かったよ。 このガ… お嬢さんを知っているのか?」
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21-800
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:23:25 ID:???
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2/10
「ええ、お手伝いをしている保育園の子で、さっきから探してたんですの」
フム、やはり迷子だったのだな。 保護者もきたし、これで私は解放される。
「そうかそうか、私も泣きつかれて困っていたんだ、いやー、良かった良かった。 じゃ、失礼」
さあ、帰れると思って歩き出したが、やはりスカートを離さない。 このガキは私に何か恨みでもあるのか?
「あらあら、懐いちゃったみたいねぇ。 では皆で一緒に帰りましょうか」
ガキはこくんと頷く。
チョットマテ、私の意見は聞いてもらえないのか? ここは民主主義の国じゃなかったのか?
「じゃあ、行きましょう」
那波千鶴は私の意思確認なぞ行わず、ガキの反対側の手を握るとさっさと歩き出す。 私は引きずらるようについていく羽目になった。
相変わらずスカートから手を離さん。 これでは下着が見えてしまうではないか。
「まったく…」
やむをえまい、スカートを掴んでいるガキの手を軽く握った。
「…!」
ガキが一瞬驚いたような顔をしてこちらを見上げる。 な、なんだ? まさかまた泣くのか?
「…」
ガキは顔を少し赤らめると、手をスカートから私の手に握り替えて前を向くと、両手を大きく振り始めた。
当然私と那波千鶴の手も大きく振られる。
「うふふ、お姉ちゃんと手をつなげて嬉しいのね」
私は嬉しくも何ともないがな。 それにしても那波千鶴の奴、子供の扱いに慣れてるな、歩幅も気を使っているようだし
しかし、この格好はあれだな、私が姉で那波千鶴が母親のようだ。 奴は歳の割に老けて…
「何かおっしゃいました?」
「い、いや別に」
コイツは人の心でも読めるのか…?
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21-801
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:23:56 ID:???
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3/10
「うわ〜」
「キレー」
何故私はこんな状態になっているのだろうか? 何人ものガキどもに囲まれてじろじろと遠慮のない視線にさらされている。
まるで人面魚のような扱いだ。
「わたしと同じクラスのエヴァンジェリンさんよ」
ええいっ、誰がガキどもに紹介を頼んだか! ああ、もうたくさんだ。 今度こそ帰ろう。
「那波千鶴よ、悪いがこれで失礼すr」
言い終らないうちに一陣の風がヒラリと、私のスカートを捲り上げた。
「うわ、すごい下着!!」
目の前でその風を起こした小僧が少し頬を赤くさせて歓声をあげている。
… つまり、この小僧が私のスカートをめくり、下等な人間のガキどもに私の下着をさらしたと…
把握した。
よし
殺 ろ う
一瞬で殺して楽になぞさせん。 私に与えた恥辱相応の苦しみを…
いやいやいや、女子供は殺さないんだった… が、やはり罰は与えねば。
「この…」
「なにをしてるの!!」
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21-802
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:24:29 ID:???
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4/10
私が動くよりも早く那波千鶴が小僧を抑えてしまった。 …しかし、小僧の頭を片手で掴んで持ち上げるとは…
「そんな悪戯をする悪い子はこうです!!」
いうやいなや小僧を抱えてしゃがみこみ、ズボンを下ろし尻を剥き出しにするとバシン、バシンと、部屋に響き渡る音を立てて叩き始めた。
「うわあ〜ん!」
おぉ、なかなかやるな那波千鶴。 他人のガキをちゃんと叱れるとはな、あのノー天気なクラスの一員とは思えん。
本当ならば口から内臓が出るくらいまで叩いてやりたいが、まあ良しとしよう。
「ほら、エヴァンジェリンさんにあやまりなさい」
「……プイ」
ウム、那波千鶴よ、そいつを少し貸せ。 素直になれるように私が教育を施してやろう。
「うふふふ、わかってるのよ。 このお姉ちゃんがあんまりにも綺麗だから悪戯したんでしょう」
「…」
小僧が真っ赤になってうつむき、もじもじする。 何だこの展開は?
