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15-144
名前:白球の先:5回オモテ終了[] 投稿日:2005/10/20(木) 11:22:44 ID:a3YKVXR10
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カィィィン…
抜けるような快音ではあるが、芯を食った打球では無い。
2イニングス目に入った千雨の調子は、変わらず好調だった。
まるで造型をつくり出すかの様に、豪快な速球が、繊細な変化球が、相手を翻弄していく。
三振はないものの、5人の打者全て凡退に打ち取ってのけた。
1イニングと2/3を投げた千雨が戻って来た。
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15-346
名前:白球の先(仮):決勝5回[] 投稿日:2005/10/23(日) 11:23:44 ID:KZcHH4G00
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「おつかれ、長谷川。はい、タオル。」
「…あぁ、サンキュ。」
ベンチに戻ってきた千雨に、美砂がタオルを渡す。
この大会が開幕してから早二週間、その間に千雨は丸くなった。
無論、体形が丸くなったわけではない。
「それにしても長谷川、よくあんなボール投げるよねぇ。」
「…そうか?それほどでもないとは思うが。」
…この通り、以前は突き放すように会話を拒絶していた千雨が、それをしなくなった。
ネギに言わせれば「千雨さんが心を開いてくれたんですよ!」と言いそうだが、まさしくその通りとも思える。
「…でも、アンタってスゴいよね。」
唐突に美砂が言った。
「あぁ?どこがだよ…。」
「こんな大事な舞台で、堂々としてる。それだけで非凡だよ。」
教室では笑顔しか見なかったせいか、千雨は真剣な美砂の顔に軽く動揺する。
「…舞台とか、そんなんどうでもいい。」
「え…?」
それでも、千雨は「長谷川千雨」という孤独な人間を演じ続ける。
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15-347
名前:白球の先(仮):決勝5回[] 投稿日:2005/10/23(日) 11:36:30 ID:KZcHH4G00
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「あたしは早くこの試合を終わらせたい。そのためには、サッサと敵を打ち取らなきゃならない。…あたしの頭ン中は、そんなもんさ。」
冷酷な千雨の一言は、美砂の表情を凍らせるには十分すぎた。
さすがにショックの大きい美砂を見かねてか、さらに付け加える。
「…ま、あたしより出来のいいヤツはこのクラスだけでも大勢いるし、その中には柿崎だっている。」
「…え?」
「意外に自分の長所に気づいてないヤツってのが多い。柿崎もその一人だ。」
「そ、そんな…。」
「…案外人間って、自分の中に隠れた何か一つで大きく化けるもんだ。」
その言葉と同時、千雨が立ち上がり言った。
「お前だって化けるさ、必ず。」
ネットアイドルとしての経験なのか、それともここ二週間の経験なのか定かではない。
ただ千雨は、自分を励ますために言ったんだろう。
美砂はグラウンドに出る背番号25を見つめて思った。
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15-405
名前:白球の先(仮):平等に出場機会を与えるべきでs[] 投稿日:2005/10/24(月) 02:03:05 ID:3GjvqFw30
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閑話休題。
「まったくアイツら…お祭り事に目が無いな…。」
「一般的に中学二年のあたりというのは、思春期の始まりのころですから、このようなイベント事に関心がおきてしまうと思われます、マスター。」
「そうですよ、私たちだって同じだと思いますよ?」
「フン…くだらん。」
胸元に「M」と書かれた黒のパーカーを着て、ベンチの後ろ側でウデ組みしながら試合を観戦するエヴァと横で座っている茶々丸、そして二人の後ろにいるさよである。
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15-406
名前:白球の先(仮):続・閑話休題[] 投稿日:2005/10/24(月) 02:24:26 ID:3GjvqFw30
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「マスターは参加されないのですか?」
「…あまり気は乗らんな。サッカーならまだ応援する気もあるんだろうがな。」
「エヴァさんは欧州の方ですからね。仕方ないですよ。」
そもそもエヴァンジェリンのような吸血鬼というのは、欧州が発端といわれている。
しかし、欧州は野球よりはサッカーの盛んな地域…なじみの薄い野球に興味を持てと言われても難しい話なのだ。
「しかしマスター、野球も奥が深いスポーツです。サッカーで言うロスタイムでの逆転があるように、野球でも「サヨナラ」というのがあるそうです。」
「…なんだそれは?」
「後攻のチームが最終回に逆転する意味をこめて「サヨナラ」と使われるそうです。野球ファンの方に言わせればそこも野球の醍醐味だ、と仰る方もいるそうです。」
「ふむ…なるほど。」
「日本のプロ野球でも過去に『代打逆転満塁サヨナラ優勝決定ホームラン』を打って話題になったそうです。」
「な、なんだその長ったらしい名前は!?」
「なんでも、この試合に勝てばリーグ優勝という某チームが、リードされて迎えた最終回・満塁の場面で代打を送り、その代打が見事にホームランを打って優勝を決めたのでこういう名前になったそうです。」
「へぇ…奥がふかいですねぇ。」
「むむむ……やけに大阪と千葉のファンがアツいのはそのためか…。」
…それからというもの、エヴァは決勝であるこの試合を食い入るように見ていた。
※ちなみに、上で紹介した『逆転満塁〜』は実際ありました。
2〜3年前に近鉄バファローズ(現・オリックスバファローズ)の北川選手がやってのけたそうです。
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15-421
