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8-763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[ドッツのかわりに投下] 投稿日:2005/08/30(火) 03:38:23 ID:ryuYXvN50
 ユーキ:ちうたーん?寝ちゃった?
 ユーキ:また寝落ちかな?
 さくら:寝オチかなー?
 さくら:そうみたいだねー
 ユーキ:最近多いね、ちうたん
 さくら:ちうちゃーん、風邪引いちゃうよー?(;>_<)
 ユーキ:こんな時間まで起きてる僕らも人のこと言えないw
 さくら:そだねーwww
 ユーキ:学校あるからもう寝よっと
 さくら:あたしもだよー
 さくら:ちうちゃんユーキくんおやすー(´∀`)ノシ
 ユーキ:おやすー
☆さくら さんが退室したぴょーん☆
 ユーキ:それじゃちうたん、おやすみーまた明日会おうね♪
☆ユーキ さんが退室したぴょーん☆



チュンチュン・・・チチチ・・・
カーテンの隙間から差し込む朝の光に顔を照らされ、1人の少女が目を覚ます。
「ん・・・ん〜・・・」
再び閉じてしまいそうなまぶたをぐしぐしとこすりながら、状況を確認する。
起動したままのPC。開いたままのチャットルーム。無秩序に連打された文字列。
どうやらまたチャット中に寝落ちしてしまったようだ。
顔にキーボードの跡がついては居ないだろうか、鏡を見て確認する。
よし、大丈夫。少女はほう、と短く息を吐く。
ふと、鏡に映りこんだ、背後の壁にかかっている時計が目に入った。
反転してはいるが、現在時刻は充分確認できる。
えーと・・・・・・・・・・
「・・・遅刻だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
8-764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[不安だ・・・] 投稿日:2005/08/30(火) 03:39:19 ID:ryuYXvN50
身支度を適当にすませ、部屋を飛び出す。
まさかこの歳で、というかリアルで食パンをくわえてダッシュする羽目になるとは。
しかしそんなことはこの際どうでもいい。
表の世界ではできるだけ波風の立たない生活を心がけている彼女にとって、この程度のミスでも許されないことだ。
あたかも空気のように、目立たず騒がず。それが私のスタンス。
遅刻すれば授業中の教室に入っていかなくてはならない。
間違いなく注目の的だ。あの変人だらけのクラスメイトから注目されてしまうのだ・・・!
それだけはなんとか避けなければ。少女は最寄りの駅まで全力疾走した。
そのあまりの疾走ぶりに、ゴミ出しの主婦や散歩中のお年寄りから注目されてしまっているが、少女は気付かない。
そしてもうひとつ、彼女のスタンスにおいて最大級に重大なミスにも、彼女は気付いてはいなかった。
8-878 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/08/31(水) 01:42:11 ID:9eT5S4au0
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
少女は相変わらず、へろへろになりながらも全力で疾走していた。
これを逃すと遅刻確実、という電車にはなんとか間に合った。
だからといって気を抜くことはできない。駅から教室までノンストップで走りぬけたとしても間に合うかどうかは微妙なのだ。
車内でのささやかな休息もつかの間、日々の運動不足を呪いつつ、少女は走り続けていた。

学園内最初にして最大の難関、正面の大階段でかなりスタミナを削られながらも、なんとか玄関を抜ける。
腕時計を確認する。ホームルームまであと3分弱。どうやら間に合いそうだ。
少女は若干ペースを落としつつ、それでも止まることなく走り続ける。
階段を駆け上り、踊り場を曲がる。その瞬間、目の前に人影が飛び込んできた。
「・・・ッ!!」
「きゃっ!」
ドンッ! バサバサ・・・ッ
運悪く、階段を下りてきた生徒にぶつかり、二人は転倒した。少女の鞄が踊り場をすべる。
「ご、ごめん!大丈夫か?」
「・・・ったた・・・え、あ、はい、だ、大丈夫です」
その生徒は担任にでも頼まれたのだろうか、大量のプリントの束を持っており、それが見事に踊り場にぶちまけられている。
少女は時間が気になったが、それを見過ごすこともできず、急いで拾い集めた。
「(あーもう・・・こんなことしてる場合じゃねえっつーの・・・)」
生徒もあわててプリントを拾い始める。
「す、すみません・・・急いでたみたいなのに、手伝ってもらっちゃって・・・」
「あー、いいよ、走ってた私が悪いんだし・・・」
「い、いえ、私も不注意で・・・・・・あっ」
「ん?」
少女が顔を上げると、生徒と目が合う。どうやら少女の顔を見て声を上げたようだ。
「・・・・・・ッ! あ、い、いえ・・・」
だがそれも一瞬のことで、生徒はすぐに視線を床に戻し、プリント集めを再開した。
「??」
少女はその行動を不審に思ったが、とりあえず目の前の問題を解決することに専念した。
9-71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[早くもストックが切れそう] 投稿日:2005/09/01(木) 03:05:20 ID:nnwQ8H7f0
「ど、どうも・・・ありがとうございました・・・」
「いいって。ケガはない?」
そう言いつつ、少女は生徒に集め終わったプリントを手渡す。
「はいっ、だ、だいじょうぶ・・・です」
受け取りながら生徒はそう言うが、頬をわずかに赤く染めているように見える。
「? ホントに・・・」
「あ、あのっ!」
少女が心配になり声をかけると、ほぼ同時に生徒のほうから声をかけてきた。
「な、なに?」
「あ・・・・・・あの、あの、わたし・・・」
うつむいた顔をさらに赤く染め上げ、時折ちらちらと少女の顔に目をやりつつ、生徒は少しずつ言葉をつむぎ出す。
少女は(宮崎みたいなやつだなぁ・・・)と思いながら生徒の次のセリフを待っていたが、ふと気付いて腕時計に視線を落とした。
「・・・遅刻だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」キーンコーンカーンコーン・・・
少女の悲鳴と同時に、チャイムが鳴り響いた。