「駄目よ? 仲良くなりたいならちゃんとあやまって、ね?」
「… あの… ごめんなさい…」
「はい、よくできました。 エヴァンジェリンさんもこれで許してあげてくれるかしら?」
許すも許さんも、この上で責めたてたら私は心の狭い小物になってしまうではないか、この女わかってて言ってるな…
「…わかった、許そう。 だが、二度目はないぞ?」
「もう、しません…」
「はい、じゃあこれで仲直りね」
那波千鶴が両手を合わせてにっこりと微笑む。
はあああああああ〜
毒気を抜かれた感じだ。 体中の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
那波千鶴め、実は経産婦じゃないのか? その対応の仕方はどう見ても…
「何かおっしゃったかしら?」
「いや、何も」
だからなんでわかるんだよ! うん? 電話の音がするな…
「ちょっと失礼しますね」
那波千鶴が部屋から出て行く。 ああ、なんだろう、物凄く嫌な予感がする。 悪い予感というものに限っては良く当たる。
パタパタと急ぎ足で戻ってきた那波千鶴が、私の考えの正しさを証明してくれた。
「エヴァンジェリンさん、私少し外出しなければいけなくなってしまいしたの。 それで、申し訳ないのですが…」
… もう、好きにしてくれ…
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21-803
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:25:20 ID:???
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5/10
小さなガキというものは動物と変わらん。 今日は保母という職業につく人間に初めて尊敬の念を抱いた。
「ああもう、コラ、喧嘩するんじゃない! 泣くなっ! えっ、トイレだと…」
どいつもこいつも好き勝手にやりたい放題だ。 面倒だから魔法で眠らせてしまおうかとも思ったが、そんな隙も与えてくれん。
ああ、また向こうで喧嘩を始めている。 さっきの小僧と私がここに来る原因になったガキか、まったく、なにを…
「コラコラ、男の癖に女の子と喧嘩するんじゃない。 原因は何だ?」
二人はおずおずと、手に持った絵本を差し出した。
どうやら私に読んでもらう絵本をどちらにするかで喧嘩したらしい。 私が絵本を読む事は決定事項のようだ。
「果物から生まれた男が強盗に行く話と、親を殺された蟹が猿を集団で殺る話か…」
どちらも大して面白い話ではないし、二つも読むのは面倒だな。 かといって、どちらか一つだとまた喧嘩しそうだし、ウ〜ム。
「…」
二人とも無言で本を持って迫ってくる。 こういう時はどうすれば…
「! どちらも読まんぞ。 …だが、別の面白い話をしてやろう」
ガキどもの顔が輝く。 フン、単純なものだ。
「狼と騎士の話だ… むか〜し、むかし…」
「…そうして、騎士は狼との約束を守ったのだ。 どうだ、面白かっただろう?」
「わあ〜」
私の前に全員集まったガキどもは口をあけて拍手喝采だ。 フフフ、そうだろう、そうだろう。
「もっと聞きたい!」
「もっとお話して〜」
なぬっ! 困ったな、他の話か… 猟奇話や怖い話なんかしたら泣くだろうしな…
ええい、何かないか、何か…
「… コホン、では、次に狐と領主の話をしてやろう」
この話… 何故私は知っているのだろう…
「ある森にとても頭の良い狐がいてな…」
本で読んだ覚えも、絵も知らない話だ。
「ある日、領主が突然言いだした…」
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21-804
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:25:55 ID:???
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6/10
「そうして、領主は二度と森には手を出さないと誓ったのだ… フフフ、どうした、眠いのか?」
ガキのほとんどはもう、寝てしまっている。 話をねだりにきた二人は頑張っているが、今にも瞼が落ちそうだ。
「… もっと〜」
ああ、こういう時はどうしたらいいか知っている… さっきの話と共に思い出した。
「無理は良くないな。 ホラ」
二人の頭を自分のひざの上にのせる。 それから、
「〜♪」
体を優しくなでながら、ゆっくりと、紡ぐように歌う。 二人ともおとなしく従う。
さっきまでの喧騒がウソのようだ。 ガキどもの静かな、規則正しい寝息がかすかに聞こえる。
自分のひざの上にあるガキの頭をなでると、そこにかつての私が見える。
同じように話を夢中になって聞き、頑張って最後まで聞いて眠いのにまだ話をねだると、同じように寝かしつけられたな。
頭に置かれた手は大きく、暖かかったな…
私がまだ人間であった頃、忌まわしき10の誕生日を迎える以前の記憶…
ふと気づくと、那波千鶴がガキどもにタオルケットをかけて回っていた。
「ありがとう、エヴァンジェリンさん」
「フン…」
「ありがとうございました」
最後のガキを迎えにきた母親が、私と那波千鶴に礼をいって帰っていった。 結局ガキどもは全員寝たままで、とても静かで助かった。
ふう、これでやっと帰れる。
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21-805
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:26:30 ID:???
