美空ウイルス.exe【ver:24.1】---------------------------------------------------------------
ここは何処だろう…。のどかは空気を掻いて宙を泳いだ。
一面に立ち込める霧。自分の体がより希薄になったように感じる。確かに光が体を透いている。
「私…どうなったんだろう…」
のどかは呟いた。
『あれ…宮崎?』
声がする。近くて遠い声。
耳元で囁かれているようで、でも、遥か彼方から聴こえてくるかのように小さい。
『えっ、本当ですか?』
別の声だ。誰だろう?
のどかは眩暈を感じながら、辺りの濃霧を注意深く観察した。しかし、霧に変化はない。
『本当だって、今、確かに宮崎の声がしたんだって!おーい宮崎ー!聞こえてたら返事して〜』
「…は、はい!ゎ…私ですっ!」
のどかは返事した。誰でも良かった、誰かに認識されるのなら、自分に気付いてくれるのなら…。
『おっ!やっぱり宮崎だったんだ』
『朝倉さん…残念ですが、私には聞こえません』
朝倉?ここに朝倉和美がいる!?
「…ぁ、朝倉さんですか?」
『当ったり〜!ってことは、宮崎も、ちゃおりんに捕まったんだ?』
『えっ…本当に宮崎さんがいるんですか?』
『何言ってるの、さよちゃん。宮崎はちゃんといるよ』
「あの、もう一人の方は、どなたですか?」
すると、当人の代わりに朝倉が答えた。
『相坂さよ。宮崎の前に、ちゃおりんに消されてた2-Aのクラスメイトだよ』
『…あの〜、私、相坂さよって言います。
私には宮崎さんの声が分からないんですが、私の声は聞こえてますか?』
「えっと…相坂さんの声は聞こえてますよー…」
『ちゃんと聞こえてるってさ』
『わぁ、良かった』
『さて…ところで宮崎。今の2-Aは、どうなってる?』
美空ウイルス.exe【ver:24.2】---------------------------------------------------------------
昼夜の区別ない超の城。虚ろな影はその廊下を這い、やがて適当な小部屋の闇に紛れた。
「…腹へった」
美空は、腹を空かしていた。虫の音は静まらない。ほとんどの部屋は漁ってみたが、
驚くべきことにこの基地には食べ物や飲み物といった品がないようだ。
あぁ、前言撤回。飲み物ならいくらでもあった。化学記号で綴られたラベルを無視すれば、
一時の満足は得られるかもしれない。その後で何が起きようと気にしないならば飲めばいい。
「もう…死ぬ…」
美空は部屋の中を見回した。
あれ?この部屋は何の部屋だろう?他と違って、実験室のような匂いがしない。
薬品も機械もなく、ただ部屋の床の中央に粉々に砕け散った鏡の破片が落ちているだけだ。
本当にそれしかない。ならば、この部屋に用はない。鏡は食べ物じゃないからだ。
美空はその部屋を後にした。
次の部屋は、いかにも秘密基地な部屋だった。
壁は意味不明な図や文字の羅列が書かれた紙片に覆われ、
機械を組み立てた後に余ったらしい部品が床に散乱している。
もしかしたら、この基地の地図があるかもしれない。美空は壁の紙片を順番に見ていった。
「いそうそうさシステム?…スレとは世界の集合体、各SS世界間を移動…新たな空間を作成…
ふーん、これは地図じゃないね」
次の紙に目を移す。
「ぞくせいそうさシステム…他のSS世界をスキャン、属性をコピー…
…うーん、これも地図じゃないよねぇ」
「今、帰ってきたネ」
声のする方を向くと、超が部屋の出入り口を塞いでいた。左手には見覚えのあるアレを下げている。
「もう夕飯の時間ヨ…」
「朝と昼はないのかよ…」
「気にしないでほしいネ」
「…で、その夕飯は何さ?」
凄く嫌な予感がする。
「味噌ラーメン…嫌いカ?」
美空ウイルス.exe【ver:24.3】---------------------------------------------------------------
日が落ちてから、しばらくの時が過ぎた。
教室には再び2-Aが結集し、息の詰まるような空間を共有していた。
葉加瀬は真剣な顔付きで、PCの画面を睨んでいる。