「すすすすす、すみませんわたしのせいで・・・!」
「いいって。それよりアンタも、早く行かないとマズイだろ」
「は、はい・・・」
床に落ちていた鞄を拾い、少女は階段を駆け上がる。
「・・・あ、あのっ!」
するとまたしても生徒が声をかけてきた。
「ん? なに?」
階段の途中で足を止め、振り返る。
宮崎(仮)はしばらく口をぱくぱくさせていたが、ギュッと目をつぶると、小さく深呼吸をして、こういった。
「その・・・ほ、ホントに、あ、ありがとうございました・・・!」
「ああ。こっちこそすまなかったな。それじゃっ」
今度こそ少女は、振り返らずに階段を駆け上がった。
「・・・・・・・・・・・・」
そのうしろ姿を宮崎(仮)は、少女が角を曲がって見えなくなるまで見送っていた。
9-155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/09/02(金) 00:58:54 ID:k+deEqQH0
生徒と別れてから1分ほど経過しただろうか。少女はようやく3−A教室にたどり着いた。
教室内から生徒たちの喧騒が聞こえてくる。どうやら担任の教師はまだ来ていないようだ。
少女は安堵のため息をつくと、わずかに乱れた呼吸を整えてから、教室の後ろの入り口の扉を開けた。
「おはよーっす・・・」
少女が申し訳程度の声量で挨拶をする。すると必要以上の大音量で返される。
・・・いつもなら、そうだった。
だが今朝のクラスの様子は、いつもとは違っていた。
「・・・・・・・・・」
いつまで経っても、あの騒がしい挨拶が聞こえてこない。そればかりか、先ほどまでの喧騒がウソのように静まり返っている。
不審に思った少女は、教室内を見渡してみた。
「・・・ッ!」
そして、目の前に広がっている光景に、彼女は思わず息を呑んだ。

教室内のクラスメイト、その視線のすべてが、自分に向けられていたのだ。
9-286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/09/03(土) 04:40:35 ID:QpIZ6Wpc0
「い、いったい・・・何なんだ・・・?」
恐る恐る、少女は自分の席に移動する。その動きに反応して、無数の瞳が正確に追尾してくる。
(何だコレは。いじめか? 新手のいじめなのか?)
彼女は真っ先にそれを連想したが、それにしては彼女らの目に悪意が感じられない。
むしろ驚きや戸惑いといった感情が向けられている気がする。
(じゃあ原因は他に・・・? あ、もしかして)
次に彼女は、何か自分の服装に問題があるのではと思い、さりげなく全身をチェックしてみた。
制服は問題ない。スカート、ベスト、シャツやネクタイにいたるまで新品同様、シワひとつ無い。
ソックスはもちろん学校指定。ダサイ上履きもちゃんと履いてやっている。
学生鞄。こっちも問題はないはずだ。アクセサリなんてぶら下げていないし、プリクラを撮って貼るような友人もいない。
まして、つぶして鉄板が入ってるなんてことはあるはずもない。ちと古いか。
・・・ここまで問題がないと、この変人だらけのクラスでは逆にそれが問題なんじゃないか、とも思ってしまうが、
こちとら初等部のころからこのスタンスを貫いてきたんだ。今になってそんなこと言われても困る。
結局ワケの分からないまま、少女は自分の席に到着してしまった。しょうがないので、イスを引き、座る。
「ざわ・・・ざわ・・・」
今度は教室中がざわめき始めた。
担任がまだ来ていないのをいいことに、みんな好き勝手に教室内を移動しては、こちらを見ながらささやき合っている。
(だから何なんだよもう・・・)
少女は腕組みをして背もたれに体を預け、その視線から逃げるように天井を見上げると、大きくため息をついた。
9-415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[主人公の名前がやっと出たorz] 投稿日:2005/09/04(日) 04:39:00 ID:u3WVy+330
(ねぇ夕映、・・・・・・、・・・・・・)
(・・・・・・、・・・わかったです・・・)
少女の左隣の席に座る綾瀬夕映が、さらに左隣の早乙女ハルナと何かを相談している。
ハルナの言葉にうなずいた夕映が、少女に顔を向け、訝しげな表情で話しかけてきた。
「あのー・・・、・・・千雨さん・・・ですよね?」
(ですよね、って何だよ。ったく・・・)
「ああ・・・。どうしたんだよ、いったい」
そう言いつつ、少女――長谷川千雨は、ちらっとクラスメイトに目をやる。案の定、肩をビクッっと震わせると一瞬で顔をそらし、口笛を吹

き始める。だが耳だけをこちらに向けて身を乗り出しており、聞き耳を立てているのは明らかだ。
(・・・くそぅ)
いつまでもこんな状態でいたら私まで変人の仲間入りをさせられそうだ。そう思った千雨は、思い切って夕映に疑問をぶつけてみた。
「みんなさっきから様子がおかしいぞ、チラチラこっち見てきやがって。私の顔に何か付いてんのか?」
「・・・ええ、あの、付いてるか付いてないかで言えば、付いてないのですが・・・」
(付いてないのかよ・・・)
話が進展したことで、外野はさらに身を乗り出す。耳もさらに大きくなっている。あー鬱陶しい。
「・・・なんだよ、そこまで言ってもったいぶるなよな。何が付いてないってんだよ」
夕映の歯切れの悪い物言いに、千雨はつい語気が荒くなる。
机を人差し指でリズミカルに連打し、答えを催促をする。夕映が意を決して口を開いた。
「・・・・・・それは・・・・・・」
「・・・そ、・・・それは・・・?」
『・・・・・・ごくっ・・・・・・』(←外野)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
9-461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/09/04(日) 18:16:08 ID:u3WVy+330
「・・・・・・それは・・・・・・」
「・・・そ、・・・それは・・・?」
『・・・・・・ごくっ・・・・・・』(←外野)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。



