美空ウイルス.exe【ver:14.1】---------------------------------------------------------------
PCは歪な音を立て、起動した。
画面を覗き込むネギと千雨、そして龍宮の顔がスクリーンに反射している。
「ほら、先生!この画面です!」
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・「ネギまほラジオ:ゆえパル分析隊」にて空気認定を受けた者を新たなる空気とする。
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確かに、シスターMの発言と同じだ、とネギは頷いた。千雨は続ける。
「既に三回の主な動作が確認済みです。村上さんで二回、相坂さんで一回、だと思いますが」
途中で言葉を止めた千雨の視線は、PCの画面からふらふら離れ、自らの手元までやって来た。
左手の甲に生暖かい…粘液のような感触が乗っかっている。……涎?
「アキラー、アキラー」
真名の声が響く。まるで飢えた獣が獲物の名前を呼んでいるようだ。
「長谷川、画像を見せるんだ…。このPCならウイルスも既に感染済みだろう?
ウイルスも恐くないハズだ。さぁ、画像を見せてくれ…この真名さんに、愛しのアキラの
XOな姿やOXな姿を、XOXな画像やOXOな…」
ネギの両耳はいつの間にか、千雨によって塞がれていた。これでは何も聞こえない。
ネギが千雨を見上げると、千雨の口は何かの言葉を発したように読めた。
ぇ〜と、……ざじ…やっちゃって…いい…ぞ?
すると、空中をひとつの影が走り、ネギと千雨の背後にいたはずの真名が
ガラス窓目がけて飛んでいき、見事、場外に墜ちたのが見えた。
千雨はネギの両耳を解放すると、何事もなかったように話を続ける。
「…村上さんで二回、相坂さんで一回、だと思いますが、その三回以外にも、
奇妙な動作を繰り返しているんです」
「奇妙な動作…ですか?」
ネギは訊き返した。
「はい。ここを見てください。不定期に数字を足し続けてるんです。カウントダウンみたいに」
美空ウイルス.exe【ver:14.2】---------------------------------------------------------------
ネギは思慮深くPCの画面を見つめた。
黄昏時を過ぎた外では、ザジにホムーランされた龍宮が、新田と仲良く二人でラインダンスを踊っている。
ランキング一位を独走するスターにとって、今回の事件はどうでもいいことなのかもしれない。
「超さんや、葉加瀬さんなら、このウイルスを解読できるかもしれませんね」
その二人の名前を聞いて、千雨は、
あいつらが一番犯人っぽいだろ?
…と思ったが、言わずにおいた。とりあえず同意しておこう。
「確かに、私では、これ以上は無理です。超さんや、葉加瀬さんなら解読できるかもしれませんね」
そして、作れるかもしれませんね…千雨は心の中で呟いた。
教室から眺める夜景は非日常的に思われた。文化祭準備期間などを別にして、
普段目にすることはない。窓ガラスに映り込んだ、窓の外に浮かぶもうひとつの教室、
その中にいる自分は一体、何者なのだろう…。現実感は頑固だか、しかし、とても脆い。
龍宮真名が開けた(ザジが開けた、ともいう)ガラスの割れ穴が、まるでブラックホール
のように夜風を呼び込んでいた。この事件も、ウイルスも、ブラックホールみたいなもの。
簡単に発想される非日常、そんなものの一つなのかもしれない。
風になびいた千雨の髪が、細やかに舞って頬を優しく撫でた。
『もし、次に消えるのが、ザジだったら?』
そんな考えが泡のように生まれ、すぐに消えた。
美空ウイルス.exe【ver:14.3】---------------------------------------------------------------
朝倉は寮部屋に閉じ籠っていた。テーブルに並べた何枚もの写真を愛しそうに眺める。
どれもが、親友の姿を写したものだ。
自室で、世界樹の下で、あの花畑で、どこででも、彼女は可愛く笑っている。
でも、今は悲しんでいる。自分には分かる。
慣れていたはずの孤独に再び投げ込まれ、戸惑い、恐怖する親友の心が分かる。
…だから、苦しい。
朝倉は写真を束ね、ブレザーの内ポケットに大切にしまった。お守りのような気がしたのだ。
この写真さえあれば、何があっても親友を忘れることはない。これは、彼女が存在する証。
そう考えていた。多分、間違いではないだろう。
今夜、さよちゃんは戻ってくる。
部屋を出て、夜空を見上げたとき、不意にある考えが浮かんだ。
『もし、次に消えるのが、自分だったら?』
さよちゃんと引き替えに消えるのが例え私だとしても構わない。
彼女は一度、既にこの世から別れていたはずの存在だ。
そんな何度も苦しい思いをさせたくはない。
教室で、対峙すべき敵が待っている。
朝倉は胸元に親友の息遣いを感じながら、寮を後にした。
美空ウイルス.exe【ver:14.4】---------------------------------------------------------------
エプロン姿の千鶴が湯気立つキッチンで鼻唄を歌っている。
夏美はリビングのソファで横になりながら、無意味に流れるテレビの画面を眺めていた。
あやかは自室に籠ったまま出てこない。
「はい、できたわ!」
千鶴の声で、夏美は起き上がった。
「うわぁ、おいしそー」
「早くしないと冷めちゃうから、夏美ちゃん、あやかを呼びに行ってくれる?」