名前:白球の先(仮):5回ウラ[] 投稿日:2005/10/24(月) 11:15:28 ID:C83PdLab0
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柿崎ショー開催。
”5回のウラ、麻帆良学園の攻撃は…”
千雨の好投により、いい流れで中盤5回の攻撃に移ろうとしていたときだった。
「柿崎、ちょっと!」
突如、朝倉に呼び止められた柿崎。
「…?どうしたの?」
「次、柿崎を代打で使うよっ!用意して!」
「…えぇ!?」
唐突過ぎる交代案だった。
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15-440
名前:白球の先(仮):続・閑話休題[] 投稿日:2005/10/24(月) 16:51:22 ID:3GjvqFw30
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唐突過ぎる交代案だった。
”バッター、佐々木さんに代わりまして…柿崎さん。バッター、柿崎さん…”
「ちゃっかりアナウンスまで!?」
「さ、逃げられないよ、カッキー。」
「へんなあだ名で呼ぶな!」
…何はともあれ、代打に出なければならなくなった柿崎。と、
「…だらしねぇな、柿崎。」
「長谷川!?」
キャッチボールをしながら、グラウンドから声をかけたのは千雨だった。
「いい機会じゃねーか。出てみろよ、代打。」
「ちょ…わたし運動得意じゃないし…。」
「心配すんな。凡退しようが何しようが、誰もお前を責めねぇよ。」
「でも…。」
なおもグズる柿崎へ、千雨がはきつける。
「…お前の限界って、そんなもんじゃねぇだろ?」
「え…?」
「自分の限界、見つけて来い。」
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15-444
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 17:30:54 ID:3GjvqFw30
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柿崎はバットを持って打席へと向かった。
「大丈夫、バットを短く持って振ればいけるよ。」
本来打つはずであったまき絵の助言、それが唯一の技術的なアドバイスだった。
余談ではあるが、柿崎の背は高い。
龍宮や楓、鳴滝姉妹などの例外もあるのだろうが、それでも柿崎の身長は上から数えて8番目。
「上背のある打者は不利」とも言われているが、実際高めにボールが来ると、芯を食っていない打球でもスタンドまで行ってしまう可能性もあるのだ。
そんな知識など露知らず、柿崎は緊張しながらバッターボックスに立つ。
(む、無理だってばこれはーっ!)
内心テンパっていた。それもそうである。
いつもはスタンドから選手を応援する側だった柿崎が、今日は逆の立場にいる。
(でも…)
が、少し落ち着いてみると周りなど見る余裕が出てくる。
(…美空とかまき絵とかは、いつもこんな感じなのかな?)
同時に、競技者から見た視点も体験できるようになった。
「プレイ!」
そうこうしている間に、審判の声が聞こえた。
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15-447
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 18:27:21 ID:3GjvqFw30
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がばぁ…ビシュン!
相手ピッチャーは、柿崎の心理状態などお構いなしで投げてくる。
とにかく柿崎は、投げ込まれたボールに集中することだけを考えた。
ブゥゥン バスン!
「ストライーク!」
高さがまったくあっていないバットとボールは、ぶつかることなく別れていった。
「…あはははー…。」
笑ってなどいられない状況なのだが、ナメられてもしょうがないスイングなので笑うしかない。
(なにやってんのよ、わたし!)
自分に喝を入れると、また構えなおす。
がばぁ…ビシュッ!
投げられたのは変化球。球が遅いことからチェンジアップだろうか。
「へ…?」
しかし運悪く柿崎は、情けない声とともにバットを出してしまう。
バットが先にホームの上を通り、そのあとボールが通っていった。
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15-452
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 20:42:18 ID:3GjvqFw30
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「…トホホ……。」
泣きたいんだか笑いたいんだか、柿崎は複雑だった。
そんなときだった。
「美砂ーっ!大丈夫ーっ!」
「いけるいける!チアの意地見せてやれーっ!」
いつの間にか、釘宮と桜子がベンチから身を乗り出していた。
「柿崎ー!」
その傍らに、千雨がいた。
「凡退なんか気にすんな!ボール狙って思いっきり振ってやれ!」
「柿崎さん!後ろには私たちがついていましてよ!」
「柿崎!あんたなら出来る!いけるよーっ!」
…いつの間にか、ネクストバッターズサークルにいるあやかや明日菜も声を張っていた。
「「「いーけ!いーけ!か・き・ざ・き!かっとばせー、柿崎!!」」」
無論その声は、クラス中から聞こえるエールとなって、柿崎の耳元に届く。
ふと見れば、コーチャーズボックスの夕映とのどかも一緒になって応援している。
(…期待にはこたえられないかも知れないけど……やってやるっ!)
柿崎は意を決した。
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15-453
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 21:05:55 ID:3GjvqFw30
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がばぁ…ビシュッ!
そんな柿崎を待っていたかのように、投球は始まった。
コースは高め、ボールになってもおかしくない球である。
(ボールとかストライクとか、関係ないよねっ!)