「・・・・・・・・・・・・めがね。」

「・・・へ?」
「・・・いや、ですから、メガネ、かけてませんよ?」
「・・・・・・・・・へ!?」
「千雨さん、遅刻ギリギリでしたし、急いでて忘れたんでしょうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あと、ついでに言うと髪も束ねていないのですが・・・・・・聞いてます?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くぁwせdrftgyふじこlp;@」






この日3度目の絶叫が、麻帆良学園中等部全域に響き渡った。

9-925 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/09/08(木) 18:49:48 ID:sHCezoBq0
「いやー遅れてスミマセン、朝の会議が長引いちゃって・・・・・・で、この騒ぎはいったいどうしたんですか・・・?」
教室に入ってくるなり、ネギは目の前の光景に冷や汗をたらした。
「あははー、ちょっと複雑な事情があってねー・・・」
ネギの疑問に答えつつ、桜子は苦笑しながらそれに目を向けた。
「えーアンタ長谷川なのー!?」
「うっそー! すっごいかわいいじゃん!」
「でもどこかで見たことあるようなー?」
「せやなぁ・・・なんや、終了式のパーティーで見かけた気ィが・・・」
「この顔ネットで見たことあるよー? ・・・誰だっけ史伽?」
「えーと、えーと・・・」
「いいよーいいよー、その表情っ(パシャパシャッ」
「・・・・・・か、かわいい・・・(ポッ」
「・・・はわ、はわわ・・・(カァァァァッ」
クラスの半数ほどの生徒が教室の後ろのほうに群がり、きゃあきゃあ騒ぎまくっていた。
その中心には千雨がいるのだが、埋もれていて外からはすでに確認できない。
「ねぇねぇ、今日はどうしちゃったのー?」
「イメチェンにしちゃ、いきなり大胆じゃない?」
「やーん千雨ちゃん髪さらさらー♪」
「はーい今度はこっち向いてー(パシャパシャッ」
「か、かわいい・・・(ナデナデ」
「・・・うう・・・(グッタリ」
クラスメイトたちの怒涛の攻めに千雨は早くもグロッキーだった。恥ずかしさよりも精神的疲労のほうが完全に上回っている。
顔色が赤やら青やら、その他すごいことになってきた千雨を見るに見かねて、明日菜が助け舟を出した。
「ちょ、ちょっとみんな! 長谷川が困ってるじゃない!・・・・・・ほらアキラちゃんも、いつまでも頭ナデナデしてないで」
「しゅん・・・」
「はいはい皆さん席について! もうホームルームは始まっていますのよ!」
あやかもそれに加勢し、鎮圧に乗り出す。二人の呼びかけに生徒たちはしぶしぶながら自分の席へと戻っていった。
「・・・千雨さん、大丈夫ですか・・・?」
夕映の問いかけに応える気力はすでになく、千雨は無言のまま机につっぷした。
10-117 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2005/09/10(土) 17:48:52 ID:dsVWzLHW0
明日菜とあやかのおかげで一命を取り留めた千雨。しかしホームルームが終われば、また質問攻めに遭うのは目に見えている。
(・・・くぅぅ、せめてメガネが手に入れば・・・)
わずかな望みを託して鞄の中身をチェックしてみるが、スペアは入っていない。ついでに中身丸ごと昨日のままだ。見なきゃ良かった。
(うおおおどうすればいいんだ・・・)
頭を抱えてうんうん唸る千雨。そんなお隣さんの不審な挙動が気になってしょうがない裕奈と夕映が、恐る恐る声をかけてきた。
「どしたの長谷川? どっか具合でも悪いの?」
「・・・そ、そうじゃ、ないけど・・・メ、メガネがないと、私・・・っ」
「? メガネがほしいのですか?」
裕奈と夕映はお互い顔を見合わせると、それぞれ手近なメガネっ子に声をかける。
「ねぇねぇハカセ、メガネのスペア持ってない?」
「メガネですかぁ〜? 大学の研究室にならありますが〜」
「そっかぁ、残念」
「パルはスペア、持ってますか?」
「持ってるよー。はいコレ」
ハルナは鞄から、彼女が今かけているのと同じデザインのメガネを取り出し夕映に渡す。受け取った夕映が「どうぞ」と千雨に手渡す。
「す、すまない・・・(スチャッ)・・・ぐあっ」
度が合わず、苦しむ千雨。
「あははー、私、結構目ー悪いから」
「さ、早乙女・・・よかったらこのメガネ、売ってくれないか?」
「いいけど・・・きょう1日くらいだったら貸したげるよ?」
「でも度が合わないんじゃ、やっぱダメじゃない?」
「・・・だから、こうする」
パキ、パキッ
「あー! レンズ取っちゃった」
千雨は親指で力を込め、レンズを取り外してしまった。フレームだけになったパルメガネを改めて装着する。
「・・・ふぅ、これでもいくらかはマシだ」
「長谷川、伊達メガネだったんだー」
「難儀な性格ですね・・・」
「ほっとけ。」
10-687 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/18(日) 03:19:09 ID:XS7QRHzA0
ホームルームが終わると案の定、クラスメイトが千雨に押し寄せてきた。
先ほどとは違い、フレームだけとはいえパルメガネを装着した千雨は、その猛攻をしのぐかと思えた。
しかし彼女は、またもやミスを犯していた。リボンのかわりに白いハンカチで髪を束ねていたのだ。
それにより余計に新鮮さが増し、群集のテンションにさらに油を注ぐ結果となった。
「ねぇねぇ、もうちょっと高い位置で結わえてみないー?」
「えー、そんなことしたら・・・やーん千雨ちゃんカワユすぎる〜♪」
「いっそのこと編み込んじゃう?」
「するか! こらヤメロ柿崎! ほどくな!」
「はーいじゃあもう1枚脱いでみよっかー(パシャパシャッ」
「だから撮るなつってんだろ! ・・・つか大河内、オマエもいつまでも頭ナデてないでゴム貸してくれ・・・頼むよ」
「え、えっと・・・持ってない(ナデナデ」
「ウソだ、絶対ウソだろ!」
「じゃあボクみたいにツーテールにする?」
「シニョン貸してあげますよー」
「しねえっつの!」