夏美はイエスの返事と共に階段を駆け上がった。
足が床を蹴る感覚、手が風を受ける感覚、どの感覚も夏美には懐かしく思えた。
まるで、数週間も遭難していたみたいだ。
階段を上り、あやかの頑に閉まった部屋のドアを前にする。
それは、まるで石作りの壁に等しかった。
しかし、これはドアだ。開くことのない壁とは違う。
コンコン…
ノックの音が響く。反応は聞こえない。
「いいんちょ、夕飯だよ。ちづ姉が作ってくれたよ」
部屋は静かなままだ。
一昨日から、やはり何かが変わってしまった。不思議はない。人が一人、消えていたのだから。
そして、それは今も続いている。まだ、終っていない。
だから、夏美は一言、付け加えることにした。
「夕飯、クリームシチューだからね」
美空ウイルス.exe【ver:14.5】---------------------------------------------------------------
葉加瀬が教室に入ったとき、既に数人のクラスメイトがいた。
ネギ先生と長谷川千雨はノートPCを前に話し合っている。ザジは自分の席に座り、
外を眺めていた。神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那の三人は適当な椅子に座り、
ひそひそと会話をしている。
やがて、ネギが葉加瀬の存在に気付き、声を掛けてきた。
「あ、葉加瀬さん!」
「ネギ先生、お話が…」
「すいません、その前に見て欲しいものがあるんです」
そう言い、ネギはノートPCを回転させ、画面を葉加瀬が見れるように向けた。
葉加瀬はメガネを傾け、そこに書かれた文章を読む。レンズが白く光った。
「なるほど、さすが超さんですね」
教室がやや静まった。
「……超…さん?」
ネギは理解できない言葉を必死に解釈しようとするが、うまくいかない。
それに対し、千雨は「やっぱりな」と無言で納得した。
「つい先程、研究室で超さんと話をして来たんです。ネギ先生、この事件を
引き起こしたのは超さんです。間違いありません。超さんがそう言ったんです。」
反射的に千雨の口は開く。
「じゃあ、葉加瀬さん…あなたは違うんですか?」
千雨は冷酷に言い放った。
ネギは言葉にならない声を撒くばかりで何もできない。葉加瀬は俯く。
「私は…違いますよー」
声が弱々しい。千雨は葉加瀬を待った。
「私は…私は…超さんとは違います…
……夏美を、夏美をあんな目にあわせるようなことは、絶対にしません!」
向き合う葉加瀬と千雨の瞳は、互いに真実を前にしていた。
先に眼を閉じた千雨は、フッと息を吐いて、やや笑顔に近い表情で応えた。
「わかった。あんたを信じよう。だから、早くこの事件を解決しようぜ」
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:15.1】---------------------------------------------------------------
美空は超の秘密基地にいた。腹の虫がぐるると鳴り、空いた胃袋がひきつるように痛い。
「晩飯、まだかなぁー」
脱力感に満ち満ちた声も、コンクリートと鉄の壁を前にすれば、響くと同時に消え入ってしまう。
一瞬、自分は監禁されているのではないかと思ったが、ドアが空いているので、そうではない。
「お待たせしたヨ」
開いたドアから、鉄製の出前容器を片手に下げた超が入ってきた。出前容器…ラーメンか。
「五月に作ってもらったネ。ささっ、冷める前に早く食べるといいヨ!」
箱のような形の机にラーメンが二つ、並んだ。この色、この匂い、…まさか。
ズルルッ…
そして、この味、間違いない。
「これってサァ…味噌ラーメン?」
「そうヨ?美空は嫌いカ?」
「わざとだろ…」
ズルルッ…
二人で顔をつき合わせ、ラーメンを食べるのも悪くない。美空はそう感じた。
教会の食事はなんとも若者向けではないからだ。
「ねぇ、なんで味噌ラーメン?」
頬を膨らませ、もぐもぐと口を動かしながら超は考える。
「前スレを参考にしたネ」
パクりかよ…。
悪の秘密組織のアジト、ここはそう呼ぶに相応しい。
しかし、悪の秘密組織のメンバーはわずか二人で、出陣前に何故か味噌ラーメンを食してる様は
なんとも滑稽だった。もしかしたら、本物なんて、そんな滑稽なものなのかもしれない。
美空はそんなことを考えていた。
ズルルッ…
美空ウイルス.exe【ver:15.2】---------------------------------------------------------------
空になった丼を重ね、一息つく。超も美空も大満足だ。
「ねぇねぇ、超〜。爪楊枝とかないの?」
「このネジでも良いカ?」
藁人形でも打ち付けられそうな大きさのネジを片手に、超は勝ち誇ったような顔だ。
…あ、ヤベッ。藁人形は釘だったわ。ネジじゃ打てないって。
「なんか違う気がするんだよね」
美空は試しに言ってみた。
「何が違うネ?」
無機質な天井を見上げ、美空は答えを探した。
「私はさぁ…別に復讐したいわけじゃないのさ」
「ほぉ?」
「もう自分は空気じゃないだろっ!…って、そう言いたいだけ」
「ふむ」
「だから、別に他の人を空気にしたいとか、そういうことじゃないと思うんだよね」
「へぇー」
「ねぇ、超…あんた適当に返事してない?」
「…ぁぃ?」
「もういいッス」
美空はふて寝した。秘密基地の床は固いし、冷たかった。
「美空…」
「…何さ?」
「…〜めん」
ちぇっ、超なんか嫌いだァ!