柿崎は半ばヤケでバットを振った。
”お前だって化けるさ、必ず。”
キィィン…
響いた金属音は、快音とは程遠かった。が、弾道が低い。
「走れぇぇぇっ!」
ボールがレフト方向に飛ぶと同時、千雨は叫んだ。
(言われなくてもっ!)
美砂は懸命に一塁に走り出した。
(どうだっ!?)
ボールの行方を追っていた千雨。
白球は、レフトとショート、それにサードも追っていた。
(間に落ちろーっ!)
(落ちてーっ!)
(いけぇーっ!)
クラスメイト全員が、ヒットになることを願った。
ズザー… ぽてん…
「フェア!フェア!」
柿崎が一塁に到達したころ、飛び込んだショートの健闘もむなしく、左三遊の三角形のど真ん中に打球が落ちた。
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15-454
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 21:13:20 ID:3GjvqFw30
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「ぃっぃいいいいよっしゃぁぁぁ!」
ために溜めて、やっと吐き出した千雨の声が発端だった。
「やーったぁぁぁ!」
「美砂ー!アンタ最高ーっ!」
もちろん、クラス全員で沸く、沸く。
”麻帆良学園、選手の交代をお知らせします…。”
すぐさま、交代を告げるアナウンスが流れた。同時に柿崎が一塁ベースから戻ってきた。
”一塁ランナー、柿崎さんに代わりまして…鳴滝風香さん。”
告げられたのは風香だった。
「お姉ちゃん、がんばって!」
「任せなさい!美砂のがんばり、無駄にしないよ!」
史伽の後押しとともに、128cmの快速少女・風香は一塁へ向かっていく。
風花とハイタッチを交わして、柿崎が戻ってきた。
「美砂!おつかれ!」
「よくやったよぉぉ…。」
すぐに声をかけた釘宮と抱きつく桜子。
「ちょ、ちょっと…。」
美砂は軽く照れていた。
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15-455
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 21:13:42 ID:3GjvqFw30
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「おつかれ、柿崎。」
「あ、はせが…あ。」
釘宮と桜子に遅れて、千雨がよってきた。手には先ほどの柿崎のようにタオルが握られている。
「どうだったよ、今の打席。」
「…ちょっとだけ、変われたかも。」
千雨に真正面から笑みを向ける柿崎は、続けた。
「…振りぬいた瞬間、長谷川の言葉が聞こえたよ…。」
「…そうか。」
千雨はそのまま背をむけ、キャッチボール相手のザジの所へ戻ろうとした。
「…長谷川!」
後姿を見つめて、柿崎は千雨を呼び止めて言った。
「…ありがと。アンタ、イイヤツだったんだね。」
「…。」
千雨は、横顔でニヤッと笑って見せると、ザジのところへ歩き出した。
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15-458
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:柿崎[] 投稿日:2005/10/24(月) 21:32:07 ID:3GjvqFw30
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その後、あやかの送りバントとザジのフォアボールで一死一、二塁の場面。
バッターは楓。しかし、ここでアクシデントが発生する。
ビシュ…ドゥッ!
「……ッ!?」
なんと、相手ピッチャーのボールが楓の背中にあたってしまう。
「かえで姉っ!?」
「長瀬さん!?」
「楓ちゃん!?」
二塁上にいた風香とベンチにいた史伽、あやか、明日菜、朝倉が楓のところに駆け寄る。
「大丈夫、かえで姉っ!?」
史伽が心配そうに言う。しかし、
「大丈夫でござるよ…心配にはおよばぬ。」
あの楓のこと、死球くらいでは潰れない人間だ。
「…いいんちょ、この回の攻撃の指揮頼むよ。」
急にあやか告げた朝倉。
「朝倉さん!?」
「アタシが代走に出る。長瀬は大丈夫かもしんないけど、大事を取って交代しよう。」
「ふむ……考えるでござるな、朝倉殿。」
「…しかたありませんわね。※緊急代走も使えませんし……。」
ひとまず、楓はあやかに肩を抱えられながらベンチへ下がった。
※緊急代走…高校野球で死球を受けた選手の変わりに、一番最後に凡退した打者が代走に出るシステムのこと。
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15-459
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:美空[] 投稿日:2005/10/24(月) 21:54:18 ID:3GjvqFw30
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そして回ってくる美空の打順。
”一塁ランナー、長瀬さんにかわりまして…朝倉さん。”
”バッターは…2番、ショート・春日さん…”
騒然とした空気の中、春日がバッターボックスに立つ。
渋い仕事が持ち味の美空、今回は一死満塁お絶好のチャンスだ。
「「「いーけ、いーけ、み・そ・ら!かっとばせー、美空!!」」」
1回のイメージが強烈なのか、会場が1打席目よりわいている。
美空への声援をよそに、相手ピッチャーはモーションに入った。
がばぁ…ビシュッ!
インコース低め、コースは申し分なかった。
カィィン…
しかし、美空はそれ以上の仕事をした。
コースいっぱいのボールを右中間の真ん中に持っていったのだ。
三塁ランナー・風香、二塁ランナー・ザジが生還。三対一とした。
「美空、ないーす!」
「あぁもう!美空に惚れそう…っ!」
風花が、朝倉が褒め称える。
なおも朝倉は三塁、美空が二塁の場面で、明日菜が登場した。
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15-492
名前:白球の先(仮):決勝5回ウラ・打者:美空[] 投稿日:2005/10/25(火) 06:55:32 ID:L0YSVRHZ0
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ブゥン…ばすん!