そんな、傍から見たらすごく楽しそうにも見える千雨を、教室のいちばん前の席で見つめるグループがあった。
「・・・で、ホントに大丈夫なの、パル?」
「だーいじょうぶ、まーかせて!」
「・・・ハルナさんだからこそ、心配なのですが・・・」
「あはー、わくわくするねー♪」
「んふふ。長谷川には悪いけど、もうちょっと楽しませてもらっちゃうわよ〜?」
ハルナがメガネのブリッジを中指でくいっと押し上げる。レンズがきらりと妖しい光を放った。
10-688 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/18(日) 03:20:19 ID:XS7QRHzA0
放課後。生徒たちが騒々しく帰り支度を始める。
一方、休み時間のたびに想像を絶する激闘を繰り広げてきた千雨は、机につっぷしたままぴくりともしなかった。
まき絵とアキラが一緒に帰ろうと誘って来るが、顔を上げる気力もなく、ふせた腕の中で弱々しく首を横に振ることしかできない。
その様子に二人は「こりゃダメだ」とあきらめ、他の生徒と合流して教室を出て行った。
(朝からずっと騒いでてなんであいつらはあれだけ動けるんだ・・・)
千雨一人に対し、相手はクラスの約半数。まさに多勢に無勢というやつであった。

しばらくして復活した千雨が、ようやく腰を上げる。
机の脇に下げた鞄を手に取り、教室を出ようとする。その背中に、誰かが声をかけてきた。
「おーい、長谷川ー」
「・・・なんか用かよ、早乙女」
思いっきり警戒する千雨。苦笑するハルナ。
「んもー、そんな顔しなくてもいいじゃない」
「・・・見てのとおり、私は疲れてんだ。面倒ならお断りだぞ」
「心配しないで、すぐ済むから」
そういうとハルナは、わざとらしくコホン、と咳をひとつして、こう言った。

「あのさー、そのメガネ、やっぱ返してくんない?」
10-958 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/22(木) 00:21:17 ID:UaTFmOi10
「・・・な・・・っ」
千雨が固まる。その反応は予測済みだとばかりにハルナは繰り返す。
「メガネ。返して?」
「・・・な、なんでだよ、『売ってくれ』って聞いたら『いいよ』って言っただろ」
「んー、ちょっと違うわね。私は、『いいけど』って言ったの。『けど』。これ重要よ?」
アンダスタン? となぜか英語で聞くハルナ。千雨は再び固まる。
メガネがないと、私は表を歩けない。寮に帰るどころか、校舎を出ることすらできない。
早乙女はそれを知った上でこんなことを言ってきているのか・・・?
「さ、早乙女、頼む。今日だけは勘弁してくれ。レンズのことは謝る。何なら、新しく買って返す。だから・・・」
「そんなことは聞いてないの。私はそのメガネを返してって言ってるのよ」
「・・・・・・要求は・・・何だ」
「んふ、物分りが良いわね・・・そう、メガネは売る。『けど』、その代わり、ひとつ条件があるの」
「・・・く・・・っ」
千雨が悔しさのあまり歯を食いしばる。ハルナはその様子に、満足そうに目を細めた。
「・・・長谷川、これからアンタには、私たt(ガラッ
「パル〜、いつまで待たせんのよー」
ハルナの言葉をさえぎるように、教室の扉を開けて明日菜が顔を出した。
「あーんもう、アスナ! まだ入ってきちゃダメだってー」
「あれ、まだなの? でもだって、あんまり待たせるからさー」
「んもー、今ちょうどイイとこだったのにぃ〜」
「・・・え? え? え?」
状況が飲み込めず、目を白黒させる千雨。
「ハルナさん? お話は終わりまして?」
「ねーねー、早く行こうよー」
明日菜に続いてあやか、桜子も顔を出す。
「な、ど、どういうことだ?」
まだよくわかってない千雨に、ハルナはビシィっと指を差してこう告げた。
「長谷川、これからアンタには、私たちといっしょに街へ遊びに行くことを要求するわ♪」
千雨の手から鞄がぼとりと落ちた。
12-261 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/27(火) 01:31:57 ID:NrGFNOaS0
「私はー・・・んーと、スパイシーチリドッグとカフェラテ。あ、ナゲットのマスタードも」
「よく食べるわねーアスナ。あ、私モスチーズとコーヒーシェイクのSー」
「私、このような店は初めてなので、何を頼んでよいのやら・・・とりあえずカプチーノをいただきますわ」
「んー、いいんちょが好きそうなヤツはー・・・あ、千雨ちゃんは何にするー?」
「・・・・・・・・・・・・なんでもいいよ。」

千雨がハルナたち4人につれてこられた場所は、学園都市内にあるハンバーガーショップだった。
麻帆良学園中央駅近くの商店街に店を構えており、麻帆良の生徒たちは学校・学年を問わずよく利用している。
しかし千雨は、実は今までこの店に来たことがなかった。
まわりのほとんどが友達連れで大騒ぎしている中で、一人きりで食事をする気にはなれなかったからだ。
千雨の「なんでもいい」というセリフは、単にめんどくさかったのもあるが、あやかと同じ理由から出た言葉でもあったのだ。
結局桜子があやかと千雨の注文を補完し、5人はテーブルへと向かった。