しばらくして、超は部屋から出ていった。何か新しいことをするのだろう。
でも、もう超が何をしようと関係がないような気がし始めていた。
超の目的と、自分の目的は何かが違う。
とりあえず、美空はラジオを手元に寄せた。しかし、ラジオ放送が始まるまでは、まだ長い。
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:16.1】---------------------------------------------------------------
あと数分で、番組が始まる…。
教室にはクラスメイトのほぼ全員が集まり、皆、震えていた。
『次に消えるのは自分かもしれない…』
そんな不安が、何よりも増して感じられる。
「皆さん、揃っていますね」
ネギ先生が教卓の前に立ち、しっかりとした声で言った。
「夕映さん、ハルナさんはラジオですね…それと、長瀬さんは小太郎くんと山で修行…
…あれ?長谷川さんは?」
教室の後方から、エヴァが頬杖をつきつつ片目を開けて口を開く。
「あいつはラジオの二人に連れていかれたぞ。そう何度も私の家を使われたら困るからな」
「わかりましたー…あ、あとザジさんは?」
「長谷川さんと一緒でしたわ」
「はい、わかりました、いいんちょさん…あと、超さんは…行方不明です…」
葉加瀬がPCの前に立ち、ウイルス起動を待ち構えている。PCの片側にはラジオが置かれ、
チャンネルはネギまほラジオに合わせられていた。
「ネギ先生、ラジオ…そろそろですね」
刹那がネギを見つめる。
「はい」
朝倉は左の席を見つめ、胸元に手を重ねた。瞳を落とし、親友の帰還を祈る。
「大丈夫ですよ。相坂さんは、きっと無事です」
ネギが朝倉に話しかけた。朝倉は頷く。
「ありがと、ネギ先生」
時計の針が時を告げる。
ラジオは不明瞭な雑音を奏で、やがてクラスメイトの声に変わった。
『ゆえと…ハルナの…ザジちうスレ・傾向分析〜!…』
番組、が始まった。
美空ウイルス.exe【ver:16.2】---------------------------------------------------------------
美空は秘密基地の外でラジオを聴いていた。この建物の中にはラジオの電波が届かないらしい。
だから、仕方がないので、基地の外で聴いている。
辺りは真っ暗だ。遠くに街灯の連なりが見える。ここは何処なんだろう?
そういえば、超は何をしているのか。基地の中ではラジオが聴けない。有線なら聴けるのか?
ラジオは宮崎のどかの空気認定と、例の小包が届いたことを教えてくれた。
「あれ?私、今回は小包なんて送ってないんだけどなァ〜?」
超がやったんだろう。適当に決めつけた。
すると、今度は宮崎が消えるのか…でも、こんなことを繰り返して何になるのか?
そんな疑問が急に生まれた。
自分が空気を脱したとして、あのウイルスは止まるだろうか?それはない。
恐らく、超の目的は他にある。私の抱える悩みなど、あいつにしたら表向きの理由でしかない。
…カモフラージュ?
とりあえず、美空はラジオに耳を傾けた。自分の解説を聴き逃してはならない。
「…って、早乙女めっ!また空気にしやがって!