「ストライーク!バッターアウト!」
明日菜今日2個目の三振に、会場全体からため息が漏れる。
そんな折だった。
”4番・古菲さんにかわりまして…椎名さん。バッター・椎名さん…”
二死二、三塁の場面で出てきたのは桜子だった。
「美砂だって頑張ったんだもん!わたしも続くよぉーっ!」
気を吐いた桜子の強運が炸裂した。
「!?」
相手チームが痛恨の※パスボールをしてしまったのだ。
無論それを見ていた朝倉がホームを陥れて四対一。
さらにラッキーは続く。
2球目を詰まらせてピッチャー前に転がしてしまった桜子。
それを処理しようとしたピッチャーが、一塁へ投げたが…ボールが高く浮いてしまい取れない!
悪送球とわかった桜子は、そのまま二塁へ到達し美空が生還。五対一と点差を広げたのだ。
この後、打撃不調の龍宮に代わり釘宮が入ったが、結果セカンドゴロでチェンジとなった。
※パスボール…相手キャッチャーがピッチャーのボールを取り損ねて後ろへ逃してしまうこと。
パスボールがあると、攻撃側はそのスキに乗じて次の塁へ進むことがほとんど。
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15-567
名前:白球の先(仮):決勝6回オモテ[] 投稿日:2005/10/26(水) 07:48:56 ID:pSOktA+H0
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リードが広がったものの、麻帆良サイドには新たな問題が発生していた。
監督役の問題である。
今まではベンチにいた朝倉が※プレイングマネージャーとして務めていた。
しかし残りの選手数を考えると、先ほど代走で登場した朝倉をそのまま守備につかせないといけない。
「じゃ、監督やってたあたしの代わりは誰がやるのさ?」
で、今にいたるわけである。
「困りましたわね…。」
あやかがぼやいたその時だった。
「何だ、そんなことで悩んでいたのか…。」
「あ、エヴァちゃん!」
ベンチの奥からエヴァンジェリンが口を出した。
「…後ろから高みの見物としゃれ込むつもりだったが…しょうがない。」
「手ぇ貸してくれんの!?」
「はい、マスターは囲碁で鍛え上げた戦術もありますので、問題はないかと思われます。」
茶々丸が補足説明をつける。
「ほら、プレイが始まるぞ。さっさと行ってこい。」
「わかりましたわ。みなさん、行きますわよ!」
エヴァに促されて、野手陣はグラウンドへ散らばっていった。
※プレイングマネージャー…選手兼監督。最近ヤクルトの古田捕手が30年近くぶりになったことで有名。
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15-568
名前:白球の先(仮):決勝6回オモテ[] 投稿日:2005/10/26(水) 07:50:01 ID:pSOktA+H0
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”麻帆良学園、選手の交代をお知らせします…”
”…1番、ファースト・朝倉さん、4番、ライト・椎名さん、5番、レフト・釘宮さん、7番、セカンド・鳴滝風香さん…以上のように変わります。”
代打・代走の関係で、守備が大きく変わった。
そんなの関係ない、と千雨は言いそうだが、龍宮と古菲が抜けたことによって戦力は落ちているはず。
ここからは、交代メンバーの動きで試合が変わる可能性がある。
千雨をリードするザジもおそらく、それは知っているだろう。
その千雨、6回オモテの先頭バッターとの対戦だった。
カィィン!
快音を残して、左中間へ打球があがった。
「やっべ…!」
振り返る千雨。完全な長打コースと思われた。
それを阻止した女がいた。
パシッ!ずさー…
レフトの釘宮だった。
左中間真ん中の当たりを懸命に追い、最後は地面すれすれでダイビングキャッチしたのだ。
「いよぉぉっしゃ!」
思わず出る千雨の声。
麻帆良にとっていい流れを止めかねないヒット性のあたりだっただけに、地味ながらも大きな仕事を釘宮はこなしたのだ。
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15-573
名前:白球の先(仮):6回オモテ・投手:千雨[] 投稿日:2005/10/26(水) 11:02:23 ID:TYQbqg2s0
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釘宮の活躍はさらに続く。
3イニングス目に入り疲れの見える千雨に、相手チームは容赦しなかった。
次のバッターは甘く入った千雨のストレートをレフトへ。
「ち……っ!」
軌道を考えればホームランでもおかしくない打球。
釘宮はその打球を必死に追い、フェンスまで来た。
しかし、落下点はもう少し先。ギリギリでフェンスを超えそうな軌道だった。
釘宮は迷わずフェンスを登った。
ぱしっ
「アウトー!」
フェンスのへりからジャンプした釘宮は、見事グラブにボールを収めた。
メジャーリーグで活躍する某選手を彷彿とさせるスーパープレイだった。
「ぅうっし!」
『1度ならず2度までも。』
千雨はその言葉を頭に浮かべた。そして、もう一つ言葉を思い出す。
