32-599
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32-599
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:41:34 ID:???
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辿り着いた場所
1/14
「明石。今日空いてるか?」
放課後。どことなく普段の落ち着きを欠いた真名が尋ねてきた。
「たつみー……。堂々とアキラの親友であるあたしをデートに誘うなんて、さすがだね……」
裕奈は呆れ果てた表情で答えた。いつもの浮気と判断したのだろう。
真名は少しだけ淋しそうな顔を覗かせ、否定する。
「失礼な。デートの誘いなら私はもっと慎重かつ隠密に実行する。―――明日の件で付き合え」
「明日の件、ね。そういう事なら」
真名の返事に、裕奈はあっさりと同意した。ようやく真名の表情が破顔する。
「済まない。では、ちょっと付き合ってくれ」
こうして、二人は街へ出掛ける事となった。
「―――お前達はもうプレゼントは用意したのか?」
さまざまな洋服を物色しながら、真名はぽつりと問い掛けた。
「もうバッチリだよっ! まき絵がイルカのクッションで、亜子はシルバーのネックレス。そんであたしが
白のパンプスだよ」
「成程……。どうやら服に目を付けたのは正解だったな」
プレゼントが重ならずに済むとあって、真名は胸を撫で下ろす。
「お、コレなんてどうかな?」
裕奈が白のワンピースを勧めてくる。
「ふむ……」
真名は即座に妄想してみる。レースをふんだんに使った白。アキラによく似合っている。手に取って感触を
確かめると、素晴らしく肌触りがよい。これを纏ったアキラに抱きつかれた日にはもう……。
「たつみー、よだれよだれ」
裕奈の突っ込みに、真名はようやく正気に返った。危うく自慢のビックマグナムが起動するところであった。
「よし、これにしよう。でかしたぞ明石!」
真名はいそいそとワンピースを手にレジに向かった。
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32-600
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:42:09 ID:???
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2/14
「たつみー、おっとこまえだ〜」
裕奈は尊敬の眼差しで真名を見た。件のワンピース、その価格は裕奈の想像を遥かに越えていたのだ。
「言うな……。これもアキラの為だ……」
真名は五人の諭吉に別れを告げ、店を後にした。
「アキラには値段の事は内緒だぞ? 余計な気を遣わせるからな」
「りょーかい。こりゃ明日が楽しみだにゃ〜」
「その事なんだが……」
突然、真名の口が重くなる。
「あれっ? もしかしてここからが本題?」
てっきりプレゼントを決めるのが今日の任務だと思っていた裕奈は首を傾げる。
「うむ……。実は明日、仕事が入っている。何としても夜までには片付けるつもりだが、万が一の時は
これをアキラに手渡して欲しい」
そう言って真名は買ったばかりのプレゼントを裕奈に差し出す。
「仕事ねえ……」
裕奈はうーん、と唸った。そして、
「いや、やっぱりこれはたつみーからアキラに渡さないとダメだよ」
と言って受け取りを拒絶した。
「たつみーだって自分で渡したいでしょ? だったら全力で仕事を片付けちゃえばいいんだよっ!」
「簡単に言ってくれるな……」
そう言ったものの、真名は微かに口元を緩ませた。裕奈のようにポジティブに考えるのも悪くない。
そう思ったのだ。
「取り合えず明日はあたしの部屋でパーティーをやるから、たつみーは二次会でしっぽりどーぞ」
「ふっ、私を誰だと思っている」
真名が胸を張って答え、二人で笑った。
「今日は色々と助かったよ。どうだ? 私の行き付けの甘味屋に寄るか?」
「おーけー。んじゃアキラの為に大枚はたいた心意気に免じて、あたしがオゴってあげる!」
こうして二人は明日の打ち合わせをしながら楽しい時間を過ごした。
尚、寮に戻った裕奈が亜子にさんざん尋問されたのは、また別のお話―――
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32-601
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:42:47 ID:???