6人掛けのテーブルの壁側に千雨が座り、隣には桜子。向かいの席には壁側からあやか・明日菜・ハルナの順に腰を下ろす。
備え付けのメニューを左手でいじりながら、千雨が口を開いた。
「・・・で、何なんだよ、こんなとこに連れてきやがって・・・・・・」
「いやー、長谷川とはけっこう付き合い長いけど、こうしていっしょに出かけたりすることなかったからねー。ちょっと強引だったけど」
「あ、お金のことは心配しないで。長谷川の分はいいんちょが払ってくれることになってるから」
「な・・・ハルナさん!? 先ほどと話が違いますわよ!?」
「あははー、だいじょぶだよ。今日はちゃんと4人がお金を出し合って千雨ちゃんに奢ってあげるって決めてるんだー」
桜子の言葉に、あやかがうんうんとうなずく。
「もー、わかってるって。ちょっとしたパルさまジョークってやつよ」
「アンタが言うとジョークに聞こえないのよねー」
「あーんアスナひどーいっ」
「・・・な、何なんだよ、ったく・・・」
初めて訪れた店内の雰囲気は思った以上に居心地が悪く、千雨はソファにもたれ、こっそりため息をついた。
そんな千雨を、隣に座る桜子はやさしく見つめていた。
12-263 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/27(火) 02:32:05 ID:NrGFNOaS0
しばらくして店員に呼ばれ、明日菜、ハルナ、桜子の3人が注文した品を取りに行った。
その場には千雨とあやかが残される。千雨が頬杖を突いて窓の外を眺めていると、あやかが話しかけてきた。
「ふふっ、なんだか緊張してしまいますわね」
「・・・そうか?」
「ええ。アスナさんにはいろいろなお店に連れて行ってもらいましたが、ファーストフードというのは初めてですわ」
「・・・そうか」
「千雨さんは、こういったお店にはよくいらっしゃるので?」
「・・・いや」
「そういえば亜子さんが以前、『安さのマクド、味のモス』とおっしゃっていましたが、モスはこのお店だとして、マクドとは何のことでしょう?」
「・・・・・・さぁ」
「よくわかりませんが、モスは味が良いということですわよね。楽しみですわ」
「・・・・・・」
いちいち答えるのもめんどくさくなって、千雨は無視することにした。再び窓の外に視線を移す。
それを緊張のための沈黙と受け取ったのか、あやかはくすりと微笑むと、千雨に話しかけるのをやめ、同じように窓の外を眺めた。
店内放送のBGMと、他の利用客の楽しげな笑い声が響く。
明日菜たち3人が戻ってくるまで、二人は無言で窓の外を眺め続けた。
12-265 名前:以下、名無しにかわりましてモナーを取り返します[] 投稿日:2005/09/27(火) 02:51:04 ID:NrGFNOaS0
「二人とも、おまったせー」
トレイを持った3人が戻ってくる。明日菜はトレイを二つ持っており、ひとつをあやかの前に置いた。
「ありがとうございます、アスナさん」
「はい、千雨ちゃんの分」
桜子が千雨の前に置いたトレイには、モスライスの豚しょうが焼きと抹茶ラテ(アイス)が、二人分乗っていた。
「何にすればいいか迷っちゃったから、私のと同じやつにしたんだー」
「・・・あ、ああ、さんきゅ」
テーブルの向かいの席では、あやかが明日菜と同じスパイシーチリドッグを頬張り、「あら、おいしいですわね」と感想を述べていた。
明日菜とハルナもそれぞれのメニューにかぶりつき、舌鼓を打っていた。千雨もそれに倣い、ライスバーガーを一口かじる。
「どう? おいしい?」
「・・・・・・うまい」
「えへへ、千雨ちゃんに気に入ってもらえてよかったー」
「・・・・・・・・・・・・ふんっ・・・」
もう一口かじる。桜子が選んだというメニューは、たしかにおいしかった。だが、それが何故か気に障った。

ハルナと桜子が明日菜のナゲットに手を出そうとして、その手をぺしっと叩かれる。
早くもチリドッグを平らげたあやかが、優雅に食後のカプチーノを楽しんでいる。
ナゲットをあきらめたハルナが、まだ溶けきらないシェイクをストローでかきまぜる。
あきらめきれない桜子が勇敢にも明日菜に立ち向かい、返り討ちにあう。
千雨は抹茶ラテを口に含む。ほどよい苦味が口に広がる。そしてその苦味は、胸の中にまで沁み込んでいった。
13-49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/08(土) 03:09:02 ID:NaQIBwa00
食事を済ませ、店を出る。あやかと桜子は会計のため、まだ店内に残っている。
「さーて、腹ごしらえも済んだことだし、次はどこ行こっか」
「は!? ちょ、ちょっと待て、まだ私を連れ回す気か!?」
「あったりまえじゃん。今日は思う存分、放課後ア☆ライブを満喫してもらうからねー」
「マジかよ…」
千雨ががっくりと肩を落とす。それと同時に店の自動ドアが開き、あやかと桜子が合流した。
「終わったよー。あれ、どしたの千雨ちゃん?」
「次はどこに行きますの?」
「んー、じゃとりあえず歩こっか」
明日菜の提案で、5人は商店街の奥へと移動していった。