しかし、ラジオ放送開始まではまだ何時間も残っていた。
このままでは葉加瀬の神経が限界を迎えてしまう…そう心配した夏美は適当な話題を振ってみた。
教室を和ませるための談話とか、そんな感じだ。
皆に遅れて、ひとり教卓で食事をしているネギ先生が目に入った。
「ネギ先生、何を食べてるんですか?」
夏美の声が教室に拡がる。
「へ?僕が食べてるものですか?」
ネギが顔を上げると共に、葉加瀬がネギの食べているものに注目した。ハルナが夏美に続く。
「確かに気になるわね、すごく美味しそうに食べてるし」
生徒たちの興味に、ネギが箸でそれを摘み、皆に見えるよう持ち上げて言った。
「タン塩弁当です」
夏美とハルナは後悔した。今度は別の意味で教室が静まってしまったからだ。
「たんしおべんとう?」
せつなちゃんが無邪気に訊く。千鶴が微笑みつつ、答えた。
「違うわよ、せつなちゃん。それは、"たんしょう"って読むのよ」
「ふーん。たんしょう〜!」
美空ウイルス.exe【ver:24.4】---------------------------------------------------------------
愉快に騒ぐせつなちゃんを見て、夕映がハルナを小突く。
その眼は、なにやってるですか、と言いたげだ。ハルナはウインクを返し、舌を見せた。
「てへ、じゃないですよ、ハルナ…児童の発育に悪影響が出たらどうするつもりですか…
…ん?それは何の本です?」
夕映が気になったのは、ハルナが暇潰しに持ち込んだ文庫だった。
表紙はカバーに覆われ、タイトルは分からない。ハルナはカバーを外し、本を夕映に差し出した。
「読んでみる?何かが目覚めるわよ」
どれどれ…と夕映は目を凝らした。
つ『世界がもし100人の新田だったら』
orz
気付くと、葉加瀬はまたPCに向き合っていた。
夏美には、恋人がどこか遠くに行ってしまったように感じられた。どこか、少し心が寂しい。
不意に眺めた今宵の空は、何故か黄色かった。
スポットライトのように丸い月は、空高々に磔にされていた。
ラジオまでは確かに時間がある。しかし、永遠にラジオが始まらない訳はなかった。
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:25.1】---------------------------------------------------------------
「美空には、この計画の全貌を伝えておくつもりヨ」
味噌ラーメンを平らげた超が、寝転びながら言った。
「計画ねぇ…私には、あんたが何をやりたいのか、それすら掴めてないよ」
それを聞き、超が苦笑する。
「葛藤が生んだ迷いの軌跡ネ。しかし、今はもう何の迷いも無いヨ」
そう呟いて、超は包帯に包まれた自身の右手を見つめた。
包帯の下には、鏡を拳で砕いたその名残があるはずだ。超は軽く目を閉じ、ゆっくりと語り始めた。
「美空は空気、私は悪人…それぞれに自身の好まない属性を付けられているネ。
これは苦痛に繋がる属性だたヨ。強烈な個性は、その人物を記号化してしまう…嫌な話ダガ」
ふぅん…、美空はラーメンの最後の一口を箸で掴んだ。
「強烈な個性を失った場合、その人物はどうなるカ…私は、その人物が存在しなくなると考えたヨ
強烈な個性は、その人物そのものを代用してしまうネ。
その個性さえ保たれれば、細かな個性など見えなくなってしまうヨ。
強烈な個性…それは、我々の世界を牛耳る者たちの支配する術といえるネ」
美空はスープを飲んでいる。さすが五月だ、美味い。二日連続で食べても飽きがこない。
「だから、私は強烈な個性を操ろうとしたヨ。そして、属性とは何か、それを知ろうとした…
まず、私は空間を操ったネ。空間、世界を移動し、移動させる…神の如き業ヨ。
では、空間とは、世界とは何であったと思うカ?」
美空は頬を指で掻き考えてみたが、その成果はなかった。
そもそも、実を言えば話なんて聞いてなかった。
美空ウイルス.exe【ver:25.2】---------------------------------------------------------------