『2度あることは3度ある。』
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15-576
名前:白球の先(仮):6回オモテ・主役:クギミ−[] 投稿日:2005/10/26(水) 13:58:22 ID:TYQbqg2s0
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カィィン…
「またかっ!?」
3度ともレフトへのフライ、しかし今度は飛距離がない。
ショートの美空が追うが、クラス1の俊足でも追いつけそうにない。
「春日、まかせて!」
再度登場の釘宮が追う。追いつけるかは神のみぞ知ると言ったところだ。
それでも釘宮は追う。
しかし、3度もうまくいくとは限らない。
かくっ…
「え、ちょっ…。」
あろうことか、コケてしまった。
ドテッ
「あいたたた…」
が、チアのシンパシーなのだろうか、グラブにボールがおさまっていた。
「へ…取ってる…。」
「ア、アウト−!スリーアウト、チェンジ!」
椎名の幸運が、釘宮にも移ったのだろうか。とにかく三者凡退に打ち取ったのだった。
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15-657
名前:白球の先(仮):決勝6回[] 投稿日:2005/10/27(木) 20:59:08 ID:j0H58smX0
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「サンキュ、釘宮。助かった。」
「まーね。あたしの仕事だし。」
戻ってきた千雨と釘宮はグラブでハイタッチする。
結局、チア3人に助けられた千雨だった。
6回ウラは千雨・風香・あやかが三者凡退に倒れ、そのままラッキーセブンに入った。
しかし、千雨の調子が上がらない。
カィィィン
「しまった…っ!」
三連打を浴びノーアウト満塁。絶体絶命のピンチだ。
ここでベンチにいた亜子と内野陣が千雨のもとに集まる。
「長谷川、大丈夫なん?」
「あぁ、この回くらいは抑えられるだろ。」
「でもちうちゃん、打たれてるじゃん。」
「う…手が滑ってんだよ!」
「わかったから、長谷川続投ね?」
「それでえぇやろな。冗談も通じるようやし。」
「(っていうか冗談だったのかよ!)」
その千雨、やはりというかなんと言うか。
その後の打者を注文どおりの※6-4-3ダブルプレイにしとめたものの、1点を返される。
「ちぇっ…。」
それでもクサることなく投げ、7回オモテを1点で抑えた。
※6-4-3…ショートゴロダブルプレイのボールコースをあらわしたもの。
ショート→セカンド(アウト)→ファースト(アウト)。
ちなみに、数字は守備位置を表し、他にも4-6-3、3-6-4、5-4-3などがある。
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15-680
名前:白球の先(仮):決勝6回[] 投稿日:2005/10/28(金) 08:32:32 ID:OWVhU2K10
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ちなみに今はこんな感じ
回 |123456789|R
蒲田実|0001001 |2
麻帆良|100040 |5
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15-720
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 20:40:16 ID:OWVhU2K10
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7回から、どこかムードがおかしかった。
勝っているのにもかかわらず、この圧迫されそうな威圧感。
嫌な流れは無いはずなのに…。
その威圧感が、嫌な流れを生み出してしまった。
何とか5−2、麻帆良リードで迎えた9回オモテ。
ついに千雨が、つかまった。
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15-723
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 20:58:48 ID:OWVhU2K10
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ヒットとフォアボールでランナーを溜め、ワンナウト満塁という状況を作ってしまった千雨。
ここでバッターは龍宮からホームランを打った4番打者である。
(ぜってー負けられねぇ…そうだよなぁ!)
ここでダブルプレイにしとめれば勝ち。千雨は自分にそう言い聞かせた。
エヴァも満塁になった直後に千雨のもとに駆け寄ったが、結局代えなかった。
「マウンドに慣れていたからな。ここで誰か入れるよりもアイツに投げさせるべきだろう。」
エヴァも千雨を疑わなかった。
千雨はザジのサインを見ると、セットに入り…投げた。
がばっ…ビシュッ!
投げたのはスライダー。内角高めのコース。投球術に問題はなかった。
だが、相手が一枚上手だった。
カッキィィィンッ!!