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3/14
その日、アキラは終始浮かない表情をしていた。真名が学校を休んだからだ。
『今夜の誕生パーティーには必ず駆けつける』
昨日、真名ははっきりと言い切った。そして、朝起きると既に真名の姿は無かったのだ。
「だいじょーぶだって! たつみーが約束を破るワケないじゃん!」
「せやせや! 隊長が戻って来るまではウチらがトコトン付き合うたるで!」
「えっへへー、今日はあやかと一緒にすっごいケーキ作ってあげるからねっ!」
いつもの三人が励ましてくれる。それはとても嬉しいものであった。
けれど、不安は消えない。
「真名……。無茶しなければいいけど……」
アキラはただ、恋人の安否を祈っていた―――
麻帆良近くの山中。そこに真名は居た。
「刹那、そちらの様子はどうだ?」
苛立ちを隠せない口調で、真名は携帯電話の相手に吐き捨てた。
「駄目だ。まるで察知出来ないのが現状だ」
刹那の返事は素っ気無い。ぎりっ、と真名は歯軋りする。
「たつみー、そんなにカリカリしてると血圧上がるよ?」
実にやる気のない態度で、隣に控えていた美空が軽口を叩く。標的が不可視の魔性、とあって、
真名が個人的に雇った助っ人であった。
「うるさいぞ役立たず。貴様はさっさと標的を炙り出せ」
「たつみーの魔眼だって視認しないと使えないじゃん。役立たずはどっちだよ」
減らず口を叩くシスターに、真名は人選を誤ったかと後悔した。
「くっ……、お得意様である学園長の依頼で無ければ、こんな仕事断ったものを……」
「私たちは依頼主を選べないもんねー。ま、私たちだって協会の上役に命じられたら逆らえないし」
お客様は神様です、と美空はしみじみと呟く。
「ま、私だってアキラの誕生パーティーには駆け付けたいし、頑張りますかっ!」
そう宣言して、美空は探索を再開した。
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32-602
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:43:21 ID:???
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4/14
放課後になり、裕奈と亜子、まき絵とあやかの四人は、部活を休んでパーティーの準備に取り掛かる。
その間、アキラは教室に釘付けとなっていた。
『お誕生日おめでと〜っ!』
クラスの面々が次々とアキラの元に集まってくる。真っ先に駆け付けたのはチアの三人だ。
「おめでとさん。これ、この前のお返し〜」
「アキラちゃんおめでと〜!」
「んで、私はこれ」
早速プレゼント攻勢が始まった。美砂からは蜂蜜のリキュールを、桜子からはねこ○ねこを、円からは
シルバーのブレスレットを受け取った。
「あ、ありがと……」
ちょっぴり恥ずかしそうに、アキラは微笑む。だが……。
(ごめんね、みんな……)
クラスメイトの祝福を受けつつも、アキラは心の底から喜べなかった。
真名―――
どうしても、恋人の事が頭から離れない。
真名の仕事を、アキラはよく知らない。ただ、その身を危険に晒している事だけは理解していた。
アキラに出来る事といえば、真名を待つだけ。
いつも、アキラは恋人の力になってやれない無力な自分を恨めしく思っていた。
そして、今も―――
(真名……。私は真名が傍に居てくれるだけでいい……。だから、早く戻って来て……!)
朝から付き纏う不安は、未だ拭えない―――
盛り上がるクラスメイトをよそに、アキラの心配は募るばかりであった。
「アキラさん……」
そんなアキラの心境に気付いたのは、茶々丸であった。
誰にも気付かれる事なく、茶々丸はそっと教室を後にした。
向かう先は、戦場―――
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32-603
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:44:10 ID:???
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5/14
夕刻。山中にて。
「参ったな……」
真名は乾いた笑みを浮かべる。尋常では無い魔性の気配が、周囲一帯に蠢いていた。
「ちょっとヤバイんでない?」
冷や汗を垂らしながら美空が呟く。戦闘力では真名に大きく引けを取る彼女は、事態の急変に
戸惑う一方だ。取り合えず聖なる結界を張り巡らし、美空はようやく人心地ついた。
「こんなに大勢の魔物が居たワケ、か。昼の間にケリをつけたかった理由が分かったよ……」
「もう過ぎた事だ」
美空の愚痴に、真名は吐き捨てるように答えた。
「春日さん、結界から外へは絶対に離れないで下さい」
夕凪を強く握り直し、刹那が忠告する。
異界―――
空間の綻びから迷い出た魔性。其の討伐が今回の依頼であった。だが、彼らは存外にしたたかであった。
真名の、刹那の、美空の眼を掻い潜り、彼らはひたすら逃げ回っていた。それもこの時を待つ為に。
魔性の現れた歪み。それを発見し封じた時には、最早手遅れだったのだ。
魔物の群れは、次第に本来の禍々しさを露わにした。それは、夜の到来を物語っていた。
夜。それは魔性が最も能力を発揮出来る時間である。
美空の結界を遠巻きに見つめる、邪悪な瞳。その数は百を越える―――
「そろそろやるか―――」
真名の合図に、刹那はこくりと頷いた。
「無理はするなよ、龍宮」
「ふ、誰に言っている」
にい、と口元を緩ませ、真名は結界から飛び出した。すぐさま刹那も続く。
血を、肉を、人のたましいを求め、魔物は一斉に襲い掛かってきた。
「貴様等に付き合っている暇は無い!!」
ガガガガガガガガガガッ……!