「空間…世界…それは、嘘のレベルだったヨ」
「…嘘のレベル?」
美空の適当な相槌に、超が頷く。
「そうネ、嘘のレベル…その世界を束ねるルールとでも言えば分かりやすいカ…
『もっこり真名さん』の世界、『ミラーワールド』の世界、『Dr.アコー診療所』の世界…
全てに異なるルールがあるヨ。
それらのルールは固く守られ、それが歪むことは世界観の崩壊を意味するネ」
そこで超は一度、呼吸を整えた。
「空間を、世界を操作して、初めて知ることができたヨ」
「何を?」
美空が促す。
「私たちが駒だと、わかたヨ。職人たちの駒、世界と世界を自由に移動させ、その存在の形を
自在に変化させ楽しむ…その為の駒ヨ。だから、私は真似てみたネ。それが、美空ウイルス」
美空はごくりと唾を飲み込んだ。自分の知っているものの名前が、唐突に現れたからだ。
「美空ウイルスは、美空と同様の属性を他人に与える装置ネ。空気という属性が最も相応しい人物
に空気属性を与えてしまう。そうすれば、美空と他の人物の差が分かると思たネ」
超は上半身を起こした。そして、美空を向き、真剣な眼差しで見つめてくる。
「美空の空気属性と、他の空気属性…同じ空気属性でも性質が違ったヨ」
なんとなく、美空は安心できた気がした。
「つまり、空気属性という個性は、美空自身の個性でもあるということネ」
美空は唾を呑んだ。
「それでも美空は、空気属性を捨てたいカ?」
気に入らなくても、それは自分の一部を成す要素なのだ。
その要素を捨てることは、自分を大きく変えることを意味する。
「超は、その悪人属性を消せたの?あんたさ、最初に私に言ったよね?
勝手に付けられた属性を一緒に消そう…って。本当の自分を取り戻そう…ってさ」
超はにやりと笑った。
美空ウイルス.exe【ver:25.3】---------------------------------------------------------------
超の作った別位相の世界…それは、靄が視界を覆い尽す空間だった。
口から発せられた声は霧に吸い込まれ、遠くまで届かない。
だから、この空間に閉じ込められた者は、他人の存在を実感しにくい。
それがこの牢獄の持つ力であった。
今までは空気設定を支えるカラクリだったが、教室の皆が相坂さよの帰還を見留めてしまった為、
今やその役割は果たせなくなっている。なので、超はただの牢獄として使い始めたようだ。
のどか、さよ、朝倉の三名は、この空間に閉じ込められていた。
朝倉は、超が部屋にやって来たこと、彼女の操る三台の機械に襲われ、
結果、あの青い光線を浴びてしまったことを、のどかに教えた。
「どうせ、クラスの皆は、私とさよちゃんが駆落ちした〜とか騒いでるんでしょ?」
「そんな感じです…」
三人の視野はやはり濃霧が支配し、それぞれの姿は見えない。
霧が吸収しきれなかった、かすかな声の残り滓でしか意思疎通を図れない。超の牢獄は強力だ。
「問題は、どうやって脱出するか…だよね」
朝倉は手を腰に当てた。しかし、もちろん、誰も彼女の姿を見ることはできない。
「そういえば、宮崎って心を読める本とか持ってたよね?」
「アーティファクトのことでしょうか?」
「うん、それそれ。その本を使って、ちゃおりんの心を覗けば出口が分かるんじゃないかな」
そんなことは、超もお見通しだ。だから、のどかからはチャネリング少女属性を奪っておいた。
「…あの、それが…ごにょごにょ」
「え?何?よく聞こえないよ」
「…超さんに盗られてしまいました」
「何を?」
「だから…あの本です」
「…マジ?それって、マズイんじゃ…」
美空ウイルス.exe【ver:25.4】---------------------------------------------------------------
教室では、既に作戦の準備が進んでいた。
ウイルスの動作を遅らせ、のどか空気設定解除と同時にウイルスを除去するのだ。
しかし、作戦の準備とはいっても仕事をするのは葉加瀬と茶々丸くらいで、
他は作戦の行方を見守ることくらいしかできない。
仕方のないことではあるが、誰もが申し訳なく思っていた。