目に入るもの全てに興味を示し、きゃあきゃあ騒ぎながら飛びつく4人に振り回され、千雨はもうふらふらだった。
この商店街は千雨もたまに一人で寄ることがあり、その時こうして、はしゃぎ回る女生徒たちを見かけることもある。
イマドキの女の子にとって、こういったことはいたって普通の反応なのだろうか。
では、彼女らにまったく馴染めてない私は、普通ではないのだろうか。
普通って、なんだ。
そんな疑問が、疲れきった頭の中をぐるぐると飛び交う。しかし余計疲れるだけで、答えは一向に浮かんでこなかった。
桜子とハルナに両サイドからガッチリと腕を絡められ、逃げることができない。逃げなければと思う気力すらない。
千雨は操り人形のように、首をがくんがくんと揺らしながら商店街を縦横無尽に引きずり回された。
13-50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/08(土) 03:10:06 ID:NaQIBwa00
「…も、もう……勘弁…してくれ…」
「えー? まだまだこれからが本番なのにー」
ひとしきり商店街を見て回るころには、千雨はすでに自分の力で歩くこともできないほどに疲労していた。
両腕を持ち上げられ、つま先を引きずるように連行される様は、傍から見ても相当ヤバイ光景だった。
「でもパル、さすがにこの状態は見た目がヤバくない? 私たち…」
「そ、そうですわ! これではまるで、私たちが千雨さんを無理やり連れ回しているかのように思われてしまいます!」
実際そうなのだが、あやか以外はその自覚があるので誰もつっこまない。
「んー、じゃあ予定を繰り上げて、もう最終ポイントに行っちゃう?」
「そうだねー、千雨ちゃんがまだ生きてるうちに連れてってあげないとー」
(…こ、殺すなよ…)
もう声を出すのもツライのか、心の中でひっそりとつっこむ千雨。
「それじゃ、アスナ頼んだ。パワーキャラの腕の見せ所よ!」
「パワーキャラってのがひっかかるけど……おし、まかせなさいっ!」
そういうと明日菜は、できるだけ揺らさないようにして千雨をおんぶする。二人で引きずっていくより、このほうがずっと早いのだ。
「最終ポイントって、あの店よね。私わかんないから、案内よろしくね」
「おっけー、それじゃ行きましょっか」
ハルナを先頭に、4人+1人は目的地へと向かい歩き出した。
(…こんどは……どこに……つれて……、………)
明日菜の背に揺られる千雨。その揺れが心地良いのか、千雨は次第にまぶたを閉じていく。
「…千雨ちゃん、寝ちゃった。あはっ、かわいー」
千雨のほっぺたをつんつんする桜子。
「今日はずいぶんと無理をさせてしまいましたからね…」
「どうする? このまま寝かせといて、今日はもう帰る?」
よっ、と明日菜が背負い直す。それでも千雨は起きる気配を見せない。
「かわいそうだけど、今日じゃなきゃダメなのよ。私がメガネを貸してる今日中じゃないとっ」
「んー、そうだよねー。千雨ちゃんには悪いけど、もうちょっとガマンしてもらお」
「んじゃ、のんびり行くとしますか」
4人はできるだけゆっくり歩いた。千雨が少しでも長く寝ていられるように。
13-115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/09(日) 04:24:13 ID:0R/RPGaO0
「とうちゃーく! アスナ、ごくろうさま」
「もう着いたの? へー、こんなところにあったんだ」
店の存在は知っていたものの、実際に来るのは始めてだった明日菜が、興味深そうに店内をのぞき込む。
たっぷり時間をかけて歩いたつもりだったが、商店街から近いこともあって、ほんの10分程度で着いてしまった。
「わー、いっぱいあるねー」
「ほら千雨さん、着きましたわよ」
「…んあ…うお…ほえ?」
あやかに無理やり叩き起こされ、奇声を発しつつ目を覚ます。
「さーて、いよいよ本日のメインエベントよー♪」
「…んー?…………どこだここは…?」
寝ぼけ眼で店名を確認する。ぐしぐしと目をこすって焦点をあわせる。
「……『メガネのまほら』……? なんでこんなところに…」
「あれ、パルから聞いてないの? 今日はみんなで、アンタに似合うメガネをプレゼントしようってことになってたのよ」
「な……なんだとぉ!?」
しれっととんでもないことを言う明日菜。一気に目が覚める千雨。
「…はっ! お、おい神楽坂、いつまでおぶってんだ、はやく降ろしてくれ!」
「ちょ、ちょっと暴れないでよ。長谷川、疲れてるんでしょ? 遠慮しなくていいわよ、このまま店の中までつれてってあげるし」
「アホかっ! そんな世話まで焼かなくてもいい! 恥ずかしいから降ろせっての!」
「イタッ、痛いってば、頭叩かないでよもう! 冗談に決まってるでしょ。ほい、降ろすわよ」
明日菜の背からようやく解放され、千雨は大きく息を吐いた。
「まったく、頭なんて叩いたら、アスナさんがさらにおバカになってしまいますわ」
「もっともだけど、アンタにだけは言われたくなかったわー」
「な、なんですってぇ〜っ!?」
「なによー!」
「それじゃ、行きましょっか」
「楽しみだねー、千雨ちゃん♪」
いつものように取っ組み合いのケンカに発展した二人をバッサリと無視し、ハルナと桜子は千雨の手を引いて店に入る。
「え、ちょ、ちょっとオイ……い、いいのか? あの二人…」
店の外では、明日菜があやかの三角絞めを必死の形相で耐えていた。
13-299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/12(水) 02:38:16 ID:8zhwbPkZ0
『メガネのまほら』は、その名のとおり、学園都市唯一のメガネ専門店である。
さほど広くはない店舗ながら、充実した品揃えと、学生さんのフトコロ事情を考慮した良心的な価格設定。
唯一の専門店という利点も手伝い、そこそこ繁盛しているようだ。今も4〜5人の客が品定めをしている。
「いらっしゃいませ」
「あ、佐和さん。やっほー」
店に入ると若い女性の店員さんが声をかけてくる。メガネ屋の店員だから、というわけではないのだろうが、彼女もメガネをかけていた。
「こちら、店長の佐和さん。昔からお世話になってるんだ」
ハルナに紹介され、店員さん、もとい佐和店長はうやうやしくお辞儀をする。
「はじめまして。店長をしております、佐和と申します。よろしくね」
「こんにちわー」
「…………ども」
「ハルナちゃん、今日はずいぶんとにぎやかね。……特に表の方が」
佐和店長は未だに店の前で暴れている二人を見て軽くため息をつく。今度はあやかが明日菜の肩固めに苦しめられていた。
「…完全にキマってるな」
「いいんちょヤバイね」
「あ、あはは……ゴメンなさい、いますぐ撤去します…」
他人事のような感想を述べる千雨と桜子に冷や汗を流しつつ、ハルナはそそくさと店の外に飛び出した。