愛用のデザートイーグルが火を噴く。嵐のような斉射で、戦いの火蓋は切って落とされた。
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32-604
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:44:44 ID:???
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6/14
時刻は午後八時を過ぎただろうか。外はすっかり闇に染まっていた。
「アキラ―――」
部屋の喧騒から少し離れた窓際で、アキラは外を眺めていた。そんな彼女に、裕奈は声を掛ける。
「今日の主役がそんな表情したらダメだって」
「うん、ごめん……」
そう答えたものの、アキラの表情は晴れないままである。
「ほにゃらば歌っちゃうよ〜っ!!!」
桜子の元気な声が響く。アキラと裕奈の部屋は、すっかり大宴会場と化していた。
「ったく、あいつら好き勝手に盛り上がっちゃって……」
「ふふ、ゆーなも混ざったら?」
だが、裕奈は首を横に振る。
「ダメダメ。たつみーが帰ってくるまでは、あたしがアキラの傍に居るって決めたんだから!」
「くす……、お祭り娘がよく言うよ」
「放っとけー!」
裕奈のいつもの突っ込みに、アキラは穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。待つのは慣れてるから」
アキラの呟きに、裕奈は即座に答えられなかった。アキラの瞳の奥にあった悲しみ。言葉とは裏腹な感情。
それが裕奈の言葉を奪い去ってしまった。
それでも、裕奈は必死に親友に気持ちを投げ掛ける。
「たつみーは来るよ、絶対に。プレゼント、自分で渡すって約束したから……!」
「ゆーな……」
裕奈はそっとアキラの両肩に手を掛けた。そして、優しい笑顔で語り掛ける。
「だからさ、アキラは笑ってなきゃ! たつみーを信じて、明るく騒いでりゃいいんだよ!」
「うん、そうだね……」
アキラは小さく息を吐き、目を閉じた。親友の温かさが、アキラの心に沁みてくる。
「ありがと、ゆーな。ちょっと元気出てきたかも」
「へへん、みんなに元気を分けてあげるのが、あたしの役目だもんね!」
自慢気に胸を張る裕奈に、アキラは小さく頷くのであった。
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32-605
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:45:14 ID:???
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7/14
鬱蒼とした森の中。戦いは続いていた。
「チィッ!」
刹那は紙一重で魔物の攻撃を躱しながら舌打ちする。生い茂る木々が、彼女の斬撃を阻んでいた。
制限された状況下で、刹那は本来の実力を発揮出来ないままだ。
「斬空閃!」
闇の中、斬撃が疾った。その一撃は標的となった魔性を両断する。
「埒があかない……!」
夕凪を存分に振り回せる立ち位置で、刹那は魔物を迎撃するのが限界であった。身の安全を第一に考えれば、
それが最良の選択であった。闇雲に周囲の木々を切り倒しては、気の消費が激しすぎる。
だが、真名の判断は違った。
本来、身を隠しながら応戦するのが、狙撃手の本領である。しかし、
「あいつ……、無茶をするなと言ったのに……!」
刹那の目は森の中を疾走する相棒を捉えていた。より多くの魔物が密集している箇所へ、真名は躍り出る。
「消えろ―――!」
銃声が奏でられる。それは、普段の真名からは考えられないような、猛々しい旋律であった。
一拍置いて、真名は素早く離脱する。生き残った魔物の鉤爪が、真名の衣服を裂いた。
「たつみー!」
凄まじい速度で、美空が真名の元へ駆け寄る。自分よりも二回りは大きい真名の身体を抱きかかえ、
美空は風のような走りで結界内に避難した。一瞬遅れて、真名の居た場所は魔物の放った光線に晒される。
「うっひゃー、環境破壊なんてもんじゃないね」
美空は真名を下ろすと、相変わらずの軽口を叩く。
「たつみー、無茶しすぎだって。あーあ、すっかりボロボロじゃん」
美空の指摘通り、真名は全身に手傷を負っていた。無謀な突撃の繰り返しで、真名の体力は確実に
消耗していたのだ。結果、魔物の攻撃を躱し切れなくなり、ますます真名の体力は削られていく。
だが、それでも。
「まだだ。まだ獲物が残っている―――!」
手早く新たなマガジンを装填し、再び真名は飛び出していった。効率良く敵を倒す。今の真名には
それしか頭になかった。
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32-606
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:46:19 ID:???