教室の緊張した空気に耐えかねて、千雨は廊下を通り、満天の星空が覆う校舎の外へと向かった。
廊下は昼間のそれと違って、ただの建物の一部としてのそれに見える。
生活感がまるで欠けているのだ。
廊下の途中で、千雨は足音が増えたことに気付いた。
「ついて来るなら、コソコソすんなよ」
振り返ることなく千雨は言った。しばらくの沈黙の後、軽く小刻な足音が耳に届いた。
まだ千雨は振り返らない。すぐに、千雨の右腕に抱きつく感触があったからだ。
「いくぞ、ザジ」
コクリ…~
二人は外に出た。
校舎は幽霊のように見える。表情のない白い壁。黒塗りされたように中を覗けない窓の列。
学校が眠っているというよりは、死んでいるみたいだ、と千雨は思った。
ザジが校舎のある一ヶ所を指差す。つられて千雨もそっちを見た。
そこには、一ヶ所だけ照明のついた教室があった。2-Aの教室だ。
中で動くクラスメイト達の様子は、極小サイズのテレビで見た映像を思い起こさせる。
「あいつら…頑張ってるな」
「うん」
空を仰ぐと、思った通りの空が見えた。千雨は前に顔を戻す。ザジがいる。ザジも千雨を見ている。
ちゅっ
「私も何か役に立てるかもしれないな」
千雨の言葉に、ザジがそっと手をそえた。
「うん」
二人は、教室へと戻って行った。星空よりも遥かに明るい、その教室へと。
美空ウイルス.exe【ver:25.5】---------------------------------------------------------------
「私が悪人属性を解除できたかどうか…美空、知りたいカ?」
超は、すっと立ち上がり、床に座る美空を見下ろした。超の威圧感が美空を襲う。
「悪とは、対峙する二者間に成立する相対的な関係が前提となるヨ。
一人だけで悪にはなれないネ。だから、今は美空が善で、私が悪と呼べるかもしれないヨ」
美空はたじろいだ。
「ちょ…私に何かする気?」
超の顔が更に歪む。明らかに勝ち誇った顔。勝者の笑み。
「何かするか…いや、それはないヨ。もう無駄だと分かっているからネ」
「ど…どういうこと?」
「過去に、何かしたことがある…ということヨ、美空サン」
美空は自分の掌を見つめ、超に向き直る。
「まさか、私を空気にしたのって、あんただったの!?」
意外な返事だと驚き、そして超は声を出して笑った。その笑いは秘密基地中に木霊する。
まるで、秘密基地自体が笑っているみたいだ。
「それは違うヨw、しかし、それも面白い発想ネw」
笑いを堪えるのに必死、といった様子だ。
「じゃ、じゃあ…あんたは私に何をしたの?」
「美空を悪人に設定したヨ。気付かなかたカ?
私が美空に声を掛けた時、美空は既に悪人属性を持っていたネ」
「そ…そんな。でも何で…」
「簡単な話ネ。美空が悪となれば、私の悪人属性が解除できると思ったヨ。
しかし、それは失敗したネ。美空のシスター属性が悪人属性を強制解除してしまたヨ」
「だったら、私は一度、悪人だったってわけ?」
「悪人でない美空さんが、どうやってウイルスを撒くことができるカ?」
そこで、美空は閃いた。超が何をしようとしているのか分かったのだ。
超の目的は初めから変わってない。自分の悪人属性を解除すること、それが目的。
「まさか、超…あんた別の人を悪人にするつもりじゃ…」
「美空は勘が良いネ…」
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:26.1】---------------------------------------------------------------
「正確に言えば、もうその人に悪人属性を付けてしまたヨ」
超は美空に微笑んだ。
「…つまり?」
それに対し、美空はまだ話の経緯を理解していないようだ。
「つまり、今の私に悪人属性というものは無いヨ。だからといって、善人というわけでもないガ…」
「じゃあ、悪人設定解除は成功したの?」
美空の問いに、超はゆっくりと頷いた。
「もし今の私が固定的な悪人だとして、美空にこの事実を話すと思うカ?」
美空は首を横に振る。
