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ザジの回想

5-759 名前:ザジの回想 1[] 投稿日:2005/08/01(月) 05:21:11 ID:R4IvntYS0

 どうして、こうなってしまったのだろう。
 いつも私はルームメイトの彼女のことを考えている。
 寝ても覚めても彼女の顔しか頭に思い浮かばない。

 以前の私はこんなのじゃなかった。
 誰にも関心を持てない私は、曲芸だけが生きがいだった。
 友人を作ろうとも思わなかった。
 人に声を掛けようとも思わなかったし、声を掛けられても、頷くか首を振るかで答えるだけだった。

 ちうとこの部屋に住むようになった時も、それは変わらなかった。
 一緒にいても私は黙っているだけで、会話は全く無い。
 でも、それはちうも同じだった。
 彼女は四六時中パソコンに向かっていて、私の顔を見ようともしない。

 まあ、私にとっては変に気を遣われるよりも好都合だったが、この時の私が彼女を見誤っていた事に後で気付く。
5-760 名前:ザジの回想 2[] 投稿日:2005/08/01(月) 05:23:32 ID:R4IvntYS0
「おい、飯ができたぞ」
「(コクコク)」

 彼女は私が何も言わなくても、二人分の食事を用意してくれた。
 一緒に暮らし始めてニ、三日は、私と親しくなろうとして作ってくれているのだろうと思った。
 だが、それが一ヶ月も続けば、考えを改めざるを得なくなる。
 私のように無愛想な人間にご飯を作るなんて、普通の人なら一週間ももたない。
 その上、ちうは無言の私に怪訝な顔を向ける事も無い。
 それどころか、私に笑みを見せてくれる事もあった。呆れて笑っていたような気もするけど……。
 彼女はこの会話の無い異常な関係に苦痛を感じてないようだった。
 こんな私が言うのもあれだが、同年代の中では、ちうみたいな奇特な人は初めてだった。

 私がそんな彼女を気にし始めるのに、さほどの時間は掛からなかった。
 日に日に彼女の事を考える時間が増えていった。

 そして、私との幾つもの共通点を見つける。
 学校のクラスに友達が一人も居ない事。
 クラスで浮いている事。
 誰とも話そうとしない事。
 私の友達が曲芸だけなのと同じように、彼女の友達はパソコンの向こう側だけにしか居ない事。
 私は彼女を他人とは思えなくなっていった。

5-761 名前:ザジの回想 3[] 投稿日:2005/08/01(月) 05:25:29 ID:R4IvntYS0


 毎日、ちうの様子を見ていた私は、ある事に気付いた。
 それは、彼女がパソコンの電源を落とした後に訪れる。
 疲れを取るために背伸びをした後、彼女は決まって寂しげな顔をする。

 それに気付いた私は、背伸びをする彼女に近寄った。

「う〜んッ……んん?」

 彼女の目の前に開いた手の平を差し出し、そのまま握る。

 ポンッ!

 手を開けば、そこには造花のバラがどこからか現れる。
 それを見た彼女は、最初は丸い目をしていたが、ケラケラと笑い始める。

「なんだよ、いきなり。手品を見て欲しいのか?」
「(コクコク)」

 寂しげな顔を見なくて済んだ私は、妙に安堵するのが分かった。
 そして、お客さん以外に芸を見せたいと思ったのは、これが初めてだった。

5-762 名前:ザジの回想 4[] 投稿日:2005/08/01(月) 05:29:25 ID:R4IvntYS0


 あれから毎日のように手品を見せたが、ちうのあの表情は消えなかった。
 どうやら、私の力では彼女を癒せないようだった。
 その寂しげな顔を見るたびに、私の胸が張り裂けそうになる。

「今日も手品を見せてくれるのか?」

 寂しげにしていた彼女が、私に芸の催促をする。
 しかし、自信を無くした私は、期待に応えられない。
 何もできない悔しさに、頬に冷たい筋が走る。それは、ペイントされたものではない。

「お…おい、泣いてるのか? 悪かったよ。嫌ならいいから……」

 ちうはオロオロと慌てながら、私のそばに謝りに来た。
5-763 名前:ザジの回想 完[] 投稿日:2005/08/01(月) 05:31:43 ID:R4IvntYS0
 謝りたいのは私の方。
 だから、首をブンブンと横に振って謝る。

「ゴメンナサイ。私の芸じゃあなたを笑顔にできない。どうしたら笑ってくれるの?」

 それを聞いたちうは、私の頭にそっと手を置いて、ふっと笑った。

「バカだな……。これでも、おまえと住むようになってから笑うことが多くなったんだぞ。今も笑ってるだろ? おまえのせいでだよ」

 この日から、ちうが寂しげな顔をする回数が激減していったのを覚えている。
 その代わり、今度は私が寂しさに襲われる番になった。

――だって、ちうがそばに居てくれないと寂しいんだもんっ!!



おわり

どうでしょうか。恋の始まりを想像してみました

ちうの回想

6-250 名前:ちうの回想 1[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:52:06 ID:dswe6jwC0

 同居人の名前を知った時、私は先を思いやられて天を仰いだ。

 Zazie Rainyday

「ザジー…レイニィデイ?」

 連絡用紙に書かれた相手の名前は、アルファベットが並んでいるだけだ。少なくとも日本人ではないだろう。
 外国人と聞いて私が連想するのは、日本人よりも陽気で積極的な人種が多い事だ。
 できるだけ人と関わり合いになりたくないと考えている私は、この同居人とのうざったい毎日が見えるようで溜め息をついた。

 初めて彼女と顔を合わせた時、私はぶったまげて声も出なかった。

 ピエロかよっ!!

 会う前に考えていたような悩みは、本当に些細なものだった。
 私の前には道化師のメイクをした彼女が立っているのだ。これが変人と言う奴か?