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8/14
「あの馬鹿……!」
美空までもが真名の救援に動いたのを見て、ようやく刹那は覚悟を決めた。冷静さを欠いた真名を
止める手立てはない。そう判断した上での結論であった。
「この借りは高いぞ……!」
最早、なりふり構ってはいられない。刹那は一刻も早く終わらせるべく、全ての気を開放した。
「神鳴流奥義・斬岩剣!!!」
渾身の一撃。木々を薙ぎ払いながら、魔物を一気に両断する。
ズウゥゥン……!!!
切り倒された木々が、地鳴りのような音を立てる。愚かな魔物が数体、下敷きとなった。
「神鳴流剣士・桜咲刹那、参る……!!」
見晴らしのよくなった戦場に、白き風が躍動した。
「あれま、桜咲さんまで環境破壊を始めちゃったよ……」
と、美空が呑気な事を言っていられたのも、ここまでだった。
ばりばりばり……!
「へっ?」
自分の術が破られた感覚。見れば、一体の鬼が結界を引き裂いていた。
「のわあああっ!? 私の安全地帯ぴーんちっ!!」
「春日さん!!」
刹那の斬撃が鬼に放たれる。だが、
ガキイィィッ……!
その鬼は容易く刹那の一撃を弾き返した。やや体勢を崩した刹那に、鬼の鉤爪が襲い掛かる。
「くっ……!」
刹那は辛うじて斬撃を受け流すと、夕凪を構え直した。
「神鳴流奥義・斬魔剣!!!」
ざしゅうぅぅ……!!!
退魔の能力を込めた一撃に、鬼の姿は霧散した。ふっ、と刹那は息を吐く。
「どうやら生き残ったのはなかなかの手練らしいな」
刹那は真名の姿を探し、戦慄した。
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32-607
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:47:17 ID:???
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9/14
「隊長、遅いなあ……」
ようやく静かになった部屋で、ぽつりと亜子が呟いた。クラスの面々は真名の為に早々に引き揚げたのだ。
会場をチアの部屋に移し、二次会をやるらしい。まき絵はちゃっかりあやかの後を追ってしまったので、
部屋に残っているのはアキラと裕奈、そして亜子の三人だけである。
「二人とも二次会に行かないの……?」
アキラが問い掛けると、裕奈と亜子は首を横に振る。
「いやいや、たつみーがアキラにプレゼントを渡す瞬間を見届けなきゃ!」
「隊長、こーゆーの苦手やろうから、めっちゃ照れるんちゃう?」
そう言ってくすくすと笑う二人に、アキラはそうだね、と笑顔で答えた。わざと軽口を交わす二人の心遣いが
嬉しく思えた。
明るく、前向きに。
裕奈に言われた通りに、アキラは不安から目を背けた。
「そうだ、残り物だけじゃ可哀想だから、真名の為に何か作っておこうかな」
アキラは席を立とうとする。けれど、
「アカンアカン、今日の主役はおとなしゅうしとき。ウチが作ったるから」
「そうそう。片付けはあたしに任せて!」
と、二人に仕事を取り上げられてしまった。仕方なくアキラは机に向かい、教科書を広げる。
「こういうイベントとはカンケーなしに、宿題は襲って来るんだよね〜」
テーブルを拭きながら裕奈は愚痴をこぼす。
「そうだね。誕生日くらいは大目に見て欲しいな」
微かに笑いながら、アキラは宿題に取り掛かった。
かちゃかちゃ、と食器を洗う音。トントントン……、とリズミカルに響く包丁の音。さらさらとペンを
走らせる音。時折、亜子の鼻歌が聞こえてくる。そんな、ありふれた日常。
けれど三人は、心の底から彼女を待っていた。
颯爽と真名が部屋のドアを開ける瞬間を。
アキラは信じていた。何があっても、最後に真名は私の元へ帰ってきてくれる、と。
それが、二人の関係だから。
二人が育ててきた、絆だから―――
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32-608
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:48:09 ID:???