文句の無い快音を響かせた打球は、左中間スタンドへむかって放物線を描き、そのままスタンドに吸い込まれた。
長谷川千雨、無念の逆転満塁ホームランである。
千雨はホーム上を見たまま立ち尽くしていた。
「……ぁぁ……。」
見ずとも音でわかったスイングの残像、湧き上がる球場、ホームに帰ってくるランナー。
千雨にたたきつけるように、視覚・聴覚・記憶から絶望の結果が送られてきた。
千雨はバッターランナーのホームインを見送ると、マウンドに伏せた。
内野陣と監督役のエヴァがマウンドによってきた。
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15-724
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 21:10:04 ID:OWVhU2K10
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「ちくしょうっ!ちょくしょぉぉっ!!」
千雨はあろうことか、泣いていた。自責の念が、自然と大声を出していた。
「は、長谷川…。」
「なんでだよ…なんでだよぉっ!ちくしょぉぉぉぉぉっ!!」
誰が声をかけても、千雨は泣き止まなかった。
「…フン、仕方の無いやつだ…。」
エヴァが球審の所へ向かう。ピッチャー交代だ。
その後千鶴と亜子がマウンドに向かい、うなだれる千雨に肩を貸してベンチに戻した。
「うぅっ…ちくしょぉぉ…。」
泣きやむことの無い千雨が、麻帆良ベンチを物語っていた。
”麻帆良学園、選手の交代をお知らせします…。”
静まるベンチに響いた、交代のコール。
気休めになるかならないかすらわからないコールは、絶望の淵にいるクラスをさらに追い込むようだった。
…しかし、どうしてもみんなを淵の外へ追い込まないようにしたヤツがいた。
”ピッチャー、長谷川さんに代わりまして…超さん。6番・ピッチャー、超さん…”
コールされたのは超だった。
「みんな、何シュンとしてるネ。」
コールされた超が、ベンチのみんなに向かって言う。
「だって…もう9回やで…。相手はストッパー出すやろし…勝てる気がせぇへんわ…。」
「何言てるネ、和泉サン。」
イジケる亜子に超が言った。
「『野球は9回ツーアウトから』。これ基本ネ!」
その表情は、やけに明るかった。
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15-725
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 21:21:12 ID:OWVhU2K10
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”サードの神楽坂さんが、キャッチャー。キャッチャーのザジさんが…サード。以上のように代わります。”
そして何故か、明日菜がキャッチャーに抜擢された。
「な、なんであたしなのよ…。」
「お前が一番適任だからだ。配球は超に任せればいい。」
「でも…。」
「でもも何もない。始めるぞ。」
「あ、ちょっと…!」
…グズる明日菜を何とか説き伏せて(?)、エヴァはベンチへ帰っていった。
「ナニ、ワタシに任せるネ!」
「…大丈夫なんでしょうね…?」
「少し本気出すケド…多分大丈夫ネ。」
「た、多分て何よ、多分って!」
…激しく不安を覚える明日菜だった。
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15-726
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 21:38:39 ID:OWVhU2K10
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超の『本気』は、間違いなく超人級だった。
ストレートの最速は150キロ。
カーブ・フォークのキレも完璧で、おそらくクラス最高身長を誇る龍宮の胸から足首まで落ちるほどのキレのよさだった。
無論、超は相手の後続を三振に打ち取った。
「泣いても笑っても、これが最終回ですわ…。」
全員でベンチ前に円陣を作り、その中央にあやかが立っている。
「精一杯、戦い抜きましょう!」
あやかは沈みかけたクラスを何とかしようとした。
しかし…暗さは抜けきらなかった。
「…そうだ、みんな。」
そんな中、口を開いたのは明日菜だった。
「みんなも読んだことあると思うけど、あるマンガにさ、こう載ってたんだよね…。」
こんなときにマンガなど…そんな空気の中、明日菜は言った。
「…『あきらめたら、そこで試合終了』ってさ。」
その言葉に、みんなはハッとする。
「…考えたら、状況は多少違うけど、あたしたちが頭に入れるべき言葉だよね。」
うんうんとうなずく者、「あの話!?」とささやく者。とにかく、みんながこの言葉を聞き入れた。
…たった一人を除いては。
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15-727
名前:白球の先(仮):決勝9回[] 投稿日:2005/10/28(金) 21:39:29 ID:OWVhU2K10
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「…長谷川。」
「…ん?」
千雨だった。
「…あんたは、あの満塁で終わりだと思った?」
「…いや、これが最後…だろ?」
「わかってるようね。」
そして、気合を注入するように言った。
「過ぎたことは忘れて、気合入れて応援しなさい!いいわね!?」
「う…あ、あぁ…。」
明日菜の気迫に押され、千雨は思わず返事してしまった。
「それじゃ…行きますわよ!」
「「「「「「「「「「おーーーーーーーーっ!」」」」」」」」」」
麻帆良最後の攻撃が、始まった。
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15-830
名前:白球の先(仮):最終回ウラ[] 投稿日:2005/10/30(日) 01:45:38 ID:tQg7j5un0
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”9回のウラ、麻帆良学園の攻撃は…9番、サード・ザジさん…。”
9回のウラはザジからトップに帰る好打順。
とりわけザジは一番身近で千雨の失態を見受けた人物。その責任は少なからず持っているはずだ。
(…千雨のためにも…負けられない!)
目の中は、燃えていた。
カィィィィィン…
打球はファウルゾーンをふらふらとさまよう様に飛び、そのままキャッチャーグラブに収まった。
「アウトー!」
ワンナウト。麻帆良の敗北が、徐々に千雨の肩にのしかかってくる。
逃げ出したくなる衝動を抑え、千雨はベンチからみんなを見つめる。
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15-831
名前:白球の先(仮):最終回ウラ[] 投稿日:2005/10/30(日) 01:54:08 ID:/mFDA22P0
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1番は途中出場の朝倉。
出番らしい出番に恵まれなかったのは、チームのブレインとして働いていたから。
朝倉は、本領を発揮する。
カィィン!