「だから、安心していいネ。そして、次は美空の番ヨ」
「わ…私の番?」
「だから訊いているヨ。自己に含まれている空気属性を捨てる覚悟はあるノカ…」
美空はうつむき、顔を超から隠した。正直、悩んでいるのだ。超はそれを察した。
「よく考えると良いネ。しかし、悩める時間はそんなに残っていないヨ」
超は腕に付けた時計を見せた。深夜、日付が変わろうとしている。
「今夜のラジオ、それが終わた時、決着がつくネ」
「それって、どういうことさ?」
「私の計算が正しければ、ハカセがウイルスを撃退してくれるはずネ」
「どうして、そんなことが分かるの?」
超は懐から一冊の本を取り出した。のどかの本だ。
「これは、心を読める本ネ」
反射的に胸を隠し、次に美空は頭を抱えた。心を読まれると聞いて、隠したくなったからだ。
「この本によれば、ハカセはウイルスを除去できるヨ
…そう、ハカセは敵なる悪を倒すことになるネ」
「まさか超、最初からそのつもりで…?」
「非常事態の策だたヨ。そうでなければ、何故ウイルスをハカセに渡すカ…」
超の告白に話題を反らされ、美空は超に訊き忘れていた。
今の悪人は、誰なのか?
美空ウイルス.exe【ver:26.2】---------------------------------------------------------------
「ハカセ…準備完了です」
葉加瀬は茶々丸を向き、こくりと頷く。茶々丸も頷き返す。
「それでは、作戦通り、ウイルス撃退を開始します」
時計の針は、ラジオ開始15分前を示していた。
「教卓に置かれたPCの画面に、宮崎のどかさんの空気設定解除が表示されたら、
除去開始の合図です。次の空気設定が実行される前にウイルスを破壊します」
葉加瀬の言葉は、一語一語しっかりと皆に届いた。これでウイルスの脅威は去るのだ。
「これでMの野望も砕かれたアル」
古菲が活気に満ちた声で言った。
「そこなのですが、Mとは誰なのか…たった今わかったです」
夕映は手元の名簿を皆に見せた。
「この春日美空さん、イニシャルはM.K…」
「だったら、その春日美空が犯人アル!」
「古韮さん、黙ってください」
「韮じゃないアル…(OωO;)」
夕映は咳をして、声で整えた。
「私はこの春日さんを覚えていません。これは彼女も空気になっていることを意味してると思うです。」
「それで、どうすれば良いんですか?夕映さん」
ネギが訊いた。
「それはわからないです。ただ、この事件の首謀者は超さんであったとしても、
春日美空さんも関与しているということです。例の犯行声明で、彼女は訴えています。
"自分はもう空気扱いされるべきではない"…と」
そこまで話すと、夕映は時計をちらりと見た。
「残念ですが、私はもうスタジオに行かなければいけません。
ただ、考えてみて欲しいのです。このような事件の背景に、何があるのかを!」
そして、夕映らラジオのDJは教室を出ていった。教室に沈黙を残して。
美空ウイルス.exe【ver:26.3】---------------------------------------------------------------
沈黙を破ったのは茶々丸だった。
「ハカセ…春日美空さんの確認がとれました。間違いなく、彼女は2-Aのクラスメイトです」
「ありがと、茶々丸。それで、私はどうすれば良いと思う?」
「春日美空さん、彼女の空気設定も解除してみてはどうでしょうか?」
「なかなかハードルの高いこと言うね」
葉加瀬は眉間に皺を寄せ、PCの画面を睨んだ。韮んだ…ではない。睨んだ。
「でも、彼女が空気設定解除を本当に望んでいるかどうか…」
そう言いつつ、葉加瀬は犯行声明を読む。
『このスレには私以上の空気が存在している。分析隊がそれを証明している。
それにも関わらず、私が空気扱いされているのは何故だ。私は許さない。』
「…いや間違いないですね。これは空気解除を望んでいます。わかりました。
それも作戦の内に加えましょう!」
その十分後、ラジオからは時の到来を告げる声が流れ始めた。
『ゆえと…ハルナの…ザジちうスレ・傾向分析〜!…』
事件は、終局へと動き出す。
【つづく】