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7/10
「今日はごめんなさいエヴァンジェリンさん。 おかげでとても助かりましたわ」
もうすぐ訪れる夕闇の中、並んで帰路についていた那波千鶴が礼を述べた。
「構わん、過ぎた事だ」
「さっきの子守唄、とても優しい唄でしたわ。 日本語ではありませんでしたけど、あれはエヴァンジェリンさんのお母さんが?」
「…どうだったかな、昔のことなんであまり覚えていないな」
「よろしかったら、今度教えていただけないかしら?」
「…気が向いたらな」
「ねぇ、エヴァンジェリンさん。 最近、明日菜さんとも仲良くなっているようですけど、私、あなたはもっと…」
「そこまでだ、那波千鶴」
足を止めて言葉をさえぎった。 まったく… おせっかいの多いクラスだ。
「お前の言いたい事はわかる。 だが、人にはそれぞれのやり方というものがあるとは思わないか?」
神楽坂明日菜は私が何者であるかを知っている。 お前はそれを知っても同じ事を言えるのか?
「…ごめんなさい、私は―――」
「おーい、千鶴姉ちゃん、迎えに… げっ!」
ん? アイツは…
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21-806
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:27:02 ID:???
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8/10
「あら、小太郎君」
「な、なんであんたが一緒におるんや?」
「あらあら、二人とも知り合いだったのかしら?」
「那波千鶴、お前こそコイツを知っているのか?」
「小太郎君とは一緒に暮らしてますもの」
一緒に暮らしてる? 半分人外のコイツと?
「うふふ、わざわざ迎えに来てくれたのね」
「ちょっ、ちづ姉、やめっ」
狗族のガキをその豊満な胸に抱きしめている姿はまるで―――
「クックック、アーハッハッハ」
いやいや、まったくたいしたタマじゃないか。
なるほど那波千鶴、お前なら私の正体を知っても尚、受け入れるかも知れんな。 だが…
「エヴァンジェリンさん…?」
「ん? ああ、スマン、あまりの仲のよさに少し妬いただけだ。 フフフ…」
「な、なあ、千鶴姉ちゃん、夏美姉ちゃんやあやか姉ちゃんまっとるで、早よ帰ろうや」
「そうね… エヴァンジェリンさん、よろしかったら晩ご飯をウチで食べません? 今日のお礼もしてませんし」
「ち、ちづ姉!」
「…遠慮しておこう。 私を待っている者もいるんでな」
「そう… 残念ね」
那波千鶴は心底残念そうにつぶやく。 横にいる狗族のガキの慌てぶりなどは気にも止めていないようだ。
「さて、私は寮住まいではないからここでお別れだ。 小太郎とやら、ちゃんとお姉ちゃんを送るんだぞ。 ククク…」
「そ、そんなん、いわれんでも大丈夫や!!」
「フフフ、今日は楽しかったよ那波千鶴。 では、またな」
「エヴァンジェリンさん、また明日ね〜」
明るい声が背中にかけられる。 後ろを向かずに手を上げて応える。
―――だが、那波千鶴よ、お前は知らないんだよ。 私の手がどれだけ―――
「な、なあ、千鶴姉ちゃん。 あの人に何もされんかったんか?」
「あらあら、何もするわけないじゃない。 それに、エヴァンジェリンさんはとってもいい人よ」
「そ、そうなん?」
「ええ、とても…」
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21-807
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:27:37 ID:???
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9/10
もう空は藍から黒へ変わり始めている。 わずかにふちに残った朱が、昼と夜の繋がりを思わせる。
その遠い昔から変わることのない営み、その気の遠くなるような時間を人は積み重ねてきた。
人は紡ぐ、受け取ったことを次へと渡しながら、連綿と繋がっていく。
人は、だ…
幼き頃―――人であったとき受けた安らぎを、今日、あのガキどもに渡せたのだろうか?
手を置かれた時の暖かさ、手を置いた時の暖かさ。
もし、そうであったのなら、あの瞬間私は………
「戯言だな…」
いまさら、そんなこと言えるわけも、思えるわけもない。
幾百年も生きてきた。
あの誕生日に人としての生を失った。 そして、人外としての生が始まった。
私がもはや人外の化物である証は、目には見えなくとも赤錆のごとくこの手にこびり付いている。
そして記憶にも、あの、頭に置かれた手のことなんかよりも遥かに―――
「………ナギ………」
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21-808
名前:手の記憶[sage] 投稿日:2005/12/20(火) 22:28:08 ID:???
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10/10
気付くと、目の前に見覚えのある影が目に入った。 あれは…
「マスター」
「オセーゾ御主人」
「お前たち… わざわざ迎えにきたのか?」
「俺ハ大丈夫ダト言ッタンダケドナ」
「遅れて申し訳ありません。 マスター」
フッ、まったく…
「子供じゃないんだぞ」
「申し訳ありません」
「ケケケ、見タ目ハ間違イナク子供ダケドナ」
「五月蝿い! …まあいい、帰るぞ」
「はい、マスター」
迎えか…
「〜♪」
「オ……」
「マスター、その歌は?」
「ん? …古い歌さ。 古い古いな…」
手の記憶 完
最終更新:2007年07月29日 02:32