心地よい音とともに発せられた打球は三遊間を真っ二つに破るレフト前ヒット。
「よっしゃ!ナイス朝倉!」
千雨の応援にも熱が入りだす。
(まだいける…まだいける…。)
あきらめることはもうしなかった。
2番は美空。
「目立たない」といわれて早2年が経とうとしていた。
あきらめずに掴んだこの名誉を、忘れたことはない。
美空は、まっすぐ前を見ていた。
相手の抑えのエースが出てきたのは、このときだった。
カィィィィン…
根元に当てた打球はボテボテのショートゴロ。
「まずっ…」
うなる美空。6-4-3で終わらせるわけにはいかない。
ショートからボールが渡ったセカンドはフォースアウト。
そのセカンドから1塁へ投げられた。
バスッ
わずかに、美空の到達が早かった。
「セーフ!セーフ!」
美空は生きた。だがアウトカウントはツーアウト。後がない。
ここでバッターは、今日ノーヒットの3番・明日菜だ。
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15-840
名前:白球の先(仮):最終回ウラ:蒲田6-5麻帆良[] 投稿日:2005/10/30(日) 03:14:24 ID:1wdYxjAt0
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おーおーおーおーおおー、おおおおーおー…
今や明日菜の打席でも定番となりつつあるあの曲が流れる中、明日菜は打席に立つ。
相手は鉄板ストッパー。しかし完璧とはいえ、打てないはずはない。
明日菜はそう信じた。
がばぁぁ…ビュン! バスン!
ミットに収まったボールは、完璧にコースの隅を突いていた。
「ストラーイク!」
よく耳を澄ますと聞こえる、敵陣からの「あと一球」コール。
しかし、今やそれも観客の声援に比べれば取るに足らない声援だった。
「あ・す・な!あ・す・な!かっとばせー、あーすーな!!」
ベンチからは絶え間なく聞こえる応援。
明日菜は、耳にその声援が入らないほど集中していた。
ガバァ…
ピッチャーは第二球を投げた。
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15-841
名前:白球の先(仮):最終回ウラ:蒲田6-5麻帆良[] 投稿日:2005/10/30(日) 03:25:27 ID:1wdYxjAt0
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ビシュッ…
高めのストレート。打てない球とは思わなかった。
ぶぅん…バスッ!
「ストライーク、ツー!」
タイミングが合わないのか、それともコースの問題か。
明日菜の振ったバットにかすりもしなかった。
「ち…っ!」
軽く天を仰いで悔やむ明日菜。
その顔には、どこか悲壮な色がにじんでいた。
「神楽坂ぁぁっ!」
陰るベンチから声をかけたのは、千雨だった。
「は、長谷川…?」
「テメェ、忘れてんじゃねぇだろうなぁ!?」
「はぁ?」
何のことだかさっぱりわからない明日菜。しかし、次の一言で思い出した。
「『あきらめたら、そこで試合終了』なんだろ!?」
「…!長谷川…?」
「アタシもあきらめねぇ!だからお前もあきらめんな!」
どことなく吹っ切れた感じの声で、千雨ははっきり言った。
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16-23
名前:白球の先(仮):5回ウラ[] 投稿日:2005/10/31(月) 11:19:07 ID:wk6iwDaD0
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「…あたりまえでしょ!勝ちに来てるんだからね!」
明日菜はいつも通りを装った。同時に嬉しがっていた。
「…なぁ、長谷川千雨。」
エヴァンジェリンが千雨に寄ってきた。
「…なんだよ。」
「お前も一人じゃないじゃないか。」
「…ふん。」
言われて戸惑う千雨と笑うエヴァンジェリン。
同じような境遇の二人が見せる正反対の反応。
それが新鮮だったのは言うまでもない。
運命の三球目が投げられたのはそのときだった。
カィィィン…
「ファール!」
明日菜は低めの球に当て、逃れる。
観客席からは、安堵とも残念とも取れるため息が漏れた。
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16-55
名前:白球の先(仮):最終回ウラ:蒲田6-5麻帆良[] 投稿日:2005/10/31(月) 22:59:06 ID:tIjCoEZE0
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キィィン…
「ファールっ!」
「ハァ…ハァ…っ!」
またもファウル。三球目から数えて五球連続ファウルである。
そんな連続に、明日菜は疲れてきていた。
相手も疲れているのだが、そのそぶりはまったく見えない。
「ハァ…ハァ…」
「…タイム!」
聞こえたのはエヴァの声だった。
そのエヴァの方向に目を向けると、エヴァが「こっちに来い」と言っていた。
明日菜はエヴァのもとに向かった。
「何よ、エヴァちゃん…?」
ネクストバッターズサークル近くまで来た明日菜は、エヴァにたずねた。
「いや、何ということは無いが、少し話があってな。」
「話?」
「あぁ。ちょっと耳を貸せ。」
エヴァは明日菜の耳元で言う。
「私は、お前のことは期待していない。」
「…」
「だから…。」
「…ふぅん、なるほど。わかったわ。」
「フッ…」
何やら一言残したと思いきや、不気味に笑ってベンチへ戻っていった。
(エヴァちゃん…)
言われた明日菜の顔が、またキリッと引き締まった。
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16-56
名前:白球の先(仮):最終回ウラ:蒲田6-5麻帆良[] 投稿日:2005/10/31(月) 23:10:17 ID:tIjCoEZE0
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「「「かっとばせー、あ・す・な!!!」」」
おーおーおーおーおおー おおおおーおー…
観衆の応援人数は半々だったが、比べると確実に明日菜を応援する側の声が大きかった。
そんな騒がしい球場の中が、明日菜にとってはやけに静かに感じた。
(……)
バッターボックスに戻り、構える。
相手ピッチャーのサインが終わり、ピッチャーが振りかぶって…投げた。
がばぁ…ビヒュン!