 相手がどんなにヤバイ奴でも、これから一緒に暮らすのは確定している。
 私は勇気を振り絞り、とりあえずは簡潔に挨拶をする。

「私は長谷川千雨。よろしく」
「(コクリ)」

 返事はそれだけだった。
 でも、日本語が通じるのは分かった。

6-251 名前:ちうの回想 2[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:52:53 ID:dswe6jwC0


 ザジとの共同生活が始まってすぐ、私の心配は杞憂に終わった事を知った。
 なんと、彼女は私以上に無口で人に無関心だったのだ。おまけに無表情ときたもんだ。

 顔のメイクは飾りか?

 要らぬ心配をさせられた事に文句の一つも言いたくなったが、私が事を荒立てては本末転倒。
 彼女の動向を静観する事にした。

 私の生活の中で、ザジは基本的に無害だった。
 整理整頓はしっかりできるし、何よりも私に干渉してこないのがいい。
 難を言えば、前触れもなく芸の練習を始めるところくらいか。
 突然、人形のパントマイムを始めて動かなくなった時には、怖くてマジで怯えたぞ。

 ザジを割と気に入った私は、彼女の食事も用意してあげた。
 彼女は文句を言わずにきれいに食べてくれるので、作り手として悪い気はしない。
 それと、餌付けの効果か、大抵の事なら私の言う通りにしてくれるようになった。
 ゴミ捨てとか、トイレ掃除とか、私の気が向かないときはやらせたりした。
 私は利口なペットを飼っている気分で、彼女に接していた。

6-252 名前:ちうの回想 3[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:53:38 ID:dswe6jwC0


 私はネットの世界が大好きだ。
 誰とでも気軽に話せるし、移動もワンクリックだけでどこへでも行ける。
 自慢じゃないが、私はネットの世界ではアイドルなんだぞ。

 それに比べて、リアルの世界には魅力を感じない。
 言いたい事を声に出すのは難しいし、人に合わせて行動しないと、瞬く間にのけ者にされる。
 だから、リアルの世界では、交友を広めようとは思わなくなったし、目立たないように猫を被っている。

 そんな私が最も憂鬱になるのは、ネットからリアルに戻って来た時だ。
 可能なら二十四時間ネットに潜っていたいが、腹の空く体があるのでそうはいかない。
 ネットで楽しんだ私は仕方なくパソコンの電源を落とす。

「う〜んッ……んん?」

 最後の快楽を得ようと背伸びをしていたら、視界に褐色の手がぬっと伸びてきた。
 その手が閉じられ、次に開かれた時にはバラが一本唐突に現れた。

 ザジは時々、意味不明な行動を起こす。それも慣れれば結構楽しいけどな。
 無視するのもかわいそうなので、適当に反応してあげた。

「なんだよ、いきなり。手品を見て欲しいのか?」
「(コクコク)」

 頷く彼女は笑っていた。
 どんな時でも無表情だった彼女がだ。
 私は手品よりも、その笑顔に驚かされた。

6-253 名前:ちうの回想 4[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:54:37 ID:dswe6jwC0


 あの日から、リアルに戻ってすぐザジの手品を見るのが習慣となった。
 いや、正直に言うと少し違う。
 私は、手品をするザジの笑顔を見ていたのだ。
 普段は絶対に見せない彼女の生き生きとした表情は、女の私でも引き込まれるものがある。

 どうして、その素顔を隠すのだろう。
 いつもそうやっていれば、どこでも必ず人気者になれるのに。

 ザジには人を惹きつける魔力がある事に、この時、私は気付いておくべきだった。

6-254 名前:ちうの回想 5[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:55:27 ID:dswe6jwC0


 手品を見るようになってから何日目だったか、その日の彼女は少しも動く気配が無かった。

「今日も手品を見せてくれるのか?」

 少なからず楽しみにしていた私は、柄にも無く手品の催促をした。
 だが、それが失敗だった。
 彼女が急に泣き出してしまったのだ。
 まさか私がリアルで人を泣かすなんて、想定外もいいところだ。
 私は必死になって原因を考える。
 やっぱり、芸をさせたり、ペット扱いしていたのがマズかったか。

 パニック気味の私はうまく謝れなかったが、次のザジの言葉に私は衝撃を受ける。

「ゴメンナサイ。私の芸じゃあなたを笑顔にできない。どうしたら笑ってくれるの?」

 はぁ?
 何を言ってるんだ?
 私はおまえをいいように使っていたんだよ?

 そこまで考えた時、私は自分の醜さをはっきりと自覚した。
 そして、目の前で泣く少女が、私に好意を持って手品をしてくれていた事に、今更ながら気付いた。
6-255 名前:ちうの回想 6[] 投稿日:2005/08/04(木) 18:56:30 ID:dswe6jwC0
 この時は偉そうな事を言ってザジを慰めたけど、本当は私が謝りたかった。
 ネットに夢中になるあまり、リアルで最も身近な人物を見過ごしていたのだから。

 そして、感謝の気持ちも伝えたかった。
 ザジのおかげで、こっちの世界も捨てたものじゃないと思えるようになったから。

 でも、今は彼女を少し恨んでいるかもしれない。何故なら……

――私の居場所が、ネットでもリアルでもなく、ザジの中にしか見つけられなくなりそうなんだよっ!!

 完全にザジの虜になる前に、なんとかせねば。
 でも、あいつのお願いは断れないんだよなぁ……かわいくて。
 ハッ!?
 すでに私はザジの虜なのか!?



おわり

今回も二人の関係を少し具体的に固めてみました。勝手な妄想爆発ですw
それでは、長文失礼しました。

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最終更新:2007年07月29日 02:33