…そうそう、私もミラーワールドに出てるんだよぅ…長谷川ナイスッ!」
美空ウイルス.exe【ver:16.3】---------------------------------------------------------------
『宮崎…』『本屋ちゃん…』『宮崎さん…』
空気認定は告知された。皆の視線が一人の少女に集まる。
それぞれの目には、自らが空気を逃れた安堵、宮崎のどかへの同情、そして彼女への申し訳なさ
が浮かんでは消えた。
「のどか…」
木乃香が声を漏らす。
「うち…嫌や…のどかが消えてまうなんて…嫌やぁ〜」
泣き喘ぐ木乃香を、刹那が抑えた。
「大丈夫です、木乃香さん。私、覚悟はできてたんです。
主役のSSもないし、脇役でも出番少ないし、もしかしたら…って」
「私も、納得できない」
美砂も声を挙げた。
「…最下位になった人が不必要だなんて考え方、絶対に間違ってる」
円も続いた。
「そうだよ。クラスメイト全員が揃って初めて2-Aなんだから、
誰一人として欠けたりしたらいけないよ。欠けたら2-Aじゃなくなっちゃう…」
そこにエヴァが鋭く言い放った。
「ここで何を話し合おうが無駄だろう。誰も好きで関わってる訳じゃないんだ」
一同の敵意を持った眼が、一斉に吸血鬼の少女へと向けられた。もちろん、エヴァは動じない。
「ああっ!ウイルスが起動しました!」
葉加瀬が叫んだ。
「ハカセ、私も手伝います」
茶々丸が葉加瀬の傍らに並ぶ。PCの画面には、新たなる一行が表示された。
「相坂さんが帰ってきます!」
葉加瀬の声に、朝倉が顔を上げた。
Action:Virus_Misora【相坂さよ:空気設定を解除】
美空ウイルス.exe【ver:16.4】---------------------------------------------------------------
綾瀬夕映、早乙女ハルナ、長谷川千雨、ザジの四名は、
臨時スタジオであった千雨の部屋から教室へと全力で駆けていた。
「長谷川、遅いよ!」
「うるせぇ、早乙女!私は腰が痛いんだよっ!」
昨日の夜に、ザジが残した愛の跡、それが千雨を苦しめていた。今朝からずっとだ。
「早くしないと、のどかが消えてしまうです!」
夕映が走りながら声に出す。だが、そんなことは誰もが分かっている。
「走るのよっ!早くっ!」
ハルナが急かす。しかし、千雨はこれでも十分急いでいるのだ。
「あぁ、もう、お前らは先に行け!私は後から行くから!」
喘ぎながら千雨は叫んだ。それは悲鳴でもあった。膝が、膝が崩れそうだ…。
倒れかけた千雨をザジが支えた。
「ちう…大丈夫?」
「なんとかな…」
ハルナと夕映は、振り向き様に「わかった(わ/です)」と言って、教室に向かった。
すぐに、足音さえ聞こえなくなった。
「私も行かなきゃな…」
千雨も力を振り絞る。
「ちう…」
ザジに見守られながら、千雨はゆっくりと歩き出した。腰を擦りながら。
美空ウイルス.exe【ver:16.5】---------------------------------------------------------------
「相坂さんが帰ってきます!」
次の瞬間、朝倉の左隣の空間が真白く輝き、人影の形をした霧が現れた。溢れ出る眩しい光に、
皆は霧を直視できない。しかし、風がぐるぐると渦を作っているのはわかる。
ぐおぉと唸り声が響き、教室の窓ガラスがガタガタ震えた。割れていた窓は勢いに負けて砕ける。
破片は全て、外へ外へと枯れ葉のように吹き飛んだ。
光の眩しさに耐えられない、朝倉は思わず机に伏せる。ネギも他の生徒も顔を手で覆っている。
しかし、ゴーグルを付けた葉加瀬と茶々丸は観察するように光を見つめていた。
やがて、風が止み、光も萎んだ。窓の立てる音がなくなったことに気付くと、皆はそれぞれに顔を上げ始めた。
「ああっ!見て!」
桜子が指さす。
「あの心霊写真の娘や!」
亜子が思い出す。
「お帰りなさい、相坂さよさん」
迎えの言葉はネギだ。朝倉はおそるおそる面を上げ、隣に目をやった。
「さよ…ちゃん…」
そこには、机に伏せて、すやすやと眠る白髪の少女がいた。
「さよちゃん…」
少女は眠ったまま起きなかったが、朝倉は安らぎの一時に微笑んだ。
しかし、それも一瞬の安らぎだった。
「ウイルスがまた起動しました!」
葉加瀬が告げる。皆が黙る。のどかの番だ。
「…あれ?何が起きたの?…茶々丸、調べて!」
しかし、何かが違う。
「プログラムの更新を確認」
更新?空気設定ではない?
「何が起きてるの!?」
Action:Virus_Misora【アップデート開始】
【つづく】