(私は、お前のことは期待していない。だから…)
(アタシもあきらめねぇ!だからお前もあきらめんな!)
エヴァと千雨の言葉が頭を反芻した。
…明日菜はもう、迷わなかった。
ッキィィィン…
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16-57
名前:白球の先(仮):最終回ウラ:蒲田6-5麻帆良[] 投稿日:2005/10/31(月) 23:17:24 ID:tIjCoEZE0
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「「「「「っ!?」」」」」
一番最初に驚いたのかわからないくらい、同時に驚く全員。
描かれた放物線を凝視する、相手ピッチャーと明日菜。
(どーおっ!?)
(ちぃっ…!?)
観客のものまで含めたさまざまな歓声が、一瞬止まった。
ボールは上空に光り、球状全体を見返すように高々と舞い上がり、
「いった!?」
「どうっ!?」
…そのまま、バックスクリーンの上を通っていった。
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16-79
名前:白球の先(仮):試合終了蒲田6-7x麻帆良[] 投稿日:2005/11/01(火) 08:06:08 ID:PLIOKPBM0
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わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
止まっていた時がいきなり動き出した。
明日菜が今大会6本目のホームランを打ったから?…違う。
優勝したから?…惜しい。
…観衆に、ドラマの一部始終を見せたからだ。
「ぃぃよぉぉっしゃあぁぁぁぁぁっ!」
「やったぁぁぁぁぁぁ!!」
クラス全員がベンチから一斉に飛び出してくる。
殊に麻帆良ベンチの盛り上がりは、言葉で言い表せないほどに沸いていた。
騒ぐ者、泣き出す者、祝勝会準備に向かう者…みんなが喜びを分かち合う。
明日菜は一塁コーチののどかとハイタッチを交わし、二塁を回り、三塁で夕映とハイタッチを交わした。
そしてホーム上の先に、千雨がいた。
明日菜はそのままホームを踏み、千雨とハイタッチした後、千雨と抱き合った。
「…ありがと、長谷川。」
「いや、礼を言うのはこっちだ。」
二人は抱き合ったまま※もみくちゃにされた。
※ サヨナラになると、そのサヨナラ打を打った選手をもみくちゃにする週間がある。
たまにその騒ぎに関わって、逆にもみくちゃにされるパターンもある。
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16-80
名前:白球の先(仮):試合終了蒲田6-7x麻帆良[] 投稿日:2005/11/01(火) 08:20:32 ID:PLIOKPBM0
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ようやく騒ぎが収まってくると、朝倉が言う。
「よーし、明日菜を胴上げだ!」
「「「「「おーっ!!」」」」」
「え!?ちょっとまっ…うわぁ!?」
「さぁ、観念するアル!」
武道四天王に抱えられたことをきっかけにクラス全員が中央に集う。
あぶれた者は外側で観客のコールに答えていた。
「いくでござるよー!」
「「「「せーの!」」」」
わーっしょい!わーっしょい!わーっしょい!!
明日菜の体が3度宙に舞った。
「次、エヴァちゃんねーっ!」
「な、何っ!?」
桜子の発言により、魔の手がエヴァに伸びた。
「お、お前ら!やめろ!!」
「「「「せーのっ!」」」」
わーっしょい!わーっしょい!わーっしょい!!
エヴァも3度、宙に舞った。
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16-82
名前:白球の先(仮):祝勝会[] 投稿日:2005/11/01(火) 09:24:32 ID:nXNENdLa0
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「乾杯!」
「「「「「「かんぱぁぁぁいっ!」」」」」」
表彰式を済ませた後、一同は麻帆良学園に戻り、教室で祝勝会が行なわれた。
余談だが、今大会のMVPに明日菜が選ばれ、その祝賀会も兼ねている。
今日の肉まんは、特大サイズにしてみました。
「みんなで食べるネ!」
五月と超が作った砲丸投げの砲丸サイズの肉まん片手に、あやかが乾杯の音頭を取った。
「はむ…ぬぉぉぉ、おーいしぃぃぃっ!」
「はふ…幸せやぁ…。」
「エヴァちゃん、楽しんでる?」
明日菜はエヴァの傍らにいた。
「楽しんではいないが、あのサツキが作った肉まんを食べないわけにはいかんからな。」
口調はいつもどおりだが、その声は少々明るかった。
肉まんをほおばりながら、
「しかしエヴァちゃんも言うわね。」
「ん?何の話だ?」
「最後の打席の時よ。」
「…あぁ、あれか。」
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16-83
名前:白球の先(仮):祝勝会[] 投稿日:2005/11/01(火) 10:24:15 ID:nXNENdLa0
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「『何も考えずに振っていけ』なんて。」
「当然だ。お前がイレ込みすぎていたからな。」
そう言って笑うエヴァ。
「まぁ、ともかくありがと。」
「礼などいらぬ。」
そして、明日菜とエヴァの紙コップが触れた。
『白球の先』完結
1ヵ月半の間、ご声援ありがとうございました。
ほんっっっとうに完結します。
最終更新:2007年07月29日 02:34