オチる寸前であやかを救出し、明日菜と共に店内へ連れてきたところで、佐和店長が改めてハルナに質問する。
「で、今日はどうしたの? もう度が合わなくなっちゃった?」
「えへへ、今日は私じゃないの。用があるのはこの子よ」
ハルナは千雨の背中を押して、店長の前に立たせる。
「お、おい……」
「今日はみんなで、この子にメガネを選んであげたいの。いいでしょ?」
「ふふ、いいわよ。それじゃ、ごゆっくりどうぞ。ただし、店内ではお静かにね?」
4人はハーイと元気よく返事をする。その声がすでにうるさかった。
13-569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/15(土) 01:54:52 ID:Pl0TehBS0
「はーい、じゃあまずこれからいってみようか〜」
「お、いいわねぇ、んーじゃ、次はこれね」
「ねぇねぇ、これなんか似合うんじゃないかなー?」
「フチなしかぁ。んー、似合うけど、これほとんど素顔よね」
「ハルナさん、こんなのはどうかしら?」
「うわ、何これ、こんな教育ママさんがかけるような三角メガネ、初めて見たわ」
「いいんちょ、自分でかけてみなさいよ。アンタなら絶対似合うわ」
「…それはどういう意味ですのアスナさん?」
「ねぇアスナ、こんなの見つけたんだけど」
「こ、これは…っ! 高畑先生のと同じ型のメガネ…………ああ…高畑先生…」
「…アスナ、自分でかけてどうするの。長谷川にかけてやんなさいよ」
「あは、アスナ似合うじゃーん。買っちゃいなよー。動機が不純だけど」
「ふ、不純とは何よ! 好きな人が持ってるのと同じものを欲しがるのは人としてこう、何ていうの? アレよアレ」
「そういや、ハルナのメガネって高畑先生のと似てるねー」
「およ、そういえばそうねぇ」
「…ッ!! ……ハルナ……アンタがちょっとだけ輝いて見えるわ…」
「ちょ、ちょっとアスナ、目がヤバイ、ヤバイって」
「あななたち、今日は遊びに来たのではありませんわよ? 少しは真面目に…」
「ねね、いいんちょ、これネギ先生に似合わないかなー?」
「ああっ、そんな……普段のパンスヌもお似合いですがこれもまた一味違った魅力が…」
「パル……パンスヌって何?」
「さぁ……パンストの親戚?」