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10/14
「真名にとって、私は何なのかな?」
以前、何気なく尋ねた事があった。それは、アキラにとって他愛の無い疑問。
けれど真名は、神妙な面持ちで語ってくれた。
「アキラは私の帰る場所なんだ。そうだな……、我が家みたいなものだ」
「我が家?」
「うむ……。以前の私は自分の居場所を持たず、勝手気ままに生きてきたからな。だから、アキラと一緒に
なって驚いた。自分の居場所というものが、こんなに温かいものだと知ったからな」
そう思うのなら浮気癖をなんとかしてね、と意地悪に言うと真名は、
「ははっ、すまない」
と、笑って流したものだ。
あの時真名が見せた笑顔が、ずっと心に焼き付いている。アキラにしか見せない、無邪気な笑顔。
その笑顔が、今は遠い―――
二人の関係にずっと付き纏っていた不安。それは、不慮の別離であった。
幸せな時間が続く程、その不安は大きくなっていく。それが今、アキラの心を侵食していく。
漠然とした、根拠の無い恐怖。最愛の人を失う、最悪の予感。
その全てを、アキラは受け流していた。そして信じていた。
真名が自分を必要としているように、アキラ自身もまた、真名が必要だから。
もう一度、真名に伝えたかった言葉があるから。両手でも抱え切れない言葉があるから。
おかえり、と言って抱きしめたい。
好きだよ、と言ってキスしたい。
離さない、と言ってずっと手を握っていたい。
だから―――
アキラは信じ続けた。再び、真名の笑顔に逢える瞬間を。
笑顔で待ち続けた。自分は、真名の帰る場所なのだから。
「ずっと待ってるから。真名……」
この想いが、真名に届くような気がした―――
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32-609
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:48:44 ID:???
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11/14
「龍宮……」
じり、と刹那は後ずさる。真名の迫力に、あろうことか神鳴流剣士が気圧されたのだ。
「はああああああっ!!!」
真名が吼えた。
とうの昔に限界を迎えているのに、真名は鬼神の如き戦いを続けていた。
額を割られ、背中を鉤爪で抉られ、肩口に牙を突き立てられ、それでも―――
それでも真名は躍った。止めど無く流れる血も厭わず。
「たつみーもうやめなって!!」
美空の叫びに、真名は一瞬だけ笑った。凄絶な笑顔であった。
「駄目だ。アキラを待たせているんでな」
再び、真名の魔眼が閃く。
圧倒的な死の香りを纏い、真名は銃声を奏で続けた。今の真名は痛みを感じない程に高揚していた。
彼女を動かすもの。それは、執着であった。
「ようやく見付けたんだ。私は―――!」
命と命のやり取りでしか、己の存在を見出せなかった。
そんな真名を、アキラは守ってくれた。
溢れんばかりの優しさで、温もりで、愛情で―――
「私には帰る場所がある。だから、貴様等も帰るがいい!!!」
真名のデザートイーグルが硝煙を上げる。そして、急所を貫かれた魔物が次々と消滅した。
「残り七体―――!」
真名の命を一瞬で散らせる、首への一撃。それを皮一枚で躱し、血が飛沫く。だが、真名は怯む事なく、
銃を構えた。だが―――
「くっ……!」
真名の生命線である魔眼。それが血で覆われた。その瞬間に魔物の鉤爪が襲い掛かる。
ジュッ……!!
一条の光が、魔物を焼き払った。
「目標を捕捉。排除します」
月を背負いながら、上空からエメラルドグリーンの髪を靡かせた天使が舞い降りた。
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32-610
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:49:22 ID:???
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12/14
「うーわー、美味しいトコ総取りだね、茶々丸さん」
美空の表情から笑顔が弾けた。死地を脱した真名を、刹那が援護する。
「馬鹿が。自分を過信するにも程がある」
「そう言うな。今日ぐらい大目に見てくれ」
相棒が差し伸べた手を、真名は笑顔で掴んだ。
ゴウッ!!!