試着用の鏡台の前に座らされ、千雨はおよそ10分もの間、入れ替わり立ち代り、メガネを試着させられた。
その間千雨は一言も感想を述べることはなく、4人は一度も感想を聞くことはなかった。
まるで着せ替え人形かマネキンのような扱いを受けた千雨は、その要望どおり、身動き一つせず耐え続けた。
鏡に映った自分の顔が、虚ろな目をして千雨を見つめていた。
15-188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[千雨のミス(仮)] 投稿日:2005/10/21(金) 00:18:04 ID:Y6uG8Wtq0
手持ちのメガネをすべて試着させ終えたテロリストたちは、新たな弾薬を求めて店の奥へと散っていった。
今まで微動だにしなかった千雨は、拷問から解放された途端、ぐらぐらと頭を揺らし始める。
千雨に揺れを止めようとする意思がないのか、それともすでに意識がないのか、その揺れは大きくなり、ついに崩れた。
ごつっ
「…………はぁぁぁ〜〜……」
大きく息を吸い、そして吐く。予想以上に痛かったが、今はその痛みがありがたい。意識が覚醒する。
「…ずいぶん大きな音がしたけど、大丈夫?」
衝撃音を聞きつけ、佐和店長が背後から声をかけてくる。千雨は顔を上げて、鏡越しに答えた。ぶつけたおでこが赤い。
「…気にしないで下さい。わざとですから」
「そ、そうなの? てっきりマジで気を失ったのかと思って、心配したわ」
「…………」
うつむいて黙り込む千雨に、佐和店長は苦笑いを浮かべた。
店の奥に視線を移す。テロリストたちが所狭しと駆け回りながら、相変わらずやかましく品定めにいそしんでいる。
ちなみに他の客たちは、彼女たちのあまりの騒がしさにすでに店を出てしまっていた。店内にいるのは千雨たちと店員だけだ。
「にぎやかなお友達ね」
「…別に、友達なんかじゃありませんから」
「あら、そう? ずいぶん楽しそうに見えたけど」
「楽しがってたのはあいつらだけです」
「あいつらだなんて、お友達をそんな風に言っちゃダメよ」
「ただのクラスメイトです」
「みんなあんなに熱心に、あなたのメガネを選んでくれてるじゃない」
「いい迷惑です。それに寮に帰れば自分のがありますから」
「あなたには、もっと似合うものがあるはずよ……あんな大きくて丸いメガネなんかよりもね」
「ほっといてくださ………………なんで、私のメガネの形を知ってるんですか」
千雨は顔を上げ、鏡に映った佐和店長を見る。口の端をわずかに吊り上げ、店長は笑っている。
「…どうしてだと思う? ……長谷川さん」
「……!!」
千雨は振り返って睨みつけた。店長は笑顔でそれを受け流した。
15-191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[千雨のミス(仮)] 投稿日:2005/10/21(金) 01:47:03 ID:Y6uG8Wtq0
自動ドアが開き、ランドセルを背負った少女が入店してくる。
「いらっしゃいませーっ」
「……っ!」
私は元気よくあいさつをする。その声に驚いたのか、少女はびくっと体を震わせ、固まってしまった。
「あ、ご、ごめんね! ちょっとうるさかったかな」
「…い、いえ、なんでもないです…」
とりあえず私は、彼女の背中を押して、鏡台の前に座らせる。
「さぁて、今日はどんなご用かしら?」
「…あ、の…その…」
少女は緊張しているのか、顔を真っ赤にしてうつむくばかりだったが、しばらくすると意を決して口を開いた。
「…め、メガネ…こわれちゃって…」
「あら…ホント」
よく見ると、右側の蝶番(レンズ横の可動部分)に、セロハンテープがぐるぐると痛々しく巻かれている。
「…なおりますか?」
「んー、それはちゃんと見てみないとわかんないなー。ちょっとお姉ちゃんに貸してくれる?」
そう言って少女のメガネをひょいっと外す。すると少女は赤い顔をさらに赤く染めて慌てふためいた。
「あ、あ、あ、わ、だ、だめ、ダメ、めめめメガネ、はわ」
小さな両手で顔を隠して縮こまってしまった。あちゃー。悪いことしちゃったな。
「ご、ごめんね? あ、ほら、このメガネ、かわりにかけててね」
私はたまたま目に入った、というだけの理由でそのメガネを手に取り、彼女に渡す。度は入っていないが、代用品としては充分だろう。
少女は耳あてを目に突き刺さんばかりの勢いでメガネをかける。大きな丸いレンズは、彼女の顔をほとんど覆ってしまっていた。
「じゃあ、直してくるから、ちょっと待っててね」
私はそう言って店の奥へと移動しようとする。すると少女が小さく声を上げた。
「…これ…」
「ん?」
振り返ると、少女は鏡に映る、ぶかぶかのメガネをかけた自分の顔をしげしげと見つめていた。
「…これがいい」
「え、でもこれ、大人用だよ? サイズ合ってないし、度も入ってないのよ?」
「…これ、ください」
15-623 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2005/10/27(木) 05:45:45 ID:zmRDeyca0
「…アンタだったのか……あの店員」
「当時は私もここに入社したばかりで、まともに接客したの、あなたが初めてだったのよー。いやー緊張したなぁ」
千雨の射るような視線にもめげず、思い出にひたる佐和店長。腕を組んでうんうん、とうなずく。
「あの時は名前も聞かずに別れちゃって、ずっと後悔してたんだけど。今から2年くらい前かな、街で偶然あなたを見かけたのよ」
「…………」
「成長して、ずいぶんと美人さんになってたけど、顔を見てすぐに分かったわ。あのメガネもかけてたし。……ずっと使っててくれてるんだ…って、ちょっと感動しちゃった」
やさしく微笑む店長に見つめられ、千雨は赤く染まった顔を隠すように視線をそらす。
「…名前は、どうやって知ったんですか」
「あなたの写真を、この店に来た中等部の子たちに片っ端から見せて聞き込みしたの。苦労したわ」
「そ、そこまでするか……」
「ところで、あれから一度もうちに来てくれなかったけど、サイズが合わないとか、壊れたとかはなかったの?」
「サイズは元々大人用だったし、壊れないように大事に扱ってましたし…」
「まあっ……お姉さんうれしいわ、私の選んだメガネをそれほどまでに大切にしてくれてたなんて…っ」
「違います! 都合のいい解釈しないでください!!」
ドタバタと二人で暴れていると、騒ぎを聞きつけテロリストたちが戻ってきた。もちろん両手いっぱいに弾薬を抱えて。
よく見ると、元々メガネっ子のハルナを除く3人は、それぞれメガネを装着していた。値札がぷらぷらと揺れている。
「…………」
「あれ、佐和っちさん、長谷川と知り合いだったんだ?」
「そうなのよー、前に一度この店に来てくれたことがあってねー」
「…………」
「そうだったんだ、あ、じゃあさ、佐和っちさんもメガネ選ぶの手伝ってよ。専門家の意見も聞きたいし」
「いいわよー。さ、千雨ちゃん、座って座って」
「…………」
佐和っち店長に両肩を押され、着席を促されるが、千雨は動こうとしない。
「あら、どうしたの? ほら、千雨ちゃんてば」
うつむいた千雨が、大きなため息をつく。長い沈黙の後、静かに口を開いた。
「……いい加減にしてくれ。もううんざりだ」
店内の空気がぴんと張り詰めた。その場にいた全員がそれを感じ取った。
20-542 名前:千雨のミス[sage] 投稿日:2005/11/28(月) 03:10:25 ID:???
「ち、千雨ちゃん…?」
佐和店長が心配そうに千雨の顔を覗き込んでくる。千雨はうつむいたまま、腕を回して彼女の手を振りほどいた。
「きゃっ!」
「ッ…佐和さん!」
その力は決して強くはなかったが、店長は不意をつかれてバランスを崩し、尻餅をついた。ハルナが駆け寄り、体を支えてやる。
「…? 長谷川?」
「…………」
千雨はしゃがみこむ二人の横を通り過ぎ、鏡台の椅子に立てかけてあった鞄を手に取る。
「…ちょっと長谷川、ど、どこ行くのよ」
「…私はお邪魔みたいだから先に帰らせてもらうわ。…お友達どうし、仲良くやってな」
「な…!?」
「ち、千雨さん!?」
そう言って鞄を肩にひっかけると、千雨は店の玄関に向かって歩き出した。
「ちょ…待ってよ長谷川!」
「…………」
ハルナが呼び止めると、千雨は足を止め、ゆっくりと振り向いた。その表情は冷たく、ハルナは一瞬身をすくませた。
「…何だよ、まだナンか用でもあンのか」
「な、何って、今日のメインは長谷川のメガネなんだから…」
「そのメインを放っといて自分たちのメガネ選びに熱中してたのは誰だよ」
矛先を向けられ、たじろぐあやかと明日菜。桜子は先ほどから口を閉じたまま、事の成り行きを見守っている。
「…も、申し訳ありません……ですが、私たちは決して千雨さんを困らせようとしていたわけでは…」
「そ、そうなの。私たち、こういう店って初めて来たからさ、つい、はしゃいじゃって……でもちゃんと長谷川のために選んで…」
「…だったらさっさと決めて、早く帰らせてくれよ!! こんなくだらネェ『お友達ごっこ』につき合わされてる時点ですでに大迷惑だっつーの!!」
「…長谷川…」
千雨が爆発した。胸の中でくすぶっていた小さな火種に、明日菜たちの言葉が触れた瞬間、一気に燃え上がった。
明日菜もあやかも、ハルナも佐和店長も、不測の事態にとまどいを隠せないでいる。あやかなどは半分泣きそうな顔をしている。
「………」
桜子は、それでも声を発することなく、あくまで傍観者であり続けた。

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最終更新:2007年07月29日 02:33