茶々丸の攻撃で、残りの魔物は全て灰に帰した。
「うーむ、環境破壊ここに極まれり、ってカンジ?」
美空は頬を掻きながら苦笑する。しかし、そんな彼女の笑顔もここまでだった。
「これから龍宮さんを寮へ急行させます。申し訳有りませんが、後始末をお願いします」
そう宣告して茶々丸は真名を回収し、再び飛び立ってしまったのだ。
「マジっスか……」
次々と周辺に延焼する炎を前に、美空はつつー、と冷や汗を流した。
「仕方ないですね」
くすりと笑って、刹那は結界を張り巡らせるのであった。
「どういう風の吹き回しだ?」
茶々丸に抱えられたまま、真名はぽつりと呟く。
「今日のアキラさんは、少し不安そうでしたので……」
「いや、助かったよ。実はもうくたくたで動くのもやっとなんだ」
「随分、無理をなさったのですね」
茶々丸の問いに、真名は口元を緩ませた。
「ああ。らしくない戦いだった。何となく、今日は絶対に死なない予感がしたんだ」
「そうですか」
茶々丸はにこりと微笑んだ。決して彼女には理解出来ない感覚。だが、それが人であると解釈したのだ。
「―――しかし、この恰好は存外に恥ずかしいぞ」
「そうですか?」
生涯初のお姫様だっこに、真名は苦笑するしかなかった。
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32-611
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:49:54 ID:???
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13/14
もうすぐ日付が変わる。
「たつみー……」
ちらり、と時計を一瞥し、裕奈はぽつりと漏らした。
「隊長、間に合わへんかったなあ……」
すっかり冷めてしまった真名の為の食事を前に、亜子はしょんぼり呟いた。
「大丈夫だよ」
ただ一人、アキラだけは笑っていた。
「真名は絶対に約束を破ったりはしないから」
それは、アキラだけが感じていたもの。
「ほら、もうすぐだよ―――」
傷だらけの身体に最後の鞭を打って―――
「誰か来たっ!」
けたたましく廊下を疾走する靴音に、裕奈の表情が一変して―――
「隊長やっ!!」
ガチャリ、と玄関のドアが開いて―――
「ハッピーバースディ、アキラ―――!!」
とびっきりの笑顔で、真名はやって来た。大事そうにプレゼントを抱えて……。
「おかえり、真名―――!!」
アキラはゆっくりと、真名を抱きしめた―――
「遅くなってすまない……」
「構わないよ。だって、たっぷり待たされた分だけ、私は嬉しいから―――」
「アキラ……、もう離さないぞ―――!」
「好きだよ、真名―――!」
やがて二人は、どちらからともなく、唇を重ねた。
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32-612
名前:辿り着いた場所[sage] 投稿日:2006/05/26(金) 06:50:23 ID:???
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14/14
「うんうん、感動的なシーンだにゃ〜」
思わずもらい泣きしてしまう裕奈であったが、ここでようやく気が付いた。
「―――って、たつみー血まみれじゃん!! やばっ、亜子大丈夫!?」
「うう……、ウチはもうダメや……」
慌てて裕奈が駆け寄ると、亜子は気絶寸前であった。
「真名、大丈夫なの?」
「ふっ、正直立ってるのも辛い」
そう言い残して、真名の意識は途切れた―――
翌朝。真名が目を覚ますと、枕元には亜子の顔があった。
「おや、和泉ではないか。そうか、そんなに私の愛が欲しいのか。よし、ちょっと待ってろ……」
と、真名が起き上がろうとした瞬間、真名の顔面に枕が炸裂した。
「ったく、亜子はあたしのものだっての! アキラー、たつみーが起きたよ〜っ!!」
「軽い冗談ではないか……」
裕奈の枕ダンクを食らった真名はむくりと身体を起こした。傷は痛むが、我慢出来ない程ではない。
「隊長は元気やね……。あんな大ケガしたハズやのに……」
何故か亜子はちょっぴり頬を赤くしている。そして、駆け付けたアキラは……、
「それだけ元気なら、もう大丈夫だね」
すっかり呆れ果てた様子で苦笑していた。
「おっ、それは私のプレゼントしたワンピースではないか。よく似合ってるぞ」
早速真名はアキラのワンピース姿を褒め千切る。だが……、
「たつみー、そんな状態でその台詞は反則だって……!」
裕奈は腹を抱えてぴくぴく痙攣している。不審に思った真名が自分の身体に目をやると、
「むう……!」
真名ご自慢のビックマグナムは、今朝も元気一杯におっきしていたのだ。
「い、いやこれはだな、毎朝の通過儀礼というか……」
必死に弁明する真名に、アキラは珍しく大笑いするのであった―――
(おしまい)
最終更新:2007年07月29日 02:33